往年のジャズ vol. 11


★★★★3/4
Bengt Hallberg "At Gyllene Cirkeln" (Dragon-DIW : DIW -345)
gyllene cirkeln 'round about midnight im chambre separée morning party rubato blues willow weep for me Dinah
Bengt Hallberg (p) Lars Pettersson (b) Sture Kallin (ds)
スタン・ゲッツが欧州を歴訪した際にサイドメンとなり,名盤『イン・ストックホルム』でもハンク・ジョーンズ風の小気味好いタッチを披露していたスウェーデンの名手ベンクト・ハルベルクの代表作。DIWが日本での発売権を取得し,とうとう国内版で登場しました。1990年にドラゴンからCD化された折りに購入できなかった方には朗報と申せましょう。ハンク趣味の中間派的香り漂うエレガントなスタイルを基調としながらも,彼の持ち味である抑えの利いたタッチは健在。加えてアメリカのピアニストにはない知的な香りが大きな魅力となっており,内容は濃いです。先にご紹介したヤン・ヨハンソン盤と並んで,この時代の欧州ジャズの動向を端的に示す一枚ではないでしょうか。しかし,旧譜にも拘わらず3008円というべらぼうな価格!どうにかならなかったんでしょうかねぇ。

★★★★1/4
Stanley Cowell "Brilliant Circles" (Freedom-Tokuma Japan : TKCB-70387)
brilliant circles earthly heavens Boo Ann's grand Bobby's tune
Stanley Cowell (p, mrcs) Tyrone Washington (ts, cl, tmbrn, mrcs) Woody Shaw (tp) Bobby Hutcherson (vib) Reggie Workman (b) Joe Chambers (ds)
チャールス・トリヴァーと共に,怒濤の黒人ジャズを提唱して1970年代を駆け抜けたスタンリー・カウエルはしかし,ミシガン大学を出たインテリで,楽典にも通暁した人物です。彼の初リーダー作でもあるこの作品は,この当時隆盛を極めたフリー・ジャズを,極めて理知的に再解釈しようと試みた野心作。フリー系ファンには申し訳ないのですが,フリー系の音楽というのはどちらかというと「コード,モード,ビートから音楽そのものを解放する」という音楽的態度,ないしは姿勢そのものにエッセンスがあった音楽で,言い方を変えれば限りなく胡散臭く,単なるデタラメを音楽と称する山師的な独善性と隣り合わせの音楽であると言えましょう。そんなフリーの持つ「音楽したいっ!」というドロドロとした情念とエネルギーを,間主観的に理解可能なレベルに高めるべく,彼は,複数のモードが相互協応するポリ・モーダルな編曲による解決を図ります。これによって,単なるデタラメではなく,極めて理知的で音楽的なフリー・ジャズを生み出すことに成功したのでした。ちゃんとした主流派ジャズもこなす実力者を集め,要所で主題もきっちり提示されるこの作品,グギ ョゲギョ音の洪水に「うへェ」と辟易させられることなくフリー・ジャズを聴いてみたい方にはお薦めの一枚です。

★★★★★
J.R. Monterose & Tommy Flanagan "A Little Pleasure" (Reservoir : RSR CD 109)
never let me go pain and suffering ...and little pleasure con alma central park west Vinnie's pad theme for Emie a nightingale sang in Berkeley Square twelve tone tune
J.R. Monterose (soprano, tenor saxophone) Tommy Flanagan (piano)
ミンガスの銘盤『直立猿人』で有名なJ.R.モンテローズは1960年代までに『J.R.モンテローズ』と『ストレート・アヘッド』の2枚の快作を残しており,ファンには比較的お馴染みのテナー吹きですが,その後の活動についてフォローしている人は少ないのではありますまいか。というのも,その後彼は演奏家として身を持ち崩したとかしないとか。あの2枚以下の出来になってしまうなら,聴く気も起きないというのがファン心理というもので,恥ずかしながら小生も,その後の彼に注意を向けたことがありませんでした。ここに反省致します。と懺悔するのも道理。1981年録音の本盤は,一般の通説が「うそだろ〜!?」と怒りの声を挙げたくなる,実に素晴らしい二重奏盤。助演名人フラナガン一世一代の瑞々しいサポートを受け,不遇のテナーマン,モンテローズが万感の想いを込めた△良限蠅法い海糧廚量ノ呂聾世た圓されております。苦難の果てに彼が到達した「僅かな至福」のとき。まさしくこの盤はそのひとときを刻印した感動の一枚。涙なしには聴けぬ至福の悦びに溢れた作品です。甲種大推薦。

★★★★1/4
Michel Petrucciani "Michel Petrucciani" (Owl-EMI : TOCJ-6155)
hommage à Enelram Atsenig days of wine and roses christmas dreams juste un moment gattito cherokee
Michel Petrucciani (p) J. F. Jenny Clark (b) Aldo Romano (ds)
先頃残念ながら世を去ったペトルチアーニは,ご覧の通り身長が成人の半分くらいしかないという肉体的なハンデを抱えていましたが,そんなことは全く感じさせない,というより一般のピアニストより上手い技巧で一世を風靡しました(音楽とは無関係な苦労話でファンを引きつける某日本人歌手は反省してください)。この作品は彼のデビュー作で,長年アナログ・ファンには「オウルの赤ペト」の愛称で垂涎の対象だった一枚です。時折フレーズは破綻するなど荒削りな点も散見されますが,モード色強めのエヴァンス派を基調に,持ち味である鋼鉄のように重く屈強な打鍵が縦横無尽。加えてオリジナルが良く書けている。ペロペロのベースが上滑り気味なのが返す返すも勿体ない快演盤。この後彼はブルーノートに移籍しメジャーになりますが,管見の限り病状のためかミスタッチが多くなり,好不調の波が激しかったようです。このトリオ盤はミスタッチも殆どなく,彼の体調も良かったのでしょう。まだまだ頑張って欲しかった。惜しい人を亡くしました。合掌。

★★★★★
"Oscar Peterson Trio + One, Clark Terry" (Mercury-Nippon Phonogram : PHCE-10020)
brotherhood of man Jim blues for Smedley roundalay mumbles mack the knife they didn't believe me Squeaky's blues I want a little girl incoherent blues
Oscar Peterson (p) Ray Brown (b) Ed Thigpen (ds) Clark Terry (tp, fgh)
ピアノの巨人ピーターソンは,史上空前の爆裂技巧の持ち主でした。技巧闊達を利し,恐ろしく饒舌な運指を武器にどんな難曲でも軽々と弾いてみせるそのスタイルは,しばしば「冗長だ」,「一本調子だ」とやっかみ半分で言われてしまいます。こういうピアニストは他にもいますが,特にピーターソンは評判が悪い。これはピーターソンが,並外れた技巧を持っていながら,決して巨匠面して難解そうな事をやらない,潔いスタイルを堅持したからでしょう。通説を信じ込んで「ピーターソンは素人向けの器用貧乏なピアノ弾きだ」と思っている方にぜひ御一聴いただきたいのがこの作品。ラッパに飄々としたプレイを得意にした名匠クラーク・テリーを迎えたのが奏功。お互いに力を抜き,のびのびと八分の力でスイング。有り余る技巧を持っているからこそできる,くつろいだアドリブの交歓に,きっとピーターソン嫌いの皆さんは不明を恥じることとなるでしょう。Δ脇蔚覆侶萃蠹名演。

★★★★1/2
Chet Baker "She was too Good to Me" (CTI : K25Y 9510)
autumn leaves she was too good to me funk in deep breeze tangerine with a song in my heart what I'll do it's you or no one
Chet Baker (tp, vo) Paul Desmond (as) Bob James (ep) Ron Carter (b) Jack DeJohnette, Steve Gadd (ds) Dave Friedman (vib) Hubert Laws (fl) Romeo Penque (fl, cl) George Marge (fl, ob)
白人版マイルスとして,1950年代からの活動歴を誇った彼はその後,数度の麻薬渦を経て,次第にジャズ演奏家としての表現の深みを増して行きました。この盤は1974年の録音。当時前衛的な演奏で注目を集めていた俊才ボブ・ジェームスにロン・カーター,ジャック・ディジョネットとそうそうたるメンバーで,悪かろうはずもありません。いわゆるCTIものはドン・セベスキーのストリングス入りで,イージーリスニング風のものが多く,軟派ジャズの烙印を押されるものが多いと思われますが,この盤は例外と言うべきものでしょう。白眉の『枯葉』を筆頭に,木枯らしに吹かれ所在なげに舞う木の葉の如く訥々と歌うチェットのラッパ。それを肴に,サイドの豪腕3人が,後ろで弦が鳴ろうとお構いなしの硬派真っ向勝負。文句なく秀盤レベルに達する出来映えとなっております。最近の知的フュージョン路線の彼しか知らないボブ・ジェームス・ファンはぜひ御一聴を。

★★★★1/4
Karel Boehlee Trio "Switch" (Timeless : R25J-1019)
autumn leaves switch misty summertime J. E. S.T. on a clear day forest flower united blues recorda me
Karel Boehlee (p) Frans Bouwmeester (b) Hans Eykenaar (ds)
俄か成金の方々が街に溢れた1980年後半。富を得た彼らが,次に求めたのは自らの教養,ステイタスを誇示するシンボルでした。ここに端を発したジャズ・バブル。今となっては,この時人気を博したヨーロピアン・ジャズ・トリオのピアノ奏者としてまず認知されたことが,本当にこの人にとって幸運だったのかどうか。当時オシャレの一環でジャズを聴いてみたものの,すぐに飽きてポイッ。去っていってしまった多くの一見様に支持されたあのトリオ。彼のその後の活躍があまり聞かれなくなってしまったのは,結果的にそのことで生真面目なジャズ・ファンにそっぽを向かれてしまったことに遠因があるのでは。しかし,軟派の仮面を被っていながら,この人はなかなかどうして,本音のところは巧いピアノ弾きでした。1984年に地元オランダで録音されたこの作品は,彼がレーベルの圧力を受けることなく,持ち前のエヴァンス・ライクな和声感覚とチック風のみずみずしい運指技巧を披露した快演盤。全曲,演奏時間が短いうえに,太鼓がガサツなのは玉に瑕ですが,めざましい技巧と,淀みなく流れるフレーズの洪水は,彼の持つ非凡な才覚を余すところなく伝えたもの。 これを聴けば,彼を小馬鹿にしている方々も,おのが過ちを認めることになるでしょう。冷笑の渦の中,それでも信念とともに彼を支持する数少ないジャズ・ファンは,殆どがこの盤の存在を知っています。現在はハーグ音楽院に引っ込み教職にあるようで。新作は当面無理かなあ。

★★★★1/2
Dexter Gordon Quartet "Biting the Apple" (Steeplechase : VACE-3015)
apple jump I'll remember April Georgia on my mind blue bossa skylark a la modal
Dexter Gordon (ts) Barry Harris (p) Sam Jones (b) Al Foster (ds)
個人的には大味であまり好みではなかったデクスター・ゴードン。リーダー作で溜飲が下がった記憶があるのは『デクスター・ライズ・アゲイン』くらいで,熱心に聴いた記憶がなかったのですが,たまたま手に取ったこの盤を聴いて反省いたしました。欧州に移住している間に適度に枯れて晩成したのでしょう。本盤は有名なアメリカ凱旋の直前ニューヨークで録音されたもの。彼の地で一流ジャズメンに相応しい貫禄を身につけたゴードン,快心の演奏。何より勢い一辺倒が通じなくなった分,却って歌の隅々に神経が行き届き,アドリブが歌うこと歌うこと。長尺の中だるみはほとんど感じさせません。豪華な共演陣の助演がまた素晴らしい。晩年のスティット盤そのままに悠揚迫らぬ佇まいの助演名人バリー・ハリスを始め,目立たぬ乍ら低域重視で強力な推進力を生むサム・ジョーンズ,ストレッチト・アウトしたリズムのフォスターにいたるまでストレッチト・アウトした快演集です。

★★★★1/2
"Paul Desmond & The Modern Jazz Quartet" (Red Baron : JK 57337)
greensleeves you go to my head blue dove Jesus Christ superstar here's that rainy day east of the sun Bag's new groove
Paul Desmond (as) John Lewis (p) Milt Jackson (vib) Percy Heath (b) Connie Kay (ds)
バロック音楽好きのジョン・ルイスと,ブルース好きのミルト・ジャクソンという個性の微妙な相克関係が生み出す,ブルージーなのに妙に整然としたグルーヴ感が持ち味のモダン・ジャズ・カルテット。この当時クリスマスにはタウン・ホールでコンサートをやっていました。1971年,彼らのクリスマス・コンサートに飛び入り参加したのがポール・デスモンド。どちらも穏やかな語り口で品格高いプレイが身上。合わないはずはありません。双方の控えめな感情表現がこの上なく好ましく絡み合い,まさしく一日限りの夢の共演となりました。本CDは,その模様を収めた実況録音。これ程の相性を示した両者,さぞ共演も多いのかと思いきや,意外にも両者の顔合わせは本録音で唯一聴けるのみです。,蓮て蔚覆侶萃衄播名演奏。

★★★★1/4
Renee Rosnes "Renee Rosnes" (Somethin' else : CJ32-5511)
bright Mississippi playground for the birds the storyteller Diana pubjab I.A. blues everything I love fleur-de-lis
Renee Rosnes (p) Ron Carter (b) Lewis Nash (ds) Branford Marsalis (ts, ss) Ralph Bowen (ts) Wayne Shorter (ss) Herbie Hancock (p)
現在はニューヨークでご主人のビリー・ドラモンドと仲良く活動中のカナダ出身リニー・ロスネス女史は,インド人の血が入ったエキゾチックな美女。しかし,ピアノはモーダルで硬派です。このCDは彼女のデビュー作。ベースにロン・カーターを迎え,ジョーヘン作のァぅ轡隋璽拭爾劉い覆匹鬚箸蠅△押き┐任魯魯鵐灰奪との美しいピアノ・デュオも。デビュー作でありながら彼女の新主流派趣味が良く出た快作で,今にして思えば,ピアノの逸材百花繚乱となる1990年代を予感させておりました。曲毎に豪華なゲスト陣が加わって華を添えますが,中でもブランフォード・マルサリスのサックスが良い。ハンコックのデュオと並んでこの盤の白眉を形成しています。

(2002. 2. 25)