1990年代のジャズ vol. 24


★★★★3/4
H.Bennink / C.Clark / E.Glerum 'Home Safety' (Favorite : 01)
home safety miss T ballad of Jake Spoon espace theatral another blues sean sophia duped spooky conversations scratched Marseille letter to south africa
Han Bennink (ds) Curtis Clark (p) Ernst Glerum (b)
1942年アムステルダム近郊ザーンダムに生まれたリーダーは,オケの打楽器奏者だった父の影響で打楽器を始め,ケニー・クラークに惚れ込む思春期を送りました。1960年代に入り,アメリカから大挙ジャズ亡命組が欧州入りすると,彼はベン・ウェブスターやデクスター・ゴードン,エリック・ドルフィらの脇を固めて名を上げます。ドルフィ『ラスト・デイト』への参加はどなたもご存じでしょう。その後,ミシャ・メンゲルベルクやウィレム・ブルーカーと共同で,1967年に即興演奏家連盟を創設した彼は,やがて絵画や彫刻など視覚芸術も手掛けるようになり,1995年にはハーグのゲメーンテ美術館で個展をやるほどの腕前になりました。本盤は1994年1月に録音されながら2003年までお蔵入りしていた音源。1970年代以降,アムステルダムへ移住して活動している黒人ピアニスト,カーティス・クラークを迎えて作ったトリオ作です。恐らく意図的でしょうが,ややくすみのある暖かな集音は,アナログ世代の中古機材のそれ。ところどころ音抜けもあり,恐らく当初,商売絡みの録音ではなかったのでは。というのも,内容は完全にクラーク主導。ベニンクは,ただ虚心坦懐に盛り立て役へ徹しているからです。実際,本盤を小傑作にしたのも,無名ピアニストの意外な才能。一昔前のB級黒人ピアノが共有する硬いリズム感とゴリゴリした質感を今に留め,ジョー・ボナーやアルバート・デイリーを彷彿させる。それでいて,欧州の翳りの中でエヴァンスを消化する,どこか垢抜けたハーモニック・ランゲージには,欧州のケニー・ドリューことジョー・ハイダーのセンスも漂う。輪を掛けて主役を光らせたのが,脇の2名。最少セットで音数を極力削り込み,チキチキ・カチカチしたシンバルと切れのあるブラシで,乾いたビートを刻む主役にはタイトな緊張感がありますし,ドスの利いたグレルムのウォーキングも全体をずっしり下支えして二重丸。演奏スタイルまで含めて1970年代気分横溢。およそ1990年代の録音とは思えないアナクロな魅力のあるトリオ作です。

★★★★
Jarmo Savolainen "First Sight" (Timeless : CD SJP 380)
first sight jumping as always two fingers the word inner modes thoughts how my heart sings it figures
Jarmo Savolainen (p) Wallace Roney (tp) Rick Margitza (sax) Ron McClure (b) Billy Hart (ds)
1961年フィンランド出身のリーダーは,武骨な打鍵が物語る通り,もとはスクリャービン好きのクラシック・ピアノ。クオピオ響やフィンランド歌劇場管などとの共演歴もあります。意外にも当初はプログレ屋で,初吹き込みも1979年に【フィンフォレスト】というグループに入って録音した『夢魔』でした。翌年ジャズに開眼してバークレーへ留学し,帰国後の1985年にノネット編成の初リーダー作を発表。その後はUMOジャズ・オーケストラやユッカ・リンコラのサイドメンを務める傍ら,双頭コンボを含めるとリーダー盤も8枚ほど出してます。彼の名前が有名になったのは1990年以降のことで,本盤はその嚆矢となった1992年作品。米国留学で知遇を得たんでしょう。ヤングライオンの2管フロントです。ライナーノーツ担当のリッチー・バイラークは既に,マッシブなモード弾き(つまりはサヴォライネンの美意識)へ脱皮していた時期。彼の肝煎りが人選に作用したのは間違いない。本盤を語る上で,避けては通れないのが,ご存じジャズ界屈指のドタバタ・リズム隊。おまけにラッパは神経質な音色のルーニーで,テナーは発展途上の器用貧乏マーギッツァ。・・この顔触れをみて,購買意欲を掻き立てられるファンなんているんでしょうか(失礼)?しかし,蓋を開けてみると意外や意外,これが悪くない。ビリー・ハートの太鼓はここでも確かにかなりモタモタしてるんですが,レガート・シンバルで作る拍動には,まだエリオット・ジクムンドやアダム・ナスバウムの趣もあり,「この人,元々ヘタなんじゃなくて,経年劣化しちゃったんだな・・」と確認できただけでも収穫でした。太鼓が持ちこたえれば,本家とバイラーク・コンボで散々共演しているマクルーアのベースも生きてきます。重厚なピアノと,周到な作編曲。ようやく主役の実力が死んでいないアルバムを聴けました。きっと本盤のリズム隊が好調だったから,サヴォライネンはこの後も,彼らと組むようになっちゃったんでしょうねえ・・。

★★★★★
Peter Martin Trio "Parabola" (Alfa - M&I : MYCJ-30258)
Kate's dance parabola Stella by starlight just one of those things marti invitation hidden kingdom Ian in the house the secret life of plants
Peter Martin (p) Christopher Thomas (b) Brian Blade (ds)
ここ2年ほど「ホホウ」と一応は感心するアルバムあれど,聴いててしみじみ「エエなあ」と目尻の下がるジャズ・アルバムをめっきり聴かなくなりました。仁和寺にある法師よろしく「かばかり」を繰り返していますと,新譜漁りも半ば義務と惰性に。たまには大当たりのピアノ・トリオでも無きゃ,やってられないというものです。・・この前振りで皆さんお分かりでしょう。そうです,久々にそのものズバリの大当たりです。原盤はピアノ・トリオ隆盛のただ中,1997年の発表。バブル期に悪名を轟かせたアルファ・ジャズが版元とは思えぬ非常に良心的な内容で,当時の俄かバブルの遺光を偲ばせる輝かしい出来映えに驚きました。恐らくはその見事さゆえに,8年経った録音にもかかわらずM&Iに拾われたのでしょう。ジョシュア・レッドマンのサイドメンとしてお馴染みのリーダーは,1970年フロリダ州ディーランド出身。フロリダ州立大を卒業後,マーロン・ジョーダンの脇役としてニューオリンズでプロ活動に入り,これが契機となってニコラス・ペイトンと邂逅。彼の《ニューオリンズ・コレクティブ》に参加しました。同盤を聴いたジョシュアに認められ,メルドー君の後釜になったのはご承知の通りです。しかし実は彼,ジャズ転向前はジュリアード音楽院でクラシックを学んだ正統派。猫の忍び足の如きレガートの利いたアルペジオで,軽やかにスイングしていた初期ヘイゼルタインに,白人エヴァンス流儀の理知的な叙情性を上乗せしたオーソドックスなスタイルをとり,自作もスタンダードも破綻なく弾きこなします。前年にチェスナットの『リベレイション』を名盤にしたベース,ジョエル・ワイスコフ・トリオでの神懸かり的助演が記憶に新しい太鼓ともども,痒いところに手が行き届いた人選は心憎いほどに完璧。これで堕盤なんてあるわきゃございません。甲種推薦。

★★★★1/2
Simon Nabatov Trio "Touch Customer" (Enja : ENJ-7063 2)
puzzled the sage professor of the air science kdreefda molaina mark this touch customer simple simon
Simon Nabatov (p) Mark Helias (b) Tom Rainey (ds)
リーダーは1959年モスクワ生まれの中堅。モスクワ音楽院を出たのち,1979年に渡米してジュリアード音楽院で学び,そのままニューヨークへ居着いてプロ活動に入りました。現代のピアニストが多かれ少なかれそうであるように,彼のスタイルもエヴァンス流儀が基調。そこへ変拍子やポリリズムの多用,アトーナルなフレージングと鋭角的な左手のコード打ちを加えて,オリジナリティを作っていくのが持ち味です。当然,ポール・ブレイやウォルター・ノリスら鋭角エヴァンス派,モンク,ハービー・ニコルズ(ときにセシル・テイラー)が代わる代わる顔を出します。1990年代以降コローニュにも居を構えた彼は,国家の枠組みにとらわれない「コスモポリタン」を標榜している様子(どうも血筋がユダヤ系らしいですね)。恐らく演奏家としても,彼はむしろひとつの型(ルーツ)にとらわれない雑食主義者(コスモポリタン)を自分の持ち味にしようと考えているのでしょう。1993年に発表した本盤は,最近発表された『スリー・ストーリーズ・・』から,ちょうど十年遡った録音。内容もくだんの新録から,ちょうど十年若返った印象ですか。本盤も基調にあるのは,モード色を強めたエヴァンス派。スローな曲では,やや強面ながらも,知的な和声を駆使してエヴァンス・ライクに。翻って急速調ではモンク,ブレイ,ニコルズのハーモニック言語とリズム・アクセントをエヴァンスの鋳型へコラージュし,過剰なほどに変拍子を散りばめた意匠でこれを補強します。運指の切れ味はぐっと溌剌として若々しいですし,基底にエヴァンスを置くことで,最近ありがちなテク偏重の根無し草に陥ることを避けている目論見はクレバーです。ただ,雑多なスタイルは諸刃の剣。各素材が,彼自身の血肉として咀嚼されきれないまま,ばらばらに自己主張して,やや空々しさを残すのも確か。イン・テンポの楽曲で,やたら変拍子を散りばめるのも,彼自身がやや演奏家としてのスキゾフレニー傾向に難点を感じていることの表れなのでは。素材はあくまで素材。いかに「使いこなし」て自己同一性を発揮するかが,彼にとって命題となるのでしょう。

★★★★1/4
Beets Brothers "School is Closed Now" (Maxanter-Quintessence : QS 900.753-2)
school is closed now soultrane a night in Tunisia is it wrong to be right string desire passport the what happ-end my one and only love georgia on my mind reunion blues worksong
Peter Beets (p) Alexander Beets (ts) Marius Beets (b) Joost Patocka (ds)
オランダのだんご三兄弟ことビーツ・ブラザーズ。クラシック・ピアニストの母から音楽教育を,ジャズ好きの父からはジャズの洗礼を受けて育ち,それぞれ楽器を修得してプロ入り。1990年にはビーツ・ブラザーズ名義でデビュー盤を発表し,数枚の録音を吹き込みながら1990年代を駆け抜けました。テナーの長男アレックス君はややトーン・コントロールが不安定で,リズムのグルーヴ感も,白人らしくやや硬めで線が細い。その一方,上記の欠点を補って余りあるバップ・ジャズへの熱い憧憬は,このグループの魅力でした。人間の目は外を向いていますから,えてして自分の持ち物は見えません。一方で,相手の持ち物の価値はよく見えるのが宿命です。新伝承派以降の米国メインストリーマーがすっかり失った,ハード・バップ黄金期への素直な憧憬。それが臆面もなく表れた三兄弟の録音は,バップ好きの皆さんには充分一聴の価値があるでしょう。本盤は1999年に出たもの。自作を4曲,ゴルソンのオリジナルを含むスタンダード7曲の体裁で,オーソドックスなファンキー〜ハードバップが愉しめます。彼らの目論見は,《学校は閉校しました》という標題からも明瞭に。これは,彼らがデビューした直後,1990年始めに世を去ったアート・ブレイキーの追悼を意図したもの。ご存じ《ブレイキー・スクール》の出身者ベニー・ゴルソンが,御大のお葬式で口にした台詞だったというわけです。新世紀の訪れとともに,ソラール国際三位と頭一つ抜きん出た末っ子ピーター君(1971年生)は【ニューヨーク・トリオ】シリーズで独立しましたから,今後はあまり新録も期待できないでしょう。一連の彼らの録音では,内容的にも恐らく最もいい出来だと思いますし,ハード・バップ好きなお方,中古でお見かけしたときは手に取ってみてください。

★★★★1/4
Mike Holober and the Gotham Jazz Orchestra "Thought Trains" (Sons of Sound : SSPCD020)
jump down, spin around big sky waltz medium thought trains form X mood let's get home heart of the matter I can see my desk from here
Mike Holober (arr, p) Dave Pietro (as, ss, fl, p-fl) Jon Gordon (as, fl, cl) Tim Ries (ts, ss, cl) Charles Pillow (ts, ob, fl, cl) Steve Kenyon (bs, b-cl) Tony Kadleck, Scott Wendholt, Craig Johnson, Joe Magnarelli (tp, flh) Bruce Eidem, Pat Hallaran, Pete McGuinness (tb) Nathan Durham (b-tb) Leise Anschuetz (hrn) Dave Gilmore (g) Ron Carter (b) John Riley (ds)
2003年に出た初リーダー作『キャニオン』が印象的だったピアノ弾き,マイク・ホロバー。ゴッサム・ジャズ・オーケストラなるアンサンブルを率いた,1996年録音の自作自演集が出てきました。CD化されたのは2004年ですから,8年間もオクラ入りしていたことになります。きっとあの『キャニオン』の評判が良く,日の目を見たんでしょう。音的にはですねえ・・凝り性気味のビル・ホルマン楽団ですかね(笑)。その喩えが悪ければ,007当時の,都会派刑事ものの主題歌で掛かりそうな,ヒネたビッグ・バンドです。ホルマンを参照しているのは,細かいオフビートと,複数のリフをクネクネ編み上げて曲を構成していく書法からも明らかですが,元々売り物にする気が無かったからなのか,アレンジは相当に先鋭的。確かに非凡な構成力には唸らされることしきりな反面,全体の音楽的バランスを考え,溢れるアイデアの幾分かを抜き足しするような,プロらしい余裕はまだ乏しく,ひたすら持てる限りのアイデアを詰め込んでアピールしようとの欲目が先に立ってしまう。結果としてやや頭でっかちで,捻りすぎの凝りすぎな音になっています。それでも,これほどアレンジの長けた人はそう居ません。既にこの作品から10年,今同じものを作ったら,きっと数段洗練されたものにできるでしょう。もう一枚作ってくれませんかねえ。また本盤,腕利き揃いの楽団のレベルも非常に高いのがもう一つの魅力。細かいリフと変拍子が乱れ飛ぶこの難曲をすっきり見通しよく,意図を的確に音へ変換できたのも,高技量のアンサンブルのお陰です。特にリズム隊は素晴らしく,ロン・カーターのウネウネ・ウォーキングが久々に本領発揮しているのは嬉しいお土産です。

★★★★1/2
Kuba Stankiewicz Quartet "Northern Song" (Gowi : CDG 09)
cherokee eceemek off major revenge northern song kind of blues untitled samba in a sentimental mood for Joseph
Kuba Stankiewicz (p, key) Henryk Miskiewicz (as, ss) Adam Cegielski (b) Cezary Konrad (ds)
以前,息子さんと組んで作ったリーダー作が印象に残るヘンリク・ミシュキエビッツ。リズム・マシーンを帯同していたころのフィル・ウッズやキャノンボール・アダレイに通じる,いなせなビブラートとハードボイルドな音色を併せ持ったアルト吹きです。彼が1993年にサイドメンで参加しているワン・ホーン・カルテットを。リーダーはワルシャワに育ち,1985年にアルト奏者ズビニエフ・ナミスロフスキのアンサンブルへ加入。ポーランドでは正規の音楽教育を受けなかったらしいのですが,1987年に,ナミスロフスキとの競演盤『オープン』が年間最優秀ジャズ・アルバムに選定されて奨学金を貰い,バークリーへ留学。1989年の卒業時にはオスカー・ピーターソン賞を受賞し,モンク・コンペでも準決勝まで進んだというから,並みの腕ではありません。1993年に出た本盤では,その前年に,ポーランドの【ジャズ・フォーラム・マガジン】誌が選ぶ年間最優秀演奏家になった管と太鼓が脇を固める豪華な布陣。メインストリームなジャズを基調にしつつも,ラテンやファンキー・ジャズ,変拍子のリズムを使って変化を付け,かなり彩り豊か。い筬イ任楼貮凜轡鵐札汽ぅ供爾眛各して,スパイロ・ジャイラよろしくフュージョン・ライクな変拍子ロックを披露します。これだけあれこれ手を出すと,演奏が余程しっかりしていないと散漫になってしまうところ。そうならなかったのは,例によっていなせなフィル・ウッズを気取るミシュキエヴィッツを中心に演奏も立派で,しっかり核になっているからでしょう(ピアノの調律はちょっと気持ち悪いですが:笑)。リーダーはやや小粒ながら,同郷ピョートル・ウィレッジョよろしく,からっと明快に歌う右手の単音で下支え。ドスの利いたベースと,何でも叩ける割に軽くない太鼓ともども,演奏は非常にしっかりしており,あまり話題になっていないのが不思議なくらい良いレコード。少し古いので,あるいは入手がちと厄介かも知れませんけれど,見かけたらぜひお試しを。

★★★★1/2
Ull Möck Trio "How high the Moon" (Satin Doll : SDP 1006-1)
how high the moon: part 1 Micky No.3 mirage à trois bluesblaß hualp augenstern: for Pearl flo glide blind date ohne worte april bopcorn how high the moon: part 2
Ull Möck (p) Karoline Höfler (b) Michael Kersting (ds)
これは良いです。リーダーのウル・メックは,1961年シュトゥットガルト生まれのドイツ人。ピアノを始めたのは10才とやや遅かったものの,その後ギターとラッパも手を出すなど音楽へ耽溺。15才で自分のコンボを持ち,17才でプロ入り。1981年にはさらに研鑽を積むべくハイデルベルク音楽院へ進み,クラシック・ピアノを学びました。1986年から本格的にプロ活動を再開。現在は国立シュトゥットガルト歌劇場付けの歌唱指導(コレペティートル)やピアノ奏者として活動し,その傍ら1988年以降,サイドメンとして30枚近い録音に参加しているようです。本盤は1994年に出た初リーダー作。前後を有名スタンダードで挟む以外は全て自作なんですけど,この自作のセンスが大変に良いです。タイプとしてはですねえ,ややヴォイシングが鋭角的なエヴァンス派ですか。基本的に自作メインの彼は,エヴァンスを基調にしつつも,頻出する転調を利した楽曲そのものの程良いアウト感覚と,叙情性を損なわない程度に差し挟む穏健なフェイクで,控えめにケニー・ワーナーやデイヴ・キコウスキーの薬味を添える。ドイツの硬質さとメカニカルネスで,程良く硬化されたリリカルなピアニズムと,それをいっそう引き立てる作曲センスのバランスが実に好ましい。ワーナーの弟子筋にあたるマーク・シランスキーや,コローニュの穏健派クレメンス・オルト辺りを想像できる方は,かなり期待通りの音が聴けることを保証します。確かに欲をいえば,主役の線の細さもさることながら,太鼓がややモタモタと重いのは残念。それでも,さほど気になるレベルではありません。ちなみに,彼はその後も順調にアルバムを作っているようで,フロリアン・ロスの周辺で見かけるクラウス・トレッターとの双頭コンボを含む5枚が世に出ています。ぜひ他盤も聴いてみたいですねえ。

★★★★3/4
Ull Möck Trio "Drilling" (Satin Doll : SDP 1023-1)
in suspence Dr.Bär after eight waiting drilling swing low bad habit ethnolog balanced time living in Chelsea when will I see you again
Ull Möck (p) Karoline Höfler (b) Hans Fickelscher (ds)
上記の1994年に出た初リーダー作でデビューを果たしたウル・メック。こちらは1998年に発表したリーダー第二作です。その後,現在までに自己名義のトリオで3枚のスタジオ録音とライブ盤を1枚,双頭名義で一枚のリーダー盤を出し,結構実績もあるご様子。しかし,シュトゥットガルト歌劇場付けのコレペティートル兼ピアノ奏者としての本業が忙しいんでしょうか。或いはご当地でマイペースに活動しているからでしょうか。サイドメンで名前を見ることはなく,ディスコグラフィも貧弱。センスの良いピアノ弾きなのに勿体ないですねえ。第二作にあたる本盤も,線こそ細いながら端正でセンスの良いピアニズムは健在。前作は太鼓が小粒だったことも手伝って,せっかくの楽曲をややせせこましく煩雑に聴かせる結果となってしまい,楽曲の美点を生かし切れていませんでした。出来そのものは相当良かっただけに,惜しいと思ったものです。恐らく,本人も思い当たるところがあったんでしょう。4年を経た本盤では,マンハッタン音大で修士号を獲って帰郷したばかりの新人ハンス・フィッケルシャーに太鼓を交代。結果から言えばこれが大正解でした。軽いシンバルでチキチキと拍を刻む前任者とは違って,小太鼓類を多めに使い,一応の重量感とメリハリのあるビートを繰り出せるハンス君は役者も一枚上。お陰で,貧相だったリズムの芯も据わり,1ランク上のバンドに成長を遂げました。リーダーはクラシックをきっちり勉強した人だけに,凝った意匠の自作曲は相変わらず高品位。コローニュの俊才クレメンス・オルトやデイヴ・キコウスキー(特にEPIC盤)に通じる近未来的幾何学性と,理知長けたクールな叙情を,バランス良く編み上げた筆致に溜飲が下がること必定です。

★★★★1/2
Schema Sextet "Look Out" (Schema : SCCD 320)
look out agitazione blues for Gerry young man before ten o'clock time was Lothar Bernie's tune like someone in love Bob's buddy the preacher
Rosario Giuliani (as) Fabrizio Bosso (tp, flh) Gianluca Petrella (tb) Pietro Lussu (p) Giuseppe Bassi (b) Lorenzo Tucci (ds)
1999年に録音された本盤は,有名人になる前のステファノ・ボラーニを擁して同じスケマ・レコードから颯爽と登場したオールスター・セッション・ユニットの第二作。今回はサックスがロザリオ・ジュリアーニになり,ピアノはピエトロ・ルッス,太鼓はロレンツォ・トゥッチにそれぞれ交替。当時飛ぶ鳥を落とす勢いだったロザリオ・ジュリアーニが,事実上傀儡政権を樹立する形になりました。ジュリアーニはサイドメン共々,フィル・ウッズ(というよりマッシモ・ウルバニ)さがらの扇情アルトとして,当時景気のいいリーダー作を作っていましたし,ベースとラッパはもともと,筋金入りのバップ好き。これだけ好き者が揃って,保守派以外の音が出てくることはまずあり得ませんでしょう。実際,本盤の副題は「バッソ&バルダンブリーニへ捧ぐ」。イタリアのハードバップ黄金時代を支えた大御所コンボ絡みの楽曲で固まっている。三巻編成も手伝って,厚めのアンサンブルを生かし,作編曲のかっちりなされた爛熟期のハード・バップ路線。新主流派の寵児になる直前のフレディ・ハバードや,ジミー・ヒース,ベニー・ゴルソン,ティナ・ブルックスなどが,1960年前後に量産していた一連の吹き込みを愚直になぞるバップ直球バカ一代です(笑)。元ネタのせいか,これ見よがしなファンキー・ジャズ臭が時折鼻につき,原曲を重視したアンサンブルの古臭い響きも,もう少し何とかならなかったのかという気は確かにしますけれど,演奏自体はさすがに一線級。アップ・テンポの楽曲が散りばめられ,奏者の意地がぶつかる痛快な腕比べが随所に。かなり興じ入って聴けます。半世紀を経てなお大先輩を慕い,愚直にバップをやってる彼らが,アナクロ趣味の道化に見えてしまう方でなければ,充分愉しんでいただけるのではないでしょうか。

(2006. 7. 26)