1990年代のジャズ vol. 16


★★★★1/2
Dag Arnesen Trio "Inner Lines" (Resonant Music : RM 1-2)
resting inner lines I should care a waltz woodpecker hope bilberry pluck ictus bloom alone by accident bim bam bom that kid in your own sweet way with a bad back
Dag Arnesen (p, ep) Terje Gewelt (b, eb) Svein Christiansen (ds)
隠れた名盤『ムーヴィン』で知る人ぞ知るノルウェイのキース系ピアノ弾き,ダグ・アルネセンの新作が出ました(1998年録音)。前作から随分経っている気がするのですが,寡作家なんでしょうか?しかし,これは名盤。待っただけのことはあります。今回はもはや,初期のチック・コリア臭は完全に消滅。ほぼ全てテンポはミディアム以下。音の間隙は徹底的に生かされ,寡黙で抑制の利いた審美的なグループ表現に移行して,コンセプションも明確。リズムの自由度も,初期作品に比べて格段に増しました。幾何的な演奏をする必要がなくなった分,ピアノは歌に専念し,溢れるようなリリシズムを振りまきます。初期の『ルネセント』が,小粒なチックもどきだったのを考えれば,今や完全にパーソナルな世界を構築しており,長足の進歩を遂げています。みんなが技巧闊達である必要なんてありませんとも。漸く彼も,自分の技量と持ち味を的確に把握した作品を作るようになりましたね。第一級の北欧ジャズです。

★★★★1/2
Dave Kikoski "Dave Kikoski" (Epic : ESCA 6087)
E B-flat tune giant steps long ago and far away chant shadow 7/4 ballad spacing

David Kikoski (p) Essiet Essiet (b) Al foster (ds)
最近はさほど事情通ではない方にも良く名前の売れてきたキコウスキーが1994年に出したリーダー3作目です。小生が彼を初めて聴いたのはランディ・ブレッカーの『イン・ジ・イディオム』でしたが,主役よりもこの人の非凡なピアノに吃驚して,まだ無名の彼のリーダー盤を漁ったものでした。この盤はそんな時に出てくれたメジャー移籍後初のリーダー盤。自分の名前を標題に冠し,脇役はペロペロなゴメスからエシオット・エシオットに交替。シンセ入りだった前2作から一転,全曲ピアノで通すなど腕前一本勝負の硬派路線が前面に。本人も相当な決意で臨んだものと思います。果たしてこの作品は,チック・コリア譲りの明晰な運指技巧,モード手法を完璧に消化し,フュージョン的な爽やかさを併せ持った作編曲など,当時の彼の持てる才能が遺憾なく発揮されたものに。アドリブの構成力に若干の荒削りさが見受けられるとはいえ,このアルバムを聴いて小生はこの男の将来を確信したものでした。現在の彼が持っている魅力の全ては,既に余すところなく出ていたように思います。脇を固める両雄も素晴らしい。エシオット・エシオットのラインのカッチョエエこと。今聴いても全く新鮮です。

★★★★3/4
Browne, Haywood, Stevens "Sudden in a Shaft of Sunlight" (ABC - EMI : 7243 4 97863 2 5)
moments of lucidity in angel arms meaning in sights unseen talking too much hackensack ears for civil engines a slow tune for Kyoko breakfast menu conquests I thought about you quasimodo lunch cutters' ball
Tim Stevens (p) Nick Haywood (b) Allan Browne (ds)
オーストラリアのNHK,ABCからEMIの手を通って出たトリオ。一体何でこういう妙な経緯を経たのか,正確なところは分かりませんが,ABCラジオFM局のジム・マクレオードなる人物が企画に携わったご様子。となれば,おそらくはフィンランドのインパラ同様,自国の優れたミュージシャンの紹介を意図した発掘ものの一つではないでしょうか。素っ裸で禿げ上がった頭の不気味な天使を描いた,何とも醜いジャケットに購買意欲も減退しますが,聴いて吃驚これは素晴らしいエヴァンス派名盤。確かにピアノは少々タイム感が甘いところがあるなど,演奏は少し小粒なようですが,見受けられる欠点はその程度。わけてもリリシズム溢れるオリジナルの出来がとにかく素晴らしい。パオロ・ビッロ,ティム・リッドンら,叙情的で知性溢れるタッチの持ち主に趣を感じる方は必ず愛聴盤となります。甲種推薦。

★★★★
Bogdan Holownia "On the Sunny Side" (Gowi : CDG 44)
summertime on the sunny side of the street ornithology never let me go secret love mercy, mercy, mercy invitation Rosemary's baby dolphin dance on Broadway
Bogdan Holownia (p) Dave Clark (b) Skip Hadden (ds)
ポーランド出身で,バークリー音楽院に学んだピアノ弾きのリーダー作。サイドを務めるのはバークリー時代からの演奏仲間で,良くリラックスした快演奏集といえましょうか。主役は,単音主体でアーマッド・ジャマールやジョン・ルイスなどに近い端正なプレイ。白人がこういうピアノをやるとどうしても線が細くなってしまいます。編曲も些かピントのずれた作り方で不自然。エディ・ゴメスの弟子であるベースに,中間派かと誤解してしまいそうな線の細いドラムスが脇に付くので,なお一層頼りなげに聞こえてしまうこのトリオ。しかし,それでも推薦するのは,主役のピアノの見事さです。淡々とテーマを過ぎ,アドリブに入った途端,上記のマイナス要因を全て主役の単音ソロがうち消してしまいます。恐ろしく好く唄うソロで,主題の提示部分で舐めていた小生は兎に角吃驚。参りましたの推薦盤。次は誰か有能な編曲家を迎え,重厚でゆったりとリッチな膨らみのあるベース弾きを脇につけて頑張ってください。期待しています。

★★★★1/4
Nathalie Loriers "Walking through Walls, Walking along Walls" (Sowarex- Igloo: IGL119)
walking through walls triano fenêtres sur coeur mahiladipa lonely voices walking along walls little buddy don't you know what love is
Nathalie Loriers (p) Sal La Rocca (b) Hans Van Oosterhout (ds) .
ベルギーのアマゾネス(失礼),ナタリー・ロリエが1995年に出した初のトリオ盤。彼女は広義にはエヴァンス派の流れに属する人ですが,一般のエヴァンス派よりも鋭角的な演奏が持ち味で,この作品ではリッチ−・バイラークあたりの影響を強く感じさせる演奏となっています。高い作編曲能力を見せつけた最近作の『サイレント・スプリング』と同様,この旧作でも才気は健在。鋭角的に切れこんでくるシャープなタッチといい,モーダルなハーモニック・センスといい,ベルギーの女流ピアニストでは群を抜いた存在でしょう。これほど闊達な人がベルギーに篭って余り知られることのないままであるというのは何とも惜しい。実力的には既に第一級ですし,わが国のピアノ・ファンにももっと認知されて欲しいもの。

★★★★3/4
Joel Weiskopf "The Search" (Criss Cross : 1174 CD)
Edda Bess, you is my woman now it could happen to you song for the lost criss cross one for Karl the search Red's blues my one and only love
Joel Weiskopf (p) Peter Washington (b) Billy Drummond (ds)
ジョエル・ワイスコフは,トレーン系サックス吹きウォルト・ワイスコフの弟分。お互いのリーダー作でも共演し合っている仲良しさんです。これはジョエルの初リーダー作で,1998年に出ました。彼のピアノは典型的なモード手法に立脚したものですが,メロディックで好く歌う右手と調性を逸脱しすぎない控えめなコード打ちが持ち味。マッコイというよりはケニー・バロン,ロニー・マシューズなどに近い,端正なモード弾きです。兄に直接師事した彼の作編曲センスは,見事に兄譲り。この初リーダー作でも,充分に推敲されたコードの歌わせ方は一聴彼らのものと分かるほどオリジナリティがあり,作品としてもかなり丁寧に作られたものであると思います。脇を固める二人はどちらもニューヨークの今風ハード・バップには欠かせない芸達者。特に,シャープなシンバル・ワークを持ちながら,巧みなスネアとバスドラ使いでビートの角を削り,決して煽り過ぎも乗せすぎもやらない黒人版ビル・スチュワート,ドラモンドのサポートは聴きものです。

★★★★1/4
Steve Kuhn "Oceans in the Sky" (Owl : UCCM-3017)
the island lotus blossom la plus que lente / passion flower do oceans in the sky theme for Ernie Angela in your own sweet way Ulla the music that makes me dance
Steve Kuhn (p) Miroslav Vitous (b) Aldo Romano (ds)
『チャイルドフッド・イズ・フォーエヴァー』以来の共演ロマーノ,チック永遠の最高作『ナウ・ヒー・シングズ・・』のヴィトウスとサイドメン超豪華なキューン1990年代初頭の秀作。かつての鋭角的なタッチに加え,ポリリズミックな左手のコード打ちに代表される,後年の好々爺的な表情が加わってきた演奏は,悪く言えばやや中途半端ですが,同様の趣向で演奏された『イヤーズ・レイター』などに比べ格段に緊張度が高いのも,この優れたメンバーと,録音の好いオウルの賜物でしょう。ところで,は言わずと知れたドビュッシーの名曲ですが,日本盤でこの曲を『レントの後で』と訳しているのは明らかに誤りで,『レントより遅く』が定訳です。こういうクラシック曲に対する陳腐な認識不足が多いのは困ったもの。この程度の見識しかない批評家が,知りもしないクラシックを軽く見るのは,恥ずかしい以外の何ものでもない。もっと我が国のジャズ批評家はクラシックのことを知ってものを言って頂きたい。なぜ,一流のジャズ演奏家がしばしばドビュッシーやラヴェルのフレーズ を引用するのかさえ,こういう批評家には分からぬままでしょう。

★★★★1/2
Yorgos Kontrafouris "Don't be Shy" (Lyra : ML 0671)
things ain't what they used to be places with a little help from my friends wake up my love Johny boy ugly beauty dirty like Eddie alone together don't be shy
Yorgos Kontrafouris (p) Yannis Papatriantafillou (b) Christos Andrianos (ds)
まず他ではお目に掛かれない,ギリシャのトリオです。英語表記はもちろん翻訳。原語はアルファベットですらなく,まるで読めないとあっては,いまだ知名度薄のままなのも当然かも知れません。しかし言葉の壁を超えてでも,これは聴いて損のない一枚です。ギリシャ人=白人であるリーダーのピアノは,キース『バイ・バイ・ブラックバード』を思わせる垢抜けたピアニズムが基調。しかし,このピアノ弾きの持ち味は,キースや欧州の白人ピアノ弾きにはない,グルーヴィーでファンキーな右手のフレージング。誰かに似ているこの右手。よくよく考えてみればオスカー・ピーターソン。そういえばキースはECM,ピーターソンもMPSに録音していましたっけ。ともに欧州レーベルの雄。こう考えてみればこのピアノ弾き,左にキース右にピーターソンの両手に花。これが彼ならではのバランス感覚となって,キースに傾斜した欧州ピアノ界で異彩を放っているのでしょう。全体にミディアム・テンポで飄々と弾かれており,年齢に似合わぬ渋い味わいを持った秀作です。

★★★★1/2
Matthew Fries "Song for Today" (TCB : 20752)
the black cat the riddle Phineas cabbage cafe fire and rain trey of hearts retro prelude/Karen at the dance arioso lucky to be me

Matthew Fries (p) Gregory Ryan (b) Vinson Valega (ds) Vincent Harring (as, ss) Bill Mobley (tp, flh)
何かと活況を呈しているブルックリンのジャズ・シーンからまた1人,優秀なピアニストの登場です。リーダーはペンシルバニア出身。録音当時31才(1999年)の若手。キャノンボールの再来と一時はかなりもてはやされたヴィンセント・ハーリングを迎えて,軽妙なスイング感をたたえた今風のハード・バップに挑んでいます。最近のマルグリュー・ミラーやケニー・バロンを思わせる丸く軽やかなタッチで,小粋にモード・ピアノを弾くリーダーは技量闊達。作編曲も達者でなかなかの手練れ。この盤は脇役も好いです。乗れているベース,ベン・ライリー彷彿の控えめな太鼓ともども,燻し銀的な主役の織りなすデリケートでインティメートな雰囲気を壊さない。部分参加のフロントも好演しており,全てがリラックスしたモデストな雰囲気の中に進められている堀り出し物的一枚。最近のブルックリン・ジャズの層の厚さを思い知らされました。ニューヨークの今風ハード・バップをお好みの方は穴盤として間違いなく快心の笑みを浮かべることになるでしょう。お薦め作。

★★★★
Salvatore Bonafede Trio "Nobody's Perfect" (Penta Flowers : CDPIA 022)
Italy sister Arianna Frank Sinatra Adam Nussbaum Siena blues for Al Tom Harrell Lew Tabackin the mother by the sea she can dance Billy Hart nostalgia cettina for myself inventors of nothing laser
Salvatore Bonafede (p) Giorgio Rosciglione (b) Ettore Fioravanti (ds) Franco Piana (fgh)
イタリアの若手の俊才,サルヴァトーレ・ボナフェデのトリオ録音。リーダーはパレルモの生まれで,1973年にパルレモ音楽院に進み,クラシックを学んだ御仁。1986年に奨学金を得て渡米したバークリーっ子で,以来ロヴァーノ一派と浅からぬ縁もあるようです。多調の凝ったオリジナルを,リリカルなタッチとモーダルなコード・ワークを使って弾くというスタイルが基調で,一聴クラシックの基本はできたうえでの演奏。冒頭『オール・ザ・シングズ・ユー・アー』を変形したようなワルツの巧みなコード使いに,典型的イタリー系エヴァンス派かと思いましたが,それ以降の演奏を聴くと,モンクやバップ演奏も嗜むようで間口は広いです。と書くと,どこかケニー・ワーナーみたい。彼よりは丸みのあるピアノを弾きますが,ロヴァーノに気に入られただけに,似ているかも。ワーナーのように雑多な音楽を再構成してオリジナルなスタイルにまで高めるような器の大きさはない分,散漫に聞こえてしまうのは残念ですが,知性派らしくオールラウンドな教養溢れる演奏を堪能できる好作品です。2曲で参加するフリューゲルも良く鳴ってます。

(2002. 5. 30)