マルタの鷹 The Maltese Falcon
公開:
1941年
マルタの鷹
製作:
ワーナー・ブラザーズ・スタジオ

ハル・B・ウォリス
監督:
原作:
ダシール・ハメット
脚本:
撮影:
アーサー・エディスン
音楽:
アドルフ・ドイチュ
出演:
ハンフリー・ボガート

メアリー・アスター

グラディス・ジョージ

サンフランシスコで相棒のアーチャーと共に探偵業を営むサム・スペード。 ある日、オーショネイというミステリアスな女性からサーズビーという男に尾行されているので助けて欲しいと頼まれるが、依頼を肩代わりしたアーチャーはサーズビーと共に死体で発見される。 事件を追うスペードの前に不気味な男カイロが現われ、黒い鷹の置物を探して欲しいと依頼。 スペードはこの事件の裏に、その昔マルタ島の騎士団がスペインの国王に贈ったといわれる宝石を散りばめた黄金の鷹の彫像が絡んでいることを知り、自らもこの醜い争奪戦に巻き込まれてゆく。 ダシール・ハメットの最高傑作を、映画初演出のジョン・ヒューストンが原作のタッチをそのままに映画化した探偵映画の傑作。

犯罪組織の抗争を乾いた文体と一人称の語りによって描いた29年の小説『血の収穫』でハードボイルドと呼ばれる手法を確立したダシール・ハメットは、 3年間働いたピンカートン探偵社での経験を生かして3作目の小説『マルタの鷹』を執筆。 この傑作探偵物語は「ブラック・マスク」誌に連載されたあと30年に単行本として出版され、ワーナー・ブラザーズ社は8万5000ドルで全映画化権を獲得。 31年にリカルド・コルテスとビーブ・ダニエルズの主演で最初の映画化が行われたが、当時ヒーローがヒロインを弾劾するラストは考えられないことだったので、 スペードは地方検事局に就職し、オーショネイはすぐに釈放されて、スペードとの再会をほのめかす結末に変更されて、メロドラマ的な要素が強い作品となった。 36年には『Satan Met a Lady』として再び映画化され、この二度目の映画化ではスペードはテッド・シェインという弁護士になって、ラストで秘書と結婚。 ガットマンは女に、黒い鷹の像は宝石をはめたフレンチ・ホルンに変わり、ヒロインを演じたベティ・デイヴィスが自分の出演作の中で最悪の駄作のひとつと呼ぶほどの出来だった。 脚本を手掛けた『黒蘭の女』(38)や『ヨーク軍曹』(41)が大きな成功を収めて、売れっ子脚本家としての地位を確立したジョン・ヒューストンは念願の監督業に進出。 監督する映画を自ら選ぶ条項を契約書に入れていたヒューストンは、初監督作として『マルタの鷹』の三度目の映画化を企画する。 スタジオは二度も失敗した作品のリメイクには消極的だったが、スタジオの重役ジャック・ワーナーは、ヒューストンが満足のいく脚本を書ければという条件付きで映画化を了承。 ヒューストンは原作のハードボイルドなスタイルにこだわり、脚本を執筆する前に原作からショットとシーンと台詞だけを抜き出してストーリーを見極め、 ハメットの小説が持つ独特の話法とリズムを映画にも取り入れながら、一人称の語りを駆使して主人公であり第三者であるスペードの目を通して状況を客観的に見せることによって作品から一切の感情を排した。 スペード役には最初、ジョージ・ラフトがオファーされたが、彼は新人監督と一緒に仕事をすることと、過去に作られた映画に出ることを嫌がって出演を断り、 ラフトに代わって『デッド・エンド』(35)と『ハイ・シェラ』(41)でラフトが断った役を演じて頭角を現してきたハンフリー・ボガートが抜擢された。 ヒューストンはオショーネシー役に『嵐ヶ丘』(39)のジェラルディン・フィッツジェラルドを望んでいたが、ワーナーはメアリー・アスターを使うことを強制した。 ガットマン役にはヒューストンがブロードウェイの舞台を見て惚れ込んだ映画初出演のシドニー・グリーンストリートを抜擢し、 フリッツ・ラング監督の『M』で殺人鬼を演じたピーター・ローレが不気味なカイロ役を演じた。 また、ヒューストンの父親で俳優のウォルター・ヒューストンがスペードに鷹を届ける船長役でカメオ出演。 映画に登場する鷹の彫像は、石膏にエナメルを塗った物で、全部で6つ制作された。 映画の内容とは裏腹に、撮影現場の雰囲気は明るく、ボガート、アスター、アスター、ヒューストンらは撮影が終わると毎晩のように食事に行き、誰もがいい仕事をしていると考えていた。 監督を含めて誰もこの映画が成功するとは思っていなったが、公開されると絶大な支持を集め、クールで乾いたタッチは評判を呼び、ハードボイルド映画の人気に火を付けただけでなく、 フィルム・ノワールと呼ばれるギャング映画とは全く違った独特のスタイルを持った犯罪映画のジャンルを確立。 それまで悪役としてジェームズ・キャグニーエドワード・G・ロビンソン主演のギャング映画で端役を演じてきたボガードは、 悪人たちと同じ世界に住み、汚い手を使うことも厭わないながらも、自分なりの誇りと正義感は決して忘れないという非情で犯罪者すれすれの男を魅力的に演じて全く新しいヒーロー像を創造。 以後、ハードボイルドを語る上では欠かせない俳優として活躍する。 また、複数の人物が一つの物を追って最後に苦い敗北を味わうという今作のテーマは、『アスファルト・ジャングル』(50)など後のヒューストン作品にも受け継がれていった。


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