往年のジャズ vol. 14


★★★★1/2
"Gigi Gryce - Clifford Brown Sextet" (Vogue-BMG : BVCJ-37033)
strictly romantic baby no start no end minority salute to the band box
Gigi Gryce (as) Clifford Brown (tp) Henri Renaud (p) Jimmy Gourley (g) Pierre Michelot, Marcel Dutrieux (b) Jean Louis Viale (ds)
マイルスに駄作はない!と熱く語る人は日本には殊更多いと思うのですが,その10人中7人は,間違いなくカルトです(笑)。ジャズを常に流行の最先端にしようと目論み,自らもスタイリッシュであろうとし続けたマイルスはいちラッパ吹きとしてより,象徴的存在意義が大きかった人。つまるところ聴き手の多くは,彼の感情移入たっぷりなラッパの音色の向こうに「男の美学」めいたものを重ね,ジャズが幸せだった時代を投影して感情移入している面が少なからずあるということです(そういう人はオウムと一緒で,彼のアルバムを「駄作」と言おうものならマジ切れするので注意)。しかし,クリフォード・ブラウンの場合は?こちらはやや事情が違う。この人のラッパは間違いなく当時,他の誰よりも図抜けて見事でした。朗々と気品溢れる鳴りと端正なリップ・コントロールを持ち,どんなセッションに顔を出しても,破綻のないフレーズを自由自在に組み上げて,作品を格調高いものにしてしまう彼は,極めて正統な(カルト的偏りのない)ラッパの名手だったといえましょう。この盤は彼がライオネル・ハンプトン楽団に在籍した当時,外遊先のパリで親分に隠れて録音した米仏混合セッション。有名盤の影に隠れて目立ちませんが,白人中心の淡泊な伴奏が却ってバラードの,鯢頭に気品溢れるブラウニーの魅力を良く引き出した好内容作です。

★★★★3/4
Tadd Dameron Sextet / Septet "The Fabulous Fats Navarro" (Blue Note-EMI : CJ28-5120)
the chase: alt. the chase the squirrel: alt. the squirrel our delight: alt. our delight Dameronia: alt. Dameronia Jahbero: alt. Jahbero lady bird lady bird: alt. symphonette symphonette: atl. I think I'll go away
Tadd Dameron (p) Fats Navarro (tp) Ernie Henry (as) Charlie Rouse, Wardell Gray, Allen Eager (ts) Nelson Boyd, Curly Russell (b) Shadow Wilson, Kenny Clarke (ds)
ハード・バップの黎明期に活躍したピアニスト兼名編曲家のタッド・ダメロンは,大スタンダードと化した『アワー・デライト』に聴ける,メロディックなハード・バップ曲を数多く作曲して後世に名を残した人物です。このアルバムはそんな彼の代表作。ただ借り物のコード進行に細かいリフを重ねるだけのビバップからジャズを優雅に飛躍させた彼の,優れた作編曲センスが全面に横溢します。しかし,ジャケットをご覧になればお分かりの通りこの盤最大のセールスポイントは彼を慕って集まった豪華な演奏陣。わけてもジャケットを飾った巨漢のラッパ吹きファッツ・ナヴァロは,素晴らしく音圧が高く,ブライトに鳴るラッパで見事なソロを取ります。ディジー・ギレスピー並みのハイ・ノートと,ギレスピーにはない音色の良さを併せ持った彼は,そのまま生きて活動を続けていたら,きっと巨人の仲間入りをしてさぞ珍重されたでしょうに。彼もまた,この時代のジャズメンの大半がそうであったように,この輝かしい録音を残した後,荒んだ生活が祟ってみるみる健康を害し,ジャズがハード・バップへシフトしきるのを見届けることもできないまま病気で他界してしまいました。少なくともこの当時,間違いなくジャズの最先端を走っていたダメロン・コンボの輝かしい記録です。

★★★★
Ian Henry / John Porter Trio "Jazz Trio from Apollo Sound" (Apollo Sound : APSCD 213)
back alley Debra's dance ever since I first saw you Montevideo five-four blues water sprite Madeira something on my mind little princess concenting circles Salalah Mimosa cielo Brasiliano wistful thought breaking point hug noches sombres my lovely lady fragility Pete's blues
Ian Henry, John Porter (p) Darryl Runswick, Peter Chapman (b) Robin Jones (ds)
こちらは1970年代英ジャズ界の片隅で人知れず活動していた2組のピアノ・トリオを併録したCD。前半,イアン・ヘンリーのトリオは,初期エディ・ヒギンズやシダー・ウォルトンを思わせるエレガントで軽やかなカクテル・ピアノ。白人と言うことでシダーのような円みはなく,その意味ではチック・コリア的かも知れません。いっぽうのジョン・ポーターは,ヴァーヴ時代のエヴァンスも意識した演奏を。芸術・革新・個性をストイックに追う,気むずかしく高尚なジャズ史の表舞台とはまるで無縁の,いたって中庸なピアノ・トリオです。イアンはリード校,ポーターは王立音楽学校を出ておりピアニストとしての技術は闊達なうえ,オリジナルも良く書けている。プレイヤーの生き様やワン・アンド・オンリーの個性を音の行間から嗅ぎ取って,どこかで顔の見える感動を演奏者と共有することを歓びとし,泥臭い愛情を投射して音楽を聴く人ではなく,ただ出したお金に見合う質の良いトリオ演奏を聴くことのみをドライに求める方なら,充分お薦めできる内容だと思います。こういう上手いけど個性的とは言えない腕自慢が,今も昔もゴロゴロ出ては消えて行くのが音楽の世界なんだと思わずにはいられない一枚です。

★★★★★
Tubby Hayes and the All Stars "Tubby's Back in Town" (Smash : SRCD 67026)
afternoon in Paris I see with my third "T" lady "E" Stitt's tune medley - if I had you : alone together : for heaven's sake
Tubby Hayes, Roland Kirk, James Moody (reeds, fl) Walter Bishop Jr. (p) Sam Jones (b) Louis Hayes (ds)
1950年代後半から1960年代にかけて,イギリスで活躍したタビー・ヘイズは,1961年ズート・シムズとの交換トレードで数週間だけアメリカに渡ったことがあります。これはそのアメリカ詣でのクライマックスとなった録音で,ご覧の通り迎え撃つアメリカ陣超豪華。分けても1人で複数のリード楽器を吹き分ける奇才ローランド・カークが,持ち前のメロディックな才能を生かしてオリジナル曲2曲を書き,恐ろしく個性溢れる,しかし緊密なソロを吹いてタビー・ヘイズに真っ向勝負を挑む。ジェイムス・ムーディまで加わって組んずほぐれつ三つ巴。白眉の△鯢頭に,全員一歩も譲らず火花散る緊密なソロの応酬で快哉必至。加えて作編曲が素晴らしい。ブローイング・セッションというと,えてしてユニゾン・オンリーでブルースてんこ盛りの工夫ゼロ作品が多いものですが,こちらはカーク参加が奏功して作りも丁寧。B級ハード・バップ名盤として,自信を持って推薦いたします。廃盤になったのか相場値上がり中ですが,安価で見かけたら迷うことなくお買いなされ。

★★★★
George Coleman Octet "Big George" (Vee Jay : 30YD7015)
green dolphin street Frank's tune big George joggin'* body and soul revival
George Coleman, Junior Cook (ts) Harold Maburn (p) Frank Strozier (as) Mario Rivera (bs) Danny Moore (tp) Lisie Atkinson (b) Idris Muhammed (ds) Azzedin Weston (perc)*
実力の割に浮かばれないままの,カワイソーなプレイヤーの代表格が,ジョージ・コールマンです。1950年後半には既に中央へ進出,一時はマイルスのコンボにも在籍したほど力のあった人にも拘わらず,リーダー盤が制作できたのはやっと1970年代の後半に入ってからでした。尤もこの不遇は彼にも責任があり,数少ないチャンスをいつも充分ものにできないんですよねぇ。この盤は1978年の作品で,当時彼が率いていた大型コンボによる録音。メンフィス時代からの盟友メイバーンもちゃっかり参加。イカニモ1970年代らしいバタ臭いハーモニーに乗せ,後年のロリンズのようなぶりぶりとした音で,異様に脂ぎったB級テナーを吹いてます。悪い作品ではないんですが,この盤もどこかガサツというか,ここ一番なのにテキトーに済ませちゃっているというか。彼ほどの実力者なら,処女航海のあの緊張感で編曲とアドリブをやれば代打満塁ホームランですぐ一軍なのに・・募るはもどかしさばかりなり。この後も,彼はメイバーンやムハンマドと仲良く活動を続けていますが,終いには録音もモノラルにされちゃって・・身から出た錆というか何というか。寡欲なんでしょうか。「頑張ってくれよ〜!」と懇願するしか御座らない。作編曲,アドリブともクライマックスのΔ法ち瓦討裡袖薀侫.鵑枠爐糧襪瓩浸蠏櫃魎兇玄茲辰討い燭世たい。

★★★★1/4
Freddie Green "Mr. Rhythm" (RCA : 72431-30072-2)
up in the blues down for double back and forth free and easy learnin' the blues feed bag something's gotta give easy does it little Red swinging back a date with Ray when you wish upon a star
Freddie Green (g) Joe Newman (tp) Al Cohn (ts, cl) Henry Coker (tb) Nat Pierce (p) Milt Hinton (b) Jonathan Jones, Osie Johnson (ds)
フレディ・グリーンは,デューク・エリントン楽団と並んでスイング時代に人気を博したカウント・ベイシー楽団で,長年に渡りリズム・ギターを担当してきた人物。ひとたび彼がギターを手に取れば,どんなセッションも二拍子の穏やかな中間派ジャズに早変わりしてしまいます。その経歴からも推察できるように,ひたすらビッグ・バンドの伴奏に徹し,ソロを取らずに慎ましい音楽生活を送りました。このアルバムも唯一と言って良い彼のリーダー作なはずですが,やはり彼はひたすら伴奏。華々しい中間派のスター選手を,まるで自分の子どものように膝元でワイワイ遊ばせておいて,目を細めてそれを見つめているような,微笑ましい空気に溢れたアルバムです。そのせいかこのアルバム,ソリストが実に伸び伸びと吹いている。これは同時期にほぼ同じ顔触れで録音されたジョー・ニューマンの『アイ・フィール・ライク・ニューマン』と比べていただければ歴然でしょう。ジャズの大らかな表情が満面に溢れた快演集です。

★★★★1/2
Don Fagerquist Octet "Music to Fill a Void - Eight by Eight"(V.S.O.P. : #4 CD)
aren't you glad you're you easy to love smoke gets in your eyes all the things you are the song is you time after time easy living lullaby of broadway

Don Fagerquist (tp) Herb Geller (as) Ronnie Lang (bs) Ed Leddy (tp) Bob Enevoldsen (v-tb) Vince DeRosa (f-hrn) Marty Paich (p) Buddy Clark (b) Mel Lewis (ds)
西海岸のラッパ吹きドン・フェガークィストは,ビッグ・バンドやスタジオ・ワーク稼業で生涯を送った裏方ミュージシャン。B級ジャズの楽園ベツレヘムに数枚の脇役参加作があるものの,表舞台へはほとんど姿を現すことなく消えてしまいました。ジャケット左上方でヒッキーみたくラッパを吹いている漫画そのままのカワイソーな人です。日本でも評価はおろか,ほとんど知られてすらいません。浮かばれないのは日本ばかりじゃないらしく,イアン・カー他が書いた【ジャズ】(1995)にも紹介されていない。いつの世も人は派手なトリックスター好み。堅実地道な職人は流行らないってことなんでしょう。同じくラッパ職人であり,しかも過小評価の極みにあったジョー・ワイルダー同様,この人も音源僅少。リーダー盤に至ってはこの作品があるきりです。しかし,ワイルダーの傑作『ワイルダー&ワイルダー』をご存じの方は,知名度と実力が必ずしも比例しないことを良くご存じでしょう。実際彼は,東海岸のワイルダーと金閣銀閣に位置すると言っても良い逸材でした。小生が彼を聴いたのはデイヴ・ペルのオクテット録音でしたが,主役よりも彼の朗々とリッチな音色と,歌心溢れるソロに吃驚させられたものです。本盤は,そんな彼の持ち味が良く出た快演集。名編曲家ペイチの流麗で洒落たアレンジに乗り,抜けの良い音色でスイスイ気持ちよく好フレーズを連発する彼の『巧み』のラッパが心惹きます。西海岸ジャズがお好きな方は,ぜひお探しになってみてください。

★★★★3/4
Barney Willen "Barney" (RCA-BMG : BVCJ-640)
besame mucho stablemates Jordu lady bird lotus blossom everything happens to me I'll remember April témoin dans la ville

Barney Willen (ts) Kenny Dorham (tp) Duke Jordan (p) Paul Rovère (b) Daniel Humair (ds)
マイルス・ディヴィスとともに,ヌーベルバーグの旗手ルイ・マル監督の映画『死刑台のエレベーター』(1958)のサントラ音楽に参加してフランス国外でも知名度を獲得したフランスのテナー・マン,バルネ・ウィランは,当時弱冠21才の若人。同作のお陰で『殺られる』,『危険な関係』,『奴らを殺せ』など,矢継ぎ早にサントラの仕事を手に入れ,仏国内でも評価を確立したばかりでなく,アメリカのミュージシャンにも名前を知られるようになりました。このアルバムはその翌年にパリの有名なクラブ『サンジェルマン』で吹き込まれたライヴ盤。アメリカ屈指のハード・バッパーを迎え,きっと心に期するものがあったことでしょう。本場アメリカのテナーマンとはひと味違う引き締まったトーンとイン・テンポで明晰に唄うフレージングは紛れもなく欧州人ならではのものです。さらにこの盤,受けて立つドーハムが素晴らしいの何の。かっちりと唄うバルネに対し,拍節を自由に操って悠々自由に唄い,上手さに巧さで応酬。米勢の客演で白人らしいカサカサ感も中和されたのが奏功し,非常にバランスの取れた一枚となりました。ハードバップ秀逸作。

★★★★1/2
Richie Beirach "Elm" (ECM : 1142)
sea priestess pendulum ki snow leopard elm
Richie Beirach (p) George Mraz (b) Jack DeJohnette (ds)
リッチー・バイラークは1974年に『EON』で登場したのち,数多くのリーダー盤を録音していきます。しかし残念なことにその大半は不完全燃焼。初期作品の静謐なピアニズムを彼自身が乗り越えて,マッシブで力感溢れる現在の演奏に行き着くまでには,かなりの紆余曲折がありました。これはバイラークを良く知る方なら今更申すまでもないでしょう。ご覧の通り屈強なサイドメンを従えたこのトリオ作は,静謐なピアニズムを発揮していた初期バイラークの代表盤で,1979年録音。ドラムのディジョネットとはこの後『トラスト』の共演があるきりだと記憶するのですが,ムラーツは現在でもちょくちょく一緒に録音している間柄。ムラーツはクラシック上がりらしく,ジャズ・ベースには珍しく聴音をかなり完璧にこなす人なので,クラシック上がりのバイラークには相性がよいのでしょう。現在でも頻繁に演奏される↓キい鯢頭にオリジナルは良く書けており,豪華メンバーらしくアドリブの密度も高い。特に最近ダブル・タイム盤で再演された△蓮た卦譴離▲廛蹇璽舛大きく違う分,面白く聴けました。

★★★★★
Joerg Reiter Trio "Simple Mood" (Atelier Sawano : AS 018)
someday my prince will come on Green Dolphin street when the sun lights up the future Stella by starlight simple mood 1. 2. 79 invitation chutney

Joerg Reiter (p) Thomas Stabenow (b) Klaus Weiss (ds)
相変わらずどこからともなく好内容盤を探し出してきてくださる澤野さん盤を。これで演奏家の人となりをコンパクトに紹介してくれるとなお良いのですが(浪花節調のアジ演説文は必要ないから:笑)。例によって略歴がないのでフォローしますと,リーダーは1958年独ウェブリンゲンに生まれ,1978年にシュットガルトの国立音大へ進んでクラシック・ピアノと作曲を学んだ経歴の持ち主。1986年以降,ガーシュイン作品集から器楽クラシック風の編成による作品集まで6枚のリーダー盤を出しており,中にはチャカ・カーンと組んだ異色のアルバムまで。その後スタジオに籠もってしまったようで,見る限りジャズ専業というよりは,多芸多才なスタジオ・ミュージシャンに近いのでは。これは初リーダー作発表前に地元で録音されたもの。恐らくもとは私家録音に近いものでしょう。中身は´↓きГ肇丱薀奪氷イ澆柄曲や,『Re:パーソン・アイ・ニュー』と区別の付かないΔらもご想像の通りのエヴァンス派トリオ。クラ上がり+独仕込みらしく,針のように尖った硬い表情の打鍵でまずまず運指も闊達。左のコードを右手のフレーズと同時にガンガン叩く強面なエヴァンス派スタイルを駆使してゴツゴツと熱っぽく弾く。後年のエヴァンスに目がない方なら予定調和的に楽しめるでしょう。脇役も独ジャズ屈指の実力者で安心。お薦め盤です。

(2002. 11. 10)