1990年代のジャズ vol. 20


★★★★1/4
Adonis Rose Quintet "The Unity" (Criss Cross : CRISS 1173 CD)
prince of the night Dolores the unity tonk Anna Maria I remember you smooth jazz

Adonis Rose (ds) Nicholas Payton (tp) Tim Warfield (ts) Anthony Wonsey (p) Reuben Rogers (b)
弱冠25才の新進ドラマー,ニューオリンズ出身アドニス・ローズが,1999年にクリス・クロスへ吹き込んだ2枚目のリーダー作です。ニュー・オリンズといえばニコラス・ペイトンの出身地。実際このアルバムの顔触れは,ボスであるペイトンのグループそのまんまとなっており・・こんなんでリーダー盤を作る意味なんてあるのかと思わずにはいられないほどです(笑)。アルバムは7曲からなりますが,歌もののΔ鮟くと,本人の自作3曲に,サイドメンの提供が1曲で,残る2曲がショーターのオリジナル。ここに至って彼の趣味は俄然明白に。果たして内容は模範的なまでに1960年代の新主流派路線。本人のオリジナルは新主流派の流儀で良く書かれていますし,ペイトンに可愛がられるだけに太鼓奏者としての実力も達者。好きなのは恐らくトニー・ウィリアムスあたりか。しかし,ジャズ・ロック風やボッサ多めだからか,音も乗りも硬めで,トニー特有のしなやかなポリリズム至芸はなし。タイトなばち捌きで,背後からかっちりとフロントを守るタイプの堅実なドラマーという位置づけの人でしょう。そのせいか,フレディ・ハバード丸出しのペイトン以下,脇役も全員好演。この手の音に目がない方なら,幅広い方に安心して聴いていただけるのでは。

★★★★
Joe LoCascio Trio "Silent Motion" (Tafford : 1041)
State Street old Floyd dandelions the days run away Hyacinth Dr.John day one blue lights afterglow lovers squares

Joe LoCascio (p) John Adams (b, eb) Ed Soph (ds)
テキサス州を拠点に活動しているモード弾き,ジョー・ロカッシオの1994年作。チェット・ベイカーやジョージ・コールマン,フレディ・ハバード,ジョージ・ムラーツ,ハンク・クロフォードら,そうそうたる大御所のサイドメンを務めた彼は,1977年以降はテキサスへ隠棲。ヒューストン・コミュニティ・カレッジの教員となり,彼の地でご意見番を務めておられます。1990年には自己のトリオを持ち,4枚の録音を発表。本盤は1994年に発表されたもので,本盤もそのメンバーによる一枚です。この盤をリリースしているタフォードはハート・ミュージックの傘下のようで,つまるところ最近作では一段階メジャーに昇格したと言うことになります。それだけに本盤も,いち地方レベルには収まりきらないリーダーの図抜けたピアノが素晴らしい。現在よりは少しモード色が弱く,昔のエディ・ヒギンズみたいにぱらついていますが,ゴツゴツした左手との組み合わせが醸し出す宍戸譲まがいの骨太ピアニズムはここでも健在。全曲オリジナルで,これも実に良く書けている。テキサスの地元ミュージシャンが脇と言うことで,やっぱり太鼓が弱いのは残念ですが,それを除けばかなりレベルの高いトリオだと思います。最近作を聴いてお気に召した方ならぜひ。

★★★★3/4
Tony Pancella Basic Jazz Trio "Keep This in Mind" (YVP : 3036 CD)
keep this in mind just in case aura gracelight I'm in the mood for love king Richard insight down blues havin' fun just one of those things dancing on the ceiling hidden door just one...

Tony Pancella (p) Luca Bulgarelli (b) Marcello Di Leonardo (ds, perc)
リーダーはイタリアのチエティ生まれ。シエナのクリニックでピエラヌンツィとダンドレアに学んだのち,1989年に自己のトリオを結成し,同年にローマのクラブ『ミュージック・イン』が主催した伊ジャズ・コンペで新人賞を獲った御仁です。このアルバムは1998年に出たもので,彼がリーダーを務めるベーシック・ジャズ・トリオ名義の2作目。最近作『ディファレント・ストーリーズ』は昼行灯気味のピエラヌンツィ系。無理にパラパラ弾こうとするあまり空フレーズ気味のピアノは,脇で参加したティノ・トラカナに美味しいところを持って行かれる体たらく。そんな事情もあって,大した期待もなく手に取ったのですが,聴いて吃驚カメレオン。最近作とは別人のようにグルーヴィー。小粋にスイングする右手はゴスペルのフィーリングをたたえ,楽曲もぐっとファンキー。積極的にコンガを入れていくリズム隊の音あしらい一つとっても,黒人臭をアクセントに使おうとの意図は明白でしょう。もっと上手いピアノがゴロゴロいる伊ピアノ界の事情を考えれば,下手なピエラヌンツィもどきより,巧さを活かすこういうピアノの方が断然良いと思います。サイラス・チェスナットのアトランティック盤などお好きな方には,かなり面白く聴いていただけるのでは。お薦めです。

★★★★1/2
Pierre-Alain Goualch Tryo "Voici ma Main" (EMD-Atelier Sawano : AS028)
mama all the isles UR l'au d'ella les fadoli what is this thing called love yave degun 2 minutes Karibe around the web part 1 and 2 neuf mois voici ma main well U needn't

Pierre-Alain Goualch (p) Christophe Levan (b) Franck Agulhon (ds)
相変わらずアジ演説しか載せない澤野さん。お約束ながらリーダーの人となりについて触れましょう。リーダーは7歳でピアノを始め,5年間に渡ってクラシックの研鑽を積んだのち,ペトルチアーニの薫陶を得てジャズに転向した御仁。18歳でナンシー音楽院へ進学したのち,1992年にプロ入りしました。その後同院で和声法および即興演奏の教鞭を執る傍らプロ活動を展開。1995年には,ケニー・バロン,トミー・フラナガン,ダニーロ・ペレスが審査員を務めたツーロン国際ジャズ・コンペで優勝し,クラウディオ・ロディッティ,ジャン・ルイ・ラシンフォッセ,ディディエ・ロックウッドらそうそうたる大物の脇を固めて名を上げました。本盤は1997年に発表した初リーダー作。ジャズ・ホット誌の月刊最優秀盤に選定され,ジャズマン誌上でも最優秀新人に選ばれるなど,仏国内では一気に評価を確立することになりました。ここでも,大物ソラールが肝煎り。その後も2001年にトリオでゲンズブール作品集を,またボブ・ミンツァーやルーソロフを迎えた音盤を出すなど,活動は順風満帆な様子です。演奏はナンシーを拠点にする南仏人らしくイタリー的。なにぶんまだ若いのでアク乏しく綺麗すぎるところはありますけれど,外連味なく歌う運指は軽やかで嫌みがありませんし,良く弾むラテン・タッチは夏にぴったりの爽やかさがあってそれなりに好感が持てます。一番しっくり来る形容はおそらく,チック・コリアのアコースティック・バンドやミシェル・カミロにA.ファラオ臭少し・・といったところ。それ系の軽い乗りやタッチが嫌いでなければ充分興じ入っていただけるでしょう。ちなみにアジ文ではマッコイやハービーの名前が挙がってますけど(い鯆阿い討修思ったのかな?),個人的にはあまり似てないと思います(笑)。

★★★★
Roy Patterson Quartet "The Coming of Angels" (Unity : 149)
cloud burst (drum interlude) opening day first elegy the coming of angels phoenix at rest re:currents rise forms

Roy Patterson (g) Brian Dickinson (p) Jim Vivian (b) Ted Warren (ds)
トロントに在住し活躍する隠れた名手ブライアン・ディッキンソンの名前に釣られて購入した本CDは,同じ市中で仲良く活動中らしいギタリストが1994年に残した同レーベル3枚目。版元のユニティはトロントに本拠を置く地場企業で,太鼓を叩くテッド・ウォーレンは,既にメジャー入りした(嫌な表現です)元カナダっ子ジョン・ステッチの秀作『グリーン・グローヴ』で太鼓を叩いていた人・・と,ここまでご説明すれば,この界隈のシーンに明るくない方でも容易にお里が知れるローカルかつマイペースな制作方針で作られたCDといえましょう。始まってみればディッキンソンが立派に扇の要になってしまう演奏も予想通りです。しかし,作りの方はといえば,ローカルな御仁とは思えないほど丁寧。主役のギターは雨粒のようにぽろんぽろんした音色,細かいリフを反復しながら変形・移調していくメカニカルなフレーズの組み立てなど,細部にいたるまで誰の目にも明らかなパット・メセニー被れ。ほぼ全編を手がける作編曲のセンスもメセニー好きが奏功したか良好で溜飲が下がりました。零細企業の血は争えず,本家に比べるとタイム感,リズムの明晰さ,フレーズの冴えなどいずれも傍系止まり。周囲の演奏も重くもたついていて,所詮駆逐艦クラスなんですけれど,全てが小さいながら心地よくまとまっていて,作りはかなりいいアルバムだと思います。小粒でも作り手の良心があれば愛せますという方。お薦めです。

★★★★
Hod O'Brien Trio "Ridin' High" (Reservoir : RSR CD 116)
ridin' high portrait of Stephanie joop's lope up in Quincy's room there's no you you and the night and the music Nathalie summer night willow weep for me Yardbird suite

Hod O'Brien (p) Ray Drummond (b) Kenny Washington (ds)
ホッド・オブライエンは1950年代にはオスカー・ペティフォードやJ.R.モンテローズの脇役で活動歴を持っていた大ベテラン。しかし,1960年代には心理学と数学を学ぶためジャズ界を離れ,1974年にはニューヨークに自分のクラブを開業するなど多才な人で,特にクラブを持って以降は籠もりがちになってしまったため,1990年代に入る頃には,ほとんど知る人ぞ知るピアノ弾きになっていました。そんなオブライエンはまさしく,レザボアのこの録音で息を吹き返したピアノ弾きだったといっても過言ではないでしょう。長い演奏歴が示すとおり彼のピアノは今風ではなく,バップ・ピアノ直球勝負の爽快さが持ち味。この後も続けてトリオ作を出していくことになるサイドの2人と好く協調し,オーソドックスなバップ・ジャズを聴かせています。手癖が多く一本調子なところもあるんですが,この衒いのなさ,今や貴重なものになってしまいました。

★★★★1/2
Thilo Wagner Trio "Just in Time" (Satin Doll Productions : SDP 1011-1)
just in time Georgia on my mind Count's blues so you don't I Bag's groove autumn leaves del sasser I can't get started you don't know what love is

Thilo Wagner (p) Wolfgang Morike (b) Giga Brunner (ds) Klaus Graf (as) Sebastian Studnitzky (tp, flh)
ドイツのピアノ弾きティロ・ワグナーが,1994年に吹き込んだ初リーダー作。ドイツとイタリアを股に掛けて活動している彼は,スコット・ハミルトンやスライド・ハンプトン,クラーク・テリーにチャーリー・アントリーニと,そうそうたる中間派の大物の脇を務めた豊富な実績からもお察しの通り,白人とは思えないほど黒っぽいスタイルが身上。ウィントン・ケリーの右手に,レッド・ガーランドの左手と,オスカー・ピーターソンやジュニア・マンスの持つグルーヴィーなフィーリングを足したようなスタイルで颯爽と弾く。何ぶんにも白人ですので,範としている黒人ピアノ弾きに比べると遙かに清涼感のあるサラっとしたピアノなんですが,随所に光るファンキーなフレーズ,単音ソロから泉の如く湧き出る小粋なフレーズなど心憎いばかり。トリオと2管の2フォーマットによる歌もの集となった本デビュー盤でもその魅力は十全に。脇役で引っ張りだこになっているのも頷けるヴァーサイタルかつ器用な演奏で,若いのに巧くてびっくり。初期キャノンボール似のアルトに,大人しめのナット・アダレイ風ラッパで構成されたフロントも好演。この手のスタイルさえ嫌でなければ一聴に値する快作だと思います。なお,彼はトリオで昨年,ナゲル・ヘイヤーから新譜を出した模様。ご興味がおありの方はぜひ。

★★★★1/4
Gösta Rundqvist "Until We have Haces" (Sittel : SITCD 9212)
time on my hands tenderly past flavors daydream so in love dolphin dance northern lights how deep is the ocean sometime ago stairway to the stars time remembered

Gösta Rundqvist (p) Krister Andersson (ts) Yasuhito Mori (b) Sture Åkerberg (ds)
オーパス3からもリーダー盤が出たスウェーデンのピアノ弾き,ヨスタ・ルンドクヴィストが1994年にぽっかり残したリーダー作。リーダーは1945年にイッゲスンド(Iggesund)で生まれた中堅。もともと本業は事務員さんらしく,演奏活動は仕事の合間にしていた様子。1979年のサンドヴィク・ビッグ・バンドを始め脇役歴が長い割に,リーダーとしての活躍が最近まで見受けられなかったのは二足の草鞋だったからでしょうか。┐筬を加えるセンスはエヴァンス派の流れにあり,実際最近作ではよりリリカルで甘美なピアノを弾きますが,いわゆるエヴァンス派に比べると語り口は地味。ピム・ヤコブスやハンク・ジョーンズなど,より中庸でエレガントなカクテル・ピアノに近いと形容したほうが良いでしょう。当然テクを売りにするタイプではなく,しっとりとデリケートに歌を紡いでいく堅実な演奏が持ち味。ヨラン・ストランドベルイとのカルテット作で知る人ぞ知るクリステル・アンデルソンが部分参加してもペースを乱すことはなく,全編に渡りマイペースで訥々と歌い込んでおり好感を持ちました。「これは凄い!」というところは全くありませんけど,折に触れては取り出したくなる典型的な一枚だと思います。ベースにアンデシュ・ペーション盤の森さん参加。しっとりしたピアノ・トリオ好きの方に。

★★★★1/4
Jon Ballantyne Trio "Known | Unknown" (NY Jam : NYJAM1197)
no blues known unknown I can't get started beatrice old dreams turnaround witchcraft giant steps you don't know what love is

Jon Ballantyne (p) Drew Gress (b) Gene Jackson (ds)
ジャズにおいてスイング感は命だと良く言われますが,その意味を味わうには,こういうトリオを聴くと良いかも知れません。ピアノはいわゆる前衛寄り。モンク風アクセントの入った倍音入りの右手と,初期ポール・ブレイを思わせる虚無僧然とした間の置き方など,まともにリズムへ乗ることを拒否する協調性のないピアノです。しかし,それゆえにこそこの盤は,芯の座った脇役のグルーヴ感がアルバムの核となり,屋台骨を支えている。それは丁度,落書きじみたピカソの絵が,重厚な額縁に納まって厳粛なる美術館の壁に掛かった途端,周囲の落ち着いた雰囲気とのコントラストを借景とし,却って強烈な光りを放つのに似ているでしょう。この手のピアノは時々出てきますが,誰かがピカソや寅次郎を演じるには,やはり周囲に額縁の存在があり,前田吟がいなければならんのだなァ,と思わせずにはおかない一枚。そりゃそうですよね。世の中みんな寅さんだったら,即,日本沈没ですもん(笑)。

★★★★1/2
David Gordon Trio "Dozen a Day" (Zah Zah : ZZCD 9801)
mister Sam solar zimmerfolk blue Pyrenees Carol's garden air looking up wives and lovers how insensitive Czech bounce underground

David Gordon (p) Ole Rasmussen (b) Paul Cavaciuti (ds)
デヴィッド・ゴードン・トリオは1995年にイギリスで結成され,ケンブリッジを拠点に活動中のトリオ。しかし,もともとは各人経歴もバラバラ。デンマーク音楽省と英国ジャズ・サービスの肝煎りにより,2週間の限定でツアーをこなすために臨時結成されたコンボだったんだそうです。ベースのラスムッセンはコペンハーゲン在住のデンマーク人。デンマークといえば泣く子も黙るニールス・ペデルセンの直弟子で,当時はスウェーデンのサックス吹きペーテル・ガリンのバンドに在籍。太鼓もボストンのバークリーを出たばかりで,イギリスとアメリカを行ったり来たりの生活を送っていたとか。本盤は1998年に録音されたデビュー作。急速調にも流れない,淡麗で明晰な運指技巧が印象を残すリーダーは,やっぱりなあ・・のバロック音楽畑出身。「アリア」と,本盤の録音スタジオ名(エアー・スタジオ)を掛けたΔ砲蓮い修鵑淵蝓璽澄爾覆蕕任呂涙落が利いています。ちなみに,このトリオはその後,現在までに第2作『アンディミニッシュト』を発表。そこでは,本盤でも味わえる端正なキース路線にチック・コリア的な軽妙さが加わり,トリオの音楽的な一体感と密度はさらに上昇しました。いいトリオです。今後の進化が楽しみですねえ。

(2003. 10. 11)