1990年代のジャズ ピアノ編(7)


★★★★1/2
Bill Carrothers "After Hours" (Go Jazz : Go 6037 2)
in the wee small hours on Green Dolphin street for heaven's sake Chelsea bridge it's easy to remember my heart belongs to daddy lost in the stars a flower is lovesome thing P.S. I love you young and foolish for all we know
Bill Carrothers (p) Billy Peterson (b) Kenny Horst (ds)

大体において,モード期以降のピアノ弾きはリハーモナイズが上手でなければ務まらないもの。自身もバルトークへの傾倒を公言して憚らないリッチー・バイラークはそんな中でも群を抜いたリハモ名人。ペンタフォニックで旋法性の高いそのリハモは鋭角的で,ほとんど無調寸前。余程クラシックの鍛錬がなくては,あれだけ鋭敏な和声感覚は身につきますまい。本盤の主人公キャロザーズは,バイラークに続く新たなリハモ界の貴公子ともいうべき存在。お馴染みのスタンダードが,主旋律だけを残してほとんど原型をとどめぬほどにリハモされ,深く瞑想的な相貌に。全く別の音楽といって良いほどに変貌を遂げていくさまは,ただただ圧巻。「アフター・アワーズ」(ライヴ終了後の仲間内セッション)を録音するというGo Jazzシリーズ中の一枚ですが,主役の放つ強烈なインパクトにより,シリーズ中でも異彩を放つ一枚です。

★★★★1/2
Riitta Paakki Trio "Riitta Paakki Trio" (Impala : 004)
timetable his divine grace joy swing balladi sofia rock wedding song jore q home
Riitta Paaki (p) Ari-Pekka Anttila (b) Mikko Hassinen (ds)

これは拾いものでした。オーストリア盤ですが,メンバーはヘルシンキで活動中。リーダーのリータ・パーキは女性で,1971年3月15日生まれ。シベリウス・アカデミーを出たのち,2000年にこのアルバムを出して【EMMA賞】にノミネートされ,一躍脚光を浴びました。欧州では,キースの模倣段階を通り越し,ここ最近は随所にロックやファンクのリズムを採り入れ,極めて現代指向の音作りをする傾向が強まりつつあります。エスビョルン・スヴェンソンやヤコブ・カールゾンなどはこうした新しい世代の急先鋒とも言えるように思うのですが,この盤も,それに似たソリッドなロック・テイストが,緊張感を高めている点は特筆すべきでしょう。女流とはいえ,テクニックも明晰。1990年代中半までの欧州ジャズにはなかった同時代性と推進力が沸々と感じられる秀作です。それにしても・・・ジャケットといいレーベル名といい,モロに「インパルス」のパクリだと思いませんか?(笑)

★★★★1/2
Legnini - Rassinfosse - Castellucci "Antraigues" (Quetzal: QZ 103)
all of you antraigues meaning of the blues meeting point Laurie I hear a rhapsody Brazilico pasta touch
Eric Legnini (p) Jean-Louis Rassinfosse (b) Bruno Castellucci (ds)

ベルギーの技巧派ピアニスト,エリック・レニーニのトリオ録音。1970年2月20日,ユイに生まれた彼は,1988年から2年間に渡り,ニューヨークでリッチー・バイラークに師事。その後1990年からは,ブリュッセル音楽院でピアノを教えてもいるようです。以前出たミミ・ヴェルドラムのリーダー作では,『ハンプティ・ダンプティ』をエレピでこれ以上ないほど恰好良く弾いて見せた彼だけに,ここでもバカテク炸裂を期待しましたが,蓋を開けてみれば,意外なほど穏健なエヴァンス派寄りの演奏が主体。しかし,一見穏健なようでいて,演奏の端々に時折ちらつかせるナタの凄みは紛れもなくこの人ならではのもの。少し脇役が弱く,足を引っ張られているような気もしますが,エヴァンス派のトリオとしては,これは第一級の内容であると思います。

★★★★★
Thierry Lang Trio "Thierry Lang Trio" (Blue Note : 7243 8 56254 2 8)
yellow story comrade conrad angels fly if I should lose you my foolish heart the blue peach Oliver's song bop boy round midnight
Thierry Lang (p) Heiri Känzig (b) Marcel Papaux (ds)

スイスのキース〜エヴァンス派ピアニスト,ティエリー・ラングのブルーノート移籍第1弾。素晴らしい出来映えです。彼は1956年スイスのローモント生まれ。イギリスに渡り,王立音楽大学でクラシックのピアノ弾きを目指したものの,卒業後はジャズへ転向。チャーリー・マリアーノのサイドメンとして頭角を現し,1990年に『チャイルズ・メモリーズ』で世に出ました。最近はモントルー音楽院で教育者としても活躍。アレクシス・グフェラーやアレサンドロ・デピスコーポらの後進を育成しています。彼は1990年代始めに掛けて2枚のトリオ・アルバムを吹き込んでいますが,図抜けた力量に引き比べ,サイドメン,ことにベースの力量不足がいかんともし難い部分がありました。大手移籍を機に,思い切ってベースを実力派のエイリ・ケンツィヒに替えたのが奏功。稀に見る高水準,高密度のアドリヴに満ちた演奏内容に,メジャーならではの録音の良さ。文句なしに目下(2000年現在)彼の代表作ともいうべき仕上がりとなりました。

★★★★1/2
Fausto Ferraiuolo Trio "The Secret of the Moon" (DDQ: 128019-2)
le tempeste deepness parentesi E.person I knew the secret of the moon improdance mantra bimba di notte j'te vurria vasa
Fausto Ferraiuolo (p) Aldo Vigorito (b) Ivo Parlati (ds)

スウェーデンやノルウェイ,オランダなど,最近はヨーロッパのジャズもすっかり層が厚くなりました。しかし,やはりイタリアのジャズ・シーンは(少なくともエヴァンス派については)一日の長があるようです。リーダーは1965年ナポリ生まれの中堅。8才でピアノを始め,ナポリ音楽院でフランコ・ダンドレアに即興演奏を学んだのち,奨学金を得てシエナでエンリコ・ピエラヌンツィにも師事。1997年に初リーダー作となるこのアルバムで世に出ました。エンリコ自身にも学び,同じイタリアということで,やはり彼もエンリコ入ってる(笑)のですが,ジョヴァンニ・ミラバッシあたりのような天才肌ではなく,堅実型。ピアニズム自体はエヴァンス寄りなのですが,楽曲の作りはモロにエンリコ系。欧州エヴァンス系のクールな響きと,イタリーの郷愁を誘う暖かな曲想とが奇妙に噛みあって,この作品に独自の不思議な温度感を与えています。オリジナル主体ですが,エヴァンスの「リ・パーソン・アイ・ニュー」をもじったカバーがい法

★★★★3/4
Taylor Eigsti "Tay's Groove" (Taylor Eigsti)
suger Elana joy the groovesmith cottontail here's that rainy day stompin' at the savoy willow weep for me polka dots and moonbeams pedestrian sophisticated lady things ain't what they used to be
Taylor Eigsti (p) Dan Brubeck (b) Seward McCain (ds)

1990年代の終わりに,スタンリー・タレンタインが他界。だからというわけでもありますまいが,彼への追悼宜しく冒頭から「シュガー」を持ってきた心憎い本盤の主人公,録音時僅かに14才。以前流行った「セルジオ・●ルヴァドーレ」とはものが違います。エリントン・ナンバーを肴にみずみずしい技巧を駆使して堂々の真っ向勝負。中間派的なところもあり,タイプとしてはジョージ・シアリングから,ビル・チャーラップあたりの線に連なる人ですが,もっと重量感があります。テクニックもタッチも素晴らしく,脇役のもたつきが気になってしまうほどの圧倒的な技量。とても14のペエペエとは思えません。自主製作盤ですが,ピアノがお好きな方はぜひ入手なさってみてください。(余談乍冒頭の『シュガー』にノイズあり。ご購入の方,不良品ではありませんので悪しからず)。

★★★★
Alessandro Galati "Traction Avant" (V V Jazz : VVJ 007) 
how deep is the ozone floating #1 andre traction avant J.S.what wassily solar floating #2 amaxonia blues as you please
Alessandro Galati (p) Palle Danielsson (b) Peter Erskine (ds)

1990年代のピーター・アースキンはあちこちで無名ピアニストを引っ張り出しては録音。知名度を生かして後進の育成。いい活動をしていますね。果たして本盤もまた,アースキンの慧眼を示す格好の一枚です。リーダーのアレッサンドロ・ガラチは,1966年イタリアのフローレンス生まれ。このアルバムでアースキンに見出された格好のこの御仁,当然お名前はとんと聞いたことがございません。しかし,共演人の二人を見ると,これでピアノがジョン・テイラーだったらECMのアースキン・トリオそのものではありませんか。果たして演奏は,イタリア人にも拘わらず見事なまでに北欧系。単音主体で奏でられるデリケートなソロは,時に甘すぎるところもありますが,ケニー・ホイーラーによるライナー中の「そのクオリティはECMの名盤群の最上位にランクされる」との賛辞もあながち誇張とは思えない出来映えです。

★★★★1/4
Nico Morelli Trio "The Dream" (Splasc(h) : CDH 620.2)
setembre bobcat's deda in your own sweet way vasudeva il canto di sadone equidistansie skies of my land
Nico Morelli (p) Mark Johnson (b) Roberto Gatto (ds)

リーダーは,1965年12月28日タラント生まれ。父の勧めで,7才から電子オルガンを弄り始め,次いで9才からピアノに転向しました。父親はかなり厳しかったようで,一日の練習時間は15時間に及んだそうです。生地の音楽院を出たのは彼が24才の時でした。その後,ニーノ・ロータが教鞭を執っていたこともあるイタリアのバリ音楽院(パリではありません)へ進むも,年齢的にピアニストは無理だと諦め,ジャズへ転身。2年間に渡り,スティーブ・レイシーのサイドメンを務めて名を上げ,1994年に初リーダー作『ビハインド・ザ・ウインドウズ』で独り立ちしました。本盤は1998年に出た2枚目のリーダー作で,初のトリオ盤。リーダーのピアノは,やたらにリズム感の好い左手のコンピングで盛り立てておいて,これまたやたらと歯切れのいいフレーズをポンポンかっ飛ばす軽快さが身上。それでいてエヴァンス・ライクな叙情性は確保。まさにエンリコ・ピエラヌンツィ第2世代ともいうべきものです。さすがに本家と比べると若干ピアノ弾きとしては小粒ですが,アドリヴに入ると外連味のないピエラヌンツィ奏法で,安心して聴けます。

★★★★1/4
Francesco Nastro "Trio Dialogues" (Nadir : JCNBE 001)
love waves last first fenesta vascia looking in wonder rhythm dialogo I dialogo II dialogo III sweet before up, up and .. time at home
Francesco Nastro (p) Gary Peacock (b) Peter Erskine (ds)

ブルーノ・トマソ率いる『ユートピア』のピアノ弾きとして,知っている人もいるイタリアの若手ピアニストのトリオ録音。何しろこの顔ぶれです。これで駄作なんて事はそうそうあるもんじゃ御座いますまい。アースキンが入ってるところでお分かりでしょうが,オーソドックスな4ビートは少なめ。いかにもイタリアのピアノ弾きらしい甘美なロマンティシズムを持ったオリジナルを主体に,エヴァンス派直系の和声感の強いアドリヴ。テクニックがそれほどある方ではなさそうですが,センスは良く,イタリー・ジャズがお好きな方にはまず間違いなく気に入っていただけるのではないかと思います。と,いいことずくめの本盤に欲を言えば,ゲイリー・ピーコック氏。かなり前面に出張って弾くのは結構なれど・・ピッチ(音程)悪いなあ。

★★★★★
GAS "Great American Songs" (MGB: CD 6159)
on green dolphin street I should care all the things you are old folks love for sale Stella by starlight I’ll remember April  Laura Just one of those things speak low
Hans Feigenwinter (p) Banz Oester (b) Norbert Pfammatter (ds)

スイス,ローザンヌで活動している三人のミュージシャンが1996年に結成したトリオ“GAS”の初録音です。ピアノを弾くフェイゲンウィンターは1965年バーゼル生まれ。ベルン音楽院,スイス・ジャズ・スクールで修学したのち,現在はバーゼル音楽院およびルツェルン音楽院で教育活動をなさっているようです。もともとはポップスを演奏していたそうですが,キース,ハービーとパット・メセニーを聴いてすっかりジャズに被れ,とうとうこんなキースモロ出しのトリオ作を録音するまでになりました。タイトル通り,大スタンダードばかりを並べた選曲はさながら,キース・ジャレットの『スタンダーズ』そのまま。音作りもまたモロにキース直系でしょう。しかし,並外れた才気を駆って派手に唸っては人を食う,本家ような天才的な盛り上がりは皆無。むしろ冷ややかにメカニカルなフレーズを,訥々紡ぐようなピアニズム。全体の印象はひたすらに淡泊で地味です。その一方,メルドーばりのコードの組み立てやフレーズ作りなど,キース以降のジャズを相当に研究した跡はありありと。秀才型の実直な仕事が横溢する一枚といえるのでは。