1990年代のジャズ ピアノ編(2)



★★★★1/4
Hod O'BRIEN "So That's How It is (Reservoir: RSR CD 155)
exodus meet Benny Bailey so that’s how it is ultramarine cheek to cheek where or when will you still be mine little Ronnie’s here ask me now forecast
Hod O'BRIEN (piano) Ray DRUMMOND (bass) Kenny WASHINGTON (drums)

バリー・ハリスを思わせる,メロディックなバップ・ピアノを弾くホッド・オブライエンのレザボア盤第2作。お顔立ちからご推察の通りこの方は活動歴が長く,チェット・ベイカーが欧州詣でをした際にもサイドメンを務めていたことで,古くからのジャズ・ファンにもお馴染みのピアノ弾きですが,ごく最近まで彼の名前は,かつて共演したチェット・ベイカー盤で僅かに知られていた程度。そんなピアニストを見出し,彼の再評価に繋がる作品を2つも録音したレザボアの見識眼に,唸らざるを得ません。棹尾のでこそフレーズが単調になるものの,全編通して適度にメロディック,適度にバピッシュなバップ演奏が堪能できます。レザボアには数枚トリオがあり,これが気に入った方なら,他も気に入るのでは。

★★★★1/4
Göran STRANDBERG Trio "Gentle Stream" (Dragon: DRCD 322)    
Danny’s return vid frösö kyrka king porter stomp gentle stream ol’ man river old devil moon little wind lover man nostalgia in times square sevenating rhythm sologa
Göran STRANDBERG (piano) Hans BACKENROTH (bass) Bengt STARK (drums) Rafael SIDA (percussion)

スウェーデンの中堅,ヨラン・ストランドベルイのレギュラー・トリオ録音。活動歴は1970年ごろからと長く,そのためでしょうか,昨今の若手ピアニストのような流麗さは望むべくもありません。しかし,その代わりにあるのが,徹頭徹尾の武骨なピアノ・タッチ。単音主体で訥々と苦みばしったフレーズを吐露する演奏は,俳優で言えばちょうど高倉健。この盤はさらにサイドメンが良い。特にベースのハンス・バッケンロスは強力。これほど芯の座った骨太のベース,滅多なことでは聴けません。耳触りの良いペラペラしたジャズが北欧ものだと思っておられる方にはぜひご静聴いただきたい,硬派なトリオ盤です。

★★★★1/4
Vigleik STORAAS Trio "Andre Vilder" (Curling Legs: CLP CD 35)     
Monk’s stream mot at senket kramm filling up awaiting B the dream alt pluss elleve waltz kart
Vigleik STORAAS (piano) Johannes EICK (bass) Per Oddvar JOHANSEN (drums)

ジャケットを見ましても,どこか影の薄さが感じられますが,この盤は地味です。演奏はいわゆるキース〜北欧系ですが,ピアニストが馬力のあるタイプではないからでしょうか,演奏から感じる色合いは淡いモノトーン。影の薄い朴訥としたキース弾きで訥々と展開されており,派手なところは微塵もないトリオです。しかし,地味とはいえこの盤の魅力はその作りの丁寧さ。北欧ジャズらしいリリカルな楽曲も,単音主体で訥々と歌う演奏も,丹念に推敲されている。消費者は,貧しい懐をはたいて一枚を手にするわけです。名盤を狙った博打より,確実に良いものを作ろうというこうした地道な姿勢がもっと評価されて欲しいもの。小生は未聴ですが,この人にはピアノ・ソロの録音もあります。

★★★★1/4
Jacob KARLZON Trio "Going Places" (Prophone: PCD 041)     
how innocent we are epepe restless flowers from the sky force majeure clouds in the east notown hang-outs season of the heart elsewhere came home dead man walking
Jacob KARLZON (piano: organ) Mattias SVENSSON (bass) Peter DANEMO (drums)

スウェーデンの若手ピアニスト,ヤコブ・カールゾンの,レギュラー・トリオによる第2作。メンバーいずれも技量闊達。ドラゴン盤の第1作も秀逸な内容ですが,この第2作ではさらに緊密度を増したトリオの連携を堪能できます。スタイルは,俗にいう「隙間系」,分かりやすく言えば,音数の少ないキース・ジャレットでしょうか。その一方,オルガンを巧みに使い,ファンクのリズムを取りこんでみたり,効果音を挿入したりと,オルタネイティヴ志向もちらほら。それでいてアドリブ自体は奇を衒わず,流行に流されはしない。この辺りのバランス感覚は,同じスウェーデンのラーシュ・ヤンソンやエスビョルン・スヴェンソンと同じベクトルに位置しており,アルバムを「作る」姿勢をより前面に出した,現代欧州ジャズにおけるひとつの典型を形作るものといえそうです。

★★★★★
Eugene MASLOV "Autumn in New England" (Brownstone: BRCD 943)    
old folks all of you my bells I love you how deep is the ocean autumn in New England let’s start smoking again windows blame it on my youth tetrasodium pyrophosphate 他全11曲
Eugene MASLOV (piano) Ben STREET (bass) George SCHULLER (drums)

旧ソ連出身で,現在はマサチューセッツ州で活動しているユージン・マスロフのアメリカ・デビュー作。すでに発売から10年以上が経っていますが,いまだに細々と売れつづけている,隠れた名盤のひとつです。エヴァンス派を消化したガラス細工のようにデリケートなピアノが彼の持ち味。このリーダー作はアメリカ移住直後で外連味なく,彼の繊細な感性が演奏の隅々に溢れた秀作です。1992年に本盤を出してからパッタリ消えてしまった彼でしたが,その後漸く脚光を浴びるようになり,リーダー作も複数発表。ただ,アメリカ暮らしが長くなったせいか路線は少し変わってしまい,チック・コリア風のパラパラしたピアノを弾くようになりました。それがまた一層,畢生の一枚として本作品の価値を不動のものにしています。サイドメンはいずれもボストン界隈の芸達者。ドラムの名前,見たことがありませんか?そう。ガンサー・シュラーの息子さんです(笑)。

★★★★★
Trio Concepts "Volume 3" (YVP: 3062 CD)     
walk easy zeralda’s waltz clearwater mountain someday detour ahead blues for zeralda the snooper Miss May extension 341 conviva pettirosso tous les deux
Klaus WAGENLEITER (piano) Thomas STABENOW (bass) Harald RUCHENBAUM (drums)

ドイツで活動中のピアニスト,クラウス・ワーゲンライターがリーダーを務める,トリオ・コンセプツのYVP第3作。のっけから断言いたしますが,これは良いです。全体に短い曲が多いのですが,これが却って成功。少ないコーラスの中に美味しさのエッセンスを凝縮しようと,全員一丸となっての熱演。スウェーデンの高倉健ヨラン・ストランドベルイと同様,リーダーは中堅らしい,単音主体の武骨なピアノが持ち味。どっしり腰の据わった重量感溢れるウォーキング・ベースとががっぷり四つに組んで,グルーヴィーな音を出してます。渋いです。カッチョエエです。謳ってます。歴史に残る名盤と敢えて断言。ちなみに,リーダーはメンバーを変えてこの後,『スウィート・チョイス』という新作を出しました。こちらは本盤よりくだけた歌い回しでスポンティニアスな印象なのですが,緊密度において本盤には及びませんし,同じ曲の再演が多いので,まずはこちらからお聴きになってください。

★★★★1/2
Dave PECK Trio "Dave Peck Trio" (Let's Play Stella: LPS 9801) 
how deep is the ocean I wish I knew stairway to the stars young and foolish detour ahead the inch worm yesterdays
Dave PECK (piano) Chuck DEARDORF (bass) Dean HODGES (drums)

ワシントン州シアトルで活動中のピアニスト,デイヴ・ペックは,1985年からバド・シャンクの脇役を務めて名を上げた人物。地元シアトルのコーニッシュ音大で助教授職に就く傍ら,地元でのんびりと演奏活動をなさっているようです。本盤は彼が自己のトリオを結成して吹き込んだ初リーダー作品で,1998年に出ました。作品クレジットを見る限り,レーベル自体も親族経営に近く,ほとんど自主製作同然のCDのようなんですが,内容は信じられないほど素晴らしい。決して技巧肌ではないぶん,この人のピアノはひたすらに趣味が良い。キースからエヴァンス直系の抒情的なタッチを利して,淡々訥々と馴染みのバラードを弾いていく。一見何の変哲もないようでいて,この上なく安定感のあるそのピアノは,極めて玄人好みの「巧い」ピアノの典型。実際この初リーダー作は,地元誌から年間最優秀録音盤に選定されることになりました。その後,彼は現在(2004年)までの間にソロで一枚,トリオで2枚を録音。現在もシアトルを拠点にマイペースの活動を続けています。(2004. 6. 21補筆)

★★★★1/4
Christian von der GOLTZ Trio "Sophie Said" (Mons: MR 874-828) 
waltz for Lillie wiegenlied ah Henry sisyphos vanish into song ohrwurm Sophie said stardust strayhornish Thad’s pad prayer (frozen time)
Christian von der GOLTZ (piano) Stefan WEEKE (bass) Michael GRIENER (drums)

ドイツはハノーヴァーで活動中のピアノ弾き,クリスチャン・フォン・ダー・ゴルツのリーダー作。日本ではほとんど無名に近いように思われますが,彼は非常に才能豊かなピアニストです。ケニー・バロンやシダー・ウォルトンあたりを消化したと思しき,メロディックでモーダルなピアノがこの人の身上で,そちらもかなり達者なのですが,わけても作曲能力がすばらしい。,筬ァきГ覆鼻ぞ品ながら巧みな変調で飽きさせない曲の構成に唸らされます。サイドメンも技量確かでグループとしてもまとまっていますし,レベルは高いと思うんだけどなあ。その後音沙汰なし。そろそろ新作を聴きたいものです。

★★★★1/2
Harry PICKENS "Live at the Stem Concert Hall vol.1" (Double-Time: DTRCD 133)
blackberry winter blues un poco loco merancholy baby I’ve grown accustomed to her face maiden voyage giant steps body and soul what is this thing called love 他全11曲
Harry PICKENS (piano)

ハリー・ピケンズはもともと,Out of the Blueというグループの初代ピアニストだった人物で,1980年代の前半には,ニューヨークの第一線でバリバリの活躍をしていました。桧舞台にはいつの時代もぎすぎすした欲望が渦巻いているもの。商業主義に満ちた競争社会では心から演奏する歓びを感じられないと,彼は悟ったのかも知れません。ほどなく彼はニューヨークを去り,故郷のインディアナ州へと戻って10年。優しく流れる歳月が,人知れずいつしか彼をいち若手ピアニストから,誰よりも一音の重みを知る孤高のピアノ詩人へと変えていました。ぽつり,ぽつりと紡がれる,推敲された一音の厳かな響き。磨かれた繊細なタッチの美しさに耳を奪われる。ピアノって,本当はこんなに音の綺麗な楽器だったのだ。改めて痛感する一枚です。なお,彼はその後兄弟盤『パッショネイト・バラッズ』を出しました。こちらは本盤と違い全面バラードで,より聴きやすくなりましたが,少々客の咳払いが煩いのと,ほんの僅かピケンズのピアノに欲が感じられるようになったのが惜しい。彼の浮世離れした高雅な演奏の真骨頂は,ぜひこの一枚で。

★★★★3/4
Co JAZZ Plus "Volume 2" (TCB: 97302)     
days of wine and roses the songman my funny valentine waltz for Eric estate butt sketches 1989, part 1 sunshower
Andy SCHERRER (piano) Stephan KURMANN (bass) Peter SCHMIDLIN (drums) Willy KOTOUN (perc)

スイス・ジャズ界のベテラン3銃士が集まって結成された「コ・ジャズ」の2作目。ピアノは本来サックス吹きだというのですが,これがピアノに座ると実に外連味のない,W.ケリー風のスインギーな演奏をする人。気も衒いもないご機嫌なバップ・ピアノで,余芸とは思えない巧さです。ところで,“Volume 2”というからには,当然1もあるわけです。前作が出たのは1990年でしたので,何と7年目の新作。これほど長くに渡って録音がなかったのは,一つにはメンバーが皆超多忙な一流セッション・マンだからでしょうが,もう一つの理由は,ベースを弾いていたエリック・ピーターがその後他界したから。い賄傾颪糧爐冒るメンバーからの鎮魂の調べです。

(2002. 7. 2 text revised)