1990年代のジャズ



★★★★3/4
Ivar Antonsen "Double Circle" (Gemini -Taurus: TRCD 839)
N.Y. snapshot John’s waltz cat nap out of Norway a song- not too happy patterns of change double circle you must believe in spring good morning, Duke他全11曲
Ivar ANTONSEN (piano) Björn ALTERHAUG (bass) Espen RUD (drums) Knut RIISNÆS (tenor saxophone)

躍進を続けるスウェーデン・ジャズ界。同じ北欧スカンジナビア半島のノルウェイも忘れてはいけません。通好みの隠れ名盤『ムーヴィン』で知られるダグ・アルネセンは,ノルウェイ・ジャズの水準を示す好例でしょう。本盤も,ノルウェイのジャズの懐の深さを示すものとして採り上げたい一枚。リーダーは1946年北ノルウェイのファウスク(Fauske)生まれ。1967年にオスロ大学(のちノルウェイ国立アカデミー)へ進学し,作曲をフィン・モルテンソンに師事しました。同じ頃パレ・ミッケルボルクとヤン・ガルバレクのグループで脇を固めてプロに入り,ダグ・レイニーやアート・ファーマーとは随分懇意だったそうです(1985年,1986年にそれぞれ共演盤あり)。本盤は,1999年に出た彼の3枚目にあたるリーダー作で,その後,前述のアルネセンを迎えて素敵なリーダー盤も吹き込んだクヌート・リースネスを迎えた四重奏。ノルウェイの最高峰で学んだのも頷ける,理知的なセンスと瑞々しい叙情が横溢。いかにも北欧ものらしい透明感と,「脱力系ブレッカー」さながらハードボイルドな音色のテナーが醸し出す,密度の濃い北欧ジャズの秀作ではないでしょうか。余談ながらリーダーは,1981年に大学院を出たのち,1985年にサンディエゴへ移住。現在はサンディエゴ州立大学サン・マルコス校で教鞭を執りながら活動を続けているようです。嗚呼,こうしてまたアメリカは優秀な人材を引き抜いて,大きくなっていく・・。

★★★★1/2
Steve Czarnecki Trio "Sunnyside Up"(Piano Man Productions: PMP 005)     
sunnyside up a weaver of dreams it's a raggy waltz resolution my one and only love Mr. G love dance I could write a book isn't it romantic on the street where you live
Steve CZARNECKI (piano: key; on 7) Scott STEED (bass) Dan SABANOVICH (drums) et al.

下のドゥグレグといいこの人といい,アメリカのジャズ界はホント,地方にまで才人がゴロゴロいますねえ。本盤の主人公ツァルネッキは,西海岸ベイエリア地区を拠点に活動するキーボード奏者。地元のデ・アンザ音楽大学とヘイワード大学で学んだのちプロに入り,ロベン・フォードやバーニー・ケッセルのサイドメンとして研鑽を積みました。各種鍵盤に加えて,ギターも嗜み,腕前はスタンリー・ジョーダンが無名の頃に先生だったこともあるくらいなんだとか。1993年の『君想う時』に続いて,彼が1995年に発表した2枚目のトリオ録音の本盤は,そんな彼の持ち味が良く出た好内容盤。ラテン乗りを絡めつつ,いかにも開放的な西海岸の風土を思わせる,開けっぴろげで陽気なピアノを弾く人ですが,旋律は良く謳っているし,作曲の才も豊か。アーニー・ワッツをゲストに迎えた,魯薀謄鷯茲蠅任梁臟演。確かにキーボードの音選びなんかいかにも脳天気で垢抜けない面はありますけれど,このまま消えてしまうのは惜しいと思います。ちなみに,本盤以降アルバムの発表がなく,心配していたところ,最近になって,彼が1996年に【ソウル・ジャズ・クインテット】というグループを結成し,活動を継続していることを知りました。そこではオルガンも弾いているようで,成る程ラテン乗りなわけですねえ・・。

★★★★1/2
Jeff Gardner "The Music of Chance -plays Paul Auster"(Axolotl Jazz: Y 225079- AD100) 
dreamkeeper the music of chance blues for Anna Blume ghosts cidade vazia Mr.vertigo Leviathan moon palace night journey city of glass achados e perdidos
Jeff GARDNER (piano) Drew GRESS (bass) Tony JEFFERSON (drums) Rick MARGITZA (tenor saxophone: 1, 3, 5, 7, 9) Ingrid JENSEN (trumpet: 1, 3, 7)

ジェフ・ガードナーは,1953年ニューヨーク生まれ,パリ在住の中堅。目立たぬながら10枚を超えるリーダー盤もある中堅で,日本にも1996年に来たことがあります。クラシックはイヴァン・ツェレプーニン,ジャズはホール・オバートンやドン・フリードマンに学んだそうですが,実は和声法と作曲法に関してはあのリリー・ブーランジェの実姉にして近代フランス最強の名教師ナディア・ブーランジェのお弟子さんという毛並みの良さ。多彩な共演歴を持つ名脇役ながら,ECM系列の北欧系プレイヤーからも重宝されるのは,そうした卓越した作編曲力と,抑制の利いたリリカルなピアニズムに依るところが大きいでしょう。本リーダー盤は,そういう彼の叙情的ピアニズムが色濃く反映されたコンセプト・アルバム。全曲オリジナルのその作風は,さながら北欧版『処女航海』とも言うべきもので,彼の数多リーダー盤の中でも,詩的で無垢な佇まい,内省性の高さにおいて群を抜いているのではないかと思います。地味ながら名盤請負人的存在のドリュー・グレスのベース,かつてヤング・ライオンと言われたトレーン傍系からすっかり解脱し,柔らかで深いテナーを聴かせるリック・マーギッツァら脇役の好演も光る。新主流派的でモーダルな演奏がお好みの向きには,間違いなく座右に置かれる一枚と申せましょう。

★★★★1/2
Phil DeGreg "The Green Gate"(J Seven: J- 7998)     
bouncin’ with Bud how deep is the ocean the green gate smile Carol's waltz hi-fly in pursuit of hip the fast break close enough for love sweet georgie fame urgency
Phil DeGREG (piano) Drew GRESS (bass) Steve DAVIS (drums) Tim RIES (saxophone; on 2, 3, 5, 8, 11)

オハイオ州第三の都市シンシナティを拠点に活動するフィル・ドゥグレグは,シンシナティ音楽院およびシンシナティ大学で教鞭を執る傍ら,地元のジャズ・クラブで地道に演奏活動を続けているピアノ弾き。もとはウディ・ハーマン楽団のアレンジャーだったこともある人物で,実は1990年代始めにもトリオでリーダー盤を残していたんですが,当時は全く相手にされず(ちなみに,本盤の成功を見て,慌てて再発されました:笑)。日本で名前を知られるようになったのは,一にも二にも,中央から豪華なゲスト陣を迎えて制作したこのアルバムのお陰だったと断言して良いと思います。主人公のスタイルはトミー・フラナガンとシダー・ウォルトンの中間といった面持ち。サックスを加えたのも,あまり一枚看板タイプではなかったからでしょう。どっしりと腰の据わったリズム隊に支えられ,主役はゆったりマイペースの好演を連発。当時はまだ知る人ぞ知る人物だったティム・リースも,見事にフロントの役を務めて本盤の価値を上げる。特に情感溢れるソプラノは秀逸。このあと,彼自身も俄かに待遇が良くなったのは,このアルバムのお陰だったかも知れません。ちなみに,ドゥグレグはこの後も同じレーベルからアルバムを出しましたが,本盤ほどの成功には至っていないようです。

★★★★1/2
Anders Bergcrantz Quartet "In This Together"(Dragon : DRCD 261)
wake up other bells emerald majoun hope aurora sapphire mcjolt ruby in this together axis flammable
Anders BERGCRANTZ (trumpet) Richie BEIRACH (piano) Ron McCLURE (bass) Adam NUSSBAUM (drums)

ヤン・ラングレンの佳作『バーズ・オブ・パッセージ』にも参加していたスウェーデンのラッパ吹き,アンデシュ・ベリクランツの第2作。本来はスウェーデンのラッパ吹きなんですが,この人を一躍有名にしたのは,1990年初頭に,本盤と同じ顔触れで吹き込んだ『ライブ・アット・スイート・ベイジル』以降のこと。フレディ・ハバードを思わせる主役のラッパに,すっかりゴリゴリ強面モード弾きへ脱皮したバイラーク以下,屈強なサイドメンを揃えたこのカルテットは,アメリカでは一躍評判を呼んだそうです。本盤はその第二作で,初のスタジオ録音となったもの。ライブ盤に聴ける,どかんどかん炸裂した荒っぽい演奏に比して,彼とバイラーク,マクルーアの作る緻密なモード・チューンの意匠といい,時間を削って簡潔に要点をまとめたようなソツのない演奏といい,彼が北欧系のラッパ吹きだったことを思い出させるような,クールかつ周到なもの。もともと音色こそファットとはいえ,音程をちょくちょく外すなど,ライブではやや脇役に音負けしてしまう彼にとって,統率の取りやすいスタジオ録音は一度手を染めておきたい企画だったんでしょう。ただ,その後やっぱりライブ演奏に戻ったところを見ても,やっぱりこのカルテットの妙味はライブ盤。この後に出た『C』は,アラを気にせず,吹っ切れたように吹く彼のプレイが印象的な秀盤でした。

★★★★
Mike Dirubbo Quintet "From the Inside Out"(Sharp Nine : CD 1013- 2)
from the inside out rue de la Harpe role reversal you're a weaver of dreams blues to your old country over the rainbow the search within for first bebop
Mike DIRUBBO (alto sax) Steve DAVIS (trombone) Bruce BARTH (piano) Nat REEVES (bass) Carl ALLEN (drums)

マイク・ディルボは,1970年コネチカット州ニュー・ヘイブン出身。クラリネットからリードに染まり,やがて独学でサックスの奏法を会得します。しかし,彼の命運が決まったのは,1988年に入学したハートフォード大のハート・スクール(Hartt School)で,運命の師匠ジャッキー・マクリーンと邂逅した瞬間。たちどころに魅入られた彼は,骨の髄までマクリーン信奉者になってしまいました(笑)。本盤は彼のデビュー作となったもの。モンク臭もちらつく現代版トミー・フラナガンことブルース・バースに,最近ちょっと名前を聴くことが少なくなったカール・アレンのパワフルなドラミングなど,脇役の異様な豪華さは明らかに師匠の肝煎り。新人に不似合いなほど形の出来上がった保守的ハード・バップ作品に仕上がりました。本盤発表後,彼はクリス・クロスなどから2枚のアルバムを出しますが,リーダーとしては今ひとつ伸び悩んでいる様子。脇役や教育者として,半ばとっちゃん坊やになっている感も拭えません。師匠が偉大だと後が大変ですよねえ・・なんだか身につまされるような・・。

★★★★
Lars Møller "Kaleidoscope"(Naxos : 86022- 2)
afternoon whisper footprints perspective a change of plans emotions in disguise kaleidoscope 3'rd line for Shorter lite goodbye
Lars MØLLER (tenor sax) Jacob CHRISTOFFERSEN (piano) Thomas OVESEN (bass) Ole THEILL (drums)

デンマークのショーター系テナー,ラーシュ・メラーがナクソス盤で登場です。リーダーは1966年生まれ。1987年にリトミック音楽院を出たのち渡米。ニューヨークでは,インド音楽に傾倒していたこともあるとか(呪術的な中近東フレーズはこの辺りに由来するのでしょう)。1996年には故国へ戻った折りは,ボブ・ブルックマイヤーに就いて作編曲も学んだそうで,現在はニールセン音楽院でも教鞭を執る知性派に成長。ジャズオケを駆って自作曲を演奏までしており,初期とは比較にならないほどいい曲を書くようになりました。本盤は1998年発表の通算6枚目。この作品の魅力は何かを語るとき決して外せないのは,廉価の王道ナクソスの盤であることでしょう。何しろこのご時世に,1000円でCDを買おうと思ったらアンタ,精々「もーにんぐ娘。」のシングルくらいが関の山。それと同じ値段で充実のガルバレク風テナーが存分に楽しめちゃうなんてこんな破格のお値打ち品,そうそうあるもんじゃないでしょう。ナクソス万歳です。惜しむらくは,レギュラー・メンバーであるピアノのアドリブが散漫か。北欧風のいいピアノを弾くものの,そのソロの出来映えがもう一つ器用貧乏なのは,キーボード両刀使いだからですかねえ。マアこれでアドリブも極上なら正規盤の立つ瀬がありませんから,良しとしませんか(笑)。

★★★★1/4
Don Menza and Joe Haider Trio "Bilein"(JHM : 3608)
Bilein it's April again broadbottom Karen's birthday waltz processional royal B- 4- U leave
Don MENZA (tenor sax) Joe HAIDER (piano) Christopher GORDAN (bass) Paul KREIBICH (drums)

ドン・メンザは1936年4月22日,ナイアガラの滝も近いバッファローの出身。州立フレドニア大学でサックスを学び,メイナード・ファーガソンに始まってドン・エリスやバディ・リッチら数多いビッグ・バンドを渡り歩いた裏方職人です。今とは違って,リーダー盤なんて容易に録音できないご時世。仕事があれば海も越え,折からジャズ演奏家の地位が低かった1963年からバディ・リッチに拾われる1968年まではミュンヘンを拠点に,マックス・グレーガーのテレビ局専属オーケストラでも演奏。演歌丸出しの苦労人生を送ってきた人物です。本盤は,同業者ジョー・ハイダーの肝煎りで,目出度く彼が再評価されるに至った復活作。これ以前に,リーダー盤らしいリーダー盤も1,2枚ほどしかなかった彼にとっては,まさに,苦節の果てに日の目を見た格好になりました。お年のせいか決して技巧派とは言えないものの,裏方ゆえにソロの重みは誰よりも良く知っている。ハード・バピッシュな素材を並べたこのリーダー作。武骨な音色とフレージングを利して丁寧に吹かれたソロは実に良く歌う。グリフィンやデクスター・ゴードンらの陰に隠れて目立たなかった元渡欧組の,衒いのないハード・バップ秀作。

★★★★
Andy LaVerne & John Abercrombie "Where We Were"(Double Time: DTRCD- 110)  
end of the love affair soulstice where we were dream team dream gypsy turn out of the stars quality of your scilence John's waltz softly, as a morning sunrise
Andy LaVERNE (piano) John ABERCROMBIE (guitar)

アンディ・ラヴァーンは,どこか器用貧乏なところのあるメカニカル・タッチのエヴァンス派。既に30を超えるリーダー盤があり,人気は安定しているのですが,そのリーダー盤のパーソネルを並べてみると,殆ど一定せず,アルバム事に次々とフォーマットを変えて演奏している事が分かります。彼自身も,今ひとつアマっぽさの抜けない自分のピアニズムに違和感を感じるところがあるのかも知れないですねえ。本盤は,脇役にご存知わにょわにょギター,アバークロンビーを迎えて吹き込んだライブ盤。ギターとピアノの二重奏といえば,エヴァンスには言わずと知れた「アンダーカレント」という銘盤がありますが,異様にアクの濃いギターと,淡泊な技巧派ラヴァーンという,かなり凸凹感の漂う顔合わせは,本家盤と四つに組んでは玉砕必至と考えたラヴァーンが仕掛けた変化技なのかも知れない。実際,内容の方は意外なほど穏健。確かに本家盤に比べアクの強さは否めないものの,凸凹が上手く相殺しあって,奥に凄みを秘めた大人しさを上手く醸し出している。アバクロの凄みをうまくコントロールし,彼自身の欠点をタモリ的に補わせることに成功しているのではないでしょうか。

★★★★
The N.Y. Hardbop Quintet "Rokermotion" (TCB : 96352)
Rokermotion the strike more than you know "the hip naz" el-cee little Jake east of the sun waat…
Joe MAGNARELLI (trumpet) Jerry WELDON (tenor sax) Keith SAUNDERS (piano) Bim STRASBERG (bass) Mickey ROKER (drums)

ニューヨーク・ハードバップ・クインテットは,その名の通りニューヨークを拠点に活動するハードバップ好きのプレイヤーが集まって,1990年に結成したグループ。知名度では一歩抜きんでた感のあるラッパのマグナレリ,ウェルドンとバルバロ(正規の太鼓です)の3人は,実際にニューヨーク州生まれなんだそうです。1995年にグループ・デビュー作『ザ・クリンチャー』を発表。その後,2004年現在で4枚の録音を出しました。典型的な二管編成の陣容。加えて意図丸出しのグループ名。これで1950年代ハード・バップじゃなかったらサギでしょう(笑)。こののち,クリス・クロスと契約して華開いたラッパはドナルド・バード風。同じくクリスクロスからマイケル・カーンと仲良くテナー・バトルものを出したジョージ・コールマン似のテナー。そして,シダー臭いピアノが脇を固める・・ここまで書けばもう充分な気がする演奏は,これ以上ないほどオーソドックス。影の司令塔ピアノは作編曲の才も確か。このアルバムはもちろんの事,これ以前も以降も安定したセンスを披露していますので,どれを買っても安全パイ。一枚気に入ったら自動的に,「全部買っても大丈夫」の保証が付きます(笑)。

(2004. 5. 24 TEXT改訂)