「もののけ姫」関連ニュース
1997年

[
「もののけ姫」ニュース] [ホームページ]
淀川長治の銀幕旅行 1997/12/09
青鉛筆 1997/11/24
配収100億円突破 1997/11/20
出版界で批評ブーム 1997/10/30
「もののけ姫」でもうけました 1997/09/23
「もののけ姫」ブームに驚き 1997/09/08 NEW !
くらし 読書 1997/09/06
「もののけ姫」邦画新記録 1997/09/02
字幕付き「もののけ」 1997/08/28
“最後”の宮崎アニメ 世界へ 1997/07/19
幻想物語に託す歴史への嘆き 1997/07/10

淀川長治の銀幕旅行 産経新聞夕刊 1997/12/09

もののけ姫

日本の神話染めたこの匂い
いまさらながらここに一言

 これが当たったことで映画ファンだけでなく日本のすべての人に誇りをもった。今年一番のできごと だった。何によってこのように当たったのかをつかみたくなった。
 美しい。日本の神話、伝説さながらに美しい。緑が映写の光を通して美しい。それよりも仏のにおいを かいだ。当たった理由が、少しずつ分かる。映画館から出てくる客の反応が、美術館から出てくるような 感じだ。
 日本映画がこのように愛され、誇られているうれしさとともに、日本映画ファンの層のいまだ高きに胸を しめつけられた。もちろん、日本映画のファンにだけではなく、映画を見るそのすべての日本人たちにだ。 汚い心中映画に群がった悲しさ、つらさがここにかき消えた。
 宮崎駿監督の『となりのトトロ』から私はファンだが、トトロを生んだとびきりの発想が今度は、森の あらゆる美術として再生され、白い小さな人形さながらのコダマ、そのほか異様な悪魔的な妖怪(ようかい)。 この「美術」に舌を巻く。しかし、これを今にいたってほめるのは愚かしい。
 それよりもこの作品がヒットしたわけ。まさしく日本の映画だったからだということさえおかしかろうが、 明らかにディズニーとは違った。ディズニーの『バンビ』も『白雪姫』も見るからに西洋だ。ところが、 『もののけ姫』は日本神話そして日本の仏のにおい。そして、映画館から出てゆく人の静けさが、あたかも 美術館から出ていく静けさ。日本人が見て誇りたい日本映画に飢えきっていたことをここに見た。
 絵の美術はいうまでもなく、あのトトロのファンタジーが今度は各シーンに表れ、このアニメ美術が すっかり大人のものになって大人がいっぱいつめかけてこのヒット。分かりきった結果だが、鮮やかな うれしい映画観客の「私たちはいるよ」を見て、知って、だまっては年を越せなかった。
 今年はこのアニメと『うなぎ』と北野武の受賞で日本映画界もやっと健康を取り戻したよ。
(映画評論家)
[
TOP]
青鉛筆 朝日新聞 1997/11/24

 配給収入の国内記録を更新中の人気アニメーション映画「もののけ姫」の字幕版が近く完成、耳の不自由 な人のために、来年1月下旬まで札幌、東京、川崎、名古屋、福岡の5都市で上映される。
 ふつうの映画なら口の動きで言葉を読みとることもできるが、アニメでは難しい。市民グループが劇場で 手作りの字幕を映し出すなどの動きがあり、配給元の東宝が要望にこたえた。
 「今後は字幕つきの作品づくりを検討したい」と東宝。すでに1200万人が味わったという感動が、さらに 多くの人たちにも伝われば、記録更新に弾みがつきそうだ。
[
TOP]
「もののけ姫」配収 10000000000円突破  日経産業新聞 1997/11/20

 東宝が夏休み映画として公開した「もののけ姫」の配給収入が、このほど日本で公開した映画としては 初めて100億円を超えた。観客動員数は1218万人に達しており、邦画としては異例の半年間に及ぶロングラン 上映を続けている。
 「もののけ姫」を公開した劇場の総売り上げとなる興行収入は167億7000万円に達した。このうち約60% が東宝の配給収入となる。この作品は、あらかじめ上映作品を決めておく必要がない「洋画系」と呼ばれる 劇場で公開しており、現在164館で上映している。
 東宝は今後、「エアフォース・ワン」や「タイタニック」「金田一少年の事件簿」などヒットが見込める 作品を配給する。これに伴い上映劇場は徐々に減る見通しで、主力劇場は来年1月14日までの上映となる。
[
TOP]
もののけ姫 出版界で批評ブーム 日経産業新聞 1997/10/30

文芸として「ナゾ」解く 精神分析・記号論など駆使

 宮崎駿監督のアニメ映画「もののけ姫」を巡って出版界で批評ブームが静かに巻き起こっている。 性差のフェミニズム、精神分析など現代の最先端の文芸批評家がアカデミックな雰囲気で宮崎作品を 論じ合い、まさに現代批評の実験場と化した格好だ。アニメは文学に比べ長らく「日陰者」扱いされてきた 日本のサブカルチャーだが、宮崎氏の活躍で文芸批評の正当な対象として日の目が当たってきたようだ。

■格好の教科書
 もののけ姫では映画専門雑誌「キネマ旬報」や思想誌「ユリイカ」が臨時増刊を出して宮崎作品を特集。 「別冊宝島」は「アニメの見方が変わる本」で宮崎氏の根底に流れる思想的な背景を研究している。 また、「潮」では宮崎氏本人を登場させ、中世が専門の歴史学者、網野善彦氏と作品の舞台となった 室町時代やその前後について魅力を論じた対談を掲載している。
 一方、「文芸春秋」は作家の長部日出雄氏と評論家の関川夏央氏の対談で映画のラストシーンを読み解く 企画を設けた。宮崎ファンやディレッタント(好事家)にとっては、宮崎研究のための格好の教科書が そろったと言えるだろう。
 共通しているのは、歴史的解釈、心理学、ジェンダー(文化的性差)、記号論、精神分析など現代の 代表的な批評のキーワードを手がかりに宮崎作品の解釈を試みている点だ。その関心はひとえに宮崎アニメ に流れる「なぞ」にある。代表的なのが、ふゅーじょんぷろだくと社の「もののけ姫を読み解く」だ。
 例えば、登場人物の一人で遊女上がりの「エボシ御前」を取り上げ、中世の非支配階級やアウトサイダー の実態を探索してみたり、中世の針葉樹林文化と宮崎氏の思想の共通点を探っている。同誌は 「多角的に作品の思想的意図をあぷり出す」ことに主眼を置いたとしている。

■テキスト論
 こうした百家争鳴の批評論を眺めていると、80年代にポストモダンの文学論として一世をふうびした ロラン・バルトの「テクストの快楽」やウンベルト・エーコの「開かれた作品」を連想してしまう。 作品の解釈は絶対的な権威者である作家の手中にあるのではなく、読者の側の主体的な解釈で紡ぎ出される というテキスト論た。
 93年に岩波書店が刊行を始めた「漱石全集」では、夏目漱石の作品を巡って文学以外の専門家が ウパニシャッドなどインド古代哲学やフェミニズムの観点から再解釈を施したことが内外の注目を集めた。 今起きているのは文学一辺倒だった文芸批評がアニメをも対象にし始め、その題材に宮崎作品が早々と 取り上げられたという点にある。なぜこのような特異な現象が日本で起こるのだろうか。
 昨年、「風の谷のナウシカ」を題材に「ナウシカ解読−ユートピアの臨界」を著した岡山大学の 稲葉振一郎助教授は「日本映画・アニメ界で宮崎氏はメジャーな存在として確立している。 小さいころからアニメに慣れてきた我々の世代が違和感なく批評の対象にしやすい環境にある」と説明する。
 稲葉助教授は社会思想が専門。「全共闘のちょっと前の世代の一人として宮崎氏を位置付けると、 映画の『ナウシカ』に見られる素朴なエコロジー思想とマルクス主義の潜在的な共犯関係が背後に 読み取れる」のだという。アカデミックな文脈の中で宮崎作品を位置付けているのだ。

■解釈の洪水
 東大学長で文芸評論家の蓮實重彦氏は「マルチメディア時代は一つのコンテンツ(情報の内容) が起点になって様々な解釈の洪水をもたらす情報の大流通が起こる」と予想する。 アカデミックな衣をかぶった「もののけ姫現象」はその前兆なのかもしれない。
(木ノ内敏久)
[
TOP]
「もののけ姫」でもうけました 朝日新聞 1997/09/23

中間見通し 東宝、2ケタ増収で最高益

 アニメ映画「もののけ姫」の大ヒットで、配給会社の東宝の8月中間決算は2けたの増収増益で、 売上高と経常利益がいずれも過去最高になる見通しだ。「もののけ姫」の配給収入は80億円を突破、 洋画「E・T」の記録96億円に迫る勢い。石田敏彦社長(66)は「うまくつぼにはまったとしか言いようが ない」と驚いている。

 中間決算の売上高は前年同期比約20%増の約467億円、経常利益は約16%増の約68億円になる見込み。 10番組12本の映画の配給収入の半分以上を「もののけ姫」が占める。テレホンカードなどの キャラクター商品の売れ行きも好調だ。
 「もののけ姫」は東宝や日本生命保険、日本テレビなどが通常の映画の5倍の約50億円の宣伝費をかけた こともあり、観客動員数は1000万人を超えた。年内のロングラン上映も決まり、1200万人という「E・T」 の最高記鏡を抜くのは確実だ。
 石田社長は「配給収入は60億円いけばありがたいと思った」と、「うれしい誤算」を喜ぶ。 半面、自社制作で6月に公開した映画「誘拐」の興行成績は悪かった。「社会派のサスペンス映画」 として主に男性の観客を見込んでいたが、同時期に上映された東映の「失楽園」と競合した。 「やはり、女性向けに宣伝しないとダメですね」
[
TOP]
「もののけ姫」ブームに驚き 日本経済新聞 1997/09/08

宮崎監督「理由分からない」
 「資金回収が自分たちにとって最大の問題。映画の出資者に対して責任を果たすことが エンターテインメントの原則だ。ただ正直なところ、自分ではなぜヒットしているのか分からない」− 14年ぶりに邦画の最高配給収入記録を塗り替えた映画「もののけ姫」の宮崎駿監督は、記録更新後初の 記者会見でやや戸惑い気味に喜びを語った。
 映画は配収予測を立てにくいため、バブル崩壊以降は企業の投資も鈍りがち。制作会社の資金不足が邦画 低迷の一因と指摘されているが、宮崎氏は「制作会社が自社作品に絶対の自信があるといいながら、資金が 集まらないと不満を唱えるのはおかしい」と言う。
 芸術的な評価と興行成績が両立しにくいことについても、「自我を追求するなら作家として、のたれ死に を覚悟で取り組むべき。エンターテインメントの映画は自我にとらわれるものではない」ときっぱり。 「もののけ姫」は10年以上あたためてきた企画で、あくまで「エンターテインメントを作った」と強調した。
 配給元の東宝は年内のロングラン上映を決めた。パンフレット販売も225万部と記録的水準に達するなど、 邦画界の「もののけ姫」ブームは当面続きそうだ。
[
TOP]
くらし 読書 朝日新聞夕刊 1997/09/06

「『もののけ姫』を読み解く」(「別冊コミックボックス」vol.2)
宮崎監督のインタビューをはじめ、物語の背景を丹念に探る。

切通 理作(文筆者)

高尚さよりほのかな色気がほしい
 2日の朝日夕刊で「配給収入72億円」が一面で報道された宮崎駿の新作アニメ。 過去の名作『となりのトトロ』の愉快なお化けと『風の谷のナウシカ』の戦うお姫様を両方連想させる、 『もののけ姫』という題名では期待するなという方が無理だ。
 神の崇(たた)りで不治の傷を負った少年が「曇りのない目」で世の中を見つめるため、異郷へ旅立つ。 そして、もののけに育てられた少女と出会い、ほのかな恋が……考えるだけでワクワクする。
 だが、映画を見終わって、今イチ釈然としないものが残った。「何かが足りない」と思いながらも、 うまく言葉にできない。
 識者はどう見たのかと月刊誌を複数めくった私だが、ただただ彼らの使う言葉に圧倒されるばかり。 「照葉樹林文化」「差別と共生」「アジールとしての森」「縄文考古学と黒曜石」……ムズカシイ。 そんな高い次元で見なけれぱならなかったのか? 私は自らの不明を恥じた。
 そんな時、勇気づけられる文に出会った。洞の中で少女サンの看病を受ける少年アシタカ。 『もののけ姫を読み解く』筆者の一人・池田憲章氏は、サンが今の時代の看護婦みたいに ただ付き添っていたのが不満。毛皮にアシタカを寝かせ、中にサンが一緒に入って体と心を癒(い)やす、 野性の狼(オオカミ)みたいなエロティシズムがあってもいいじゃないか。さらに池田氏は指摘する。 中世なら、タタラ場で労働する女はもっと肌をさらしているべきだ。
 思わずヒザを打った! 私が見たかったのは<自然と人間>という高尚なテーマではなく、少年と少女の 健康なエロティシズムだったのだ。
 宮崎さん、次回はそんな映画を待ってますよ!
[
TOP]
「もののけ姫」邦画新記録 朝日新聞夕刊 1997/09/02

配給収入72億円
宣伝、CM料換算で50億円に


 アニメ映画「もののけ姫」(宮崎駿監督)が、全国で大入りを続けている。世界的にヒット中の夏休み 映画「ロスト・ワールド」を、日本では圧倒する勢いだ。幅広い世代に客層を広げ、8月末現在で 配給収入70億円台。14年ぶりに邦画の新記録を樹立し、なお客足は衰えを見せない。恐竜をしのぐ快進撃 の秘密を探った。
(学芸部・馬場 秀司)


 8月末の平日の正午、「もののけ姫」を上映する東京・有楽町マリオンの日劇プラザ前には、親子連れ や若いカップル、熱年層までを含む100b以上の列ができた。劇場関係者によると、7月12日に封切られ てから、夏休み中はどの回も空席のない状態が続き、朝7時からのモーニングショーや、週末のレートショー を設けるなどの対応を迫られた。

「恐竜」を圧倒
 邦画では過去最高だった「南極物語」(1983年)の配給収入59億5000万円を上回る大ヒット。業界では 「80億円は見えた」という。
 いっほう「ロスト・ワールド」は、いまのところ、お盆休み以降、観客数が伸び悩んでいる。」 映画業界紙などの調べによると、封切り1週目の「もののけ姫」の入場者数は110万人。同じ日に封切られた 「ロスト・ワールド」は1週目で125万人と上回ったものの2週目から逆転し、以後、差は広がるばかりだ。 8月末までに「もののけ姫」の入場者数は877万人。「ロスト・ワールド」は推定540万人。
 「正直言って、ここまで伸びるとは予測していなかった」と「もののけ姫」を配給する東宝映画営業部の 千田諭部長はいう。

ヒットの構図
 千田さんによると、ヒットの構図は 1.封切り当初の若者人気 2.女性への浸透 3.地方でも当たる− だったという。
 「もののけ姫」は初め、中・高校生が客の4割、20歳代が2割と、圧倒的に若者の支持を受けた。次第に、 50歳代以降の熟年女性のグループも目立つようになり現在では女性の比率が65%。また、9大都市とそれ以外 の都市の客数を比ペると、地方が65%。東宝では地方都市でも2館以上で上映する体制を組んでいた。
 また最近の邦画ヒット作「Shall We ダンス?」(配給収入16億円)、 「失楽園」(同20億円=8月末まで)に比べても、「もののけ姫」は突出している。
 東宝は宣伝に、洋画の大作並みの布陣を敷いた。協賛の大手生命保険会社が広告料金に換算すると10億円 規模のタイアップCMを流し、全国約70カ所の試写会を実施。さらに世界配給元のディズニーの協力などを あわせると、CM料換算で推計50億円程度になるという。

「SFXには食傷気味」「不透明な時代を反映」

「大宣伝効く」
 興行問題に詳しい映画ジャーナリストの大高宏雄さんは「タイアップなど大キャンペーンが効いている。 それに加え84年の『風の谷のナウシカ』を見た世代が親になり、子どもを連れてきている動きも大きい」 とみる。
 さらに大高さんはこうも指摘する。
 「『ロスト・ワールド』は、ジェットコースターにたとえれば、改良されて速度が増しただけ。 日本人はSFX(特殊撮影効果)やCG(コンピューター・グラフィックス)ものに、食傷気味になってきた。 観客は精神の奥深さをこの映画に求めたのではないか」
 また、東京大学教養学部助教授の小森陽一さんは「日本人の先行き不透明感が、『もののけ姫』には 反映されている」という見方をする。
 「いまの中高生は『エヴァンゲリオン』や『セーラームーン』などに見られる地球終末論を大人より強く 感じている。地球環境の問題でも、高度経済成長を担った大人への不信感をもっている。 学校で教える科学や文明を礼賛することへの疑いがある。大人の側も、この問題をだましだまし来たことに、 疑問を感じ始めている。『もののけ姫』はその不安の感情を表した映画だと思う」と話している。


あらすじ
 日本の中世から近世に移る混とんの時代、北のかくれ里をタタリ神が襲う。その神を倒した若者アシタカ がのろいを断つため西へ。そこには環境を破壊しつつも懸命に生きるタタラ製鉄集団と、 森を守るもののけ姫・サンとの対立があった。アシタカは両者の共存ができないかと奔走する。

邦画の歴代配給収入ベスト10(8月末現在)

配給収入
(億円)
公開年
1.もののけ姫 72 1997
2.南極物語 59.5 1983
3.子猫物語 54 1986
4.天と地と 51.5 1990
5.敦煌 45 1988
6.ビルマの竪琴 29.8 1985
7.探偵物語/時をかける少女28 1983
8.紅の豚 27.6 1992
9.影武者 27 1980
10.平成狸合戦ぽんぽこ 26.5 1994

[
TOP]
字幕付き「もののけ」 朝日新聞夕刊 1997/08/28

 大ヒット中のアニメ映画「もののけ姫」(宮崎駿監督)を聴覚障害者にも楽しんでもらおうと、字幕付き の上映が、29日から3日間、名古屋市内である。これまで70本以上の映画に字幕をつけてきた名古屋の市民 グループが、1カ月半かけて完成させた。
[
TOP]
“最後”の宮崎アニメ 世界へ 朝日新聞 1997/07/19

「ナウシカ」から13年 もののけ姫

 「風の谷のナウシカ」から13年。自然と人間の関係を描き続けてきた宮崎駿監督“最後の作品”とも いわれる「もののけ姫」が封切られた。
 近世をはらみながらも、なお人を寄せ付けない太古の森があちこちに残っていた室町時代。イノシシの タタリ神の呪(のろ)いを解くため旅に出た若者アシタカは不老不死の力が秘められているというシシ神 の住む森にたどりつく。そこでは山犬に育てられ、動物たちと暮らすもののけ姫・サンと、売られた女や 虐げられた男たちを集めてタタラ製鉄の集落を率いるエボシ御前が、森の開発をめぐってぶつかりあおうと していた。アシタカは惨劇の中でサンと出会い、心を通わせるのだが……。
 セル画の総数13万5千枚、直接製作費20億円という超大作。ディズニーが世界配給することも話題を 呼んでいる。
(構成・木村 彰一)


荒俣 宏さん
難しいテーマ よくぞ戦った
 絵のクオリティーは非常に上がったが、自然と人間を見据える宮崎映画の基本は変わっていない。 ナウシカで描かれた生態系の問題が今回は「自然は本当は怖いんだ」というところへ、まあ必然的に 行き着いた。
 ただ時代設定を考えると、もののけが強すぎる。犠牲者のように見えてるが、実は強い。 現代ならたたり神でさえ怖がられないが、映画の中はまだ自然が強い時代。ほくはエボシ御前に圧倒的に 親近感を感じました。開発を象徴する人物だとしても自然を征服したわけじゃない。今から見るとよく がんばっている。野山にいるのはもののけ。神になるには一度たたらせなければいけない。エボシは その役割も負っている。
 見ていて気の毒でした。こんな難しいテーマをよく引き受けたな、と。自然と人間、どちらの味方にも つけないんだから。ある意味ではドン・キホーテ。業ですよ。負け戦をよくぞ戦ったという感じです。
 ほかの国ではだめでしょう。神話的背景がわからないと思う。
(作家)


吉澤 夏子さん
現代社会の闇 よく映し出す
 自然/人間、善/悪、そういった二元論的な枠組みで社会のありようを解き明かすという、 いわゆる近代的な解釈図式が完全に行き詰まっている「現代社会」の闇(やみ)が、 見事に映し出されている、という印象をもちました。そして人間が、ある解き難い矛盾を抱えながらも、 それを安易に切り捨てたり、ただ開き直ったりするのではなく、その矛盾を矛盾のままいかに引き受けて 「生きる」ことができるのか、という問いを問うことがどれほど重要なことなのか、も。
 現実を見据える透徹した視線と優れた行動力をもつエボシ御前と、野生と人間に引き裂かれた 自我をもち直情的に暴力性を発揮するサン、二人の「強い」女性が強烈な個性を放つ物語の中で、 でも私は、アシタカという少年に魅了されました。彼が、静かに「矛盾」を引き受けて、「生きろ」 という命令にあくまで従おうと「決意」する姿が、とても美しくいとおしく、そこにかすかな希望を 見いだすことができる、と感じたからです。
(日本女子大助教授)


佐藤 健志さん
優しさが裏目 ニヒルな結末
 まさに有終の美です。映像も見事だし、自然と人間の対立というテーマのとらえ方も深まりました。
 「人間が自然に謝罪すれば、自然も人間を許す」という従来の安易な姿勢を自ら否定し、両者の対立の 根深さを追求している。また「エボシ御前」の人物描写には、「人間を尊重すれば自然破壊は必然だ」 というヒューマニズムの二面性が鋭く表れていました。
 あれほどの巨匠になっても、自己の世界観を徹底して見直す誠実さに敬服します。が、シビアな問題提起 をしておきながら、何とか救いを見つけようとしたため、物語に無理も多い。主役カップルの恋には説得力 がないし、主人公が受けたもののけの呪いが解けたかどうかも分からずじまい。
 最後、映画はある種の永劫(えいごう)回帰の思想に至る。自然と人間は永遠に争うが、永遠に争うから にはどちらも滅びないというわけです。でもこれはニヒリズム。希望ある結末にしようとした宮崎監督の 優しさが、むしろ裏目に出ましたね。
(作家・評論家)


小野 耕世さん
物語の複雑さ 米で通じるか
 長編アニメ史の中で技術的には一つの到達点を示した。繊細な色彩、アニメならではの動きと変形の 激しいイメージ。森のシシ神の夜の姿=ディダラボッチが大きくなっていくところなどは夢のような映像だ。
 自然と人間の対決構図を異文化とのからみで描いた「ダンス・ウィズ・ウルブズ」を思い浮かべた。 そこにいろんな要素が入っており、見終わってカタルシスはない。現代につながる重いテーマだから 当然だが、その重さを単純化しないでさしだしてくる。そうするほかない宮崎さんの悩みが、正直に 伝わってくるようだ。ディズニーの明快さとは違う。米公開ではこの複雑さがどうとられるか。 でも「ダンス−」も単純な映画ではないがヒットした。テーマの切実さは共感されるだろうから、 力強い映像の魅力で巻き込むと面白い。
 「女性が元気な村は豊かだという」というアシタカのせりふが印象に残る。女性を生き生き描くのが うまい人だ。エボシ御前の声を演じた田中裕子がいい。
(評論家)

[
TOP]
幻想物語に託す歴史への嘆き 朝日新聞夕刊 1997/07/10

映画 もののけ姫

 壮大にして意欲的な伝奇物語である。着想は卓抜だし、構成は堅固だし、描写は精妙だ。しかもイメージ は豊かで、テーマは今日的で生々しい。脚本、監督の宮崎駿、入魂の作に違いない。
 日本史上最大の乱世、室町期の話である。ただし、ここに描かれるのは人間世界の混迷ではない。自然と 人間との危急存亡の闘いだ。
 北の果ての隠れ里が、突如、「タタリ神」に襲われるところから物語は始まる。村の長になるべき少年 アシタカが村を救うのだが、彼は、死ののろいをかけられる。ミコのお告げで、のろいを断つべく独り西へ 向かう。
 冒頭から、ただならぬ迫力である。規模が大きく、力感、 躍動感に富み、精密な細部には現実感がある。そして少年の旅は空想の世界の大きな飛躍を予感させる。
 アシタカはやがて、西の森にたどりつく。そこには、人語を解する動物たちがいて、生死をつかさどる 森の神がいて、精霊たちがいる。アシタカは、山犬に育てられた少女、もののけ姫に出会い、人間の理想郷 をめざして森を切りひらく製鉄集団に迎えられ、彼らと森の神々との死闘に巻き込まれる。
 宮崎アニメについて、くどい紹介は不要だろう。この作品で言わなければならないのは、その重層的な 主題についてである。
 アシタカがいう。「森と人が争わずにすむ道はないのか。本当にもう止められないのか」。映画は、人間 と自然との共生を訴える。しかし、深いところには、歴史への嘆きがある。人間のあくなき欲求と蛮行は、 いつまで繰り返されるのか。さらに、底の方には、切実な呼びかけがある。「それでも共に生きよう」との。
 現実をそっくり幻想物語に託した、これは作家性の濃厚な映画である。
(秋山 登)
[
TOP]
[「もののけ姫」ニュース] [ホームページ]