1990年代のジャズ vol. 19


★★★★★
Hubert Nuss "The Shimmering Colours of the Stained Glass" (Greenhouse Music : CD 1008)
the shimmering colours of the stained glass I awakening remembering the start of a never ending story stomp the shimmering colours of the stained glass II more than you know a tender farewell to a Spanish woman song for a real friend I have a love anxiety Llonio's song

Hubert Nuss (p) John Goldsby (b) John Riley (ds)
リーダーは1964年生まれ。SBFビッグ・バンドのピアニストとしてプロ活動を始めたのち,ドイツ若年音楽コンクール(Jugend Musiziert)および若手ジャズ演奏家コンクール(Jugend Jazzt)に入賞した実力の持ち主です。コローニュ大学で後進の育成にあたっているジョン・テイラーが解説を書いていることからもお察しの通り,その後同大学でテイラーに師事した模様。クレメンス・オルツやトマス・リュッケルトに続くコローニュ楽壇期待の星といえましょう。冒頭,いきなりメシアン・モロ出しの独奏部を設け,意気揚々と己の出自を誇るリーダーは,疑いなく近現代音楽の素養豊かな知性派。果たして内容も,寡黙かつ緊密。ベヒシュタイン・ピアノの奏でる重厚な音場の中に,深々とした叙情性が厳かに拡がる,硬派な欧州ジャズです。削られた音数の右手に,バイラークを思わせる思索的な左手のハーモナイゼイションを組み合わせた,あくまで内省的な佇まい。精妙な和声および対位法センスが,少ない音数の中を縦横に駆けめぐり,緊密さを失わない。かなりの凄腕で感服しました。それにしても,ジョン・テイラーは最近,じわじわと凄い若手を送り出してますねえ。実はコローニュ音楽院,密かに欧州屈指の知性派ジャズの拠点になりつつあるのでは。甲種推薦致します。

★★★★1/4
"Charly Antolini / Gerry Hayes Swing Explosion" (Jeton : JET 60 014)
Rachel's dream on the Alamo undecided Nancy cute Avalon memories of you on a clear day get happy stardust northwest passage by the way

Charly Antolini (ds) Gerry Hayes (vib, vo) Charles Höllering (cl) Thilo Wagner (p) Karsten Gnettner (b)
1937年スイスはチューリヒ生まれのドラマー,アントリーニといえば,すぐに思い出すのはヤンシー・キョロシーの代表作『アイデンティフィケーション』のハードなドラミングです。しかし,実のところ彼は南独放送ダンス・オーケストラやクルト・エデルマンのビッグ・バンドを始め欧州の楽団を渡り歩いた経歴が長い。1980年から僅か3年とはいえ,あのベニー・グッドマン五重奏団にも在籍した経歴の持ち主であり,意外にも中間派と縁の深い人といえましょう。この作品は1994年に録音されたもので,前年に結成したミュンヘンの鉄琴奏者ジェリー・ヘイズとの双頭コンボ『スイング・エクスプロージョン』名義の第1作。クラリネットをフロントに置き,ベイシーやグッドマンゆかりのスタンダードを採り上げた選曲から内容は推して知るべしの中間派ハード・バップ作。猫も杓子も小難しい楽理を振りかざしてしかめつらしいジャズを展開しているこのご時世に,小理屈抜きの脳天気なスイング一本勝負が却って潔く響くのは,決して古き好きジャズへの郷愁ばかりではありますまい。プレ・モダン臭が苦手でない方なら是非。お薦め作。

★★★★1/4
The New York Hardbop Quintet "A Whisper Away" (TCB : 98702)
a whisper away three for Amanda 99 everything I have is yours Basia's dream bella Carolina grace Martin scores easy

Joe Magnarelli (tp) Jerry Weldon (ts) Keith Saunders (p) Bim Strasberg (b) Clifford Barbaro (ds)
ニューヨークのB級ジャズメンが集まって結成したニューヨーク・ハードバップ・クインテットの第3作。前作では臨時メンバーだったミッキー・ローカーが代打で太鼓を叩いていましたが,今回はレギュラー・メンバーのクリフォード・バルバロが太鼓の座に。タイトなスネアと緩めのチューニングによるレガート・シンバルのコンビネーションはルイ・ヘイスやビリー・ヒギンズに通じる軽快さがあり,彼の太鼓のお陰か,グループの演奏は前作よりも一体感やドライヴ感を増したようです。もともとピアノのサンダースはあのデヴィッド・ヘイゼルタイン同様シダー・ウォルトン的なレガート弾きとなれば,リズム隊はまさにクラシック・トリオそのまま。B級ハード・バップの予定調和です。余談ながらこの盤のジャケット,よく見ると背景にはあのツイン・タワーが。1998年に出たこの盤がまさかあのテロを予期していたはずもありませんが,アメリカ文化のソフト面の象徴であるジャズを演奏し,中心地ニューヨークを冠したクインテットのアルバムに,消滅直前のツインタワーが背景を飾っていたという事実。何とも皮肉な巡り合わせを感じてしまいます。

★★★★
Sylvain Beuf Quartet "Impro Primo" (RDC : REF 40067.2 DK016)
like someone in love Pedro a travers la fenetre impro primo Delta honey moon ballade pour Isa blues for friends stablemates waltz for Claude

Sylvain Beuf (sax) Bojan Zulfikarpasic (p) Christophe Wallemme (b) Stephane Huchard (ds)
クインテット録音『ソウル・ノーツ』でも印象を残した仏の隠れ名手シルヴェン・ブフの1993年作登場。しかしCD化は2000年で,発売まで7年も要しているという計算になります。本国でも,まともに評価されるようになったのは最近なんでしょう。最近作ではよりオリジナルなトーンを利しての洗練されたプレイが印象に残りましたが,この盤では,トレーンも基調にあるものの,むしろロリンズやグリフィン,ブッカー・アーヴィン臭の入った,よりメロディックで野趣溢れるプレイを披露。10年前から既にもう,良くコントロールされた音色と闊達な技巧でバリバリ吹いていたのだと再確認させられました。マイナー盤ということもあり,お馴染みベースのクリストフ・ワーレム以外は寡聞にして良く知りませんが,演奏はといえばかなりのハイレベル。ピアノのズルフィカルパシチはシモン・スパン=ハンセンなどと共演歴豊富な仏ピアノの名脇役。確かな運指技巧と完璧なタイム感で軽やかに歌う相当な手練れです。相変わらず主役の作曲センスはやや垢抜けしないものの,演奏は文句なく乗れていますし,これだけレベルの高い録音が何年も埋もれていたとは勿体ない話です。海の向こうでもジャズで食っていくのは大変なんですかねえ?

★★★★
Rosario Giuliani & Franco D'Andrea "Duets for Trane" (Philology : W91)
equinox countdown Naima giant steps central park west some other blues a love supreme like Sonny Ronnie's lament solo for Trane
Rosario Giuliani (as) Franco D'Andrea (p).
イタリア期待の若手アルト奏者ロザリオ・ジウリアーニが,伊ジャズ界で長年に渡って名サイドメンとして活躍してきたベテラン,フランコ・ダンドレアを迎えて制作したデュオ録音。タイトルが示す通り,ジョン・コルトレーンへオマージュを捧げようとの趣旨で制作され,トレーンゆかりの楽曲を多く採り上げた内容。アルトのジウリアーニは,前年に伊ジャズのカリスマ,ウルバーニゆかりの第一回マッシモ・ウルバーニ賞を受賞。初のリーダーセッションで意気上がるところ。これでピアノがマッコイ風であったら,さぞ扇情的なものになったでしょう。そんな若き暴れ馬を巧みに御したのがダンドレア。ベテランらしい飄々とした身のこなしで,猪突猛進に向かいかねないジウリアーニのアルトをクール・ダウンしております。

★★★★1/2
Eric Legnini Trio "Natural Balance" (Jazz Club Records : CD JC 6013)
in love in vain infant eyes born les grandes plaines de la-bas Amnesie cadence d'un geste natural balance cyclades my shining hour caravan

Eric Legnini (p) Jean-Louis Rassinfosse (b) Stephane Galland (ds)
ベルギーの凄腕エリック・レニーニには,トリオで『アントレグス』という秀作があります。この盤はその盤よりもさらに古い1991年のもの。入手は殆ど無理かと思っていましたが,とうとう再発されました。冒頭から趣味丸出しの選曲で,内容は推して知るべしのキース路線。ベルギーといえばナタリー・ロリエにしてもディーデリック・ウィセルズにしても,皆特有の陰鬱感のあるハーモニック・センスを持っていますが,このアルバムで初めてレニーニにも,ナタリー・ロリエらに共通するベルギアン特有のクールな影を見たような気がします。ベースのラシンフォッセは,自分のリーダー作を最近まで録音していなかった奥ゆかしい人ですが,ベースはピーコック・タイプの絡みつき系。そんなベースのせいか,それとも『アントレグス』とは別人の太鼓がタイトに叩いているせいなのか。このアルバムのレニーニは『アントレグス』路線を取りつつも,より熱っぽく,呻り声まで入っていつになくモーダルにゴリゴリ弾いていてニヤニヤしてしまいました。相変わらず捻りに欠ける楽曲と綺麗すぎるフレージングはもう一工夫欲しかった気もしますが,この出来なら多分トリオ盤としては目下代表作でしょう。お薦め。

★★★★3/4
Lars Sundberg Trio "Bebop, Ballads and Blues" (Imogena : IGCD 080)
raincheck days of wine and roses dansen på sunnanö like Silver here's that rainy day I mean you yesterdays poor butterfly alagna valsesia angel eyes break out the blues lotus blossom

Lars Sundberg (p) Börje Svensson (b) Anders Söderling (ds)
リーダーはスウェーデンのバップ継承ユニット,バプリシティ・ジャズ・グループのメンバーとしても活動中のベテラン奏者。日本ではスコット・ハミルトンの脇役を務めたことでごく一部に名前を知られているくらいですが,活動歴は長く,彼の地では燻し銀の脇役として知られているようです。このアルバムは1999年のもので,タイトルからして明らかなように,伝統的なイディオムをいたって穏当に継承した上に立脚している彼のスタイルが良く出た快演盤。このジャケットを見て,すぐにジョージ・シアリングの復活作『ブレイキン・アウト』を思いだした方は大変鋭いです。この人のスタイルもまさに後年のシアリングを思わせるもの。バップ・イディオムと中間派的なエレガンスを程良くミックスして醸成した,良い意味で衒いのないオーソドックスなスタイルで,ひたすら小気味好くスイング。脇役まで含めてメンバーはかなりのご高齢ということもあり,メカニカルな運指のスリルや丁々発止としたやり取りを期待するのは無理というものですけれど,好々爺然とした交歓は心憎いばかりでアドリブは良く歌ってますし,小理屈こねずにスイスイとスイング一本勝負に徹する姿勢は潔いの一語。難しいこと言わずに楽しみたいという方なら間違いなく快哉を叫ぶことになるでしょう。甲種推薦。

★★★★1/4
Marco Detto Trio "Falling with Jazz with Love" (Lush Tales : LT CD 0149)
falling in jazz with love my romance here's that rainy day St. Thomas confirmation lover man very early triste

Marco Detto (p) Marco Ricci (b) Giorgio Ditullio (ds)
リーダーは1962年ミラン生まれの中堅。11才でテラモの音楽学校へ進みますが,大学4年になるまでピアノではなくチェロをやっていた変わり種です。1987年から自己のトリオを率いて地元を中心に活動し,各地を転戦しつつも芸歴はかなり豊富な脇役重宝型の典型といえるでしょう。この盤は1993年に録音された彼の初リーダー作。キャッチーでスインギーな単音ソロをパラパラ転がす小粋なピアノ。右手はオスカー・ピーターソンとシダー・ウォルトンの中間で,左手の充てはレッド・ガーランドやエディ・ヒギンズ(の初期)にチック・コリアを少しブレンドして,白っぽくタイトにしたような感じと言えばよいでしょうか。マイナー盤でもあり,演奏は少々小粒。一流どころのピアニストのように丸いタッチというわけにはいきませんし,テンポが上がると手癖がかなり強く出てきて(1960年代のケニー・バロンと同じ手癖なので笑えます),いかにもB級なんですが,某日本レーベルに買われたわけでもないのにまるで奇を衒わないベタな選曲が示すとおり,外連味なくひたすらにオーソドックス。芸術家であるよりは芸人であることを潔しとし,気取らず衒わず良い意味で小器用な,いわゆる「気持ちの好いトリオ」の典型といえるでしょう。

★★★★1/2
Max Vax Trio "A Personal Touch" (A-Records : AL 73151)
my tune who can I turn to a song without words* that old black magic impromptu falling in love with love a fairy tale for Hein that was a fragile silence* your waltz*

Max Vax (p) Sharon Rosner (b) Ralf Jackowski (ds) Hubertus Hildenbrand (g)* Hein Van de Geyn (b)
マックス・ヴァックスなんて変な名前だと思う貴方の勘は半ば当たっており,リーダーはロシア出身。クラシックで有名なバレキレフ音楽院を経てオランダのロッテルダム音楽院,そしてバークリー音楽院へ進んで才能を開花させた人物。1975年生まれの彼は,まだ20代でこの初リーダー作をものにしたわけです。冒頭から,クラシックの鍛錬を相当に積んだのが歴然と表れている,その圧倒的な技巧にまず吃驚。絶頂期のケニー・バロンに匹敵する重戦車のようなヘヴィネスを持ち,どんなテンポにも余裕綽々で粒の揃ったタッチを繰り出してきて,大いに驚かされました。なにぶんまだ若いので,作編曲など良く出来ているとはいえイカニモ優等生的な教場上がり臭さが抜けませんけれど,もともとの技量は達者なので,プロとして場数を踏んだらかなり大化けするのではないでしょうか。ライナーによると活動の拠点はオランダだそうで,2003年現在も,ほぼ同じメンバーでトリオを組み,オランダ国内を活動拠点にしている様子。ちょっと勿体ないかなあ。アメリカに上陸して武者修行する覇気があれば,もっと伸びると思うんですけどねえ。

(2003. 5. 23)