1990年代のジャズ vol. 14



★★★★1/4
Arrigo Cappelletti Trio "Singolari Equilibri" (Splasc(h) : CD H 390.2)
Singolari Equilibri nel mio campo fra centro e assenza time remembered un uomo prudente (blues) labirinto all the things you are la pace delle sciabole where are you il tango delle pianure durate contro ed è sempre (1) ed è sempre (2) when sunny gets blue
Arrigo Cappelletti (p) Hämi Hämmerli (b) Bill Elgart (ds)
1949年生まれのアリゴ・カペレッティは,2004年の段階で15枚のリーダー盤を持つイタリアの中堅。現在はポルトガルを主な拠点に活動しているようです。ジョルジオ・ガスリーニ・オーケストラの専属ピアニストやジャンニ・カゾーラのサイドメンを務める傍ら,ルー・ソロフ,バール・フィリプス,マイク・モスマンら舶来組とも豊富な共演歴を誇り,1988年には自身の4枚目にあたるトリオ作『リフレクションズ』で,カデンツ誌から1988年の優秀作品賞に選ばれました。本盤は,彼が1992年にぽっかり録音した7枚目のトリオ作品。彼はもともと哲学科を出たインテリさんながら,リチェイ音楽院でジャズを学んでプロ入りした風変わりな人で,そのスタイルも一聴,ひと癖備えたもの。ポール・ブレイが好きなのか,いつイン・テンポになるのかと思わせながら結局テンポらしいテンポを取らぬまま終わってしまう´,ブレイの『フットルース』を思わせる↓Νなど,アプローチこそやや随所にブレイ臭が滲み出ており薬味が利いてはいますが,メロディ作りは基本的にイタリー・ロマン派ピアノの範疇で聴け,技量闊達。かなり水準の高い演奏と思います。ポール・ブレイに始まってニコ・モレリやエンリコ・ピエラヌンツィなどお好きな方,キース系が好きな方には一聴をお薦めします。個人的には↓辺りの感じ,かなり好きです(2004. 12. 3.補筆)。

★★★★★
Frank Kimbrough with Joe Locke "Saturn's Child" (Omnitone : 11901)
727 Saturn's child trouble is a gorgeous dancer silence waltz for Lee empty chalice Sanibel island I still believe in love midnight
Frank Kimbrough (p) Joe Locke (vib)
鉄琴とピアノのデュオといえばご存じチック・コリアとゲイリー・バートンの録音が有名でしょう。丁々発止然とした大物デュオに比して,こちらは大人の品位に富んだ,瞑想的で慎み深い二重奏。一見何でもないような演奏ですが,そういう何でもないような演奏にこそ,演奏者の力量はモロに出てしまうもの。鉄琴のジョー・ロックはエディ・ヘンダーソンのグループで日本でも名前を知られるようになった人。最近はデイヴ・ヘイゼルタインとの双頭コンボ作を出して,かなり名前を知られるようになりました。一方のフランク・キンブロウはジャズ・コンポーザーズ・コレクティヴで活動する中堅ピアノ弾き。彼は日本でこそ今ひとつ知名度薄ですが,海の向こうでは,ダウンビート誌の批評家投票ピアノ部門で2001年から3年連続首位を獲得しているほど高く評価され,普段は師匠のポール・ブレイやアンドリュー・ヒル直系の,一癖あるピアノが身上の個性派です。そんな手練れ2人が互いの技量を持ち寄り,衒うことなく心穏やかに語り合ったこの作品。二重奏としては,近年稀に見る名曲・名演奏盤となっている。夏の熱帯夜に一服の清涼感をもたらしてくれるこの美しいコラボレーション。初めてジャズを聴く方から年季の入った方まで,じっくりと聴いていただける方なら間違いなく愛聴盤になること請け合いです。甲種大推薦(2004. 12. 9補筆)。

★★★★
Asger Siiger Trio "Change of Scene" (Music Mecca : CD 2016-2)
african village change of scene mostly chromatic new toy native dance seconds Monk tale seven-nine-eleven the triangle inversion and penta
Asger Siiger (p) August Engkilde (b) Anders Mogensen (ds)
分厚いコード感でドラマチックなピアノです。詳しい経歴は分かりませんが,恐らくは北欧系の演奏者でしょう。リニー・ロスネスに近いピアニズムで,理知的ながらパワフル。やや小粒でテクニックに難はありますが,かなり聴かせます。全曲自作と意欲的なオリジナルがわけても魅力的で,モーダルな書法を基調に,´イ覆描堽錣淵肇螢襪醸し出すマッコイばりのスケールの大きいモード奏法。そこへモンクの隠し味を含めているのがこの人の持ち味です。内容的にはかなり良いだけに,何とも残念なのはやや芯の抜けた録音。もう少しリッチな集音であれば,きっとこの作品,相当な話題を呼んだでしょうのに。

★★★★★
Paolo Birro Trio "Fair Play" (Flex : FX 1001/10 95)
fair play stranatol lotus blossom black stick intermezzo 1 little Willie leaps intermezzo 2 song for Pongo and Peggy good morning heartache / there will be another you en
Paolo Birro (p) Marco Micheli (b) Francesco Sotgiu (ds)
イタリアの中堅,パオロ・ビッロは,1962年ヴィゼンティーナのノヴェンタ生まれ。1987年にヴィチェンツァ音楽院を出たのち,リー・コニッツらとの共演で名を上げました。本盤は1995年に残した初リーダー作。翌1996年にMusica Jazz誌主催の批評家投票で新人賞を獲得し,本国では評価の高いCDです。既に6年落ちですが,これまで同様ほとんど注目されることもなく,多分このまま消えてしまうのでしょう。しかし,貴兄がエヴァンスやキース系の趣味の好いトリオに目のない方なら,この盤を知らずに済ませるのは勿体ない話です。イタリアものとは思えぬほど格調高く,内省性と叙情性に富んだタッチが素晴らしい。アラン・ブロードベントやバート・シーガーのトリオ盤に趣を感じる方なら,大いに溜飲を下げることになるのではと思います。エヴァンス派秀逸作。

★★★★1/2
Davis / Beirach / Moutin "Explorations and Impressions" (Double-Time : DTRCD-123)
pendulum blue & green softly as in a morning sunrise Elm nardis free / Stella / solar
Steve Davis (ds) Richie Beirach (p) François Moutin (b)
デビュー作が出来すぎたために,その後の人生をデビュー作を超えるため費やすことになった演奏家というのは少なからずいますが,バイラークはその代表格ではないでしょうか。バイラークは最近まで不完全燃焼の凡打の山を築いて失笑を買ったものですが,最近になって彼は密かに豹変,ダイナミックで熱情的なプレイヤーに大変身しました。これは近年のバイラークの諸作中でも特に強力な熱演盤。バイラークがモード奏法を拡張しまくりフリー突入寸前境界線上で大暴れ。しかし,本当に凄いのは気鋭の仏人ベース弾きムータンのウォーキング。これだけ調性逸脱しまくりのバイラークにハイエナの如くぴったり付いて行く勘の良さはほとんど超人。内容が内容なので一般ファンには厳しいかもですが,ジャズ演奏者は必携盤。

★★★★
Tony Williams Trio "Young at Heart" (Sony : SRCS 8212)
promethean young at heart on green dolphin street farewell to dogma how my heart sings fool on the hill neptune: fear not you and the night and the music body and soul this here summer me, winter me
Tony Williams (ds) Mulgrew Miller (p) Ira Coleman (b)
『ウィルダーネス』と並ぶトニー・ウィリアムスの遺作。彼が1980年代から率いたクインテットは,マルサリスのコンボと並んで,いわゆる新伝承派におけるメッセンジャーズ的存在でした。そのリズム隊を取り出したこのトリオ,当然まとまりも充分です。確かにトニー晩年の本トリオのドラムは,往年のシャープなシンバル捌きを知る方には何とも愚鈍に聞こえてしまいましょうし,ミラー氏のピアノも,往時のバカテクを知っている方には寂しさが過ぎりましょう。しかしそれは,彼等にギャンブル性の高い歴史に残る演奏,いわばホームランを期待するからなわけで,要は確実にヒットを打ってくれることを期待するようにすれば好いわけです。亀の甲より年の功。雑多な素材を,以前にはなかった味わいで巧みに料理するマルグリュー・ミラーに,かつてはなかった燻し銀のゆとりと味わいが。それこそ,彼を今や一番人気のサイドメンにした理由でもあるのではないでしょうか。

★★★★3/4
Enrico Pieranunzi Trio "Seaward" (Soul Note : 121272-2)
seaward l'heure oblique straight to the dream footprints the memory of this night yesterdays Je ne sais quoi this is for you / but not for me key words I hear a rhapsdy what you told me last night
Enrico Pieranunzi (p) Hein Van de Geyn (b) André Ceccarelli (ds)
イタリーの最高峰ピエラヌンツィは,1980年代から第一線で活動してきた名手です。当然リーダー作も多いですが,その中で傑作を選ぶと,なぜかソウル・ノートに集中。一般に知名度は上がらないこの盤も,素晴らしい内容です。脇役に欧州を代表する手練れが参加したのが奏功したのでしょう。別人のようにみずみずしく,テンションの高いピアノを披露。鋭角的かつ無調寄りな楽曲を多く含むオリジナルは到底万人受けする代物ではなく,叙情的な彼の姿しか知らない方には好みが分かれる面があるかも知れませんが,出来そのものは1980年代の代表盤『ノー・マンズ・ランド』に比肩。1990年代の彼を代表する傑作といって宜しいのでは。1996年と言えば,彼が国内盤デビューした年。ドラムが重く,ピエラヌンツィもそれに引きずられていましたが,脇役一つでこうも張り切り方が変わるんですねえ。同じ頃に本拠地ではこれだけ硬派なCDを作っていたわけです。そしてこの2枚の彼の頂点,いずれもソウル・ノートがものにしている。彼を知り尽くして居るんでしょうね。奏者も制作者もただただ上手い。参りました。

★★★★1/2
Fred Hersch & Bill Frisell "Songs We Know" (Nonesuch : 7559-79468-2)
it might as well be spring there is no greater love someday my prince will come softly as in a morning sunrise blue Monk my one and only love my little suede shoes yesterdays I got rhythm wave what is this thing called love?
Fred Hersch (p) Bill Frisell (g)
個性派ギタリスト,ビル・フリーゼルと,過小評価気味のエヴァンス派の名手フレッド・ハーシュのデュオ録音。編成や曲目から『アンダーカレント』を思い浮かべて垂涎なさる方は是非御一聴を。いわゆる大スタンダード揃いの選曲に「またか」と眉をひそめる方も多いと存じますが,これは好いです。うにょ〜ん・うにょ〜んと独特のベントを駆使したフリーゼルの奔放なシタール風エレアコに,名手ハーシュが付けるオブリガードが要を得て絶妙この上なし。充分冒険していながら散漫にならず,抑制の利いた叙情と内省。軽く聴いてもじっくり聴いても,それぞれに合わせた発見のある,優れたCDだと思います。

★★★★1/2
Earl Zinders "The Return" (Earl Zinders)
positively orange Karen's mode Silverado trail E minor waltz four times 'round when I think of all the times the return Vasa meditation
Don Haas (p) Larry Grenadier (b) Scott Morris (ds)
アール・ジンダースを知らないという方は沢山居られましょうが,『エルザ』,『ハウ・マイ・ハート・シングス』といったエヴァンス絡みの佳曲をご存じの方は多いでしょう。彼はその作曲者。デポール大学を出てノースウェスタン大学修士号を取得。フルブライト奨学金を得てオックスフォード大学へ留学したほどの才人だった人物。宗教音楽の大家エドムンド・ラッブラにも師事し,親しく交流があったようです。エヴァンスは彼の曲を殊の外愛奏し,上記の他にも『ララバイ・フォー・ヘレヌ』,『マザー・オブ・アール』,『ソワール』,『クワイエット・ライト』などを自身のアルバムに録音しています。その彼の珠玉の作品が連なる本盤,それだけで充分聴きもの。しかし,この盤でも,演奏を自身でではなく専門家に任せる控えめな性格が,彼を無名のままにしたのでしょう。その彼に自作の演奏を託されたピアノのドン・ハースは無名ですが,フランク・シナトラ,メル・トーメの伴奏者として西海岸で活動したという経歴が示す通り,フランク・コレット似のスインギーな乗りと控えめなモーダル・アクセントが素晴らしい。当時ハースのサイドメンだった無名時代 のラリー・グレナディエもまだ外連味のないラファロ奏法で華を添えます。秀逸盤。

★★★★
Yoron Israel & Organic "Chicago" (Double Time : DTRCD-145)
nice and easy trilogy that's the way of the world picket fences valdez in the country here today, gone tomorrow down through the years green's indigo dreamscapes battery blues
Yoron Israel (ds) Joe Lovano (ts, ss) Larry Goldings (org) Mervin Sewell (g)
1970年代のディスコ・ミュージックや,パラレル・リアリティーズのを持ってくる辺り,いかにも若いヨロン・イスラエル率いるオルガン・トリオ作(きГ妊献隋次Ε蹈凜 璽里客演)。タイトル通り,シカゴゆかりのミュージシャンの作品を採り上げるというコンセプトで制作したようです。シカゴといえばクリフ・ジョーダンにジーン・アモンズ,ジョニー・グリフィンらソウルフルなテナーマンが沢山出ていますが,実のところポップス界でご活躍のモーリス・ホワイトもシカゴの出だそうで,一方ではそうした黒人主導のシカゴ・シーンへの憧憬という面もあるのでしょう。そのためか内容もソウルフル。現代っ子らしく,都会的なテイストを崩さない,慎み深いファンキー・ジャズです。ロヴァーノのサックスはコントロールやや不安定でちょっといただけませんが,今や多言を要しないオルガン・マスター,ラリー・ゴールディングスをフィーチャーし,内容は全編に渡って安定。オルガン・ジャズ好きの方には推薦。

(2001.8.25)