往年のジャズ vol. 16


★★★★1/4
Gerald Wiggins Trio "Reminiscin' with Wig" (Motif-Fresh Sound : SSR-CD 47)
three o'clock in the morning oh, you beautiful doll I used to love you dear old girl trail of the loncesome pine ma, she's making eyes at me that old gang of mine they didn't believe me in my merry oldmobile part 1 in my merry oldmobile part 2
Gerald Wiggins (p) Eugene Wright (b) Bill Douglass (ds)
ジェラルド・ウィギンスは1922年ニューヨーク生まれ。ベニー・カーター楽団の一員として活動した後,演奏を買われてリナ・ホーンやダイナ・ワシントンの歌伴を経験していることからも,その趣味の良さは折り紙付きです。その後西海岸に拠点を移し,西海岸ジャズ黄金期の1950年代には多くのセッションで名脇役として重宝されました。そんな経緯もあって彼の名前をサイドメンで見た方は多いことでしょう。しかし,リーダー盤となると,興味を持った方自体少ないんじゃないでしょうか。1957年ロスで録音されたこの盤は,中間派の名手ビル・ダグラス,デイブ・ブルーベックのグループにもいたジーン・ライトと趣味の良いサイドを迎え,彼が持ち前のデリケートで瀟洒なピアノを存分に披露した好内容作。時折洒落た装飾音を絡める二拍乗りの左手にスイング・ジャズの面影をとどめつつ,ぽつり・ぽつりと遠慮がちな単音ソロで語る様は,ただただ奥ゆかしく上品なデリカシーに富んだもの。個性個性と連呼して,その実単に我の強い音楽ばかりを重宝する悪しき一般通念が,一方で「慎み深さ」という個性を持ったこういう人を聴かれないままにするとしたら,多分に勿体ない話じゃないでしょうか。

★★★★3/4
Eric Dolphy "Out to Lunch! " (Blue Note : CDP 7 46524 2)
hat and beard something sweet, something tender gazzelloni out to lunch straight up and down
Eric Dolphy (as, b-cl, fl) Freddie Hubbard (tp) Bobby Hutcherson (vib) Richard Davis (b) Tony Williams (ds)
「音楽は演奏された次の瞬間には虚空へと消え去ってしまう」という名言を残したドルフィは,1964年にはあっけなく世を去ってしまいますが,パーカー亡き後,最も異彩を放ったマルチ・リード奏者です。特にバス・クラリネットは滅法上手く,パーカーがバード(鳥)ならドルフィーはガチョウだと言っても好いくらい奔放かつ十全に,この楽器をまるで生き物の如く「鳴らすことのできた」名手でした。この盤は死の直前,1964年の録音。ご覧の通りフロントの片割れに新主流派のハバードを迎え,「前衛オッケーです」な3人を背後に侍らせるという,策士この上ない人選で作られた秀作。ゴスペル,ハラーに始まってモンクに至る,より黒人史観に則ったジャズ語法を背景とし,それをクールに再現前して当世風のコンテンポラリー・ジャズを創造しようとした彼の,ひとつの完成型を見ることができます。奔放で緻密,呪術的でいて都会的な語り口は,モンクともショーターとも似て非なる彼独自の世界です。ちなみに標題の「アウト・トゥ・ランチ」は「お昼を食べに行く」ではなく,「無知からの解放」を意味するスラング。この標題に,彼の目論見も象徴されていると言えましょう。

★★★★
Jack Sheldon "The Quartet and the Quintet" (Pacific Jazz : CDP 7243 4 93160 2 7)
contour it's only a paper moon Leroy's blues cheek to cheek streets of Madashi get out of town ah Moore dozo: let go mad about the boy toot sweet Jack departs what is there to say groovus mentus beach-wise Palermo walk blues irresistible you Guatemala I'm getting sentimental over you
Jack Sheldon (tp) Joe Maini (as) Zoot Sims (ts) Kenny Drew, Walter Norris (p) Leroy Vinnegar, Ralph Pena, Bob Whitlock (b) Lawrence Marable, Gene Gammage (ds)
ジャック・シェルドンは西海岸ジャズの黄金時代に活躍した白人ラッパ吹き。でっぷり脂の乗った挽肉をぎゅうぎゅうに詰めた袋からソーセージでも絞り出しているかのような音色で,何とも飄々としたソロを取るので,西海岸中でも顔の見える度は恐らく最上位だった一人じゃないでしょうか。彼は本業以外でも小器用に立ち回り,1960年代に入るとコメディアンでも成功。ジャズからは遠ざかって,その後はあまり録音を見なくなってしまいます。いい仕事を沢山している脇役参加作を除くと,この盤は今も昔も彼を知るのに格好の一枚。いつもより朗々と吹いている四重奏に,いつもの標剽漢ぶりの楽しめる五重奏がコンピされています。ちなみに,本盤は曲が実に面白くて,キ┐呂匹Δ眛本語らしいんですが・・「まだし通り」ってどこ?(笑),また,最初の2曲はドリュー絡み。,魯泪リーンの某有名盤で,△魯疋螢紂爾離蝓璽澄屡廚任眥阿ことができ,アレンジもまるで同じです。特に前者のほうは,ここで吹いているジョー・マイニが西海岸にも拘わらずマクリーン臭モロ出しで対抗心ありありの熱演をしており興味津々。本家をご存じない方は聴き比べると面白さ倍増なのでは。

★★★★★
Harry Edison and his Orchestra "Sweets" (Verve-Polydor : POCJ-1926)
hollering at the Watkins used to be Basie how deep is the ocean studio call willow weep for me opus 711 love is here to stay K.M.blues walkin' with Sweets

Harry Edison (tp) Ben Webster (ts) Jimmy Rowles (p) Barney Kessel (g) Joe Mondragon (b) Alvin Stoller (ds)
△らも明らかなとおり,1915年オハイオ州コロンバス生まれのリーダーはベイシー楽団の出身者。いっぽうベン・ウェブスターはエリントン楽団の花形だった人物。1956年と時代がハード・バップのただ中にあって録音された本盤は,基本的には功なり名を遂げた両雄が若手を使って制作した中間派イディオムの作品と言って良いでしょう。もし貴兄が,ブルース中心の工夫の薄い編曲や,貧弱なピアノのコンピング,ユニゾン主体の主旋律などに拘りなく,ただいいアドリブが聴ければ良いとお考えなら,この盤は,中間派ジャズ作品の数多の作品中でも筆頭に挙げたくなるほど内容が良い。´△汎韻献ーの曲が続いてゲンナリさせますし,個性派と無理矢理誉められながら実は単にヘタクソでしかないロウルズのピアノの舌足らずさにはむかっ腹が立つでしょうが,それを補って余りあるのが主役2人の神懸かり的アドリブ。単純なリフの中から次々と捻り出される創造性と精気に富んだフレーズはただただ圧巻。この上なくメロディックで破綻のないソロを聴くだけで,充分お腹一杯になることでしょう。

★★★★1/2
John Coates Jr. "Alone and Live" (Philips : EJD-3066)
prologue, No.39 when it's sleepy time down south never have known an Esther sketch mixed feelings homage something kinda silly the end of the beginning the prince

John Coates Jr. (piano)
キース・ジャレットは,欧州の名手ジョン・テイラーやボボ・ステンソンらとともに欧州ジャズの形を作った立役者の一人ですが,彼のアルバムを色々聴いていると,驚くほど高率で,民族音楽やフォーク・ソング色の濃い楽曲が目に付きます。どうしてなのか気になった貴方には,この盤を聴く意味が充分にあることでしょう。この盤の主人公ジョン・コーツは1938年ニュージャージー州生まれ。ルドガース大学を出たのちペンシルバニア州デラウエアに移り,その後は同地のクラブ『ディア・ヘッド・イン』でハウス・ピアニストを務めた人物。本盤同様ディア・ヘッド・インのライヴ録音で数枚のリーダー盤も残しています。ところで,ディア・ヘッドという名前,聞き覚えがありませんか?そう。キース・ジャレットにも,『ディア・ヘッド・イン』というライヴ盤が。実はジョン・コーツ,短期間ながらキース・ジャレットの師匠だった人物なのです。そうと知って聴けば貴兄も,一聴ジョージ・ウィンストンのように爽やかで詩的,そして淡泊なコーツのソロ・ピアノ,キースのそれと実に良く似ていることに驚かれるのではないでしょうか。

★★★★
Nick Travis Quintet "The Panic is On" (RCA : 74321398802)
Nick's knacks they all laughed tickletoe Travisimo jazzbo's jaunt you don't know what love is Cohn pone in the Nick of time

Nick Travis (tp) Al Cohn (ts) John Williams (p) Teddy Kotick (b) Art Mardigan (ds)
ズート・シムズが1950年代半ばに残した快作『ズート!』で巧いラッパを吹いていたニック・トラヴィスのリーダー作(1954年ニューヨーク録音)。この盤の成功の要因は,敢えてバラードをΠ豢覆僕泙─ち簡團好ぅ鵐阿謀阿靴神作方針。これが奏功したか,特に脇役を中心として,実に伸び伸びと流麗に乗れている。ゴツゴツと不器用そうに弾くのが身上のジョン・ウィリアムスが,この盤ほど淀みなくコンピングし,楽しげにソロを弾くのを聴いたのは初めてのことですし,ズートの陰に隠れて今ひとつ昼行灯なアル・コーンも驚くほど悠々と良く歌う。チッチキ・チッチキした太鼓も,各拍を充分伸ばしていく太いベースもノリノリ。リーダーがあまりに無名なため知られることのないままのレコードですが,勿体ない。スイング度なら西海岸ジャズ屈指の好内容作だと思います。

★★★★3/4
Chet Baker & Paul Bley "Diane"(SteepleChase : SCCD-31207)
if I should lose you you go to my head* how deep is the ocean pent-up house everytime we say goodbye Diane skidadidlin' little girl blue

Chet Baker (trumpet, vocal*) Paul Bley (piano)
西海岸の1950年代をリードしたトランペット奏者チェット・ベイカーは,ジェームス・ディーン似の甘いルックスと,ヴォーカルも嗜む小器用さとを併せ持ち,一時は東のマイルス・デイヴィスと並ぶ人気を誇った名手でした。その後数度の麻薬渦を経て見る陰もなく荒んだ彼の後年は,一般的な意味での人気とは縁遠いものになってゆきました。しかし彼のラッパは,実にこの最晩年こそ,過去のどの時期よりも深く聴き手の心へと浸潤する,蠱惑な魔力を秘めるようになっていたのでした。この作品は1985年のもので,エヴァンス派第2世代に属しながら,同じく奔放な女性遍歴を繰り広げたエヴァンス派におけるモンク・ピアニスト,ポール・ブレイとの珍しいデュオ作品。冒頭から超スロー・テンポで穏やかにハスキー・トーンを奏でるラッパは,もはやハイ・ノートをヒットすることもなければ,澄み切ったブライトな音色を鳴らすこともない。しかし,そのうらぶれた音色の奥に,ホテルからの謎の転落死という形で一般通念とは隔絶した生涯に幕を引いたこの人の,孤独で破天荒な生き様が透けて見えます。名作。

★★★★1/2
Gene Ammons and Sony Stitt "Boss Tenors" (Verve : 837 440-2)
there is no greater love the one before this autumn leaves blues up and down counter clockwise

Gene Ammons (ts) Sony Stitt (as, ts) John Houton (p) Buster Williams (b) George Brown (ds)
スイング時代に活躍した大御所たちは,時代がバップ期に移行し,バップ・フレーズでパラパラ颯爽と吹くサックスが隆盛となってからも,サブトーンやダート・トーンを活かし,真っ当に歌うスタイルを堅持。俗にソウル・ジャズと呼ばれるディープで泥臭いジャズや,中間派と呼ばれる,スイング・ジャズ寄りのスタイルを堅持して頑張りました。デューク・エリントンやカウント・ベイシーの楽団の花形スターとして君臨してきたコールマン・ホーキンスやベン・ウェブスターが斯界の二枚目スターならば,この盤の主人公ジーン・アモンズは敵役の代表格です。聴き手もびびってお漏らししそうになるほど野太い声量と,ドスの利いたダート・トーンのだみ声で共演陣に凄むさまは,さながらジャズ界の宍戸譲という形容が相応しい。彼は中西部ジャズのメッカ,シカゴの出で,もとはスタン・ゲッツの後任としてウディ・ハーマン楽団にも居たことがある大物。スティットとは,お互いが有名になる前に双頭コンボを組んでいた経緯があり,この録音は10余年ぶりの再会セッションとして企画されたものでした。そんな2人の饗宴だけに,脇の3人は完全に両首領の使い走り。あまりに大人しくてちょっと物足りないのが残念といえば残念です。

★★★★1/2
Pharoah Sanders "Journey to the One" (Evidence : ECD 22016-2)
greetings to Idris doktor Pitt Kazuko: peace child after the rain soledad you've got to have freedom yemenja easy to remember think about the one Bedria

Pharoah Sanders (ts) John Hicks, Joe Bonner (p) Ray Drummond (b) Idris Muhammad (ds) Eddie Henderson (flh) Carl Lockett (g) Yoko Ito (koto) James Pomerantz (sitar) et al.
ジョン・コルトレーンは1967年に亡くなりますが,既にその当時には,彼を信奉するテナーマンがシーンには多く現れていました。追求型でカッコ良かったトレーンの信奉者は当然ながら,プレイだけでなく生き様や世界観などにも少なからず共鳴していたので,彼らの作る音楽もまた,青臭さともレトロっぽさともつかぬ,ジョン・レノン世代特有の「浮世離れした理想主義と頽廃感」に満ちたものになりました。限りなく当時代性を帯びたそれらの録音の大半は,ベトナム戦争や学生紛争に一喜一憂し,浮き足だった理想論に燃えたあの世代の人間だけが共有できるものを多分に含んでいるため,すっかり理想論が褪めてしまった今聴いても,レトロでアヤシイ香りしかしません。それでも,のちにバラード集を出すまで軟化して落ち着くことになるファラオ・サンダースの作品は,比較的中庸を得たもの。トレーン心酔期間から少し時間を置いているのも奏功したのでしょう。一連のトレーン心酔ものの中では比較的違和感なく,時代の空気を聴き取ることのできる秀作です。ダート・トーンやフリーキー奏法,モード手法などを駆使した主役のテナー,新主流派をベースにしつつも,シタールや琴まで加え,氾世界的な音楽を模索したトレーン世代の音楽観は,こんにちでは愚直なまでの単純さと熱さを伴って懐かしく響きます。

★★★★1/2
Pete Jolly Trio "Timeless" (V.S.O.P. : #105)
milestones tea for two that old devil moon don't worry about me stars and stripes forever I should care

Pete Jolly (p) Chuck Berghofer (b) Nick Ceroli (ds)
1932年コネチカット州生まれのピート・ジョリーは,ドライブ感あふれるピアニズムで1950年代の西海岸ジャズ隆盛期を支えた名手。抜群の運指技巧と明晰なフレージングは見事なもので,その腕を買われショーティ・ロジャースやアート・ペッパーのグループでピアニストの座を務めました。同じ西海岸の飄々ラッパ吹きジャック・シェルドン同様,この間には俳優業にも進出。アコーディオンも嗜むなど,ショーマンシップを発揮して多芸なところを見せたものです。この事実が示す通り,素晴らしい技量を持ちながらいわゆる職人気質ではなく,器用に何でもこなすスタジオ・ワーカーだった彼は,すでに1955年には初リーダー盤も出し,その後かなりの数の録音を残したにもかかわらず,意外なほど評価が芳しくありません。芸人イメージで損をした代表選手ですねえ。勿体ない。本盤は,西海岸ジャズが盛りを過ぎた後もロサンゼルスでその灯を守っていたクラブ『ドンテ』で1969年に録音されたライヴ音源。気心知れた朋友と,衒うところなくスタンダードを演ってます。お蔵入りしていた音源だそうですが,中身はといえばこれが未発表だったとは思えないほど痛快。まるで捻りのない曲解釈も,こうまで演奏が良いと逆に潔い。往々にして技巧派に多い空フレーズもほとんどなく,明瞭にして良く歌う右手は徹頭徹尾乗りが良い。アラン・ドウソンばりの小気味よいシンバルで煽るニック・セロリに,最近もヤン・ラングレンのライブ盤で胸を貸して健在ぶりを見せたバークホーファーが堅実サポートと,穴のない演奏に快哉を叫びます。そういえばジョリー本人も,最近ラングレンと組んでピアノ・カルテット盤を発表しましたっけ。やっぱ年長組にはラングレンのピアノ,受けるんですねえ。

(2003. 10. 11)