1990年代のジャズ vol. 15


★★★★
Stefano Di Battista "A Prima Vista" (EMI - Blue Note : 7243 4 97945 2 8)
spirit of messengers funny moon Aiova ne'll acqua buffo another time Dina T-tonic Miccettina first smile benji lush life
Stefano Di Battista (as, ss) Flavio Boltro (tp, flg) Eric Legnini (p) Rosario Bonaccorso (b) Benjamin Henocq (ds)
イタリアの新鋭ステファノ・ディ・バティスタのメジャー・デビュー盤。ドラムスにプリズムのベンヤミン・ヘノック,ピアノに豪腕エリック・レニーニ,ラッパにハバード似のフラヴィオ・ボルトロと豪華欧州勢てんこ盛り。主役はむろん,脇に至るまで一丸となったハイ・レベルの演奏には大いに溜飲が下がります。ただこの人は,これだけ素晴らしい才能と大きな器を持っていながら,それを生かし切れていません。アルバムの作りは大変丁寧で,充分推薦できるレベルを超えてはいますが,小生はどうにも彼にプラス・アルファの覇気を感じない。守りの姿勢でまだ八分の力しか出せていないという気がします。大器だけに余計,それがもどかしい。勿体ないなあ。今後の奮起に期待しています。

★★★★3/4
Jan Lundgren "Conclusion" (Four Leaf Clover - Town Crier : TCD 521)
Olivia conclusion my ideal flip top girl oleo short life PMS so nice there is no greater love I see your face before me temptation
Jan Lundgren (p) Jesper Lundgaard (b) Alex Riel (ds)
スウェーデンの名手,ヤン・ラングレンのデビュー作。隠れ名盤として,知る人ぞ知る裏定番のひとつであり,また彼の名を,ピアノ好きの間で定着させたのが,このトリオ録音です。スウェーデン人でありながらバップ,サード・ストリームなど,アメリカの伝統的ジャズ・イディオムを完璧に消化した,奇を衒わぬオーソドックスなピアニズム。抜群の技巧に支えられた完璧なフレーズ作り。そして,アメリカのピアノ弾きにはない,流麗な作編曲センスと丸みを帯びた知的なタッチが彼の大きな魅力。それはこのデビュー盤から変わらず。デビュー盤にして,デンマーク最強のドラムとベースを脇に従える大物振りに,この作品の出来映えは既に約束されていたと申せましょう。

★★★★1/2
John Harrison Trio "Going Places" (TCB : 95702)
you say you care I have dreamed three views of a secret never let me go I hear a rhapsody when I'm with you on the street where you live a nightingale sang in Berkley Square alone too long if I should lose you I'll remember April Cedar's blues
John Harrison (p) Peter Kontrimas (b) Alvin Queen (ds)
ボストンで活動中のジョン・ハリソンは,レベッカ・ハリスの歌伴やエディ・ハリスのサイドメンとして,マサチューセッツ界隈では知る人ぞ知る名手。ヴィーナス盤を出す前のエディ・ヒギンズを思わせる,軽妙なスウィンガーです。ケニー・ドリュー・トリオの後,スイスに引っ込んでとんとご無沙汰だったアルヴィン・クイーン,久々にお見かけしましたが,きっと彼も,アメリカ盤で大々的にフィーチャーされるのは久しぶりなのでは?と思うほど,本盤の彼は大はしゃぎの絶好調。´Г妨せるバスドラとスネアのコンビネーションの巧さ,イ了切れの良いブラシなど心憎いばかりで,主役を大いに盛り立てております。バピッシュで景気の好いピアノ・トリオを好むファンには安心して推薦。

★★★★1/4
Harry Miller Trio "Live at the Museum" (Inner-Ear : #4954-2)
MC introduction waterfall amor não tem motivo holy shift path of moonbeams New York ego ruminating glide solar
Harry Miller (p) David Edwards (b) Vince Ector (ds)
ニュージャージーを拠点に活動中のピアノ奏者,ハリー・ミラーが,地元パターソン美術館で行ったライヴの音源化。美術館自体が入場料を払って見るものである日本ではあまり馴染みがありませんが,多くの美術館が無料で開放されているアメリカでは,美術館でミニ・コンサートをやるのは別段珍しいことではありません。アメリカという国はやはり凄い国で,国宝級の絵画が,間仕切りなしで目の前まで接近して見られるという光景を実際目の当たりにすると「あ〜,これじゃ敵わんなァ・・」と圧倒されてしまいます。これは音楽でも同じで,おそらくはタダで,こういう巧いピアノ・トリオがど全米のどこでも聴けるという状況,ただただ層が厚いと感心するばかり。こういう環境で育ってきたプレイヤーの持つ歌心に,日本の演奏家が太刀打ちできないのは致し方ないのかも知れません。数少ない録音の機会に,心に期するものがったのでしょう。数年掛けて熟成されたオリジナル曲はどれもエヴァンス派基調。ボッサ・リズムを効果的に使い,どこか郷愁を誘う牧歌的なロマンティシズムに頬も緩みます。演奏は小粒で粗いながら,好演連発で外れなし。職人気質の充実作 。

★★★★
Riccardo Fassi "New York Trio" (YVP : 3036 CD)
Lyle balla col farlight brace no cippo no New York fast past tre parti lento nuovo animale
Riccardo Fassi (p) Rufus Reid (b) Marvin Smitty Smith (ds)
余り有名とは言えないイタリアのピアノ弾き,リカルド・ファッシのアメリカン・トリオ作。彼は1955年生まれの中堅で,彼岸では有名なリセオ音楽院出身。マッシモ・ウルバニやブルーノ・トマソら一流ジャズメンの脇で可愛がられる一方,アメリカからの遠征組にも豊富な伴奏経験を持つという経歴が示す通り,脇で光る職人的ピアノです。果たして,左手こそモード基調ながら,単音の右手で外連味なく歌う,線の細いピアノが持ち味。タイプとしてはモード色強めのシダー・ウォルトンといえばいいのでしょうか。いずれにしろ脇で可愛がられるのも頷ける「太陽」よりも「月」のようなスタイルです。で,このCD,その線の細さに輪を掛ける些か中域の不自然に抜けた録音に加え,ペロペロなルーファス・リードに重量級ロール大好きっ子スミッティというややアンバランスな顔合わせで,主役の弱いところばかり増幅してしまった制作側に問題ありですが,その悪条件を補って余りあるのが良心的な主役の作品作り。全曲オリジナルで,丁寧に歌うアドリブ。一聴パッとしないという方も,気長に,折に触れて取り出してください。聴けば聴くほどじわじわ味の出るトリオで す。

★★★★★
Jesper Thilo & Olivier Antunes" (Music Mecca : CD 2080-2)
the masquarade is over lover man you stepped out of a dream the man I love Nancy with the laughing face Doxy be-bop con alma I can't get started after you've gone
Jesper Thilo (tenor saxophone) Olivier Antunes (piano)
当館にも収蔵している『JAZZ UNIT』にも参加していたデンマークのベテラン・テナー奏者イェスパー・ティロが,ピアノの若手オリヴィエ・アンテューネと組んだデュオ録音。北欧の白人テナーといえば,一般的にイメージするのはラーシュ・メラーやクヌート・リースネスなど,トレーン〜ガルバレク路線のモーダルなタイプを想起してしまいますが,彼のテナーは熊のようなごつい風貌からもご推察の通り遙かに黒い。ズート・シムズの男気にジョニー・グリフィンのグルーヴ感とソウルフルネスを掛け合わせたようなタイプで,黒くありながらソウル・ジャズのように泥臭くなく,カラッと気っぷのいい吹きっぷりが大きな魅力です。サックスとピアノの二重奏というと,どうしてもリリカルな方向に流れてしまうものが多い中,そうした彼の持ち味からか,この盤は二重奏でありながらノリノリ。年齢が信じられないほどドライブ感溢れ,吹き抜けスイスイ。しかもソロは緊密。これがリーダー名義では初めての録音というアンテューネも上手い。助演名人ケニー・バロンも真っ青の手の内多彩なピアノで見事に双頭リーダーの重責を全うしています。ハード・バップ・ファン大推薦盤。

★★★★
Ove Ingemarsson "Heart of the Matter" (Imogena : IGCD 051)
heart of the matter third star Grafenast hotel alma the masquarade is over hotel Trianon seems like yesterday unio mystica
Ove Ingemarsson (ts) Lars Jansson (p) Lars Danielsson (b) Adam Nussbaum (ds)
リーダーは無名ながら,脇役を見れば誰でも触手が動くでしょう。ラーシュ・ヤンソンとラーシュ・ダニエルソンは,共にヤンソン・トリオで活動中。さらにドラムスには,ロックやファンク・テイストの入ったリズムを叩かせると抜群に上手い名手,アダム・ナスバウムと超豪華です。マイケル・ブレッカーやヤン・ガルバレクの影響下にあるらしい引き締まった音色とアブストラクトでモーダルなフレーズ作りが持ち味で,技巧も闊達な好いプレイヤーですが,やはり聴きものはこの豪華横綱級サイドメンの繰り出す強力な助演でしょう。これで一気に作品のグレードが上がりました。いつになくケニー・カークランドやジョーイ・カルデラッツォ似の熱いプレイを繰り広げるヤンソンに,軽量級ジャック・ディジョネット彷彿の大熱演で応酬するナスバウムも奮闘。演奏だけ取れば素晴らしい出来映えです。それだけに,持ち寄った楽曲が少しばかり大味で盛り上がりに欠けるのが残念。これで曲が緊密であったら,文句なしに5つ星級の名盤になったでしょうのに。

★★★★1/2
Elias Haslanger "Standards" (Elias Haslanger)
I'll remember April alone together sonnymoon for two dewey square portrait of Jennie you say you care yardbird suite all the things you are when I fall in love now's the time lament
Elias Haslanger (sax) James Polk (p) Jeff Haley (b) Steve Schwelling (ds)
以前ご紹介したテキサスのサックス吹き,エリアス・ハスランガーが1994年に出した自主制作リーダー作。ということで,脇のメンバーはもちろん知りません。しかしこの盤侮るなかれ。聴いて吃驚の素晴らしいB級ハード・バップ名盤です。編曲も面白い上,雑多な素材を扱っていながら,それと感じさせない一体感溢れる演奏が素晴らしいの一言。若干デイヴ・マッケンナ風のピアノが小粒なれど,脇は外連味ない助演。好サポートを受け,主役のハスランガー絶好調。B級らしく荒削りなれどアドリブが歌うこと歌うこと。肩の凝った録音でない分,近作より数段伸び伸びと,遊び心たっぷりに吹けていて,かなり,いや大いに溜飲を下げました。前々から誰かに似ていると思っていたこの人,このデビュー盤まで遡って漸く分かりました。リッチー・カミューカです。この盤ではアルトも吹きますが,このアルトがまた好い。乾いた締まりの好い音で,メリハリの利いたさっぱりめのビブラートが絶妙。ディック・ジョンソンを思わせる,ファナティックなプレイを前に,ただただ万歳三唱。穴盤をお探しの現代B級ハード・バップ・ファンには声を大にしてお薦めします。

★★★★1/4
Prysm "Time" (Blue Note : 7243 5 21886 2 8)
keystone dream on X-ray voice of angels the circle light exit outlines Jacques's song scratch
Pierre de Bethmann (p) Christophe Wallemme (b) Benjamin Henocq (ds)
少々ピアノが転ぼうが臆することなく,持てる技量の限りを尽くして疾走した壮絶ライヴ『オン・ツアー』で,大いに小生を圧倒したフランスのトリオ,プリズム。こちとらも負けじと旧録音ツアーへの旅立ちを決意しました。こちらは『オン・ツアー』の前作にあたるスタジオ録音。くだんのライブ盤ほどの熱気はありませんが,スタジオ録音らしくかっちりと作られた本盤も,後半少し息切れするもののやはり演奏レベルは非常に高い。モーダルで幾何学的なリフと凝ったリズム及び和声進行はこの盤でも健在。これだけ現代的な凝ったアレンジで,ここまでメカニカルに緊密な演奏のできるトリオは,欧州圏にはもうエスビョルン・スヴェンソンのトリオくらいしかいないんじゃないでしょうか。特にベンジャミン・エノックの切れのある太鼓は凄い。トリオ・フォーマットが基調ですが,部分的にシンセサイザーを使ったと思しき効果音(ストリングス風ではなく,あくまで効果音)や,サンプリングした雑踏の音が挿入されます。秀作。

★★★★1/2
Interzone Jazz Trio "Crossing Atlas 45º " (Not Two : MW 719-2)
you will remember distant calls crossing atlas 45º kind of Zebehikos farewell song afrowalach Armenian prayer hatzegana Italian winter
Mircea Tiberian (p) Horst Nonnenmacher (b) Maurice de Martin (ds)
最近注目を集めているポーランドで活動中のトリオです。透明感溢れるピアノはデリカシー溢れるキース弾きで,北欧系ジャズを基本的には踏襲した音作り。しかし,ショパンのポロネーズやマズルカがそうであるように,硬質な北欧ジャズの響きに比べ土臭く強い旋律線は,一般の北欧ジャズとは微妙に筆致が異なっている。トリオ全体のエクスプレッションも,北欧系の凛とした硬質の叙情性に比べ,若干丸いです。ジョン・テイラーやボボ・ステンソンら冷徹な北欧系ピアノ・トリオに,デイヴ・ペックのような,アメリカのエヴァンス派ピアニストが持つ円やかさや軟らかさを少しだけブレンドしたような演奏といえば好いでしょうか。楽曲も演奏も,線が細いながらも大変高い水準で,欧州ジャズ・トリオとして広くお薦めできます。

(2001. 2. 25)