1990年代のジャズ ピアノ編(3)


★★★★★
Enrico PIERANUNZI Trio "No Man's Land' (Soul Note: 121221- 2)     
no man's land border line if I should lose you blues in C land breeze the man I love my funny valentine chimere
Enrico PIERANUNZI (piano) Marc JOHNSON (bass) Steve HOUGHTON (drums)

エンリコ・ピエラヌンツィは1980年代以降,ソリストとして頭角を現してきたピアノ弾き。チック・コリアを思わせる圧倒的な運指技巧と,いまだかつてジャズ界が経験したことのないほど秀でたタイム感,そして,それほどの技量の持ち主でありながら,テクニックに溺れることなく,恐ろしく甘美なオリジナルを書く才能も持ち合わせた彼は,まさに伊ジャズに対する世界の認識を変えたピアニストと言っても過言ではないでしょう。最近は日本盤も録音し,彼もすっかりメジャーになりましたし,それらもみな水準以上の内容ではありますけれど,彼の本領を聴くならやはりご当地ものです。この盤は1980年代,彼が最もハイ・テンションだった当時の代表作と目されるもの。イ療狙眦名演は今聴いても新鮮どころか,目が点になる凄さです。

★★★★★
Eddie HIGGINS Trio "Haunted Heart" (Venus: TKCJ- 35034)     
my funny valentine haunted heart stolen moments / israel lush life how my heart sings someone to watch over me I should care lover come back to me isn’t it romantic?
Eddie HIGGINS (piano) Ray DRUMMOND (bass) Ben RILEY (drums)

国内盤で出たこの盤をここでご紹介するのは些か馴染まないという向きもありましょう。しかし,それでもやはり,この盤はとり上げなくてはなりません。何しろヴィーナスによって「再発見」されるまで,ヒギンズはほとんど注意を向けられていませんでしたから。しかし,1990年代以降,彼は人知れずかつてのカクテルピアノから,比類ない芳醇な香りと気品,力強さに満ちた円熟味溢れる奏者へと老成していきました。1990年初頭のSUNNYSIDE専属期に始まった演奏家としての成熟期,この一枚で彼はその頂点を極めます。そのピークを巧みに捉えて録音したヴィーナスの慧眼に畏れ入るばかり。その後,彼はヴィーナスから連続して録音を出してゆきますが,この盤ほどの演奏は,ついぞ聴くことができないままです。

★★★★1/2
Mike LeDONNE "To Each His Own" (Double-Time: DTRCD 135)     
encounter to each his own movin' along the pharaoh star-crossed lovers my romance pretty little one bleeker street theme
Mike LeDONNE (piano) Peter WASHINGTON (bass) Mickey ROKER (drums)

リーダーは脇役経験豊富な白人ピアノ。1990年代始めからリーダー盤も積み上げてきた中堅のピアノ弾きです。この盤の裏面には,彼が脇を務めた名だたる演奏家のコメントが幾つか併記されているのですが,このことが示すとおり,リーダーは数多くのサイドメン稼業から叩き上げでのしてきた御仁。こういう人には外れがないです。選曲が多彩にも拘らず散漫にならないのは,それだけしっかりした自己のスタイルを持っていることの現れでしょう。演奏スタイルは一聴モード・タイプ。しかし,分厚いコードに支えられた右手は,白人でありながらグルーヴィーで黒っぽい。リーダーは1992年に出した最初のトリオ盤でもウェス・モンゴメリーを2曲採り上げ,今回もでウェスを。この辺りが趣味を反映していると言えるのでは。全体としては,┐任修虜酩覆鮗茲蠑紊欧織轡澄次ΕΕルトン辺りの黒人モード弾きに,かなり影響されているようです(2003. 2. 9加筆)。

★★★★1/4
Chris LOMHEIM "And You've been Waiting?" (IGMOD: IG 49401-2)     
romancing purple beau's blooze mother's waltz jade things love makes fools of us all lilac the alter of change waltz for Tee and you've been waiting? leaves
Chris LOMHEIM (piano) Gordon JOHNSON (bass) Jay EPSTEIN (drums)

ピアノ・トリオに隠れた名品の多い米IGMODに残された,クリス・ロンハイムの初リーダー作。ピアニストには人を食ったような才人タイプと,生真面目さが伝わってくるような努力型とがいるように思うのですが,そこへ行くと彼は典型的な後者。技巧的に闊達な方ではありませんけれど,エヴァンス派の流れを汲む趣味のよいスタイルで,ひたすら端正に旋律を謳う好ましいピアノ弾きです。さらに曲書きとしても彼は魅力的。ポエティックな佳曲を書く。ここではその才能をも利して,全てオリジナルで固める丁寧な作り。初リーダー作ということで,心に期するものがあったのでしょう。地味でも,プロの良心を感じる小傑作。その後,IGMODは活動が休止状態に陥ってしまい,彼の活動も聞こえなくなってしまいました。このまま消えるのは惜しいです。

★★★★★
Giovanni MIRABASSI "Architectures" (Sketch: SKE 333010)     
un dimanche de pluie cafe francais really don't match place de la mairie one more blues 28 rue Manin lullaby la fin de quelque requiem
Giovanni MIRABASSI (piano) Daniele MENCARELLI (bass) Louis MOUTIN (drums)

「エヴァンス派」がそうであるように,ピアニストのスタイルが一般名詞になるには追随者が必要。上でご紹介した伊ジャズ界の最高峰ピエラヌンツィのスタイルは天才肌なので一代限りかと思っておりましたが,この主人公は注目すべき第二世代の1人。フランス盤ながらお名前からするとイタリー系のこの御仁,かの地ならではの信じがたいタイム感とトリッキーなテクを併せ持ち,ピエラヌンツィ以上にロマンチックな曲を書く人。本盤はその溢れんばかりの才気が横溢した極上品です。惜しむらくは脇役(ベースのメンカレリ)が些か遅れ気味。,離▲襯魁Ε愁蹐覆鼻いなり間抜けに音を外してがっかりさせられました。それさえ無ければ極上盤なだけに惜しいです。その後現在(2002年)までに,彼は同じスケッチからソロ作一枚,トリオ盤一枚を出しました。後者はライヴ録音で,本盤よりもグループとしてこなれた演奏が聴けます。

★★★★1/4
Carl Fredrik ORRJE Trio "102 Green St. N.Y.C." (Arietta: ADCD 12)     
song for Emiko the beginner blues for Gwen one finger snap born to be blue I didn't know what time it was just one f those things empty streets I'll close my eyes dark skies
Carl Fredrik ORRJE (piano) Essiet ESSIET (bass) Tony REEDUS (drums)

この人はほとんど無名なうえに,初リーダー作品と思しき本盤の装丁は酷い。ペラペラの画用紙を袋とじにしただけのジャケット,よほどお金のないレーベルなのか,はたまたプロジェクトに掛ける予算が乏しかったのかと哀しくなります。それでも内容が良ければ,全て水に流してしまうのがジャズ・ファンの悲しい性。脇役陣の豪華さはどうでしょう。きっと,彼は名を捨てて実を取った,すなわち脇役に投資したのに違いありません。屈強な脇役のサポートを受け,主役も持ち味のモーダルな演奏を展開して溜飲を下げます。それにしても,標題の住所は,誰のなんでしょう?ストーカーに狙われたりしないんでしょうか(来たキツネ氏によると,スタジオの番地だそうです・・2006, 2. 16)?ちなみに,枠爐留さん(日本人?)に捧げた曲らしいです。ちなみにこの盤,その後国内のレーベルが日本盤を出したようですが,やはりジャケットは差し替えられてました(笑)

★★★★1/2
Eliot ZIGMUND "Dark Street" (Free Lance: FRL-CD 022)     
dark street gradually I inserted myself into the conversation fragment blue in green fairy tale Brooklyn song time is just when you wish upon a star Werner the other Brooklyn song
Eliot ZIGMUND (drums) Mike RICHMOND (bass) David BERKMAN (piano)

1993年に出たこの盤は,知る人ぞ知る裏名盤の一つ。リーダーのエリオット・ジグムンドは,かつてビル・エヴァンス・トリオのレギュラー・メンバーだったこともある実力者。しかし,リーダーには申し訳ないながらこの盤の魅力の大半は,脇役の2人が見せる高度な協調にあり。の標題から明らかなように,ピアノのバークマンはケニー・ワーナーの系譜に連なるアブストラクトなモード奏法が持ち味で,これが実に好い。特にオリジナルの△惑鯣の名演奏。そこへ知る人ぞ知る絡み名人,マイク・リッチモンドがこれ以上ないほど艶かしく,ねっとりと淫靡に絡みつき,まるで日活映画のような官能絵巻を繰り広げています(死語)。

★★★★1/2
John STETCH "Green Grove" (Justin Time: 8473- 2)     
green grove chips for crunch what is this thing called love? sister cheryl body and soul zabava
John STETCH (piano) Kieran OVERS (bass) Ted WARREN (drums)

カナダのピアニスト,ジョン・ステッチのリーダー作品。収録曲は6曲と少ないものの,内容は素晴らしい。初期のアルバム(『カルパシアン・ブルース』)を聴くと,彼はチック・コリアの影響から出発したようですが,それから僅か数年で,本盤に聴ける甘美で知性溢れるキース系のピアノ弾きへと脱皮しました。λ粗の独奏部ではかなり気合の入った両手弾きを聴かせており,テクニック的にもしっかりしたものを持っている様子。ベースのキーラン・オヴァースは,カナダのジャズ界では大物と目される人物で,この他にもエヴァンス派の好手ブライアン・ディッキンソンのグループで録音をしています。余談ながら本盤,1998年度Maurierジャズ賞受賞盤です。

★★★★
Pete SIERS Trio "Those Who Choose to Swing" (Bopo: PST 111)     
sweet Pete girl talk if you could see me now 39”-25”-39” let me call you somewhere gone with the wind just squeeze me arjuna sunny day by day tea for two blues for Stephanie
Pete SIERS (drums) Paul KELLER (bass) Johnny O'Neal (piano)

ピート・シアーズは中西部ジャズのメッカ,ミシガン州アン・アーバーを本拠に活動中の白人ドラマー。恐らくは気心の知れた地元の顔馴染みと,気張らずリラックスした雰囲気の中製作したであろうこの作品,これを機に名を上げてやろうとかいう野心はまるで感じられません。しかし良い意味でジャズを楽しもうというその姿勢が,時には思いがけず上ものに化けることもあるわけです。テクニック的には決して達者とは言いがたいジョニー・オニールのピアノが兎に角ご機嫌で,まるでレイ・ブライアントでも聴いたかのような,心地よさを残してくれます。ベースのポール・ケラーはミシガン近郊では有名人。同じくミシガン地域の名手リック・ロウと組んでトリオ盤も出しました。

★★★★★
Esbjörn Svensson Trio "Winter in Venice" (Gul C-2: 74321 539612)    
calling home winter in Venice at saturday sembrance suite: part 1- 4 don't cuddle that crazy cat damned back blues in the fall of things as the crow blues the second page hercules Johnssons lat
Esbjörn SVENSSON (piano) Dan BERGLUND (bass) Magnus ÖSTROM (drums)

管見の限り,1990年代後半以降のスウェーデン・ジャズ界で,音楽性でも演奏面でも最先端を走っているのは,恐らくこのトリオでしょう。リーダーはキースを咀嚼したピアノ弾きですが,その後ロックに接近。ロックのリズムを採り入れて,独自の語法を確立しました。このアルバムは彼らが独自の語法を完成した記念碑的一枚。キース・ジャレット「バイ・バイ・ブラックバード」の,あの垢抜けて飄々とした内省性。その乾いた空気感に拒絶反応を示すのか,それともその中にたゆたう,一つ抜けた内省の高さを読み取るのかで,この盤の評価は分かれそう。正直,小生も一聴した時点では乾いて地味なジャズ・ロック風の乗りについて行けず,放置していたことを白状せねばなりません。コンセプト・アルバム仕立ての巨大な統一感を有するこの盤は,北欧ジャズには極めて稀な,スルメ盤です。目を白黒させながらも耳を貸そうとする少数の変人には,やがて巨大な至福の時が訪れるでしょう。スタジオ経営のレーベルによる集音も芳醇で素晴らしいです。余談ながら,こののち彼らは,テクノ風の音楽への接近を試みてさらなるニュー・ウェーブ志向を打ち出し,現在も注目すべき活動を続けています。

(2002. 7. 2 text revised)