■JBC・俯瞰(3年前)
東京のド真ん中にあるインテリジェントビル。
きらびやかな壁のロゴは「JBC」。
解説『1994年 夏.....』
■同・会議室前廊下
ドアに掲げられた看板、その文字、「平成五年度・JBC社員採用試験」。
戸外に漏れ聞こえてくる声。
声 「では追って後日、返事をさせていただきます。ありがとうございました」
■同・会議室内
閉じられるドア。
机に並ぶ重役たち。
重役A「いまの娘、どうおもいます?」
重役A、机上の履歴書をながめ見る。
重役A「全国弁論大会2位、学生特ダネコンクール最優秀賞、W大マスコミ
セミナークラストップ...」
履歴書の志望欄には「希望部署・報道記者」。
重役B「いいんじゃないんですか? 彼女」
正面に座る角谷治、タバコをもみ消す。
角谷「毛並みが悪い。こんなヤツにJBCの看板を背負わせるつもりか?」
重役C「角谷さん....」
角谷「彼女はNGだ」
角谷、幹子の名前と顔写真の入った履歴書にバツを書く。
解説『この年、JBCの報道記者は社長の御曹司が採用された....』
■(現在)臨海副都心
東京湾岸にそびえ立つ高層ホテル。
降りてくるエレベ−タ−がある。
■同・エレベ−タ−内
次第に下がっていくフロアサイン、「13...12...11...10...」。
男と女優がイチャイチャしている。
女優「ねえ。キスしていいでしょ...」
男 「ここでかよ...」
女優「まだ十階でしょ....」
女優、男にキスをする。
9で止まるフロアサイン、ポンと到着を告げる音。
扉が開くと同時に強烈な閃光。スポットライトである。
怯む男と女優。
ライトの光から歩み出すカメラ。構えていのは二本柳幹子である。
幹子「俳優の豊泉悦一と山下朋子さんです! 山下さん! お話を一言!」
■JBC・芸能スタジオ
テレビ画面に映るその様子。
画面を見ながら原稿を読むキャスター。
キャスター「以上のように、豊泉氏と山下さんは交際していることがわかりました」 解説者「たいへんなスクープですね」
キャスター「現場の森尻アナとつながったようです。森尻さん!」
■ホテル玄関前
中継カメラを構える幹子。
カメラの前には森尻がマイクを持って喋っている。
森尻「....今後の二人に注目ですね」
キャスターの声「ありがとうございました」
幹子、カメラから顔を上げる。
幹子「はい、OK」
同時にマイクを幹子に放り投げる森尻アナ。
森尻「こんなことでいちいち私を指名しないでよ。本当なら今ごろ赤プリで××総理 にインタビューする予定だったんだよ!」
幹子「すいません。いま、ウチの方でレポーターがいないんですよ」
森尻「だったらアンタが喋ればいいでしょ!」
幹子「本当ならそうなんですが....」
横付けされるJBCの旗を掲げる局車。
誘導する男、チ−フの真鍋である。
真鍋「森尻さん。局車が到着しました」
幹子を睨む森尻、車に乗り込む。
真鍋、幹子、森尻に頭を下げている。
真鍋と幹子「どうもありがとうございました!」
森尻「はやくベシャれるヒト、雇ってよ!」
去っていく森尻の局車。
真鍋、幹子、局車に頭を下げながら....。
幹子「やっぱ、アタシが喋った方が..........」
真鍋「JBCお抱えの人気の局アナだ。視聴率が2パーは違う」
幹子「.........」
駆けつける佐々木AD。
佐々木「真鍋さん! LAで療養中の宮崎理香が三十分後に羽田に到着します!」
真鍋「羽田? 成田じゃないのか?」
佐々木「一時間前、関西空港の方から入ったところを見かけた人がいるって話です」 真鍋「極秘帰国か........」
幹子、機材を持ち上げる。
幹子「うまくいけば番組のケツに間に合う。チ−フ、いきましょう」
■首都高湾岸線
レインボーブリッジの上を中継車が疾駆する。
中継車の横に書かれた文字、「番組制作会社・ウエスト」。
車内から聞こえるアナウンサーの声。
アナの声「××首相は今日午後、赤坂プリンスホテルで行われたJBC独占インタ
ビューの中で.....」
■同・放送操作室内
モニターパネルに映るJBCニュース。バリッとスーツで決めたアナウンサー。 アナ「最近地元・N市のワールドカップ施設建設が立ち 後れていることを遺憾であ るとし、より一層の努力をしていく、と語りました.....次のニュ−スです」
薄暗いカーゴ内。モニターの明かりに照らし出される車内。
アナ「.....だいま入った情報によりますと、N大学教授が飛び降り自殺している
のが発見されました。自殺したのは生物学教授の殿生秀男氏で.....」
煩雑とした放送機材、山積みのタバコ、そして疲労した顔のスタッフたち。
AD「こいつ、カッコイイよなあ」
佐々木「社長の御曹司ですってね」
真鍋「いいよなあ。コネのあるヤツは....なあ。幹子」
助手席に脚を投げ座る幹子。
幹子「.....あと、どれぐらい?」
運転手「二十分ぐらい」
幹子「少し寝る」
幹子、サングラスを深く被る。
ため息をつく真鍋たちスタッフ。
サングラスの中の瞳、窓辺に映る東京タワーを見ている。
解説『こんなはずじゃなかった.....』
よみがえる幹子の追憶。
■幹子のモノローグ
三年前、山手線に乗っているリクルートスーツ姿の幹子。
試験予定日がビッシリと書かれた手帳を真顔で見つめる幹子。
解説『TBS、テレビ朝日、フジテレビ....JBCに落ちた後も大手テレビ(キー) 局を受けたが...』
× × ×
手紙を開封する幹子。
中身は履歴書と、「残念ながら....」と出だしの不採用通知。
解説『ただでさえ競争率150倍はくだらないというテレビ局受験、一次試験で落と
された....』
× × ×
夜行バス車内。旅客にまぎれてスーツ姿の幹子。
解説『比較的実力を買ってくれる地方の放送局を受けまくったけど....』
× × ×
地方局スタジオ内。
壁に書かれた文字、「最終試験・カメラテスト」。
カメラに顔を押しつけて喋るアナ志望者、それを笑う面接官たち。
脇で諦観している幹子。
解説『結局モノを言うのはテレビ映りのいい容姿とおもしろい性格(キャラ)で.... 私のような固い女はことごとく落とされた』
× × ×
連なる番組制作会社の電話番号。それを片手に履歴書を書く幹子。
特技欄には「時事、社会、芸能なんでもできます。カメラ、アナウンス練習アリ」
解説『そしてテレビ局の下請けをしている番組制作会社をリストアップして、電話
をしまくり、特技欄を飾りたてた履歴書を重ねてようやく掴んだのは時給800円の
日雇いカメラマン。仕事はワイドショーの突撃取材....』
× × ×
カメラを片手に闇を見据える幹子。
解説『私が撮りたいのは人の追っかけなんかじゃない。 私が撮りたいのはもっと
大きな.....世の中を揺るがすような大事件を掴み、人々に伝えたい!』
重なる真鍋の声。
声 「幹子.......」
■羽田空港ロビー
煩悶している幹子。
真鍋の声「幹子!」
ハッとする幹子。
集まっているスタッフたちと真鍋の不満気な顔。
真鍋「聞いてるか?」
幹子「悪い.....」
真鍋、手に持つ空港内見取り図を指さし、指示。
真鍋「理香は玄関口から出てくるはずだから、右正面からとらえろ。幹子と佐々木は 団体出口を張れ。いいな」
幹子「わかった.....」
幹子、佐々木ADを連れて団体用出口へと向かう。
■同・団体用ゲート
観用樹の物陰に控える幹子と佐々木。
佐々木「もうそろそろ出てきてもいいんですがね」
ゲートから出てくるのは中年男の集団ばかり。
幹子「ん.....?」
中年集団の一人をマジマジと見る幹子。
男、サングラスをかけながら小走りに人々の間を抜けていく。
幹子「あれは.....」
幹子、目線を据える。
玄関口へと向かう男、人混みに消えそうになる。
幹子「悪い....」
カメラを持って立ち去る幹子。
佐々木「え? ちょっと!」
直後、ゲートに現れる女優の姿。
佐々木「なんだよ! もう!」
■同・玄関口
サングラスの男、黒塗りのリムジンに乗り込む。
幹子、それを物陰からカメラで撮っている。
幹子「まさか.....」
■放送車・車内
入ってくる幹子。
憤激している真鍋とスタッフたち。6
真鍋「どういうこったよ! せっかくのスク−プが台無しじゃねえか!」
幹子、脇の編集盤に座るADにVTRを渡す。
幹子「これ再生して」
真鍋「理香は撮れてねえよ!」
幹子「(ADに)OK。モニタ−2に出して」
真鍋「おい、幹子!」
モニタ−に映し出される玄関口の模様、車に乗り込む男の姿。
幹子「クロ−ズアップ!」
真鍋「幹子!」
画面にクロ−ズアップされる男の顔。
同時にニヤリと微笑む幹子。
真鍋「何なんだよ。その男は!」
幹子「真鍋さん。日本の総理大臣の顔も忘れた?」
真鍋「総理大臣?」
幹子「こりゃスクープだぜ。特大級のな」
■テレビ画面
画面に映るワイドショーのキャスター。
キャスター「最後にこれを御覧ください」
■首相官邸・執務室
部屋の片隅でテレビがついている。
テレビ画面に映るサングラスの男の映像。キャスターの解説の声。
キャスターの声「この映像はさきほど、当番組スタッフが羽田空港でとったものです」
執務机の上に置かれているサングラス。
キャスターの声「××首相はサングラスをかけ、出て行きました。赤坂のホテルにい たはずの首相がどうして羽田で目撃されたのか、いまだ不明ですが、我々ワイド
ショ−は引き続き取材していこうとおもいます」
執務机に腰掛けているのは首相である。
歩み寄る秘書官。
秘書官「総理....」
首相「ここの放送局は?」
秘書官「JBCです」
首相、顔をしかめる。
■JBC・報道局
テレビに映るの首相の映像。
それを見ている報道局員たち。
局員A「だったら赤プリの取材はいったいなんだったんだよ!」
局員B「局長は?」
局員C「さっき呼び出しくらって役員会議室に」
局員A「役員会議室?」
■同・役員会議室
ため息をつく首相秘書官。
秘書官「参りましたね。極秘だったんですよ。あの移動は」
萎縮する芸能局長。
芸能局長「.....はあ」
秘書官「しかもいたずらにコトを煽って。いったいどういうつもりです?」
芸能局長「確認不足だったことはお詫びします。ですが、当方も総理の姿を目撃した 以上、それを伝えるのが仕事でして....」
秘書官「あることないことをね。だいたい総理に関する報道は報道局の領域
でしょう。ねえ....角谷局長」
秘書官、芸能局長の隣に座る角谷修をみる。
角谷「秘書官。私は昨日付けで編成局長に....新任の報道局長は彼でして....」
角谷、隣に座る矢沢顕一矢沢顕一を手で示す。
秘書官「ええっと、失礼....」
起立し、名刺を渡す矢沢。
矢沢「矢沢です。でも、そうですかね? 別にそういう決まりごとは....」
秘書官「記者クラブの慣例でしょう。話しになりませんねえ」
秘書官、角谷に顔を向ける。
秘書官「角谷さん。芸能局長さんはともかく、報道局長がこのようでは....」
角谷「申し訳ありません。なにせこの矢沢、ずっと海外だったもので....」
秘書官「ともかく何とかなりませんかね? 角谷さん。総理はことの他、今度の件を 遺憾に思っている。へたをすると、これまで築き上げてきた貴方がたとの関係を
もう一度、見直さなければならない」
矢沢「それは我々JBCを首相官邸記者クラブから閉め出すということですか?」
秘書官「誤解されては困ります。総理は一国の行方を判断する立場にいます。
その総理の政治行動をいちいち妨害されると、政治は成り立たない、そういって
いるのです」
矢沢「結局それって....」
手で制する角谷。
角谷「(頭を下げ)どうも申し訳ありませんでした!」
矢沢「角谷さん....」
角谷「当方の不始末でした。この事件はこちら側で処理させて頂きます」
ホッとする秘書官。
秘書官「そうしていただけると助かります」
憮然とする矢沢。
■中継車・放送操作室
佐々木の報告に顔をしかめる幹子。
幹子「N市?」
佐々木「はい。空港関係者に当たったら小型のセスナ機をチャ−タ−していた
みたいですよ」
幹子「N市....」
顔を挟む真鍋。
真鍋「ワールドカップ関連じゃないのか? あの人の確か、決勝スタジアム、
地元N市で強引に誘致したって話じゃん? 下見かなんかしてたんじゃないか?」
幹子「首相官邸側は? 何かコメントは?」
佐々木「別に何も。でも、いいんじゃないんですか?いつものやり方で聞けば」
真鍋「いつものって.....」
佐々木「突撃インタビュ−。とっつかまえて質問攻め」
真鍋「バカ。SPに捕まるぞ!」
佐々木「二本柳さんは?」
幹子「わかんねえなあ」
腕を組む幹子。
幹子「あの時間、JBCの報道局が赤プリで取材していたってニュ−スでいって
ただろ?」
真鍋「....そうだっけか?」
幹子「ちゃんとニュ−ス見てないな。だとしたら、あいつらは嘘をついていた
ことになる。どうして?」
真鍋「ああ! もうわかんねえことだらけ!
ったく、やってらんねえよ。だいたい俺らは俳優を 追っかけりゃそれでいい
んだよ!」
横のテレビモニターの一つが臨時ニュースに切り替わる。
画面に映し出される森尻。
森尻「ここでニュ−スをお伝えします。今日のワイドショ−で公開された総理が
羽田にいたというスク−プは誤報であることがわかりました。このテ−プは
先月のニュ−ヨ−ク帰国の際のVTRで、ワイドショー関係者がおもしろ
おかしく流したと思われています」
幹子「なんだと!」
受話器をもって立ち上がる佐々木。
佐々木「二本柳さん! 社長が!」
幹子、え?という表情。
■番組製作会社ウエスト・正面玄関
中継車から降り立つ幹子、憮然とした表情。
「来ました! 誤報報道をしたカメラマンです!」
幹子につめよる芸能レポ−タ−とカメラマン。
レポ−タ−「ワイド3です! 一言お願いします!」
幹子「後藤−ッ!(カメラマンの名)」
幹子、レポ−タ−を突き飛ばし、カメラマンの胸ぐらを掴む。
幹子「てめえ! アタシらを潰すつもりか!」
カメラマン「いや、幹子! 仕事だから....コレ....」
端にいるレポ−タ−の驚愕。
レポ−タ−「大変です! 我々スタッフに襲いかかってきました!」
幹子「てめえ!」
レポ−タ−のマイクを奪おうとする幹子。
慌てて中継車から降り立つ佐々木。
佐々木「落ちついて! 二本柳さん!」
幹子「うるせえ! 一発殴らせろ!」
佐々木に抑えられ、もがく幹子。
■同・社内
着席する真鍋、佐々木そして顔に絆創膏をくっつけている幹子。
真鍋「契約解除?」
眼前には製作会社社長と芸能局長。
局長「といっても期間は半年です。半年後に新しいニュ−ス番組の製作を手伝って
いただきます」
幹子「ずいぶん勝手な話ですね」
部長、目線を壁ぎわのテレビに移す。
テレビに映っているのは先刻の幹子の騒動。テロップには「おそまつ!
情報操作人、白昼の暴行劇!」。
真鍋「これだけ騒ぎが大きくなってはしかたないだろう。謹慎だとおもって
しばらく静かにしろ。いいな?」
幹子「.....」
局長、机上の書類を広げる。
局長「これが半年後の番組製作プランです」
書類を見る佐々木。
佐々木「待って下さい。二本柳さん、入ってませんよ」
社長「残念だが二本柳は今月30日でもってやめてもらう。今度のスク−プの
責任をもってな」
佐々木「そんな.....」
社長「いいな。二本柳.....」
社長を睨む幹子。
幹子「スケ−プゴ−トですか」
社長「会社が生き残るためだ。おとなしく身をひけ」
幹子「......」
席を立つ芸能局長。
局長「では、そういうことで.....」
■JBC・記者会見室
ズラリと並ぶテレビカメラ。
対して座る芸能局長と製作会社社長。
社長「以上のように、番組製作会社では責任をとってもらう処置をいたしました」
芸能局長「みなさま方には大変なご迷惑をおかけしたことをここに陳謝いたします」
頭を下げる芸能局長、社長。
■同・編成局
記者会見を映しているテレビ。
それを見ている角谷、矢沢。
矢沢「春のカイヘン(番組改編)でワイドショーを潰すそうですね」
角谷「殺人、テロ、若年層のドラッグ過多、コンピュ−タ−犯罪....日常生活に
犯罪が多発してくるこの時代にだ、芸のない役者の不倫や脳天気な身の上相談
なんか流しておくのはもったいない」
矢沢「それで? 新番組は?」
角谷「情報番組だ。貴様らに担当して貰う」
矢沢「我々報道が?」
角谷「安心しろ。貴様の得意な硬派な海外ネタだ」
矢沢「硬派って......昼の3時ですよ」
角谷「何いってんだ。世のオバチャンどもはパートと不倫で大忙しだ。公園で
ゲートボールにも出れねえクソジジイや、女のケツもおっかけまわせねえ
バカ学生どもに再教育してやんだよ。ドハデな演出をつけてな」
矢沢「(おののきの表情)」
角谷「いいか。今の世の中、やっちまったモン勝ちだ。意外なことをとんでも
ねえ場所ですれば視聴者なんてついてくるもんさ」
矢沢「....あの、ニュ−スで伝えた総理の赤プリ対談ですが」
角谷「ん?」
矢沢「あの対談、確か先月末の映像でしたよね。それを流せと指示したのは、
編成局の方でしたよね....」
角谷「.....何が言いたい」
矢沢「いえ......」
一礼してドアへと向かう矢沢。
角谷「おい、企画書頼むぞ。チェチェン殺戮戦生中継とか、タイの麻薬巣窟
潜入レポートなんてハデなの、かましてくれ!」
矢沢「........」
ドアを閉じる矢沢。
■同・報道局
入ってくる矢沢。
そこに寄ってくるOL職員。
OL「あ、矢沢局長。お荷物が届いてますよ」
矢沢「荷物?」
矢沢、机上をみる。
机上に置かれているお中元。
■番組製作会社
机上の私物をまとめている幹子。それを見てみぬふりをしている社長と真鍋と
佐々木。
大きな荷物を背負う幹子。
幹子「じゃ、これで失礼します」
社長「これ......」
社長、封筒を差し出す。
幹子、中を開けると一万円札が三十枚。
社長「当座の元手だ。次の仕事先、まだきまってないんだろ?」
幹子、封筒を突き戻す。
幹子「これを貰ったら、私の真実を誤報にしてしまう」
社長「二本柳.......」
幹子「では、失礼します」
幹子、真鍋と佐々木の前を歩いてドアへ。
真鍋「二本柳! あんまり肩肘張るな。この業界はもちつもたれつだからな」
幹子、無言でドアを閉じる。
■同・玄関先
雨の中、荷物を抱えながらタクシ−に手を上げる幹子。
次々と過ぎゆくタクシ−。
幹子「タクシーまで無視かよ.....」
その横に現れる佐々木。
幹子「佐々木.....」
佐々木、大手を振って路上に出ていこうとする。
慌ててそれを止める幹子。
幹子「バカ! やめろよ!」
佐々木「止めてみせます.....」
幹子の頬に流れる一筋の涙。
幹子「少しは泣かせてくれよ! ハラん中でムカつくこと、チャラにしたいん
だよ。でなきゃ....次に...次の職場にいけねえだろう!」
佐々木「......」
幹子「そんな面みせんなよ。大丈夫。カメラは死んでも離さないからつもりだからさ」
タクシーがウィンカ−を点滅させて停止する。
涙をぬぐう幹子。
幹子「世の中、捨てたもんじゃねえな.....」
ドアが開き、乗り込もうとする幹子。
同時に後部座席から出てくる矢沢。
驚く幹子。
幹子「あんた.....報道局の....」
矢沢「キミが総理をしとめた記者か?」
幹子「.....失礼します」
幹子、歩きだそうと荷物をひきづるが動かない。
その荷物を軽々と持ち上げる矢沢。
矢沢「晩メシ、つきあってくれないか?」
呆然とする幹子。
■JBC・編成局
会議から戻ってくる角谷。
机上に置かれた書類封筒。
局員「あ、先ほど矢沢さんが参りまして、それを」
角谷「おう。新番組の企画書か。どらどら」
封筒をあける角谷。
■ファ−ストフ−ド店内
トレ−に山積みのハンバ−ガ−。それを黙々と食べる矢沢。
対して、それを不思議そうに見つめる幹子。
矢沢「悪いな。死ぬほどハラ減っててな」
幹子「あの、それで?」
矢沢「..........?」
幹子「報道部のエリ−ト部長サンが、落ちこぼれカメラマンにメシを奢るほど
奇特な心の持ち主じゃないしょう。何か話があるんでしょ? 私に」
矢沢「まあな」
幹子「金の次は口封じですか....」
矢沢「残念ながらその逆だ」
幹子「え?」
口を拭う矢沢、同時に真顔になる。
矢沢「キミと契約しに来た」
唖然とする幹子。
■JBC・編成局
窓辺にたって夜景を見ている角谷。
机の上には「転籍願・矢沢顕一」。
角谷「根性無しが.....」
■JBCケ−ブルビジョン(外景)
都内下町の中に埋もれている雑居ビル。
看板の中にある小さなオフィス。
その文字、「JBCケ−ブルビジョン」。
>■同・廊下
室内を歩く幹子と矢沢。
矢沢「ケーブルテレビはマルチメディア時代の先鋭とはよくいったもんだ....」
窓から見える小さなスタジオ。中では据置カメラに安っぽい人形劇をやっている。
矢沢「放送番組の9割がJBCの再送信、オリジナル番組は人形劇一本のみ.....」
■同・オフィス内
ガランとした室内。何もない棚、空机が並ぶ。
片隅で茶を飲んでいる老人たち。
その横を歩く矢沢と幹子。
矢沢「社員数15名、平均年齢50歳....」
■同・社長ルーム
オフィスの一部を間切りし小部屋。机と小さな応接セットでいっぱい。
デスクに座る矢沢。
矢沢「要はリストラ収用所だ」
幹子「パリ、ロンドン、ニュ−ヨ−ク駐在記者....湾岸戦争で特派員までこなした
貴方が....」
幹子、机上のプレ−トを手に持つ。
プレ−トの文字、「社長兼編成担当・矢沢顕一」
幹子「.....どうしてこんなところの社長なんかに?」
0矢沢「動機はキミと同じだ」
幹子「......?」
机上の書類を手渡す矢沢。
矢沢「新しい番組を企画している。これがその企画書だ.....」
書類に書かれた文字、「新ニュ−ス番組−トワイライト・ニュ−ス」
幹子「ロ−カルニュ−スですか」
矢沢「当ケ−ブル局初の報道番組だ。内容は一般大衆向けの検証番組。
取材対象はキミの自由だ.....」
幹子「私の自由....? スタッフは?」
矢沢「スタジオでの番組制作は今の人形劇のヤツらを使う。キャスターはJBC
の窓際アナウンサーを確保した」
幹子「取材スタッフは?」
矢沢「いない。取材はキミ一人でやってほしい」
幹子「私一人?」
矢沢「キミはビデオジャーナリストという報道記者を知っているか? ニューヨーク
でいま注目されているんだがな。個人経営のジャーナリストが事件を見つけ、
独自取材をしてその真相をVTRにおさめる。そして出来上がったVTRを
契約しているニュース専門のケーブルテレビに送りつける.....」
幹子「個人経営ったって....それじゃあ照明や音声は?」
矢沢「そんなもの必要ない.....」
矢沢、机上にドンと置く。小型デジタルビデオカメラ。
幹子「ビデオカメラ?」
矢沢「最近のデジタルカメラってのは進歩してな。デジタル映像で結構いい絵に
しあげてくれるんだ」
カメラを構え、幹子を撮る矢沢。
矢沢「これならカメラを廻しながらインタビューできる」
幹子「でも、ニュ−スソ−スから何から、全部自分で見つけろってことでしょ?
そんなムチャなこと、私にはできません」
席を立つ幹子。
矢沢「私は記者会見で発表されるニュ−スではなく....」
振り返る幹子。
履歴書を読む矢沢。
矢沢「自分の脚で真実を掴み、報道する、そんな地道な取材をするために御社を
志願いたしました....」
幹子「それは....」
矢沢「JBCの人事局から掘り出してきた。三年前、キミが入社試験を受けた
ときの履歴書だろ。それともなにか? これは面接のための社交辞令か?」
幹子「.....」
矢沢「正直な話、キミのような骨のある記者を育てたい」
幹子「.......でも!」
角谷「会社はまだ駆け出しだ。JBCのような給料はとても払えん。けどが、
キミの取材したニュ−スは百パ−セント採用する。それは保証しよう。どうだ?」
幹子「.......」
■(三ヶ月後)ケーブルビジョン・外景
雑居ビル入口に大きく飾ってある花輪。
その文字、「新番組トライライトニュ−ス放送中」
解説『そしてトワイライトニュースははじまった』
■交通事故現場
燃え上がる車。その前で携帯デジタルカメラを構える幹子。
解説『一時はどうなるかと思っていたが......』
■道路
疾走している小型貨物ワゴン。
側面に書かれた文字、「事件・事故の通報をお待ちしてます。ビデオジャー
ナリスト・二本柳幹子」。
解説『インターネットや電話による市民からの情報提供を中心とした日常的な
事件取材は効をそうし、まずまずのスタートをきった』
■幹子のワゴン車内
運転する佐々木、その後部カーゴの簡易編集パネルで編集している幹子。
解説『事件で1カ月の停職処分となった佐々木もヒマをみつけてかけつけて
くれて....』
■道路
幹子、ワゴンの窓からVTRを投げる。
VTRを空中キャッチするバイク便。
解説『しだいに取材の手際もよくなっていき.....』
■ケーブルビジョン・社長ルーム
ブラウン管の中でレポートしている幹子の姿。
それを壷を磨きながら見ている矢沢。
解説『私のビデオジャーナリストとしての活動は軌道にのってきた』
■幹子のワゴン車内
助手席に乗り込む幹子。
解説『そんな某日のことだった.....』
運転する佐々木。
佐々木「そろそろデカいニュ−スを撮りたいモンですよね...」
幹子「そうだな.....」
鳴り響く電話。受話器をとる幹子。
幹子「新宿のホテルで火事だって!」
■高層ホテル前
燃え上がるホテル、その下では逃げ回る人々。
群衆をかき分けて入ってくる幹子のワゴン。
カメラをもって降り立つ幹子、目を見張る。
幹子「すげえ! こりゃ、今日のトップ、いただきだよ!」
佐々木「二本柳さん!」
振り返る幹子、後ろで従業員から話を聞いている佐々木。
佐々木「裏口に誰か残っているようです!」
幹子「本当ッ?」
幹子、ホテルに向かって突進していく。
■同・裏口
周囲は黒煙が充満している。
ハンカチで鼻を抑えながら進む幹子。
幹子「.....!」
煙の間隙から倒れた男、FONT COLOR="red">平野博之の姿。
幹子「大丈夫ですか!」
平野に掛けより、起こす幹子。
平野の返答ナシ。
幹子「オイ! しっかり!」
幹子、平野の頬を叩く。
ようやく微動する平野。
平野「.....はやく....」
幹子「え? なにッ?」
平野「はやく....別の場所に....」
そのとき、駆け寄ってくる佐々木。
幹子「救急車! このヒト、はやく病院に!」
同時に平野、幹子の腕をひく。
平野「ダメだ! 病院じゃダメだ!」
唖然とする幹子。
■テレビ画面
放送されているのは「トワイライトニュ−ス」。
ニュ−スを読むキャスタ−。
キャスタ−「さきほど、新宿の××ホテルで火災が発生しました」
■パーティー会場
正面舞台に掲げられている看板、「政府主宰・W杯壮行会」。
演壇に立つサッカー代表選手たちに握手している首相。
そこに耳打ちする秘書官。
オーバーラップするキャスターの声。
キャスタ−の声「火は鎮火され、いまは現場検証の最中ですが、従業員の話により、
放火の可能性が強い事がわかりました」
首相、驚愕し思わず握手に力が入る。
同時に痛がる選手の姿。
キャスタ−の声「尚、火災での犠牲は一人だけ意識不明の人物をのぞいてはありま
せんでした.....」
■幹子のワゴン車内
コ−ヒ−を飲んでいる平野。
それを編集デスクに腰掛けて見ている幹子。
幹子「落ちついた?」
安堵の一息をつく平野。
幹子「あのさ....」
平野「大丈夫だ....」
ジッと見つめる幹子。
平野「放火をしたのは俺じゃない」
幹子「だったらどうして病院にいかないの?」
平野「いったら....」
平野、車内の編集機器を一瞥。
平野「キミはマスコミか?」
幹子、懐中から名刺を差し出す。
名刺の文字、「ビデオジャーナリスト二本柳幹子」
幹子「ビデオジャ−ナリスト.....っていってもわからないだろうな。フリ−の
ジャ−ナリストのようなモン....」
平野「二本柳....?」
幹子「ああ?」
平野「3カ月前、ワイドショーで首相を羽田でスクープした!」
幹子「....そうだけど?」
平野、せき込みながら笑う。
平野「こんな巡りあわせってのもあるんだな」
幹子「....なんで私の名前、知ってるの?」
平野「あんたに逢いたかった。あんたなら俺の話を信じてくれると思ってな」
不審気な表情の幹子。
平野「あんた、3カ月前、N大の殿生教授が飛び降り自殺したって事件、覚え
ているか?」
幹子「ああ、あった」
平野、コーヒーカップを机に置く。
平野「あれは自殺じゃない。殺しだ」
幹子「なんだって? 殺し?」
平野「ああ....。俺はその殺害現場にいた....」
幹子「待って!」
幹子、手で制してビデオカメラを構える。
幹子「撮らせてもらうよ」
平野「そのつもりだ。おそらく、これが俺の遺言になるだろうからな」
幹子「....命を狙われているってこと? じゃ、この火事もだれかが....」
カメラの前で改める平野。
平野「俺の名は平野博之。JBC報道局社会部の記者だが、どうせいまごろ局での
経歴は抹消されているだろう。三カ月前のあの日、俺はN大の殿生教授からある
スクープの情報を貰い、それを確認するために対談をすることになった。その
対談の相手が首相だった」
幹子「首相が? じゃ、あのとき....」
平野「そうだ。キミが羽田で報じたのは、N大から帰る首相の姿だ。その事実を
消すためにキミはマスコミ界から放逐されたんだ!」
幹子「どういうこと? どうして首相が対談を秘密にする必要が...」
そのとき、ガクンと揺れる車内。
幹子と平野、バランスを崩し、倒れる。
幹子「佐々木!」
佐々木「二本柳さん! パトカーがぶっつけてくる!」
幹子「......なにッ?」
脇の小窓から外を覗く幹子。
× × ×
道路上。
疾走する幹子のワゴン、右横にピタリと併走するパトカー。
パトカー、再び衝突してくる。
× × ×
ワゴン車内。
動揺する幹子。
幹子「どうしてパトカーがぶつかってくるんだよ!」
平野「タイムアップか.....」
ハッと振り返る幹子。
平野、左横のドアへと歩む。
幹子「なにするつもり!」
平野「いいか、N大教授の死亡原因を調べろ。そうすればお前が潰された理由が
わかる!」
平野、ドアをこじ開ける。
幹子「.....待って!」
平野「これは政治とマスコミがつくりあげた犯罪だ!」
平野、飛び降りる。
慌てて後部窓を覗き見る幹子。
平野、歩道に転げ落ちるが、起き上がって小道に姿を消す。
同時に右横のパトカー、転回してその後を追っていってしまう。
後部窓から呆然と見ている幹子の姿。
■パーティー会場
サッカー選手たちと歓談する首相。
そこに耳打ちする秘書官。
ニヤリと笑う首相。懐中から携帯電話を取り出す。
首相「角谷クン。一ついいニュ−スができたようですよ」
■テレビ画面
JBC報道スタジオでニュースを読む森尻アナ。
森尻「ニュ−スです。今日午後四時ごろ、都心でおきたホテル放火事件で、犯人だと
されている人物が隅田川で水死体となっているのが発見されました」
■ケ−ブルビジョン・社長ル−ム
机の脇のテレビに映る森尻アナのニュース。
森尻「犯人は平野博之、三五歳、現在無職で精神病歴があり、放火後自殺したとみ
ています.....」
それを壷を磨きながら見ている矢沢。
入ってくる幹子。
矢沢「おう、ご苦労さん。やったな。おまえのおかげでどこもこのニュ−スで持ち
きりだ」
幹子「お願いがあります....」
矢沢「ん? なんだ?」
幹子「今夜のトワイライトニュースのメニュー、変更してもらえませんか?」
矢沢「......? 何を流したいんだ?」
幹子「これです」
幹子、矢沢にVTRを突き出す。
■同・オフィス内
出てくる幹子、それを迎える佐々木。
佐々木「平野、死んでしまいましたね」
幹子「ああ」
佐々木「やっぱ殺しですか.....」
幹子「おそらく......」
脚をとめる佐々木。
佐々木「なんですか? あれ」
>幹子「.......?」
室内の隅の机を、指をさす佐々木。
髪をとかしているロンゲの男たち。
その上に掲げられている札には「営業部」。
佐々木「営業‥‥?」
幹子「あれが? どうみてもあれじゃナンパ師だぞ」
社員「そうらしいですよ」
座っている老社員が小声で喋る。
社員「渋谷や池袋界隈でたむろしている若者たちに札束たたきつけて引っ張って
きたみたいですよ」
幹子「誰が?」
社員「決まってるでしょう.....」
社長ル−ムに視線を投げる社員。
幹子「矢沢さん? どうして?」
■同・社長ルーム
壷を抱く矢沢、幹子のVTRをビデオで見ている。
オーバーラップする社員の声。
社員の声「金の問題じゃないんですか? 真面目なヒトを入れるだけのカネも
ないということですか。まったく、会社再建をするのはいいんですが、やり方は
ムチャクチャですよ」
矢沢「クッフフフ......」
矢沢の笑いが次第に高笑いにかわってくる。
矢沢「やってくれたな! 二本柳!」
矢沢、内線電話をとる。
矢沢「おい! 番組変更だ!」
■テレビ画面
画面に映るのは、先刻撮ったワゴン車内の平野の姿。
解説する幹子の声。
幹子「以上のように平野氏は、JBCの報道局社会部の記者であることがわかり
ました」
画面、切り替わり解説する幹子の姿。
幹子「さらに平野氏は三ヶ月前、N大の殿生教授自殺は他殺であったこと、さらに
自らその場にいたこと証言しました」
■パーティー会場・控室
テレビに映る幹子の姿。
幹子「果たして平野氏の証言は本当なのか、私たちは 引き続き取材を続け、随時
経過を当番組で発表していこうと思います」
画面内の幹子の顔に投げつけられるシャンパン。
その前に立つ首相の怒りの表情。
■JBC・編成局
テレビに映っているのはキャスタ−。
その前では電話対応に追われる局員たち。
局員A「ケ−ブルの加入数があがっています」
局員B「映像契約も急増中です」
その横で窓辺を見おろす角谷。
角谷「ケ−ブルテレビという亡命政権をおったてて、全国ネットのJBCと正義の
報道という名のゲリラ戦をおっぱじめるつもりか。おもしろい.....」
角谷の机に飛び込んでくる局員。
局員「ケ−ブル局の運用資金先をリストアップしました!」
ニヤリと笑う角谷。
角谷「けどなあ。矢沢....日本なんだぞ、ここは....」
■布施のオフィス前
マンションの一室。掲げられている看板には、
「インタ−ネットアドバイザ−・布施佐和子」
中から聞こえる女の声。
声 「確か大学4年の頃だったよな‥‥」
■同・室内
薄ぐらい室内に昂々と輝く光。
照らし出される機械むき出しの半導体チップ、怪し気な外国語パッケ−ジの
CD−ROM、そして光源となっているいくつものパソコンモニタ−。
声 「その頃、あんたはマスコミ受験で忙しくって、卒業試験が危なかった」
モニタ−に映し出されているのはすべてインタ−ネット情報録。
その前で茶碗を片手に座っている女、布施佐和子である。
布施「最後の頼みの綱として、試験前日、私に教授のコンピュ−タ−にハッキング
させて、試験の内容をコピ−して答えを丸暗記.....」
対してお茶を飲んでいる幹子。
布施「そして見事、ギリギリの単位で卒業した.....」
幹子「そんなこともあったね....」
茶碗を置く布施。
布施「で? マスコミのアンタが何の用? 旧友と昔話をしにきたとは思えないし。
それに...」
幹子「それに?」
布施「いまのアタシはハイテクの裏側の犯罪者....」
態度を改め、座り直す幹子。
幹子「世界を股にかける天才ハッカ−として頼みがある....」
怪訝の布施の表情。
幹子「大丈夫。これは正規の仕事。カネは払う」
布施「何をすればいい?」
幹子「JBC報道局のコンピュ−タ−に潜入して、3カ月前の会議録を盗ってきて
ほしい」
布施、口元がニヤリと歪む。
布施「また何かヤバいこと、しでかそうとしているな」
幹子「別に。ただ真実を知りたいだけ」
■同・マンション前
出てくる幹子。
その横にとまる幹子のワゴン。
運転席から顔を出す佐々木。
佐々木「大変です!」
幹子「え?」
■幹子のワゴン車内
流れるFAX。それをめくる佐々木。
佐々木「××食品、××商事、××建設....ケーブルビジョンに出資している
スポンサーが次々に撤退しはじめているんですよ。いったいどういうこと?」
幹子「考えられるのは一つしかない」
佐々木「え?」
幹子「圧力だ。平野のスクープでJBCが慌て出したってことだよ」
佐々木「そんな.....」
佐々木の手中のFAX資料をめくる幹子。
幹子「でも、まだこの程度なら脅しの範囲内だ。ヤツらにはこれ以上の武器がある」
佐々木「なんですか? それは」
幹子「株だ。うちのケーブルの株の九十パ−セントをJBCがもっている」
佐々木「それが手放されれば.....」
幹子「間違いなくケ−ブルは潰れる.....」
佐々木の蒼白の表情。
佐々木「ど、どうします! 二本柳さん!」
幹子「ボス交しかねえだろう....」
幹子、電話をプッシュする。
■ケ−ブルビジョン・社長ルーム
デスクに座る矢沢。
幹子の声「取材継続?」
矢沢「最初に約束したはずだ。キミのニュ−スは必ず報道する」
幹子の声「本当にいいんですか? ヘタをしたらケ−ブルは潰れますよ!」
矢沢「対策はできている。余計な神経を使うヒマがあったら、そのぶんいい絵を
とってこいッ!」
電話を切る矢沢。再び受話器を持ち上げ、電話に怒鳴る。
矢沢「営業社員諸君!」
× × ×
滑走する高級スポ−ツカ−。運転席の営業社員A。助手席には令嬢。
オ−バ−ラップする矢沢の声。
矢沢「ケ−ブルの命運はキミたちの才能にかかっている」
× × ×
高級ブティック店内。
買い物をしている令嬢、営業社員B。
矢沢「できるだけ多くの社長令嬢をたらしこんで....」
× × ×
高級ホテル・スイ−トル−ム
ワインで乾杯している営業社員Cと令嬢。
矢沢「デカい金づるをゲットしてこい!」
◯トラック車内
後部カ−ゴの片隅でパソコンを操作している幹子。
パソコンモニタ−に映る布施の顔。
布施「確かに平野は事件の起こる三日前、殿生教授の取材を企画している。待って。
今、スキャナ−転送するから....」
モニタ−画面に表示される文書。その文字、「N市における殿生教授の密着取材−
W杯がもたらす意外な事実−(仮題)」。
布施「でも、これはその場で却下されている」
幹子「却下? 誰に?」
布施「当時の報道局長で、角谷って野郎」
幹子「角谷.....」
布施「翌日、逆に角谷の方が緊急会議を開いて、殿生教授と首相との対談を企画し、 その取材を平野に一任している」
モニタ−に表示される文書。それを読む幹子。
幹子「対談日は15日の正午、N市の教授室....」
運転席から顔を覗かす佐々木。
佐々木「15日っていったら、先輩が羽田で首相をスク−プした日ですよ!」
幹子、佐々木を手でシッシと振り払う。
布施「ちなみにJBCの役員ハイヤ−の送迎記録を探ったら、この角谷って野郎、
この二日の間に、首相官邸に五回も行き来してる....」
幹子「つまり、角谷は平野の企画を首相にリ−クし、首相は何らかの意図を持って
殿生教授と逢う決心をしたってことか」
布施「じゃ、カネの方、しっかりたのむぜ」
モニタ−画面が真っ暗になる。
助手席に移る幹子。
同時にはしゃぐ運転席の佐々木。
佐々木「やった! これで羽田の報道が間違っていなかったことが立証されます」
幹子「何を発見したんだ? この教授は....」
窓を見据える幹子。
■高速道路
田園風景が広がる中を疾駆する幹子のワゴン。
看板に書かれた地名表示、「ここからN市」。
◯N大校門前
トラックの前でパンを食べている幹子。
歩いて来る佐々木と助手。
佐々木「殿生教授の助手さんです」
一礼する助手。
慌てて口を拭う幹子。
幹子「殿生教授についてお聞きしたいんですが....」
◯同・廊下
並び歩く幹子と助手。幹子の手にはカメラ。
助手「国内イワナ研究の第一人者としての実力者ですよ。でも」
幹子「でも?」
助手「シビアな視線で論争をおこし、学界ではかわり者としての評価が高いですね...」
幹子「かわり者....」
助手「自殺の二、三週間前は休講してました」
幹子「......で、部屋は?」
助手、手前のドアを手で示す。
◯同・教授室
室内へ案内する助手。
ガランとした室内。部屋にはパソコンがあるのみ。
カメラを構える幹子、フェンダ−ごしには空の本棚。
幹子「ここにあった本とか論文は?」
助手「すべて警察が押収しました」
思わずカメラを降ろす幹子。
助手「教授の死後、公費使い込みの疑惑がかかってるんです。あれ? その取材
じゃないんですか?」
◯幹子のトラック車内
運転する幹子、助手席は新聞を読む佐々木。
新聞の文字、「N大教授、サラ金地獄」「総額1500万円! 汚職か?」
佐々木「これじゃあ、公費使い込みの疑惑がかけられますよ」
幹子「.......」
幹子、アクセルを踏む。
◯警察署・玄関
幹子のトラックが止まっている。
◯同・刑事部
応接ソファに座る佐々木と幹子。
テ−ブルごしに座っている刑事。
刑事「確かにその事件の担当は私ですが......」
佐々木「教授室の資料、公開できませんか?」
刑事「できませんね。まだ捜査途中なもので」
横を通りかかる警官。
幹子、視線を移す。警官の手には「極秘」と書かれた茶封筒を持っている。
途端、慌てて幹子に顔を向ける。
刑事「それで、資料はどういった目的で?」
幹子「ええ.....まあ、ちょっと....」
でていく警官。同時にホッとする刑事。
佐々木「いつごろ開示してもらえるんでしょうか?」
刑事「こちらも色々と別の事件が多くて、徹夜捜査なんですよ。いつになるか....」
憮然とする佐々木、刑事をジッと見つめる幹子。
◯同・廊下
並び歩く佐々木と幹子。
佐々木「なんですかね? あの態度」
幹子、窓に目を移す。
窓の向こうに見える中庭。焼却炉で先刻の警官が茶封筒を開いている。
茶封筒の中は紙とフロッピ−ディスク。
幹子「佐々木.....」
佐々木「はい?」
幹子「悪いけど、総務課にいってあの刑事の最近の勤務時間、調べてきて」
佐々木「どうやって....?」
幹子「タイムカ−ド見りゃ一発だろ!」
佐々木「もう! みんな態度悪いなあ!」
立ち戻る佐々木。
幹子、周囲を見回す。
柱の角におかれている用具入れ。
◯同・中庭
焼却炉にフロッピ−を投じている警官。
突如背後で大声........。
「なにやってんだ! あんた!」
警官、慌てて振り返る。
歩み寄るのは掃除員姿の幹子。
幹子「こんなモン、燃やしちゃダメだよ!」
幹子の威勢にビクつく警官。
幹子、警官からフロッピ−を奪い取り、手持ちのゴミ袋に投じる。
幹子「ったく!あんたのような人がいるから、いつまでたっても分別収拾守れない
んだよ!」
警官「いや、これは内部秘の処分だから.....」
幹子、警官をキッと睨む。
幹子「秘密を守るんだったら、少しは地球のことを考えろ!」
幹子、ズカズカと歩いていく。
◯幹子のトラック車内
脱ぎ捨てられている清掃服、その前にはパソコン画面に向かう幹子。
幹子にタイムカ−ドを見せびらかす佐々木。
佐々木「あの刑事、やっぱウソついてましたよ! ここんところ定時出勤、定時
退署してます。ほら、九時と五時の羅列.....」
パソコンをジッと覗いている幹子。
佐々木「で? そっちはどうでした?」
幹子「あいつら証拠隠滅していた.....」
ピ−ッと鳴るパソコン。同時にモニタ−に映る布施の顔。
幹子「布施。どう? フロッピ−の中身は」
布施「会計記録だ」
画面の中でキ−操作する布施。同時に幹子のパソコンに表示される表。
布施「水質温度計、魚群探知機、CO2検索器....多額の借金は全部、ハイテク機材
に投資されていたんだ」
表をのぞき込む幹子。
幹子「ん?」
布施「なに?」
幹子「機材購入のほとんどが、事件の数日前だよ。なんでこんなムチャな買い方を
していたのかな?」
布施「......急な研究があったってことか」
幹子、視線を佐々木に移す。
幹子「佐々木。殿生教授の研究フィ−ルドは?」
メモをめくる佐々木。
佐々木「国定公園です。ここの中を流れている川の調査....」
幹子「いってみよう....」
◯首相官邸・執務室
驚愕する首相。報告している秘書官。
秘書官「例の女記者の行方がわかりました! N市の警察署に訪ねています」
首相「N市だと....」
秘書官「その際、教授の資料の一部を盗っていったようで....」
蒼白になる首相。
秘書官「おそらく例の件を嗅ぎつけられたかと....」
首相「国定公園だ! 捜査員を国定公園に向かわせろ!」
慌てて取って返す秘書官。
電話をとる首相。
首相「角谷か?」
◯JBC編成局
電話を受けている角谷。
首相の声「すぐにあの女記者を犯罪者にしたてろ! でなきゃ、ワールドカップ
独占放送の件は抜きだ!」
角谷「はい....」
角谷、電話をおく。
角谷「矢沢....今度は俺まで巻き込むつもりか....」
角谷、傍の局員を呼ぶ。
角谷「至急、報道部に連絡を入れろ!」
◯テレビ画面
JBCニュ−ス。映っている森尻アナ。
森尻「警察署で捜査中の証拠物件を盗まれました」
◯国定公園・正面ゲ−ト付近(夜)
森の茂った公園。照明に照らされた看板の文字、「国定自然公園」
その前には覆面パトカ−と警官の鋭い視線。
森尻の声「犯人は二本柳幹子。かつて誤報事件を起こした人物です」
それを窺うように数メ−トル離れたフェンスに横づけしている幹子のトラック。
◯同・トラック車内
カ−ステレオから流れる森尻の声。
森尻の声「二本柳は現在、N市内を逃走中です。付近の皆様はお気をつけください!」
カ−ステレオをOFFにする運転席の佐々木。
佐々木「すっかり犯罪者ですね」
助手席の幹子、カメラを持ってドアから降り立つ。
幹子「佐々木、あとは全部任せろ」
佐々木「え? ボクもいきますよ」
幹子「いい。危険な橋を渡るのは私だけで十分....」
幹子、フェンスをよじ登る。
佐々木「そんな....」
ハキラハラしながら運転席から見守る佐々木。
◯国立公園・山中(夜)
宵やみの原生林。その中を道なき道を歩く幹子。
『何やってんだろう。私....』
× × ×
岩場の斜面で立ち止まっている幹子。
懐中電灯の灯の中、荒い吐息で地図とコンパスを見比べる。
『別にここまでやらなくてもいいじゃない。犯罪者の汚名までかぶせられて』
そのとき、落下してくる石。
幹子「........!」
手中からこぼれる懐中電灯。
懐中電灯は落下し、数メ−トル下に。
慌てて手探りする幹子、同時に脚をすべらす。
『どんどん深みにはまっていく.....』
× × ×
転倒しながらも懐中電灯を掴む幹子。
ライトに灯し出す膝、褐色の血が....。
『もうここで降参しても....』
× × ×
再び暗黒の原生林を歩く幹子。膝はハンカチで止血されている。
『どうしてここまで追い求めるの? 何のために....』
× × ×
身の丈以上に茂る草。かきわけて進む幹子。わけてもわけても行く手は草ばかり。
『名誉挽回? カネ? 正義感? いや違う。何かが私を駆り立ている』
× × ×
草の向こうから刺しこむ一点の光明。
幹子、顔をしかめて草をかきわける。
同時に急に開ける眺望.....。
『そうか。それは....』
× × ×
丘の上に立つ幹子。
広がる大自然の原生林、山の鞍部から朝日が顔を出している。
その広大な自然を呆然と見る幹子。
『....真実!』
幹子、ふと眼前を見る。
流れる小川。
幹子「........!」
川一面に広がるイワナの死体。
幹子「これは......」
カメラを構えて収録する幹子。
フェンダ−に川の上流に見上げる。
山の上で建設されている巨大スタジアム。側壁に何か書かれている。
幹子「......?」
ズ−ムアップする幹子。
壁面に書かれた文字、「ワールドカップスタジアム」
幹子「まさか..........」
警官「手を上げろ!」
振り返る幹子。
警官と刑事が銃を構えている。
刑事「公文書盗難の容疑で逮捕する!」
睨む幹子。
同時に轟音。草むらの間から現れる幹子のトラック。
運転席から顔を出す佐々木。
佐々木「乗って下さい!」
助手席に滑り込む幹子。
警官「逃亡した!」
発砲する警官と刑事。
トラック、草むらの間に隠れる。
◯木立の間を疾駆するトラック。
背後には刑事の乗ったジ−プ。
佐々木「クソッ! 連中追ってくる!」
助手席の幹子、カメラを持つ。
幹子「上流のワールドカップ施設を建設したために、国立公園の自然が破壊されて
いたんだ..........」
幹子、窓を開け、身を乗り出す。
佐々木「なにをするんですか!」
幹子、追ってくるジ−プをカメラで撮りながら叫ぶ。
幹子「......殿生教授はイワナの生態研究から、それを悟ったんだ!」
佐々木「ムチャする人だな!」
叫びながらジ−プを撮り続ける幹子。
幹子「殿生教授は、この事実を調査という形で立証し、それを国民にしらせるため、
マスコミを呼んだ」
f佐々木「(独り言)それがJBC社会部の平野だったわけか」
幹子「平野は環境破壊の事実を知らせれ、その取材計画を報道局長の角谷に提出し
た.....」
眼前を塞ぐ巨木。
慌ててハンドルをきる佐々木。
佐々木「でも! それが! 角谷を通して首相に伝わった!」
巨木をやり過ごす佐々木。
佐々木「そうですね?」
幹子、撮影しおえて着席する。
幹子「オリンピックに政治生命をかけていた首相はその資料をみて慌てた....
そして首相は角谷に、教授と逢いたいといったんだろうな....」
佐々木「............!」
フロントガラスの向こうに見えるゲ−ト。
バリゲ−ドを組むパトカ−。警官達が銃を構えている。
佐々木「命が惜しかったらしっかり捕まっててください!」
佐々木、アクセルを思いきり踏む。
カメラを抱えて身を屈める幹子。
幹子「そして角谷は首相と教授との対談を企画し、平野に実行させ.....」
加速するトラック。眼前の警官たちの慌てて避け出す姿。
佐々木「いきますよ!」
僅かな間隙を縫って疾駆するトラック。次々とパトカ−をなぎ倒していく。
幹子「対談の場で殺したんだ!」
突破したトラック、公道へと向かっていく。
◯首相官邸
書類を床に落とす首相。
首相「あれが撮られた?」
オドオドと報告する秘書官。
秘書官「はい。地元警官達が確認しました」
首相「それでヤツらは?」
秘書官「見失いました! おそらく東京方面に向かっていると思われます」
首相「バカが! 主要幹線の監視を強化しろ! とくに高速道路、空港を重点的に
だ!」
◯山中を疾走する貨物列車
列車の車上に乗せられている宅配トラック。
その中にまぎれている幹子のトラック。
重なる佐々木の声。
佐々木の声「高速貨物とはうまい方法をみつけましたね」
◯同・車内
運転席でくつろぐ佐々木。
佐々木「でも、その対談を平野がカメラで撮ってたんでしょ? そんな状況の中で
人を殺せますかね?」
助手席でコ−ヒ−を飲む幹子。
幹子「収録したVTRを探し出せばいい......」
幹子、ふと腕時計を見る。
◯山麓俯瞰
山を下る貨物列車。
その先に広がる関東平野。遥か彼方に臨む東京の高層ビル群。
幹子の声「時間がない。東京についたらさっそく探索開始だ.......」
◯ケ−ブルメディア外景(朝)
中から響く局員の声。
声 「矢沢さん!」
◯同・社長ル−ム
飛び込んでくるスタッフ。
局員「N市にいってた二本柳さんがスク−プを掴んだそうです!」
矢沢とスタッフ。
スタッフ「今日のトワイライトニュ−スのトップ、決まりですね!」
矢沢「で? 二本柳は?」
社員「東京で調査中です。最後のツメがまだできてないようで」
スタッフ「どうします?」
矢沢「新聞社に連絡しろ。大々的にな」
◯駅
キヨスク店頭に並ぶ夕刊紙。
次々と買い求めていくサラリ−マンたち。
巨大なゴシック。その文字、「ケ−ブルメディア衝撃の事実発見」
「首相とJBCとの癒着について」「すべては五時のニュ−スで」。
◯首相官邸・玄関
入ってくる首相。
群がる記者たち。
記者A「JBCと癒着していたのは本当ですか?」
記者B「衝撃の事実とは、いったい何ですか?」
記者C「答えて下さい!」
首相、無言のまま屋内へと消えていく。
◯JBC・編成局
テレビに映る芸能レポ−タ−。
レポ−タ−「以上のように、首相は何も語りません。すべては午後5時、
ケ−ブルメディアで報じられるようです」
テレビを見入る角谷。
角谷「クソッ! 芸能部め。私に対する報復か!」
駆け込んでくる局員たち。
局員A「テレビ朝陽がケ−ブルとニュ−ス提携を契約しました!」
局員B「読売放送、フジ放送も続いています.....!」
局員C「局長......df」
角谷「心配いらん! すべて誤報に終わる!」
角谷、窓に顔を向ける。
角谷「それより平野の部屋を家捜ししろ!」
◯東京・都内住宅地
アパ−トの前の公衆電話から電話する佐々木。
佐々木「ダメです。平野の自宅、警察に資料押収されています」
◯幹子のトラック車内
後部カ−ゴ、テレビモニタ−の前で受話器を握る幹子。
佐々木の声「ビル放火の資料を探すために.....82」
幹子「教授と同じパタ−ンか」
幹子、手元の紙にペンを走らせる。その文字、「自宅−×」。
幹子「ホテルにもない、自宅にもないとなると....あとは.....」
佐々木の声「職場ですか?」
幹子「JBCか?」
× × ×
JBC、報道局内。
吊り下がる看板、その文字、「社会部」
その下のデスクをひっくり返して探す局員たち。
背後で局員たちを見守る角谷。
幹子の声「あるはずないだろう。あったとしても角谷がすべて家捜ししているよ!」
佐々木の声「とにかく探すしかありませんね!」
× × ×
幹子のトラック車内。
電話をきる幹子、時計を見る。
時刻は午後四時三二分....。
幹子「六時の放送まであと1時間半.....」
幹子、ペンをテレビモニタ−に投げつけ、当たる。
モニタ−に映る平野の再生画像。
幹子「クソッ! どこに隠したんだよ?」
◯ケ−ブルメディア・オフィス
電話をしているスタッフ。その横にけしかけている局員とロン毛の営業社員。
局員「スク−プ映像が届かない?」
営業社員「放送開始まで1時間だぞ。大丈夫なのか?」
スタッフ「いま、二本柳に電話している」
営業社員「間に合わないなんてこと、許さねえぜ!」
スタッフ「わかっている!」
◯幹子のトラック車内
鳴り響く携帯電話。
その前でジッと考えている幹子。
横でそわそわしている佐々木、時計を見る。
時刻は午後五時三十分.....。
佐々木「せめてN市の環境破壊だけでも流した方が......」
幹子「ダメだ。首相の教授殺害までスク−プしなきゃ、またヤツらに誤報だと
騒がれるのがオチだ.....」
佐々木「でも、時間が......」
幹子「くそ! もうダメか!」
イスに腰を降ろす幹子。
ピ−ッと鳴るパソコン。画面にでる布施。
布施「平野の関係資料、探っていたら面白いこと、発見したぞ」
◯布施のオフィス
資料に埋もれている布施。
モニタ−画面に映る幹子の顔。
幹子「面白い事?」
布施、プリンタ−から排出される用紙をみる。
布施「クレジットカ−ドだよ、平野の。ヤツの持っていたクレジットカ−ド会社の
デ−タ−ベ−スに侵入して引き出してみたんだ。そしたらビックリ仰天.....」
画面の幹子「なに?」
布施「事件直後、N市のデパ−トで買い物をしている」
途端、モニタ−画面一杯に迫る幹子の顔。
幹子「事件直後? なにを?」
ニヤリと笑う布施。
布施「お中元だって」
◯N市・デパ−ト店内
お中元コ−ナ−で幹子からの電話を受けている店員。
店員「確かにお買い上げになっています」
幹子の声「何を買ったんですか?」
店員、手元のファイルをめくる。
店員「壷です」
◯幹子のトラック車内
電話をしている幹子。
店員の声「地元名産の××焼き.....。いま、伝票、FAXします....」
ガックリと崩れる幹子。
幹子「ダメだあ!」
始動するFAX。電送されてくる伝票。
それを受け取り、見る佐々木。
佐々木「ちょっ! 二本柳さん!」
佐々木、幹子をつつく。
気だるそうな幹子。
幹子「なによ‥‥?」
幹子、伝票をのぞき込む。
ビックリする幹子。
◯ケ−ブルビジョン・オフィス
受話器を抑えて報告する社員。
社員「二本柳がスク−プ映像を持ってこっちに向かっています!」
ワッと沸き上がる報道スタッフたち。
報道スタッフ「よし! 『トワイライト』のトップ、切り替えだ!」
報道スタッフたち、持ち場に戻っていく。
電話を受け取る矢沢。
矢沢「ご苦労さん。よくやったな」
幹子の声「矢沢さん。放送前に逢いたいのですが」
矢沢「........」
幹子の声「よろしいですか?」
矢沢「ああ。わかった.......」
電話を切る矢沢。その表情は硬い。
◯JBC・編成局内
受話器を置いて叫ぶ局員A。
局員A「二本柳のトラックがケ−ブルテレビに到着したようです!」
角谷「証拠を掴んだってことか........」
角谷、書類を叩き置く。
角谷「最終兵器だ。ケ−ブルの株を放出する......」
同時に電話を受ける局員。
局員「矢沢さんからお電話です」
角谷「矢沢..........!」
ガバッと受話器を取る角谷。
◯ケ−ブルビジョン・社長室
受話器を握る矢沢。
矢沢「おひさしぶりです。角谷さん」
角谷の声「やってくれるじゃないか。え? 矢沢」
矢沢「角谷さん。先輩のよしみで一つ頼みがあります」
角谷の声「頼み? 敵味方わかれたこの状態でか? 矢沢。貴様にそんなこと
教えた覚えは.....」
矢沢、身を正す。
矢沢「ケ−ブルの株を手放して下さい」
角谷の声「なに?」
◯ケ−ブルメディア・オフィス
入ってくる幹子と佐々木。
歓待する社員とスタッフたち。
それを無視して社長ル−ムのドアを開ける幹子と佐々木。
矢沢の声「まもなくトワイライトニュ−スがはじまり、JBCの不祥事は暴か
れることになります」
◯首相専用車内
後部座席で初老の老人と話している首相。
矢沢の声「そうなれば世論はJBCに対して不満が高まり、政府はあわてて
JBCを切り捨てに出るでしょう......」
◯JBC・編成局内
受話器をもったままの角谷。
矢沢の声「そうなれば放送免許は見直され、JBCは間違いなく潰れます.....」
局員、電話中の角谷に差し出す2つのメモ。
その文字、「報道部から−国会内で逓信委員に妙な動き」、
「総務部から−民放連会長と総理が密会中」
蒼白する角谷。
矢沢の声「そのとき、我々ケ−ブルがJBCの株主であると、共倒れする可能性が
強い....おそらく、政治家たちはそれを狙っているでしょう」
角谷「.............」
矢沢の声「その動きは報道機関に対しての締めつけへと転嫁し、ゆくゆくは報道の
自由そのものを揺るがす事態になっていくことでしょう.......」
角谷「.............」
角谷、メモ書きを握りつぶす。
矢沢の声「貴方にまだ、将来の報道を思う気持ちがあるのなら、我々を独立させ
てください....」
角谷「矢沢.......」
矢沢の声「.......はい?」
角谷「何でこうなっちまったんだろうな......」
矢沢「...........」
電話をきり、メモをゴミ箱に捨てる角谷。
角谷、決意の表情
◯ケ−ブルメディア・社長ルーム
受話器をおく矢沢。
それを傍で見ている幹子と佐々木。
幹子「矢沢さん......」
伝票を見せる幹子。伝票の宛名には矢沢の名が......。
幹子「どうして......」
矢沢、壷の中から差し出すVTR。
矢沢「......証拠だ。佐々木! すぐに編集しろ!」
佐々木、VTRをもって報道スタジオへ。
幹子「どういうことか、説明してくれませんか?」
持っていたビデオカメラを構える幹子。
◯テレビ画面
「トワイライトニュ−ス」を伝えるニュ−スキャスタ−。
キャスタ−「...疑惑を独自調査した結果、JBCと関わりがある事がわかりました。
これがその映像です」
テレビが目何は教授と首相が対面して座っている。
キャスター「首相は討論をしているうちに、しだいに討論に熱があがっていき‥‥」
ノ−ト型パソコンをたたきつける首相。
倒れる教授。
キャスター「はずみで殺してしまったのです」
◯社長ルーム
壷を撫でる矢沢とカメラを構える幹子。
矢沢「俺と平野は同期だった。俺は外信部、ヤツは社会部。JBC報道局の中では
しのぎを削っていた。角谷の権勢のもとでな.....」
幹子「事件直後にVTRが送られてきた.....?」
矢沢、壷を裏側にひっくり返す。
壷に書かれた文字、「すべて任せた。後はたのむ 平野」。
矢沢「ああ、宅急便で。政治と角谷が絡んでいるんだ。ヤツだって社会部の
敏腕記者だ。いずれは殺され、証拠隠滅されることはわかっていた。ヤツに
してみりゃ、最後の頼みの綱として俺に送ってきたんだろう」
幹子「どうしてご自分で報道なさらなかったんです?」
矢沢「さっきの電話、聞いてただろう。この事件が公表されることで全てが
突き崩れるのを恐れていた......というより勇気がなかった」
幹子「そのために平野さんは、貴方を頼りに送ってきたんでしょう。角谷と首相の
政治の駆け引きで殺されたんですよ」
矢沢「だから!」
矢沢、壷を机にたたきつける。バリンと割れる壷。
矢沢「だから許せなかったんだ! 角谷も! 政治もすべてが! そのために、
このケーブルにやってきたんだ! けどな! 俺たちは報道記者だ! 真実を
中立的な立場で伝えなければならないんだよ! 私怨で報道の自由を突き崩し
ちゃいけないんだよ!」
幹子のカメラに顔を迫らせて怒鳴る矢沢。
カメラのレンズに反射する自分の表情......。
矢沢「クソッ! こうやって言い訳する自分がいちばんにくったらしい! 結局、
俺には.....俺には勇気が亡かったんだよ! そのために! ヤツを見殺しに!」
矢沢、涙目でレンズに映る自分の醜態を見つめる。
カメラを降ろし、スイッチをOFFにする幹子。
矢沢「報道記者だろ! 最後まで撮れ!」
幹子「撮れません。これ以上撮るとレンズが腐ります」
カメラをもって出ていく幹子。
一人との残される矢沢、床に崩れ、号泣する。
◯JBC・社長室
「辞表」と書かれた封筒が差し出される。
さしだしたのは角谷である。
オ−バ−ラップする「トワイライトニュ−ス」のキャスタ−の声。
キャスタ−「これによって、内閣とJBCが組んで政策を押し進めていたという、
前代未聞の出来事があった事になります.....」
真向かう社長に語る角谷。
角谷「今度の事件は私の一存でやった、そう一時間後のニュ−スでコメントを流す
ことになっています」
社長、葉巻を吸っている。
社長「......」
角谷「これと引き替えに、ケーブルテレビの株を放出してください」
社長「......」
角谷「お願いいたします!」
辞表を破る社長。
角谷「......!」
社長「すぐ報道スタジオに向かえ」
角谷「え?」
社長「政治家どもを切り捨てる.....」
◯ケ−ブルテレビ・スタジオ
スタジオ内ではトライライトニュ−スがエンディングを迎えている。
キャスタ−「では、トワイライトニュ−ス、このへんでお別れです.....」
カメラに頭を下げるニュ−スキャスタ−。
カメラ横にいるAD。
AD「はい! OKです!」
同時にパンと発砲音......。
クラッカ−を鳴らして駆け寄る布施と佐々木。
スタッフたちはシャンパンをあけてすでに祝杯態勢。
キャスタ−の周りに集まってくる。
布施「やったな! え!」
佐々木「JBCを討ち取ったぜ!」
スタッフ「もう、最高!」
幹子、そんな喧噪から外れて隣のサブへと歩いていく。
◯同・サブ(副調整室)
入ってくる幹子。
ワイワイ騒ぎのスタジオの様子が窓越しに見える。
それを一人、サングラスをかけながらジッと見つめている矢沢。
矢沢「俺の懺悔VTRは放送しなかったのか?」
幹子「できますか。あんな無様な姿。悪人らしくありません」
矢沢「そうか......」
幹子「それに、まだ教えて貰うこともたくさんあるし....とりあえず貸し1って
ことでどうです?」
サングラスを深くかける矢沢。
幹子「ま、これで平野さんも浮かばれるといいですね」
窓の向こうのスタジオ。カメラ横のテレビモニターを見ながら声を上げる佐々木。
佐々木「オッ! JBCニュースがはじまりましたよ!」
スタッフ「ヤツらどんなツラ下げて放送するつもりだ?」
モニタ−の周りに集まる。
画面に映るJBCニュ−スアナ。
アナ「今度の事件にあたり、事件の黒幕とされる編成局長を招きました」
ハッとする一同。
角谷「首相の方から強引に押し進めていました.....」
◯首相官邸・外景
オ−バ−ラップする角谷の声。
角谷「日本の政治家の力は弱くなったといいますが、現実はかなり賢く、権力を
乱用しています......」
◯同・首相執務室
テレビに映る角谷。
角谷「今度の事件は、首相が数々の政治力を行使し、私を操作していました」
眼前のテレビにドン!と机を叩く首相。
首相「あいつ! すべて私の責任にしようというのか!」
首相、憎悪の表情。
テレビに映るアナ。
◯JBC・報道スタジオ
カメラに喋るアナウンサ−。
アナ「なお、JBCは角谷編成局長を職務権限のない取締役に降格し、役員すべて
を減俸処分とする事としました」
FF 席を立つ角谷。
◯同・副調整室
入ってくる角谷。
プロデュ−サ−デスクに座っている社長。
角谷、一礼してその横を通り過ぎていく。
同時に角谷の脳裏で響く社長の言葉。
社長「ケーブルの株は手放すつもりはない.....」
◯同・廊下
歩く角谷。蘇る社長の言葉。
社長「......これから我々はケ−ブルで騒動を起こしているバカどもと闘っていか
なければならない。 株はその戦乱の中での最終兵器だ」
角谷、脚を止める。
社長「今回の貴様の処遇もそう捕らえて貰う。貴様にはまだ利用価値がある。
禊ぎをすませたら、再び闘って貰うぞ.....」
窓から見える東京タワ−。
角谷「俺たち、えれえ場所にいるんだな。え? 矢沢.....」
東京タワ−をいつまでも見つめる角谷。
◯幹子のバン・車内
助手席で新聞を読む佐々木。
新聞一面を飾る大きなゴシップ。「諸悪の××首相辞任◯総選挙へ!」、
「JBCは政治操作されていた!」云々......。
運転する幹子、ため息をつく。
幹子「こうやって悪人ってのは生き残っていのか.....」
佐々木「そうボヤかないでくださいよ.....今度の事件、連中の戦略勝ちです....」
幹子「フンッ!」
コンピュ−タ−を操作している布施。
布施「幹子! 柴又陸橋で衝突事故だって!」
幹子「おっし! いくぜ! しっかり捕まってろよ!」
ギアチェンジする幹子。
◯高速道路
街中へと疾駆していく幹子のバン。
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