1990年代のジャズ 全般


★★★★1/4
Joe Lovano "Landmarks" (Blue Note: CDP 7 96108- 2)     
the owl and the fox primal dance emperor Jones landmarks along the way street talk here and now I love music where hawks fly thanksgiving dig this
Joe Lovano (ts) John Abercrombie (g) Kenny Werner (p) Marc Johnson (b) Bill Stewart (ds)

1980年代の10年間を席巻し,アコースティック・ジャズを再び,ジャズメンにとって《古くて新しい》思慕の対象にまでしたのは,マルサリス一家(黒人)がリードする新伝承派の面々でした。この流れを引き継ぎながらも,黒人の優位性を称揚するイディオムの部分は注意深く希釈し,アブストラクトな変拍子や幾何学フレーズなど,方法論の部分を純化することで,新時代のジャズ言語として《ユニバーサル言語》化しようとしたのがロヴァーノ一派でした。1990年代が終わり,混沌としたジャズ界の流れを系統づけようと試みるとき,彼の果たした重みというのに気づかされます。バップ・イディオムをクール・ジャズ的なコラージュ技法で脱構築し,モード・イディオムと非機能和声,変拍子の洪水によってメカニカルに転生させることに成功した本盤は,事実上ロヴァーノ語法の集大成。ジョン・ゴードン,エドゥアール・フェルレ,ウォルト・ワイスコフら,これ以降の白人ジャズメンに新たな《道標(Landmark)》を提示しただけでなく,期せずして全員白人となった本盤は,黒人的グルーヴネスに依拠せずとも,この上なくヒップにジャズを演れることを如実に証明しました。ロヴァーノとワーナーは,こののちボストンのニューイングランド音楽院へ君臨し,彼の地に一大拠点を形成。後進の育成を通じて,今なおジャズ界に巨大な影響力を行使しています。(2006. 7. 22補筆)

★★★★
Tom Dempsey "Blues in the Slope" (IGMOD: IGM- 49805- 2)     
just my luck macumba preachin’ Gil a family affair let’s stay together blues in the slope waltz in the park rush hour
Tom DEMPSEY (guitar) Kris JENSEN (tenor, soprano sax and flute) Luis PERDOMO (piano) Tim FERGUSON (bass) John WILSON (drums, on 3.4.7.8) Scott LATZKY (drums, on 1.2.5.6)

グラント・グリーン似の音色でジム・ホールばりの穏健な演奏を聴かせる若手ギター奏者,トム・デンプシーのメジャー・デビュー作。詳しい経歴は不明ですが,前架でご紹介したジョン・マッケンナがアルバムデザインをやったりと,IGMODというレーベルの暖かい経営方針を感じさせる一枚。スタジオ・ミュージシャンとして活躍するピアノのルイ・ペルドモ以外は主役ともどもまるで無名ですが,内容は充実。この未来ある若者を何とか浮かばれない我々で押し上げてやろうという,アングラ無名戦士の愛情が,時にはA級に匹敵する優れた演奏を生むこともあるということでしょう。

★★★★
Don Braden "The Fire Within" (BMG: 09026 63297- 2)   
incendiary all or nothing at all solar the boiling point smoke gets in your eyes thermo where there’s smoke the fire within fried bananas doctone
Don BRADEN (tenor sax) Darrell GRANT (piano, on 1.4.5.7.8) Julian JOSEPH (piano, on 2.10) Dwayne BURNO (bass, on 1.4.5.7.8) Orlando LaFLEMING (bass, on 2.10) Cecil BROOKS (drums, on 1.4.5.7.8) et al.

バークリー音大を出た俊才ドン・ブレイデンはどちらかというと,その作編曲のほうが買われているふしが見うけられ,実際彼の前作は,ビッグ・バンドによる編曲ものです。もちろん,それはそれで悪くありませんが一応彼はテナーマン,本作では一念発揮頑張ったのでしょう。ピアノレス・トリオと,2種類のカルテットによるプレイヤー志向の作品でやる気満々です。果たして内容もそうしたやる気が全面に出て,ストレート・アヘッドな快演に次ぐ快演。やっぱりやる気って大事なのねと,最近HP作りで本業やる気なしの小生深く反省。

★★★★1/4
Sphere "Sphere" (Verve: 314 557 796- 2)    
we see isfahan uncle budda hornin’ in buck and wing twilight the surray with the fringe on top
Kenny BARRON (piano) Buster WILLIAMS (bass) Ben RILEY (drums) Gary BARTZ (alto sax)

「スフェアって何?」...ヒントは,このアルバムの挿入曲にあり。そう,スフェアとはあのモンクのミドル・ネームです。1982年にモンクが他界したときに,彼に弔意を表して集まった臨時編成グループ,久々の新作(サックスは,チャーリー・ラウズから交代)。メンバーはいずれ劣らぬベテランの芸達者。これで的を外すはずはありません。ギャンブル志向の昨今の若手にはないシュアな演奏で,手堅くまとまった作品の出来には脱帽です。ところで,ケニー・バロンは最近,ルイス・ナッシュが殊の外お気に入りのようですが,ルースになった今のバロンに鋭角的なナッシュの太鼓では,バロンに損。この盤などを聴くと,ナッシュとはやらないほうが,今のバロンにはいいような気がしてなりませんが如何。好評だったラッセル・マローン『ジョージア・ピーチ』と比べてみてください。

★★★★1/2
David Kikoski Quartet "The Maze" (Criss Cross: 1168 CD)
revival puddles of memory strength for change disentanglement shame the maze
David KIKOSKI (piano) Scott COLLEY (bass) Jeff WATTS (drums) Seamus BLAKE (tenor saxophone)

ニューヨークでも最も信頼厚いピアニスト,キコウスキーのリーダー作。クリス・クロスでは2枚目になるのでしょうか。この人は本当にヴァーサイタルな人で,前作のドラムスはレオン・パーカーでこちらはジェフ・ワッツ。どんな面々と演っても,しっかりバランスを取りながら自己主張のできる芸の確かさが,サイドメンとして信頼厚いゆえんでしょう。トリオの録音が多い彼のリーダー作では,初めて管入りになりますが,これが大正解。テナーのシーマス・ブレイクの出来が素晴らしいです。冒頭からG.コールマン彷彿の滑らかなモーダル・フレーズ連発の大熱演。ワッツのパワフルな太鼓もさらに場を引き締め,文句なしのA級名盤と呼べる仕上がりです。

★★★★1/2
Mark Turner "In This World" (Warner Bros.: WPCR- 2184)
mesa Lennie groove you know I care the long road Barcelona in this world days of wine and roses Bo Brussels she said, she said
Mark Turner (ts) Brad Mehldau (p, on 1.2.3.5.7/ rhodes, 4.6.9) Larry Grenadier (b) Jorge Rossy (ds, on 8.9) Brian Blade (ds) Kurt Rosenwinkel (g, on 6.8.9)

テッド・ブラウンのクールネスとショーターの呪術性を併せ持った新時代の鬼才マーク・ターナーが,1998年に発表した作品。聴いていると思わず引き込まれそうになる,深い内省性と透明な音色を併せ持った彼は,アブストラクトな変態音階を淀みなく吹くアクの強いテナーマンでしたが,シーンに浮上後,当時若手の拠点だった《スモールズ》の精神的・理論的中核として大化けすることになります。それまで1970年代のジャズは,電化ジャズやイージ−・リスニング隆盛のあおりで【伝統的ジャズ語法が,周辺ジャンルによって擾乱され希釈された】暗黒時代でした。ターナーは「多様な音楽とジャズが渾一体となり,文字通りスリリングにクロスオーヴァーした」時代として,1970年代の音楽的遺産を肯定的に再評価し,そこからよりユニバーサルな新世紀主流派ジャズ観を引き出したところに,新しさがありました。メジャー二作目の本盤で,彼はスモールズ・イディオムを本格導入。巨大な才知を余すところなく披瀝して,文字通り聴き手をあっと言わせることに成功します。その後,ここで共演した5人に,弟分のクリス・チークやマット・ペンマンらを加えた《旧スモールズ(新ブルックリン)派》は一大勢力となり,続々と秀作を発表。2000年代最初の5年間において,米国のジャズ・シーンを文字通り席巻することになりました。彼らのマイルストーンとして,いち早くその成果を刻印した本盤の輝きは,些かも色褪せることがありません。(2006. 7. 22補筆)

★★★★
The Jazz Convention "Up Up with The Jazz Convention"(Schema: SCCD 306)
argento d’Africa modal convention mira team spirit memory of a dream unit 7 Amanda Mr.Kenyatta that’s the way it is saluti dalla penisola
Fabrizio BOSSO (trumpet) Gaetano PARTIPILO (sax) Gianluca PETRELLA (trombone) Stephano BOLLANI (piano) Giuseppe BASSI (bass) Fabio ACCARDI (drums)

この盤を買った当時は,全員名前を聞いたことがなくアヤシイ謎の六人組だったこのグループ。しかし,実のところピアノのステファノ・ボラーニとラッパのファブリツィオ・ボッソは自身もリーダー盤を出して活躍中の注目株だとほどなく判明しました。内容はラテン趣味の入ったハード・バップ・ジャズ。確かにテクニック的には少々乗り切れない面も散見されますが,それは彼らが異様な急速調のラテン・ノリで,叫声を上げつつやたらにハイなジャズを繰り広げているからに他なりません。彼らのアルバムはこの後ももう一枚でており,またピアノとラッパの2人はリーダーやサイドメンとしても活躍中。なかなかの手練れなので,ぜひチェックしてみてください(2002. 6. 6:校訂)。

★★★★1/2
Darren BARRETT "First One Up" (J- Curve: JCR 1006)
first one up (take 1) word! Dr. Byrd impossible 2 to 4 grand Ravine up down- inside outside conceta elfreda a new day comes reflections first one up (take 2) Dee’s theme
Darren BARRETT (trumpet) Aaron GOLDBERG (piano) Reuben ROERS (bass) John LAMKIN (drums) Jimmy GREENE (tenor, on 2.3.4.7.8.9.11: soprano, on 5) Kenny GARRETT (alto sax, on 1.6.10)

ハード・バップ期から新主流派の移行期にかけてはジャズ界でも飛ぶ鳥を落とす勢いで大活躍したトランペッター,ドナルド・バードは博士号も持つインテリです。その後,音楽教育に専念することになったバードの秘蔵っ子が,豪華ゲストを迎えて登場。バードが入れ込むだけあって,久々に元気のいい若手を聴いた気にさせられる出来映え。全体に衒いのないオーソドックスなハード・バップにしたのもさらに正解。こういうストレートアヘッドな人にこせこせした小技は無用です。中でも,冒頭,篭烈。急速調でも流れない確かなテクとフレージングは,見事というほかありません。今後が楽しみな新鋭。このまま奇を衒うことなく進んでいただきたい。

★★★★1/4
John SURMAN Quartet "Stranger than Fiction" (ECM: 1534)
canticle with response a distant spring tess promising horizons across the bridge moonshine dancer running sands triptych: 1) hidden orchid, 2) synapsis, 3) paratactic paths
John SURMAN (saxes: alto and bass clarinets) John TAYLOR (piano) Chris LAURENCE (bass) John MARSHALL (drums)

話に何度か出しながら,殆ど作品を紹介していなかったECMから隠れた名品をひとつ。リーダーのジョン・サーマンは,かつては先鋭的なアヴァンギャルド体力ジャズで鳴らしたマルチ・リード奏者。月日は流れ,今では静謐な抒情を謳う演奏家に脱皮しました。ただ,この盤の魅力はリーダーの彼にではなく,8割方,脇役のジョン・テイラーのピアノにあります。この浮かばれぬ英国の名ピアニスト,サーマンとも長い付き合いで,サーマン同様かつては先鋭的なピアノで鳴らした御仁。しかし,ここ10年ほどはすっかり落ち着きと円熟味が増し,得も言われぬ美しいピアノを弾くようになっています。リーダー録音は僅少で,わが国の心ある有識者にはぜひ,彼を再評価してリーダー録音の機会を与えて欲しいものだと,私は密かに思っているのですが,叶わぬ望みのようで残念な限り。彼のピアノを聴くだけでも充分価値のある一枚,テイラーを知らない方は,ぜひどうぞ。

★★★★1/2
George ROBERT Quartet "Voyage" (TCB: 95102)
Jeanine dolphin dance remembering Henri voyage the village upper Manhattan medical group sandu
George ROBERT (alto sax) Dado MORONI (piano) Isla ECKINGER (bass) Peter SCMIDLIN (drums)

スイスのいなせなアルト吹き,ジョルジュ・ロベールのライヴ録音。ファナティックなトーンでグイグイ押してくる扇情的なスタイルはフィル・ウッズ直系ともいうべきものです。ケニー・バロンにウイントン・ケリーをブレンドしたような粋なピアニスト,ダド・モローニに,コ・ジャズでお馴染の太鼓はシュミドリンと役者も揃い,今をときめく羽振りの良いアンチャン集団大盛り上がり。ライヴ音源となるとえてして散漫になりがちですが,この盤は別格。久々に聴いたホットでご機嫌な秀逸ライヴ。