
白黒のスクリーンに大写しになる男女。「分かってくれ。よせよ・・・。君の瞳に乾杯…」涙目のバーグマンを、ボギーが渋い顔で見つめて言います。ここでカメラは観客席に。そこにはこの「カサブランカ」のクライマックスに没入しているアラン氏の顔があります。今にも泣き出しそうな、それでいて幸福の絶頂にいるような、感動に打ち震える夢心地の表情!!!このアランが今回御紹介する「ボギー!俺も男だ」の主人公。演じるはもちろんウディ・アレン。 この「ボギー!俺も男だ」はかくして幕を開けます。実際の映画シーンは今後でてこないものの、物語の最後まで「カサブランカ」は色濃く影を落としています。この作品を存分に楽しむためには、おそらく「カサブランカ」を初めて観てその直後にこの作品を観る、というのでは不十分でしょう。何年、或いは何十年も前に「カサブランカ」に胸を打たれ、一度ならず観直したこともあり、ボギーの他のハードボイルド作品もいくつも観て…つまりは、心の中にボギーが住んでいる、そんな人こそが観るべき映画なんでしょう。そうじゃないと、映画かぶれの男が主人公の、ただのよくできたコメディ、ってこと以上にはならないでしょうから。 アレン演じる主人公のアラン、若禿で背も低くて貧相で、つまらない人だという理由で先日妻に逃げられたばかり。落ち込んでいる彼をみかねた友人夫婦の計らいで、新しいガールフレンドを見つけようとはしますが女性の前だと緊張してドジを繰り返す、そんな冴えない人物であります。彼の心の中にも、いつもボギーが住んでいます。 アランはたびたび心の中のボギーに助言を求めます。ボギーは彼の傍らで、あの渋い仕草と台詞回しでもって彼の尻を叩きます。 「あんたは強いさ。イルザと別れて落ち込んだ?」 とアラン。 「バーボンで洗い流すさ」 とボギー…。 そんなアランの心の中のボギーを演じたのがジェリー・レイシーという役者さん。つまりボギーのソックリさんなわけですが、顔立ちの微妙な似て無さ加減に私などはニヤニヤが止まりませんでした。 台詞回しや声質のコピーはかなりのものですが、それでもやはりボギーの口調をところどころ誇張しているようで、笑いを誘います。この物真似を聴いて初めて気づかされたのですが、ボギーは「ス」を「シュ」と発音するんですね。「フェイシュ」、「ボーイシュカウト」、「ナーヴァシュ」、「キシュ」という風に。これらは実際にレイシーの台詞に登場した単語です。こういう部分をレイシーが多少大袈裟にやるので、それがまた何とも可笑しいんです。 このボギーと「カサブランカ」への愛に溢れた作品、そもそも原題からして「PLAY IT AGAIN, SAM」で、「サム、その曲をもう一度弾いてくれ」って意味になりまして、向こうじゃ「カサブランカ」の代名詞ともいえる有名な言葉らしいですが、しかし実は「カサブランカ」本編には正確にはこの台詞は存在しない、というのもこれまた有名な話。さすがに日本でこの原題を直訳しても意図が通じにくいので、このような邦題になったんでしょう。このページの最後で御紹介することになる台詞からとった、映画の内容をズバリ一言で言い表してる非常に巧い邦題だと思います。 やがてこの作品は、単なるボギーへのオマージュに留まらず、「カサブランカ」の美しいパロディへとなだれ込んでゆきます。物語中ほどからのネタバラシになっちゃうので、なにがどうなるかは書けませんが、ラストシーンはすべての「カサブランカ」ファンが泣き笑いしちゃう秀逸さ。この作品未見の方にぜひこのシーンを味わっていただきたく、70年代のカラー作品であるにもかかわらず御紹介の文章を書いてみた次第です。 ネタバラシをするかわりに、劇中の会話をも一つ引用して終わりにします。場面はまたもやアランの妄想の中、恋に決着をつけるにはどうすればよいのかクヨクヨ悩むアランの目の前で女を殴り、警官に引き渡すボギー。 「たやすいぜ」 とボギー。 「ボギーにはね」 とアラン。 するとボギーは彼を、こう諭します。 「皆、時にボギーなのさ。君も"男"じゃないか…ダチのため、美女をあきらめる。映画なら皆、泣いてるさ」 カサブランカ・ダンディ、ハンフリー・ボガート 「カサブランカ」、戦争と酒と男と女 映画解説リスト