1990年代のジャズ ピアノ編(6)


★★★★★
Jan LUNDGREN Trio "Cooking! at the Jazz Bakery" (FreshSound : FSR 5019 CD)
our delight bruz social call little Niles Nica's tempo early autumn Bohemia after dark milestones webb city four hot house on a misty night lady bird if you could see me now sister Sadie relaxin'at Camarillo confirmation groovin' high moanin' värmlandsvisan (dear old stockholm)
Jan LUNDGREN (p) Chuck BERGHOFER (b) Joe LABARBERA (ds)

ヤン・ラングレンはスウェーデンのピアニストですが,北欧系よりもむしろバップ寄りのホットな演奏で抜群の巧さを発揮するピアニスト。そんな彼にとっては,やはりアメリカがジャズの中心地であり憧れの地なのでしょう。そんな彼がアメリカへ渡って演奏活動をするとなれば,燃えないわけがありますまい。アメリカ西海岸で録音されたこの2枚組ライヴは,彼の怒涛のバップ魂が横溢する名盤。選曲からして彼の意図は明らかですが,いつにも増してバップ回帰を高らかに謳ったその演奏はただただ秀逸の一語につきます。D.ヘイゼルタインの「クラシック・トリオ」がたまらんという方,両手を挙げて推薦です。

★★★★
Mark SHILANSKY Trio "First Look" (MMC : MMC20371)
K.W. love for sale how deep is the ocean the café No on the rave here's that rainy day humpty dumpty I remember you
Mark SHILANSKY (p) Steve LASPINA (b) Jeff HIRSHFIELD (ds)

マーク・シランスキーはニュー・ハンプシャー音楽院を1992年に,次いでニュー・イングランド音楽院でケニー・ワーナーに師事し,1994年に卒業したピアノ奏者。本盤は,卒業制作とも言うべき彼の初リーダー作で,1996年に出ました。ジャケ写の表情もどこか憂いを帯びていますが,演奏はこの控えめそうなお顔立ちそのままに端正で真摯なものです。大体,名前が知らんスキーですからねえ(笑)。勧進帳大好き判官びいきのジャズ・ファンならもうこれだけで触手を伸ばしたくなりますでしょう。しかし,中身はさすがワーナーの弟子。エヴァンスをベースにしながらも,メカニカルな変拍子の影を落として今風の捻りを利かせていきます。決してテクニシャンではなく,線は細いながら,外連味のない表現で丁寧に弾き込まれていくソロも,繊細で好感が持てる。冒頭,師匠の頭文字を頂いた「K.W.」は,当時の彼の持っていた,汚れのないワーナー語法への思慕の念が横溢した瑞々しい好演。ちなみに本盤録音後の彼は,1998年にバークリー音楽院の講師に就任。聴音と編曲法の教鞭を執りながら,専ら歌伴方面で活動を続けている様子。最近,新譜も出したようですが,自分で歌ってピアノを弾くポピュラー色の濃いプレーヤーになっちゃったみたいです(2004. 5. 24補筆)。

★★★★1/4
Luigi TRUSARDI "L'amour dans L'âme" (Elabeth : ELA 621025)
the way you look tonight trois petits points you don't know what love is Martine' smile Nica's tempo spring is here little Niles luisa tolu beautiful love canto triste one single slap Nice's queen one oscar for Pettiford Olha Maria
Luigi TRUSARDI (b, pb) Charles BELLONZI (ds) Michel GRAILLIER, Olivier HUTMAN, Alain JEAN-MARIE, Bernard MAURY (p)

フランスで活動中のベテラン・ベーシスト,ルイジ・トルサルディのリーダー作。最近のベーシストのリーダー作には,ピアニストを複数侍らせては曲に応じて使い分けるというアイデアをとるものが増えているようです。従来のベーシストのリーダー盤にはなかった趣向じゃないかと小生は思うわけですが,楽器的に地味な役回りを強いられるベーシストにとって,これは(採算を度外視すれば)実にいいアイデアだという気が致します。4人のピアニストは,演奏スタイルこそ白人らしく軽妙なシアリング・タイプですが,それぞれに微妙な持ち味の違いがあって聴き手の楽しみも増えますし,リーダーにとっても,ピアノを変えることによって食われることは少なくなり,やたらソロをとらずに無理なく自己主張することを可能にするわけです。この盤も,4人の孫悟空を立てながら,しかしアルバム・トータルではしっかり自分をメインにするというお釈迦様的戦略(西遊記参照)が見事成功。ベースのリーダー盤でありながら無理なく聴ける,スインギーでメロディックな秀作となりました。

★★★★1/4
James WEIDMAN "People Music" (TCB : 96302)
the raw deal petals a hang with the gang bird alone limehouse blues up on the horizon the 'I can tell' blues Contessa's last dance Jeannine
James WEIDMAN (p) Belden BULLOCK (b) Marvin 'Smitty' SMITH (ds)

カサンドラ・ウィルソンの歌伴も務めたオハイオ出身ジェイムス・ウェイドマンのメジャー・デビュー作です。マルグリュー・ミラーやジェームス・ウィリアムス,あるいはサイラス・チェスナットなどを思わせる,黒人らしい演奏が彼の持ち味。その系統の演奏がお好きな方ならお気に召す事請け合い。ハード・バップを基調にメロディックな歌心を展開するその演奏はよく居るタイプではありますが,歌伴出身ならではの安定感は新人離れしたものがあります。本人の軽妙な演奏も良いのですが,やはり注目は脇を固めるスミッティ。持ち前の重量級ドラム健在。いつもながら豪快な叩きっぷりでガンガン煽ってます。

★★★★★
Marcus SHELBY Trio "The Sophisticate" (Noir : NR 0008)
the sophisticate- I 20'th and mission time to fall in love again the joylovers dance of the mission bables Marlon's getaway Anais petit the sophisticate- II
Marcus SHELBY (b) Matt CLARK (p) Jaz SAWYER (ds)

ジャケットは中身を語るという言葉,長く音楽を聴いている方なら頷いてくださるでしょう。この盤はまさにそうした作品のひとつ。西海岸で活動中のベーシスト率いるトリオによる2作目です。ジャケット内にはリーダー筆の妙な村上春樹風私小説が入っているのですが,それを読みながら聴くという趣向なのでしょう(マルチメディア対応?:笑)。この作品の内容を一言で言ってしまえば,ハードボイルド盤。どっしりと腰の据わった骨っぽいベースに,モーダルな響きをもちながらもゴツゴツとした質感のピアノがぶつかって放つ男気溢れる演奏が魅力。そういう演奏でありながら,この盤の素晴らしいところは楽曲がしっかりしていること。体育会系でありながらオツムもしっかり。武骨でいて洗練された都会的なダンディズムが全編に溢れる名盤です。

★★★★
Charles ELENZIG Acoustic Trio "Certain Standards" (Truspace : TSJD 9706)
what is this thing called love ? invitation it never entered my mind alone together she's leaving home I've grown accustomed to her face when I fall in love it's you or no one you don't know what love is (solo)
Charles ELENZIG (p) Kenny DAVIS (b) Gene JACKSON (ds)

チャールズ・エレンツィヒは,マイケル・フランクスやビル・エヴァンス(サックス奏者のほう)などとの共演歴が示す通り,オーソドックスなピアニストというよりはキーボード弾きと考えるほうが良く,本リーダー盤にわざわざ「アコースティック」と冠するのも,そうした事情があってのことと思います。「いわゆるスタンダード集」という題が示す通り,お馴染のスタンダードを並べたこの作品は,フュージョン寄りの彼の演奏スタイルで,いかにそうしたスタンダードを換骨奪胎できるかという意味が込められているのでしょう。パラパラとした軽いタッチやリズム中心のデフォルメのし方は明らかにフュージョン寄りですが,興味深いのは脇役陣。名だたる名脇役の両雄はいずれも黒人。肌の色で一般化するのは良くないのでしょうが,この作品を面白くしたのは,フュージョン風の主役と黒々とした脇役の不思議な温度差にほかなりますまい。なにしろ主役のノリが軽く乾燥肌なので好みは分かれるでしょうが,内容自体は良質です。

★★★★1/4
Walter NORRIS Duo "From Another Star" (Sunburst : SRCD : 2001-2)
from another star images enhanced yesterday's gardenia elysium all the things you are sunhazed new flame a crest of amber dark brows tiger rag
Walter NORRIS (p) Mike RICHMOND (b)

ジャケットを見て,きっと彼を知らないファンの方々は躊躇なさるでしょう。往々にして年寄りの演奏はテクニック的に酷いものが多いのは確かですし,同じ金を払って,数十年前のカビの生えたスタイルで演奏するピアノなんか掴まされた日には悪態のひとつもつきたくなろうというものです。しかし,中には驚くべき例外というのもあるもの。このウォルター・ノリス盤を,年寄りの演奏を敬遠する全てのファンに推薦しましょう。知る人ぞ知る淫靡な絡み名人,マイク・リッチモンドの参加故に購入したわたしも,リッチモンドと互角以上に渡り合うノリスの硬質の叙情にはノックアウトされました。表現はやや晦渋ながら,エヴァンス派の語法を基調に溢れんばかりのリリシズムをみずみずしいタッチで披瀝するノリスのピアノは現代にあってもカビどころか第一線級。さながら「1990年代のアート・テイタム」(Z.Stewart)。来るべき高齢化社会に備え,もはや年寄りをお荷物扱いする考えは,青二才のプレモダンな隔離思想に他ならないことを雄弁に語ります。

★★★★
Harold MABERN Trio "Lookin' on the Bright Side" (DIW : DIW 614)
look on the bright side moment's notice big time cooper au privave love is a many splendored thing it's a lonesome old town too late fall back baby our waltz
Harold MABERN (p) Christian McBRIDE (b) Jack DeJOHNETTE (ds)

ジャズ界のクリンゴン星人(失礼)ことハロルド・メイバーンは,1950年代から第1線で活躍してきた隠れ名手。有名なハンク・モブレーの「ディッピン」など,直球勝負の彼のモーダルなピアノなしには語れないでしょう。しかし,一転リーダー作品となると10指に満たぬほど僅少。生来慎みのある性格だったのが災いして,脇役として便利に使われてしまったのが原因だとか。それだけに1990年代に入り,彼に大きくスポットを当てたDIWの見識は流石です。おまけに,花道を飾るこの豪華な顔ぶれ!彼もきっと,大いに意欲を持って臨んだに違いありません。提供されたオリジナル曲の充実ぶりがそれを雄弁に語ります。絶頂期ほどの華麗な運指は望むべくもないとはいえ,強靭な脇役に支えられ往時の快刀乱麻ぶりを遺憾なく発揮したこの盤は,DIWの諸作中でも最高作といえる出来映えです。

★★★★1/4
Frank COLLETT Trio "Perfectly Frank" (FreshSound : FSR 5024 CD)
joy spring very early stablemates topsy scotch&water lush life good bait you stepped out of a dream passion flower you and the night and the music old folks hi-fly epistrophy - ask me now - well, you needn't
Frank COLLETT (p) Bob MAGNUSSON (b) Joe LaBARBERA (ds)

ズート最晩年の録音「オン・ザ・コーナー」の伴奏者としてごくごく一部のファンの間でのみ知られているフランク・コレットのリーダー作。ピアノ・トリオから歌伴までこなす器用なピアニストなのが災いしているのかも知れません。昨年(1999年)リリースのこの作品は,そうした彼の全天候型のピアニズムが良く出た一枚。エリントン絡みから歌もの,果てはエヴァンス・チューンまで何でもござれで一歩間違うと節操がないと言われかねないのですが,西海岸らしいカラッとしたタッチで楽しく軽妙に描ききる彼の演奏は,どのような素材に対しても揺らぐ事はありません。それこそが本当の個性ではないのかい?と彼の得意満面な表情が見えてきそうな本盤。難しいことは抜きにして,兎に角楽しくて安定した内容のピアノ・トリオをというなら推薦です。

★★★★1/4
Tom KOHEN Trio "Tom Kohen Trio" (Cadence Jazz : CJR #1067)
things you are turn out the stars the red carpet sarabande time remembered Lyons waltz groove for Andy passacaglia two lonely people the free of us untitled ballad* motion potion
Tom KOHEN (ds) Mike RICHMOND (b) Ron THOMAS (p) Bill ZINNO (b)*

トニー・ウィリアムスの教え子トム・コーエンが,1996年に残したエヴァンス派トリオの秀作。ご存じマイク・リッチモンドが参加+↓キにエヴァンスゆかりの名曲となれば,内容は推して知るべしということで即購入しましたが,果たしてこれは良く出来た作品。なにしろリッチモンド以外のメンバーは無名に近いので,A級演奏家のように腰の据わったグル−ヴ感を期待するのは無理ですが,駆逐艦には駆逐艦なりに小回りの良さがあります。小粒ではありますが,丁寧に書かれたオリジナルは高水準。ピアノは最近のピアニストの多くがそうであるように,右手を自由に使うバップ的スタイルをとり入れた軽快なエヴァンス奏法で,誰でもすんなり親しめること請け合いです。