◯大学・食堂内
就職雑誌を卓上に投げ置く田島まなみの姿。
まなみ「なんだよ、それ!」
まなみの向かいに座っている佐藤寛。佐藤は就職誌を見ながら喋っている。
佐藤「知らなかった? 定峰峠の妖精が?」
まなみ「もしかしてからわれてる?」
佐藤「マヂだよ、マヂ! 昨日のバイフレ(バイクフレンド)でも特集くんでたぞ」
まなみ「もー、今夜いこうと思ってたのに−ッ」
まなみは脚をバタバタさせる。同時にヒールがポキッと折れる。
まなみ「あーッ! おろしたてなのに!」
そこへスハゲティをもってやってくるのは、リクルート・スーツ姿の坂城。
坂城「ちぃす。な〜にやってんだ?」
佐藤「うぃす! ポンギ(六本木)のホストクラブ!」
坂城「だあ! それを言うなってばさ!」
佐藤「そのナリ(格好)からして、ラスメン(最終面接)?」
坂城「いや.......一掃やっちまって(就職試験のすべてを落とした意味)さ。職安
(就職課)いって拝み倒す.......」
ふと坂城はまなみを見る。
坂城「おンや? まなみ嬢、ひさびさ。どうした? 大学中退の手続きか?」
まなみ「殺されたい?......ネ−、ネ−、それより知ってる?」
坂城「ンだよ?」
まなみ「いや、定峰、閉鎖されたって話」
坂城「あ、定峰? 知ってる知ってる。コーナことごとく縁石だらけ」
坂城はスバゲティをほうばる。
坂城「でも、それってかなり前っしょ?」
まなみ「ウソ? もしかして知らなかったの、アタシだけ?」
坂城「そいつはドアホなハナシだなー? てっきりやりまくってると思ってた」
坂城はスパゲティをほうばる。同時にソースがネクタイに付着。蒼白の坂城。
まなみ「ずっとセクハラされてた(面接していたの意/質問のほとんどがセクハ
ラに近いため)から.......。でも、バイクなら大丈夫でしょ?」
佐藤「カンメツ(完全にダメってこと)だよな....定峰って」
まなみ「小鹿野の峠だって、縁石あるけど大丈夫じゃん」
坂城、ウェットテッシュでネクタイをこするがシミは広がるいっぽう。
坂城「小鹿野はポリ公の庭だから」
まなみ「マジダメ?んもうッ!」
まなみは足元の空き缶を蹴る。缶は柱に激突し、やや左にスピンして、床下
で寝ている痩身の秋田犬にヒット。
坂城はネクタイの結び目をかえる。同時にシミが隠れて安堵の表情。
坂城「なに? 峠、かっとばしたいんか?」
まなみ「うん」
坂城「んじゃ、日光は?」
まなみ「イロハ?」
佐藤「いいな−。すげえひさしぶりじゃん」
坂城「頭数集めてさ。明日土曜だし」
まなみ「日光遠征か。ひさびさにやっか!」
◯東北自動車道(深夜)
<危険! 高速巡航中>と書かれた長距離トラックが行く。
テロップ「東北自動車道・宇都宮IC付近−10:00PM−」
◯同トラック車内
運チャンが眠い目をこすりながら運転している。
顔に似合わず、車内に流れるBGMは<浜崎あゆみ>。
ふとバックミラに映る強烈なライト。運チャン、ふとミラーを見る。
運チャン「ゲッ!」
トラックのケツ(後部)に張り付いているのはGTR。いきなり横へと出てくる。
運ちゃんが車内を見ると、本田が助手席の女とイチャついている。
GTRは凄い速度で通過し、再び車線を戻してかっとばしていく。
華麗なるてアウト・イン・アウト!
運チャン、メータを見ると、時速計は<140km>
運チャン「この速度でアウト・イン・アウトでいく....?」
再びミラーに映る強烈な光。通過していくのは坂城のヤマハV-MAX1200、
まなみのホンダVFR400R、中島さゆりりのカワサキZXR400、吉川のスズキ、
矢沢 のホンダCBR400。
それを見ながら蒼白になる運チャン。
運チャン「今度はバイクとくるか?」
そして最後に行き去るエスティマ。
運チャン「シメがワゴン.......カンベンしてくれよ!」
◯日光東照宮前・神橋付近
軽い左コーナーをドリフトしていくシルビア、その後をハングオンしていくバイク隊。
バイクを駆るまなみ、ふと顔を上げる。メットの内側が曇ったのである。
バイザーをあげるまなみ。その横につくさゆりのバイク。
さゆり「どうした?」
まなみ「杉の香り......」
さゆりはニマッと笑う。
さゆり「ロマンチストだねぇ」
さゆりはかっ飛ばしていく。微笑するまなみもまた飛ばす。
◯馬返(いろは坂入口)
ナトリウムランプに彩られている安全地帯に駐車しているバイクや車に注目。
バイクのクラッチを調整している掠れたレ−シングス−ツのライダ−。
地図を見ているしわくちゃの革ジャンの袖を折ったハチロクのドライバー。
ジュースを片手にジッと精神集中しているスカイラインのドライバー。
まさに「走り屋ワールド」といった雰囲気の中、まなみら遠征車両隊が停止する。
それぞれが車内から出て、眼前の闇を見上げる。
本田「やってるれな.......」
佐藤「ああ」
まなみ「いろは.......か」
皆の眼前にそびえ立つ巨大な闇の壁。
鞍部をチラチラと、いくつものサ−チライトが木立の中を疾駆している。
◯第二いろは坂(遠景)
華厳の滝が流れるその手前の道を、本田、佐藤の車と、バイク隊が上っている。
その中から飛び出すまなみのバイク。
まなみ「先行くよ!」
エスティマを運転する浅野が首を傾げる。
浅野「ありゃ? いっちゃった?」
浅野の車に横付けしてくる佐藤のハチロク。
佐藤「<現場>に顔出ししにいったか」
浅野「誰か知り合いでも?」
佐藤「あ、アンタ今回初めてだっけ?」
浅野「数学科の浅野です。今回佐藤さんの紹介で.......」
佐藤「だったら覚えときな。彼女がはじめてこのチームに入ったときのこと.......」
◯明智トンネル入口へと向かうまなみのバイク。
絵に重なるまなみの解説。
解説「それは4年前、私がこの仲間と知り合ったときだった.......」
◯明智トンネル入口付近(4年前)
バイク(この頃まなみはHONDA−JADEに乗っている!)を疾駆しているまなみ。
ミラーに映る佐藤らの車の光を背に走っている。
まなみ「せっかく日光にきたってのに、どーしてスピードおさえてんだか」
アクセルをガンガンに入れているまなみ。
解説「大学に入ってまもなく、走り好きだという連中と知り合ったものの、彼らのナー
ナーな態度にいい加減、ウンザリしていた.......」
ゆるやかなコーナをハングオンしていく。
まなみは人々に視線を投げる。脇のギャラリーたちがせせら笑う。
まなみ「主役は一人でいいってことだよな!」
ギャラリーの一人がつぶやく。
ギャラリー「イったな.......」
まなみはハッとする。
まなみ「なに? 今のどーゆーこと!?」
まなみは前を見る。そこには急激なS字シケイン、そしてブチ割れたガードレール、
その間隙に出現する地上900メートルの断崖絶壁。
巨大な塗黒の空間が口をあけて待っている。
まなみ「.......!」
突っ込んでいくまなみのバイク。まなみは眼をつぶる。
ガシャン!
顔をあげるまなみ。断崖の間に入っている佐藤のハチロク。
佐藤「急ぐこたあねえだろう! 先は長いんだからさ」
まなみ「.......」
まなみは呆然としている。
◯第二いろは坂(現在)
まなみがバイクを止めている。
追いついてくる佐藤、一同。
佐藤「どーした?」
まなみは指さす。「現場」には、強固なガードレールと舗装された道。
◯中禅寺温泉街
駐車場に止めている一同のマシーン。その前に群がる一同。
坂城「いつ工事したんだ?」
加納「さあ。去年のうちじゃん」
さゆり「なになに? なんのハナシ?」
坂城「例のS字シケインなんだけど、その手前でガードレールと道幅を広くしやがった。
ほとんど直線で入れるように.....」
本田「S字で誰か事故ったんかな?」
佐藤「いや、そんなの聞いたことない」
加納「おそらく観光客がクレ−ムつけたんだろうな」
坂城「あぶねえからな」
佐藤「そーだなー」
まなみ、佐藤を凝視する。
まなみ「(心の中で)それで終わり?」
佐藤はまなみと視線をあわさない。
エスティマからやってくる浅野と中野。
浅野「じゃ、そろそろはじめますか?」
絵に重なるまなみの解説。
解説「アタシたちは、毎回いろは坂にくるたびに、それぞれバイクと車にわかれて勝負をか
けたレ−スをする......」
◯中禅寺温泉街
まなみら一同揃う中、本田が説明する。
本田「まず我々車部門はトップ争奪形式レ−ス。GS給油、エンジントラブルを含めた三十周
無制限で、とくに他車への妨害工作までOKだ。参加者は佐藤、加納、そして私だ」
佐藤「賞品は?」
本田「ナシ。ただし! 負けたヤツが卒業式に私服をきてくる、という罰ゲーム!」
佐藤、加納が顔を見合わせる。
本田の前に出る坂城。
坂城「はいはい。それでウチらバイク部門は全員でもって、いろは一周の秒数を競うタイムレコ
−ドレ−ス形式。賞品は.......中島嬢がプロバンスを放浪した際、買ってきた伝説の名酒ナポ
レオン・ボナパルトッ!」
みんな「オオッ!」
本田「ま、みんなも知ってるかと思うが、とりあえずサーキットの紹介をまなみの方から.......」
まなみが前に立つ。
◯温泉街東部・第一いろは坂入口
4 まなみのバイクが下っていく。
絵に重なるまなみの解説。
解説「まず中禅寺温泉街をスタ−ト、下り専用の第一いろは坂を一気に下っていく。全長
四キロ、約二十数箇所のタイトコーナーがある」
◯第一いろは坂・「と」コーナ
次々とドリフトしていく走り屋の車。その中にまなみのバイクが。
絵に重なるまなみの解説。
解説「ここではいかに他車を抜いていくかが勝負の分け目。特に高度なテクニックを要求す
る箇所は少ないが、カ−ブでノロノロする車を直線コ−スで抜いていく。下り坂ということ
で、ややブレ−キングに気を許すと前を走る車に追突してしまう。抜くときは必ずクラクショ
ンを鳴らすこと」
◯馬返(ジャンクションポイント)
やってくるまなみのバイク。上下線合流点でハングオンする。
今度は第二いろは坂に向かっていくまなみのバイク。
絵に重なるまなみの解説。
解説「そして麓の休息所、馬返に至ったところで上り車線にチェンジ、時間を稼ぐために上り
ラインと合流したと同時にハングオン、馬力を高めて今度は上り専用の第二いろは坂をの
ぼっていく。この下りから上りへの態勢立て直しがいろは経験のない人にはなかなか難し
い」
◯第二いろは坂・「ゆ」コーナー
まなみのバイクがハングオンしていく。
絵に重なるまなみの解説。
解説「そして上りの第二いろは坂。ここでは距離が長い割に上り勾配がきついため、ハング
オンの角度がきつくなってくる。きりすぎると膝を擦る。ここでの勝負は倒し方と切り込み方.......」
◯同坂内・明智平駐車場
ヤンキーたちの黄色い喚声を受けつつ、その横をかっとんでいくまなみのバイク。
絵に重なるまなみの解説。
解説「左手に明智平を見ながら、そのまま新明智トンネルへ.....」
◯同坂内・レイクサイドホテル付近
ゆるやかな木陰の中をかっとぶまなみのバイク。
絵に重なるまなみの解説。
解説「白雲トンネルをぬけ、レ−クサイドホテル横の緩やかなカ−ブを処理し、大谷川に
かかる二荒橋までの数メ−トルのバックストレ−トを飛ばす。そして中禅寺温泉バス
停前の信号下の停止線で一周となる。全長十五キロ、高低差五00メ−トルの大サ
−キットだ」
◯中禅寺温泉街
時計を見ている浅野、旗を振る。
浅野「ゴー!」
同時に次々とかっとんでいく車とバイク。
◯第一いろは坂「に」コーナー
華麗なるドリフトをしていく佐藤、加納の車。
それから遅れる本田。
◯同・車内
助手席の女が不満げに睨む。
女 「どーしてウチらだけ遅いのよ!」
本田「バーカ。ヤツらが乗ってるのは小さいハチロクと小回りの利くシビックだ。
対してこっちはバカでかい上に重いGTRだぜ.....下りでまてもに張り合ったら、
即落下だ」
◯第一いろは坂「と」コーナー
GTRがドリフトしていく。重なる本田の声。
本田の声「こっちは上り勝負にしてんだよ!」
その横をすり抜けていくまなみ、坂城のバイク。
◯馬返
まなみ、坂城のバイクがハングオンして、第二いろは坂へ。
◯中禅寺温泉街
交差点を曲がっていく坂城、まなみのバイク。
同時に、浅野がストップウォッチを振りかざす。
浅野「24分30秒? さすが定峰の妖精!」
ストップウオッチをもって車内へと戻る浅野。
車内には、コンピュータを叩く中野の姿。
浅野「このぶんだとナポレオンは彼女のモンだなあ」
中野「うーん。そうかな......」
浅野「え?」
重なるまなみの解説。
解説「中野の不安は的中した.......」
◯第二いろは坂
勾配をのぼっていくまなみのバイク。
絵に重なるまなみの解説。
解説「最初こそ順調なペースだったが、周回を重ねるごとにタイムは悪化してきた」
◯中禅寺温泉街
エスティマの横についているまなみのバイク。
浅野がまなみのバイクをいじっている。
絵に重なるまなみの解説。
解説「タイヤの熱ダレか何かだと思い、ピットインしたが.......」
浅野「いや。タイヤに問題はない」
まなみ「じゃあ....機械系かな?」
浅野「バラしてみっか?」
まなみ「えー? いま? ちょっとそれは.......」
浅野「いいじゃん。ダントツなタイムをマークしてんだし。とりあえず<夢の23分台>が
でなけりゃ破られないってばさ」
そのときやってく中野。
中野「バラす必要はないと思うよ」
まなみ「え?」
中野「キミ、どこかでブレーキ踏んでいるでしょう?」
◯第一いろは坂
坂を下っていくまなみのバイク。それを背後からつけていく加納のシビック。
◯中禅寺温泉街
バイクから降り立つまなみ。
加納の車の助手席から降り立つコンピュータを持った中野。
中野「それぞれのコーナースピードに関しては問題ない」
まなみ「ってことは、どっかのストレート?」
中野「その可能性は低い。キミの場合、ストレートは通常の4倍近く出すクセがある.......」
浅野「ストレートでもコーナでもないってことは?」
中野「さあ。原因不明......」
困惑のまなみ。
◯第一いろは坂
ハングオンしていくまなみのバイク。
危険なまでな立ち回りに、ブレーキを踏む周囲の車。
その絵に重なるまなみの解説。
解説「それから私は、何度も攻めたが.......」
◯馬返
一気にハングオンするまなみのバイク。
路上には黒いスリップ痕が。その絵に重なるまなみの解説。
解説「状況は悪化の一途をたどり.......」
◯新明智トンネル内
駆け抜けていくまなみのバイク。テールランプが遠のいていく。
その絵に重なるまなみの解説。
解説「午前4時15分、坂城が夢の23分台に突入、私は首位から転落した」
◯エスティマ車内(朝)
チコチコ時を刻む時計。
それをジッと眺めているまなみ。
時計の針が9:00AMをさす。
まなみ「ついに完徹か......」
まなみ、ガバリと起きる。後部座席に寝ているさゆり、中野、浅野ら。
まなみはドアを開け、車外に出る。
◯中禅寺湖畔
まぶしいほどの光が差し込む。慌てて目を細めるまなみ。
まなみ「クワッ!」
まなみは見回す。周囲はジイさん、バアさん、家族連れでごったがえしている。
ふと眼前を見ると、巨大な男体山の姿が。
◯戦場ヶ原
ガンガンのロックを響かせて行く車隊とバイク隊。
◯湯本温泉
さゆりとまなみが温泉の中ではしゃいでいる。
◯二荒山神社>
一同いっせいに手を叩いて参拝。
◯中禅寺湖
坂城や佐藤らが遊覧船の上でふさげている。
それを湖のベンチで座って見ているさゆりとまなみ。
まなみはさゆりの膝枕で寝ている。
まなみ「男ってのは、どうしてあんなに元気なんだ?」
さゆり「ホント.....」
まなみ「....ったく、みんなズルいよ。昨日はあんなに暗かったくせに。ここぞとばか
りにテンションあげて」
さゆり「昨日?」
まなみ「S字シケインの話のとき。大井がしょうがないってたたみかけたじゃん。け
ど、あんとき他のみんなもなんかヘンだった」
さゆりは一瞬ピクッと身じろぎし、ちょっとの間、周囲に視線を泳がせる。
さゆり「......気づいてた?」
まなみ「ん.....」
まなみが顔をあげ、由美の顔を見ようとすると、宥めるように押さえつけた。
さゆり「みんなカラ元気なんだよ.....」
まなみ「なんで?」
さゆり「みんな、いろいろ悩みがあるみたいよ」
まなみ「それにしてはカ−カ−寝てたじゃん。とくにアンタも」
さゆり「まあね....。あんたは眠れないだろうな」
まなみ「なに、それってバカってことか?」
まなみは再度、顔をあげようとしたが、今度は首の力が入らない。
クソッ! 眠い!
対してさゆりは、真剣な口調。
さゆり「違う。あんたってどこまでも正直だから.....」
まなみ「は?.....アタシが正直?....眠たいなあ!.....ちょっ! さゆり、顔みせろ!」
ゆったりとしたさゆりの掌がまなみの髪を撫でる。
まなみ、気力がつきて瞼が閉じる。
◯いろは坂(夜/俯瞰)
薄暗い岩肌の中を駆け抜けていくバイク音とサーチライト。
絵に重なるまなみの解説。
解説「夜となり、最後のレ−スが始まった」
◯第一いろは坂
佐藤のハチロクの直後に迫るように下っていく加納のシビック。
解説「さすがは佐藤、加納はラップを重ねるごとにピッチを速めていった」
◯第二いろは坂
ホイルスピンしながらGTRが上っていく。
解説「その二台に対する本田のGTRは、昨日のペースダウンがウソのようにラップタ
イムを更新。次第に二台に迫っていた」
◯馬返
ジャンクポイントでハングオンしていくバイク隊。
解説「対してバイク戦隊は、坂城と私とさゆりの三つ巴がヒート。いずれも一分内の闘
争を抜け出しきれず、勝負は最後の最後までわからなくなってきた」
◯中禅寺温泉街
まなみがバイクを止めて、時計を見る。
まなみ「ゴールまであと一時間!」
ジュースを持ってやってくる浅野と中野。
浅野「だいぶ調子いいじゃない」
まなみ「今夜はかなりイケてる」
中野「でも、ムチャはやめとけよ。原因はまだわかってないんだから」
まなみ「ああ......」
まなみは地を蹴り、走り出す。
◯第一いろは坂入口付近
信号を越えて、まっすぐのストレートを走るまなみ。
まなみ「ここらいでイッパツきめないと.......」
迫ってくる左コーナー。そのガードレールの向こうには、日光のイルミネーション。
まなみ「.....!」
まなみの両手がブレーキレバーにかかる。
ハッとするまなみ。
まなみ「そーゆーこと.....!」
ゆっくりと曲がっていくまなみのバイク。
解説「下りの第一いろは坂に入ろうとする直前にやや左カ−ブとなった部分がある。ス
タ−トをきり、下りの第一いろは坂に入ろうとする直前にやや左カ−ブとなった部分が
ある」
◯第一いろは坂・「ろ」コーナー
ゆっくりと下っていくまなみのバイク。
解説「下り傾斜がかり、一気に眺望が開けているため、走り抜けると暗黒の中にたたき
出された格好になり、一瞬だが宙に浮いた感覚に見回れる。アタシは、この感覚が
溜まらなく好きで、逆にアクセルきかせて、バウンドしながらヘアピンに挑んだほどだ
ったが......」
ハングオンするまなみ、つぶやく。
まなみ「どうにも恐くてかなわない.......」
◯第一いろは坂
ドリフトしている加納のシビック。
加納「クッソ。タイヤがそろそろヤバく.......」
ハッとする加納。フロントガラスに水滴。
加納「しかも雨?」
ふと前を見ると、まなみのバイクが。
まなみ「ホント、なっさけないったらありゃしない......」
* * *
会社説明会会場。
面接官に頭を下げているまなみの姿。
解説「就職も決まり、あとは卒論だけで社会に入っていく、そんな状況に圧されている今日」
* * *
学食内。
スーツ姿で語り合うまなみ、さゆり、坂城らの姿。
解説「大学友達はス−ツを着込んで研修に向かい、話すことといったら......」
さゆりが腕を組んで悩む姿。
さゆり「なんかやり残したことってあるかな?」
それをまなみが微笑みながら直視している姿。
解説「まるで死を覚悟した病人のような雰囲気で.....まるで昨日遭遇した、あの抵抗でき
ない嫌悪感.....」
◯第一いろは坂下・エスケープゾーン前
凄まじい勢いで駆け抜けていくまなみのバイク。
解説「......ウデは落ちていない。勢いもある。精神的な守りの体制の原因......」
◯馬返
やってくるまなみのバイク。まなみはバイクを止めて、トイレにかけこむ。
解説「それは......!」
◯同・トイレ内
ヘルメットをたたき付けるまなみ。流れる涙。
まなみ「これが大人になるってことなの!」
◯中禅寺温泉街
コーラーを掛け合う一同。
解説「かくしてレースは終わった」
その中心で本田がコーラーを浴びている。
解説「車部門のレースは、なんと終盤で劇的な追い上げで本田が優勝。かくして佐
藤、加納は卒業式を私服で出席するという調印がなされた」
祝宴の刹那、本田がいきなり泣き出す。
解説「もっとも、そこまで至る前に彼女と大喧嘩を展開、結果、彼女は支援車で先に
帰るという劇的なドラマをもつくってくれた」
本田が泣いている横で、坂城がナポレオンのビンを持ち上げている。
解説「バイク部門のナポレオンレ−スでは、なんとラストラップに坂城が21分45秒00
でチェッカ−フラッグ。追っていたさゆりとは1分、吉川とはわずかコンマ五秒。
かくしてナポレオンは坂城の手に下り、すべての日程が終了した」
坂城が立ち上がる。
坂城「んじゃ、ぼちぼち帰るか!」
皆、反論ナシとばかりにコーラーの缶をゴミ箱に叩きつけ、それぞれが自分のマ
シーンへと戻っていく。
まなみもまた、バイクへと戻っていく。
バシッ.......。
そのとき、眼前の土産屋の電気がパッと消えた。
皓々と輝いていた周囲の明るさが一気に暗夜の闇に落とす。
振り返るまなみ、その他一同。
静寂が周囲を包む。
まなみ「あ........」
まなみが頭上を見上げる。
かすかな明かりを照らし出す木の葉。夜露が電灯の光を反射している。
さゆり「奥日光は季節の変わり目か......」
まなみ「これが標高1260mの姿だとしたら.....」
さゆり「ん?」
まなみ「その先の未来には何があるんだろう?」
さゆりは笑って缶をゴミ箱に投げ捨てる。
さゆり「走り続ける、それっきゃ見つからないんじゃない? その答えって....」
まなみも笑う。
グォン!
そのとき、背後で鳴り響くやかましいエンジン音。
振り返ると佐藤のハチロク。佐藤は何度もエンジンをふかす。
さゆりがまなみの肩を叩き、二人はバイクへと戻る。
次々と出ていく車とバイク。それぞれがまなみの前でクラクションをならして行く。
一人の超されたまなみ。まなみはバイクのオイルタンクを叩く。
2まなみ「行こうか」
大地を蹴るまなみ。バイクは出発するも、信号が赤になる。
まなみ「おいおい、日光連山の神々。いまさら引き留めてくれるなよ」
まなみ、アクセルを全開にする。
勢いあまり、前輪がギャギャッとリキむ。
にわかにヘッドが持ち上がる。
まなみ「ここで止まったら、アタシは一生自分を越えられない!」
ウィリ−走行の真奈美のバイク。そのまま問題の左カ−ブへと向かっていく。
眼前の日光のイルミネシーションに向かい、まなみは叫ぶ。
まなみ「いける、いけるぞ!」
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