カメラの前でザンゲしろ
キャラクター
−頻度順−
幹子
【本名】二本柳幹子
【役職】ビデオジャーナリスト
【特徴】マスコミ志望であったが、その性格の危険性から嫌煙され下請けのテレビカメラマンに。とある日、首相の不審な行動を探るうちにスクープを発見。それを押さえようとするJBC報道局と熾烈な闘争を繰り広げ、ビデオジャーナリストとして自立する。 その後、佐々木とともにアメリカ西海岸に渡り、熾烈なスクープ合戦の毎日を繰り返している。

佐々木
【本名】佐々木和利
【役職】ビデオジャーナリスト
【特徴】幹子の忠実な部下として、JBC報道局と壮絶な戦いを体験した。本格的なジャーナリストになろうとする幹子が渡米を決意すると、佐々木も一緒についていった。

矢沢
【本名】矢沢顕一
【役職】JBC−NET社長
    JBC番組審議委員長
【特徴】かつてJBC外報部記者として辣腕をふるい、報道局長に就任。だが政治との癒着構造を目の当たりにし、子会社のケーブルテレビの社長に就任。二本柳をVJとして起用し、JBCの報道陣と壮絶な攻防を展開した。幹子のが渡米後、幹子の友人・佐和子と出逢い、光ファイバーを利用したインターネットプロバイダーを起業、JBC系列の中で唯一の黒字産業となる。

佐和子
【本名】布施佐和子
【役職】JBC−NET副社長
【特徴】二本柳の渡米後、CATVの番組ディレクターとして10本の番組を仕切る。だが、おりからの不況でCATVは倒産。通信施設を使いブロードバンドに対応したインターネットプロバイダを起業し、なかなかの成績を上げている。

レベッカ
【本名】レベッカ・レイボーン
【役職】JBC新社長
【特徴】ビバリーヒルズで出生。ハリウッドの老舗映画会社「EOX」の会長であるスティーブ・レイボーンを父にもつ。生後4ヶ月で銀幕デビュー。子役とマンツーマンの英才教育をこなしながらハリウッドビジネスを経験し、7歳でEOX経営会議に出席。11歳で映画ネット配信会社「EOX−WEBエンターテイメント」を開設、年間4億ドルの売り上げを誇る成功を収める。EOXの合併にともないJBCの新社長として赴任。官僚化しているJBC、日本の放送業界の改善のため、番組批評と称したリストラ裁判を断行する

鯨井
【本名】鯨井健史郎
【役職】JBC取締役専務
    報道局長兼本部報道センター長
【特徴】学生時代に安保闘争を体験した根っからの反権力思考。亡くした友人たちへの思いを受け継ぎ、政治部記者に。国民不在の公権力を敵視し、「世論」と称して自分の意見を主張、時には気に入らない権力者たちを骨抜きにし、事実上の第4の権力=マスコミという図式を造りだした人物。自分の意見=報道の自由と信じて疑わない。それが視聴者への意見の強要になっていることにまったく気づかない。

都木
【本名】都木昌也
【役職】JBC編成局制作室第一部プロデューサー
【特徴】JBCの看板バラエティ番組「ウェーブボーイ」のチーフプロデューサー。既存のバラエティ番組を超えた番組をつくりたい、と旧社長に直訴して異例の社長枠番組「ウェープボーイ」をつくる。カネがないなら頭を使え! の信念のもと、意表をついた展開を編み出し、バラエティに革新を与える。しかし、若手タレントに暴力的な指命を与え、達成されるまで罰を与える、という方向性が出来上がってしまうと、PTA関連からは俗悪の象徴と扱われ、視聴者からは飽きられつつある。

並木
【本名】並木光雄
【役職】JBC編成局制作室第2部プロデューサー
【特徴】深夜の芸能暴露トーク番組「太古の看護婦」番組担当プロデューサー。そもそもワイドショーの制作を長年やってきたため、芸能界に精通している。芸能界の裏世界を暴露する、といいつつ、実はすべて外注のライター達によって創らせたウソネタばかり。しかも、その外注ライター達は某大物タレントが設立したプロダクションに所属する企画ブレーン。つまり、ブレーンを使うことで、将来は某大物タレントとともに大型番組をつくろうという思惑がある。

小島
【本名】小島圭太
【役職】スポーツニュース「野球速達便」エグゼクティブプロデューサー
【特徴】プロ野球担当記者出身。野球中継に関しては、プロ野球のナンバー1チームを抱えるライバル局に水をあけられていた。そんな苦渋をスポーツ記者時代からイヤというほど体感してきた彼は、深夜帰ってくるサラリーマンを対象に、プロ野球の結果速報を伝えるニュース番組を立ち上げ、ヒットする。さらにライバル局がその時間に対抗番組を充てると、女子アナと野球選手の仲を取り持ち、野球界との関係性を深めさせる。

星川
【本名】星川敏郎
【役職】JBS編成局制作室第2部プロデューサー
【特徴】JBCのクイズ番組「クイズ・ハンドレッダー」の番組担当プロデューサー。この番組は外国で放送されている一般視聴者対戦型のクイズ番組の日本版で、現状のクイズ番組を打破するため、JBSが総力を奮って著作使用権を得た経緯がある。だが、始まってみると思ったほど奮わないため、芸能人を起用。さらにヤラセ、芝居も多様し、結局、いつものクイズ番組と同化してしまった。

はづき
【本名】深川はづき
【役職】JBC編成局制作室第2部AP
【特徴】JBCのクイズ番組「クイズ・ハンドレッダー」のアシスタント・プロデューサー。

ウィルソン
【本名】マイケル・ウィルソン
【役職】アメリカ海兵隊空軍三佐
【特徴】ラスベガスでギャンブルに狂い、162万ドルもの借金をつくり、返済に息詰まって演習中にカジノ店を吹っ飛ばしてしまった。これだけの惨事を起こしても「街がふっとんだぐらいで...」と堪えていないのだから、海兵隊が海軍の精神病院に押し込もうとしたワケがわかる...。

専門用語
−順不同−
ビデオジャーナリスト
 ビデオカメラ一つで取材、編集、レポートまでこなす新しいタイプのジャーナリスト。従来のテレビ取材はENGカメラ、照明、ガンマイクなど、様々な機器があり、操作するスタッフが必要だったが、ハンディカムやDCRなど、高画質簡易ビデオカメラの普及で、一人でも簡単に取材できる環境がそろった。場所を選ばない機動性、マンツーマン取材による信頼性という、次世代のジャーナリズムとして注目されている。

VNI
ビデオニュース・インターナショナル社。フィラデルフィアに本部がある国際ニュース配信会社。フリーのジャーナリストたちと契約し、世界に配信している。 VNIのように、フリーのジャーナリストを採用しているテレビ局は、ニューヨーク・ワン(ニューヨーク)、オレンジカウンティーニュース(ロサンジェルス)、チャンネル・ワン(イギリス)、TVベルゲ(ノルウェー)、TVズーリ(スイス)などが有名。

島田奈央子
 取材記者と称しているが、正体は幹子。幹子はアメリカでハリウッド仕込みの特殊メイク術を拾得、潜入取材に活用している。ちなみに島田奈央子とは現在、矢沢顕一の妻で、幹子はそのメイクテクニックで20年前の矢沢夫人に化けたというから恐ろしい。

番組審議会
 放送局の中にある番組検証の組織。一般視聴者から委員を選任し、定期的に会合を開いて放送している番組の意見を聞き、それを反映させる。でも、委員の多くがテレビを見ない学識経験者で占められ、ガス抜きだと指摘する声も多いという

BRO
「放送と人権等権利に関する委員会機構」。民放連(日本民間放送連合)が主催している放送苦情処理機関で、放送で人権が傷つけられた場合、ここに申し出ればテレビ局側と交渉することができる。最近、番組審議会がテレビ局側によって骨抜きされてしまい、多くの人々がここに駆け込む。

フロアディレクター
 スタジオ監督。放送番組を収録する場合、スタジオでカメラなどを撮影するスタッフと、カメラから送られてる映像を副調整室で編集するスタッフがある。フロアディレクターはスタジオ側の総責任者

Qシート
 放送進行表。時間、セリフ、その他あらゆる予定が組まれており、それをもとに番組を進行させる。いわばニュース番組の台本

ランスルー
放送用語。オープニングからエンディングまで通しでリハーサルすること

スーパーインポーズ
 いわゆる字幕スーパーのこと

プログラムディレクター(PD)
 番組制作の現場総責任者。副調整室でスタジオの運行をすべて指揮する。

スイッチャー
 正式にはテクニカルディレクター(TD)。副調整室で各カメラから送られている映像を切り替える

パパラッチ
 スクープ専門のフリージャーナリスト。最近ではダイアナ妃が彼らに追われて死亡したことで有名。

マスター
 主調整室。放送回線をすべて管理する部屋。

コメント
脚本:なるせりょう
 『VJ−ビデオジャーナリスト−』をWeb上で発表したのは1999年の1月。以来、かなり好意的な感想をいただくことが多く、シリーズ化を期待する声もありました。
 比較的キャラクターとストーリーが完成されていることもあり、これまで何度か続編プランを打ち立ててきましたが、その度にぶちあたる大きな問題があり、想像以上に困難な計画だと痛感させられてきました。
 というのは、現実的に日本のテレビメディア巡る最近の実状をみたとき、幹子=ジャーナリストの勧善懲悪賛歌、という基本構造が、一般視聴者の私たちからして、とても感情移入できない。むしろ幹子を悪役にしたほうがリアリティがある、という皮肉な現状に気づき、その命題を満たすプランはなかなか思い浮かびませんでした。
 そんなとき。まったく別の企画の席で、週末の早朝にやっている民放の番組批評をゴールデンタイムにやったらどうなるのか、という発想が浮かび、箱書きを繰り返しているうちに、「あれ? これってもしかして...」と『VJ』のキャラを充ててみたらピタリとハマッてしまった...これがこの『カメラの前でザンゲしろ』の誕生経緯です。
 最後に、作品執筆にあたり、多大なご協力をくださった某放送関係の方に深く感謝します。(2001.5.10)
参考文献
−敬称略−

「アメリカのジャーナリズム」
【著者】藤田博司
【発行】岩波新書

「権力報道」
【監修/発行】朝日新聞社会部

「知られざる王国NHK」
【著作】大下英治
【発行】講談社

「ザ・リーク/新聞報道のウラオモテ」
【著者】西山武典
【発行】講談社

「人権の敵/マスコミ」
【著作】小林宏誌
【発行】MBC21

「新聞・放送記者になるには」
【著作】河内孝・岡本隆治
【発行】ぺりかん社

「テレビ−やらせと情報操作」
【著作】渡辺武達
【発行】三省堂選書

「テレビ業界の舞台裏」
【著作】小田切誠
【発行】三一新書

「テレビ局の人びと」
【著作】笠原唯央
【発行】日本実業出版社

「テレビ報道」
【著作】堀 宏
【発行】サイマル出版会

「ビデオジャーナリストの挑戦」
【著作】神保哲生
【発行】(株)ほんの木

「放送」
【監修】川竹和夫
【発行】二期出版

「ホワイトハウスとメディア」
【著者】佐々木伸
【発行】中公新書

「マスメディアのしくみ」
【監修】PHP研究所情報開発室
【発行】PHP出版

「ワイドショー物語」
【著作】柏木純一
【発行】毎日新聞社


■テレビ画面
   さわやかなオープニングとともにスタートする朝のニュース。
   ニュースキャスターが笑顔で頭を下げる。
キャスター「おはようございます。では、本日最初のニュースです。■×銀行
 がまた新たな不良債権を隠し持っていることがわかりました」

■銀行の記者会見場
   怒りの表情をあらわに、頭取が記者たちに説明している。
頭取「新たな債権ではありません。担当記者が数字を読み違えただけです」

■テレビ画面
   キャスターがニュースを伝えている。
キャスター「歌手の××さんが薬物中毒で病院に運ばれました。年末の歌番組
 の出演が心配です...」

■とある音楽事務所
   芸能記者たちに囲まれながら説明する事務員。
事務員「クサッた漢方薬品を食べて、食中毒をおこしただけです!」

■テレビ画面
    ニュースを伝えるキャスター。
キャスター「昨日お伝えしたニュースの中で、一部不適切な報道がありました」

■JBC・番組審議会会議室
  テレビにはニュースキャスターが頭を下げて誤っている。
  それを見ている番組審議委員(ABC)たち。
  委員Aがストップウォッチで時間を計っている。
委員A「21秒...」
  委員Aは対面するJBC報道局長の鯨井健史郎を見る。
委員A「あれだけの騒ぎをおこして、たったこれだけですか?」
鯨井「いやー、申し訳ない。ニュースが立て込んでましてねえ。次からはキャス
 ターを土下座させましょうか」
委員A「正直、それぐらいやってほしいところですよ。いいですか、今朝の報道
 で被害にあった連中はBROに提訴も止まないと...」
鯨井「それはご迷惑をおかけしました。あとでBROの役員の方には謝ってお
 きます。あそこには知人が多いので」
委員B「鯨井報道局長...」
  委員Bは鯨井を直視する。
委員B「いいですか、テレビは視聴者の信頼で成り立っています。あなたも少
 しは社会的責任というものを...」
鯨井「社会的責任?」
   ピクリとする鯨井、立ち上がり、委員Bに迫る。
鯨井「唐突で大変申し訳ありませんが、貴様のご職業は?」
委員B「私? T大法学部の教授ですが?」
鯨井「法学部? そうですか。私、無学なものでわからないのですが、憲法
 第25条には何が書かれておりましたか」
委員B「25条?」
鯨井「御存知ありませんか?」
委員B「いや...。日本国憲法25条。言論、出版の自由は何人も犯してはな
 らない...」
鯨井「いやー、勉強になりました...」
委員B「....」
   鯨井の携帯電話がワンコール鳴り響く。
鯨井「急なニュースが入ったようなので、失礼します」
  鯨井が出ていく。
  同時にため息をつく審査委員たち。
委員A「結局、最後はあれだ...」
委員B「残念ですな。最後通牒だったのに」
委員C「仕方ありませんね...」
  委員たちのそれぞれの手から、辞表が出される。

■同・廊下
   鯨井が歩いている。
鯨井「(独り言)まったく。くだらん時間とらせやがって...」
   鯨井は報道局オフィスへと入っていく。

■同・報道局オフィス
   慌ただし気に報道局員たちが走り回っている。
   そこへやってくる鯨井がやってくる。
鯨井「ナイスタイミング。助かったよ、電話!」
   向き帰る報道局次長。
報道局次長「本当のニュースです...」
鯨井「あ、そう。何? 殺人? 事故?」
   報道局員はテレックスを鯨井に渡す。
   テレックスの文字に鯨井の顔がひきつる。
鯨井「バカな...」

■テレビ画面
   アナウンサーがニュースを伝えている。
アナウンサー「JBCは本日、ハリウッドの映画会社EOXとの提携に合意しました」
     *  *  *
   ビルに囲まれる広大な新社屋建設予定地の映像(VTR)。
アナウンサー「JBCは90年、新社屋建設のため、都内の国有地を買いとりました
 が...」
   工事車両の巨大なシャベルが土を掘り返す。
   土の中から無数のガラクタが出てくる。
アナウンサー「その予定地から無数の産業廃棄物が見つかり、その処分方法を
 巡って業者とどろ沼の法廷闘争を繰り返し...」
     *  *  *
   下落する株価の数値を呆然と見ている証券マンたち(VTR映像)。
アナウンサー「その間にバブル経済が破綻、予定地の地価は買収当初に比べ
 て20分の一に下落。莫大な不良債権と化していました」
     *  *  *
   草茫々のゴルフ場。錆びた看板にはわずかに「JBC」のロゴが(VTR映像)。
アナウンサー「また、社長一族による独占、乱脈経営から、系列のゴルフ場、
 スポーツチームが経営不振に陥っており...」
     *  *  *
   銀行関係者を中心に、JBC社長とEOX会長が握手している(VTR映像)。
アナウンサー「ついに取引銀行が返済不能と判断、社長を交えて密かに提携
 先を模索した結果、EOXのスティーブ・レイボーン会長が提携に名乗り出ました」
     *  *  *
   ふたたび、ニュースを伝えるアナウンサー。
アナウンサー「これによりJBCの社長と副社長は辞任し、EOX側から送られてく
 る新社長のもとで会社再建に向かいます...」

■ロサンジェルス郊外
   郊外に広がる巨大なエルトロ海兵隊空軍基地。
  T「アメリカ・ロサンジェルス」。

■同・基地ゲート前
   カメラマン、報道記者たちがゲートの前に集まっている。 
   それを背景にテレビカメラに立ちレポをしているCNNのレポーター。
レポーター「先日、ネバダ州の空軍管制空域で戦闘訓練中、誤ってミサイルを発
 射し、3キロ離れたラスベガスのカジノ店を焼き尽くした海兵隊のパイロット・ウィ
 ルソン
三佐が、いま海軍病院に入院しようとしています」
   ゲートから開き、一台の車両が出てくる。
   カメラマンたちが車両後部に群がる。
   が、肝心のリアシートはスモークガラスで覆われている。
   車はそのまま街路へと去る。
   報道記者たちを代表するように、一人のカメラマンが去りゆく車に叫ぶ。
カメラマン「クソッ! スモークガラスなんてつけやがって!」

■ウィルソンの車内
   ウィルソン三佐がリアシートでふんぞりかえってタバコを吸う。
ウィルソン「やかましいなあ。街が一つふっとんだぐらいで...」

■交差点
   赤信号で停止するウィルソンの車。
   後ろからやってくる一台のバイク。
   バイクはウィルソンの真横に止まり、のは二本柳幹子
   幹子は片手にビデオカメラを持って降り立ち、ウィルソンが乗る車のスモーク
   ガラスに語りかける。
幹子「私は二本柳幹子、ビデオジャーナリストだ」

■ウィルソンの車内
   幹子をスモークガラス越しにジッとしているウィルソン。
ウィルソン「.....」
幹子「窓を開けてくれ。アンタに聞きたいことがある」
ウィルソン「(運転手に)まだか?」
運転手「はい」
   窓の向こうの幹子は、バイクから降り立ち、窓にベタリと一枚の紙を押しつける。
   それは162万ドルの請求書。
ウィルソン「.....!」
幹子「アンタが爆破したカジノ店の請求書のコピーだ。アンタはあの店に162万ドル
 の借金があったようだな!」
ウィルソン「....」
   幹子、スモークガラスにビデオカメラを押しつけ、迫る。
幹子「納得のいく説明を聞かせてよ!」
   窓があがり、ウィルソンが顔をみせる。
   幹子は片手にビデオカメラを構え、REC(録画)ボタンをおそうとする。
   ウィルソンは紙をつかみ取り、窓をしめる。
ウィルソン「どっからこんなモンを!」
   ウィルソンは請求書に火をつけ、灰皿に落とす。

■交差点
   ウィルソンの車が出発する。
幹子「こら! てめぇ!」
   幹子はビデオカメラをポケットに入れ、バイクに乗る。

■フリーウェイ
   次々と縫うように駆け抜けていくウィルソンの車。
   その後を追って、幹子のバイクがハングオンしながらかっとんでいく。

■ノルコ海軍病院ゲート付近
   ウィルソンの車がゲートを通過し、病院玄関で停止する。
   幹子のバイクがその後を追ってくる。
幹子「もらった!」
   幹子は片手にビデオカメラを構え、REC(録画)ボタンをおそうとする。
   ....が! そのとき幹子のバイクを遮るように遮断機が閉じる。
幹子「....!」
   幹子、姿勢を崩し、アンダーステア。
   バイクはスピンしながら路上を滑走。
   幹子、紙袋を振り払い、眼前に迫りくる防音壁。
幹子「クッ!」
   幹子、右脚で思い切り地面を蹴り上げる。
   同時にバイクの姿勢が立ち戻り、タイヤの滑りが止まる。
   バイクは、ぎりぎり側壁を交わし、停止する。
   幹子、慌ててバイクを停止。
幹子「何をするんだ!」
兵士「ここから先は軍事施設区域だ」
幹子「プレス(報道)だ」
   幹子はVNIの社印の入ったプレスパスを掲示する。
兵士「ダメだ」
幹子「どうして!」
兵士「軍事施設内での撮影はIAPA(米州新聞協会)の報道パス以外は無効だ」
幹子「.....」
   そこに四駆が追いつき、運転席の佐々木が顔を出す。
佐々木「大丈夫ですか!」
幹子「ああ...」
   幹子はゲートを睨みつける。
   まるでそれは幹子の人生に立ちはだかる壁のよう。
   幹子はバイクを立ち上げながら、四駆の佐々木に叫ぶ。
幹子「VNIにメールうっといてくれ。スクープの話はダメになったって」
   佐々木が四駆の窓から携帯端末を掲げる。
佐々木「二本柳さん宛のメールが届いてます」
幹子「誰から?」
佐々木「矢沢さんからです」
幹子「矢沢さん?」
   幹子は佐々木の携帯端末を奪い取り、見る。

■(日本)JBC・正面玄関
   芸能レポーター、カメラマンが大勢集まっている。
   車寄せに到着するリムジンと護衛車両。
   降り立つボディーガードたち、周囲を警戒しながら後部ドアを開ける。
   後部座席から降り立つのは、ぬいぐるみを抱いたレベッカ・レイボーン
   同時に瞬くカメラのフラッシュ。
   テレビカメラに叫ぶ芸能レポーター。
レポーター「出てきました! JBCの新社長に就任したレベッカ・レイボーンさんです」

■同・エントランスホール
   JBCの巨大なマスコットと並んで記念写真を撮っているレベッカ。
   インサートする芸能レポーターの解説。
レポーター「(声)レベッカ新社長は現在16歳。父親は、あのハリウッド映画の老舗・
 EOXグループ会長、スティーブ・レイボーン会長!」

■同・社長室
   菓子、ジュース、果物が山積みされたデスク。
   それを一つ一つ、物珍しそうに食べながら、コンピューターを操作している。
   インサートする芸能レポーターの解説。
レポーター「(声)生後4ヶ月から映画にデビュー。5歳で出演料七千万ドルの名子
 役としてハリウッドにその名を知らしめました。7歳から父親の経営顧問として
 EOXグループの取締役会に出席、10歳で子会社EOX−Webエンターテイメント
 を立ち上げ、インターネットの映画配信を展開、年商4億をほこる優良企業として
 注目をあつめています」

■同・大会議室内
   円卓に座る鯨井ら局長、取締役員たち。
   正面席で座るレベッカ。レベッカの意向を隣の顧問弁護士が説明している。
   インサートする芸能レポーターの解説。
レポーター「(声)学歴こそありませんが、マンツーマンの指導でレベルは大学院
 生並。世界の主要12カ国語をしゃべれるともいいます」

■同・廊下
   「JBC 臨時取締役会会場」と書かれたドア。
   ドアから出てくるレベッカ、弁護士、ボディガード。
   それを背景に立ちレポしている芸能記者。
レポーター「果たして、16歳の天才少女は日本のテレビをどう経営していくので
 しょうか!」

■同・大会議室内
   円卓に残る鯨井のもとに集まる幹部たち。
   ネクタイを緩める鯨井。
鯨井「やれやれ。今日一日大騒ぎだったな」
    制作部長が書類の手元の見る。
制作部長「それにしても、驚くことばかりだな。年間400人の人員削減、地方
 支局の経営独立化、番組の見直し....」
鯨井「できんのか? あの娘に」
事業局長「ま、あの娘の背後には天下のEOXがありますから」
鯨井「にしても、テレビだぞ。文化が違う」
事業局長「それと気になったのが、この週一時間の社長専用番組を放送する
 っていうハナシですが...つまり、社長自ら番組をつくるってことですか?」
鯨井「編成局は何かつかんでいる?」
編成局長「わかりません。すべて社長とEOXで進められていることですから」
制作部長「自分主演のドラマでもつくろうってんじゃねーのか?」
鯨井「それより気になるのは...」
   鯨井は最後の書類の欄外に小さく掲載している記事を指さす。
   それは番組審議会の改選の報告。
事業局長「番組審議会の委員長の改選ですか?」
制作部長「確かに、任期途中の交代ですね」
編成局長「.....ご存じですか?」
制作部長「全然」
   鯨井は懐古的なまなざしで、書類の写真を見る。
   写真には矢沢顕一の顔が。
鯨井「昔の俺の上司だ。報道局長をしていたこともある」
制作部長「元報道局長? でも、ここに書いてある肩書きには...」
   写真の下の文字は「矢沢顕一/JBC−NET社長」と書いてある。

■JBC−NET本社(俯瞰)
   都心の真ん中にそびえたつ真新しいビル。

■同・オフィス
   コンピュータの端末やサーバ機器が並ぶ中、オペレーターやシステム
   エンジニアたちが仕事をしている。
   その中を歩いている矢沢。
   矢沢は爪楊枝をシーシー言わせながら社長室に入ろうとする。
   部屋の前の社員が、
社員「社長。いま、社長に取材したいという方がお見えになっています」
矢沢「取材? そんな予定、入ってたか?」
社員「アポなしです。留守だといっても、待つっていってきかないので、ちょう
 ど手の空いていた副社長が代わりに」
矢沢「あ、そう....」
  矢沢は社長室の扉を開ける。

■同・社長室
  副社長の布施佐和子が女性と面談している。
  佐和子、矢沢を見つけ、
佐和子「あ、社長、おかえりなさい」
  佐和子と面談している女性が振り返る。
  それは茶髪で見るからに不思議系のスタイルでキめている女性・島田
  奈央子
(=幹子が化けている)。
矢沢「....!」
  矢沢、その顔に硬直の様子。
佐和子「こちらは東都新報社の社会部記者の....」
  奈央子は立ち上がり、矢座に名刺を差し出す。
奈央子「島田奈央子です。どうぞよろしくお願いします」
矢沢「島田...奈央子、さん....」
  矢沢は撫然の表情で名刺を受け取る。
佐和子「ハナシを続けましょう」
  奈央子は席に座る。矢沢も席に座る。
奈央子「さっそく矢沢社長にうかがいますが」
  ビクッとする矢沢。
奈央子「昔、ここはケーブルテレビだったとお聞きしましたが、どうして業務
 を転換されたのですか?」
矢沢「ケーブルじゃワリにあわないんですよ。しょせんテレビは施設産業で
 すから。そこで、私の仕事仲間の友人の彼女と出会い、インターネットの
 ハナシをきいたのがきっかけです...」
佐和子「ポイントは配信ケーブルに使われていた光ファイバー。あれのおか
 げでブロードバンド配信の波にいち早く乗れて、プロバイダーとしての基
 本ができました。今では年商四百億です。系列のグループ内はもちろん、
 親会社のJBCテレビを抜いてトップの売り上げです」
奈央子「布施副社長は満足のいく結果が得られたと思いますか?」
佐和子「もちろんです」
奈央子「矢沢社長は?」
矢沢「え...」
奈央子「成功されて満足ですか?」
矢沢「私は...」
   矢沢は言葉を詰まらせる。代わって佐和子が、
佐和子「照れてるんですよ。この間も言ってましたよ。もし、あのままケー
 ブルを続けていたら、オレは幅の狭いつまらん人生を送っていたって」
奈央子「そうですか。では、次に...」
   奈央子はメモ帳を閉じる。
奈央子「次に、一発、殴らせていただきます」
佐和子「え?」
   奈央子は立ち上がり、矢沢を殴りかかる。
矢沢「......!」
   矢沢は奈央子の腕をつかみ、ニヤリと微笑む。
矢沢「久しぶりだな。二本柳!」
佐和子「え?」
   奈央子は自ら顔の皮膚を剥がす。同時に幹子の素顔があらわれる。
佐和子「幹子!」
幹子「人をアメリカで本物のジャーナリストにさしといて、自分は御役御免
 でカネもうけか! 汚ねえぞ!」
矢沢「汚ねえのはどっちだ?」
幹子「なに?」
   矢沢は幹子の持っているバックを奪い取り、中味を卓上にぶちまける。
   そこには小型ビデオカメラが録画状態になっている。
   矢沢はカメラに向かって叫ぶ。
矢沢「ソフト産業は情報が命....」

■同・ビルの横の道
   JBC−NETビルに横付けされたバン。

■同・バン内
   薄暗い車内に無数のテレビモニターの映像が皓々と輝く。
   すべてのモニターには矢沢の顔のアップ。
   モニターを編集はしている佐々木がビックリしている。
画面の矢沢「...カメラ撮影は必ず許可を得る! そう習わなかったか?
  え? 佐々木!」
佐々木「怖ぇ!」

■JBC−NET・社長室内
   矢沢と佐和子が腕を組んでいる。
   床に座り、チッと舌打ちしている幹子。
幹子「だったら、なぜアタシを日本に呼び返したんです?」
矢沢「何のハナシだ?」
幹子「なんのって....!」
   幹子はバックからメールのコピーを差し出す。
幹子「ほら! すぐに帰国しろって矢沢さんからメールが...」
矢沢「(佐和子に)知ってるか?」
佐和子「いえ」
   トントンとドアのノックの音。
   幹子、矢沢、佐和子が振り返る。
   戸口に立っているのはレベッカ。
レベッカ「私です。頼んだの」
幹子「レベッカ...レイボーン!」
   レベッカは矢沢の前に歩き、握手する。
レベッカ「すいません。貴方には忠実だとお聞きしまして...」
矢沢「そうですか? 見ての通りですが」
   レベッカは、床に座る幹子に手を差し伸ばす。
レベッカ「ミキコさん。一緒にきてくれませんか。お手間はとらせません」
幹子「わかった...」
   幹子はレベッカの手を払い、立ち上がる。
   幹子に続きレベッカは出ていこうとする。
矢沢「レベッカ社長」
   レベッカは立ち止まる。
矢沢「彼女が例の番組の司会者ですか?」
レベッカ「私は適任だと思いますが、貴方は?」
矢沢「大賛成です」
   レベッカは微笑みを返して出ていく。
   同時に佐和子と矢沢はイスに座る。
佐和子「あー、ビックリした!」
矢沢「さすがアメリカ仕込みだな。完璧な特殊メイクだった」
佐和子「それにしてもよくわかりましたね」
   矢沢は床に落ちている覆面メイクを手に取る。
矢沢「アイツ。どこで調べやがった....」
佐和子「え?」
矢沢「これ、ウチのカミさんだ。20年前の」

■東京タワー・特別展望台(夜)
   東京のイルミネーションが輝く。
   レベッカがジュースを2つもってやってくる。
レベッカ「少しは落ち着いた?」
   レベッカはジュースを1つ、幹子に渡す。
幹子「ああ」
レベッカ「目の前で人殴るの初めて見たんだもん」
   レベッカは自分のジュースを開け、一気に飲み干す。
   幹子は呆気をとられる。
幹子「アンタもこういう物を飲むんだね」
レベッカ「まるで人間じゃないみたい」
幹子「メディア王のお嬢様はフツーじゃないだろう...」
レベッカ「迫害されているビデオジャーナリストはフツーなの?」
幹子「.....」
   レベッカは目を閉ざし、ジッと耳を澄ます。
レベッカ「ねえ、聞こえてこない?」
幹子「何が?」
レベッカ「この街の声...ギスギスして、みんな、ギリギリのなんとか気力を
 振り絞って生きている...」

■レベッカの独白とともに東京の光景(モンタージュ)
   同時刻、とある東京の会社のオフィス。
   ラーメンをすすりながら残業するサラリーマン。
   インサートするレベッカの声。
レベッカ「(声)みんな今日を生きるので精一杯...」
      *  *  *
   同時刻、とある電車の中。
   吊革に揺られながら眠りこけるサラリーマン。
   インサートするレベッカの声。
レベッカ「(声)余裕がないから明日も同じ事の繰り返し...」
      *  *  *
   同時刻、とある東京の盛り場。
   オヤジからカネを巻き上げている高校生の姿。
   インサートするレベッカの声。
レベッカ「(声)悲観に耐えきれない人が悲劇をうむ...」
      *  *  *
   同時刻、とある東京の街角。
   電柱の下で嘔吐しているサラリーマンの姿。
   インサートするレベッカの声。
レベッカ「(声)ほんのちょっとの発想の転換で、明日がかわるのに...」
      *  *  *
   同時刻、とある高速道路のパーキングエリア。 
   甲高く、リズムよくふかすバイク。
   その前でタコ踊りをしているティーネージャーたち。
   インサートするレベッカの声。
レベッカ「(声)なぜ気づかないの?」

■東京タワー・特別展望台(夜)
   レベッカは倒れるように座り込み、なおも目を閉じて考え込む。
   威圧的で、何者も寄せ付けない雰囲気に幹子は言葉がない。
   レベッカの頬に流れる一つ筋の涙。
幹子(......涙?)
   ふと、レベッカが目を開ける。
   同時に背後に控える秘書がペンとメモ帳を差しだす
レベッカ「.....!」
   レベッカはペンを走らせる。
   それはまるでダムから水が溢れるような、凄まじい勢い!
   幹子はただドギモをぬいて見ているだけ。
幹子(何もかも、すべて見抜いてしまう鋭い感受性...)
   レベッカのて手元で一枚、また一枚と、書類が完成され、床に落ちていく。
幹子(足らないものを創り出す、大胆な発想...)
   幹子は背後を見る。
   レベッカの書類を待ち受けるように、携帯端末を準備している秘書。
幹子(彼女の一言で動くEOXグループの組織力...)
   幹子は再びレベッカを見る。
   レベッカは満面の笑みで書類にペンを走らせる。
幹子(これが....EOXのレイボーン会長が六千億ドルを投じて育て上げた
 妖精の力か!)
   レベッカは最後の書類の末尾にサインし、すべて拾い上げ、幹子に
   掲げる。
レベッカ「これをやってほしいの。貴方に」
   幹子は書類を受け取り、見る。
幹子「......!」

■(翌朝)成田空港
   空港ターミナルビルの俯瞰。

■同・ゲートラウンジ
   幹子と佐々木がラウンジベンチに座っている。
佐々木「で、断ったんですか?」
幹子「アタシはジャーナリストだ。番組の司会なんかできねえし。中味はフザけ
 てるし...」
   幹子はベンチに書類をたたきつける。
   佐々木は書類ほ手に取り、捲る。
佐々木「まあ、この企画内容は並の人間じゃ酷ですけど...」
   佐々木は訝し気な視線で幹子の顔を覗く。
幹子「何だよ、その眼は」
佐々木「ただなあ...」
幹子「ハッキリ言えって!」
佐々木「好きだからなあー。こーゆー企画」
幹子「バーカ。いくら私でも、こんなモンやったあかつきにゃー、本当に国外
 追放だぜ。そこらの分別ぐらいあらーな」
   佐々木、どーだかな、という顔。
   幹子、ムッとする。

■航空機・エコノミー客室内
   席に座る幹子と佐々木。
   幹子はシートベルトをつける。
幹子「これで満足?」
佐々木「いや、本当にすいませんでした」
幹子「当たり前だろう。こうしてる間にも、スクープをモノにしているヤツらが
 いるんだぜ。とんだタイムロスだよ...」
   ゾクッとする幹子。
幹子「クソー。考えただけで腹が痛くなってきた」
   やってくるスチュワーデスに手を挙げる。
幹子「トイレ、どっち?」
スチュワーデス「まもなく離陸ですので」
幹子「間に合わないよ!」
スチュワーデス「わかりました....」
   スチュワーデスは席を連れて後方へと歩いていく。
   ため息をつく佐々木。
   そこにスチュワーデスが客を連れてやってくる。
   スチュワーデスは客に幹子の席を促す。
スチュワーデス「ここです」
佐々木「この席、人がいますよ」
スチュワーデス「いえ。ここのお客さん、たった今、搭乗をキャンセルされま
 したが?」佐々木「....!」
   佐々木。立ち上がり、トイレへ走る。
   トイレのドアを開ける。
佐々木「....!」
  トイレには誰もいない。
佐々木「やられた!」
   佐々木は搭乗口へと走る。
   が、扉は閉められ、窓の向こうに空港ターミナルビルが見える。
   スチュワーデスがやってくる。
スチュワーデス「お席にお座りください! 離陸します!」

■空港ターミナルビル・屋上展望台
   滑走路から飛び立つ航空機。
   それを見ている幹子。
幹子「まだまだ修行が甘いぞ。佐々木!」
   幹子は屋内へと戻っていく。

■(月曜朝)とある家庭
   寝室からやってくる中年。
   中年は新聞受けから新聞を取り、トイレに入る。
   しばらくしてトイレから聞こえてくる中年の声。
中年「(声)なんだー?、こりゃー?」

■とある街角
   ゴミ袋を持ちながらしゃべっている主婦(AとB)。
主婦A「なんだかわかります?」
主婦B「さー」

■とある駅のホーム
   女子高生(AとB)が話し合っている。
女子高生A「やっぱドラマとか?」
女子高生B「えー。でもー、主演のってなかったし」

■とある満員電車内
   吊革に揺られながら話し合っている会社員(AとB)。
会社員A「何を始めるんでしょうな。JBCは」
会社員B「気になりますねー」
   会社員(AとB)の前の座席に座っている矢沢。
   矢沢はニヤリと笑い、手元の新聞のテレビ欄を見る。
   JBCの午後9時、そこには「新番組(タイトル未定)」と書かれているだけ。

■JBC・編成局
   鳴り響く電話。それに対応している局員たち。
局員A「内容ですか? それは現時点で答えられません」
局員B「詳しくは今夜9時の放送をご覧ください」
   次々と排出するFAX。それをウンザリと見ている編成局長。
編成局長「やれやれ...」
   やってくる鯨井と事業局長。
鯨井「ずいぶんな騒ぎじゃないか」
編成局長「朝6時からこの騒ぎですよ」
鯨井「しかし、やるもんだねえ、社長も。広告しないで番組宣伝するなんて」
編成局長「だといいんですが...」
事業局長「で? 何を放送するんだ?」
編成局長「わかりません」
事業局長「おいおい。オレたちまで隠すのか?」
編成局長「いや、本当にわからないんですよ!」
   逆ギレ気味の編成局長に戸惑う鯨井たち。
事業局長「わからないって...そんなこと、あるのか?」
鯨井「...社長は?」
編成局長「何度も聞いたんですが、ひみつだよ〜って、あの笑顔で
 言わて...」
鯨井「番組スタッフは?」
編成局長「すべてEOX側で調達してますから...」
鯨井「リハーサルは?」
編成局長「EOXのスタジオでやってるみたいなんです」
   編成局長はデスクに座り込み、頭を抱える。
編成局長「マズいですよ、このままだと放送に穴があいてしまいます」
   鯨井は哀れむように、肩に手を置く。
鯨井「とりあえず、マスター(主調整室)を押さえといたほうがいいな。
 代わりの番組、用意しておいたほうがいい」
   そんな鯨井らの光景をよそに、ガラスの向こうの廊下をレベッカが
   鼻歌混じりに歩いている。

■同・廊下
   レベッカが歩きながら携帯電話をしている。
レベッカ「どう? 進んでる?」
  

■女子トイレ
   鏡の前に化粧箱をおき、特殊メイクをしながら携帯電話をしている
   幹子の姿。
幹子「順調。この分だと今夜の放送には全部揃う...」
レベッカ「(声)本人にバレてない?」
   幹子は顔を上げ、鏡を見る。
   鏡には汚らしいADに変装した幹子の姿。
幹子「大丈夫。ロス仕込みの特殊メイクがかなり効いてるから...」
レベッカ「(声)じゃ、任せたから」
   幹子は電話をきり、化粧箱からCCDカメラを取り出し、胸のバッジ
   ホールにつける。
幹子「よし....」
   幹子はトイレを出ていく。

■バラエティ番組「ウェーブボーイ」収録スタジオ
   ステージ上で立ち位置をチェックしているADたち。
   それをカメラでチェックしているディレクター、VE、SEら撮影スタッフたち。
   走ってやってくるAD姿の幹子。
ディレクター「なにやってんだよ。新人! トイレ、長すぎっぞ!」
幹子「すいません!」
   幹子はスタジオカメラの後ろに座り、ケーブルを調整する。
   ディレクターがスタジオ奥に向かって叫ぶ。
ディレクター「じゃ、ランスルー、いきます!」
   幹子はチラリとスタジオの奥を見る。
   俳優とゲラゲラと高笑いをしているのは、バラエティ番組『ウェブボーイ』
   のチーフプロデューサーである都木昌也
   幹子は胸のCCDの照準を向け、静かに収録ボタンを押す。

■JBC(夜)
   皓々と輝きながらそびえ立つJBC本社屋。
   その横の時計台が午後8時56分を指している。

■同・スタジオ
   ADに招かれ、板(ステージ)にあがるのは、バラエティ番組『ウェブボ
   ーイ』のチーフプロデューサーである都木昌也。
   テーブルとイス以外は何もない。
都木「社長命令だっていうんできたんだが...」
   都木はイスに座る。
   同時にスタジオ内に1分前ブザーが鳴り響く。
   が、司会者席は空席のまま...。
都木「おいおい...」
   都木は正面2Fの副調整室に向かって叫ぶ。
都木「あのさ、まだ全然打ち合わせしてないんだけど...」

■同・副調整室
   パネルモニターにズラリと並ぶスタジオの映像。
   モニターのすべてに都木の顔が映っている。
画面の都木「これ、ナマ(生中継)でしょ? このままだと事故るよ?」
   モニターを操作しているプログラムディレクター(以下PD)が、不安気
   に背後のプロデューサー席を伺う。
PD「...と言ってますが?」
   プロデューサー席にはレベッカの姿。
レベッカ「....」
   感心なさそうにQシートを見ている。
   PDはインカムマイクに語る。
PD「みんな。このまま予定通りだ....」

■同・スタジオ
   テレビカメラの横に座るフロアディレクターのカウント出しスタート。
   照明が落ち、都木にピンスポが当てられる。
都木「知らんぞ。どうなっても...」
   Q出しするフロアディレクター。
   同時に、スタジオ内に響く幹子の声。
声 「これはJBCの各番組の責任者を召き、視聴者からの意見をもとに
 番組を検証していく番組です...」
   扉が開き、幹子が登場する。
   幹子、板(ステージ)上にあがり、イスに馬乗りで座り、都木を睨む。
   幹子の態度にドギモをぬくばかりの都木。
幹子「アンタの名前は?」
都木「都木昌也、バラエティ番組『ウェブボーイ』のプロデューサーです。
 貴方は?」
幹子「ただの一視聴者...」
   幹子らのテーブルにハガキの山が運ばれてくる。
幹子「これはアンタが担当している番組に対する視聴者の意見や質問だ。
 これからこれに答えて貰う。いい?」
都木「はあ」
幹子「その前に。そのカメラの前にたって宣誓しろ」
都木「宣誓?」
幹子「アンタは放送事業に携わる者として、その職責に見合った社会的
 責任を最後まで行使することを誓うか?」
都木「社会的責任?」
幹子「プロデューサーとしての責任をとれるかってことだよ」
都木「あ、はい。いいですよ、誓いますよ」
   幹子、背後から捕らえているカメラに叫ぶ。
幹子「今のちゃんと撮れた?」
   カメラマン、うなずく。
   幹子は都木をニヤリとほくそ笑む。
幹子「その言葉、忘れないように」
都木「(なんだが不安気)」
   幹子、ハガキの山から一枚取り出し、読む。
幹子「長野県の大河内さん、36歳会社員からの質問。『ウェブボー
 イ』はいつも、素人の芸人に過酷な課題をやらせて、達成させて
 いますが、これはイジメを助長していませんか?」
都木「そんなイジメなんて。我々は、本気になったらなんで
 もできるという人間の強さをテーマに放送しています」
幹子「秋田県の清水さん、24歳大学生。この間旅行でオーストラ
 リアの三ツ星ホテルに泊まったとき、『ウェブボーイ』で霊視旅行
 中の芸人さんがスィートルームに宿泊しているのを見かけました。
 でも、あとで放送を見たら、その街では野宿をしたことになってて
 ビックリしました...」
都木「それは....」
幹子「まだある。岐阜県の大谷さん。16歳高校生。この間、ウチ
 の近所を日本縦断の無銭旅行に挑んでいる若手芸人が通りま
 した。空腹で死にそうだと聞いていたのですが、撮影スタッフと
 一緒に寿司を食べていました...」
都木「なるほど」
幹子「アンタんトコじゃ、ヤラセやってるの?」
都木「2つとも、収録時間外のことでしょう?」
幹子「収録時間外?」
都木「皆さん誤解されていますが、バラエティ番組というのは現
 実におこることをやっているんじゃなくて....」
幹子「あらかじめ書かれた放送台本にもとづいて演じるものだ?
 だから収録と関係ない部分は仕事時間外だから、そこは本人
 の勝手だ?」
都木「その通りです」
   幹子のもとに放送台本が届けられる。
幹子「ちなみにこれが『ウェブボーイ』の放送台本」
   ゲッ!.....都木の蒼白の表情。
都木「どっからそれを?」
幹子「ずっと思ってたんだけどさ。バラエティの連中って台本みら
 れるのイヤがるよね。ドラマの脚本なんか意外と簡単に見せて
 くれるのに。何か隠してるの?」
都木「いえ、別に....」
幹子「この放送台本を書いている人ってどんな人?」
都木「専属の作家です。毎週、企画会議をやって、そこで厳正
 な構成をつくってます」
幹子「その模様がありますのでお伝えしましょう」
   エッ!....都木の驚愕。
   幹子、サブ(副調整室)に目で合図。

■同・副調整室
   パネルモニターに並ぶスタジオの様子。
   フロントモニターに映る幹子の合図に、PDが頷く。
   PDが制御卓を操作するスイッチャーに指示。
PD「Vスタート!」
スイッチャー「(復唱)V、スタートします」
   スイッチャーは卓上のスイッチを切り替える。
   フロントモニターには会議室の(明らかに盗聴カメラの)光景。

■(VTR)『ウェブボーイ』企画会議室
   作家(ABCD)たちと都木たちがテーブルを囲んで話している。
都木「7日放送分のラストだけど、もうちょっと数字をとりたいんだ
 けど、ない?」
作家A「いくつ?」
都木「最低7パー」
作家A「7だったら俳優の×■なんかが乱入してきたりとか?」
作家B「そんで金属バット振り乱してなんか?」
作家C「金属バットはNGっしょ」
作家D「じゃ、代わりのなんか」
都木「時間的にはATVの映画から野郎が流れ込むんですよー」
作家C「イロか...」
作家B「パンチラさせます?」
作家A「パンチラで7パーいくか?」
作家A「温泉なんかは?」
都木「もう一声!」
作家D「築地じゃないんだからさ」
   都木、作家らの爆笑。
作家B「温泉だと水着?」
都木「基本はね」
作家B「じゃ、スクール水着ってのは?」
作家D「いーね!」
都木「うん。くるくる!」
作家C「あるいはチャイナドレスとか」
作家D「それ、特番まわし!」
作家B「メガネの似合うのがいーね。童顔でイカにもってヤツ」
都木「見繕いましょう!」

■スタジオ
   テレビモニターに映る企画会議の光景。
   幹子は都木に嘲笑。
幹子「これが厳正な構成?」
   都木、愕然としながら、
都木「イヤ、まぁ、会議が行われていたのが深夜だったので...」
幹子「なんか数字のハナシばっか」
都木「そこは、ほら。我々だって一民間企業でしょ。0コンマ1で数万
 人の格差じゃないですか。できるだけ見てもらったほうが、スポン
 サーだって喜ぶでしょうし...」
幹子「じゃ、そのスポンサーに聞いてみる?」
都木「へ?」
幹子「紹介します。この番組のスポンサーであるM産工業の広報
   二課ラテ担当課長の末吉さんです!」
   モニターにはM産工業の広報室の光景。

■M産工業・広報室
   中継カメラに向かって頭を下げる末吉。
末吉「どうも、末吉です」
幹子の声「今のを聞いていてどう?」
末吉「まあ、他とかに努力は認めますよ...」

■スタジオ
   テレビモニター越しに語っている末吉の姿。
末吉「でも、正直言って、CM効果はないんですよ。プロデューサー
 さんは、インパクト、インパクトって言うんですが...」
都木「....!」
末吉「正直言って、我々はこの番組に出資するつもりはあまりない
 んですよね。私らとしては、もっと早い時間帯の番組が欲しいん
 ですが。何せゴールデン枠だと出資率が大きいし。広告として見
 合わないんですよ。でも、一応、商品には全国的な知名度がほ
 しい、そうなるとこの時間しかないんです」
幹子「....と言ってるけど?」
都木「.....」
幹子「明らかにスポンサー間と意志があってないみたいだけど、
 どう思う?」
都木「ノーコメント....」
幹子「アンタに拒否権はない!」
都木「.....!」
幹子「宣誓したはずだ。社会的責任を最後まで行使するって。ア
 ンタは番組責任者として、視聴者の質問に答える義務がある!」
都木「.....!!」
幹子「アタシの質問に答えろ!」
都木「とても残念です...。今日の反省点を活かし、これからの番組
 つくりに活かしていこうと...」
幹子「さて。では、ここで視聴者の皆さんに質問します。今日の
 番組をみて、この番組をどうしたほうがいいと思いますか?」
都木「.....?」
幹子「1番、潰した方がいい、2番、更正させた方がいい、3番、
 このままでいい。今から7時間以内に、JBC−NETが用意し
 たホームページに投票してください」
  テレビ画面にはスーパーインポーズでホームページURLが
   掲載される。
都木「待て! いくらなんでも! だいたい何の権限が....」
   そのとき、スタジオの扉が開き、やってくる矢沢顕一。
   矢沢はテレビカメラの前にたち、マイクを持って語る。
矢沢「JBC番組審議会委員長の矢沢です。投票はJBC番組
 審議会の責任をもって行います。投票の結果は、公約として必
 ず履行します」
都木「.....!」
幹子「では、結果は明日の午前4時、JBC−NETのホームペ
 ージ上でお伝えします....」
   ちょうど放送が終了。カメラのランプが消える。
   その場にへたり込む都木。

■(午前4時)JBC−NET・オフィス
   午前4時を指している時計のもと、フル稼働しているコンピュ
   ーターサーバ。
   その前で、キーボードを操作する佐和子とオペレーターたち。
オペレーター「集計完了! 投票結果を出します!」
   オペレーターがエンターキーを押す。
   同時に大画面モニターに表示される結果は、
  「潰した方がいい......103690票
   更正した方がいい....98541票
   このままでいい.......3102票」

■JBC・番組審議会事務局
   詰めかけているバラエティ番組スタッフ、編成局員たち。
スタッフA「あれはやりすぎだ!」
スタッフB「責任者を出せ!」
   対応している事務局のスタッフ。
事務局員「矢沢委員長はいま、委員の皆様と会議をしております!」

■同・会議室
   テーブルに着席している矢沢と番組審議委員、事務局長たち。
   委員と対面して都木、制作部長が座っている。
矢沢「やれやれ、外はえらい騒ぎですな」
事務局長「そこだけですよ。世間的にはおおむね好評です。今朝までに
 審議会宛の電話、FAX、メールは1万件。ほとんどが好意的な意見で
 しめられています」
委員A「今朝、ウチを出るとき、ひさしぶりに娘が口を利いてくれましたよ。
 面白かったって」
委員B「親子間のコミュニケーションも促進させる効果があるんですか」
   満足気な顔の委員たち。
   それを不服そうに都木が呟く。
都木「そりゃ、あれだけ面白おかしくすれば...」
矢沢「意見があるなら、ご起立ください」
   都木は起立する。
都木「さっきから何度も言っているように、我々は反省点を番組に持ち
 帰ります。ですから番組の打ち切りだけは....!」
   委員A(PTA代表)が睥睨の表情を露骨に見せて、
委員A「信じられませんね」
都木「はい?」
委員A「あそこで読み上げられたハガキは以前、番組審議会で審議さ
 れたものなんですよ。我々は何度も討議し、警告を文書を示してきま
 したが、あなた方はまったく改善する意志をあらわさなかった....」
都木「....」
   うつむき、着席してしまう都木。
   代わって起立する制作部長。
制作部長「しかし、あれは一個人を吊し上げて楽しんでいるだけですよ」
矢沢「そういう観点でいえば、批評というよりバラエティですか?」
制作部長「そうです。ですから...」
   委員B(某大学教授)が宙を見つめながら呟く。
委員B「だとすると、レベッカ社長のほうが勝ったってことですね。あな
 た方が大好きな<数字>という観点でみれば...」
制作部長「え?」
   事務局長が手元の書類をみながら、
事務局長「昨日のレーティングです。平均視聴率、28.7%、瞬間最大
 視聴率、32.4%」
   目を見張る都木と制作部長。
都木「32...!!」
   嘲笑う委員B。
委員B「素人の社長がこれだけでとれて、プロのあんたらは今まで何
 をやってたの?」
   委員たちが都木と制作部長に鋭い視線を投げる。
   さらに委員C(某大手酒造会社社長)が挙手する。
委員C「あなた方は今、置かれている立場を理解していますか?」
都木「は?」
委員C「スポンサーにイヤ気をさされているんですよ? お得意サン
 ですよ? 私は造船、酒造、流通の事業を経営しているが、私の
 会社なら、一発でリストラ対象扱いですよ。少し認識、甘いんじゃ
 ないんですか?」
都木「テレビは一般企業とは違う!」
委員C「どう違うんです?」
都木「ゆ....夢を売る商売だ!」
   唖然とする委員、次の瞬間、大爆笑!
矢沢「それは曖昧ですし、ある意味で差別発言ですよ」
都木「何が!」
矢沢「逆説的に言うと、一般企業は夢がないと言ってるんですよ。
 貴方は....」
都木「そんな....」
矢沢「お願いしますよ。ご多忙の中、委員の皆さんを招いている
 んです。もっと実りある弁解を...」
都木「.....!」

■同・報道局長室
   事業局長、編成部長、制作部長らが集まっている。
   デスクに座る鯨井。
制作部長「何を言ってもヌカに釘ですよ...」
鯨井「いつも俺が使っている手じゃないか...」
   鯨井は鼻で笑う。
鯨井「しかし、番組批評とは考えたもんだな。番組を主催する
 番組審議会は、立場上、局がお願いして選任しているから
 露骨な解任はできない」
編成局長「おまけに高い視聴率が背景にあると...」
事業局長「これが、レベッカ社長のリストラ策ですか」
鯨井「まだ初回だからな。リストラかどうかは次からハッキリ
 してくるよ」

■(一週間後)スタジオ
   幹子が馬なりに座って卓上のハガキを読んでいる。
   対して座るのは並木光雄プロデューサー。
幹子「アンタの名前は?」
並木「並木です。深夜のトーク番組「太古の看護婦」の演出をしています」
幹子「どんな番組?」
並木「芸能界のタレントを集め、芸能界の暴露話をします」
幹子「愛媛県の松島さん、四十五歳主婦。とくに有名人の話のとき、
 肝心の個人名は伏せ字だったりピーという音が鳴ります。なんとか
 なりませんか?」
並木「プライバシーに関わる問題ですから」
幹子「けど、確かに30分番組のうちの20パーセントがそういった状態
 で、これが40歳以上の年齢層の視聴者からクレームがきているん
 だけど?」
並木「深夜枠ですから」
幹子「だから何?」
並木「いや。その、こんな時間に起きている大部分は20代、10代の
 方が多いので。そちらのほうに軸をおいています...」
   幹子の目の前におかれたFAXが起動し、一枚用紙が排出される。
   それを読む幹子。
幹子「プライバシーに関わる秘密の話なら、やらなきゃいいでしょう...
 大分県、三十二歳自営業」
並木「そうなんですが。なにぶん視聴率が...」
幹子「......」
   幹子、副調整室に向かって指を鳴らす。
   同時にモニターに流れる『太古の看護婦』の映像。

■(VTR)『太古の看護婦』
   円卓に座る仮面姿のタレントたち。
タレントA「ところで、知ってる? 女優のTNさん、ドラマの打ち上げの
 最中、六本木の店で飲み過ぎて、病院かつぎ込まれたんだって」
タレントB「ウソでしょ?」
タレントA「マジマジ。見たって人が、アタシの周りで結構いる」

■スタジオ
   モニターに映る映像を見ながら、幹子が並木に言う。
幹子「これは先週放送したモンだけど、このハナシはウソじゃないの
 か、という声が五十通届いているんだよ」
並木「それは....」
幹子「このネタ、どっからの情報?」
並木「一応、芸能界に流れているウワサを独自調査をしました」
幹子「独自調査って?」
並木「番組のスタッフを使って調べさせました」
   幹子は手紙を読む。
幹子「静岡県の鳥沢さん、十八歳無職。TNさんは女優の竹島菜香
 子さんだというウワサがあり、竹島さんのファンの間では物議をか
 ましています。正直なところどうですか?...だって」
並木「プライバシーに関わる問題なので...」
幹子「直接本人に聞くというのは?」
並木「え? いや、まあ、本人の了解があれば...」
幹子「では、ご本人をお呼びしましょう!」
   扉から入ってくる竹島菜香子。
   並木のゲッという顔。
幹子「このハナシは本当ですか?」
菜香子「ウソです。絶対ありません」
幹子「その根拠は?」
菜香子「打ち上げは午後8時までやってましたが、翌日、関西でロケ
 があるので最終の新幹線で大阪に向かいました」
幹子「それを証明する人は?」
菜香子「スタッフ、大阪のホテルの宿泊記録、いろいろあります」
幹子「って本人は言ってるけど?」
並木「竹島さんじゃありません」
幹子「じゃ、誰?」
   幹子はタレント名鑑を開き、タ行をめくる。
幹子「あと、TNで有名女優となると、千倉尚美さんか、手塚憲子さんか....」
並木「.....」
幹子「確認してもいい?」
並木「だから! そこはね、この時間の番組ですから。視聴者だって
 バカじゃないし。どうせテレビだから...」
幹子「テレビだから?」
並木「いや.....」
幹子「どーせテレビだから、視聴率をとるためならウソもヤラセもあり。そこら
 は折り込み済みだろう? だから見る側も理解しろ!?.....ハッキリ言って、
 あんたらのご都合主義なんじゃないの?」
並木「.....」
   同時に、FAXが起動し、次々と舞い込むメッセージ。
   幹子は、用紙を引きちぎり、読む。
幹子「暴露話で視聴率をとるってこと自体が卑怯だと思います。神奈川県
 の里中さん、二十六歳フリーター」
並木「....!」
幹子「数字にかこつけた番組制作放棄だと思います。栃木県の八木沢
 さん、二十四歳会社員並木「.....!!」
幹子「どうせウソだったら映画でも流してくれた方がマシ。埼玉県の浜
 野さん、十九歳専門学校生」
並木「....でもッ!」
   幹子、並木にファックス用紙をたたきつける。
幹子「これがホンネだよ。アンタらが勝負している年代の!」
並木「....!!」
   幹子、スタジオカメラに向かって叫ぶ。
幹子「評決を!」

■(翌日)JBC・人事局前廊下
   掲示板に貼り付けてある人事異動通達書。
  「辞令・並木光雄編成局プロデューサー
   右の者をJBC福利施設・八丈島館に出向を命ず」

■同・報道局長室
   デスクに座る鯨井。
   事業局長、編成部長、制作部長らが集まっている。
制作部長「ヒドいことになりました」
鯨井「確かにやり方は乱暴だが、言ってることはもっともだ」
制作部長「そんな。鯨井さんまで...」
鯨井「しっかし、ヤツらよく調べているが、いったいどこから情報を入手してい
 るんだ?」
編成局長「一般視聴者からの情報をもとに取材しているうようですが、多く
 は現場のタレコミ情報です...」
鯨井「現場? 外注筋(番組制作会社)か?」
編成局長「も、ありますが、局付きのADからも...」
鯨井「だいたい制作部はADをこき使いすぎなんだよ。ヘタしたら労基(労
 働基準法)違反で訴えられるぞ!」
制作部「といわれても、新人が入ってもみんな辞めてしまいまして...」
鯨井「で? 次の標的は?」
編成局長「予定ではスポーツニュースです...」

■(一週間後)スタジオ
   幹子が馬なりに座って卓上のハガキを読んでいる。
   対して座るのは小島圭太
幹子「小島圭太。夜のスポーツニュース『野球速達便』エグゼクティブプロ
 デューサー...」
小島「そうですよ」
幹子「アンタんトコを担当していた3人の女子アナウンサーが、今年3月、
 次々とプロ野球選手と結婚退職したことについての質問が山のよう
 にきている」
小島「へぇ....」
幹子「なぜ3月、しかも3人同時なのでしょう? 福島県の浅野さん、
 十五歳高校生」
小島「さあ? 我々はわかりません」
幹子「まるで番組改編で降ろされたようなカンジがあります。千葉県の
 芦野さん、二十八歳会社員」
小島「そんなことはありませんよ」
幹子「前から思っていたんですが、この番組に出る女子アナは決まっ
 て、その年活躍した野球選手と結婚しているような気がします。京
 都府の橋本さん、二十歳、学生」
   小島は腕を組む。
小島「そうですか? う〜ん、その年、活躍したってことは、それだけ
 コメントを得る機会も多いってことになるし...」
幹子「これだけ結婚が相次ぐと、番組自体が女子アナウンサーの結
 婚斡旋所になっているような気がしてなりません。石川県の上野
 さん、三十三歳主婦」
小島「結婚斡旋所なんて....」
幹子「断じてないという証拠は?」
小島「証拠もなにも、そんなことは倫理的にあってはならないことで
 すから...」
   幹子はニヤリとほくそ笑み、一枚の手紙を取り出す。
幹子「東京都の升野さんからのお便り。私は都内某所のとあるホ
 テルのレストランでバイトをしています。毎週月曜日の深夜1時頃、
 スポーツニュースの女子アナウンサーと野球選手がやってきて、
 何か話しているのです。私や同僚の店員が食事を運びにいくと、
 ピタリと話をやめてしまい、なんかよそよそしい様子です...」
小島「毎週月曜日でしょ? それは懇親会です」
幹子「懇親会?」
小島「ええ、レポーターと選手の間で、より密接な意見交換を目的
 として番組主催で開かれています。出席は自由参加ですし、
 強制ではありませんよ」
幹子「じゃ、実際、その様子を見てみよう」
小島「え?」
   幹子がサブに指示する。
   モニターにはレストラン内の盗撮映像。
   テーブルに座っているのは選手、監督、スポーツアナ、小島
   の4人のみ。
幹子「これは先週の月曜日の懇親会だけど。店員に聞いたら、い
 つもだいたい4名だって?」
小島「たまたまです。自由参加ですから」
幹子「だいたい午前1時というのはスポーツ記者、制作スタッフは
 終電で帰ってるし、他の選手も明日の試合にそなえて帰宅して
 いる時間だけど?」
小島「自由参加ですから」
   幹子、テープを早回しするように催促。
   映像が早送りになる。
   映像は食事をし、席を立つ監督と小島。
幹子「この後、監督とアンタはホテルを出てタクシーで帰宅....」
   やがて残っている女子アナと選手が、エレベーターへと向かう映像。

■都内・とある会社のオフィス内
   残業中の会社員たちがラーメンをすすりながらテレビを見ている。
   テレビ画面には、女子アナと野球選手が個室に入っていく映像。
幹子「(解説)いっぽう、アナウンサーと選手を載せたエレベータは
 上に向かい、この日アナウンサーがホテルを後にしたのは午前
 4時。選手は午前5時だった...」
   その映像に激怒している会社員たち。
会社員A「ひでぇことしやがる!」
会社員B「女子アナを人身御供に使ってんのかよ!」
会社員C「だからあの番組はスクープが多かったんだ!」

■JBC・スタジオ
   幹子が小島に迫っている。
幹子「これについては?」
小島「自由参加ですから」
幹子「答えになってねえよ」
小島「.....」
幹子「しゃーねーなー。(副調整室に)音声、流して」
小島「何.....?」
幹子「この4人の会話の内容。どんなことをやりとりしたのか...」
小島「待て。それは取材の秘密だ...」
幹子「取材? この会合は仕事? だとしたら、それはそれで別の
 疑問がでてくる...」
小島「え?」
幹子「この日の女子アナの勤務時間表。これと併せてみると勤務
 時間外労働の嫌疑がかかってくんだけど?」
小島「いや、それは...」
幹子「この際ハッキリしようぜ。どこまでが仕事、どこまでプライベート?」
   幹子、小島をにらみつける。
   小島は言葉が見つからず、ただ黙っているだけ。

■(翌日)JBC・エントランスホール
   背中をまるめ荷物を持って出ていく小島の姿。

■同・報道局長室
   事業局長、編成部長、制作部長らが集まっている。
   デスクに座る鯨井。
編成部長「これは自己批評にかこつけた粛清工作ですよ!」
制作部長「こんな恐怖が続くと、番組づくりがなりたたない! と下請
 けや作家が泣いています...」
鯨井「でも、代理店あたりは好感もってんじゃないの?」
事業局長「そうでもないですよ。この暴露騒ぎでテレビ全般の視聴率
 が相対的に落ちていますよ。企業は企業で、いつ潰れるかわから
 ない番組に出資したくないって言ってるし....」
鯨井「テレビそのものが信頼を落としているのか....」
事業局長「そろそろ何か手をうっといたほうがいい」
鯨井「手ったってなあ。向こうも所詮番組だろ?」
制作部長「え?」
鯨井「出なきゃいいんだよ。番組に」
   一同、納得の表情。

■(一週間後)スタジオ
   幹子が馬なりに座りなかせら困惑の表情。
   対して座るのは深川はづき
幹子「アンタ、誰?」
はづき「クイズ番組『クイズ・ハンドレッダー』の番組APです」
幹子「アタシはプロデューサーを呼んだはずだけど?」
はづき「プロデューサーの星川は体調を崩して静養中です」
幹子「あ、そう....」
   幹子、しかたなくハガキをとり読み出す。

■(夜)熱海の温泉街
   立ち並ぶ温泉旅館(ロングショット)。

■同・客室内
   ディレクターらと麻雀をしている星川敏郎
   脇のテレビでは幹子がハガキを読んでいる。
映像の幹子「茨城県の山下さん、四一歳自営業からのお便り。
 クイズ番組のではいつも、同じ人が答えているのはなぜですか?」
映像のはづき「わかりません」
   星川がニヤリと笑う。

■JBC・スタジオ
   ハガキを読む幹子。
幹子「奈良県の今村さん十九歳学生.....特番のある時期って、各
 局とも並んでいますよね。それは祝日とか祭日なんかに関係な
 く、ある、特定の時期にポツンと、決まってある気がするんです。
 それは何ですか、ということだけど?」
はづき「知りません」
幹子「.....」
   幹子、ハガキを置く。
幹子「これじゃあ、みんな納得しないよ?」
はづき「私に言われても...」
幹子「誰なら答えられる?」
はづき「一番知っているのは星川プロデューサーですが」
幹子「プロデューサーとは、連絡とれますか?」
   はづき、携帯電話をかける。

■熱海の旅館・客室内
   ディレクターらと麻雀をしている星川。
   テレビ内で携帯電話をしようするはずみを見て、慌てる
   ディレクター。
ディレクター「おい...」
星川「ぬかりねえよ...」 
   星川は懐中から携帯電話を取り、電源をOFFする。

■JBC・スタジオ
   携帯電話をかけているはづき。
   携帯電話から流れる案内嬢の音声。
声 「ただいまおかけになっている番号は圏外か、あるいは電源がき
 れている....」
幹子「行方不明か...しかたない」
   幹子はフリップを取り出し、カメラにかざす。
   フリップには星川の顔写真と特徴が載った詳しいデータが。
幹子「テレビをご覧の皆さん。これが番組プロデューサーの顔写真
 です。ご存じの方は今すぐ一報ください。メール、電話、FAXなん
 でもかまいません」

■熱海の旅館・客室内
   星川、ブラウン管の中の自分のデータにビックリする。
星川「なんだと!」
映像の幹子「どんな事情があるにせよ、公共の電波を使用し、制作
 している以上、この質問には解答する説明責任があります!」
   と、そのときカチャカチャと、静かに叩く音。
   星川、ハッとして振り返る。
星川「....!」
   女中が携帯電話でメールをうっている。
星川「チィ!」
   星川、あわてて旅館から飛び出す。

■JBC・スタジオ
   FAXが一枚、排出される。
   それを取り、幹子が黙読する。
幹子「いい根性しているぜ、アンタんトコの上司...」
はづき「え?」
   幹子はカメラに向かって叫ぶ。
幹子「みなさん。星川プロデューサーは熱海の旅館で仕事そっちの
 けで麻雀をやってたらしい...」

■熱海・温泉街
   温泉館の中でテレビを見てくつろぐ人々。
   テレビ画面にはFAXを読む幹子の姿が。
幹子「...慌てて脱出して、現在、熱海市内を逃げ回っている! 熱
 海にいるみんな! 見かけたら至急、こちらまで連絡をくれ!」
   人々の横を走り抜けていく星川。
   星川を見た客Aが叫ぶ。
客A「おい! いたぞ!」
客B「本当に?」
客C「追いかけようぜ!」
   星川の後を追って走る人々。

■同・家電店前
   テレビが陳列しているショーウィンドー。
   そこに走ってくる星川、息をきらして倒れ込む。
星川「ここまで逃げれば...」
   と、そのときショーウィンドウのすべてのテレビが幹子の姿を映し出す。
映像の幹子「星川、ついに座り込んだみたい。体力ねーなーあ!」
星川「はあ?」
   星川、ふと背後を振り返る。
星川「......!」
   後を追ってやってきた人々が星川を取り囲んでいる。
   人々は携帯電話を手にし、一斉にメールを打ち出す。
   テレビの中でFAXを読み上げる幹子。
映像の幹子「責任者だったら説明しろよ! 熱海市の吉川さん
 36歳、会社員」
星川「.....!」
映像の幹子「逃げるなんて卑怯! 三島市の堂本さん64歳、
 自営業」
星川「.....!!」
映像の幹子「マヌケなヤツでなんか納得! 熱海市の春日さん、
 17歳短大生」
   星川、目の前の短大生をつかみ、キレる。
星川「てめえにいわれたかねぇよッ! 熱海市在住の春日ッ!
 17歳、短大生ッ!」
   星川を慌てて止める人々。
   周囲一帯は騒然とした様子。

■JBC・スタジオ
   FAXから吐き出されるメッセージを読む幹子。
幹子「星川プロデューサーが救急車で病院に運ばれたとさ」
   幹子、テーブルにFAX用紙をたたきつける。
幹子「逆ギレは卑怯だよ。短大生が一番かわいそう」
   次の瞬間、FAXが起動し、一枚のメッセージを排出。
   それをとり、黙読する幹子。ニヤリとほくそ笑む。
幹子「最後にこんなFAXが届きました。いい加減にしろ! 貴様のやっ
 ているのは番組批評じゃない! 全国ネットでの吊し上げだ!...東
 京都の鯨井健史郎さん、45歳、報道局長」
   幹子、テレビカメラを見上げる。
   テレビカメラの向こう側に鯨井、JBCの社員一同がズラリと顔を
   揃え、幹子に視線を注いでいる。
   それを鼻で笑う幹子。
幹子「では、この意見に対し、視聴者アンケートをします。この番組は
 批評じゃない、吊し上げだと思うか、どうか。結果は明朝午前4時に
 出ます。もし番組批評じゃないとすれば、この番組は今回で打ち切
 ります」
社員一同「(感嘆し)おお!」
幹子「なお、次回の評論テーマはニュース番組。では、評決を!」
   テレビカメラのランプが消え、フロアディレクターが叫ぶ。
フロアディレクター「オンエア終了です!」
   幹子はFAX書類を整理し、鯨井の横を通り過ぎていく。
鯨井「二本柳幹子....」
   幹子、足を止める。
鯨井「昔、JBC報道局を相手にスクープをモノにした伝説の女
 パパラッチ...」
幹子「ビデオジャーナリストだ」
鯨井「これがジャーナリストのやり方か?」
幹子「ニュースはスタイルじゃない....」
   幹子、振り返り、鯨井を睨みつける。
幹子「伝えるべき本質と伝えようとする熱意の結晶。違う?」
鯨井「来週、楽しみにしているぞ」
   幹子、ニコリと微笑み、行ってしまう。
   鯨井の事業局長がつぶやく。
事業局長「アンケートの結果次第で打ち切りかもしれないのに...」
鯨井「それはないな」
事業局長「え?」
鯨井「何もかも見抜いているよ....」

■(午前4時)JBC−NET・オフィス
   パソコンのモニターには投票の統計がリアルタイムにチャート
   表示されている。
   プリンターから排出される書類。それを手に取る佐和子。
   「吊し上げだと思わない」のグラフが圧倒的多数。
   インサートする鯨井の声。
鯨井「(声)人々がいま、何を知りたがっているのか。こっちも相当
 な覚悟でいかなきゃ喰われるぞ!」

■(翌日)JBC・報道スタジオ
   テレビカメラに向かって語る鯨井。
鯨井「テレビはニュースなくしてここまで発展できなかった...」

■同・技術局カメラ倉庫
   テレビカメラを整備している技術職員。
   脇のモニターの中で演説している鯨井の姿。
映像の鯨井「...どんなに言葉が巧みな権力者がいたとしても、ブ
 ラウン菅を通じて伝える表情に、視聴者は真実を悟ってきた...」

■同・編成局アナウンス部
   デスクで化粧をなおしている女子アナたち。
   頭上のモニターの中で演説している鯨井の姿。
映像の鯨井「...どんなに優れた知能犯でも、アナウンサーが伝え
 る犯罪者の顔と情報の前に、逃げ通せることができなかった...」

■同・営業局オフィス
   営業マンたちがモニターを見ている。
   モニターの中で演説している鯨井の姿。
映像の鯨井「ラジオや新聞ではできない情報を、我々は伝え、
 そして貢献してきたのだ」

■同・報道スタジオ
   テレビカメラに向かって語る鯨井。
鯨井「いま、JBCはその報道を失おうとしている」

■同・本部報道センター
   報道記者、局員たちが真顔でモニターを見ている。
   モニターの中で演説している鯨井の姿。
映像の鯨井「私はいまの報道が正しいと信じている。だから来週
 月曜日、私は死ぬ気で報道局を守ることを約束する」

■同・番組審議会・会議室内
   審議委員と事務局長が集まり、テレビを見ている。
映像の鯨井「無論、キミたちの言論の自由は保証する。誹謗、
 中傷、流したければ流せ」
   モニター画面が暗転し、文字で「社内放送/終」と表示される。
声 「以上、報道局から、緊急社内放送をお伝えしました」
   委員Bがリモコンを取り、テレビをOFFする。
委員B「まるで選挙活動ですね」
委員A「彼、全共闘世代だから」
事務局長「でも、確実に効いてますよ。報道局からのタレコミ情報、
 今のところゼロです」
委員C「そうか。それはやり辛いなあ」
委員B「それで? 対する社長側の司会者は?」
委員A「準備は順調ですか?」
   事務局長の露骨な戸惑いの表情。
事務局長「それが...」

■都内の街路
   幹子がバイクに乗って走っている。
   シーンにインサートする事務局長の声。  
事務局長「(声)一週間、休暇に入ってるんです。もともとフリーの
 方ですから、契約上は差し障りがないんですが...」

■東京タワー・特別展望台
   ヒマそうに客を待つみやげ屋の売り子(AB)。
   売り子(AB)の視線の先では、幹子が東京の街を見ている。
売り子A「あの人また来ているよ...」
売り子B「え? また? これで6日間連続だよ」
売り子A「また一日中、ああしてマイクの前に座り込んでるのかな」
売り子B「なんか、気持ち悪いよね」
   売り子らの前に、あらわれる矢沢。
矢沢「それ、一つ...」
   矢沢は、東京タワーの金のミニチュアを購入し、幹子のもとに行く。
矢沢「いよお...」
   ハッとする幹子。矢沢が東京タワーのミニチュアを差し出す。
幹子「何?」
矢沢「佐々木へのみやげ」
   とたん、幹子は爆笑。
幹子「泣くだろうなー。あいつ」
   矢沢は双眼鏡を覗き込む。
矢沢「で? 何を考えている? 毎日ここにきて...」
幹子「...いやさー」
   幹子は眼下に広がる東京の俯瞰に目を馳せる。
幹子「ここから発信される電波を何人の人がみているんだろうって
 思って...」
   矢沢はほくそ笑む。
幹子「(恥ずかし気に)笑うなよ」
矢沢「いや。オレも昔、同じことを考えたことがある...」
幹子「え?」
矢沢「1989年、イラク軍がクウェートを侵攻し、バクダッド特派員が
 巡ってきたときだ。ちょうど今、オマエがたっている場所で、こう
 して眺めながら考えていたんだ。これからオレが伝えるであろう
 出来事に、どれだけの人生が影響されているのか...」
幹子「それで? 答えは?」
矢沢「約4022万人、のべ153万世帯だ。もっとも、全国ネットとな
 ると、また話は別だが...」
幹子「4022万人か。実感わかないな...」
矢沢「ああ。だから怖い」
幹子「怖い?」
矢沢「自分で実感できないほどの人々に、殺し合いを見せるん
 だってことに気づいた」
幹子「.....」
矢沢「因果な商売だよ」
   矢沢は降下エレベーターへと歩いていく。
幹子「それでも特派員を受けたのはなぜ?」
矢沢「信じたんだ」
   矢沢は振り返る。
矢沢「視聴者がそれを見て戦争のない未来をつくると...」
   矢沢はエレベーターに乗り込み、ドアが閉じる。
   矢沢の言葉に呆然としている幹子。

■(月曜朝)とある家庭の玄関先
   出かけの夫を、いまいましく見送る妻。
妻 「今夜も遅いんでしょ?」
夫 「今夜は早いかな」
   へ? という顔の妻。

■とある駅前広場
   会社員が携帯電話をしている。
会社員「残業ですか? いやー、今夜はちょっと用がありまして...」
   その横で学生が携帯電話をしている。
学生「すいません。今夜の夜勤、今日だけ交代できませんか?」
   さらに横で女子高生が携帯電話している。
女子高生「ゴメン。今夜はダメ。なんか気分的に」
   それぞれが携帯電話を切り、ホッと一息。
   彼らの頭上の大型テレビがCMを流す。

■テレビ画面
   ハデな演出とBGMのCMが流れている。
アナウンサー「JBCはニュースを棄てるのか? それとも信頼を回復
 するのか? いよいよ今夜9時、運命の評決が下されます!」

■JBC−NET・オフィス
   コンピューターサーバーの前で慌ただしく動く佐和子とオペレー
   ターたち。
   それを背後から見ている矢沢。
   佐和子は疲れきった様子で矢沢のもとへ歩き、
佐和子「まだ午後6時をまわったばかりなのに、投票ホームページ
 のヒット数が五百万件を突破しました....」
矢沢「.....」

■JBC・スタジオ
   ステージ上のイスに腰掛けている鯨井の姿。
   鯨井は腕時計を見る。
   時刻は間もなく午後9時...。
   鯨井は階上の副調整室の方に向かって叫ぶ。
鯨井「本当にギリギリまでこないな?」

■同・副調整室
   パネルモニターにはスタジオで叫ぶ鯨井の姿。
   レベッカ、PD、スイッチャーと技術スタッフたちがモニターを見ている。
   PDとスイッチャーがこそこそ話している。
PD「二本柳さん。結局、一回もリハーサル出てこなかったな」
スイッチャー「なんか不安だな」
   幹子が入ってくる。
   PDがQシートを差し出す。
PD「二本柳さん。これが今日の予定です...」
   幹子はPDの手をはねのけ、レベッカの前に立つ。
幹子「一つ、約束してくれない?」
レベッカ「.....?」
幹子「何があっても、放送は最後まで流すって」
レベッカ「いつものことじゃない」
   幹子はレベッカに掌を差し出し、
幹子「ちゃんと約束して」
   レベッカ、幹子の手をにぎり、握手する。
レベッカ「これでいい?」
幹子「ありがとう」
   幹子、脇の扉からスタジオに下っていく。
   レベッカは腰を下ろす。

■同・スタジオ
   ステージ上にあがる幹子。
   鯨井の前に立ちはだかる。
幹子「まず、カメラの前で宣誓しろ...」
鯨井「断る」
幹子「報道局長としての責任を果たせないのか?」
鯨井「放送法第3条、放送番組は法律の定める権限に基づく場合
 でなければ、何人からも干渉され、又は規律されることがない....
 この条文がある限り、キミは私に宣誓の強制はできない」
   幹子は鼻で笑う。
幹子「よろしい」
   幹子はハガキを手に取る。
幹子「このところニュースの誤報が目立ちます。間違ったことに対
 する責任を明確にしてください。北海道の黒岩さん、29歳、公務員」
鯨井「電話番号は載っているか?」
幹子「ああ」
   幹子はハガキを鯨井に手渡す。
   鯨井は自分の携帯電話を取り出し、電話をかける。
鯨井「もしもし。JBC報道局長の鯨井健史郎だ。キミの意見では、
 まるで我々が無責任な報道をしているように聞こえるが?」
黒岩「(声)違うの?」
鯨井「我々は誠心誠意、正確な情報を伝えるように努力している。
 もし、我々が伝える情報が間違えている可能性があるとすれば、
 どんなニュースなのか、具体的に例をあげてもらいたい」
黒岩「(声)それは...」
  電話が一方的に切られてしまう。
  鯨井は携帯電話を懐中に落とし、幹子を見る。
鯨井「次のハガキを....」
幹子「.......」
   幹子、次のハガキを手に取る。

■同・報道局オフィス
   テレビに釘付けになっている報道局員たち。
   テレビでテキパキと処理する鯨井の姿に報道局員たちが
   感嘆の声。
社員A「互角にやりあってるよ!」
社員B「局長もかなり気合い入ってるよ」

■同・スタジオ
   幹子がハガキを読んでいる。
幹子「記者クラブという情報のタレ流し制度があるから、記者が
 取材源となれ合って、記者の質が落ちるんじゃないんですか?
 神奈川県、横澤さん 45歳大学教授」
  ニンマリと微笑む鯨井。
鯨井「この方はご存じないようだ。たとえばホワイトハウスにはイン
 ナーサークルと呼ばれる記者クラブがある。特にこの記者クラ
 ブは4大ネットワークと有力新聞しか入れない。ここに入って
 いる者は記者会見場の席順、エアフォースワンの随行座席
 番号まで優遇されている。情報の平等性でいったら、
 日本の首相番記者なんか比じゃない」
幹子「だそうです」
鯨井「いートコついてるんだけどね、この横澤さん...」
幹子「....」
   幹子が卓上にハガキを置く。
   次の質問ハガキはない。
鯨井「これで終わり?」
幹子「.....」
鯨井「時間はたっぷりある。視聴者の皆さん、遠慮なくFAXを....」
   幹子と鯨井がしばし押し黙り、FAXを見る。
   FAXは起動する気配がない。
鯨井「では、午前4時の投票、待っている...」
   鯨井は席を立ち、ステージから降りようとする。
幹子「日本のテレビレポーターは、なぜ氏名を明かさないのか」
   鯨井は脚をとめ、振り返る。
鯨井「それはどなたから?」
幹子「ロス在住の二本柳さん、30歳、ジャーナリスト」
鯨井「いい質問だ...」
   鯨井は再びイスに腰をかける。
鯨井「そういう質問を待っていた....」
幹子「で、答えは?」
鯨井「必要ないからだ。視聴者はニュースの中味に興味があり、
 その記者が誰か、ということまでは必要ない」
幹子「しかし、その伝達者の責任が」
鯨井「責任はニュースの責任者がとればいい。たとえば、ニュ
 ース内容のミスは担当プロデューサー、取材体制のミスは
 報道局長の私になる....」
幹子「つまり、記者が一個人として、ニュースの責任を負うこと
 はない?」
鯨井「当たり前でしょう。そんなことやってたら、記者のクビが
 いくらあっても足らない」
   テレビ局中の電話が鳴り響く。
   さらに卓上のFAXが稼働し、次々とFAXを吐き出す。
幹子「アンタ、いま自分が何を言っているか理解してる? 
 責任を放棄したことになるんだぞ! 愛知県の戸村さん、
 34歳公認会計士」
鯨井「責任はトップがとるっていってるだろう」
幹子「つまり、トップをすげ替えればいいってことのように聞
 こえますが? 福岡県の安西さん、25歳、会社員」
鯨井「それは解釈の問題だ」
幹子「私は某家電メーカにつとめています。4月から施行され
 た家電リサイクル法で、製品の処理の責任が、製造する我々
 にも責任が負わされました。同じ民間企業として、納得がい
 きません。茨城県の島田さん、39歳、エンジニア」
鯨井「平等、不平等で片づける問題じゃない」
幹子「私はテレビニュースを信用できません。高知県五十嵐
 さん、47歳主婦」
鯨井「だったら見なきゃいい。テレビをつけるのも消すのも、
 貴方の判断だ...」
   同時に卓上のFAXが用紙を一気に吐き出し、液晶画面
   にエラーのランプを点滅させる。
   慌てて駆け寄るフロアディレクター。FAXを開けて、
フロアD「完全に壊れてます...」
幹子「代わりのを!」
   フロアディレクターはインカムで副調整室のPDに、
フロアD「用意できますか?」
PD「(声)ムリだ」

■同・副調整室
   モニターに映るスタジオのフロアDを見ながらマイクにしゃ
   べるPD。
PD「テレビ局中の電話、ファックス、テレックス、ネット回線、
 すべての通信がブラックアウトしている!」
フロアD「じゃ、どうすれば...」
   と、同時にパネルモニターの映像が一斉に消え、室内が真っ
   暗になる。
   プロデューサー席のレベッカが立ち上がる。
レベッカ「何?」
   再び室内、モニターに電気がつく。
フロアD「非常電源に切り替わりました」
   内線電話が鳴り響き、レベッカが受話器を取る。
レベッカ「わかった。ありがとう」
   レベッカは電話を切り、制御卓のトークバックマイクのスイッ
   チを入れる。
レベッカ「マスター(主調整室)からの連絡だと...」

■同・スタジオ内
   スタジオ中に響くレベッカの声。
レベッカ「(声)近くの送電システムに何者かがハッキングしたみた
 い。放送回線は生きているから。そのまま番組を続行して」
   鯨井は床に落ちたFAX用紙を一枚、拾い取る。
   そこには「テレビ局は完全に情報公開をしろ!」との文字。
幹子「どう? これがアンタら報道局に対する視聴者の答え」
鯨井「キミはどう思う? 私は何か間違ったことを言ったか?」
幹子「それは視聴者が決めることじゃない?」
   鯨井は再び手元のFAXに目線を落とす。
鯨井「......そうか」
   鯨井は決意し、フロアディレクターを睨む。
鯨井「いま、どのカメラが映している?」
フロアD「2番です」
   鯨井が2番カメラにカメラ目線で語る。
鯨井「報道局諸君に告ぐ...」

■同・報道局オフィス
   テレビを見ながら驚いている報道局員たち。
   テレビの中にはカメラ目線の鯨井。
鯨井「今から全てに渡る取材制限を解除する」

■同・本部報道センター
   テレビを見ながら驚いている報道記者たち。
   テレビの中にはカメラ目線の鯨井。
鯨井「記者諸君は、現在持っている情報を速やかに公開しな
 さい...」

■スタジオ
   鯨井はイスに座り直し、幹子を見る。
鯨井「よく見ておけ...」
幹子「.....?」
鯨井「これが完全な情報公開だ...」
   2人の前のテレビモニターが警告音とともに「ニュース
   速報」の文字を点滅させる。

■某外資系石油会社・広報室
   次々と鳴り響く電話、FAX。
   それに対応している夜勤の広報担当者。
広報担当「なんてことをするんだ!」
   憎悪むき出しの視線をテレビに向ける。
   テレビには警報音とともに「ニュース速報」の文字が
   点滅する。
   「全てのアラビア半島産出の石油が2020年までに
   枯渇する見通し」

■都内某所
   X国大使館の前に群がる報道記者たち。

■同・大使館内
   パイプをバキッとへし折るX国大使。秘書官に怒鳴りちらす。
大使「至急、本国の大統領に電話を!」
   X国大使がテレビを見る。
   警告音とともに「ニュース速報」の文字が点滅する。
  「X国大使が日本のM工業首脳と密会、長距離核弾頭の開発を交渉し
   たが失敗」

■JBC・スタジオ副調整室
   パネルモニターには警報音とともに次々と、矢継ぎ早
   に流れる「ニュース速報」。
   呆然と見ているPD。
   その前でスイッチャー制御卓を操作しているが、
スイッチャー「鳴り止まない!」
   ドアから入ってくるAD。
AD「本人と視聴者から苦情が殺到しています!」
PD「社長....」
   レベッカは腕を組み、ジッとモニターを見たまま。

■JBC・スタジオ
   モニターに次々と流れるニュース速報。
   幹子、それを見ながら呆然としている。
鯨井「(声)これがキミたちの望む、完全な情報公開だ」
   ハッと振り返る幹子。
   背後で鯨井が腕を組んで立っている。  
鯨井「確か、キミはニュースは伝える熱意と意志だと言ったな」
幹子「.....?」
鯨井「ニュースなんてものは犠牲だよ。我々が伝えているこ
 となんてのは、結局のところ人が起こした失敗でしかない。そ
 の最小限の失敗を知らせることで、社会全体の損失をくい止
 めている...」
幹子「....」
鯨井「そのために、時にはミスをするフリをして、業界に警戒を
 促したり、あるいは伝えないことで、新たなパニックを防ぐ...」
   鯨井は卓上のFAX用紙を拾い取る。
   そこには「テレビ局は完全に情報公開をしろ!」との文字。
   鯨井はFAXを2つに引き裂く。
鯨井「それが責任ある報道記者の仕事じゃないのか?」
幹子「.....!」
   幹子は崩れるように座り込み、悔し気に拳を何度も床に叩く。
   鯨井はフロアディレクターに叫ぶ。
鯨井「あと何分?」
   フロアディレクターが「あと1分」とのカンペを掲げる。
鯨井「もういいよ。司会者をカメラの前で醜態をさらすな。みっともない...」
   鯨井は席を立ち、スタジオから出ていく。
   一人、ステージ上で悔しがる幹子の姿。

■同・副調整室
   パネルモニターには何度も拳を床に叩く幹子の映像。
   それを痛々しく見ているPD、技術スタッフたち。
PD「(スイッチャーに)CM、入れよう」
   レベッカがPDを手で阻む。
レベッカ「あと30秒...」
PD「しかし....」
レベッカ「約束したでしょう。彼女がステージ上にいる間は放送するって」
PD「はあ....」
   レベッカはパネルモニターの前に立ち、ジッと幹子の映像を見ている。

■(午前4時)JBC−NET・オフィス
   キーボードを打っている佐和子。
   パソコンモニターには「圧倒的多数により報道局は存続される
   こととなりました/JBC」と書いている。
佐和子「片や正論、片や持論ですからねー」
矢沢「ベストは尽くしたんだ。今は健闘をたたえようじゃないか」
佐和子「これでJBCの報道局の巻き返しが起こるんですかね」
矢沢「そう思うか?」
佐和子「え?」
矢沢「よく言うだろう。試合には負けても勝負には勝ったって」

■JBC・報道スタジオ
   ニュース番組を伝えているキャスター。
キャスター「本日のゲストは、昨夜、番組で熾烈な激論を展開し、見事、
 報道局の存続を勝ち取った鯨井健史郎報道局長です」
   憮然とゲスト席に座っている鯨井。
キャスター「まずはおめでとうございます」
鯨井「どーも」
キャスター「番組批評の司会者が責任をとって降板したようですね」
鯨井「そうらしいね。まったく、バカげた騒ぎをお見せして申し訳ない」
キャスター「これで一応、報道局が見ている視聴者から信任されたと
 いうことになりますが、それについてどう思いますか?」
鯨井「これから課題は多いね...」

■同・副調整室
   パネルモニターには、得意満面の鯨井の映像が映る。
映像の鯨井「だいたい潔癖性なんですよ。この国の人種は!」
   それを見ながらPDがスイッチャーに呟く。
PD「CM...」
   スイッチャーが切り替え、モニターにCMが流れる。
   PDがインカムマイクに呟く。
PD「ライトチェンジ...」

■同・報道スタジオ
   キャスターに得意満面に語っている鯨井。
鯨井「清濁併せて世が成り立つ。これからは、そういったことを局と
 してキャンペーンして行かなきゃ....」
   壁付けの照明装置を操作する美術スタッフ。
   同時に鯨井の上の照明が動き、金属音が鳴る。
鯨井「.....?」
   鯨井が見上げると、頭上から照明ライトが落ちてくる。
鯨井「.....!」
   すさまじい轟音がスタジオ内に響く。
   次の瞬間、鯨井がライトに押し潰されて死んでいる。
   フロアディレクターが駆け寄り、鯨井の脈を取り、インカムで語る。
フロアD「死にました...はい」
   フロアディレクターは何事もなかったように、
フロアD「(キャスターに)CMあけます」

■成田空港・ターミナルラウンジ内
   ラウンジのテレビが鯨井死亡のニュースを伝えている。 
アナウンサー「警察は事件と事故の両面から捜査しています」
   その横をカートを引いて歩く幹子の姿。
   幹子の鼻先に差し出されるプレスカード。
   見上げると、矢沢が立っている。
矢沢「レベッカ社長からのプレゼントだ」
   幹子はプレスカードを手に取る。
   IAPA(Inter-American Press Assosiation)と書かれたプレスパス。
幹子「米州新聞協会のプレスパス!」
矢沢「いまの気持ちを一言...」
   幹子はプレスカードを首に下げ、
幹子「喋りすぎにはご注意を」
   幹子は堂々とゲートへと入っていく。




カメラの前でザンゲしろ/ END