1990年代のジャズΑ〜竿


★★★★1/2
One for ALL "Optimism" (Sharp Nine: CD 1010- 2)     
optimism stranger in Moscow straight up all for one pearl’s spring can really hang you up the most what kind of fool am I ? the prevaricator these foolish things
Eric ALEXANDER (tenor sax) Jim ROTONDI (trumpet) Steve DAVIS (trombone) David HAZELTINE (piano) Peter WASHINGTON (bass) Joe FARNSWORTH (drums)

エリック・アレキサンダーら若手ジャズメンのオールスター・グループ,ワン・フォー・オールのシャープ・ナイン第2作。音楽教育が行き届いたからか,最近のジャズメンは猫も杓子も技巧闊達。凝った編曲でも難なくロジカルなフレーズを繰り出すようになりましたし,作編曲も実に上手くなりました。ただ,その一方で,却って音楽的教養が増したことにより,ハード・バップが持っていた垢抜けない大らかさや八方破れな勢いが,どこか失速してしまった気も致します。その点このグループのハード・バップは極めて中庸。そのせいかプレイの方も丁々発止。モード手法の隠し味は利かせつつ,聴き手を選ばない間口の広い作品となっていると思います。作編曲も非常にまとまった本盤は目下代表作ともいうべき一枚。

★★★★★
Peter BERNSTEIN Quintet "Brain Dance" (Criss Cross: 1130 CD)    
brain dance chant means and ends dual nature while we’re young you leave me breathless lady bug danger zone
Peter BERNSTEIN (guiter) Eric ALEXANDER (tenor sax) Steve DAVIS (trombone) Larry GOLDINGS (organ) Billy DRUMMOND (drums)

クリス・クロスお抱えギタリストとしてリーダーやサイドメンの活躍も多い,歌心溢れる穏健なギタリスト,ピーター・バーンスタインが1996年に出したクインテット録音。脇を固めるそうそうたる顔触れの中でも,オルガンのゴールディングスとはこの後,数枚の共演をするほど息の合う間柄。あまりオルガンのジャズを聴かなかった小生も,これを聴いてオルガンでこれだけ恰好いいことがやれるのだと驚きましたよ。ラリー・ゴールディングスの,ラリー・ヤングばりのバカテク・オルガンが炸裂し,テナー,ギターが触発されてクールに燃える。ご存じアレキサンダー以下豪華メンバーによるメインストリーム・ジャズ裏名盤。

★★★★★
Edouard Ferlet Quintet "Escale"(Quoi de Neuf Docteur: DOC 041)    
radiateur 2 II pop radiateur 1 escale Elliott chicken byriani et chicken korma sweet poison clematite choice
quand les codes se creent S.A.S. carotte rapee

Edouard FERLET (piano) Simon Spang- HANSSEN (saxophones) Claus STOTTER (trumpet) Gary BRUNTON (bass) Gregor HILBE (drums) Mark MURPHY (vocal, on 7) Laurent THION (sax : bass- clarinet, on 5.9)

澤野商会から出たベーシストのリーダー盤でも鮮烈なピアノを披露したフランスのピアニスト,エドゥアール・フェルレ率いる5重奏団による1996年作品。無名揃いのメンバーながら,内容は凄い。リーダーは急速調にも乱れない運指技巧闊達。相当クラシックの修練を積んだものと思います。音楽的教養の高さはその緻密な作編曲からも明白。バップ・ジャズのサウンド・コラージュ技法と,ポリ・トーナルなアプローチから前衛ジャズに接近する編曲・変奏手法は,フリーの名の下に音楽そのものを解体し尽くしてしまった前衛ジャズに拮抗し,より理知的に独自の前衛ジャズを探求したかつての黒人先鋭ジャズ・グループやミュージシャン,例えばニューヨーク・コンテンポラリー・ファイヴやスタンリー・カウエルらの諸作品に溢れる音楽的主張を彷彿とさせるところがあります。それでいて,まるで前衛ものを聴かされているという息苦しさを感じさせないロジカルで緻密な作編曲は圧巻。これからジャズを聴こうという人には,ちょっとお薦めし難い内容ではありますが,現代にも脈々と呼吸し続ける,音楽的自由への渇望が漲る野心作として,一聴の価値ありです。

★★★★★
Jon Gordon "Currents"(Double- Time: DTRCD 136)   
event by comecar de novo the spins intention currents twilight soul Ed’s groove three springs shape up alignment
Jon GORDON (alto sax) Ben MONDER (guitar) Edward SIMON (piano) Larry GRENADIER (bass) Bill STEWART (drums) Adam CRUZ (percussion)

ジョン・ゴードンはクリス・クロスから何枚も佳作を出しており,知っている人は知っているアルト吹き。断片化された幾何的なリフを,主旋律とポリ・モーダルに絡み合うハーモニーでコラージュしつつ,その掛け合いの中から浮かび上がる全体の流れに沿って,複雑に曲を構成していくという手法は,新手のバップ・ジャズのようでもあり,ニュー・イングランド音楽院絡み(ロヴァーノやケニー・ワーナーら)の流れの下にある知的な音作りといえましょう。リーダー自身の音色やフレーズの組み立て方などは,ヨーロッパ時代のフィル・ウッズをかなり意識しているようです。クリス・クロスの諸作ではまだ自己の音楽性が未成熟で,「面白い事やろうとしているな」程度だった彼ですが,ここに来てとうとう大爆発。これまで撒いた種が一気に花開いて,素晴らしい作品になりました。特にサイドメンの活躍が目覚ましい。エド・サイモンの硬質のタッチ,ベン・モンデールのクールなギターも絶妙なワンポイントとなり,さらに作品の品位を増しております。傑作です。

★★★★1/4
Thomas Fryland "Perfume and Rain"(Music Partner: MPCD 4529- 2)    
too marvellous for words she’s funny that way our delight beautiful moons ago cherokee flossie Lou perfume and rain daybreak lotus blossom out of nowhere you must believe in spring tea for two bourbon street parade humpty dumpty heart
Thomas FRYLAND (trumpet) Jacob FISCHER (guitar) Jesper LUNDGAARD (bass) Svend Erik NORREGAARD (drums)

リーダーは1961年生まれのデンマークの中堅。7才でラッパを吹き始め,1990年にオランダのハーグ音楽院に進学。フランス・エルセン,アック・ヴァン・ローエン,バリー・ハリスらに師事しました。1992年の卒業後,2006年までに11枚と,コンスタントにリーダー盤を積みあげています。ジャケットを見ると,まるでチェット・ベイカー(の若い頃)のようですが,果たしてこの人はケニー・ドーハムやアート・ファーマーあたりのように,中低域も大事にするメロディックなラッパ吹きです。既に数枚のリーダー作がありますが,この盤の出来は分けても上質。若干ハスキーなトーンで,線も細く決してダイナミックではありませんが,歌心は万点。澱みないフレーズが次々と出てきて溜飲を下げます。珍しいギター・トリオの伴奏が,このデリカシー溢れるソロに合うこと,合うこと。

★★★★1/2
Eddie Higgins "Zoot Hymns" (Sunnyside: SSC 1064 D)    
the red door in your own sweet way Zoot’s hymns Gabriela / Marina come rain or come shine waltz for Allison image hi fly 'tis autumn the red blouse when your lover has gone
Eddie HIGGINS (piano) John DOUGHTEN (tenor sax) Phil FLANIGAN (bass) Danny BURGER (drums)

ピアニストには,絶頂期に全ての魅力が頂点を極めてしまう人と,年齢と共に表現が熟成され,深みを増して行く人とがいるように思いますが,こののち日本レーベルに請われ,小山のように録音を残すことになったエディ・ヒギンズは典型的な後者でしょう。初期録音では現在より遙かに達者な反面,さして耳に残らない小器用なピアニストでしたが,1990年に入ってからの彼は,年毎に表現の円熟味が増していきます。テナー吹きズート・シムズへの賛美を高らかに謳った本盤は,その嚆矢をなす一枚。スインギーでノリノリな頃の彼と,現在の円熟味溢れる演奏とが相半ばしたこの頃のヒギンズの演奏は小気味よく,サックスのジョン・ドーテンは無名ながら,晩年のズートにそっくりの音色とスタイルで快調なフレージングを聴かせます。

★★★★1/2
Mathias Landæus Quartet "Bläbete"(Amigo: AMCD 876)    
farmors vaggvisa flux trust lunar blabete till Samuel bikini time brief prayer for the Stratosphere
Mathias LANDÆUS (piano) Karl- Martin ALMQVIST (tenor sax) Sebastian VOEGLER (bass) Dave MILLER (drums)

リーダーは1969年スウェーデン出身ながら,1992年にニューヨークへ渡り,1995年までマンハッタンのマンヌ音楽大学(ニュー・スクール音大と同系列)で学びました。前の二名がスウェーデン人なのに,後ろの二名がアメリカンなのはこの経歴のためだったわけです。在学中に意気投合して四重奏団を結成。本盤でデビューを果たしました。お世辞にも技巧派とはいえないんですけど,それを逆手に取った少ない音数で勝負する「隙間系」の演奏が彼らの身上。デンマークの土俗民謡の主旋律と,淡泊なエヴァンス〜北欧和声を,必要最小限の音符で並べていき,静かに琴線に触れてきます。テナーはヤン・ラングレンの共演から名を上げた人物で,ゆらゆらと力の抜けたクールな演奏が持ち味。寡黙な語り口のピアノと上手く噛み合っている。リーダーの作曲能力が高く,北欧民謡を思わせる素朴な旋律を持った曲が並び,単なる欧州ジャズに留まらないポエティックな雰囲気のある作品といえましょう。主役以下の音数を減らした演奏も相俟って室内楽にも似た幽玄の美が全編に溢れます。

★★★★★
Jazz Unit "Jazz Unit"(Pama: PACD 97061)  
ett ogonblick quiet girl mush lover man you and the night and the music epistophry in the wee small hours of the morning too marvelous for words
Steven SNYDER (piano) Ola BJERDING (bass) Andrew EBERHARD (drums) Jesper THILO (tenor sax, on 6.7.8) Randy BRECKER (trumpet, on 4.5)

北欧といえば,以前は猫も杓子もECMという印象がありましたが,最近は北欧ものでも,バラエティ豊かな演奏が楽しめるようになりました。欧米混合ユニットの本盤は,それを地で行く好作品です。ベースが北欧人で,ピアノがアメリカ人なのですが,面白いことに演奏から受ける印象は逆。ピアノはヤン・ラングレンに良く似たタイプで,知性溢れるハード・バップ・ピアノ。これはゲストの二人も同じで,テナーの欧州勢イェスパー・ティロのほうがグリフィン臭丸出し。余程黒くて驚きました。前半にトリオのオリジナル,後半にカルテットによるスタンダードを持ってきますが,前半からはクールな北欧の,後半からはホットなアメリカ寄りのジャズが聞こえてきます。

★★★★1/2
John McKenna "Apparition" (IGMOD: IGM 49902)
elusive waltz for Elise table scraps santorini apparition orange afternoon passage roses of Picardy
John McKENNA (tenor sax) Ron HORTON (trumpet, flugelhorn) Anton DENNER (alto sax, flute) Bill CARROTHERS (piano) Doug WEISS (bass) Hugh SICOTTE (drums) Guilherme FRANCO (percussion)

最近流行の「脱力系」テナーマンの1人,ジョン・マッケンナのリーダー作です。リーダーはウイリアム・パターソン音大を出てラリー・ゴールディングス,ジョー・ロヴァーノの脇を務めた御仁。とはいえ,リッチー・バイラーク臭漂う前衛エヴァンス奏者として一部に名前を知られているピアノのビル・キャロザーズ以外は,リーダーともどもほぼ無名揃い。そんな顔触れに触手も引っ込みがちになるでしょうが,中身は無名なのが嘘のように良い。新主流派系の諸作品,ブルーノート期のウェイン・ショーターとハービー・ハンコックの作風を足して2で割ったような,クールで知的な魅力に満ちた作品です。その系統の作品がお好みの方なら,間違いなく愛聴盤になります。「脱力系テナー」のリーダーは,ジョー・ヘンダーソン風の吹き抜けで,リッチ・ペリー風の音色,と思っていただければ宜しいでしょう。その後,IGMODの倒産であまり顔を見なくなった彼は,奥さんと子どもを連れてロードアイランドのバーリントンへ引っ込み,同地にあるロードアイランド音楽学校の講師の傍ら,マイケル・アーノウィットとカルテットを組んで,地元で悠々自適に活動中のようです。

★★★★★
Walt WEISKOPF "Sleepless Nights" (Criss Cross: 1147 CD)    
inner loop come rain or come shine mind’s eye jazz folk song wishing tree Liberian lullaby with you, with me sleepless nights
Walt WEISKOPF (tenor sax) Andy FUSCO (alto sax) Conrad HERWIG (trombone) Joel WEISKOPF (piano) James GENUS (bass) Billy DRUMMOND (drums)
ウォルト・ワイスコフは,秋吉敏子のオーケストラなどを渡り歩いてきたテナー・マン。テナー吹きとしてはトレーン系で,息の長いモーダル・フレーズをバリバリ吹く,体力派ジャズが持ち味です。しかし,一聴して彼のものと分かるそのオリジナリティ溢れる作編曲の才が彼の最大の美点。クリス・クロスには2000年現在4枚ほどのリーダー作がありますが,中でもこれは3管編成で,彼の非凡な作編曲の才能を堪能でき,なおかつ大きすぎない編成でコンボ・ジャズとしてアドリブも存分に楽しめる。バランスの良い秀作としてお薦め度が高いです。ワイスコフのテナーを筆頭に演奏の緊密度も素晴らしい。文句なく5つ星。