1990年代のジャズ vol. 17


★★★★
Nick Weldon Trio "Lavender's Blue" (Verge : 001 CD)
mabs and tucker sonora in the wee small hours of the morning alone together liffey* never let me go some other time softly as in a morning sunrise lavender's blue**

Nick Weldon (p) Andrew Cleyndert (b) Paul Clarvis (ds) Tim Garland (ss)* Christine Tobin (vo)**
イギリスはブリストル近郊で活動中のピアノ弾きニック・ウェルドンのトリオ作。ピアノは単音ソロで訥々とした語り口を得意としており,技巧派でないのは明らか。そんな線の細いピアノが自分のペースをどうして保つことができたのか?ひとえにそれはA.クレインデールのつま弾く骨のあるベースでしょう。彼の屈強なウォーキングに全面的に依拠したピアノは極力音符を減らし,線の細さも技巧の無さも全てをデリカシーの靄の中へと包み隠すことに成功している。代わって前面に浮き出てきた淡泊な歌心が,聴くほどにじわじわと効いてきます。ハンプトン・ホーズの△呂修鵑淵肇螢の持ち味が良い形で出たこの盤白眉の秀演。ゲスト参加のティム・ガーランドの切々としたソプラノ,ハスキーで飄々としたクリスティヌ・トービンの歌も,無名なのが信じられないほど味のある助演を展開しており,消え入りそうにデリケートで繊細なバップ演奏が好ましい。通好みな一枚です。

★★★★★
Jazz from Keystone "Thunder and Rainbows" (Sunnyside : SSC 1055D)
black Nile Alycia the impaler rainbow kasploosh you and the night and the music dance of the niblets opal rose Blooski
Charles Fambrough (b) Kenny Kirkland (p) Jeff 'Tain' Watts (ds)
先頃惜しくも亡くなったケニー・カークランドのリーダー作と言えば,GRPから出た『ケニー・カークランド・デビュー!』ただ一枚。シンセが入った散漫な作品で,ファンは皆がっくり肩を落としたものでした。その後結局,彼はリーダー盤を遺さぬまま他界。「彼のトリオはもう無理か」と,ファンの多くが失望したものです。小生もがっくり。ジョーイ・カルデラッツォのトリオ盤なんぞを聴いて偉影を偲んでおりましたところへ,青天の霹靂とともに出現したのが,この穴盤。キーストーンによる企画盤の一作で,チャールズ・ファンブローを中心にした臨時編成トリオ。しかも録音は1991年でさらに吃驚。この時期は,ブランフォード・マルサリス・グループで同時期に録音した作品群での演奏からも明らかなように,ウイントン・クインテット前期にはまだ若干足を引っ張っていたワッツの太鼓も完成の域に達し,カークランドのピアノも最絶頂期にあったころ。全編輝かしいばかりにモーダルなカークランド節が溢れ,バシンバシン煽りまくるワッツの太鼓,地を這うようなファンブローのベース共々怒濤の大迫力。GRP盤とはまさしく天地の差。こんな素晴らしい録音が隠れていたとは。ただただ万歳三唱です。

★★★★1/4
Chris Neville "Look, Stop and Listen" (Eveningstar : ES-105)
look, stop and listen imagination you, only you just squeeze me summer fantasy people time alone together les fleurs gee baby, ain't I good to you liebeslied in a darkened room blue Monk

Chris Neville (p) James Cammack (b) Dave Bowler (ds)
これは思わぬ掘り出しものでした。リーダーはベニー・カーターのサイドメンを長く務めている人物。サイドメン暮らしが長いからなのか,手の内はかなり多彩。モード,バップ,ゴスペル,ブルースと一通りのスタイルをバランス良くこなし,アルバムでも器用にそれらを使い分けてどこをとってもアクのない好演を展開します。それらを貫く強烈な個性はなく,技巧がとりわけ秀でているというわけでもありませんが,ジョージ・シアリングやエディ・ヒギンズら初期の白人カクテル・ピアノならではエレガントさと,クラエ・クローナに通じる軽妙なスインガーぶりを併せ持つ好ピアノを展開しています。この盤は脇も好い。リーダーを支えるリズム隊が抜群に乗れている。特に隠れた名サイドメンとして録音も多い黒人ベーシスト,ジェームス・カンマックの乗り方は尋常じゃないです。これで一気にアルバムの密度が上昇しました。玄人好みのするトリオとして推薦します。

★★★★1/2
Nicholas Payton "From this Moment..." (Verve : 314 527 073-2)
in the beginning you stepped out of a dream fair weather Maria's melody it could happen to you little Re Re from this moment on Rhonda's smile the sleepwalker blues for my brother taking a chance on love to the essential one
Nicholas Payton (tp) Mark Whitfield (g) Mulgrew Miller (p) Monte Croft (vib) Reginald Veal (b) Lewis Nash (ds).
ポスト・マルサリス第3世代の旗手ニコラス・ペイトンの代表作。日本でも評価され,某誌でGDを獲ったと記憶します。ご覧の通り顔触れ超豪華。やや大きめのアンサンブルを駆使し,新主流派イディオムが程良く入ったポスト・バップの凝った作編曲は見事です。もちろんリーダーはラッパなんでしょうが,光るのは俄然ひとり一世代上から参加したピアノのマルグリュー・ミラー。ともすれば若気の至りでテクの誇示に走り,カサカサ毛羽立った演奏の応酬になりがちなところへ,天恵の慈雨とばかりに降ってくる音のシャワーの穏やかな響きは,長くサイドメンとして重宝されてきた彼の柔軟性とヴァーサイタルさのたまもの。彼の参加がなければ,ここまで良いアルバムにはならなかったでしょう。若いアンサンブルに1人,中堅やベテランを加える作品はしょっちゅう見かけますが,皆こういう「裏番長」効果を狙ってのことなんでしょうねえ。

★★★★1/2
Albert Bover Trio "Live in Jamboree" (Mas i Mas : 012)
halle-bopp set blues infant blues lament tembo darn that dream you don't know what love is Mister T.M. trinkle tinkle

Albert Bover (p) Chris Higgins (b) Steve Brown (ds)
スペインはバルセロナ出身のピアノ弾き,アルベルト・ボベルが1998年に地元で録音した初リーダー作です。初めて聞く名前ですが,それも道理。これ以前には,ガトー・バルビエリやテテ・モントリューとの共演で知られるベーシストのホラシオ・フメロと双頭名義で『デュオ』(1997)という二重奏盤が一枚,その後に録音されたフレッシュ・サウンド盤が一枚ある他にCDなしです。しかし,聴いて吃驚玉手箱,無名なのが信じられないほど巧い。┐らも明らかなようにマッコイ・タイナーを信奉している彼のピアノはモード弾き。しかしメカニカルでありながらも,一音ずつ丁寧に音を切っていくような律儀な運指に性格が滲むピアノは技巧を売るタイプではなく,小粋かつ端正で線が細い。一言で言えば,白人らしい小型マッコイ・タイナー・ピアノであると考えてください。それ系のピアノがお好きな方は,バラードで演奏されることが多いい魴斂なミディアム・テンポに変えて違和感を与えないセンスの良さに参ること必定です。お薦め盤。

★★★★★
Anders Bergcrantz Quartet "C" (Dragon : DRCD 293)
prelude C Stella by starlight Renfield only I won her heart footprints postlude

Anders Bergcrantz (cornet, tp, flh) Richie Beirach (p) Ron McClure (b) Adam Nussbaum (ds)
ジャズ館にも収蔵している『イン・ディス・トゥゲザー』でお馴染みのスウェーデン出身,ベリクランツのカルテット・ライヴ録音です。日本では知名度薄なうえ,『イン・ディス・トゥゲザー』以降あまり目立った活躍も聞かないままで少し残念な彼。しかし,アメリカではかなり人気のあるラッパ吹きで,バイラークを率いたこのトリオは,ニューヨークでも立ち見の大盛況なんだそうです。このCDはくだんの『イン・ディス・トゥゲザー』に続くライヴ盤で,1996年暮れにスウェーデンで録音されたもの。とにかくのっけからモード一色のタイトル曲『C』が凄い。ハバードも顔面蒼白なリーダーの熱演もさることながら,バックのトリオが素晴らしく熱いですねえ。叫声を上げながらエルヴィン・ジョーンズばりの煽りを展開するナスバウム,いつになく大きく集音されて大張り切りのマクルーアに乗せられ,リッチー・バイラークがいつにも増して大爆発。マッコイ・タイナーそこのけのゴリゴリ・モード・ピアノで行くところまでイっております。スタンダードも織り交ぜた内容はいずれも水準以上の秀演で,久々に手に汗握る優れたライヴ盤を聴きました。トレーン系の熱いモード・ジャズを愛好な さる方は是非。

★★★★1/2
Dag Arnesen Trio "Movin' "(Taurus : TRCD 832)
body and soul alone together maybe C-minor blues movin' up tide en mandag skating the club peace
Dag Arnesen (p) Terje Gewelt (b) Svein Christiansen (ds)
ノルウェイのピアノ弾きダグ・アルネセンが1994年に発表したトリオ作。最近ではピアノのアルネセンとベースのゲヴェルトはすっかり音楽的に自分のペースを掴み,そのせいかサイドメンとしても重宝され,あちこちで姿を見かけるようになりました。そんな不惑の境地への出発点となったのがこのアルバム。これ以前の彼らはチック・コリアに傾倒していたのか,単音でパラパラとフレーズを転がすメカニカルな演奏に色目を使っていたものでした。しかし,技巧的にそれほど闊達な方ではない以上は,技巧を誇大に見せようとペースを乱すより,間を生かしてゆったりと演奏するほうが持ち味が出るというものです。そんな好い意味での諦観が思わざる効果を挙げたのがこのトリオ。イン・テンポでせかせか弾くのをやめたピアノに,音数を減らしたベースとドラムが穏やかに寄り添う。都会の喧噪の中であくせく日々に追われてきた小市民が,ふと我に返ったような。そんな驚きの一瞬が隠された,彼らの転換点となった一作です。

★★★★3/4
Terell Stafford "Fields of Gold" (Nagel Heyer : 2005)
hey, it's me you're talking to Minnesota dear Ruby Ms. Shierley Scott ill wind if I perish sagittarius I believe in you his eye is on the sparrow flashdance that's all september in the rain

Terell Stafford (tp) Antonio Hart (as) Bill Cunliffe (p, org) Kiyoshi Kitagawa (b) Rodney Green (ds)
マイアミ出身のトランペッター,テレル・スタッフォードの第3作。メリーランド大学まではクラシック・トランペットを習っていたそうで,ブライトで明晰な吹け上がりはその賜物でしょう。1998年にウィントンと知遇を得,彼の口利きでルトガース大学修士課程へ。ここでボビー・ワトソンに見いだされ,ホライズンで活動。それを足がかりにニューヨーク進出を果たしたようです。これも実に良くできたアルバム。スタイルはオーソドックスなハード・バップ。リーダーはまだ一部に音を外すところもありちょっと粗さもありますが,かっちりまとまったフレーズをヒョイヒョイ取り出す。ニコラス・ペイトンに良く似た音色とフレージングで爽快です。ケニー・ギャレットに似たねっちり系ハートのアルト,粒の立ちまくった闊達運指のカンリフ,ゴリゴリ音で我を出す北川といずれも若々しく跳ね回った気持ちの好いハード・バップ作。同じ現代メインストリーマーでも,ハリソン=ブランチャードやギャレット5,OTBあたりに代表される伝承派イディオムのハード・バップが懐かしい方は是非。お薦めです。

★★★★1/4
Reuben Brown Trio "Ice Scape" (Steeplechase : SCCD 31423)
Billy Mack the knife a night in Tunisia ice scape Joe it's the night I like lonely afternoon twilight at Duke's place lush life Catania

Reuben Brown (p) Rufus Reid (b) Billy Hart (ds)
リーダーはワシントンDC出身。1939年生まれのベテランで,長年地元のローカルなピアノ弾きとして活動してきた人物。ブッチ・ウォーレンやビリー・ハートとは仲が良く,若い頃は一緒にトリオを組んで活動していたとか。しかし,彼ら演奏仲間がニュー・ヨーク進出を果たした際にも,彼は家庭を大事にする余り誘いを断ってしまい,結局郷里から出ることはなかったんだそうです。このため彼は,一般にはほとんど知名度がありません。1994年に旧友ビリー・ハートを迎えて制作された本作は,そんな彼の珍しいトリオ作。分刻みの暮らしで凌ぎを削る都会のピアニストのように緊密な演奏を,まるで野心のない彼に期待するのは無理というものですけれど,代わりに心優しい彼の人柄が,柔和で繊細なピアノの中に滲み出た快いトリオです。ビリー・ハートのガサツな太鼓は些かミスマッチな気がしますが,きΝЛ┐覆匹了軼な自作曲や,万感の想いを込めたのバラード演奏などは,このピアニストの独壇場。『マック・ザ・ナイフ』には誰もが仰天するでしょう。古今東西色々な『匕首マック』あれど,この楽しげなナンバーをリリカルなバラードにしてしまったのは,彼くらいのものでは。

★★★★3/4
Ben Besiakov "You Stepped out of a Dream" (Steeplechase : SCCD 31423)
four what's new sippin' at bells tune up I hear a rhapsody cheese cake you stepped out of a dream Bud's bubble Stella by starlight what is this thing called love
Ben Besiakov (p) Ron McClure (b) Keith Copeland (ds)
デンマーク出身のベン・ベシャコフは北欧のピアニストには珍しく,バピッシュなプレイを得意とする人。ジミー・レイニーの実息ダグ・レイニーの脇を固めていたこともあり,ジョーヘンやハワード・マギーら,彼の地に渡った多くのジャズメンに助演して知られるようになりました。オルガンも弾く器用な人で,歪み大好きギタリスト,ニクラス・クヌードセンの渋いオルガン・トリオ作『ヒューアン・ビート・ボクサー』ではかなりモーダルでグルーヴ感のあるオルガンを弾いていましたっけ。このCDは1990年に出たもので,ハンク・ジョーンズ晩年の好サポーター,キース・コープランドや上述ベリクランツへの客演が印象的なルーファス・リード風マクルーアの控えめなサポートを受け,近年のケニー・バロンやハンク・ジョーンズに通じる趣味好く飄々としたバップ・ピアノを弾いています。技巧的に闊達な方ではないのですが,好い意味でそれを良く分かったピアノ。運指の回転率よりタッチの円やかさや軽さを大事にした心地よいピアノに頬が緩みます。

(2002. 11. 10)