1990年代のジャズC ピアノ編(4)


★★★★★
Achim Kaufmann Trio "Weave"(Jazz 4 Ever : J4E 1998)    
@ritual Athe night sky is a rock Bhidden sevens-thinking backwards Cthree thimbles Dasking for trouble Ecarnies Fredmm saat Gthe sinner’s march Hkoen Ithe embalmers’ waltz
Achim KAUFMANN (piano) Ingmar HELLER (bass) Jochen RUCKERT (drums)

アヒーム・カウフマンは1962年,独アーヘン生まれ。ドイツといえばECMを擁する北欧ジャズの一大拠点にして先進地。果たしてこれも,北欧ジャズの新しい傾向を模索する,大変優れたトリオ盤です。内容は北欧ジャズの硬質の音作りが基調で,そこにファンクを始めとするブラック・ミュージックのグルーヴを断片化しつつコラージュした欧州版M-BASE派。しかし,本場のM-BASE派のそれがファンクやラップを基調としているのに対し,このトリオが見せる即物的なリフ主体の緊密な編曲イディオムは,むしろバルトークの顕著な影響を感じさせるもの。もしやとは思いましたが,やっぱりこの人,コローニュ音楽院卒でした(つまり,ジョン・テイラーの弟子筋)。最近の欧州ジャズの中でも,コローニュ楽壇の演奏家には,ヨーロッパ近現代音楽の遺産を肯定的に咀嚼することによって,万事アメリカ中心に回ってきたジャズ史のコペルニクス的転回を図ろうという気概が強く感じられます。このトリオのサウンドは,目下その最も幸福な産物というべきものでしょう。アプローチは晦渋ですし,テンションは異様に高い。ただでさえ嫌われがちな現代音楽の手法でジャズをやるこのトリオ。誰にでもお薦めできるものではありません。しかし,一見フリーなようでいて,細部に至るまで緻密に推敲された彼らの音楽には,老舗のジャズ大国が失ってしまった,「自分たちのスタンスで新しいジャズを切り開こう」という野心が,紛れもなく充満している。北欧寄りの演奏がお好きな方,多少難解ではありますが,ぜひ(2003. 11.22補筆)。

★★★★1/2
 Oliver Kent Trio "400 Years Ago Tomorrow"(Mons : MR 874- 814)    
@prenty of twenty Athis here Bfive moons around venus Cautumn nocturne DDeja vu E400 years ago tomorrow Fskylark Gmy one and only love
Oliver KENT (piano) Essiet ESSIET (bass) Joris DUDLI (drums)

スイスのジョニー・グリフィンことローマン・シュワラーのカルテット盤でも,器用にウイントン・ケリー風を披露しているオリヴァー・ケントの初リーダー作です。最近の若手で1番人気といえば,ブラッド・メルドーとヤン・ラングレン。ライバルらしく,2人は演奏スタイルまで好対照。片や脱構築主義者のメルドーに対し,片や保守派の頭目ラングレン。冒険的ではあるが才気をまとめ切れないメルドーと,まとまっちゃってはいても文句のないフレージングのラングレンと,長所欠点も両極端。ジャケットのお顔からしてはしこそうなケント君は,時代を象徴する二人の間を狙ったのでありましょう。そのしたたかな戦略は見事に成功。そのせいか,冒頭「プレンティ・・」が,メルドーのデビュー盤に入ってた「セイ・グッドバイ」を,モロいただいているように聞こえてしまいます。これって下司の勘繰り?

★★★★3/4
Bill Charlap Trio "All Through the Night"(Criss Cross : 1153CD)     
@all through the night Aroundabout Bput on a happy face Cit’s so peaceful in the country Dthe best thing for you would be me Epure imagination Fnobody’s heart G dance only with me/ dream dancing HI've just seen her
Bill CHARLAP (piano) Peter WASHINGTON (bass) Kenny WASHINGTON (drums)

アメリカにおける最近の若手ピアニストの中では,デヴィッド・ヘイゼルタインと並んで,今一番ホットな存在と思われるのがこの人。最近,国内盤が発表されたので,もはや彼は誰でも知っているピアニストとなってしまいました。彼とヘイゼルタインは,どちらも素晴らしいテクニシャンであり,その技巧を駆使したドライブ感溢れる演奏が持ち味です。ただ,チャーラップの場合は,ヘイゼルタインよりもっと小粋で軽妙洒脱なタッチが特徴。目下最高作と思われる本盤のライナーを,ジョージ・シアリングが書いているというのは,彼のそうした持ち味を端的に反映しているように思われます。歌ものを中心にした本盤の選曲,彼のスタイルを良く引き出しています。

★★★★1/4
Phil Aaron Trio "I Love Paris"(IGMOD : IG- 49402- 2)
@it could happen to you Aold world blues BI love Paris Cin love in vain Dfirely waltz Ehard ball Fskylark Gcon alma HStella by starlight ICalifornia song Jall the things you are
Phil AARON (piano) Tom LEWIS (bass) Jay EPSTEIN (drums)

フィル・アーロンは,既にご紹介したビル・チャーラップ同様,白人らしいキャッチ−で小粋な演奏を持ち味にしたピアニスト。テクニックの面では,有名なチャーラップより若干見劣りがしてしまうのですが,それを補って余りあるのが全編に溢れる彼の軽妙な歌心。気難しい小細工は一切なく,みんなが知っている歌もの系のスタンダードも多い本作品は,分かりやすさと内容の良さで以って,これからジャズを聴こうという方から,年季の入った煩さ方まで,どなたにも安心してお薦めできる内容といえるのでは。ちなみにドラムスのエプスタインは同じIGMODにトリオ作があり,これも好内容です。

★★★★3/4
Steve Kühn Trio "Dedication"(Reservoir : RSR CD 154)    
@dedication Athe zoo BI waited for you Ceiderdown Dplease let go Eit’s you or no one Ffor heaven’s sake Glike someone in love Hblue bossa
Steve KÜHN (piano) David FINCK (bass) Billy DRUMMOND (drums)

1990年代の10年間で,最も評価すべきシリーズというのは,恐らくこのレザボア盤の「ニューヨーク・ピアノ」シリーズではないでしょうか。このシリーズでその存在が広く知られるようになったピアニスト,息を吹き返したピアニストは少なくありません。スティーヴ・キューンはわが国にもファンが多く,決してマイナーではありませんが,それでも1980年代以降あまり活躍することのなくなっていた彼に,いま一度息を吹き込んだのが,レザボアにおける連作であることは間違いないところでしょう。かつて北欧系の硬質なピアノを弾いていた彼が,今やすっかり好々爺。バップ・ピアノに色目を使った悠々としたその演奏はまさしく「亀の甲より年の功」です。

★★★★
Jeff Hamilton Trio "Hands On"(Mons : MR 874-812)     
@juicy lucy Awhisper not Bsomewhere Cmove D3000 miles ago Edaahoud Fto you Gspit season blues
Jeff HAMILTON (drums) Larry FULLER (piano) Lynn SEATON (bass)

ジェフ・ハミルトン率いるレギュラー・トリオ録音。リーダーであるドラムスのハミルトン氏には申し訳ないのですが,この盤の魅力,それはピアニスト,ラリー・フラーの,心憎いばかりにファンキーでグルーヴィーなピアノにあります。冒頭のホレス・シルヴァー,続くベニー・ゴルソンなど,ファンキーなジャズの最も美味しいところを切り取った本盤は,そんな彼の独壇場ともいうべき展開に。ハミルトンも巧みなブラシ裁きで邪魔をせず,一体となっての快演でニヤニヤ笑いも止まりません。ピーター・マドセン盤などに溜飲を下げた方はぜひお試しを。

★★★★★
Lars Jansson Trio "Hope"(Imogena : IGCD 078)  
@how deep is the ocean Athe tree Bhope Clive, be where you are Dwhy was I left under the sky Eliving under the road to paradise Fsummer rain Ga little blues for you Ha blissful smile Iin peaceful sleep
Lars JANSSON (piano) Lars DANIELSSON (bass) Anders KJELLBERG (drums)

ラーシュ・ヤンソンは1980年代以降,キースのピアニズムを咀嚼した北欧圏でもトップ・クラス名手として名を挙げてきました。ピアニストとしても一流ながら,作編曲家としても非凡な才覚を持った人物で,過去の作品もジャズに止まらない総合音楽家を志向するコンセプト・アルバム風あり,前衛音楽風ありと多彩。シンセが入ったり,かと思えば異様に晦渋実験音楽だったりと,なかなか尻尾を掴ませてもらえませんでした。この作品は,そんな彼が漸くジャズ・ピアニストとしての本分に立ち返り,溢れんばかりのロマンティシズムと抒情性,豊かな作曲能力とテクニックの全てを,奇を衒うことなく注ぎ込んだ傑作。聴いているこちらが気恥ずかしくさえなってしまうほど,芳醇な甘美さに溢れた,抒情ピアノ・トリオ名盤です。

★★★★1/4
Bevan Manson Trio "Mystic Mainstream"(A- Records : AL 73169)
@all blues Aseats two Bgiant steps Cthe farness of you Dsmall truckin’ Enight and day Fcaramel Gtaking a chance on love Hbut beautiful
Bevan MANSON (piano) John LOCKWOOD (bass) George SCHULLER (drums)

ボストンのジャズ・シーンというのは,ニューヨーク,シカゴ,西海岸の蔭に隠れて,なかなか陽が当たらない気がするのですが,その実かつてはバリトンのサージ・チャロフやラッパのハーブ・ポメロイ,最近であればジョージ・ガゾーンやユージン・マスロフなど優秀な人材を抱えたアメリカ北部の一大ジャズ拠点。そこから鳴り物入りでデビューしたこのピアニストは,既にラッパ吹きトニー・ダヴニのリーダー作などでサイドメンとしては知る人ぞ知る存在。ボストン・ジャズの牙城ニュー・イングランド音楽院で教職経験もある実力者です。左手のカウンターの当て方ひとつで自在に空気を変える彼の知的で内省的なピアニズムは,あの「オール・ブルース」を完全に脱構築してしまう,白眉の@に集約されています。

★★★★1/4
Rick Roe "The Changeover"(Unknown Records : ROE 1234)   
@skeletones AClaire Bhop on pop CSchroeder’s samba Dthe changeover Ezacatecas Fhow deep is the ocean Gdarn that dream Hjust one of those things Imy one and only love Jthe song is you Ksweet Geogia brown
Rick ROE (piano) Rodney WHITAKER (bass) Karriem RIGGINS (drums)

沢山ジャズを聴かれている方なら,ロドニー・ウィテカーのリーダー作あたりで隅のほうにこっそり参加していた彼のことをご記憶かもしれません。デトロイト界隈で地道に活動しているリック・ロウは,1993年と1999年のセロニアス・モンク・コンペティションで準決勝まで進んだ人物。とはいえ大アメリカ・ジャズ・コンペ(1994年)の優勝経験もあり,知名度不相応な実力者であることは明らかです。これは彼の2枚目のリーダー作で,前述のウィテカーが恩返し的参加をしている一枚。テクニック的にはほんの少し見劣りこそしますが,リック・ロウはビル・チャーラップばりの素晴らしいタイム感の持ち主で,ここでもモード色の利いた軽妙洒脱なピアノ・タッチを全面に押し出し快演連発。これほどの芸達者が田舎暮らしとは,俄かに信じ難い話です。器用過ぎるその技巧が,却って軽く見られるという仇になっているのかも。ロドニー・ウィテカーのベースがゴツくて渋い。スティーブン・スコット盤でデビューしたカリーム・リギンズのドラムもセンスが良いです。

★★★★3/4
Christoph Stiefel "Sweet Paradox"(Jazz Line : JL 1148)    
@speaking to you Asweet paradox Bpavane Cbebop Sally Dromance for Eliane Efootprints Fle feu sacre Gstill a miracle Hgnome dance Iberceuse
Christoph STIEFEL (piano) Michel BENITA (bass) Peter ERSKINE (drums)

リーダーは1961年チューリヒ生まれのスイス人。1984年にアンドレアス・ボレンウェイデル(Andreas Vollenweider)のサイドメンとなって本格的にプロ入り。1990年に自己のグループを結成しました。2003年末現在まで3枚のリーダー作がありますが,恐らく出来の面ではこの盤が傑出していると思います。1996年にラテン音楽のバンドを結成する傍ら,翌年にはプロ・ヘルベチア文化賞を受賞してチューリヒの在住作曲家となり,協奏曲を作曲(1998年初演)するなど活動は広範囲。そうした幅広い視野が,いい形で彼の演奏に融通を与えている点は賞賛に値するでしょう。本盤は1995年に出た2枚目のアルバム。デビュー作はチャーリー・マリアーノを加えたカルテット録音だったため,初めてのトリオ作品でした。一聴,ジョン・テイラー譲りの北欧系ピアノを基調としたスタイルの上に,標題通りの「甘美な」シーズニングが絶妙に絡み,ともすれば晦渋に響く北欧系の音に適度な暖かみを与えて成功していると思います。分けてもポコポコ親父アースキンのお家芸が縦横無尽のAは強烈。刺身のツマにしかならんようなパーカッションでこれだけホットな音空間を創出するアースキンも,それに呼応して弾きまくるリーダーにも,ただただ唖然。ラテン音楽への傾倒が思わざる形で実った快演ではないでしょうか(2003.12.14補筆)。