1990年代のジャズ vol. 21


★★★★1/2
Paul Bollenback "Soul Grooves" (Challenge : CHR 70064)
too high papa was a rolling stone 'til tomorrow beautiful garden blues for D my girl ain't no mountain high enough from a dream dock of the bay visions

Paul Bollenback (g) Joey DeFrancesco (org) Jeff Tain Watts (ds) Jim Rotundi (tp) Steve Wilson (as) Eric Alexander (ts) Steve Davis (tb) Broto Roy (tbla)
1959年生まれの彼はマイアミ大学音楽科を出たインテリさん。11才の頃に一家がインドのデリーへ移り住んだのを機にインド音楽へ傾倒したり(本盤でタブラが入るのもそのせいでしょう),8年間に渡ってボルチモアの作曲家アシェル・ズロトニクに就いて作曲を学ぶなど,作編曲への造詣はかなりのもの。自作曲でヴァージニア州芸術賞,SESAC賞などを受賞した経験もあります。それだけ多才であり,ジョーイ・デフランセスコの脇で活動するも,リーダー作は3枚のみとかなり遅咲き。自分の芸に厳しい方なんですねえ。本盤は1999年に出た第3作で,そんな彼の美点が良く出た秀作。ジャケットに記載されている参加メンバーの文字の大きさからお分かりの通り,ワン・フォー・オール絡みの管陣営は後ろでオブリガートを添えるだけ。編成は大きいながら,実質はオルガン・トリオ作。標題と編成から,ごてっとした濃いめのジャズを連想しますが,採録された曲をよく見ると,R&Bやモータウン系のソウル・ミュージック尽くし。自慢の作編曲で手垢の付いた楽曲を再生し,青春時代を彩った黒人ポップスへオマージュを捧げようという狙いでしょう。それだけに中身も,ソウル・ジャズを思わせるタイトルの印象とはかなり違う。ヨアヒム・シューネッカーやピーター・バーンスタインのリーダー盤似のこざっぱりと洗練された音で,例えるなら高級料亭で創作ラーメンを食っているような感じと形容すれば宜しいでしょうか(笑)。今風ハード・バップ好きの方に広くお薦めします。良いです。

★★★★3/4
Walt Weiskopf "Anytown" (Criss Cross : CRISS 1169 CD)
anytown Scottish folk song blues in the day Adrienne love for sale king Midas grand delusion breakdown

Walt Weiskopf (ts) Joe Locke (vib) Renee Rosnes (p) Doug Weiss (b) Tony Reedus (ds)
お馴染みワイスコフの5枚目となる1998年作です。彼のテナーはトレーン系だと思いますけれど,この盤でも「オリエンタル・フォーク・ソング」をもじった標題を△忙ってくる辺りから伺える通り,ショーターからの影響がかなり濃い。ゴリゴリした硬めの音色は勿論,オリジナルな作編曲語法の開拓に対する神経の配り方は,間違いなく新主流派を代表する作曲家ショーターを範としている。しかし一方で,彼のテナーには,どこかショーターとは質の異なる野放図な響きもあり,一体それがどこから来るのか,前から不思議に思っていました。本盤はそれを解き明かす上で大きなヒントとなるもの。鉄琴まで入れて貰って,鈍い私にも漸くジョー・ヘンダーソンの名前が出てきました。考えようによってはこのアイドル2人,トレーン・テナー界において見事に一つの金閣銀閣を形成している。正反対と言ってよいほどに吹きっぷりが違い,それでいて,どちらも1960年代を代表する作編曲の名手。実のところワイスコフはこの,タイプの異なるポスト・トレーン2大巨頭の両方に目配りするところから,自分のスタンスを掴もうとしていたんですねえ。参りました。トニー・リーダスの太鼓は少し扁平かなという気もしますけれど,演奏はレベルが高い。『モード・フォー・ジョー』でジョーヘンの高い作編曲センスに惚れたという方であれば,ハッチャーソン効果を狙って鉄琴を挿入した本盤に至ってあからさまにされる,彼のジョーヘンへの憧憬の念を前に,きっとニヤニヤなさることでしょう。

★★★★1/4
Andrew Adair "States" (Fresh Sound : FSNT 061)
prologue moonlight in Vermont I left my heart in San Francisco stars fell on Alabama Carolina in the morning my old Kentucky home, good night meet me in St.Louis, Louis back home again in Indiana when it's sleepytime down south epilogue

Andrew Adair (p, vo) Josh Ginsburg (b) Donald Edwards (ds) Erik Jekabson (tp) Mike Dirubbo (as) John Ellis (ts)
ノースカロライナ州チャペル・ヒル出身のピアノ弾きが1999年に発表した初リーダー作です。妙に州名が多い選曲からして『ステイツ』は州と掛かってるんでしょう。一人不自然に有名なディルボの参加から見て,恐らくハートフォード大の卒業生と思しきリーダーは,ドナルド・ハリソンの秘蔵っ子。ニューオリンズを経由してブルックリンへ進出した人物らしく,フロントの若手二人とは懇意。白人なんですが,コテコテのプレ・モダン・ジャズを揃えた選曲といい,マクリーンの愛弟子ディルボを迎えた顔ぶれといい,ニューオリンズ経由の趣味はやはり黒っぽい。シナトラやクロスビーが銀幕でジャズを歌うのが様になった頃の弾き語りスタイルを2曲で踏襲。一通りモード弾きも学び,今風ハードバップのの洒落た編曲手法は踏まえた上で,ピーターソンやジュニア・マンスを思わせるグルーヴィーな手癖をシダー・ウォルトン系のピアノに散りばめていきます。そんな主役のピアノも好ましく聴きましたが,この盤の拾いものはむしろフロント陣。テナーの彼のように,演奏家としてのマーク・ターナーに被れた人は初めて聴きましたし,ラッパは全くの無名ながら抜けが良く,ブルー・ミッチェルばりに非常に歌心のある巧いソロを取る。ディルボに負けじと頑張った若人2人の名前を新たにインプットしただけでも買う価値はありました。小粒ながら仕立ても良く,隠れた好レコードだと思うんですが,発表から4年も経っているにもかかわらず今だその後の活動が伝わって来ず,詳しい経歴も入手できませんでした。どうしたんでしょう?特にラッパの彼。群を抜いています。このまま埋もれるのは惜しいですねえ。

★★★★1/4
Don Braden "The Voice of the Saxophone" (BMG : 09026-68797-2)
soul station speak no evil winelight after the rain the dust kicker Monk's hat cozy the face I love point of many returns the voice of the saxophone

Don Braden (ts) Vincent Herring (as, fl) Hamiet Bluiett (bs, cbcl) Randy Brecker (tp, flh) Frank Lacy (tb) Darrell Grant, George Colligan (p) Dwayne Burno (b) Cecil Brooks III (ds) Jimmy Delgado (conga) Bill Cosby (cowbell, timbal)
こちらでも再三に渡ってご紹介している【現代版ジミー・ヒース】こと,ドン・ブレイデンが1997年に発表したオクテット作を見つけました。サックス吹きとしては少々生真面目な課長代理止まりとの感も拭えないブレイデンが,それでも今なおニューヨークの中心部で悠々自適なのは,一にも二にもその素晴らしい作編曲の才があるからです。その意味でもこのオクテット作は,彼の持つ非凡な作編曲能力に漸く焦点を当てた願ったり叶ったりの好企画。実際,記憶が確かなら発売当時,ダウンビート誌上で5つ星を獲ったんじゃなかったでしょうか。同じく作編曲が上手いショーターの◆ぅ肇譟璽鵑劉い△燭蠅泙任蓮こГ気鵑砲皀▲譽鵐犬隆粟形を予想可能でしょうが,ハンク・モブレーの,縫哀蹇璽凜 次Ε錺轡鵐肇鵑劉J佞蠅砲覆辰討ると唖然呆然。こんな素材を自在にリハモし,アルバムに溶け込ませて違和感を与えない作編曲の上手さには,どなたも驚嘆するでしょう。相変わらずテナーのソロは実直で羽目を外しきれず,アルバムの意匠ほどには面白くないんですけど,ビッグ・バンド作なんですから堅いことは言いっこなし。後半を中心にオリジナルの才能も十全に出てますし,充分もとは獲れる一枚じゃないでしょうか。ちなみに,掉尾を飾ったタイトル曲。誰の曲かお分かりですか?そうです。ジミー・ヒース!やっぱり彼自身も,自覚ありだったんですなァ・・。

★★★★★
Walter Norris Duo "Hues of Blues" (Concord : CCD-4671)
fontessa serenata hues of blues I want to be happy I can't get started backbone mode have you met Miss Jones the spider web orchids in green afterthoughts

Walter Norris (p) George Mraz (b)
ウォルター・ノリスは,1931年12月27日,アーカンソー州リトルロック出身。4才から18才まで,みっちりクラシックを学んだ本格派であり,1944年のプロ入り当時,まだ中学生だったというから凄い。1950年に高校を出てライセンスを手にすると,すぐモーズ・アリソンに引き抜かれたくらい腕利きでした。1953年にはトリオを結成。以降ロスを拠点に数多くの録音での脇を固めて名を上げます。初リーダー作は1961年に発表しましたが,この人の本領が発揮されたのは1970年代以降。精巧な楽理に立脚したポリ・モード奏法を,仰々しいまでのシンコペーションと,ときに倍々テンポにまで加速する,目が点になるほどの豪腕技巧で,全く淀みなく弾き仰せるスタイルを完成させました。こんなスタイルで普通のジャズメンと仲良くやるのは殆ど無理。自分がどう怪気炎を上げても,確実に足下を支えられる技量の持ち主にしか脇を任せられない。そのため,リーダー作の大半がベースとの二重奏。ジョージ・ムラーツ(サド=メル楽団の楽友。チェコ出身で,ウィーン国際ジャズ・コンクール準優勝)とアラダー・ペゲ(ハンガリー出身でリスト音楽院教授)くらいしか認めない,恐るべき完璧主義者に老成しました。本盤は1995年のもので,朋友ムラーツとの二重奏。冒頭から仰々しいシンコペーションで芝居っ気たっぷりに高速回転する指。甘すぎるほどおセンチな叙情の飴を吊し,次の瞬間には強面のポリ・モード奏法で鞭をくれながら,冗長さを許さぬプレイに唖然呆然。高踏的な即興には抵抗を感じる方もいるかも知れませんが,余人を挟まぬ腕利き2人の対話は息苦しいほどに濃密。一度は聴く価値が充分にあることでしょう。

★★★★1/4
Mark Isaacs "For Sure" (ABC Music : 518 397-2)
for sure never too far away giant steps Las vegas tango a night in Tunisia heyoke lucky southern

Mark Isaacs (p) Adam Armstrong (b) Andrew Gander (ds)
リーダーは英ロンドン生まれ。イラク系ユダヤ人の父は,かつてステファン・グラッペリの脇で勇名を馳せた弦楽器奏者,アイク・アイザックス。彼が4歳のとき一家は豪州に渡りますが,父は彼が5歳のときからピアノを教えて絶対音感を習得させ,毎晩愛息の枕元で有名曲のコードを弾いては,メロディを考えさせたんだとか。ジャズ界における教育パパでしょうか(笑)。そんな彼だけにクラシックの鍛錬もかなりのもの。シドニーの音楽大学で作編曲や奏法を学んだのち,クラシックの作編曲家としても活動。豪州室内管,シドニー弦楽四重奏団,アデレード響から委託を受けるほか,シドニー歌劇場の指揮者も務め,1994年にはサンクトペテルブルク州立管との共演で,自らのピアノ協奏曲を初演した経験も。ジャズ畑でも,デイヴ・ホランド,ロイ・ヘインズと組んだトリオ作を始め,ナクソスからもジェイ・アンダーソン,アダム・ナスバウムと組んでトリオ作を発表。ケニー・ホイーラーと組んだカルテット録音もある模様です。本盤は,そんな彼が1986年に地元の仲間と組んだトリオによる,1993年作。前にご紹介したブラウン・ヘイウッド&スティーブンス盤でも一噛んでいた豪州国営放送芸術プログラムのジム・マクレオード氏がまたしても黒幕。主役は△妊瓮札法次きい妊ル・エヴァンス,Δ妊曠ぁ璽蕁爾鮑里蠅△欧觜ゼ駝が示す通り,ビル・エヴァンスの叙情性でなめされた線の細いチック・コリア。くだんのBH&Sと同様,やはり脇役は粗めで,バタつく太鼓は気になりますが,目配りの行き届いた仕立てに趣味の良さが滲みます。好トリオ作。

★★★★
John Coates Jr. Trio "The Trio Session" (Pacific St : PSR 0013)
Freddie freeloader priorities tangerine for someone Laura the only one after you've gone tune No.11

John Coates Jr.(p) Paul Langosch (b) Mike Smith (ds)
1950年代半ば,17才の若さでハンク・ジョーンズと肩を並べてサヴォイへ処女作も吹き込んでいる大ベテラン,ジョン・コ−ツJr.は,1938年2月17日ニュージャージー州トレントン生まれ。ジャズ奏者の父を通じて早くからジャズに触れ,ルドガース音楽院を出た俊才。にも拘わらず寡欲なためか音楽を生業にすることはなく,活動の実体は,ペンシルバニア州デラウエアで楽譜出版社に勤務する傍ら,週末に地元のクラブ『ディア・ヘッド・イン』で行うライブだけという慎ましやかなものです。幸運にも彼の演奏は,オムニサウンドという弱小レーベルの手で1970年代を通じて出され,この隠れた才能を知らしめるのに大きな役割を果たしました。しかし,彼の名前が一躍知られることになったのは,あのキース・ジャレットがまだ高校生だった1962年頃,コーツのピアノを聴きにディア・ヘッドへ通っていたから。それは,キースが最近発表したアルバムの中に,なぜか『ライブ・アット・ディア・ヘッド』というやや場違いな企画があることからも伺える通り。確かに,両手をフルに使い,田園詩調の自作曲を独奏で弾くコーツのピアノは,特に「マイ・ソング」に覗く牧歌的のあどけないキースと驚くほど似ています。この作品は1996年のもので,ずっと体調が優れなかったコーツが,久々に復帰したカムバック作。60代半ばとは思えない達者な運指に吃驚。珍しいトリオ録音とは言っても異様にカデンツァが多く,両手弾きのコーツらしい能弁な左手が描き出す牧歌的な叙情は充分に。トリオではキース臭はむしろ控えめで,トミフラっぽいというのは面白いですが,演奏自体は丁寧にされており,出来はなかなか良いのではないでしょうか。

★★★★1/4
George Gazone "Moodiology" (NYC Music : NYC 6031-2)
moodiology: prologue hey, open up farewell to Athens summertime simple Naima the minor Mingus I'll remember April soul eyes plaka moodiology: epilogue

George Gazone (ts, ss) Kenny Werner (p) John Lockwood (b) Bob Gullotti (ds) Claire Daly (bs) Douglas Yates (as, bcl) Mike Mainieri (vib)
ボストン・ジャズの影の帝王として一頃話題になったガゾーンは,本業が教育者。売り込みには熱心でなく,演奏家としては長く表に出なかったため,名前を知られるようになったのはここ数年。本NYCから,ボストン・ジャズ界の頭目ロヴァーノ一派と共演したリーダー盤を含め,数枚の録音を出してからのことです。尤もそれも散発的で,このため折角一時日本でも芽が出かけていながら,人気は尻窄みで終わってしまいました。トレーン好きだけにスタイルとしてはマイケル・ブレッカーに似ているでしょうか。しかし,あくまで都会的でドライな姿勢を崩さないブレッカーとは対照的に,ロヴァーノやファラオ・サンダース風味を加え,やざくれた音色を武器に格好を崩すガゾーンのスタイルは良くも悪くも二枚目半。その辺も今ひとつ人気が芳しくない理由かも知れません。本盤は数少ない当時の録音の一つ。やはりロヴァーノ一派の急先鋒ケニー・ワーナーが,同じくボストンの重鎮ジョン・ロックウッドとバックを担当。中身は,この屈強なリズム隊の効果がいかんなく発揮された(ビレッジ・バンガード時代の)トレーン趣味今風モード・ジャズです。特に即物的なリフからそのまま調性感希薄なアドリブへなだれ込む△筬┐魯好螢詼載。洒落た楽曲のスポーツカーを駆り,流し目でファンを籠絡する伊達男ブレッカーと違って,プレーヤー志向な彼は楽曲も色目を使わず,モチーフを崩して憚らない。かなり崩してゴリゴリ吹いたモード・ジャズなので,一般受けはしないかも知れません。しかし,演奏はいつになく乗れていて,正直,初めてこの人の真価を聴いた気がしました。ちなみにこの盤では,ディヴ・リーブマンみたいに奔放なソプラノも吹いてます。

★★★★3/4
Mads Bærentzen Trio "StandArt" (Music Mecca : CD 2091-2)
straight, no chaser it don't mean a thing the old country the way you look tonight mo' better blues someday my prince will come solar lover man
Mads Bærentzen (p) Morten Ramsbøl (b) Kristian Leth (ds)
リーダーは1974年アルフス(Arhus)生まれのデンマーク人。元は鈴木メトードで学んだヴァイオリン弾きだったそうで,のちにピアノへ転向。イースク音楽院(Jyske Musikkonservatorium)でラーシュ・ヤンソンに師事して研鑽を積みました。イェスパー・ティロも在籍したクリュヴェルス・ビッグ・バンドの一員として活動したのち,1999年暮れには武者修行を兼ねて渡米。ニュー・ヨークでケニー・ワーナーにも師事。その当時,デンマークでエリック・アレキサンダーと四つに組んだ音源がCD化され,一部で話題になったこともありました。本盤は,彼が1997年に結成したトリオによる1999年盤。ご覧の通り,僅か8曲な上にミーハーこの上ない選曲。最悪のパターンを予想なさる方も多いでしょうが,そんな皆さんにはこの上なく快い裏切りが待っていることを保証致します。ピアノはアーマッド・ジャマールさながらに音数を削り込んだ上で,欧州勢ならではの磨かれたタッチを利し端正に弾く。襟の整った透明感あるタッチが実に好ましい。ウィントン・ケリー流儀のスイング・スタイルを身上としつつもモーダルにリハーモナイズされた曲解釈は,ワーナー的な鞭が程良く利いている。サイドメンも小粒ながらタイトでシュア。大スタンダードものでは近年稀な仕上がりの良さです。

★★★★1/4
Prysm "Second Rhythm" (Blue Note : 7 24349 35652 8)
the way the stone cutter temps dense come's peace extension suspended time false roots hope secret world tao of Chloe upside down Eliot

Pierre de Bethmann (p) Christophe Wallemme (b) Benjamin Henocq (ds)
プリズムは1994年に3人対等のユニットとして結成されたフランスのトリオ。対等だけに,最初からスタンダードなど眼中になく,全てのレパートリーを自作。怖ろしく緊密に編み上げたメカニカルな楽曲を,高度な即興性を損なうことなく明晰に弾き仰せる爽快な演奏は近未来的なエクスタシーに満ちたもので,4枚のアルバムが全てブルーノート録音という破格の待遇なのも頷ける高密度のユニット表現が身上でした。一時はあのジョン・テイラーと双頭で,小沢征爾率いるフランス国立管弦楽団とリサイタルを敢行するという武勇伝まで作り,4枚目に至って日本でも人気に火が点きました。この盤は彼らが1997年に発表した第2作。楽曲の出来はむしろ第3作より良いくらいで,実際第4作のライヴ盤にして,蓋しここ10年の欧州ジャズ作品でも屈指の大名盤『オン・ツアー』でも,本盤から選ばれた曲の方が多い。スタジオ盤で一枚なら,こちらが良いのではないでしょうか。ただなあ,難しいものだとつくづく思うんですが,やっぱり作編曲などの意匠と即興の熱気とのバランスは,ジャズ永遠のテーマ。皮肉にもそれを再確認させてくれるのもこのグループなんですよ。楽曲は素晴らしいんですけど,どうもスタジオに入ると作り込みが先行し過ぎ,盛り上がる前に時間切れの感が拭えない(実際,スロー・バラッドの方が演奏も良い)。好意的に聴けば,スヴェンソン・トリオやフィリップ・ヴィレのトリオがそれぞれに目指している対等なトリオの形を示すものとも言える反面,やっぱり即興の面白みがそのぶん目減りしてしまい,単なるアレンジ偏重に陥ってしまうのは皮肉というか何というか。ちなみに,このプリズム,ベトマンさんによると,2001年で活動を停止しちゃったんだそうです。やっぱり偶然の要素も多分に絡んで生まれた,ほぼ理想型の『オン・ツアー』で行くところまで行っちゃいましたかねえ。日本ではむしろこれから注目されるであろうユニットでしたのに。残念です。

(2004. 2. 15)