政界も、いろいろとにぎやかになってますなあ。アフガニスタン復興支援会議に特定のNGOが出席できなかったという事件からの一連の大騒動。田中眞紀子さん、鈴木宗男さん、辻元清美さん、そして、ちょっと違った所では加藤紘一さん。いろいろと出てきますなあ。ま、我々が見てると、ウソも多いんちゃうかいなあと疑いたくなりますね。そこで、今月は、代表的なウソ話の集大成ともいうべき、『鉄砲勇助』をお届けしたいと思います。

 ま、最初は、主人公の“千三屋”といわれるある男が、ある人の家に上がりこんでくる所から話が始まります。なんで“千三屋”やて?千の話をしたら、三つしか本当のことがないというウソつきやからですて。たしか、この前に亡くならはった江戸家猫八さんのお父さん、先代の猫八さんなんか、“千三屋”て呼ばれたはったて、猫八さんの有名な『猫八一代記』というネタの中で言うたはりましたな。まあ、とにかく、最初の部分の会話を聞いていると、この主人公はどうやら無類のウソつきみたいですわ。そこで、主人公が日本国中を旅して歩いた時の話をし出します。まずは、木曽へ行ったときの話。もう、この時点でウソやてわかりまんがな。

 “向こうは、昼なお暗きというぐらいで、暗いでっせ〜。木曽暗い言うてね。”そら、クソ喰らえやがな。まして日が暮れてきたので、人家を求めて歩いていると、明かりを発見。行ってみると、人相の悪い奴が五・六人、焚き火を囲んでいる。主人公が煙草の火を借りると、“ここは地獄の一丁目があって、二丁目のないところ。身ぐるみ脱いで置いていけばよし、ゴタゴタぬかすと命にかかわるぞ。”と一味のもんが言い出した。そこで、主人公は、“さては、お前ら、一足二足の履物やな。”。合計三足(山賊)のシャレですて。一人ずつ相手になるのは面倒と、横手にあった一かかえも二かかえもある大きな岩を小脇にかかえて、て、どないして持つねん?これが木曽の名物、ひょうたん岩。真ん中がくびれて、両端が大きい、て、そんなアホな。この岩をちぎっては投げ、ちぎっては投げ、って、これも出来たてやったんですと…。

 と、山賊はどっかいって行ってしもうたが、向うで土煙が上がったかと思うと、丈が一丈五・六尺もあろうかという大きな猪がやってきた。こらかなわんと、横手の松の木へ登った主人公でしたが、今度はその松の木の根元を猪が突いてくる。こんな木(気)のもめるな話はない…。主人公はパッと飛び降りると、猪の背中へ乗った。しかし、首がない。逆さまに乗ったんですな。そこで猪のしっぽと自分の体をぐるぐる巻きにして、って、猪のしっぽて、短〜いもんでっせ。引っ張ったら伸びた、て、ゴムやがな。手が滑った拍子に、手に猪の金玉が当たったんで、これをギューっと締め上げると、猪は気絶してしもうた。そやけど、このネタで、この部分を聞くたんびに、自分の金玉が縮む思いがすんのんは私だけやろか?ま、そんなことはイイとして、猪が息を吹き返してはかなわんと、手と足とを持って目よりも高く差し上げて、って、一丈五・六尺もあるような大きな猪をどないして持つねん?これが猫背の猪。投げた拍子にちょ〜ど岩に当たって、腹が裂け、出てきたんが猪の赤ちゃん。数が四四の十六匹。これが柔らかいキバで、主人公の足を親の仇とつついてくる。ここへきて、犯してはならない重大なウソが出てきましたな。金玉があんのやさかいに、猪はオスやったのに、何で子供が産まれまんねん。これが畜生のあさましさ、って、己の方がよっぽどあさましいわ。

 ここで、次は北海道の話へ。北海道は寒いとこですなあ。田んぼで、鴨がドジョウかなんかをつついている所へ、寒い寒い風がビューッと吹くと、一面がパリンパリンと凍ってしまう。鴨は足をとられて、飛び立つことができん。これを皆が鴨刈りに行くんですな。鎌を持ってカゴを背負い、足首をつかんで、鎌でシュッ、カゴへポイ。これだけでも笑えますが、まだまだ…。先に行った人は、大きい鴨ばっかり刈っていくんで、小さい鴨は残る。また、残った小さい鴨ばっかり刈っていくもんもいる。これが鴨クズ拾い、て、紙屑拾いのシャレですわ。ほんで、春になると、この刈った鴨の足から芽が出て鳥になる。これがカモメ、って、よ〜考えてあるわ。

 大雪が降ったら家が埋まってしまうんで、向こうの家々は壁に穴を開け、そこに節を抜いた青竹を通すとのこと。つまり、家と家とが竹でつないであるんですな。そこで大雪が降った明くる朝、お互いの安否を確かめるために、青竹に向かって“おはよう〜”と言うと、向こうからも“おはよう〜”。もう少々寒くなると、この“おはよう”が竹の中で凍る。ほんでこれを棒でつつくと、向こうの家に“おはよう”の塊がゴロッと出る。こっちにも出てくる。あちらこちらからの塊が、囲炉裏のそばで解け出して、“おはよう”“おはよう”“おはよう”と、うるさい、うるさい。ハッハッハッハッ…。

 火事も凍る。夜中に火事やいうても、半鐘が“ジャッ、ジャッ、ジャッ”、消防車のサイレンが“ウッ、ウッ、ウッ”と、ジャーンとウーが凍りまんねん。池の底からの水で水をかけますが、水も凍る。と、燃えてる火事の火も凍る。凍った火をノコギリで切って、池や沼にほかす、これが消火作業。主人公も凍った火が珍しいので、大阪へ持って帰ろうと、牛の背中に凍った火を乗せて運んでいると、拍子の悪い鍛冶屋の前を通りかかった。中からの熱風で、火事が解け出して、牛が丸焼け。水をかけてもなんともならんわ。“焼け牛(石)に水”いうてね。で、出来たんがビフテキ。もう、考えられんわ。

 小便も凍る。向うの便所には、棚が吊ってあって、その上に金づちと縄と釘抜きが置いてある。小便をシュッと出すと、これがすぐに凍るので、金づちでカーンと。シュッ、カーン、シュッー、カーン、シューカーンと、これが向うの習慣で。シャレばっかりやがな。そのうちに主人公も手元を見ないで、根元をカーン。これも聞いてて、自分のが痛いですなあ。ま、出来た小便を縄でくくってほかすと。釘抜きは、女の人用。金づちでカーンとやった後に、女の人はちょっと残る。これを釘抜きで、って、どこまで行くねん!北海道の人聞きはったら、爆裂弾でも投げ込まれんで〜。(文團治氏のお言葉を借りるならば…)

 まあ、主人公はウソつきやということが十分に分かったんですが、日本一のウソつきは他にいるとのこと。これは、大阪から二十里ほど行ったところにある、嘘つき村に住んでる鉄砲勇助という人だと教えられます。こんなこと聞いて、黙っていられるわけがない主人公、どっちが日本一のウソつきか、ウソのつき比べにと、嘘つき村に鉄砲勇助はんを訪ねていきます。村の手前で聞くと、“行かん方がエエ”と言われ、村の中で鉄砲勇助はんの家を聞いても、“隣や”“向かいや”“十軒向こうや”とウソをつかれて教えてくれない。と、一人の子供がいたので、聞いてみると、この子の父親が鉄砲勇助はんらしいのですが、今は留守。“どこへ行ったか”と聞くと、“富士山が倒れそうなので、線香持ってつっぱりに。”とのこと。“母親は”と聞くと、“竜宮の乙姫さんから、洗濯もんがたまってんのんで、来てほしいといわれて。”とのこと。さすがに、鉄砲勇助はんの子たちですな。焚き火をしているのんで、“何焼いてんねや”と聞くと、“割り木を焼いてんねん。ウマイで。どうや”と勧められますが、主人公も、“今、たどんを食うて来たとこやさかいに。”となかなかのもん。それでも、“割り木とたどんは、また味が違う。”となおも勧められますが、子供ですらこんな調子やのに、大人の鉄砲勇助はんやったら、どないなんねやろ、こらかなわんと、主人公は帰りかけます。するとまた、後ろから、“ああ、そっちには毒蛇がいてる。そっちは、狼がいてる。そっちは行き止まりや。”と、もうさんざん。

 その後へ、当の鉄砲勇助はんがお帰り。子供に一部始終を聞いた後、今度はまた買い物に出かけるとのこと。すると息子が、“何買いに行くねん。”と聞くと、“大きい、大きい、日本でもゴソッと入るような桶を買いに行くねや。”とのこと。息子が、“わい、さっき珍しいもん見てん。竹薮の中でな、竹の子が出てきた思うたら、見てる間にどんどん延びて、雲を突き抜けていったと思うたら、今度はまた降りてきて土の中へ。また出てきて雲の上へ。”と言うと、鉄砲勇助はんが、“そんな長い竹がどこにあんねん。”“これぐらい長い竹がなかったら、困るやろ。”“何でや?”“おとっつぁんが買いに行く桶の輪にしまんねん。”と、これがサゲになります。お父さんが大きい桶を買いに行くというウソをついたので、息子も長い長い竹がなかったら、桶の輪が作れへんやろうと返したわけですな。ま、なんともスケールの大きな話ですな。しかし、サゲとしては、私個人的には…。

 上演時間は、三十分ぐらいですかなあ。しかし、このネタ、最初から最後まで演じられることは、珍しいといってもいいと思います。というのは、上記の内容の通り、前半の木曽と北海道での話と、後半の鉄砲勇助はんに会いに行く話は別々に離して演じた方が、すっきりとしているからであります。つまり、内容が分かれるんですな。木曽と北海道で、あれだけウソ話をしておいて、また、最初の主人公と聞き手という素の二人に戻ってから、今度は、嘘つき村へ行くことになる。そこへもってきて、前半の件りはギャグやシャレなど笑い所が非常に多い割には、後半の件りはそんなに盛り上がるとはいえない。そこで、大多数の方は、前半部分だけで、北海道でのカモメや小便のあたりの、笑いがドッときた所で切られています。私も、そのほうがイイのではないかと思っています。ま、この辺で切ると、十五分前後でまとめられますので、そうなると、寄席に向く話になるのではないかと考えられます。短時間で笑いが多く取れますしねえ。

 笑い所としては、やはり、木曽の岩や猪、北海道のカモメや小便・火事、ま、前半はどこをとっても笑えますわなあ。子供の猪が出来たてのキバで足をくすぐるなんて、思い出すだけでも笑いがこみ上げてきますわ。しかしまあ、これだけのウソをよくも考えはったもんですなあ。我々では思いも浮かびまへんわ。おそらく、先人の知恵で、少しずつ付け加えられていったもんなんでしょう。

 ところで、この『鉄砲勇助』という題、もちろん、日本一のウソつきの名前が鉄砲勇助はんであることからきているのではありますが、この“鉄砲”とは、昔の上方の言葉で“ウソ”を意味するのであります。“鉄砲を言う”は、“ウソをつく”ことなんですわ。『月並丁稚』のサゲの、“うちの旦さん言うたんは、鉄砲かしらん。”の“鉄砲”も、ウソのことなんですな。ちなみに、東京では、前半部分を『弥次郎(嘘つき弥次郎)』、後半部分を『嘘つき村』といいまして、“鉄砲”の名前は出てきません。『弥次郎』の名は、ウソをつく主人公の名前が“弥次郎”だからなのですが、この名は、“ヤジ”の語源になった明治期の議員さん、品川弥次郎からきているのでしょうか、はたまた、弥次さん喜多さんの弥次郎兵衛からきているのでしょうか?ちょっと正確には分かりませんが…。とにかく、東京ではそれぞれが独立して、別々の二つの話となっているんですよ。『弥次郎』の方は、後半で安珍清姫のパロディーがサゲになっていて、私も何度か聞いたことがありますが、『嘘つき村』の方は、まだ聞いたことがありません。

 また、桂米朝氏によりますと、元来の上方式の型では、主人公が聞き手の家を訪ねるところ、『江戸荒物』と同じく、江戸弁になって家へ上がりこんで、大阪から江戸へ行く道としての途中の木曽街道へと話が進んでいくらしいのであります。そうすると、話が江戸時代の設定になり、北海道が北陸のことになって、消防車やなんかが出せませんし、話自体にも矛盾点が出てくるので、導入部分は変えているとのことでありました。そこで、主人公が入ってくるところでは、“隣のおばんが猫の子産んだ”と“片腕切断”というようなものを入れているということでした。

 所有音源としては、故・桂枝雀氏、笑福亭仁鶴氏、桂ざこば氏、林家花丸氏のものがあります。一時は、よう前座噺に使われていたんで、他にもいろんな人のを聞いた記憶があるんですが、最近あんまり聞く機会が減ってるような…。枝雀氏は、元来の型を思わせるかのように、途中で急に主人公が江戸弁を使ったり、侍になったり、また、山賊に捕らえられていた娘さんが登場して、その後、娘さんの家へ招かれて、そこが雪深い奥木曽であると、北海道の話を、場所を奥木曽に置き換えて続いていくというものでありました。とにかく、動きが多く、全編通して大爆笑でありましたなあ。特に、火事が凍るという所、徐々に勢いがなくなっていく炎を体全体で表現しておられる所なんか、ホンマにおもろいですな。また、マクラがおもしろい。落語の起こりである江戸時代の一口ばなしの話をしたはりました。とにかく、腹かかえて笑うてましたわ。ちなみに、話自体は、前半の釘抜きで切ったはりました。仁鶴氏も、たくさん笑いを取ったはりましたな。しかも、前半の笑いのあるところはもちろんのこと、後半の、ややもすると先細りになるところでも、結構笑いを取ったはります。その辺は、やはりマユ毛の動かし方にコツがあんにゃろか?北海道で泊まった時の旅館の名前が吹雪旅館、主人が北風寒右衛門で、嫁はんがお霜、娘がつらら、って、どういう一家や?ま、とにかく、あのアホさかげんが、ちょう〜ど仁鶴氏に合っているんでしょうなあ。ざこば氏は、米朝氏の導入部、“猫の子産んだ”を使うたはりましたな。私は、時間が短い時に演じたはるのしか聞いたことがないのですが、やはり、爆笑を取ったはりました。小便の件りの“根元を打った”で、恥ずかしそうに切って、降りたはりましたわ。花丸氏も、爆笑を取ったはりました。主人公の間が、いかにもアホげな感じがして。他に、桂文珍氏が、『新・鉄砲勇助』と題して、やったはります。本式の『鉄砲勇助』をベースに、おもしろさが展開されますね。

 皆様方も、男の方は、金玉を握りつぶされ、金づちで根元をゴーンといかれる、なんとも痛い思いをしながら、女の方は、釘抜きで小便を抜かれる痛さを感じながら、一度聞いてみてはいかがでしょうか?

<14.5.1 記>
<18.2.1 最終加筆>


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