「もののけ姫」設定資料

Last update:1997/10/10
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物語の概要
荒ぶる神々と人間の戦い


もののけ姫
アシタカせっ記
失われた民
タタリ神
犬神モロの君
エボシ御前
コダマ達
ヤックル
シシ神の森

人は、かつて、森の神を殺した

人面と獣の身体、樹木の角を持つ森の神・シシ神を
人はなぜ、殺さねばならなかったのか−

この時代、人間がふえ、多くの原生林が拓かれたとはいえ、
まだ人を寄せつけぬ太古の森が、あちこちに残っていた
それぞれの森は、猪や山犬など
巨大で賢かった獣たちが必死になって守っていた

そして、聖域を侵す人間達を襲い
荒ぶる神々と恐れられていた
その獣達を従えていたのが、シシ神である

荒ぶる神々を最も激しく戦っていたのは
タタラ者と呼ばれる製鉄集団だった

女の身でタタラ集団を率いるエボシ御前
彼女は己が信念で、森を切り拓いていた
その配下で、御前を敬い慕う、ゴンザにおトキと甲六
シシ神をねらう正体不明の坊主・ジコ坊
北の地の果ての隠れ里に住む老巫女・ヒイさま
乙事主、ナゴの神、モロなど森を守る神獣たち
それに森の精霊・コダマたち……

少女サンは人間の子でありながら
山犬モロに育てられた「もののけ姫」だった
サンは、森を侵す人間を激しく憎んでいた

そして、人間と荒ぶる神々の最後の大決戦に
巻き込まれる少年アシタカ
彼は、死の呪いをかけられたがゆえに
穢れを浄める方法を探しに、旅に出た少年だった

少年と少女は惨劇の中で出会い、
次第に心を通わせてゆく
ふたりが憎悪と殺戮の果てに
見いだした希望とは、何だったのか

少年と少女の愛を横糸に
シシ神をめぐる人間と獣たちの戦いを縦糸に
波瀾万丈の一大叙事詩が、展開されていく……



荒ぶる神々と人間の戦い −この映画の狙い−
宮崎 駿
「もののけ姫」企画書より


 この作品には、時代劇に通常登場する武士、領主、農民はほとんど顔を出さない。 姿を見せても脇の脇である。
 主要な主人公群は、歴史の表舞台には姿を見せない人々や、荒ぶる山の神々である。 タタラ者と呼ばれた製鉄集団の、技術者、労務者、鍛冶、砂鉄採り、炭焼。 馬借あるいは牛飼いの運送人達。 彼等は武装もし、工場制手工業ともいえる独自の組織をつくりあげている。
 人間達と対する荒ぶる神々とは、山犬神、猪神、熊の姿で登場する。 物語のかなめとなるシシ神とは、人面と獣の身体、樹木の角を持つまったく空想上の動物である。
 主人公の少年は、大和政権に亡ぼされ古代に姿を消したエミシの末裔であり、 少女は類似を探すなら縄文期のある種の土偶に似ていなくもない。
 主要な舞台は、人を寄せつけぬ深い神々の森と、鉄を作る城砦の如きタタラ場である。
 従来の時代劇の舞台である城、町、水田を持つ農村は遠景にすぎない。 むしろ、ダムがなく、森が深く、人口のはるかに少ない時代の日本の風景、深山幽谷、豊かで清冽な流れ、 砂利のない土の細かい道、沢山の鳥、獣、虫等純度の高い自然を再現しようとする。
 これらの設定の目的は、従来の時代劇の常識、先入観、偏見にしばられず、 より自由な人物群を形象するためである。 最近の歴史学、民俗学、考古学によって、一般に流布されているイメージより、 この国はずっと豊かで多様な歴史を持っていた事が判っている。 時代劇の貧しさは、ほとんどが映画の芝居によって作られたのだ。 この作品が舞台とする室町期は混乱と流動が日常の世界であった。 南北朝からつづく下克上、バサラの気風、悪党横行、 新しい芸術の混沌の中から、今日の日本が形成されていく時代である。 戦国もののような常備軍が組織戦を行う時代とはちがうし、 一所懸命の強烈な鎌倉武士の時代ともちがう。
 もっとあいまいな流動期、武士と百姓の区別は定かでなく、 女達も職人尽しの絵にあるように、より大らかに自由であった。 このような時代、人々の生き死にの輪郭ははっきりしていた。 人は生き、人は愛し、憎み、働き、死んでいった。 人生は曖昧ではなかったのだ。
 21世紀の混沌の時代にむかって、この作品をつくる意味はそこにある。
 世界全体の問題を解決しようというのではない。 荒ぶる神々と人間との戦いにハッピーエンドはあり得ないからだ。 しかし、憎悪と殺戮のさ中にあっても、生きるにあたいする事はある。 素晴らしい出会いや美しいものは存在し得る。
 憎悪を描くが、それはもっと大切なものがある事を描くためである。
 呪縛を描くのは解放の喜びを描くためである。
 描くべきは、少年の少女への理解であり、少女が、少年に心を開いていく過程である。
 少女は、最後に少年にいうだろう。
「アシタカは好きだ。でも人間を許すことはできない」と。
 少年は微笑みながら言うはずだ。
「それでもいい。私と共に生きてくれ」と。

 そういう映画を作りたいのである。



以下の詩は、宮崎監督が「もののけ姫」の音楽を担当した
久石譲氏に作品のイメージを伝えるために、書いたものです。



もののけ姫

はりつめた弓の ふるえる弦よ
月の光にきらめく そなたの心

とぎすまされた刃の美しい
そのきっさきに似た お前の横顔の
悲しみと怒りにひそむ まことの心を知るは
森の小さな もののけ達だけ



アシタカせっ記

せっ記とは
草に埋もれながら 耳から耳へと語り継がれた物語のこと

正史には残らない 辺境の地に生きた ひとりの若者のことを
人々は いつまでも忘れずに語り継いできた
アシタカと呼ばれた その若者が
いかに雄々しく 勇敢だったかを……
残酷な運命に翻弄されながらも
いかに深く 人々や森を愛したかを……
そのひとみが いかに澄んでいたかを

山に生きる 忍耐強い人々は つらい暮らしの中で
くり返し くり返し 子供等に語り継いだのだった

アシタカのようにおなり
アシタカのように生きよ と……



失われた民

深い森に この島がおおわれていた頃
東の果て ブナとナラのしげる地に 誇り高い人々がいた
男達は 伝説となったアカシシ(大カモシカ)にまたがり
ヒスイの矢尻を持つ矢をとばし
あくまでも勇壮に 山野をかけた
女達は 清げに髪を結い 玉を身につけ
胸高く みやびに美しかった
人々は 森の神をうやまい 森の息吹に耳をかたむけ
森の声を歌にして 生きた

西の地から 人の神と称する力がおしよせた時
人々は果敢に戦った
時には勝ち 将軍共を平地におしもどして 倉を略奪したが
時には破れ 山深くかくれたりした
何年も何年も戦いはつづき
西からの力の流入は止まらず
ついに 人々は ふるさとを捨て 森の中へ消えていった

やがて人々は忘れられ 歴史の闇がおおった
時が流れ 西の王の力が衰え 将軍達の牙が折れて
地に憎しみと争いが充ちたとき
失われた民の子は もどって来るだろう
古代のままの いでたちに アカシシにまたがり
森への畏敬と くもりない眼差しを持ち
呪いの地を風のように駆けぬけるだろう

なぜなら 失われた民の血は
いまでも人々の心の底に残っているから……
おさえられ 忘れられ 軽んじられていても
人々の中に たしかに伝えられているから



タタリ神

荒ぶる神は 西の地から来た
黒い呪いの蛇を全身にまとい
触れるすべてのものを焼き尽くしながら
闇から闇へとやって来た
山の古い神が 人に討たれ 森を奪われたのだ
大いなる猪の形をした神は
骨を砕かれ 肉は腐り 傷の痛みと怒りに狂い
山を谷を走りに走り
地に充ちた呪いとうらみを集めに集めて
ついに 巨大なタタリ神になった

人の世のすべての宿業が 生きものの形をとったのだ
あらゆるものが その怒りの前に力をなくす
近寄ってはならぬ 押しとどめてはならぬ
通りすぎるのを 息をひそめて待つしかない

あわれな古い神よ
できるなら 安らかな眠りを お前に与えたい
大いなる山の神よ



犬神モロの君

きやつの眼を のぞいてはならぬ
きやつは お前を 絶望で引き裂くから
きやつは お前の心を 生きたまま喰うから
犬神は 旧い世界の 生き残り
銀色の剛毛と二つの尾は 太古の神々の かすかなしるし
モロは あるがままにある自然のかたわれ 世界の鏡
絶望は 生命の本質
残忍は 生命の本性
きやつのやさしさは 生命のやさしさ

そして やつは憎悪を人間から学んでいる



エボシ御前

何ものも おそれない鉄の心
はげしい意志 弱者へのいたわりと 敵への呵責なさ
白いうなじと細い腕と強力
自ら定めた道筋を ゆるぎなく 進んでいく女
手下達の崇拝を一身に集めながら
お前は はるか遠くを見つめている
そのひとみは 未来を見ているのか
それとも かつて見た地獄を 今も 見つめているのか……



コダマ達

現れたと思ったら
カタカタカタカタ と笑って もう消えた
足元を歩いている と思ったら
もうずっとむこうの 暗がりの中で 笑っている

声をかけると はじらって いってしまう
知らんふりしている と まとわりつく

小さな子供達 森の子等
ああ お前のいる この森は とてもゆたかなんだね



ヤックル

気高い 大いなる カモシカよ
亡びゆく 種族の 末裔よ
そなたの脚は 急峻を怖れず
とぶ鳥のように 駆け抜ける

わが なつかしい 古い友よ
忠実な けものよ
そなたの毛並みは なめらかに
眼差しは 母のように あたたかい

いざ 地の果てまで 共にいこう



シシ神の森

世界が生まれた時からの森
精気の充ちた 闇深い世界には
人界では とおに亡びたはずの いきもの達が 生きている
シシ神が まだいる森
木立の如き角 ゆらめく人面と鹿の体を持つ ふしぎなけもの
月と共に死に 新月と共によみがえり
森が生まれたときの記憶と おさな子の心を持つ
残酷で美しい神 生と死を司るもの

そのひずめに触れる所
草は萌え 樹々は息を吹きかえし
傷ついたけものは力をとりもどす
その息のとどく所
死は よどみなく訪れ 草は枯れ
木は朽ち けもの達は死ぬ

シシ神の棲む森は 生命の きわだち きらめく世界
人を拒む森


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