ずうっと遠いいある日 父親の肩に乗っかって 町の私設野球場の外野席の 芝生の丘を歩いていた。 点数掲示板の向こうに見える山を指さして 「こいのぼりやまへ行こうか」と言った その山のてっぺんには鯉のぼりが風に大きく泳いでいた。 それから二十余年時が流れた 祖母が去った その地をふるさとと呼んだ 結婚して自分に子供が出来た その丘を歩いた 足が重く息が切れた風が重たかった 点数掲示板のペンキがはげていた 芝生の丘は すり切れて白茶色だった 山への登り路はアスファルトになっていた 鯉のぼり山までの距離はこんなに短かかった その距離に体が重たい かつて 飛ぶように登った 歌うように草が光った 白と青の空の中に 悠々と泳いでいた「こいのぼり山」 もう「こいのぼり」は そこになかった 眼下に広がるこの町と入江に漁船の軌跡 造船所のガーンガーンと鳴り響く音 その時風が吹きさって行った もう ここからこの町をながめる事はないかもしれない 小学校もある 中学校もある 高校もある しかし跡形もなくそこに見えなくなった学校帰りの ネバーランドの入り口だった不思議の煙突のそびえる レンガ会社のように 黄金色の歓声と空気の中でボールを蹴った あの運動場の向こうにあの時と同じ夕日をバックに 学舎は機能的な建築に姿を変えていた。 「こいのぼりやま」など さいしょからなかったのかも知れない 1998/7/17 by hiro/toriumunn
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