往年のジャズ vol. 12


★★★★1/2
Kenny Barron Trio "Scratch" (Enja : CD 4092)
scratch quiet times water lily song for Abdullah the third eye Jacob's ladder and then again
Kenny Barron (p) Dave Holland (b) Daniel Humair (ds)
1960年代から大活躍しているピアノ弾き,ケニー・バロンは,闊達な運指を利した重量感溢れるモード・ピアノを武器に,激動の1970年代を駆け抜けていきました。同じ路線のピアノ弾きはその時代にも沢山居ましたが,彼のピアノはその中でも,バランス感覚において傑出していた。マッコイのパワーと,ハービーやシダー・ウォルトンのメロディックなピアノとの間で,巧みに中庸を得たしたたかな平衡感覚と,彼らにはない重戦車のようにヘヴィなタッチが彼の持ち味でした。この作品は1985年に録音されたトリオ作。脇を務めるのはいずれも第一級の手練れ。この盤を名盤にした功労者は,地を這うようなホランドのベースでしょう。恐ろしくビートの来たウネウネ・ノリノリのウォーキングはまさに畢生の出来。バロンも珍しく興に乗り,いつもより余計に前衛へ傾斜したテンションの高いモード奏法を披露。異色の名演に繋がりました。

★★★★1/4
Art Timmons - Ronnel Bright "Piano aux Champs Elysees" (Gitanes-Universal : 014 059-2)
Art's blues my funny Valentine hommage to Neal Hefti too marvelous for words the lady is a tramp what is this thing called love nice work if you can get it sail'em things ain't what they used to be Johnnie Pate's blues R and R groove the champ easy living chasing Sarah doxology
Art Timmons, Ronnel Bright (p) Terry Donoughue (g) Bill Crow, Richard Davis (b) Dave Bailey, Art Morgan (ds)
サラ・ヴォーンの伴奏者としてのみ知られるロネル・ブライトはしかし,14才でシカゴ・ユース・オーケストラのソリストを務めるなど才能豊かなピアニストでした。彼のトリオ作としては,既に『ブライト・スポット』をご紹介していますが,ギターが入るクラシカル・トリオの同盤に対し,こちらはドラムスが入るモダン・トリオ編成。冒頭からカップリングのアート・ティモンズが一瞬にして霞む圧倒的な粒立ちとスイング感,中間派ジャズの流れに位置する瀟洒なハーモニック・センスが溢れ,紛れもなくこの盤の白眉が後半の8曲にあることを物語る出来映えに,バリー・ハリスあたりまでしかご存じない,50年代モダン・ジャズのファンは吃驚なさること必定。レッド・ガーランドを思わせる趣味の良いピアノに酔います。録音稀少な人だけに貴重なCD。「パリのジャズ」シリーズの復刻につき,今なら1300円ほどで買えます。

★★★★
Lee Konitz & Michel Petrucciani "Toot Sweet" (Owl : 013 432 2)
I hear a rhapsody to Erlinda round about midnight lover man ode lovelee
Lee Konitz (alto saxophone) Michel Petrucciani (piano)
先頃残念ながら世を去ったペトルチアーニは1980年代に入ってめきめき頭角を現してきたピアノ弾きですが,彼を有名にしたのはこのOWL。この盤は彼がオウルに残した知る人ぞ知る秀逸作品で,とうとうCDになりました。リー・コニッツはこの盤を録音する少し前に,かつての相棒テナー,テッド・ブラウンと秀作『フィギュア・アンド・スピリット』を録音。枯淡の境地に達した,たおやかなビブラートと陰りを帯びた絶妙なサブ・トーンを披露し健在を強く印象づけました。打鍵屈強な新鋭ペト氏を迎え,コニッツも乗ったのでしょう。このころから既にトーンは微妙に中高域のピッチがずれ始め,若干の聴き苦しさは禁じ得ませんが,演奏は水を得た魚のようにみずみずしい叙情に溢れています。さらにペト氏の助演が好い。モード色強めの硬質な伴奏ながら,コニッツに凛とした演奏環境を与えている点は見事の一語に尽きましょう。一部双方のソロが入りますが,デュオの隠れた好内容盤としてお薦めです。

★★★★3/4
Tubby Hayes Quintet "Late Spot at Scott's" (Fontana-Redial : CD 558 183-2)
half a sawbuck angel eyes the sausage scraper/quintet theme my man's gone now yeah!/quintet theme
Tubby Hayes (ts, ss, vib) Jimmy Deuchar (tp) Gordon Beck (p) Freddy Logan (b) Allan Ganley (ds)
タビー・ヘイズはイギリスのテナーマン。ジャケットのやんちゃな表情そのままに丁々発止としたプレイで隠れファンの多いプレイヤーです。ジョニー・グリフィンをさらに脳天気にしたような溌剌としたブロー,そして白人にしておくのは惜しい(?)ソウルフルなフィーリングは,小難しい理屈抜きで楽しめてしまう大きな魅力があり,彼の地では大変人気がありました。彼はロニー・スコットというテナーマンと双頭コンボを率いて活動するなど活動の本拠はイギリスだったのですが,請われてサイドメンとしてブルーノートに録音もしており(ディジー・リース『ブルース・イン・トリニティ』など),日本のマニアックなジャズ・ファンにはこの辺りから名前を知られるようになったのでしょう。彼のリーダー盤は数年前から一斉に再発されていますが,彼の代表作といえばまずこれです。レギュラー・コンボを率いたライヴで,気の置けない録音だったのでしょう。熱に浮かされたようなブローの連続。小生的には,これからジャズを聴きたいという人に巨人ものを紹介するような人より,こういう盤を入門編として紹介してくれる人のほうが信用できるなあ。

★★★★1/4
Dodo Marmarosa "Dodo's Back!" (MCA : MVCR-20057)
mellow mood cottage for sale April played the fiddle everything happens to me on Green Dolphin Street why do I love you? I thought about you me and my shadow Tracy's blues you call it madness
Dodo Marmarosa (p) Richard Evens (b) Marshall Thompson (ds)
彼はかつてパーカーの脇も務めた人物で,アル・ヘイグも真っ青になるほどの技巧と高い作曲センスを兼ね備えた名手でした。しかし,麻薬禍で1950年代を棒に振ってしまいます。その後バリー・ハリスやデューク・ジョーダンら1950年代には辛酸を舐めたバップ・ピアノ弾きが,バップ・ジャズの生き証人として再評価されたのに比して,彼は最後まで表舞台にほとんど現れることなく消えてしまいました。この作品は1961年のもので,タイトル通りマーマローサが堂々カムバックを遂げた時のもの。往時ほどの輝きはないものの,バップ期にあって黒人ではなかった彼らしくバッピッシュでありながら左右の手を十全に使ったコード感の強いピアノ。バリー・ハリスにアール・ハインズ臭を少しだけ加えたようなスタイルで,地味ながら安定した好演の連続。このまま復活していたら,きっとバリー・ハリスくらいの評価は受けていたでしょうに。結局,彼はこの1年後アルバム2枚分の録音を残して,永遠にジャズ史の表舞台から姿を消してしまったのです。

★★★★1/4
Klaus Weiss Trio "Greensleeves" (Atelier Sawano : AS 004)
greensleeves house of the rising sun the chant subo wade in the water dona dona loch lomond deep river autumn leaves black is the color of my true love's hair
Klaus Weiss (ds) Rob Langereis (b) Rob Franken (p)
かつては入手も困難だったレア盤を次々CDにしてくれる澤野商会の企業姿勢には頭が下がります。さらに嬉しいことにはそれが売れている。とかく軟派なミーハー盤に弱いと思われている日本のジャズ・ファンの思わざる審美眼を見た思いで,心強く思ったベテラン諸兄も多いのではないでしょうか?その澤野商会から出たこの盤は1960年代から欧州で活躍しているドイツのドラマーがリーダー。しかし,この盤の魅力は脇役参加のキーボード奏者ロブ・フランケンのリリカルなピアノでしょう。初期ヨーロッパのピアノ弾き,例えばベンクト・ハルベルクやヤン・ヨハンソンに通じる端正なピアノ・タッチ,控えめに挿入されるエヴァンス・ライクな和声。ウィントン・ケリー彷彿の好く歌う右手のソロが噛み合ったそのスタイルは,この時代の欧州ものでしか味わえない魅力があります。中でもはその魅力が良く出た好演といえるのではないでしょうか。

★★★★1/2
Tina Brooks "True Blue" (Blue Note : ST-84041)
good old soul up tight's creek theme for Doris true blue Miss Hazel nothing ever changes my love for you
Tina Brooks (ts) Freddie Hubbard (tp) Duke Jordan (p) Sam Jones (b) Art Taylor (ds)
ティナ・ブルックスはブルーノートに僅かなリーダー作を残したっきり姿をくらましてしまった元・幻のテナーマン。熱心に楽典を勉強したため,作編曲能力が高く,ハード・バップ爛熟期ならではの凝った作編曲でその能力を遺憾なく発揮しました。活動歴は1940年代からと長いのですが苦労人で,リーダー作はようやく1960年に入る頃になって実現しました。この盤は,同じく当時ニューヨークに出てきたばかりのフレディ・ハバードと意気投合して製作した2管ハード・バップ作で,ハバードの有名盤『オープン・セサミ』の裏盤的一枚。颯爽と淀みなく吹くハバードに比して,ソウルフルでありながら,どこか伏し目がち,遠慮がちなブルックスのテナーは,訥々と外連味のない謳い回し。ちょうどハンク・モブレーやジミー・ヒースを思わせる彼の慎み深い性格が色濃く出ており,微笑ましい。現在では入手も平易になり,同じくブルーノートのもう一枚,『バック・トゥ・ザ・トラックス』ともども,この時代の空気を良く伝える秀作。好いテナーマンなのに,なんで2枚きり?

★★★★1/4
Doug Watkins "Watkins at Large" (Transaction-EMI : TOCJ-5885)
return to paradise Phinupi Phil T. McNasty's blues more of the same Panonica
Doug Watkins (b) Duke Jordan (p) Arthur Taylor (ds) Kenny Burrell (g) Donald Byrd (tp) Hank Mobley (ts)
1962年にアリゾナ州で自動車事故死したジャズ・メッセンジャーズ出身ダグ・ワトキンスは事故当時27歳。短命のためリーダー盤は僅かに2枚しか出さずに終わってしまいましたが,ハード・バップ期のセッションには欠かせない若手の名手として,脇役ではどっしりと腰の据わったベースの聴ける好盤を残してくれました。そんな彼の初リーダー作である本盤は,ハーバード大学卒の黒人ジャズ愛好家トム・ウィルソンが僅かに2年間だけ活動したレーベル「トランジション」の代表的な秀作として,長年ジャズを聴いているファンには比較的知られている一枚です。内容は典型的なハード・バップ・セッション。最年長のデューク・ジョーダン(といっても当時34歳)を中心にギターを加えた厚みのあるアンサンブルなためか,演奏もかっちりとまとまっており,各人のソロも好調。特にハンク・モブレーが乗り乗りです。

★★★★★
"Leonard Feather presents Bop"(Mode-Tofrec : TFCL-88913)
little Benny be bop lemon drop ornithology anthropology salt peanuts groovin' high shaw 'nuff Billie's bounce hot house and 52'nd street theme
George Wallington (p) Idrees Sulieman, Thad Jones (tp) Phil Woods (as) Curley Russell (b) Denzil Best, Art Taylor (ds)
『エンサイクロペディア・オブ・ジャズ』の著者としても知られるレナード・フェザーは,請われてジャズ盤の制作監修にも携わっています。この作品は1957年の録音。パーカーは世を去り,時代は既にハード・バップ期のただ中にありました。そんな中,敢えてビ・バップを再訪しておこうとするこの企画は,バップ誕生から10年を経て,今一度モダンジャズ史上最大の革命に揺れた激動のムーブメントを音楽的に展望しておこうという,フェザー一流の慧眼のなせる業でしょう。演奏陣は当時人気絶頂だったジョージ・ウォーリントン・クインテットが母胎。パーカーの奥さんの身請け人になったほどパーカーに心酔していたフィル・ウッズを始め,バップ第2世代のそうそうたる名手が顔を揃え,バップを称揚する企画も相俟って各人モチベーション最高潮。稀に見る緊密なアドリブの応酬です。バップを聴くならぜひこれを。名盤。

★★★★1/2
Wayne Shorter "Second Genesis"(Vee Jay-BMG : PVCP-8187)
ruby & the pearl pay as you go second genesis Mr. chairman tenderfoot the albatross getting to know you I didn't know what time it was
Wayne Shorter (ts) Cedar Walton (p) Bob Cranshaw (b) Art Blakey (ds)
のちにブルーノートへ移籍して傑作『スピーク・ノー・イーヴル』を録音することになるショーターは,1959年から2年ほど,ジャズ・メッセンジャーズの一員として活動。1960年録音の本作品はそのまま太鼓のリーダー,アート・ブレイキー率いるメッセンジャーズ構成員による録音です。メッセンジャーズでもその作曲の才は群を抜いていたショーターですが,ここでも5曲に渡って作曲の才を披露。折からモード手法が登場し,有能な若手(例えばブッカー・リトル)らは,皆それぞれのやり方でハード・バップを次世代の語法へと高めつつありました。モードと既存のハード・バップ語法との間で全てのミュージシャンが揺れ動いた混迷の時代。ゆえにこそなお,その中で自分のスタンスを見失うことなく進んでいた彼の非凡なセンスは,ひときわ光を放っていました。ハード・バップの形式をべースにしながらも,その独創性溢れるコード使いと呪術的な(神秘主義的な)フィーリングは,既に紛れもなくショーター独自のものです。

(2002. 5. 30)