往年のジャズ 特集:ピアノ編(2)


★★★★★
Dave McKENNA "The Piano Scene of Dave McKenna" (Koch : Koc 3-7809-2)
this is the moment silk stockings 'way down yonder in New Orleans fools rush in (where angels fear to tread) expence account lazy splendid splinter lickety split along with me secret love da-da-da go dig-it I should care silk stockings (alt.) expense account (alt.) 'way down yonder in New Orleans (alt.) lickety split (alt.) secret love (alt.) da-da-da go dig-it (alt.) I should care (alt.) I should care (alt.)
Dave McKENNA (p) John DREW (b) Osie JOHNSON (ds)

「往年のジャズ(全般)」のでも紹介したジョー・ワイルダーやリチャード・ウィリアムスと,このデイヴ・マッケンナには共通するところがあります。並み外れたテクニックと,一歩間違えば器用貧乏にもなりかねないほどヴァーサイタルな演奏。それらを全て兼ね備えたマッケンナはまさに,彼らミュージシャンズ・ミュージシャンの代表格。彼が一般のジャズ・ファンにも知られるようになったのは近年,すでに老境に達してからエヴァンス派寄りの甘い演奏をするようになってのことですが,これは逆にいえば,彼がミュージシャンズ・ミュージシャンの栄光の座から退いた事を意味しているに過ぎません。彼の本当の素晴らしさを知るのに,絶頂期の1958年の演奏を集めた本盤の右に出る者はありますまい。汲めども尽きぬ怒涛のテクニックと歌!ただただその輝かしい演奏に圧倒されるばかりです。

★★★★1/2
Yancy KÖRÖSSY "Identification" (MPS-Polydor : POCJ-2630)
all the things you are bye bye blackbird sorrow Stella by starlight identifition I can't give you anything but love I'm on my way stompin' at the savoy
Yancy KÖRÖSSY (p) J.A. RETTENBACHER (b) Charly ANTOLINI (ds)

ルーマニアのピアニスト,ヤンシー・キョロシーは,ようやくこの国内盤の発売によって,わが国でも名前を知られるようになったピアニストです。1970年代を目前に録音された本盤は,「自分の存在証明(identification)」の題が示唆する通り,ストライド奏法に始まってバップ風から前衛まで全てをモチーフとしつつ,その雑多な音楽表現を通じて,スタイルに左右されない一貫した存在証明を得るべく取り組んだ野心作。今でこそ,技巧闊達なピアニストは少なくありませんが,この当時,ここまで熱い情感と,優れたテクニックを持つピアニストはそういませんでした。ほどばしる情熱と漲るエネルギーを音符の連なりにぶつけた本盤は,この当時の混沌としたジャズ・シーンの姿を紛れもなく刻印した,野心作と言えましょう。

★★★★1/2
Richie BEIRACH "EON" (ECM : 1054)
nardis places seeing you EON bones mitsuku
Richie BEIRACH (p) Frank TUSA (b) Jeff WILLIAMS (ds)

意外な気がしますが,リッチ−・バイラークはアメリカ人。そんな彼が,スティーヴ・キューン同様いまだにヨーロッパ・ジャズの代名詞に使われるのは,一にも二にもこの作品と,本盤を録音したECMのお蔭と言えましょう。1974年に録音されたこの作品は彼のデビュー盤。ジャック・ディジョネットら豪華なサイドを迎えた有名な「ELM」の陰に隠れてしまいがちですが,この当時ともに活動していたフランク・トゥサ/ジェフ・ウィリアムスの緊密なバックを受けその詩的で頽廃的な叙情が限りなく飛翔したこの盤は,紛れもなく彼の創作活動のピークを示す傑作です。その後の彼の苦悩は,計らずもこの処女作で頂点を極めてしまった自身の黷vだったのかも。

★★★★1/2
Al HAIG Trio "Invitation" (Spotlite-Somethin' else : TOCJ-5525)
holyland no stranger love sweet and lovely invitation enigma saubo city blues wave you are my everything if you could see me now sambalhasa have you met miss Jones ? daydream linear motion
Al HAIG (p) Girbert ROVERE (b) Kenny CLARKE (ds)

アル・ヘイグは,バップ期に活躍した名匠中の名匠です。しかし,この時期に活躍したピアニストのほとんどがそうであったように,彼も1960年代以降は決して恵まれた境遇にはありませんでした。そんな彼が息を吹き返したのは,やはりヨーロッパでのこと。フィル・ウッズやデクスター・ゴードンがそうしたように,この時代多くのアメリカのジャズ・ミュージシシャンが海を渡りました。本盤は,見事かの地で復活したヘイグの,復帰後の作品の中でも代表作とされるもの。バップ系でありながら,その目の醒めるような技巧,エレガントなピアニズムはエヴァンス派好きをも唸らせます。高邁な美意識に貫かれた名作です。

★★★★★
Martial SOLAL "The Complete Vogue Recordings Vol.1" (Vogue-BMG : 74321409332)
Dinah la chaloupée Ramona once in while Poinciana the champ farniente pennies from heaven only have eyes for you you stepped out of a dream darn that dream the way you look tonight signal midi 1/4 just one of those things you're not the kind of boy my funny Valentine the song is you ridikiool you go to my head
Martial SOLAL (p) Pierre MICHELOT, Jean Marie INGRAND, Joe BENJAMIN, Benoit QUERSIN (b) Piere LEMARCHAND, Jean-Louis VIALE, Roy HAYNES (ds)

あまり一般のファンには馴染がないにもかかわらず,マーシャル・ソラールは,あらゆる点で他とはまるで別格。彼が一般に馴染がないのは一にも二にも,彼がジャズの(元)中心地であるアメリカではなく,フランスで活躍していたから以外の何ものでもありません。彼が絶頂期に残したヴォーグへの録音は,その破格の超絶技巧が爆発する怪演オンパレード。パーカーやバドが活躍したまさにその時代,ヨーロッパにもこれほど凄いピアニストがいたわけです。バドに勝るとも劣らぬ彼の怪童ぶりを刻印した金字塔としてのみならず,ジャズがバップ期以前からすでに欧米で広く演奏され受け入れられていたことを示す貴重な記録としても,この盤は第一級の内容を持った作品と申せましょう。

★★★★1/4
Ray BRYANT Trio "Plays Basie & Ellington" (Emarcy : PHCE-2023)
jive at five swingin' the blues 9:20 special Teddy the toad blues for Basie I let a song go out of my heart It don't mean a thing if it ain't got that swing medley : sophisticated lady - prelude to a kiss - mood indigo things ain't what they used to be
Ray BRYANT (p) Rufus REID (b) Freddie WAITS (ds)

いわゆる「モントゥルーの一夜」によって,このピアニストが1970年代に華麗な復活を遂げたことは,ジャズのどんな入門書にも書いてあるほど有名です。しかし,その後彼が数年間にも渡って,再びブランクを経験していたことは意外に知られていません。再びマンネリ化を感じ,自分を律するために敢えて作品の録音を止めたのが真相だそうですが,実はその2度目のブランクから見事に復活した時の録音が,この盤なのです。それだけに,これは演奏する喜びに満ち溢れた,まぎれもない秀作。この時の録音は3枚に分けて発売されますが,彼のルーツであるベイシー&エリントン楽団のヒット・ナンバーをご機嫌に演奏したこの一枚は,復帰後の彼の諸作品の中でも,頂点をなす一枚となりました。

★★★★1/4
Bob DEGEN Trio "Hidden Track" (Trion : 1703003-2)
hidden track joy in a scene from sadness waltz street what are clouds but an excuse for the sky change up khan Liazinth A. G. the streaker
Bob DEGEN (p) Mario CASTRONARI (b) Thomas CREMER (ds)

ボブ・デーゲンについては,恥ずかしながら殆どデータを持ちません。最近リーダー盤を出したようですが,1981年にひょっとこのトリオ盤を一枚残したっきり,その後の音沙汰もとんと聞こえてこない人です。昨年に,この盤が再発されたとき,ふと手にとって買ったのは,ひとえに20年近く経ってわざわざ再発=駄作ではなかろう,と踏んだだけのことです。しかし,この盤はしみじみ良いですよ。タイプとしてはゴツゴツしたピアノを弾く人。彼らほど先鋭的ではないのですが,タッチとしては往年のキューン(真下)やダラー・ブランドあたりに近いものがあります。そのキューンあたりに近いロマンティシズムを持つ自身の優れた曲に乗せ,切々とコブシを利かせた本作品,B級ならではの人間臭さに満ちた隠れ名盤です。

★★★★1/2
Steve KUHN Trio "Watch What Happens" (MPS-Polydor : POCJ-2631)
watch what happens Silver lament / once we loved Tom Jones windows of the world / here I am I fall in love too easily ad infinitum
Steve KUHN (p) Palle DANIELSSON (b) Jon CHRISTENSEN (ds)

近年,ECMから15年ぶりに作品を出し,往年の叙情溢れる演奏へと立ち戻って見せたキューンですが,かつての彼の作品のなかでは最上の部にランクされる傑作がこの作品。この当時のキューンは,ビル・エヴァンスの語法を消化しながらも,そこにより鋭角的なタッチを加えカミソリのような演奏をしていました。ヨーロッパを代表する手練れを迎えて製作されたこの作品は,もともと彼に備わっていたヨーロッパ的な持ち味を,ものの見事に引き出すことに成功しているわけです。ロマンティックな楽曲をもとに,溢れ出す彼の鋭角的なリリシズム。研ぎ澄まされた音の美しさに思わず引きこまれてしまいます。

★★★★1/2
Pim JACOBS Trio "Come Fly with Me" (Philips : PHCE-4185)
I've got the world on a string spring will be a little late this year come fly with me autumn leaves who can I turn to I love you body and soul sultry serenade
Pim JACOBS (p) Ruud JACOBS (b) Peter YPMA (ds)

オランダのピアニスト,ピム・ヤコブスの誰もが認める代表作。ハンク・ジョーンズの白人版ともいうべき上品なタッチ,エヴァンス派の流れを汲む流麗な叙情など,趣味の良さやエレガントさを全て兼ね備えたかのような彼のピアノは,ともすれば売れ線狙いの甘いカクテル・ピアノに堕ちる危険と隣り合わせでした。実際彼のリーダー作の多くは,オーケストラを加えたイージー・リスニング風のものが大半だったのです。しかしこの盤は,そんな彼が最も真摯にジャズと向き合った名盤。持てるピアニズムの全てが良い方向に働いた,紛れもない畢生の名演奏です。

★★★★1/2
McCoy TYNER "Reaching Fourth" (Impulse : MVCZ-102)
reaching fourth goodbye theme for Ernie blues back old davil moon have you met miss Jones ?
McCoy TYNER (p) Henry GRIMES (b) Roy HAYNES (ds)

コルトレーンのピアニストとして誰でも知っているマッコイ君の,しかし余り知られていない傑作盤が,1962年に録音されたこのトリオ盤です。彼の有名盤はトレーンのグループを脱退した後のものが中心なのですが,脱退後の演奏は,スピリチュアル音楽とでも呼べるコンセプト・アルバム風であったり,そうでなくともやたらに技巧を振りまわすワン・パターンなものばかり。そうした恣意的ジャズは混沌とした1960年代にリアルタイムでこそ呼吸し得たのであって,単にジャズとして時代を超えた普遍性を有しているとは言い難いものがあります。しかし,この当時の彼のピアノはまだ,そうした「アク」の少ないころの演奏。正統派のジャズに真摯に取り組んだことで,今日聞いても全くカビの生えない,素晴らしい作品となりました。どんな急速テンポでも全く乱れることなく,流麗で外連味のないモーダル・フレーズが全編に溢れ出します。紛れもなく,マッコイの代表作。