※画像は全て自作です
キャラクター
−頻度順−
幹子
【本名】二本柳幹子
【役職】ビデオジャーナリスト
【特徴】マスコミ志望であったが、その性格の危険性から嫌煙され下請けのテレビカメラマンに。とある日、首相の不審な行動を探るうちにスクープを発見。それを押さえようとするJBC報道局と熾烈な闘争を繰り広げ、ビデオジャーナリストとして自立する。(第一話) その後、佐々木とともにアメリカ西海岸に渡り、熾烈なスクープ合戦の毎日を繰り返していたが、JBCが外国テレビ系列に買収、レベッカ新社長は幹子を帰国させ、自局批評番組の司会に抜擢。大規模なリストラを敢行し、日本のテレビメディア業界を震撼させた。

佐々木
【本名】佐々木和利
【役職】ビデオジャーナリスト
【特徴】幹子の忠実な部下として、JBC報道局と壮絶な戦いを体験した。本格的なジャーナリストになろうとする幹子が渡米を決意すると、佐々木も一緒についていった。

矢沢
【本名】矢沢顕一
【役職】JBC−NET社長
【特徴】かつてJBC外報部記者として辣腕をふるい、報道局長に就任。だが政治との癒着構造を目の当たりにし、子会社のケーブルテレビの社長に就任。幹子をVJとして起用し、JBCの報道陣と壮絶な攻防を展開した。幹子のが渡米後、幹子の友人・佐和子と出逢い、光ファイバーを利用したインターネットプロバイダーを起業、JBC系列の中で唯一の黒字産業となる。

佐和子
【本名】布施佐和子
【役職】JBC−NET副社長
【特徴】二本柳の渡米後、CATVの番組ディレクターとして10本の番組を仕切る。だが、おりからの不況でCATVは倒産。通信施設を使いブロードバンドに対応したインターネットプロバイダを起業し、なかなかの成績を上げている。

レベッカ
【本名】レベッカ・レイボーン
【役職】JBC新社長
【特徴】ビバリーヒルズで出生。ハリウッドの老舗映画会社「EOX」の会長であるスティーブ・レイボーンを父にもつ。生後4ヶ月で銀幕デビュー。子役とマンツーマンの英才教育をこなしながらハリウッドビジネスを経験し、7歳でEOX経営会議に出席。11歳で映画ネット配信会社「EOX−WEBエンターテイメント」を開設、年間4億ドルの売り上げを誇る成功を収める。EOXの合併にともないJBCの新社長として赴任。官僚化しているJBC、日本の放送業界の改善のため、番組批評と称したリストラ裁判を断行する

角谷
【本名】角谷 治
【役職】JBC社長代理
【特徴】元JBC編成局長。報道局長を経て編成局長になる。報道局時代は政治との癒着構造によって出世。ワールドカップ誘致にまつわる首相スキャンダルのもみ消しを計るが、幹子がそれをスクープ、壮絶な闘争をするも敗退した(→「VJ」)。その後海外支局顧問の窓際に追いやられていたが、JBC内部の混乱、加えて今回の事件で内閣広報官の政治力で社長代理に就任。

松崎
【本名】松崎優一郎
【役職】内閣広報官
【特徴】元郵政官僚。根回しに長けており、今回も米国政府へ配慮し、レベッカ帰国をくい止め、社長代理に角谷を擁立。

ムハンマド
【本名】アブドル・ムハンマド・サラーム
【役職】A国情報長官
【特徴】海外留学経験がありマスメディアの影響力を学ぶ。A国で唯一といっていい頭脳派官僚で、国際評判ガタ落ちの国内のアピールに奔走。そんな中でやってきた幹子の行動に一定の理解をしている。

アサム
【本名】アサム・アフメド・モラール
【役職】ガザフ師の替え玉
【特徴】中東某国名家の家系で80-90年代には日本に留学し、不法労働をしていたが、母国に帰国後、極右グループに誘われてアフガンに。天下の女ったらしで、彼の名言は「もし、私がテレビに映れば世界の主婦たちは自分の人生が誤っていたことを確信するだろう」。相当な自信過剰だと周囲はいうが、それは留学中の日本がバブル期であり、その時の「ヤンエグ志向」の名残。このテイタラクが名家追放・部下たちの「西洋敵視」の的になっている。ちなみに彼は日本留学中、番組制作会社のADをしており、コキ使われていた。幹子とも面識があり、上野界隈の遊び場に異様に詳しい

ガザフ
【本名】アフメド・ガザフ
【役職】イスラム原理主義指導者
【特徴】中東某国名家家の家系。アサムとは遠縁の親戚。湾岸戦争のときに自国に米軍が駐留したことから自国を見きり、西アジアA国へ。原理主義の復古を唱え、テロ事件を次々とおこす。95年の中央アフリカの国連環境計画ビル爆破事件の際、米軍特殊部隊により暗殺される。その後、彼の遺志を引き継ぐ形で、アサムがガザフに化けて聖戦を続行している

コメント
脚本:なるせりょう
 この作品は皆様の「声」によって創られた作品です。先日のNY世界貿易センタービル崩壊事件に端を発した一連の「アフガン情勢」。私は暴力や戦争は嫌いです。特に航空機に乗っていた被害者たちのことを考えたとき、この事件がいかに非人道的・非生産的なことかがわかります。これらの状況を配慮して、私は1年間、こうしたテロ関連の作品の凍結をしようとシナリオステーションに発表しました。しかし、それから一ヶ月の間に、読者の皆さんから「それは違うだろう」が届きました。それは「クリエーターだったらむしろ作品で意見を言え」というものでした。確かに、私たちはこうした時、被災者に気持ちを考えるといいつつ、口を噤んでしまいがちですが、むしろ、こうした事件を二度と起こさないためには、声を大にして、反対の意志を表明することが大切なことだと判断し、この作品をつくりました。  しかし、作品を創っているうちに、当初の想定したプランからだんだんと方向性がかわってきました。まず第一に日本人フリージャーナリストが捕虜として捕まったこと。この事実は、この作品の前半部で強いメッセージ性を持っています。それは捕まった記者に対してではなく、それを伝えるテレビ局側の興味本位の反応でした。これは「VJ」および「VJ2」から継続しているテーマ...「日本の報道現場たちの意識の低さ」です。
 また作品を制作するにあたり、「だったら誰が悪いのか?」という問題に突き当たりました。世界貿易センタービルに突っ込んだ犯人が悪いのか、それを指揮した人物が悪いのか...それを考えたとき、ふと私たちは最近、こうした同じパターンを繰り返しているのではないか、ということに気づきました。ベトナム戦争、リビア内戦、パナマ紛争、湾岸戦争...すべて悪質な指導者がいる、としているものの、その全てにおいて、誰かに吹き込まれているような感覚に陥ってなりません。こうした長い歴史を省みたとき、むしろ社会構造の中で、誰かが、どこかで、そうしたシナリオを組んでいるのではないか。それは私たちが生まれるはるか依然から存在し、この平和な社会を構成する上でも不可欠な役職だったのではないかと。
 こうした広い意識にたったとき、幹子がインタビューすべき人物は誰か? その答えこそ作品後半部にあります。
 最後に 月並みではありますが、被災者に対して追悼とご冥福をお祈り申し上げます。この事件は私たち人類の歴史に深い傷をつくりました。この傷を癒やす手段は、現段階ではありません。ですが、人類は愚かな生命体ではありません。いつの日か必ず被災者の納得のいく答えを出していくことだと信じております。(2001.12.01)
■西アジア・某国上空(夜)
  対空砲火の嵐の中を木の葉のように飛行する米軍大型輸送機。

■同・機内
  コックピットで恐る恐る操縦している機長と副機長。
  機長はカーゴの方をむく。
機長「これで高度はギリギリだ。本当にやるのか?」
  カーゴでは、ハッチを開き、パラシュートを背負って出ようとする兵士の扮装
をした二本柳幹子。
  幹子はピッと指で「サンキュー」のサイン。
  幹子、ドアから天空へとダイブ。

■某国上空
  対空砲火の光輝く中をパラシュートが開き、降下していく幹子。
  が、パラシュートは風に揺られ、対空砲火砲の真上へと降下していく。

■米軍輸送機内
  パラシュートの行方を見ている機長と副機長。
機長「風に流されている。マズい。失敗だ。敵のど真ん中に流された...」
副機長「作戦本部に連絡しよう。彼はどこの部隊の者だ?」
 と、副機長は無線のスイッチを切り替えようと操作パネルに手をかける。
 それを阻む機長の手。
機長「貴様は2つ間違えを犯している」
副機長「え?」
機長「彼ではなく、彼女だということ、そして彼女は戦闘員じゃなく...」

■某国の大地
  幹子は降り立ち、サーチライトに照らし出され、包囲される。
  ダイビングバイザーを脱ぐ。砲撃の明かりに照らし出される幹子の顔。
  幹子はデジカメをかざしながら叫ぶ。
幹子「アイアム・ビデオジャーナリスト!!」
  タイトルコール「VJ3−世界を震わす悪いヤツ−」

■東京・渋谷109前
  行き交う人々が立ち止まり、呆然と見上げている。
  ビルに掲げられている大型液晶テレビ。
  アナウンサーがニュースを伝えている。
アナウンサー「日本人ジャーナリストが拘束されました」

■JBC・報道特設スタジオ。
  報道を報じているアナウンサーブースの横で、電話をしている報道局員たち。
  局員が電話を切り、報道局長のもとに歩む。
局員「現地に出ている特派員に当たりましたが、ウチの局ではありません」
報道局長「米兵をスキャンダルで脅して戦場の上空からダイブだと?
 ったく。どこのバカだ?」
  テレビモニターの一つのCNNのライブニュースが報じる。同時通訳の声が
ひときわ響く。
通訳「ただいま入った情報です。国防総省によると、拘束された日本人ジャー
ナリストの名前はミキコ・ニホンヤナギ...」
  ポロッとタバコを落とす報道局長。
報道局長「なんだと...!」

■西アジア・某国軍事施設庁舎
  砂漠の中に展開する軍事施設。

■同・庁舎内取調室内
  積み上げられている無数の日本製テレビ。
  テレビはABC、CBS、CNNなど、全世界の衛星ニュースを流している。
  それらの全てが幹子の顔写真を掲げ、幹子の経歴を伝えている。
ニュースアンカー「ミキコ・ニホンヤナギはフリーのジャーナリストで、数年前に
日本のテレビ局JBCの番組の中傷をオンエアし、不用社員をレイオフさせ、
不良債権に悩むテレビ局のスリムアップさに貢献した人物で...」
  自分のニュースを見ながら、呆然としている幹子。
幹子「えらい翻訳だな...」
  幹子、振り返る。
  室内はワイン、シャンパン、果実などがそろい、まさに特権階級扱い。 
幹子「それにしても。捕虜になったってのに、なんなんだよ、この待遇は」
取調官「上からの命令だ。貴方は貴重なゲストだ」
幹子「やれやれ。捕虜対策も最先端だね」
取調官「取り調べを続ける。貴方は何のために入国した?」
幹子「取材だよ」
取調官「戦場上空からスカイダイビングをして?」
幹子「そりゃ、大使館にいって入国許可証を出せといってもくれないだろう。
世界の人々はアンタたちのホンネを聞きたがっている。あの事件の真実に
ついても...」
取調官「噂通りの人物だな」
  取調官は白紙のノートを閉じる。
取調官「実は我々はすでに貴方の処遇を決定している」
幹子「それで? 銃殺刑? それともイスラム風に焚刑か?」
取調官「そんな悲観的なものではない」
  室内に入ってくるターバン姿の人物。
ムハンマド「政権広報・宣伝担当長官のムハンマドです」
  ムハンマドは名刺を差し出す。いかにも即席で、どこからマネたかわか
らない、飲み屋系のイラスト入りの名刺...。
  幹子は名刺に睥睨としている。
ムハンマド「貴方の処遇について検討させていただきました。貴方の過去
の経歴、キャラクター、イデオロギー。そして現在おかけている政府およ
び国際情勢から判断し、一つの決断に至りました」
幹子「決断?」
  ムハンマドは卓上にビデオカメラを差し出す。
ムハンマド「貴方でしかできないできないことです」

■世界を駆けめぐるニュース
  ニューヨーク。とあるオフィス。
  テレビはムハンマドの記者会見を中継している。
ムハンマド「我々は国防上の理由で海外報道を制限していたが、世界の
人々に対して、誤解を与える報道が欧米から流れている」
     × × ×
  ロンドン。とある家庭内。
  出勤、通学前の家族が揃ってテレビをみている。
  テレビはムハンマドの記者会見を中継している。
ムハンマド「そこで、現在拘束中であるミキコ・ニホンヤナギに限り国内の
取材を許可することに決定した」
     × × ×
  タイ。とある観光地。
  土産物屋の店頭でテレビを見ている日本人と現地人。
  テレビはムハンマドの記者会見を中継している。
ムハンマド「彼女は日本人だ。同じアジアの人間から見る目で我が国の
情勢を中立に報じてくれるはずだ」
     × × ×
  エジプト。とある酒場。
  酔いどれた面々がジッとテレビを見ている。
  テレビはムハンマドの記者会見を中継している。
ムハンマド「なお、彼女はフリーのジャーナリストだ。自分の報じるニュー
ス番組の契約先を探している。本人の希望から日本のテレビと契約した
いと申し出ている。日本のテレビ局に対し、これに対する明確な解答を求める」

■東京・大手町
  そびえ立つ民放連本部ビル。

■同1F・総合受付
  カウンターに群がる外国記者たち。
記者たち「ミキコ・ニホンヤナギと契約するテレビ局はどこだ?」
  それを阻むように叫んでいる受付嬢。
受付嬢「ただいま、それについて会議をしているところです!」
 

■同・会議室内
  各テレビネットワーク局社長たちが集まり、会議している。
A局社長「どうです? 貴方のところは?」
F局社長「いや。私のところはワールドカップの特集を組んでいるので」
N局社長「お宅は?」
J局社長「ウチもドラマの最終回特番に重なっている」
T局社長「おいおい。こんな美味しい話、どこも乗らないのか? 世界同
時配信だぞ」
N局社長「しかし、よりによってあの問題記者でしょう...」
F局社長「何年か前にJBCを吊し上げて無差別リストラ工作したヤツだろ?」
A局社長「この場合、やっぱり...」
  と、JBCのプレートがのった空席を見る。
N局社長「まだか? メディアの妖精は?」
  卓上のインターホンが鳴り、スピーカーから受付嬢の声。
受付嬢「お見えになりました」
  ドアが開き、入ってくるのは角谷。
角谷「お待たせしました」
N局社長「角谷...」
  ざわつく一同。
J局社長「おい、キミ。来る場所を間違えているんじゃないか? ここは民
放の責任者がくるところであって...」
角谷「この度、JBC社長代理に就任しました角谷です」
F局社長「社長代理? レベッカ社長は?」
角谷「現在ロスで休暇中です」

■ロサンジェルス・FOX本社 
  大きい牙体のボディーガードたちに囲まれて座っているレベッカ。
角谷の語り「何でも、FOX本社の重要な会議があり、しばらくこちらにこれ
ないようなので、私が代行させていただくことになりました...」

■東京・民放連幹部会議
  角谷の説明をよそに、ヒソヒソ話をしている民放各局社長たち。
A局社長「FOXとしても米国政府の手前、レベッカ社長の動きを警戒して
いるのでしょう」
T局社長「やれやれ。JBCは2人も軟禁者を出すとは。まだまだ一連の
内部混乱の後遺症が尾をひいていますな...」
 ゴホン、と咳をし、角谷は小声の揶揄を牽制する。
角谷「さて。会議を始めるにあたり、今回、特別に出席していただく方々
がいらっしゃいます」
  室内に入ってくるスーツの姿の2人。
角谷「総務省情報政策局長の筒井と、内閣広報官の松崎です」
  いかがわしい顔つきの面々。
J局社長「角谷社長代理。この場がどんな場所だか御存知ですか?」
角谷「私といたしましても、民間放送事業の重大な会議の場に臨席さ
せていただくのは、甚だ遺憾だとは思いますが、何分、情勢が情勢だ
けにご容赦ください」
松崎「本日は総理から折り入って皆様に要請があり、参りました」
社長たち「首相官邸の要請?」
  内閣広報官は書面を開いて読む。
松崎「そのまま読みます」

■西アジア・某国首都
  薄汚れた政府合同官庁舎に注目。

■同・情報広報省内オフィス
  CNNがニュースを伝えている。
  ブラウン菅の中で、民放各局社長が揃う中、民放連会長が発表している。
民放連会長「公正中立性となる要素がないこと。報道がきわめて一方的に
なる要素が見あたらないこと、そしていまの国際情勢から、この報道に
よって国際政治への影響力が強いことなどから...」
  ニュースを見ているムハンマドと幹子。
  興ざめしているムハンマド。
ムハンマド「日本って国は不思議な国だ。こんなオイシイ話を不意にするなんて」
幹子「責任をもつことが苦手な人種なんだよ。日本民族は」
  幹子は無関心気にビデオカメラのレンズを磨いている。
幹子「他の国は?」
ムハンマド「フランス系、ドイツ系のケーブルメディアが手を挙げている。と
いっても、だいたいが米国4大メディアの出資先だ」
幹子「合衆国政府の手前、自分たちは出れないが、代わりに海外提携を
使ってスクープを独占しようってハラか」
  幹子はビデオカメラを卓上に置く。
幹子「そこらへんはワールドエンタープライズのアメリカンメディアはぬかり
ないよな。90年代の、あの気違いじみた多国間メディア買収劇の背景には、
これからの時代が、こういう地域間抗争問題になることを見越してのことだろ?」
ムハンマド「で? どうする? キミの契約だ。我々はキミの判断に任せる」
幹子「私のクセのある日本語を理解してくれるところがいい」
ムハンマド「といっても、日本のテレビはキミを無視した」
幹子「ニュースはテレビ局だけが伝えるものじゃないよ」
  幹子はモバイルパソコンを取り出す。

■内閣府・広報官室
  広報官と総務省審議官が話している。
審議官「情勢としてはドイツ系メディアで本決まりですね」
松崎「その代わり、各局とも通信衛星の手配を優先させる方向で話をつけ
てもらおう」
 長椅子に座っている角谷を見る。角谷は時計を仰ぎ見る。
角谷「第一報から3時間45分...。通常の役所の危機管理としてはま
あまあなほうですがね」
審議官「...不満か?」
角谷「今回に限り、不十分です」
審議官「不十分?」
角谷「ハッキリ言って手遅れです」
審議官「何を根拠に?」
角谷「二本柳幹子。あなた方は彼女をまったく理解していない」
  角谷は卓上の書類を取り上げる。それは幹子の経歴の全てが書
かれた書類。
角谷「数年前、彼女と闘ったとき、彼女は身体を張って勝負してくるタイ
プだと決めつけていました...」
松崎「違うのか?」
 角谷はほくそ笑む。
角谷「彼女は先手先手を打ってくる頭脳プレーヤーです」
  ×  ×  ×
 広報官の隣の事務室。
 机の上の電話が鳴り響き、職員が受話器をとる。
 職員の顔が蒼白になる。
  ×  ×  ×
  広報官室内。
  角谷の話を聴いている松崎と審議官。
角谷「もっとも、気づいたときには海外支局顧問という窓際に落ちこぼ
れていましたが...」
  職員が駆け込んでくる。
職員「広報官!」

■都内某所
  下町の道をところ狭しと駆ける車。
  車はJBC−NETビルの前で急停止。
  車から降りる内閣府職員。玄関に駆け寄る。

■同・オフィス内
  シンと閑散としている室内。
  まるで夜逃げの跡のように書類やゴミが散乱している。
職員「(舌打ち)」
  と、そのとき片隅のほうで機械音。
  ハッとする職員。駆け寄るとそこにはFAXが。
  FAXは一枚の書類を排出する。
  そこには大きな文字で書かれている。
 「我々、このたびJBC系列から外れることになりました」

■客船・キャビン内
  無数のコンピューターサーバーが置かれている。
  それらを操作している布施とオペレーターたち。
  布施のコンピュータ画面には「送信完了」の文字。
布施「送りました」
  布施が振り返ると、アロハシャツ姿の矢沢。
矢沢「ご苦労さん」
  入ってくる社員。
社員「まもなく領海からでます」
矢沢「了解」
布施「オヤジギャグですか?」
矢沢「そーなの。最近、すっかりオヤジ入っちゃってさ。身体を動かすに
もおっくうだってのに、こんな修羅場に巻き込みやがって...」
  矢沢は立ち上がる。
矢沢「もっとも、それを快感に感じている自分もいるんだがな...」
  矢沢は出ていく。

■同・甲板上
  うーん、と背伸びをする矢沢。
矢沢「さあて。海賊旗でも掲げるかな...」
  カメラ、周囲をロングショットに。
  さんさんと降り注ぐ太陽光、そして蒼い海原。
  その中を優雅に航行する豪華客船...。

■西アジア・某国内
  店じまいしている店々。その前で眠り込むホームレスたち。
  その脇で星条旗を焼く集団。
市民「アメリカ帝國主義をぶっつぶせ!」
市民「聖戦に勝つのは我々だ!」
  それらを窓辺にゆっくり進むバン。

■同・バン内後部座席
  シートに座るムハンマドと幹子。
ムハンマド「どうした? カメラを廻さないのか?」
幹子「こんな茶番を映せって?」
ムハンマド「茶番だと?」
  幹子はバンから降り立つ。

■同・民家の前
  寝ているホームレスに歩む幹子。  
ホームレス「神の導きを...」
幹子「....」
  幹子はホームレスの襟元を掴み、思い切りターバンを引き
ちぎる。
  ターバンの胸元に黄金のネックレス、ロレックスの時計、
そして高価な靴。
  幹子は背後から追ってくるムハンマドに叫ぶ。
幹子「本当に貧しいヤツってのは、神さえも信じられない眼差し
をしているもんだよ」
ムハンマド「.....」
幹子「私はジャーナリストだ。不幸の演劇のレポートならブロー
ドウェイを当たるんだな」
ムハンマド「どこへ行く?」
幹子「本物の市民の声を聴かせてやる」
 幹子は家の戸口を開け、ズカズカと奥へと進む。
 テーブルの下に隠れている地元民夫婦と子供。
幹子「いい家だな。いくらで建てた?」
地元民「....」
幹子「もうすぐアメリカが爆撃にくる。すべて焼かれるだろう」
地元民「大丈夫だ。我々は神に守られている」
幹子「本気でそう思っている? 貴方のこれまでの人生を振り
返って見ろ。そして言え」
市民「誘導尋問だ」
幹子「このカメラで地球上の全ての人々に伝えられる。毎日を
汗して働く人、カネに溺れて心を見失った人、そしてアンタが
たが信じる神様にもだ!」
市民「.....」
幹子「私はアンタが今、考えている言葉が知りたい」
地元民「....戦争はイヤだ」
幹子「なぜ?」
地元民「失うばかりだ。家も、家族も。すべて奪っていく。三十
年前の戦争もそうだった。兄、妹。すべて死んでいった。
平和になって、工場の仕事につけて、やっと娘も生まれた。
大切な娘だ。私はこの娘を奪われたくない」
幹子「ありがとう。いい言葉だった」
 幹子はつかつかと歩き、バンに乗り込む。
幹子「次、行こう」

■コンピュータ画面
  画面の中で、幹子がレポートしている。
幹子「以上、二本柳幹子がお伝えしました」

■ワイドショー画面
  渋谷の道中の通行人をインタビューしているレポーター。
男子高校生「可もなく不可もなしってトコですか」
女子高生「あれだけ騒いだワリにはフツー」
サラリーマン「もっと肝心なことが知りたかった」

■内閣府・内閣広報官室
  テレビのスイッチをOFFにする。
  フーッとため息をつく松崎。その脇には角谷と秘書官。
松崎「世間の評判はあまりないようだな」
角谷「ま、平和ボケした日本ならではのコメントですよ」
松崎「世界的にはどうだ?」
  松崎は秘書官を見る。
秘書官「おおむね好意的ですね。特に途上国の中では共感を得て
いるようです。特に東南アジアでのインターネットの入会、コン
ピュータの売れ行きがのびています」
松崎「どう評価する?」
角谷「きわめて戦略的な段階を踏んでいますな」
松崎「戦略的?」
角谷「あれは対海外、というよりあの国の政権内へのアピールですよ」
松崎「意味がわからんな」
角谷「まあ見てなさい。あの放送が与えた意味の大きさを」

■西アジア・某国政府官舎内
  「首脳合議室」と書かれた扉から出てくるムハンマド。
  慌てて廊下を走っていく。
 
■同・ホテル
  カメラのレンズを磨いている幹子。
幹子「老師とのインタビュー?」
ムハンマド「昨日のレポートを見て決定した。こんなチャンスはめったにない」
幹子「へぇ。なかなかやるじゃん。あんたの国も」
ムハンマド「今日午後三時。場所は大聖堂だ」
幹子「一つ提案がある」
ムハンマド「何だ?」
幹子「せっかくだから生中継でやりたい」
ムハンマド「生中継?」
幹子「インターネット配信だ。手間はない」
ムハンマド「わかった」
  出ていくムハンマド。
幹子「教会か...いいシチュエーションだ」
  幹子は窓辺にたつ。
  窓の向こうにそびえ立つモスク。

■モスク内
  カメラをコンピュータと接続し、用意している幹子。
  やってくるムハンマド。
ムハンマド「猊下がお見えだ」
  幹子は振り返る。
  衛兵に囲まれてやってくる大きな顎髭の老人。
幹子「私は二本柳幹子、ジャーナリストだ。よろしく」
ガザフ「.....」
  ガザフは席に腰を下ろす。
  幹子はカメラのスイッチを入れる。

■コンピュータモニター内
  ガザフと幹子が対談している様子。
幹子「まず貴方の名前を教えて欲しい」
ガザフ「語る必要がない」
幹子「....?」
ガザフ「世界人民はすでに私の名前を知っている」
幹子「知っていてもそれを悪い代名詞として解釈している人もいる」
ガザフ「....」
幹子「名前は?」
ガザフ「氾イスラム同盟のガザフ・アリフだ」
幹子「....」
ガザフ「どうした? なぜ黙る?」
幹子「間違っているからだ」
ガザフ「私が? 何を?」
幹子「すべてだ」
ガザフ「間違っているのは貴方のほうだ。こんな蛮地まで来て取
材とは。もしもっとはやく私と出会っていれば、自分の人生は花
開いていただろう」
幹子「....!」
  幹子はツカツカと歩き、ガザフを叩きのめす。
  衛兵たちは幹子に銃をつきつける。
  慌てて幹子の前に立ち、阻むムハンマド。
ムハンマド「神前だぞ! 銃をしまえ!」
  かまわず幹子はガザフに叫ぶ。
幹子「そーゆーフレーズをいうヤツと昔、逢ったことがある!」
ガザフ「なんだと!」
幹子「1989年! 湾岸戦争で戦禍を逃れるため日本の某三流大
学に留学。バブル経済の中、飲み屋系のアルバイトにのめり込
む。94年、大学側の退学処分により母国に強制送還、彼の格
言は世界中の女性を虜にすること...」
  フフフっと笑うガザフ。
ガザフ「だから逢いたくなかったんだよ」
  ガザフは髭をとり、ターバンをぬぐ。そこには美青年・アサムの顔が。
アサム「久しぶり。幹子」
  同時に中継が途絶え、画面は灰色の砂嵐状態。

■CNNテレビ
  白熱の討論している解説者(ABCD)達。
解説者A「あの女記者はガザフを殴ったのは事実だ!」
解説者B「しかし、あれは替え玉だったというニュアンスがある」
解説者C「その証拠はどこにある?」
解説者D「いったいガザフはどこにいるんだ?」

■首相官邸内・記者会見場
  首相官邸で記者会見している官房長官。
記者A「ガザフ老師を殴ったことについてどう思いますか?」
官房長官「真相がハッキリしない今、政府としてはそのコメントは差し
控える」
記者B「これにより、あの国の中での彼女の立場が悪くなった場合、
日本政府としてはどう対処しますか?」
官房長官「どうと言われても...」
記者C「彼女は同じ日本人の人質でしょうか? それとも不法入
国をした犯罪者として扱うのでしょうか?」
官房長官「現段階ではコメントを差し控える」

■内閣府・内閣広報官室
  官房長官が松崎広報官を叱責している。
官房長官「何なんだ、番記者たちのあの態度は! くだらない論
議をふっかけやがって!」
松崎「あとで言っておきます」
  官房長官は行ってしまう。
  松崎、深いため息。
松崎「原因は何だ?」
  隣室から角谷が出てくる。
角谷「嫉妬ですよ。ヤツら若いから。自分たちが日頃怒鳴られて
いるぶん、外でああいう気ままにやってるヤツを見ると、無性に
いきり立つんですよ」
  おやっという松崎の意外な顔。
松崎「キミにもそういう時期があったのか?」
角谷「当然でしょう。一応、私もジャーナリストでしたから」
  松崎のシニカルな笑顔。
松崎「しかし、やってくれたな、え」
角谷「面白くなってきたじゃないですか」
松崎「不謹慎な...」
角谷「しかし、合衆国とEUではおおむね好評ですよ。ネットで
はヤツが殴ったシーンが溢れています」
松崎「しかし、日本としては...」
角谷「いえ、国内でも..」
  松崎はテレビをつける。
  テレビは朝のワイドショー。
  渋谷の街並みでインタビューに答える人々。
ティーネージャーA「すげぇじゃん。あの人、殴っちゃって」
女子高生「右アパーが効いていたよね」
サラリーマン「スッとしたよ。ホント」
  松崎はリモコンでテレビを消す。
松崎「私が言っているのは現地にいる在留邦人だ。中東、イス
ラム諸国では今朝がたから不穏な動きがある。イスラエルで
は一億ドルの懸賞金がでたとか...」
角谷「一億円か。うらやましいな。自分の命にそんな価値をつ
けられるなんて」
松崎「不謹慎な!」
角谷「しかし、これでヤツが帰ってきたら間違いなくヒーロー
ですよ。ワイドショーに引っ張りだこ」
松崎「何にせよ、彼女はこれでジャーナリストとしての生命が
絶たれたわけだ。明らかに政治への介入だ」
角谷「いっそ永田町で雇ったらどうです? 選挙も近いんだ
し。国対武闘派としていい役こなしてくれますよ」
松崎「バカを言いためえ。その前にこっちがコントロール不能
になる」
  松崎は席を立ち、窓辺を見る。
  樹木の向こうにそびえ立つ国会議事堂。
松崎「立場上、こっちは身動きがとれないんだ。何とかそっち
側で対処してくれたまえ。そうでければ窓際に追いやられ
たキミを救った価値がない」
  角谷は黙礼し、出ていく。
松崎「まったく。どいつもこいつも!」

■A国首都・郊外
  山岳地帯の中にあるトンネル。
  その中へと入っていくトヨタ製の四駆。

■地下都市・ウエノ
  四駆から降り立つ幹子。幹子は周囲を見渡す。
  大洞窟の中に展開する都市・ウエノ。
  歓楽劇場「ケイセイスカイライナー」、バー「シノバーズの
イケ」。
  西郷像が広場の中央のオイル噴水にたち、ハチ公の目
から火が出ている。
  幹子の後ろにたつアサム。
アサム「上野をイメージして造った街だ。日本留学時代に知
り合った連中と一緒に造った」
幹子「趣味が悪い...」
アサム「でも、みんな最先端の街として活気づいている」
  幹子はウーンと呻る。
幹子「東京の街もニューヨーカーから見ればこんなカンジな
んだろうな...」
アサム「ここなら軍事衛星も無人偵察機も感知できない」
幹子「ガザフを匿うにはうってつけってワケか」
アサム「何だと...」
幹子「アンタはそーゆー自信過剰なフリをしているけど、心
の底から小さいヤツだからな。どーせ、ヤツの影武者とし
て買って出たのも、兵士に守られて安全だからだろ?」
アサム「ミキコにはいつも、ウソがバレちまうな」
  アサムは頭をかく。
アサム「そう。ガザフ猊下はここににいる。ただ、オレから
はいえない。オレも命が惜しいし。言ったら一秒後には
即銃殺だ」
幹子「ゴタクはいい。逢わせろ」
アサム「ダメだ。猊下は我々以外にインタビューを受け付
けた試しがない」
幹子「誰がインタビューさせろって言った?」
アサム「え?」
幹子「だってムリだろ? 死人が言葉をしゃべるのは...」
   ハッとするアサム。
アサム「オマエ、いきなり何を言う?」
幹子「この際ハッキリしようよ。ガザフ老師はすでに死んで
いるんだろ?」
アサム「....」
幹子「だからアンタが影武者になって生きているフリをして、
戦争を続けている...」
アサム「幹子。ジャーナリストが憶測で物をいっていいのか?」
幹子「憶測かどうか試してみようか?」
  幹子はポケットからライターを取り出し、ハチ公のオイル噴
水に歩み寄る。
幹子「もし、ここで火災が発生したら、老師を避難させなければ
ならないわけだ...」
アサム「....」
幹子「見たところ、出口はここ一つ。さあ、この勝負、受けて出る?」
アサム「...わかった。認めよう。だから火をしまってくれ」
  幹子はライターをしまう。同時にその場にへたりこむ。
幹子「もう! はやく決断しろよな!」
  アサムは幹子を起こし、笑う。
アサム「ったく、かわってないな...いつも、勢いだけで真実
に迫っていく。人はそれを正義感という。正義感はいいものだ。
だがな、ここは日本じゃない。気をつけろ。オレはアラブという国で
生まれ育った。一つ間違えば命を落とす。今のミキコはそのギリ
ギリの壁を歩いている」
幹子「わかっているよ。命を落としてでもやり遂げたいんだよ」
アサム「なぜ、そう死に急ぐ? 昔っからそうだ。オマエは。真実の
ため、というが、本当はそんなこと、どうでもいい...むしろ、死に
場所を探しているようだ。過去に何かあったのか?」
幹子「自分の過去に興味はない。アタシが知りたいのは、アンタが
たのホンネだ」
アサム「オレたちのホンネ?」
幹子「極端な話、戦争なんてものは意地の張り合いだ。逆に平和
ってのはホンネを語り合って立場を理解することだ...」
アサム「わかった...明日、真実を教える。」

■(幹子の回想)ニューヨーク証券取引所・正面玄関
  2001年9月12日 米東部時間9:00AM-----。
  金属探知ゲート。警備員たちが鋭い視線で来客たちを迎えている。
  やってくるスーツ姿の幹子。いかにも証券企業のキャリアウー
マンのような姿。
  幹子は偽造パスを提示し、ゲートをくぐる。

■同・女子トイレ内
  幹子がアタシェケースを開け、携帯無線器を取り出す。
  無線をイヤホンで聴きながら、ハンディカムのビデオカメラを取り出
し、VTRをセットしている。
  イヤホンから聞こえる声1と2。
声1「飛行機を乗っ取った。まもなくニューヨーク上空だ。そろそろ標的
を教えてくれ」
声2「標的はニューヨークのワールドトレードセンターだ」
  ゲッという幹子の顔。慌ててトイレから飛び出す幹子。
  その拍子に携帯無線器からイヤホンが外れ、スピーカーから漏れ
聞こえる声2。
声2「諸君の健闘を祈る」

■同・廊下
  走る幹子。
  警備員が幹子を発見。幹子を追う。
  幹子は突き当たりの窓へと駆け寄り、カーテンを開ける。
  カーテンの向こうにはマンハッタンの摩天楼が並ぶ。
  その中で一際高さを誇張する世界貿易センタービル。
  そこにB747−400がビル中腹に突っ込んでいく光景。
  追いつく警備員もその光景に唖然。
幹子「(絶叫)やめろ!」

■(現在)地下都市ウエノ・ホテル内
  ガバリと悪夢から起きあがる幹子。
  シンと静まっている室内。
  冷蔵庫からミネラルウォーターを取り出し、グビッと一気に飲み干す。
幹子「(モノローグ)あの日の記憶がときどき夢に出る...」
  幹子は窓辺に歩み寄る。
  都市上部の洞窟の穴から閃光が輝き、遠鳴りの雷のような地響き
が聞こえてくる。
  それとは対照的に眼下の平和な街並み。
幹子「(モノローグ)もし、もう少し気づくのが早ければ...」
  ミネラルウォーターのビンを握りしめる。
  その圧力にビンが砕け散る。
  幹子の掌にはビンの破片で血潮が流れる。
幹子「(モノローグ)もう二度と血を流してはならない...」
  流れ出る血潮を舌でペロリと舐める幹子。その表情は決意に満ちている。

■同・宗教政権本部内廊下
  正装をしてあるく幹子とアサム、ムハンマド。

■同・ガザフ老師の部屋
  ずらりと並ぶ首脳陣たちを前に、一つの棺。
  棺にかかるカーテンを開くと、そこにはガザフ老師の遺体。
  幹子はビデオカメラをパソコンとつなぎ、遺体のカメラを向けて廻す。  
アサム「一九九五年の中央アフリカの国連環境計画本部爆破のとき、
アメリカ特殊部隊によって殺された...。猊下は常にアメリカによる
資本主義に対し、強い抵抗の意志を持っていた。かつて自分たちイ
スラムは、世界を制覇した国勢があった。それがユダヤ商人たちの
算盤勘定に踊らされるだけの貧しい国だ。こうした状況をかえるた
めに、猊下はまずイスラムの信仰の復活を掲げ、戦意を昂揚する
ことで、一つのまとまりをつくり...」
  ふと、アサムが幹子を見る。
  幹子はカメラをテーブルの上に降ろす。
幹子「言いたいことはそれだけか?」
アサム「なに?」
幹子「言ったろ? アタシが撮りたいのは、アンタらのホンネだって」
  ハッとする一同。幹子の態度にイラだつ。
アサム「これが我々のホンネだ」
幹子「おい、アサム。おまえ、コイツになるのにいくらで人生うった?」
  アサムも怒る。
アサム「これは奉仕だ。国家に対する忠誠心だ」
幹子「つまり、これだけの茶番にタダ働きをしたってことか」
  幹子はガザフの遺体に唾を吐く。
幹子「だから大学中退なんてバカな経歴をつくっちまったのか?」
  アサム、幹子を殴る。
  床に倒れる幹子。唇から滴る血を舐めながら微笑。
幹子「そうか。オマエは何にも知らされてなかったんだな。哀れだな」
アサム「何が?」
幹子「ムハンマド! オマエは知っているだろう?」
ムハンマド「なにを...」
幹子「歴史の真実を...」
ムハンマド「....」
  呆然としているアサム。
アサム「どういうことだ?」
幹子「アンタが心底慕っていたこの老人も、結局は良いように操られてい
たってことだよ」
アサム「何を言っているんだ?」
  幹子はスクリーンへと歩みよる。
幹子「よく見ていろ。これが歴史の真実だ」
 幹子はスクリーンを引きちぎる。
 そこには一人の西洋人がイスに座って見ている。
幹子「逢いたかったよ。アンタに」
アサム「何者だ!」
幹子「マーチン・オールド社の会長。ロナルドマーチン」
アサム「ロナルドマーチン...?」
幹子「といっても誰だかわからないだろうな」
  幹子はマーチを見ながら説明する。
幹子「人は彼のことを武器商人と呼んでいる。マーチン・オールド社は
アメリカ最大手の武器会社だよ。ロッキード社の大株主であり、3大
株式市場の最大の機関投資家であり、ユダヤ・マネーの実質上の
領袖、海外資産額、先進国銀行、為替投資額はロスチャイルド家を
遙かに凌ぎナンバー1。もちろん脱税額も世界トップだ。そして何よ
り、アフガン内戦、ベトナム戦争、湾岸戦争、こいつが世界の戦争
の歴史をつくってきた人物だ....」
  マーチンはギロッと幹子を凝視。
  幹子はマチーンのもとへと歩む。
幹子「ずいぶん探したぜ。アンタにインタビューするまでどんだけ修羅
場をかいくぐったことか...」
マチーン「私も会いたかった。私に辿り着いたのはオマエがはじめて
だ。だいたいのジャーナリストは、私の存在をしったと同時に怖れ
おののいていった。オマエは怖くないのか?」
幹子「あいにくアタシの身体にはサムライの血が流れていてね。そ
こらの神経がいくつかブチ切れているもんでね」
  フフッとマチーンは笑い、隣のイスに促す。
マーチン「それで? 何が聞きたい?」
幹子「質問はいくつもある。湾岸戦争でフセインを、イラン革命でホメ
イニをそそのかしたのはどうやった?」
マーチン「簡単な話だ。アメリカには在庫が有り余っていた。その処
分を行いたかった」
幹子「マッチポンプか...」
マーチン「戦争は儲かる。武器の開発、人が死ねば二乗で憎しみ
が生まれ、また戦争がはじまる。同時に、ヤツらは貧しい土地の
小さな人生にイヤ気をさしていた。それがヒーローになったんだ。
彼らの家族、親族は憎しみに支えられ、世界的名声を得ている...」
幹子「名声か。アンタらしいドライな言葉だよ。今回の事件も名声と
り引き替えか」
マチーン「そのつもりでいたんだがな。期待のヒーローが途中で死ん
でしまうという誤算が出てやや戸惑ったよ。でも、それがかえって
新たな展開を引き起こし、うまい具合に世界の人々に受け入れら
れた。新たな演出という点で、価値のある実験だった」
幹子「実験だった?」
マーチン「この国がここまで脆弱なシステムだとは思わなかった。昔
は、ナショナリズムさえかざせば何千の命が動いたが、ここの連中は
そこいらへんの意識が弱い。内戦後の先進国出稼ぎ運動で、やや
平和な空気を吸いすぎたようだ」
幹子「まるで平和を毛嫌いしているようだが」
マーチン「平和なんてものは非生産的で無意味なものだよ。何も生
まれない、何も人類の進歩に貢献しない。それは人類の歴史が
証明している。平和が何を生み出した? 人の心理の極地は自
己実現だ。自分が頂点に立ち、従えること。これは遺伝子レベル
まで刷り込まれた本能だ。誰もその本能を裏切れない。むしろ平和
は、この本能を否定した、きわめて偽善的思想だよ」
  マーチンは幹子のに迫る。
マーチン「そこはキミも同じだろう。ジャーナリストは不幸を売り物に
する商売だ。もし、このまま地球すべてが平和になったら、キミたち
の商売も必要なくなる。そうなればキミの才能の発揮する場所は
ない。そう、我々は必要な存在なんだよ」
幹子「だったら、なんでアンタ自身が武器をもって闘わない?」
マーチン「武器をもって闘うのは低レベルな次元の連中のやること
だよ。私は彼らを力とし、力の配分を調整し利益を生み出す。もし
バランスが崩れれば、人類そのものが滅亡する。しょせん頭の
悪い連中は自ら死んでいく。自然淘汰だ」
  マーチンはせせら笑いながらアサムを見る。
マーチン「そこにいる人物のようにな」
アサム「....」
マーチン「質問はそれだけか?」
幹子「ああ。それだけ語れば十分だ」

■ホワイトハウス
  パソコン画面の中に映るマーチンの映像を、信じられないよう
に見ている米国大統領と首脳たち。
  シーンに重なる幹子の語り。
幹子「今頃、アンタの言葉に世界の首脳陣達はビックリしているだろう」

■地下都市・ガザフ老師の部屋
  マーチンが立ち上がる。
マーチン「楽しかったよ。キミにあえて」
幹子「私もだ」
  そこにアサムが立ちはだかる。手には銃を持っている。
  アサムは震える手で銃口を向けている。
  そんなアサムをマーチンは凝視する。
マーチン「私を殺すのか? キミは自分の行為を理解しているのか?
 いいか、私の相続税の行方によって、今年度のアメリカ経済、来年
度の世界経済に影響がでる。キミはその責任をとれるのかね?」
  幹子はアサムにカメラを向ける。
幹子「何ならアンタの過去を洗いざらい公表してやろうか?」
アサム「幹子。おまえもヤツの味方か?」
幹子「そういう問題じゃない。これは私のインタビューだ。取材源を殺
すのは私が許さない」
  マーチンは腰をあげ、ドアへと向かう。
アサム「あんなヤツに俺達は支配されているのか? これからも、ずっと」
幹子「....」
アサム「幹子!」
幹子「....」
  老人がドアを閉じる。同時に大爆発。
  慌てて駆け寄るが、そこには無惨な光景が。
幹子「やっぱり...」
アサム「え?」
幹子「彼は私のインタビューに応じたときから黒幕としては死んでい
たんだよ」
アサム「...」
幹子「ヤツに感謝しろよ。あのときアンタが殺していたら、いま、こ
こは...」
  ハッとし、アサムは窓辺を見る。
  米軍の戦車が取り囲んでいる。

■A国首都・国際空港
  無数のテレビカメラに包囲されながら、航空機の前で握手してい
る幹子とムハンマド。
ムハンマド「国が落ち着いたらまた来てくれ」
幹子「どうも平和なリポートは私の好みじゃない。戦争がおこったら
来るよ。なにせ新政権の大統領があれとくるからな」
  と、幹子は隣で他国のインタビューに応じているアサムを指差す。
幹子「クーデターの準備が出来次第、伝えてくれ」
ムハンマド「そ、そんな...」
幹子「冗談だよ。冗談」
  そこにやってくるアサム。
アサム「そろそろ飛行機が出るぞ」
幹子「アサム。オマエしっかり政治しろよ」
アサム「わかっている!」
幹子「ムハンマド。このバカ頼んだぞ」
  ムハンマドはにこやかに手を振る。
  ドアがしまり、航空機は滑走路へ。そして大空へ。
  それを背景にレポートしているCNNのレポーター。
レポーター「こうして勇敢な日本人記者は帰国していきました」

■東京タワー(映像)
  東京タワーに激突する航空機の映像。
レポーター「しかし、この45時間後、羽田空港到着直前に謎の
操縦トラブルにより、東京タワーに激突しました。現在までのと
ころ原因は不明です。なお、搭乗していた日本人記者の生存
についても行方不明です...」

■首相官邸・首相執務室
  CNNのテレビがつしている。
レポーター「以上、CNNのトム・ストーンがお伝えしました」
  リモコンでテレビを消す手。その手はデスク下のホットラ
イン電話にのびる。
手の主「あ、大統領。一応、こちら側で処理しておきました。
ええ、ご心配なく。我々の国の言葉で、出る杭は打たれる、
とありまして。国民感情と一致したものなので....」

世界を震わす悪いヤツ/ END
戻る