
映画のような金曜日第6話・「神風タクシー」
いたこ28号・作
・球場の前 客を待っているタクシー。 ・タクシーの運転 席スポーツ新聞をひらいている運転手。 顔は見えない。 新聞の一面にでかでかと田村の顔写真が出ている。 大きく見出しには”えりこ恋人発覚!・・か?” 運転席のラジオから生放送で中島のヒーローインタビューが流れている。 運転手の指が伸びてラジオのスイッチをオフにする。 ギアをローに入れる。 ハンドルを握る手をバックにタイトル。 T・神風タクシー ・六本木交差点。 アマンドの前にある時計が午前3時25分を指している。 アマンドの前は真夜中とは思えないほど賑やかである。 だれかを待っている会社員。 次の店に行こうとしているカップル。 大声で何か喚きながら数人の若者の集団が通り過ぎていく。 進藤俊行 18才。 某一流私立大学生である。 渋めのスーツできめている。 俊行 派手なボディコンを着た女と道路脇で喋っている。 大きく突き出た女の胸元を気にしながら 俊行「な!今日いいだろう。」 女「でも、明日早いしぃ、バイトあるしぃ、」 俊行「じゃ、とりあえずタクシー拾うからさ、」 女の手を強引に引っ張る俊行。 女「いたたたた。やめてよ!」 女が本気で怒っているようなので慌てて手を放す。 今度は猫なで声で 俊行「ね、俺、本気なんだ。だからさぁ、」 女 何も言わずに道路を見ている。 俊行 これはチャンスとばかりに慌ててタクシーを止めようと手をあげる。 しかし 次から次へと客を乗せたタクシーが通り過ぎていく。 俊行の数メートル前に 個人タクシーが止まる。 女連れの男性が千鳥足で降りてくる。 慌てて走っていく俊行。 たまたまタクシーの横にいた中年の男が乗り込もうとする。 俊行「ちょっと まって!」 乗車しょうとする男を止める。 俊行「お願いです。タクシーの権利を譲って下さい。」 男 怪訝そうに。 男「と言われても困りますね。」 俊行「実は母親が倒れまして すぐに病院にいかなくてはいけないんです。」 男、こっちを見ている女を見ながら。 男「じゃ、あそこのエッチな姉ちゃんは、・・・あんたの叔母か。」 俊行「・・・。」 男「冗談じゃないよ。」 俊行 慌てて財布から一万円札を出して男に握らす。 俊行「やれるんです。」 男「・・・。」 俊行「うまくいけばやれるんです。御願いします。」 男 女を少し見てやらしく笑う。 男「若いっていいね。」 男 俊行の肩をたたいて歩いていく。 俊行 上着をタクシーにほうり込み慌てて女の方に走って行く。 俊行「へぇへへへ。やれる。やれる。」 へらへらしながら走って来る。 突然、女と俊行の前に真っ赤なポルシェターボが止まる。 驚く俊行。 ポルシェからいかにも御坊ちゃま風の男が降りてくる。 女「ばーか!遅い。」 男「ごめん。ポケベルの調子が悪くって。」 ポケベルを女に見せる。 女「俊行君。今日はごちそう様。」 男、飛び降り慌てて助手席のドアを開ける。 何か言おうとしている俊行を残し、女を乗せたポルシェは、 ものすごいスピードで走去って行く。 唖然とする俊行。 先程の個人タクシーが、ゆっくりとバックで俊行に近づいてくる。 俊行 タクシーに気づかない。 点滅しているウィンカー。 俊行の前でドアが開く。 我に帰る俊行。 不貞腐れながら乗り込む。 俊行「くそ!・・・川崎。高速で。」 気だるそうに運転手に告げる。 運転手「わかりました。」 俊行「ちきしょう。5万も、・・・。」 店のレシートを見つめながら呟く俊行。 運転手「お客さん。ここも変わりましたね。戦前ここに住んでたことが有るんですよ。 あの焼け野原がこんなに奇麗になるとは。」 声の感じから、かなり年がいってるようだ。 俊行 助手席の前にある免許証を見る。 吉村義儀、昭和1年5月15日生まれ。 運転手「まあ、戦前はこの辺は田舎だったんですがね。」 俊行 たばこに火を付ける。 運転手「お客さん。学生さんですか。」 俊行「あ。」 邪魔臭そうに返事をする。 運転手 少し咽て窓を少しだけ開ける。 ・高速道路 車は高速へと入っていく。 運転手「お客さん。先の女の方、恋人ですか。」 俊行「・・・・。」 運転手「女房と知り合ったのも あの町だったんですよ。」 運転手 助手席にある上着に少し目をやる。 運転手「お客さん。」 俊行「うるせえな。そんなことどうでもいいじゃねえかよ。 それよりも爺さん、ちゃんと運転してくれよな。」 運転手「お客さん。安心してください。私は今日で21年と3ヶ月無事故ですから。」 大声で笑いだす、運転手。 俊行「爺さん。戦争前から乗ってるのかよ。惚けてるんじゃないの。」 運転手「御客さん、21年前と言えば戦争は当の昔に終わってましたよ。」 俊行「車、乗ってかどうか聞きたかったんだよ。」 運転手「御客さん。私はその頃、飛行機に乗ってました。」 俊行「ほんとかょ。」 運転手「ただし 特攻機ですけどね。」 俊行「特攻機?なにそれ。」 運転手「神風特別攻撃隊。」 俊行「神風。・・扇風機でそんなようなのあったよな。」 運転手「今でも思い出しますよ。死んでいった戦友を。」 俊行「あ、そう。」 たばこを吹かす俊行。 運転手「終戦の一日前でした。私の機が故障しましてね。飛び立てなかったんですよ。」 俊行「爺さん 悪運強いなぁ。」 運転手「飛び立った戦友はだれ一人、帰って来なかった。」 俊行「・・・。」 運転手「我が隊12機はすべて打ち落とされました。」 俊行「・・・。」 運転手「あちらさんにはレーダーとか有りましてね。それに凄い数の戦闘機。 自爆用の重い爆弾背負った こちらの機は良いカモですよ。 ・・・もっとも 戦艦に体当たりする事が任務だったので、 片道だけの燃料で飛び立ったんですけどね。 ・・・・だれ一人戦友は敵艦隊にもたどり着けなかった。だれ一人。」 俊行「無駄死にだな。」 運転手「・・・無駄死に。」 運転手 静かに呟く。 俊行「爺さん!もしかして、」 悪意に満ちた微笑みを浮かべる俊行。 俊行「アメ車とか見ると体当たりしたくなるんじゃないの。」 大声で笑う俊行。 タクシーの横を猛スピードで真っ赤なトランザムが通り過ぎていく。 トランザムの窓からは強烈なロックが聞こえている。 俊行「アメ車。」 俊行、運転手を見る。 運転手 体が小刻みに震えている。 運転手「・・・・・島田。中村。」 運転手 何か呟いている。 運転手「田中。鈴木。橋本。三上。」 俊行「へぇ。何いってんの。」 運転手「蝶野!」 運転手 大声で叫ぶ。 驚き後ろにのけぞる俊行。 ミラーに映る運転手の目つきがかなりおかしい事に気付く俊行。 運転手「武藤!亀山!荒井!立島!俺だけ生き残ってすまん。許してくれ!」 泣き出す運転手。 俊行「・・・冗談だろう。」 小声で呟く俊行。 窓の外を見る。 猛スピードでタクシーが走っている。 メーターは100キロを振り切ろうとしている。 俊行、戦慄。 俊行「運転手さん。俺、ここでいいや。」 運転手 何かボソボソと呟いている。 俊行「ここで降りるっていってんだよ!降ろせよ!近代化センターに電話するぞ!」 突然、車のスピードが加速される。 鳴り響くスピード警告音。 先程の赤のトランザムを抜いていく。 運転手「お客さは運がいい。今日はすいてますよ。」 俊行「・・・・。」 運転手「御客さん。」 俊行「・・・。」 運転手「御客さん。」 俊行 窓から顔を突き出し大声で叫ぶ。 俊行「たすけてくれー!たすけてくれー!」 追い付いてきたトランザムに向かって叫ぶ。 トランザムの若者達、俊行が手を振っているのと勘違いし 体を窓から乗り出し拳を振り回す。 あまりの風圧に顔が押しもどされる、俊行。 運転手「御客さん。首、もげますよ。」 窓がオートで閉られていく。 俊行 助手席の前にある運転免許証を見る。 免許証には「吉村義儀」 俊行「吉村さん。助けてください。」 沈黙。 運転手「貴様と俺とは、同期の桜。」 突然、大声で歌を歌いだす運転手。 俊行「・・・。」 運転手、笑いながら。 運転手「御客さん。イライラしたとき私はこの歌を歌うんですよ。」 続きを元気に歌いだす運転手。 運転手「御客さんも歌いませんか。」 先程のトランザム、クラクションをけたたましく鳴らしながらタクシーを抜いていく。 運転手 歌うのを止める。 運転手の体が小刻みに震えだす。 俊行「進藤、歌います!・・貴様と俺とは、同期の・・同期の」 運転手「さくら。」 俊行「・・・、」 運転手「御客さん。桜ですよ。・貴様と俺とは、同期の桜。同じ航空隊の庭に咲く。」 俊行 運転手に続いて涙声で歌う。 運転手同じく涙声になってくる。 運転手・俊行「咲いた花なら散るのは覚悟 見事散ります。国のため。」 運転手の後に続いて何度もくり返し歌う俊行。 運転手「第四特別攻撃隊 吉村義儀一等兵!見事 御国のために散ります。」 運転手 声をあげて泣き出す。 タクシーのスピードが減速されていく。 沈黙。 俊行 少し震えながら。 俊行「吉村さん。奥さんと六本木で知り合ったんですか。」 運転手「・・・・。」 ミラーに映る吉村の目はかなりいっている。 俊行 びびってしまい言葉に詰まる。 俊行「べ、べつにいいです・・・。」 運転手「御客さん、そうなんですよ。」 目つきとは裏腹に言葉はやけに愛想がいい。 余計に無気味だ。 運転手「終戦の三日後、六本木の自宅に戻ったら そこには何もなかった。 父も母も妹も何もかも すべて失っていました。」 俊行「・・・。」 運転手「御客さん。私は神風を信じていました。でも 神風は吹かなかった。」 俊行「かみかぜ?」 運転手「そして、・・朝起きたらすべての価値観が変わってました。 私はあの時お国のために死ぬべき人間だったとおもってましからね、 もう無茶苦茶やりましたよ。そんな時、女房と出会った。 この女のために生きようと思った。 ・・・働いた働いた。体壊すぐらい働いた。やっと息子が生まれ・・・。 なかなか子供が出来なくてねぇ。いゃ、あの時は嬉しかった。」 俊行「息子さんがいるのですか。」 運転手「俊行と言います。」 俊行「僕も俊行です。」 運転手「としゆき・・・。」 運転手 ポケットからボロボロの財布を出しその中から写真を取り出す。 俊行に渡す。 そこには楽しそうに笑っている若い男と女と歳老いた女が、 かわいい赤ちゃんを抱いている。 運転手「・・・私達は俊行のために一生懸命働いた。」 俊行「お孫さんですか。」 運転手「俊行、どうして孫に会わせてくれないんだ。」 俊行「え?」 運転手「俊行、なぜ 来なかった。」 俊行「僕はあなたの息子じゃない。」 運転手「俊行!」 スピードが段々加速していく。 運転手「俊行!」 俊行「いやだ!死にたくない!」 運転手「俊行!」 俊行「助けて、吉村さん!ここで死んだら奥さんが!」 運転手「女房が。」 俊行「そう、奥さんが!」 運転手 大声で笑いだす。 運転手「女房なら大丈夫だ。」 助手席においてあった上着をどける。 そこには真新しい小さな遺骨箱が。 俊行、戦慄。 運転手「俊行、なぜこなかった。」 俊行「・・もう、いやだ。」 呟く、俊行。 運転手「なぜこなかった。お前の母の葬式に。」 俊行「いやだ、いやだ!死にたくない!」 運転手「私はいったい今まで何をしていたんだ。」 俊行「しらねーよ!そんなこと!」 運転手「私たちは日本のために戦った。日本を信じて戦った。それなのになぜだ! 戦友は無駄死にだったのか。会社のために働いた。会社を信じてた。 それなのになぜだ!息子のために働いた。それなのに、女房は無駄死になのか。 なぜだ!俺は無駄なことをやってきたのか!俺は何なんだ!」 俊行「助けてくれ!俺はまだ死にたくない!もっといっぱいヤルまでは死にたくない!」 運転手「私の人生を返せ!青春を返せ!」 俊行「助けてくれ!助けてくれ!」 運転手「こんな日本に誰がしたんだ!」 俊行「助けて!俺には関係ない!」 運転手 ゆっくり呟く。 運転手「・・・本当にそう思うか、俊行。」 スピードが加速されていく。 鳴り響くスピード警告音。 オープンカーのムスタングを抜いていく。 ムスタングのボンネットには大きく爆撃機B29が描かれている。 運転手は大柄の黒人。 そして、助手席と後ろの席にはボディコンの日本の女が3人乗っている。 バーボンのビンを持ち騒いでいる。 抜き返してくるムスタング。 黒人のドライバー、タクシーに向かって中指を立てる。 「キャーキャー」笑いながら騒ぎ立てている女達。 俊行「あぁー!やめてくれ、挑発しないでくれ。」 運転手「お前等、・・・日本の女をパンパンにしやがって、この毛唐!」 アクセルを全開にするタクシー。 車同士が少し接触する。 衝撃。 急ブレーキを踏むムスタング。 俊行悲鳴。 女達の悲鳴。 ガードレールに接触し反対方向を向いて止まるムスタング。 衝撃で突然なりだすタクシーのラジオ。 ラジオのDJ「グッード イーブニング、エブリバァディ! 今日もホットでファンキーなミュージック、プレゼント、フォーユー! ・・ヘルスクイーン。地獄に落ちろ。」 狂ったような日本語のパンクロックが鳴り響く。 運転手「俊行、あのB29を行かすわけにはいかん。 このままじゃ、また日本が燃えちまう。」 タクシー急ブレーキ。 スピンし反対方向を向く。 俊行「ひぇー!」 運転手「鬼畜米英!行くぞ、島田、中村、田中!」 止まっているムスタングに向かって走っていく。 ムスタング 少しヤバイ事に気付き逃げ出す。 高速道路を逆走していく二台の車。 対向車が次々にクラッシュしていく。 追い付こうと加速されていくスピード。 激しく鳴り響く警告音、そしてパンクロック。 運転手「また、日本が燃えちまう。」 ミラーに映る運転手の目はかなり逝っている。 ムスタングに体当たりをするつもりのようだ。 運転手「一つ 軍人は・・・」 軍人の教えを次々に大声で叫ぶ運転手。 俊行シートベルトをはめる。 俊行「うぉー!」 そして叫びながらサイドブレーキを後ろから引く。 運転手「き、きさま!何をする!」 タイヤから火花を散らしながらスピンを繰り返すタクシー。 俊行「うぉー!」 運転手「俊行!」 クラッシュ。 数回横転してからガードレールにぶつかり止まる。 つぶれた車体からパンクロック音楽がもれている。 ゆっくり這いだしてくる人影。 俊行、気絶した運転手を引きずり出す。 DJ「・・・みんな、燃えてるかい!一曲目から燃えてくれたかい!キャホー!」 タクシー火をふく。 運転手を安全な所まで引きずってくる。 座り込む俊行。 俊行 初めて運転手の顔を正面から見る。 そこには、優しそうな老人の顔が安らかに眠っている。 ゆっくり後ろを見る俊行。 遥か彼方に、蜃気楼のようにそびえ建つ新宿の高層ビル。 運転手、寝言のように呟く。 運転手「・・このままじゃ、また日本が燃えちまう。」 燃えているタクシー。 その横を通る別のタクシー。 後ろ座席のウィンドーが開き田村が顔を出す。 横にはプロデューサーの吉田。 田村「あ、燃えてる。」 田村、燃えているタクシーを指差して驚く。 ・街の風景 再び街に朝日が射していく。 暗い夜空に赤みがさし朱色へと変化していく。 キャスト、スタッフのテロップが流れる。 |
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