往年のジャズ 特集:ピアノ編(1)



★★★★1/2
Ray BRYANT Trio "Little Susie" (Sony: SRCS 9189)
little Susie by myself blues for Norine moon-faced, starry-eyed big buddy willow weep for me greensleeves
so in love if I can just make it misty

Ray BRYANT (piano) Tommy BRYANT (bass) Eddie LOCKE (drums, on 1-3. 10) Gus JOHNSON (drums, on 4-9)

レイ・ブライアントは,最も分かりやすい形で,ジャズの愉しさを教えてくれるピアニストです。CDの登場で,かつては相当マニアックな一部のファンにしか知られていなかった彼の演奏へも,気軽に触れる事ができるようになりました。いい時代になったものです。ノリが良くて,分かりやすくて,しかもジャズならではのアドリブの妙も存分に味わいたいという人には,ブライアントはまさにおあつらえ向きのピアニスト。特に1950年の後半にデビューしてから,その素晴らしい技巧ゆえに大手に乞われコマーシャルな方向へ流れてしまうまでの数年間に,彼が残した数枚のトリオ盤は,長い彼の芸歴の中でも最良の演奏を聴ける黄金時代です。この盤は,ブライアントの持つご機嫌なピアノ・タッチが特に良く出た痛快作。タイトル曲では,ファンキーなピアノの名手,ボビー・ティモンズが手拍子で参加!陽気でくつろいだジャズの雰囲気を存分に堪能できます。

★★★★1/2
Enrico PIERANUNZI Trio "Vol. 2" (YVP: 3015 CD)
blues for us hindsight alba prima blue ballad open event 3 qui sait? chiara song for my brother Chet autobahn open event 4
Enrico PIERANUNZI (piano) Enzo PIETROPAOLI (bass) Alred KRAMER (drums)

エンリコ・ピエラヌンツィは1980年に入ると,かの地へやってきたチェット・ベイカーやポール・モチアンら大物との共演によって広く名声を得ることになります。そうした評価に目をつけたのがYVPレーベル。今では輸入盤ファンならみんな知っているYVPの初期の名盤となったのが,このピエラヌンツィの「スペース・ジャズ・トリオ」による連続録音でした。有名なのは第1弾のほうですが,第2弾となったこの盤はいっそう安定感が増し,作品としての出来映えは前作以上。持ち前のテクニックとタイム感を駆使した超絶演奏あり,ロマンティックなバラードありと,多彩な構成で飽きさせません。

★★★★1/2
Co JAZZ "Volume 1" (TCB: 89102)
invitation have you met Miss Jones? the mascarade is over cheek to cheek Mister “T” it might as well be spring
soul eyes missile blues

Andy SCHERRER (piano) Erich PETER (bass) Peter SCHMIDLIN (drums)

スイスの一線で活動するサックス奏者アンディ・シェラーと,ドラマー,ピーター・シュミドリンは,バーゼル音楽院時代からのお仲間。その両者がかつての学生時代を懐かしんで結成した臨時編成トリオがこのコ・ジャズです。シェラーはサックスの演奏家として有名なのですが,在学当時はピアノも弾いており,2人は良く一緒にセッションし合った仲だったということから,このグループ結成に当たり不承不承ピアノを弾くことにしたとか。いわば余芸なわけですが,これがどうしてレッド・ガーランド風の小気味よいタッチで巧いこと。ジャズはテクニックじゃないとは良く言われますが,こういう盤を聴くとそれを実感として感じずには居れません。

★★★★★
European JAZZ Trio "Chateau en Suede" (Alfa: 29R2- 57)
Eleanor Rigby chateau en Suede roofie baubles, bangles and beads orange city what the hec nature boy
passage of Jaco beautiful love you don’t know what love is my ship gentle brain

Karel BOEHLEE (piano) Frans Van der HOEVEN (bass) Roy DACKUS (drums)

オランダのハーグ音楽院で教鞭をとるエヴァンス派の名手,カレル・ボエリーを中心に結成されたトリオの懐かしい一枚を。ひと昔前なら,これをとり上げようものなら冷笑の嵐。ジャズの世界はどこか判官びいきというか,サドマゾ的なところがあり,エヴァンス派でスタンダード曲中心だったこの盤は,国内盤でナンパ路線の売り方をされたのも手伝って,発売当時玄人筋での評価は酷いものでした。しかし芸風がどうあれ,我々が聴くのはあくまで音楽そのもの。内容がいいものは,月日がたつほどにその輝きを増すのです。この人は実に趣味のいい名手でした。もう10年余が経ち,同トリオのピアニストも後任に変わってしまい,今やボエリーも玄人好みの渋いピアニストの仲間入り。「スウィッチ」以降リーダー盤がないようで,そろそろ近況を聴きたいものです。

★★★★1/2
Ronnell BRIGHT "Bright's Spot" (Alfa: 29R2- 57)
pennies from heaven gone with the wind if I’m lucky blue zepher struttin’ in I see your face before me
Bright’s spot little girl blue
Ronnell BRIGHT (piano) Kenny BURRELL (guitar) Leonard GASKIN (bass)

ロネル・ブライトは,バップ期に活躍したピアノの隠れ名手。いつの時代にも,実力的には素晴らしいものを持ちながら運がついて回らなかった人は少なくありませんが,彼もそうした名手の一人。シカゴ・ユース・オーケストラのソロ奏者に14歳で抜擢されるなど,クラシックのコンサート・ピアニストとしての実績もある彼の魅力は,バップ期のピアニストには稀な,抜群のテクニックとハーモニック・センス。この初リーダー作は,黒人らしいジャズのフィーリングと,クラシック出身らしい端正なピアニズムが最上の形で発揮された名作。スイング時代の標準的編成であるギター入りのピアノ・トリオ編成も,彼の趣味の良さを一層際立たせております。

★★★★★
Dodo MARMAROSA "Dodo's Bounce" (Fresh Sound: FSCD- 1019)
Dodo’s bounce opus#5 you thrill me compadoo I’m in love bopmatism lover come back to me
raindrops smoke gets in your eyes escape deep purple tea for two tone paintings I 他全30曲

Dodo MARMAROSA (piano) Kenny BURRELL (guitar) Gene ENGLUND (bass)
Lucky THOMPSON (tenor sax) et al.

上でロネル・ブライトの話をしましたが,ドド・マーマローサも彼同様バップ期に活躍した隠れ名手。ブライト同様,過小評価の極みにある人物です。しかし,バップ黎明期にはデューク・ジョーダンやアル・ヘイグらと並び,パーカー・コンボのピアニストに抜擢されるほど優れた才覚の持ち主でした。その優れた技巧はA.ヘイグをして「比肩するテクニックの持ち主は,絶頂期のバド・パウエルくらいしかいなかった」と言わしめたほど。もし彼がその後麻薬渦に冒されなければ。シカゴに引っ込んでしまわなければ。ジャズ入門書の体裁も,少しばかり違うものになっていたかも知れません。このCDは,デビュー後から麻薬に溺れる前の僅かな一瞬,その輝かしい才気の全てを投入したリーダー録音のコンピレイション。バドに比肩する技巧,高い作曲能力,他のバッパーには望めないエレガントなピアニズム。その全てが詰まった永遠の金字塔。

★★★★★
Clare FISCHER "First Time Out" (EMI: TOCJ- 5430)
Nigerian walk toddler stranger afterfact free too long piece for Scotty blues for home I love you
Clare FISCHER (piano) Gary PEACOCK (bass) Gene STONE (drums)

ビル・エヴァンスのトリオがジャズ界へもたらした影響はとにかく大きかったので,程なく彼の理知的なピアニズムを咀嚼した上に,高度なオリジナリティを発揮する優れたピアニストが多数出現します。クレア・フィッシャーは,1960年前半に出現したそれらピアニスト達の中でも,特にエヴァンスの持つ緊張感,テンションの部分を最も色濃く引き継いだ新しい感性として,大いに注目を集めたものでした。残念ながらその後のフィッシャーはラテン音楽への傾倒を進めたためジャズの本流からは逸れてしまうのですが,1962年に録音されたこの初リーダー作には,ポスト・エヴァンスの新しい音楽的可能性が目一杯詰まっています。エヴァンスにスコット・ラファロのベースがあったように,こちらにはゲイリー・ピーコックのベース。この辺り,何とも示唆的ではありませんか。なおこの作品,国内盤が以前CD化されたのですが,現在では廃盤。これほどの名盤がどこからも出ていないという状況,お寒い限りです。

★★★★1/2
Fred HERSCH Trio "Horizons" (Concord: CCD- 4267- 2)
my heart stood still moon and sand the star crossed lovers one finger snap surray with the fringe on top
miyako cloudless sky
Fred HERSCH (piano) Marc JOHNSON (bass) Joey BARON (drums)

フレッド・ハーシュはアメリカのピアノ弾き。自らもフランス近代音楽への憧憬を示した『サラバンド』を録音している彼は,ベルギーの俊才イヴァン・パデュアールも心酔してトリビュート作を出すくらい趣味の良い作曲センスと,エヴァンスの流儀を巧みに昇華した叙情的な演奏に定評があります。既に20年近いキャリアを誇る彼だけにリーダー盤は数多く,幸運にもその半数近くはトリオ録音なんですが,残念なことに,彼は脇役の人選に無頓着。このため、特にドラマーの無神経なバッキングのせいで駄盤へ陥った作品も少なくないのが実状です。この作品は1985年にコンコードから発表されたもの。メジャー・デビュー録音でありながら、マーク・ジョンソンとジョーイ・バロンが脇を固める強力な布陣を敷けた事実ひとつ取っても,版元がいかに彼へ期待を寄せていたかは明らか。この盤の価値は,ひとえにこの脇役の良さに尽きるでしょう。自在に形を変えながら,シャープに,そして滑らかに絡みつく両雄のバックに支えられ,チック・コリア譲りのパラパラしたフレージングで明快に歌うプレイの若々しさは,十余年の時が経過した今聴いても全く新鮮。こんにちの彼の耽美な演奏と比べると,だいぶ毛並みは違うものの,文句なく現在でも彼の代表作と呼んで構わない出来映えではないかと思います(2004. 2. 19補筆)。

★★★★1/4
Tete MONTOLIU Trio "Recordando a Line" (Tokuma Japan: TKCB- 70887)
I should care sweet Georgie fame we’ll be together again I can’t get started lover man
I fall in love too easily blues for Line when I fall in love body and soul my funny valentine

Tete MONTOLIU (piano) Erich PETER (bass) Joe NAY (drums)

イタリーの最高峰がピエラヌンツィなら,スペインの最高峰はおそらく,このテテ・モントリューあたりになるのでしょうか。ジャズ界に盲目のピアニストは少なくありませんが,皆が皆素晴らしいテクニックの持ち主だから畏れ入ります。特にこの人はその真打ちともいうべき超絶技巧。オスカー・ピーターソンも冷や汗をかかずには聴けないであろうハード・ドライヴで疾走する様は,さながら重戦車の迫力です。この作品は長らく彼の代表作と噂されながら,日の目を見なかった「元・幻盤」のひとつ。愛奏曲の△鯢頭に,走り出したらもう止まらない。

★★★★1/2
Rob MADNA Trio "I Got It Bad and It Ain't Good" (Atelier Sawano: AS 002)
the end of a love affair P. J. I got it bad and that ain’t good let me know quietude upper Manhattan medical group
con alma lima a princess like Sonny

Rob MADNA (piano) Koos SERIERSE (bass) Erik INEKE (drums)

このロブ・マドナという人はもともと,バップ系のピアノを弾いていた人らしいのですが,その後エヴァンス派に転身。この作品はその華麗なる変身後の彼を捉えた超レア盤として,かつてはマニア垂涎のひと品だったもの。CD化のお蔭で,誰でも買うことができるようになりました。元々がバピッシュな演奏をしていたからか,エヴァンス派にしてはケリー風の単音主体の歌いまわしが特徴的で,聴きやすいピアノです。オランダのジャズ・ピアニストには,同じく趣味の良い名手のピム・ヤコブスがいますが,△呂そらく彼へ捧げたものでしょう。