往年のジャズ vol. 15


★★★★★
Junior Mance Trio "Junior" (Verve-Polydor : POCJ-1843)
a smooth one Mss Jackie's delight whisper not love for sale lilacks in the rain small fly jubilation Birk's works blues for Beverlee Junior's tune
Junior Mance (p) Ray Brown (b) Lex Humphries (ds)

最近またさかんに録音を出して意気軒昂なところを見せているジュニア・マンスが1959年に発表した,初リーダー作にして誰もが認める代表作です。彼の最大の魅力はその端正なピアノ・タッチ。エレガンスのあるピアニストといえばハンク・ジョーンズがいますが,彼もジョーンズ同様大変タッチが丸く綺麗なピアノを弾く人。しかし,ジョーンズのプレイが中間派の影響を受けたひたすらエレガントなものであったのに対し,ジュニアのピアノにはグルーヴ感やファンキーなフィーリングが根底にあり,泥臭いフィーリングを理知的なエレガンスで巧みに抑えた上品なピアニズムが大きな魅力でした。そんな持ち味は,ずっと端正で寡黙だという点を除けば,彼がアイドルにしていた巨匠オスカー・ピーターソンに相通じるものがあるでしょう。この盤のミソは,そんな主役の脇を,本家ピーターソンのベーシスト,レイ・ブラウンが務めたことにあり。マンスのピアノが水を得た魚のように歌い,跳ね回ることができたのも,低奏部を絶えず支えて心地よい音場を提供した,レイのこの上なく重く太く,的確なウォーキングがあればこそです。

★★★★1/2
J.R. Monterose + Joe Abodeely Trio "In Action" (Bainbridge : BCD503)
Waltz for Claire I should care that you are red devil lover man herky hawks

J.R. Monterose (ts) Joe Abodeely (p) Dale Oehler (b) Gary Allen (ds)
JRモンテローズといえばトミフラと組んだザナドゥ盤などが有名で,それ以外の盤がいの一番に挙げられているのを小生はあまり見たことがありません。この盤も,代表作とされる『ザ・メッセージ』に続く録音でありながら全くのマイナー盤と不遇。ミンガスの超有名盤にも参加していた極めてオリジナルな語法を持つ人にも拘わらず,あまり浮かばれないままに終わったのは可哀相でした。当時アイオワ州で唯一のジャズ・クラブ経営者だったジョー・アボディーリーのピアノは,スイング感が弱く小粒ながらエヴァンスやハンク・ジョーンズを思わせるエレガントなもの。さらにミディアム以下の歌ものやバラードなど中心の選曲。主役がなければ凡庸以下の軟派盤に終わったでしょう。それだけに一層,圧倒的に場違いな彼の存在感が強烈なコントラストを醸し出している。ぶっつぶっつフレーズをざく切りするマグロ解体業者風の唄い回し,どこか鬼気迫る凄みをたたえた武骨なブローが色濃く表出。浪花節調の思い入れを以てジャズに浸るのを無上の悦びとするファンには,まさしく感涙を以て迎えられる一枚ではないでしょうか。

★★★★3/4
Michel Camilo "Michel Camilo" (Portrait-CBS : RK 44482)
suite sandrine part 1 nostalgia dreamlight crossroads sunset yarey pra voce blue bossa Caribe

Michel Camilo (p) Marc Johnson, Lincoln Goines (b) Dave Weckl, Joel Rosenblatt (ds) Mongo Santamaria (conga)
ミシェル・カミロはサント=ドミンゴ島の出身。1988年にアメリカへ進出しました。出自そのままラテン=キューバンの乗りを加えたチック・コリア色の強い作編曲センスと,急速調にも流れない鮮やかな運指技巧が彼の持ち味。脇役に参加したデイブ・ウェックルの名前が物語る通り,極めて平明で,ロック・フュージョン的な分かりやすさを旨としたピアノ弾きだと言えるでしょう。ラテン乗りのピアノ弾きは,この人の他にもこれまで沢山出てきましたが,その多くは淘汰され,老成する前に殆ど全員がシーンから姿を消します。分かりやすいものの深みに乏しく飽きられやすいスタイルなうえ,テク一本勝負のピアノ弾きはどうしても年齢と戦わなくてはいけないため,デビュー盤にピークが来ることが多くなってしまうからです。一頃大流行したゴンサロ・ルバルカバ同様,この人も例外ではなく,最近はリーダー盤を除いて,ほとんど見ることができなくなってしまいました。そして,こちらにご紹介するのも,彼のアメリカ・デビュー作。全編に渡る快刀乱麻の技巧は,迷いを知らぬ青年のように爽やかです。爽やかラテン・フュージョン乗りも大丈夫な方には,一聴の価値があるのでは。

★★★★1/2
Cedar Walton "The Trio vol.1" (Red : RR 123192-2)
my ship everytime we say goodbye satin doll lover man holy land voices deep within me

Cedar Walton (p) David Williams (b) Billy Higgins (ds)
シダー・ウォルトンは,1950年代からの活動歴を誇る大ベテラン。しかし,どちらかというと管の脇役に回った方がいい仕事をする人で,ピアノ・トリオ以下の編成で溜飲が下がったアルバムとなるとあまり記憶がありません。これは,スタンドプレーに走ることなく,淡々と右手で歌い,堅実に左でそれを支えるだけの,地味で飾らないスタイルの故でしょう。この盤はアル・ヘイグのカバーで有名になった【ホーリー・ランド】の自作自演を収めたトリオ作で,1985年の録音。この後,第3弾まで出るくらい脇役とは相性も良く,個人的には彼のトリオ盤では代表作じゃないかと思います。馴染みのスタンダードを衒いなく歌うアドリブは,小粋でエレガント。派手なところはありませんけれど,全編に渡って破綻なく,好く協調した好演奏が続く。小粋なレストランにゆったり座る気分で,安心して聴けるいいトリオ作だと思います。

★★★★★
Jacques Schols Quartet "What is There to Say" (Blue Jack : 007)
suddenly it's spring tickletoe who can I turn to moonlight becomes you the shadow of your smile blues for Robin Mark spring can really hang you up the most sweet and lovely Karen D&E the touch of your lips the gentle rain corner pocket what is there to say

Jacques Schols (b) Cees Slinger (p) Ruud Brink (ts) John Engels (ds)
副題に「忘れられた音源」とあるこのCD。オランダ放送局のハン・ライジガー氏により1965年から3年掛けて放送用音源として制作されたテープを,CD化した発掘もの。のち1974年にはエジソン賞を受賞することになるオランダ屈指のテナーマン,ルード・ブリンク。自己のオクテットを始めフィリー・ジョーのサイドメンとして長く活躍したシーズ・スリンガー。ドラムのエンゲルスはオランダ獅子賞を獲り,リーダーはハーグ音楽院教授に。いずれもその後功成り名を留めた人物ながら,当時はまだまだ若手。そういう連中を集めて,こんな時代に放送音源を録っていた慧眼には敬服するばかりです。特にテナーのブリンクには絶頂期の音源が乏しいので,これは貴重な復刻だと言わなくてはならないでしょう。オランダといえば,古くはピム・ヤコブスやルイス・ヴァン・ダイク,新しいところでカレル・ボエリーやミケル・ボルストラップら趣味の良いピアノ弾きが多い土地柄。このカルテット盤も,趣味の良さは推して知るべしです。スタン・ゲッツや初期バド・シャンクを思わせるクールなテナーと,ウィントン・ケリーやシダー・ウォルトンを足し合わせたエレガントなピアノに,ヴァン・ダイク・トリオ構成員として知られるリズム隊が合体・・と聞いて「オオッ」と宣ったあなたなら,間違いなく快哉を叫ぶことでしょう。

★★★★1/2
Don Rendell "Meet Don Rendell" (Jasmine : JASCD 613)
a farmer's garden and she appeared kafeet relax in the sun the myth of the old man dionysios the ice that breaks magneten mood 4:30AM

Dickie Hawdon (flh, tp) Don Rendell (ts) Ronnie Ross (bs, ts) Damian Robinson (p) Ashley Kozak, Pete Elderfield, Sammy Stokes (b) Don Lawson, Derek Hogg, Benny Goodman (ds)
リーダーは今でこそ無名ですが,ジョン・ダンクワース七重奏団で名を挙げ,この頃,既にイギリスではトップ・クラスの人気を誇っていました。このアルバムは,のちにフリーに転向してしまう彼が,レスター上がりの流麗なフレーズを吹いていた頃の代表作で,四重奏,五重奏,六重奏で録音された3種類のセッションをカップリングしたもの。1954年から1955年にかけて録音されたという時代からでしょうか。冒頭からアンサンブル重視の編曲で,典型的な西海岸サウンド。リーダーのサックスもまた西海岸。ハスキーにくすんだレスター系の音色で,ズート・シムズやリッチー・カミューカあたりにベクトルを置いた演奏です。流麗に歌うリーダーも素晴らしいですが,リーダーがスター選手だからかこの盤は脇役も皆上手い。特にバリトンのロニー・ロスが異様に上手いのには吃驚しました。テンポ復刻シリーズの目玉といっても良い一枚ではないでしょうか。西海岸ジャズ好きな方は一聴の価値ありです。

★★★★★
Armen Donelian - Carl Morten Iversen - Audun Kleive "Trio '87" (Odin : NJ 4024-2)
song with no name conception broken Carousel seasons' change in your own sweet way secrets cockeyed blues angel eyes metropolitan madness

Armen Donelian (p) Carl Morten Iversen (b) Audun Kleive (ds)
アルメン・ドネリアンは1950年,ニューヨーク郊外のジャクソンハイツに生まれたピアノ奏者。アメリカ離れした名前の所以は両親がアルメニア人である(Armen=アルメニアの)ことを反映してのもの。最近はマンハッタン音楽院とウィリアム・パターソン大学で教鞭を執っていますが,ジャズ・ピアニストや作曲家としても評価は高く,サニーサイドなどの米系レーベルに数枚のソロ作やコンボ作品も録音しています。サムリ・ミッコネンの2作目でも太鼓を叩いていたクレイヴも参加したこの作品は,名前の通り1987年に録音された臨時編成のユニットによる,決して多いとは言えない彼のトリオ録音。冒頭からエヴァンスやチック・コリアの影響下に外連味のないメロディックな単音フレージングで軽やかに歌う。デヴィッド・キコウスキーから,嫌みなまでに幾何的なあのフレージングを除いて朴訥にしたような感じです。テクニックを振りかざすタイプではありませんし,強い個性には乏しいのですが,どんなネタも素材からきっちり目配りした上で,さらっとメロディックかつ軽やかに,破綻なくまとめ上げられており,さすが裏方稼業の職人。そのシュアな仕上げの良さに溜飲が下がりました。お薦め作。

★★★★1/4
Gordon Beck Trio "Gyroscope" (Morgan-Art of Life : AL 1003-2)
gyroscope clusters suite No.1 Miss. T Fying sincerity and still she is with me/oxus

Gordon Beck (p) Jeff Clyne (b) Tony Oxley (ds)
このアルバムはイギリスのピアノ弾きゴードン・ベックの1969年盤をCD化した復刻盤。リーダーはかつてタビー・ヘイズ最絶頂期のサイドメンを務めたこともあり,もともとオーソドックスなスタイルで演奏していたピアニストです。しかし1969年と言えば,折から彼岸のアメリカでは怒濤の黒人ジャズ真っ盛り。多くのジャズメンがそれぞれの配分で前衛的な奏法を採り入れて激しく演奏していた。そんな時代を反映してでしょうか。ハード・バッパーだったはずの彼が,僅か数年のうちにフリーなアプローチを取って演奏する前衛野郎に変貌していました。冒頭から急速調のフリー・フォームで疾走し,口当たりはかなりハゲシイものに変わっていますけれど,セシル・テイラーのように全面フリーではなく,むしろフリーなアプローチを柔軟に採り入れて,ヴァーヴ期のエヴァンスの語法を拡張しようとした先鋭的なモード弾きという感じ。似たタイプを探すと『ブリリアント・サークル』時代のスタンリー・カウエルあたりでしょうか。原盤はモーガンというマイナー・レーベル。録音も半分私家スタジオだった様子。1969年にもかかわらず15年は時代を遡ったと思しき録音は誉められたもんじゃありませんけど,エヴァンス派を咀嚼した楽曲はきっちり書けており,演奏もイン・テンポに入ると闊達に弾けている。先鋭を意図した音が,却って時代を感じさせるレトロさに変貌してしまったのはある意味で皮肉ながら,前衛ものは苦手な方でも理解不能な代物ではなく,中身はなかなか高水準であると思います。

★★★★1/4
Michael Naura Quintet "Michael Naura Quintet" (Brunswick : 543 128-2)
three seconds night flower Dr.Jekyll down in the village gruga mood stratosphere

Michael Naura (p) Peter Reinke (as) Wolfgang Schlüter (vib) Wolfgang Luschert (b) Joe Nay (ds)
ミヒャエル・ナウラの五重奏団が1963年発表したデビュー作です。リーダーは1934年生まれで,大学では社会学と哲学を専攻したインテリさん。ピーターソンを寡黙にし,モンク臭とボビー・ティモンズ臭をブレンドしたようなピアノを弾いてます。リーダーも含め,太鼓のジョー・ナイを,テテ・モントリュー界隈で時々お見かけするほかは滅多に目にする機会もないマイナーなメンバーなうえ,一瞬下手なのかと錯覚するドイツ人らしい硬い乗り方ながら,急速調のなどでもインテンポで乗れていますし,演奏レベルはかなり高いです。アルトのラインケがモロにマクリーン直系で,太鼓はブレイキー臭いと言えば察する人は察するでしょう。欧州ものとは思えないほど切々として泥臭いハード・バップ作品。↓イ離丱蕁璽匹任魯泪リーン効果で『レフト・アローン』みたいだし,鉄琴のテディ・チャールス効果でい蓮悒ーリン!』みたい。プレスティッジ,ベツレヘム(ブルーノートではないことに注意)辺りに1950年代中頃集中して録音されたB級ハード・バップの臭みがプンプンしてきます。その類に目がない方は相当に興じ入って聴けるのでは。

★★★★1/2
Tete Montoliu Trio "Catalonian Fire" (SteepleChase-Videoarts : VACE-1069)
sweet georgia fame a nightingale sang at Berkeley Square blues for Perla falling in love with love old folks au private body and soul

Tete Montoliu (p) Niels Henning Ørsted Pedersen (b) Albert Heath (ds)
テテ・モントリューは,オスカー・ピーターソンそのままに抜群の技巧を誇ったスペインのピアノ弾き。グルーヴィーなピーターソンに対し,よりモーダルで流麗なピアノを弾いた彼は,その並外れたテクニックと,小難しさなど微塵もない明快なソロ運びで,たちまち人気を獲得しました。この作品は1974年のもので,彼の名を一躍スターダムへのし上げるとともに,一二を争う人気作となったもの。欧州最強の豪腕ベーシストだったペデルセン,バタバタ激しい太鼓でお馴染みアル・ヒースを迎え,いつものアレンジでいつもの曲を快刀乱麻に料理しています。´Г聾機Ω姑廚砲靴凸昇遒痢悒屮襦璽后Ε侫ー・リネ』でも聴くことが出来る十八番。同盤を買ってもこちらで聴いても一向に問題ないです。これで盲目とは言われるまで誰一人気づくことはないでしょう。個人的には△出色。同曲の演奏中でも屈指の秀演ではないでしょうか。

(2003. 4. 10)