イギリス、ロンドン郊外の小さな街に住むミニヴァー夫人は、その優しい人柄で街の誰からも愛されている。彼女は夫と3人の子供たちと平和な日々を送っていたが、1939年にイギリスは第二次世界大戦に参戦。長男のヴィン、使用人のホーレスら多くの知人が出征する。イギリス本土はドイツ空軍の空襲にさらされ壊滅的な打撃を受けるが、そんな状況の中にあってもミニヴァー夫人は逞しく生きようとする。名匠ウィリアム・ワイラーが戦争の荒波に翻弄される一般市民の姿を力強く描いて戦意高揚を唄った良質の家庭ドラマ。
女流作家ジャン・ストルーガーによる同名小説の映画化にあたって、36編のエピソードで構成されたストーリーは『失はれた地平線』(37)の原作者ジェームズ・ヒルトンらイギリスを代表する4人の英国人脚本家によって一つのドラマにまとめ上げられる。
タイトル・ロールのミニヴァー夫人役には、当時M-G-M社のトップ女優の一人だったノーマ・シアラーの出演が予定されていたが、シアラーは3人の子持ちの女性を演じることに難色を示して出演を辞退する。
代わって、M-G-Mの重役ルイス・B・メイヤーに見出されたイギリス出身のグリア・ガースンに白羽の矢があたるが、
ガースンも初めはシアラーと同じく子持ちの人妻役に積極的ではなかったものの、メイヤーに説得されて出演を承諾。
ミニヴァー夫人の夫役には、41年の『塵に咲く花』でもガースンの夫を演じたウォルター・ピジョンが配される。彼ら2人の息の合った夫婦ぶりは好評を博して、この作品以降『キューリー夫人』(43)、『パーキントン夫人』(44)、『愛の決断』(45)、『The Miniver Story』(50)の4本の作品でも夫婦役を演じた。
サミュエル・ゴールドウィン社の専属で、ドキュメンタリー映画撮影のために従軍する直前だったウィリアム・ワイラーが監督に起用され、
ヴィンの恋人キャロル役にはゴールドウィンからワイラー監督の『偽りの花園』(41)で映画デビューを果たしたばかりのテレサ・ライトを借り受ける。
ガースンは撮影中にミニヴァー夫人の息子ヴィンを演じた10歳年下のリチャード・ネイと恋に落ち、翌年結婚して大きな話題となった。
ミニヴァーとキャロルがドイツ軍の空襲に遭うシーンの撮影中に、ワイラーは 二人に状況を報告する若いイギリス兵飛行士の端役を付け加え、新人のピーター・ローフォードが溌剌とした顔の若者を希望したワイラーの眼鏡にかなって抜擢された。
映画が公開されると戦時下の風潮を反映した内容が高く評価され、当時としては破格の500万ドルちかい収益をあげ42年度の興行収入第二位を記録。第15回アカデミー賞では11部門にノミネートされ、作品賞、主演女優賞(ガースン)、助演女優賞(ライト)、監督賞、脚色賞、白黒撮影賞の6部門と、製作者のシドニー・フランクリンがアーヴィング・タルバーグ賞を獲得。
主演女優賞を獲得したガースンは、演技論、女優論から、自分の誕生に立ち会った医者にまで感謝する1時間近くにも及ぶ受賞スピーチを行ってオスカー史上最長のスピーチ記録を作り、翌年から受賞スピーチは1分から2分以内に制限される。
時のイギリス首相ウィンストン・チャーチルはこの映画を「駆逐艦一艦隊よりも戦勝に大きく貢献した」と評して絶賛し、映画の舞台となったイギリスでもアメリカ同様にヒットを記録する。しかし、非現実的なセットでの撮影がリアリズム志向のイギリスの批評家には受け入れてもらえず、作品としての評価は低かった。
第二次世界大戦時のアメリカでは、銃後の市民生活を描いたドラマが人気を博して『ミニヴァー夫人』のような内容の映画が続々と製作され、これらの作品は「ホーム・フロント(銃後)映画」と呼ばれるようになる。
8年後の50年には、オリジナル・キャストを再集結させてイギリス・ロケで製作したH・C・ポッター監督による続編『The Miniver Story』が公開されたが、前作ほどの評価と人気を得ることは出来なかった。 |