フィラデルフィアの郊外に住む上流階級の令嬢トレイシーは、石炭会社の重役ハワードとの結婚を間近に控えている。トレイシーのプライドの高さとわがままぶりに手を焼いて2年前に離婚したデクスターは、未だに彼女の事を忘れることが出来ないでいる。彼は雑誌記者のマイクとカメラマンのリズと連れてトレイシーの屋敷にやってきて、彼女の再婚を妨害しようと策略を練る。上流社会を舞台にして男と女の恋の駆け引きを軽妙に描いた、名匠ジョージ・キューカー監督が手掛けたスクリューボール・コメディの傑作。
『男装』(36)、『赤ちゃん教育』(38)など、RKO社で製作した主演作が立て続けに失敗して「ボックスオフィス・ポイズン」の烙印を押されたキャサリン・ヘプバーンは、自らRKOとの契約を買い取って古巣の舞台に戻る。自分が出演するに相応しい劇を探していたヘプバーンは、旧友のフィリップ・バリーが彼女を主人公に想定して書き上げた戯曲に興味を持ち、企画の段階から参加して制作費の25%を出資しただけでなく、出演料を受け取らない代わりに興行利益の45%を受け取る契約を交わす。デクスター役にオーソン・ウェルズが主宰するマーキュリー劇団のエース、ジョセフ・コットン、マイク役にヴァン・へフリンを配して、39年の5月28日にブロードウェイで舞台は開幕し、415回の公演回数を記録するスマッシュ・ヒットとなる。ヘプバーンの元愛人で、舞台に出資もした富豪のハワード・ヒューズは、ヘプバーンのために舞台の映画化権を購入。舞台の映画化に興味を示したM-G-M社はスタジオ専属の女優ジョーン・クロフォード主演の企画として映画化権を獲得しようとするが、ヘプバーンが映画化権を所有していると知ると、M-G-Mの会長ルイス・B・メイヤーはヘプバーンに映画化権と出演料として25万ドル支払い、彼女の要求を呑んで、ジョージ・キューカーを監督に起用して、彼女に共演者を選せる権利と、脚本をチェックする権利を認めるという破格の好条件で契約を結ぶ。戯曲の脚色を手掛けたドナルド・オグデン・スチュワートは、舞台版の面白さやおかしさをそのまま映画にも取り入れながら、無言のプロローグなど映画的な変更を加えて、オリジナルの雰囲気を壊すことなく見事な脚本を書き上げる。ヘプバーンはスペンサー・トレイシーとクラーク・ゲイブルを共演者として希望するが、二人ともスケジュールが空いていなかったので、メイヤーはジェームズ・スチュワートの出演を請け合い、ヘプバーンはケーリー・グラントに出演を打診、彼は名前の序列をヘプバーンよりも上にすることを条件にして13万7000ドルの出演料で出演を承諾するが、出演料の一部は彼の母国であるイギリスの戦時救済基金に寄付する。グラントがデクスター役を演じることになったので、彼のキャラクターを生かすために、舞台版に登場したトレイシーの兄は映画版では削られて、デクスター役に融合される。スチュワートは雑誌記者マイクの役を演じて見事な演技を披露、彼の演技はスタジオを訪れた劇作家のノエル・カワードにも激賞される。撮影は8週間で終了し、完成した映画は批評家からも観客からも高い評価を得て、ニューヨークのラジオシティ・ミュージック・ホールでは6週間で60万ドルの興収を上げてそれまでの記録を更新する。アカデミー賞では作品賞を含む6部門にノミネートされて、脚色賞とジェームズ・スチュワートの主演男優賞の2部門で受賞する。スチュワートが貰ったオスカー像にはひびが入っていた為、以後彼のオスカー像はガラス・ケースに収められる。ヘプバーンはニューヨークの批評家協会賞を獲得し、この映画の成功によってハリウッドでのキャリアに新しい局面を切り開く。
56年にはルイ・アームストロングら有名ミュージシャンを競演させた、ビング・クロスビー、フランク・シナトラ、グレース・ケリー主演のミュージカル映画『上流社会』としてリメイクされる。
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