深夜の告白 Double Indemnity
公開:
1944年
深夜の告白
製作:
パラマウント・スタジオ

ジョーゼフ・シストロム
監督:
原作:
ジェームズ・M・ケイン
脚本:
ビリー・ワイルダー

レイモンド・チャンドラー
撮影:
ジョン・サイツ
音楽:
ミクロス・ローザ
出演:
フレッド・マクマレイ

バーバラ・スタンウィック

エドワード・G・ロビンソン

しがない保険会社のセールスマン、ウォルター・ネフは、美しい人妻フィリスにそそのかされて、 彼女の夫に掛けた多額の保険金目当ての完全犯罪を計画。二人は夫を撲殺し、列車からの転落事故に見せかけることに成功する。 完璧だったはずの殺害計画だったが、ネフの上司キースは死因を怪しんで独自の捜査を開始。 追い詰められた二人の関係に亀裂が生じはじめる…。 人間の最も醜い部分をえぐり出し、金とセックスに目がくらんで破滅的な人生を歩む男と女の哀れな末路を描いたフィルム・ノワールの傑作。

ハードボイルド小説作家ジェームズ・M・ケインは、 自身の『郵便配達は二度ベルを鳴らす』(46)にも影響を与えた ルース・スナイダーという女性が愛人の男性と共謀して夫を殺害した事件をヒントに、 保険の勧誘員だった経験を生かして、ひとりの保険勧誘員が人妻と完全犯罪を試みようとする小説『倍額保険』を執筆。 大手の雑誌に売り込むがどこにも相手にされず、ハリウッドの大手撮影所もヘイズ・オフィスからの横槍を恐れて映画化しようとはしなかった。 ケイン自身が駄作と評したこの連続小説は最終的に1936年にリバティ誌で8回にわたって連載され、43年に『横領者』と『ハ長調の経歴』の二作品と一緒に一冊の本として出版された。 このケインの短編小説が大衆受けすると考えた監督兼脚本家のビリー・ワイルダーは映画化に興味を示し、パラマウント社は1万5000ドルで映画化権を獲得。 しかし、ワイルダー監督の『少佐と少女』(42)と『熱砂の秘密』(43)を製作し、共同で脚本を手がけたチャールズ・ブラケットはこのケインの小説を嫌って映画化にかかわることを一切拒んだので、 ワイルダーはケインに脚本を書かせようと考えたが、彼はすでに他の映画の脚本執筆で手が空いていなかった。 そこで、ワイルダーは『大いなる眠り』を読んで、当時無名だったレイモンド・チャンドラーに脚色を依頼。 チャンドラーは1ヶ月で脚本を書き上げたが、出来上がった脚本はワイルダーを満足させることが出来ず、共同で執筆することになった。 しかし、性格が正反対のチャンドラーとワイルダーの相性は最悪だったうえに、 ケインの短編を忠実に映画化しようとするワイルダーに対して、ケインの小説を見下していたチャンドラーは真っ向から対立。 共同作業は数ヶ月にわたったが、二人はたがいを憎みあい、 尊大なワイルダーの態度に腹を立てたチャンドラーがワイルダーを訴えることも何度かあったが、 ワイルダーはチャンドラーをなだめながら仕事を進めて原作に忠実ながらも全く内容の異なった脚本を完成させた。 主人公のウォルター・ネフ役をオファーされたアラン・ラッドは脚本を読もうともせず、悪役を演じることに嫌気がさしていたジョージ・ラフトも出演を辞退。 グレゴリー・ペックスペンサー・トレイシーも女に操られるような弱い男など演じたがらず、 最終的に当時人当たりの良い役で人気を博していたフレッド・マクマレイが抜擢された。 当初、主人公の名前はウォルター・ネスだったが、舞台となるロサンゼルスに同姓同名の保険のセールスマンが住んでいたので、訴訟を恐れたスタジオは名前をネフに変更した。 ヒロインのディードリクソン役をオファーされたバーバラ・スタンウィックは、この冷血な人殺しの役を演じることに恐れをなしていたが、 ワイルダーの説得と彼女がそれまでの映画で演じた善良なヒロインというタイプキャストからの脱却のために出演を承諾。 ワイルダーは、観客が彼女のキャラクターからマレーネ・ディートリッヒが持つ危険でよそよそしく情熱的なイメージを連想し易いように、 キャラクターのラストネームを原作のナードリンガーからディートリクソンに変更。 また、スタンウィックにはブロンドのカツラをかぶらせたが、彼女がジョージ・ワシントンみたいに見えるとスタジオ上層部から不評を買った。 スタジオ内での撮影が当たり前だった時代に、ワイルダーはロサンゼルス駅周辺の物騒な界隈での撮影を行い、映画の大半をここで撮影した。 死体を捨てた後、ネフとディードリクソンが乗る車のエンジンがかからない緊迫したシーンはダミーの車を使って撮影されたが、 この車にはダッシュボードもイグニッション・キーも付いておらず、二人はパントマイムで車のエンジンをかけているように見せかけた。 この映画のエンディングとして、チャンドラーとワイルダーはネフがガス室で処刑される印象的なシーンを用意。 このシーンは、15万ドルを投じて作られたフォルサムにあるガス室を再現したセットで5日かけて撮影された。 しかし、これではあまりにも直接過ぎると考えたワイルダーはエンディングの変更を決めるが、 チャンドラーは書き直しに消極的で、新たなセットを作る費用もなかったので、 保険会社の廊下でマクマレイとロビンソンが語り合うシーンが新たに撮影された。 不倫や殺人を描いたダークな内容のためスタジオの重役からは嫌われていたにも関わらず、映画は絶賛されて大ヒットを記録。 第17回アカデミー賞では作品賞を含む7部門にノミネートされるが無冠に終わった。 この映画は犯罪映画の一つの指標となり、 生涯最高の役を手に入れたマクマレイとスタンウィックはこの作品の成功によってスターとしての不動の地位を獲得し、 男を操る冷血な悪女(ファムファタール)を熱演したスタンウィックはアカデミー賞にノミネートされて新境地を開拓。 以後、悪女を主人公にしたサスペンス映画が大量に作られ、40年代のフィルム・ノワールに大きな影響を与えただけでなく、 81年のローレンス・カスダン監督の『白いドレスの女』やポール・ヴァーホーヴェン監督の『氷の微笑』など、 近年のクライム・サスペンス映画にも多大な影響を与えた。

73年にはジャック・スマイト監督よってテレビ用映画としてリメイクされた。


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