1990年代のジャズ


★★★★1/2
Pete MALINVERNI "A Very Good Year" (Reservoir: RSR CD 158)
it was a very good year courtin’ the muse steal away / my lord / what a mourning lucky to be me blue in green Angelica imagination projection
Pete MALINVERNI (piano) Dennis IRVIN (bass) Leroy WILLIAMS (drums)

隠れたニューヨークの逸材を掘り起こした,米レザボア社のシリーズ企画『ニューヨーク・ピアノ・シリーズ』は,1990年代に進められたシリーズ企画の中でも特に大きな成功を収めた企画でした。本盤はこのシリーズを代表する一枚。このレーベルに残した2枚のCDのお陰で日の目を見たピアニスト,マリンベルニは,若さに似合わぬ飄々とした語り口が持ち味で,淡々と語り掛けるように歌うピアノが魅力。オーソドックスで地味乍ら内容は全曲を通じて安定感抜群です。ブルーノート盤で有名な録音技師,ルディ・ヴァン・ゲルダーの丸みを帯びた,木目調の質感溢れる集音も見事。

★★★★★
Jan LUNDGREN Trio "Swedish Standards" (Sittel: SITCD 9246)
solen glimmar blank och trind sommar, sommar, sommar Joachim uti Babylon uti var hage visa vid vindens anger min polare per waltz- a- nova sag det med ett leende 他全10曲
Jan LUNDGREN (piano) Mattias SVENSSON (bass) Rasmus KIHLBERG (drums)
スウェーデンのヤン・ラングレンは,アルファ・レーベルの連続録音で国内でも知名度が定着しました。しかし,彼の魅力を最良の形で聴くなら俄然ご当地ものを。1995年に結成された彼のスウェディッシュ・トリオは,各人素晴らしい技量の持ち主で,まさしく理想のトリオ。他国での演奏盤のどこにも見受けられない,圧倒的な一体感と密度があります。この盤は同トリオの残した諸作品中でも白眉の大傑作。ラングレンの持つ,バッピッシュでありながら白人らしくみずみずしいタッチと純度の高いアドリブの妙が,この優れたトリオの演奏によって遺憾なく引き出され,ご当地の流行歌を題材に水を得た魚のように躍動。極めて正統な魅力のトリオで,広くジャズ・ファンに安心して推薦できる名盤といえましょう。録音も最高で言うことなし。ベーシストは,ヤコブ・カールゾン・トリオの一員としても活動中。

★★★★1/2
Peter MADSEN "Three of a Kind" (Minor Music: MM 801039)
Paul’s pal I’m old fashioned makin’ whoopie my buddy take the six train everytime we say goodbye on a misty night three of a kind between the davil and the deep blue sea danni
Peter MADSEN (piano) Dwayne DOLPHIN (bass) Bruce COX (drums)

ドイツの『マイナー・ミュージック』は,レーベル名からしてアングラ路線を約束されてしまったようなレーベルですが,ピーター・マドセンという隠れ名手を掘り起こしたことで,のちのジャズ史に名を残すでしょう。リーダーはベーシストのマリオ・パヴォーヌやトーマス・チェイピンと懇意なようで,サイドメンとして彼らの幾つかのアルバムにも顔を出しています。脇へ回るとモンク・前衛と何でもこなし,コイツは前衛野郎かと思っていましたら,これがとんでもないカメレオンでした。数少ないリーダー録音の機会にリーダーが見せたのは,全く衒いのないウィントン・ケリー奏法。多分いちばん有名でありましょうドウェイン・ドルフィンの重厚なベースに,控えめな絡みを見せるマドセンのピアノは,徹頭徹尾趣味が好い。歌もの中心の選曲も,彼のそうした趣味の良さを最も良い形で引き出している。紛れもなく隠れ名盤です。

★★★★1/4
Reinhard MICKO Trio "Reinhard Micko Trio" (CHIRE: CHI 002)
lost chromabluetics springtime spell hotel 240 lugendetektor I do believe in spring floating four roses if I should lose you
Reinhard MICKO (piano) Karl SAYER (bass) Uli SOYKA (drums)

オーストリアで活動中のチック・コリア系ピアノ弾き,ラインハルト・ミッコの初リーダー録音。いかにもチック系らしい,捻りの利いた転変調のリフ・チューンに,チック・コリアばりのメカニカルなフレーズを乗せてくるスタイルが持ち味で,技巧的にも闊達。ドラムスのユーリ・ソイカとはしばしば一緒に活動しているようで,彼がリーダーを務めるグループ『パンタウX』にも彼の名前を見つけることができます。2001年現在2枚のリーダー盤が出ており,進境極めて著しい。次の第3作か,遅くとも第4作までには,かなり大化けするものと予言いたしましょう。

★★★★3/4
Ivan PADUART "Clair Obscur" (A-Records: AL 73105)
phantom of the bopera up on the air cat’s paws days gone by rainwaltz lullabye evannssence and now there’s you
Ivan PADUART (piano) Nic THYS (bass) Hans Van OOSTERHOUT (drums)

ベルギーのピアニスト,イヴァン・パデュアールはミシェル・ハーの高弟。1989年フランスで開催されたラ・デファンス国際コンクールで準優勝。ブリュッセルのBrussels' Jazz-Rallyeで優勝し,現代ベルギーの若手ピアノ界を背負う俊才として檜舞台に躍り出ました。キーボードも弾く今風のピアノ弾きで,正直,あまり関心を持ったことの無かった彼に瞠目させられることになったのが,1996年に出たこのトリオ作。何が良いといって,ここに並んだ8曲。全てエヴァンス派の隠れ名手フレッド・ハーシュのオリジナル。いずれも兎に角メロディックな佳品揃いの捨て曲無しです。ハーシュの美しいオリジナルに触発されたか,リーダーが織りなすキース系の澱みないアドリブも縦横無尽。北欧系白人ジャズならではの透明感と,みずみずしい叙情の溢れる,好くできたトリオ盤だと思います。これほど達者なら,ちゃんとトリオでやってればいいのに,というのは問題発言?

★★★★1/4
Doug HALL Trio "Three Wishes" (IGMOD: IG49701)
suite seven the listener downside up odyssey the sprawl remember the star-crossed lovers lonely reward off sender three wishes
Doug HALL (piano) Marc JOHNSON (bass) Bruce HALL (drums)
何しろ1990年代以降大流行の欧州ジャズ。アメリカのジャズ・シーンは,どうにも彼岸の破竹の勢いに押され気味に見えてしまいます。しかしこの盤などを聴く限り,アメリカのジャズ層はまだまだ厚い。ビルGヴァンス・トリオ最後のベーシスト,マークWョンソンが参加しているとなれば,お察し通りのエヴァンス派。ラヴェル『クープランの墓』に入っている「フォルラーヌ」を主題に引用したに象徴される,クラシックを通過した端正なピアノ・タッチと作編曲のセンスに唸ります。宝石箱のように瀟洒な小品ばかりの実に趣味の良いトリオ盤で,エヴァンス派の秀作をお探しの方はまさしく目から鱗の一枚となるでしょう。余談ながら彼は2000年に入り,レーベルを移籍して5年ぶりの新作を出して,その健在を示してくれました。

★★★★★
Christian JACOB Trio "Time Line" (Concord: CCD 4801-2) 
in a mellow tone innocence guess again I’m old fashioned days of Yore there’s no greater love all that remains cumulonimbus America, the beautiful things ain’t what they used to be
Christian JACOB (piano) Steve SWALLOW (bass) Adam NUSSBAUM (drums)

かつて西海岸で大活躍した技巧派ラッパ吹き,メイナード・ファーガソンの秘蔵っ子,クリスチャン・ヤコブのコンコード第2作。ジャズを弾いていながらこの御仁,パリ音楽院ピアノ科の名教師ピエール・サンカンの歴とした弟子。輝かしい経歴が示す通り,技巧は恐ろしく達者です。先に出たデビュー盤のサイドメンがジョン・パティトゥッチにピーター・アースキンとくれば,いかにレーベルが彼に期待を寄せていたか分かろうというもの。果たせるかな本盤も内容はすばらしく,クラシック上がりの流麗なテクニックと作編曲センスが縦横無尽。パンチの利いた強靱な演奏。前作以上にしっかり構成された,作品としての出来映えには,ただただ拍手するばかり。

★★★★★
Alan BROADBENT Trio "Personal Standards" (Concord: CCD 4757-2)
consolation ballad impromptu the long goodbye everytime I think of you song of home north Chris craft idyll uncertain terms
Alan BROADBENT (piano) Putter SMITH (bass) Joe LABARBERA (drums)

チャーリー・ヘイデン・カルテット・ウェストの脇を務めてキャリアを積んだニュージーランド出身のピアノ弾きアラン・ブロードベントの,コンコード第5作。彼はもともとバップよりのピアノを弾いていたのですが,コンコードからアルバムを出すようになった頃から見る見る抒情詩人に変貌。このアルバムはその変身が完了した頃のもので,知る人ぞ知るエヴァンス派の隠れた極上盤です。ジョー・ラバーバラは最晩年のビル・エヴァンス・トリオのメンバーだった人ですが,そこからも窺い知れますように,内容は正統派エヴァンス・トリオ。『パーソナル・スタンダーズ』の標題通り,オリジナルのバラード曲で固められたアルバムはひたすらに静謐で品格高く,ポエティック。紛れもなく彼の最高傑作と断言して好いのでは。多分ジャズ史にも残る1枚になるでしょう。

★★★★1/2
Michiel BORSTLAP Trio "Residence" (VIA: CD 992015.2)
song for B. in your own sweet way residence I love you Damascus dream of the elders columbo memory of enchantment
Michiel BORSTLAP (piano) Anton DRUKKER (bass) Joost LIJBAART (drums)

1996年に,セロニアス・モンク・コンペティションの作曲家部門で優勝したオランダの俊才,ボルストラップのリーダー作。おそらくは受賞の喜びも覚めやらぬ中録音された本盤は,この有能な新人が,作編曲にとどまらず自己の持てる才能を存分に振るった意欲作。その後発表したアルバムでは電化ジャズもこなし多才なところも見せましたが,ピアノ弾きとしてのスタイルは一聴ハービー・ハンコックにかなり強く影響を受けている様子。『アイ・ラブ・ユー』の脂ぎったファナティックなフレージングやコード進行の脱構築などは,紛れもなく彼が徹頭徹尾のハンコック・オタクであることを表していると言えましょう。

★★★★★
David HAZELTINE "The Classic Trio" (DIW: DIW 610)   
you make me feel so young the fruit sweet and lovely concentration Catherine’s fantasy one for Peter you’ve changed my stuff’s on the street blues these foolish things midnight waltz
David HAZELTINE (piano) Peter WASHINGTON (bass) Louis HAYES (drums)
ワン・フォー・オールのレギュラー・ピアニストとして,知名度も上がってきたデヴィッド・ヘイゼルタインは最近ではかなり評価されるようになりました。テクニック的には完璧なので,何をやっても水準以上。日本盤でも1枚目がビル・エヴァンス集,2作目では一転ホレス・シルヴァー集と,まるで毛色の違う2つの演奏家の作品集を堂々と作るヴァーサイタルさを前に,思わず彼をカメレオン呼ばわりしたくなりますが,彼の本領は,シダー・ウォルトンばりにレガートの利いた単音ソロで快刀乱麻のエレガント・ハード・バッパー。エヴァンス集でも,その流麗な乗りの良さが彼ならではの彩りを添えていたものです。このトリオ盤は,その後も続編が登場している名付けて『クラシック・トリオ』による第1作。続編が出るだけにリーダーの本領が存分に出たメロディックなバップ・チューン満載で,脇役との相性も素晴らしい。ルイ・ヘイスのレガート・シンバルが,主役のエレガントなタッチとドライヴ感をさらに増幅し,もうノリノリです。格好良すぎます。

(2000. 7. 20 uploaded / 2002. 7.2 text revised)