ネイティブの何処が有り難いのか

外国語の学習というと、馬鹿の一つ覚えのようにネイティブ講師、ネイティブ講師と、絶対必要条件のように思われていて、英会話学校の宣伝にも「全員ネイティブ講師」などという台詞が必ず声高に叫ばれます。

宣伝に使う以上、「ネイティブ講師」である事が絶対的に良い条件だと考えているのでしょうが、講師がネイティブである事にどういうメリットがあるのでしょうか。ネイティブ講師の何処がそんなに有り難いのでしょうか。この点を冷静に考えてみましょう。



ネイティブ講師に期待できるもの

先ず、ネイティブ講師に期待できるものとして、どのような物があるか考えてみましょう。

当然、先ず第一に、正しい発音が聞けるという点が挙げられるでしょう。但し、ネイティブだからといって発音が良いとは限りません。

私は今までに、日本語、広東語、北京語のナレーションを千数百時間はやっていますが、日本語の本場である日本で、プロのナレーションを聞いても、合格点をあげられるものはあまり多くありません。対人口比で考えれば、しっかりしたナレーションが出来る人は1000人に一人もいないでしょう。

仮に1000に1人の割合で本当に頼りきれる発音の人がいるとして、例えば英語の講師を考えたとき、日本に住んでいる英語のネイティブが何人いるのか。そしてその中の何人が英語の講師をやっているのかと考えてみれば、一番有り難いと思われているネイティブの「発音」もそれ程ありがたいものでもないということが分かってくるでしょう。

ましてやそれが広東語となれば、日本に住んでいる人口で考えれば、英語を母語とする人の人口より、広東語を母語とする人の人口のほうが遥かに少ないのですから、その中にしっかりとしたナレーションが出来る人が偶然存在している可能性は更に低くなります。

ネイティブ講師に期待できるものの二番目は、自然な言い回しでしょう。これについても発音と同様のことが言えます。

私は毎日目にし、耳にする日本語を考えると、何時も暗澹たる気分になります。外国人には「日本語の文章をどんどん暗記しなさい」と言いたいのですが、外国人が安心して暗記できる文がどれほどあるのかと考えると、迂闊に暗記しろとも言えなくなってしまいます。

「白いです」とか「ご使用できます」等といった、目の前が真っ暗になるような絶望的日本語がそこらじゅうに溢れています。

でも、この際そんな細かい事には一切目を瞑ることにしましょう。ネイティブであれば誰でも発音は完全で、言葉の使い方も完全だということにしましょう。或いは、講師をやっている全てのネイティブが、偶然にも発音も単語の用法も完全であったということにしましょう。そう考えれば、ネイティブは外国語学習の上でありがたい存在になるのでしょうか。


それが役に立つのか

仮にネイティブの発音が全て正しく、言葉の用法も問題ないとして、それが何の訳に立つのでしょう。

きちんと考えましょう。盲目的に「信仰」していても駄目です。

ネイティブ講師は完璧である」と仮定しました。一般常識では「ネイティブは完璧である」従って「生徒はその外国語を完璧にマスターできる」という論理が信じられているのですが、この二つの命題に必然的な関係があるんですか?

「従って」という言葉で結びつけることが出来ると言う根拠はどこにあるんですか?

この二つの命題が結びつくとすれば、どういう条件で結びつくのか、この点を先ずはっきりさせましょう。

そのネイティブ講師が、もし自分の発音と単語の用法を生徒の頭の中に正確に写すことができれば、生徒は問題なくその外国語を完全にマスター出来るということになりますね。二つの命題が繋がる条件としてはこれ以外に考えられません。

問題は、その条件である「生徒の頭の中に正確に写す」ことが可能なのかという点です。

ハードディスクなら、その内容を別のハードディスクにコピーすることは簡単ですが、もし内容のカテゴリーによってハードディスク内の保存位置がきっちりと決まっていたとすると、そしてコピー先のハードディスクの対応する位置には、既に同じカテゴリーに属する別の情報書き込まれていたとすると、上書きするしかありません。もとの情報は当然消えてしまいます。

人間の脳でも、これと同じようなことは、将来的には可能になるのではないかと推測していますが、広東語を習得するために日本語がなくなってしまうのでは、全く使い物にならない方法です。



「生徒の頭の中に正確に写す」ことは如何にして可能か

生徒の頭の中に正確に写すことは如何にして可能なのでしょうか。これか可能ではないということになると、上述の二つの命題は全く繋がらない無関係の命題になってしまいます。

発音については、ネイティブができることは模範発音をして聞かせることです。それで講師の頭の中にある発音に関する情報を生徒の頭の中に写すことができるのでしょうか。出来ると言うのなら、ネイティブの発音を録音したテープでも同じ事ですよね。

単語の用法についてはどうでしょう。ネイティブができることはその単語の正しい用法としてのセンテンスを示すことです。それで講師の頭の中にある単語の用法に関する情報を生徒の頭の中に写すことができるのでしょうか。出来ると言うのなら、ネイティブの発音を録音したテープでも同じ事ですよね。

「いや、デンさん。違うよ。テープだったら、生徒が間違った発音をしても、指摘してくれないよ」

確かにそうですね。生徒が間違った発音をしても、テープは指摘してくれません。でも、テープの代わりにそこにネイティブスピーカーがいたら何をしてくれるんですか?

生徒の発音が余程ずれていれば、「ダメ」と言うでしょう。でも、何処がどうダメなのか、何処をどうすれば正しい発音になるのかは説明してくれません。引き続き模範発音を聞かせるだけです。それでも生徒の発音は改善されませんから、適当なところで手を打って、先に進むことになります。

このプロセスを見れば分かるように、「生徒の頭の中に正確に写す」事を可能にするようなステップは何処にも存在していません。

結局、テープで学習するのと基本的な差異はないことになります。それで完璧にマスターできる人も存在しないわけではありません。でも、それは数千人に一人の例外的な人です。そのような人はテープによる学習でマスターできるのですから、やはりネイティブ講師の出る幕はありません。

いずれにせよ、「生徒の頭の中に正確にコピーする方法」は存在しません。コピーできないのであれば、目の前にネイティブ講師がいても、何の意味もないことになります(勿論、発音や単語の用法が狂っている日本人講師も論外ですが)。



講師は何をすればよいのか

コピーすることは出来ません。しかし、しかし、講師の頭の中にある発音や語彙の体系とほぼ同じものを、学習者の頭の中に構築することは不可能ではありません。

コピーをせずに、一体どのようにすれば、ほぼ同じものを構築することが出来るのでしょうか。

学習者の頭の中で、唯一確実で安定した位置を占めている日本語の発音や語彙を出発点とし、これを基点として、どの方向にどれだけずれたところに広東語の発音や語彙があるのか、その地図を提示してやれば、生徒は講師の頭の中にある発音や語彙の体系とほぼ同じものを、自分の頭の仲に構築することが出来るのです。

これはあいまいさのない、明確な、意識的な把握なのです。


何となく近い音が出た


あいまいさのない、明確な、意識的な把握が出来るかどうかは、決定的意味を持つポイントです。

理解しやすいので、発音を例にしますが、ネイティブ講師の模範発音を聞いて、生徒はどのようにしたらいいのかの指導もない状態で、根拠もなく色々な音を出してみます。

いくらやってもダメなので、生徒も講師もだんだんイライラしてきます。そして偶然或る程度近い音が出たときに、講師は手を打ちます。

でもその音は、本来あるべき舌の位置や口の形などがきちんと出来たから出たのではなく、およそ無関係のひどい状態でも、講師には何となく近い音に聞こえることが多いのです。

間違った調音器官の使い方でも、とにかく、或る程度近い音が出ればいいじゃないかと思われるかもしれませんが、そうは行かない事情が二つあります。

一つには、その音は、生徒がめくら滅法に色々とやっているうちに偶然出た音で、生徒が理解して、意図的に出している音ではないので、再現性がないこと。

今一つは、偶然に出した音が、調音器官の使い方は広東語のその音のものとは無関係だったが、結果的にネイティブ講師が「それでもまーいいや」と思える音になっていた。しかもその音も、明確に、意識的に把握している訳ではないので、再現性がなく、ずれてくる。

元々、その発音は、調音器官の使い方が広東語のその音のものとは無関係だったものが、結果的に偶然似たような音が出ていただけなのですから、そこから更にずれれば、全く縁遠い音になってしまうであろうことは想像に難くありません。


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