1990年代のジャズ vol. 18


★★★★3/4
Alan Pasqua "Milagro" (Postcards : POST 1002)
acoma Rio Grande a sleeping child the law of diminishing returns twilight all of you milagro l'inverno heartland I'll take you home again, Kathleen

Alan Pasqua (p) Dave Holland (b) Jack DeJohnette (ds) Michael Brecker (ts) with : John Clark (hrn) Willie Olenick (tp, flh) Roger Rosenberg (fl) Jack Schatz (tb) Dave Tofani (cl)
ピーター・アースキンのアメリカン・トリオ盤『ライヴ・アット・ロッコ』で,一躍ピアノ好きの間に認知度を高めた叙情派アラン・パスカが1993年に出したリーダー作です。基本はトリオ演奏と,ブレッカーのテナーを加えたカルテット。ハービーの『スピーク・ライク・ア・チャイルド』同様,必要に応じてホーンの分厚い和声が彩りを添えるという作り。アースキン・トリオでもこの人のデリケートな分散和音は作品に高雅な香りをもたらしていましたが,同盤を名盤にした彼のデリカシーが,そのまま拡張されて一枚になったような,何とも言えぬ静謐な美しさをたたえたCDです。一目瞭然な豪華メンバーで,演奏は適度に緊密。悪かろう筈もありませんし,アースキン・トリオで立証済みの詩的な作編曲センスが兎に角,輪を掛けて抜群に素晴らしい。滅法リリカルで品位高く,慎み深い彼の才気が全編に横溢し,快哉を叫びました。古いCDなので入手が少々難しいと思いますが,エヴァンス系がお好きな方。見つけたら迷うことなくお求めなされ。

★★★★1/2
Brian Dickinson "Live at Senator" (Jazz Inspiration : JID 9308)
if you go spring sprung in lover man solar meniscus Arnold I fall in love too easily everything I love invitation

Brian Dickinson (p) Kieran Overs (b) Jerry Fuller (ds)
キース趣味の入った穏健なエヴァンス奏法で訥々とバラードを紡いだ快演盤『ブライアン・ディッキンソン・トリオ』で印象を残したカナダのピアノ弾き,ブライアン・ディッキンソンのライヴ録音。同盤では,同じくローカルなピアノ弾きデイヴ・ペックやチャド・ロウソンらと同様,デリケートながらテクニック的にはもう一つの小粒なピアノ弾きという印象がありましたが,ライヴ音源なためでしょうか。ここでのリーダーは,ぐっとアタックの強いモーダルなピアノを披露。スタジオ録音とは打ってかわり,熱を帯びた演奏でバリバリ弾いていて,吃驚させられました。好みの問題もあるでしょうが,小生的にはこのライヴ盤のほうが出来がよいような気がします。

★★★★★
Harry Allen Quartet "Jazz im Amerika Haus volume 1" (Nagel-Heyer : CD 011)
'deed I do close your eyes but beautiful the king did you call here today honeysuckle rose this time the dream's on me my heart stood still everyday I have the blues limehouse blues

Harry Allen (ts) John Bunch (p) Dennis Irwin (b) Duffy Jackson (ds)
今や日本で人気絶大のテナーマンに成長したハリー・アレンは,専ら国内盤でエディ・ヒギンズ同様玉石混淆なアルバムを乱発するようになり,天の邪鬼な小生は興味を失ってしまいました。それでも彼が無名時代のものには,些かバブリーな現状に浮き足立ってしまった最近の録音にはあまり見られなくなってしまった,適度に硬派な中間派系の良盤が多く隠れています。以前から中古が出たら買おうと狙っていたこのライヴはその典型を示す隠れた秀作。技量確かなバックの心地よい中間派的リズムに乗り,レスター系の吹き抜けを見せるアレンのソロは,徹頭徹尾スムーシーで分かりやすい。ブライアン・レモン風のピアノはやや小粒ですが,その不器用なゴツゴツ感が却ってアレンのスムースなサックスと絶妙なコントラストを醸しだしており,最近はやや薄れてしまった彼本来の衒わぬスイング・スピリットが純化されているように思います。ダニー・モス盤をお気に召した方,レスター・ヤング,イリノイ・ジャケー,ズート・シムズあたりまでをお好きな方なら間違いなく溜飲を下げることになりましょう。

★★★★
Gary Schunk "The Key Player" (Pan 3 : 33169-2)
backward glance love walked in speak like a child oblivion nova pac-3 blues hidden heart E.S.P. sometime ago time remembered
Gary Schunk (p) Jack Dryden (b) Tom Starr (ds)
ミシガン州のディアボーンという田舎町で活動中らしいピアノ弾き,ゲイリー・シャンクのトリオ録音。全くヒドイデザインのジャケットですが,中身はといえば正反対。ピアノは同じアメリカのローカルなピアノ弾き,ハリー・ミラーに大変良く似たセンスの持ち主で,モーダルでパラパラしたピアノを弾く。しかし,右手は良く歌い,作編曲の才能もかなり豊かで,オリジナルの出来は秀抜。吃驚するほどよく練られた作品だと思います。脇を固める2人はリーダーと長年トリオを組んでいるとか。ただ,この脇役が些か粗いのが惜しい。技術的にはしっかりしているようですが,感覚的に少々ガサツです。,離戞璽垢離Εーキングは乗れていず,リズムを殺してしまいますし,ドラムは澤野商会から出たジョー・チンダモ盤の太鼓,あるいはカレル・ボエリー『スウィッチ』の太鼓同様しなやかさに欠け,デリカシーが乏しい。ローカルなトリオだからこれも仕方ないのでしょうが,ピアノがなかなかの才人だけに,本当に残念です。ハリー・ミラー盤がお気に召した方なら間違いなく気に入ります。地方マイナー盤漁りがお好きなファンはぜひ御一聴を。

★★★★1/4
Peter Nordahl Trio "Crazy She Calls Me" (Sittel : SITCD 9232)
pretty women dear old Stockholm bay of angels loving you one more kiss anymore can whistle nce, nice if you could see me now love is here to stay in a sentimental mood night in Tunisia crazy she calls me

Peter Nordahl (p) Patrik Boman (b) Leif Wennerström (ds)
リサ・エグダールという女流歌手の歌伴を務めていた(と記憶する)スウェーデンのピアノ弾き,ペーター・ノルダールのトリオ作です。北欧のピアニストというとすぐに氷のように冷たいタッチで,醒めた硬質のソロを取るトリオを連想してしまいますが,本トリオは例外。単音主体のデリケートな右手で,間を生かし飄々としたソロを取るリーダーは,ウィントン・ケリーやレッド・ガーランド彷彿の趣味の良い右手が特徴で,エレガンスやタイム感はアーマッド・ジャマール的。北欧ものとしては珍しく,カクテル・ピアノ的な甘さと品が程良く同居した演奏であり,良い意味でカクテル・ピアノ的持ち味を備えたトリオだと思います。歌もの中心の選曲も,そうしたトリオの持ち味に好く合っている。

★★★★★
Brian Blade "Brian Blade Fellowship" (Blue Note : 7243 8 59417 2 6)
red river revel the undertow folklore in spite of everything lifeline mohave if you see Lurah love without asking

Brian Blade (ds) Jon Cowhead (p, wurlizer) Chris Thomas (b) Melvin Butler (ts, ss) Myron Walden (as) Jeff Parker (g) Dave Easley (steel g) Daniel Lanois (mambo g)
脱伝承派を志向するブルックリン派の中枢に位置するドラマー,ブライアン・ブレイドが1998年に発表した初リーダー作。フェローシップというくらいなので,後進の育成を意図したものなんでしょうか。それだけにソロを取るフロント陣は少々小粒な点も散見されます。しかし,このアルバムは作編曲を含めてアンサンブルが素晴らしい。コンセプション明確で,特にペダル・スチール・ギターの使い方が面白い。現在隆盛のブルックリン派も,アンサンブルにミステリアスな表情をつける核となっているのはローゼンウィンケルやモンデールのギターによるスペーシーな和音で,それが1960年代後半以降のクロスオーヴァー・ミュージック,ロックやプログレを思わせるエキゾチックな効果を挙げていました。このアルバムも,モノクロームなシンセサイザーでなく,ベントやスライドを駆使することにより音のコントロールが自由なギターで得も言われぬ浮遊感を醸しだしている点に,1960〜1970年代の音楽シーンの香りを当世風に再現前する彼の目論見を読みとれるように思います。それだけに,黒人主体のアンサンブルであるこの作品が,やはりアフリカ起源の音楽をどこかルーツに志向し(でそれが露骨に出ます),ジョーヘンらがやっていた電化ジャズを再解釈したものに近くなっているという事実は,どちらかというとプログレやロックをルーツにしているクールなローゼンウィンケルやクリス・チーク,メルドー君らのそれと微妙な温度差があるようにも見えるのは興味深い事実です。それらを混沌と取り込んで泥臭いジャズ色を適度に中和した上に,現在のブルックリン・サウンドのリゾーム的なしたたかさはあるのかも知れません。

★★★★1/2
Sweet Jazz Trio "Soft and Quiet" (Arietta : ADCD 18)
autumn in New York I had the craziest dream this is no laughing matter what am I here for polka dots and moonbeams the touch of your lips soultrane my melancholy baby come sunday all of me it might as well be spring

Lasse Tornqvist (cor) Mats Larsson (g) Hans Backenroth (b)
ストックホルムを拠点に活動する3人の名手が集まって結成されたユニット,スウィート・ジャズ・トリオの第2作。もともとはコルネットとギターだったところに,ハンス・バッケンロスが入ってトリオになったのが1995年のこと。翌年にデビュー作を出して以来,現在までに3枚ほどの録音が出ています。ピアノもドラムも抜きと言うことで,まるで室内楽を思わせるような,くつろいだ柔らかい風合いがなんとも魅力的。味わい深く飄々と唄うテルンクヴィストのコルネットは,晩年のチェット・ベイカーやアート・ファーマーを思わせる心憎いものですが,目立たぬながらやはりベースのバッケンロスが素晴らしい。ピアノ抜きの編成では,ベースがその分浮いてくるので,ピッチの悪いベースが弾くと目も当てられません。ピッチの揃った屈強なウォーキングの見事さが既にクラエ・クローナ・トリオで実証済みなバッケンロスの役割の大きさは言うまでもないでしょう。マンデル・ロウ風の小粋なギターも出色です。お薦め作。

★★★★1/2
Andy Parsons - Gene Lewin "Fundementia" (Igmod : IGM 49808 2)
idea man bitter cup we're all in this alone puritans and libertines blue snide clone jealousy zealously fell asleep fundementia same place, same time

Andy Parsons (sax) Gene Lewin (ds) Ben Monder (g) Mike Holober (p) Scott Colley (b)
ジョン・ゴードンのアルバム『カレンツ』を名盤にした陰の功労者は,間違いなく独特の浮遊感溢れるソロを披露したベン・モンデール(モンダー)のギターでしたでしょう。というわけで購入したこのCD。影のパット・メセニー(またはアバークロンビー臭顕著なパット・メセニー)とでも呼びたくなるモンデールの音色と歌い回しが,顕著にクール・ダウン効果をもたらした一枚です。リーダーのアンディ・パーソンズは太鼓のレヴィンと組んで活動しているリード奏者。バークリーを経て1993年にニューヨークに進出。マンハッタン音楽院でボブ・ミンツァーやボビー・ワトソンに師事したようです。元はクラリネット吹きだったという彼のサックスは柔らかく深みのあるトーンが持ち味。作編曲も器用にこなしており才能は豊かなものを持っている様子。脇を支えるのはスコット・コリーくらいしか知名度のない面々。こちらも小粒で派手なところはないものの,極めて職人気質の堅実な助演で品位高い。派手なところは少ないですが,大変丁寧に仕上げられた良質のコンテンポラリー・ジャズ作であると思います。お薦めです。

★★★★1/4
Stevens, Siegel & Fergusson "Panorama" (Imaginary Records : IMX-010)
magical spaces lonely woman Julie's tabouleh dedication for you only blue heart con alma memorial tblues for Elena Angelica you wait here
Michael Jefry Stevens (p) Jeff Siegel (b) Tim Ferguson (ds) Valery Ponomarev (tp, flh, picc-tp)
この3人はいずれも実質脇役専門のミュージシャンで,普段は各々あちこちのアルバムに脇役参加している職人集団。とはいえ,当館でもベースのティム・ファーガソンが参加したトム・デンプシーのリーダー作をご紹介したことがあるくらいで,あまり儲かってはいないような気がしますが(笑)。しかし,トリオとしての相性は良く,実際すでに数枚のアルバムも作っている。下記『トリオローグ』がトリオ編成であったのに対し,この盤はラッパに元メッセンジャーズのフロントで,旧ソ連出身のハード・バッパー,ヴァレリー・ポノマレフを全面フィーチャーしたカルテット録音です。例えは悪いですが,自分の腕一本だと,どうにも地味でアルバム一枚持たないプレイヤーが,助演を受けて脇に回った途端に持ち味を発揮すること,ジャズの世界では枚挙に暇がありません。シダー・ウォルトンしかり,バリー・ハリス然り。この盤も,まさしくその定石を地で行く一枚です。ヴァレリー・ポノマレフのラッパは張りのある音色でブライトに好く鳴り,アタックも鋭く歌心豊か。見事に演奏の核となり,アルバムの品位を上げている。脇役だからか,主役の3人とも良くリラックスしており,好演の連続。助演効果でレベルアップするB級ハード・バップの典型的と言って良いほどの模範例であり,おそらくは現時点でこのグループの代表盤と言って良い出来では。

★★★★1/2
Kjell Jansson-Jan Zirk Quartet "Chelsea Bridge" (Dragon : DRCD 346)
UMMG my little brown book Clementine blood count Isfahan three and six Johnny come lately Chelsea bridge the intimacy of the blues

Kjell Jansson (b) Jan Zirk (p) Magnus Gran (ds) Erik Norstrom (sax)
いやはや,実のところあまり期待していなかったんですが,これは拾いものでした。スウェーデン近郊では名盤渡り鳥と化しているマグヌス・グランの目利きを当て込んで買ったこの一枚。まさしく期待以上の出来で大いに満足しました。タイトルが示すとおり,名作曲家ビリー・ストレイホーンのオリジナルで固められたこの作品は,リーダーがエリントン好きなところに端を発した企画。人選も全面的に彼の好みで進められたとか。思い通りの企画で乗ったんでしょう。リーダー以下,素晴らしくハード・バピッシュで軽快。特にピアノのヤン・ジルクは,モードを基調にしつつもメロディックでバランスの取れたピアノを披露し,溜飲を下げてくれました。既に老境のテナーは唯一と言っていい不安材料。リッチー・カミューカとデクスターをブレンドしたようなもそもそした音色とはいえ,コントロールはかなりしっかりしてますし,テクも充分で老人特有の不安定さはまるでなし。素材も演奏も良しで安心してお薦めできる欧州ハード・バップの快演盤です。

(2003. 2. 18)