往年のジャズ vol. 17


★★★★★
Gianni Basso & Oscar Valdambrini "Blues for Gassman" (GMG Music : CD43106)
fata morgana fascinating rhythm blues for Gassman how about you? Peter of April Indiana there will never be another you how deep is the ocean autumn leaves crazy rhythm ciau turin but not for me guess who I should care il grimmo

Gianni Basso (ts) Oscar Valdambrini (tp) Attilio Donadio, Glauco Masetti (as) Lars Gullin (bs) Mario Pezzotta, Dino Piana (tb) Renato Sellani (p) Franco Cerri, Giorgio Azzolini (b) Jimmy Pratt, Gianni Cazzola (ds)
標題に名の挙がったヴィットリオ・ガスマンは1922年ジェノア生まれの俳優さん。2度に渡ってカンヌ映画祭の主演男優賞を獲った大物で,最近もケビン・ベーコン主演の『スリーパーズ』に出て健在ぶりを示していました(残念ながら2000年に急逝)。何でこんな人が出てくるのかというと,アカデミー賞外国映画賞を受賞した1956年の映画“Big Deal on Madonna Street”にが提供されていたから。華やかな映画界へも顔が利くだけにこの双頭コンボ,とにかく人選が超豪華。間違いなく当時の伊ジャズ界では最強のバンドだったんじゃないでしょうか。本CDはそのドリーム・コンボが1959年から1960年に掛けて録音した4種類の音源をカップリングしたもの。うち3つはオクテット,1つがクインテット編成です。音は典型的な爛熟期のウェスト・コースト・ジャズ。具体名を出すならビル・ホルマンやマイク・バロンのビッグ・バンドに通じる,よりコンテンポラリーな西海岸ジャズの音です。ジャック・シェルドン似の表情豊かなラッパと,昨今のズート傍系とは違って,アトランティック時代のトレーン風にやくざな吹きっぷりを披露するバッソの両リーダーは密度が濃いですし,ラーシュ・ガリン,ピエロ・ウミリアーニ,ディノ・ピアーナの3人がアレンジした分厚いオブリガードの管アンサンブル配置も群を抜いて巧み。甲種お薦めです。

★★★★1/2
Wynton Marsalis "Black Codes: from the Underground"(CBS : 25DP 5384)
black codes for wee folks Delfeayo's dilemma phiryzzinian man aural oasis chambers of Tain blues

Wynton Marsalis (tp) Branford Marsalis (ts) Kenny Kirkland (p) Charnett Moffett, Ron Carter (b) Jeff Watts (ds)
今やすっかり凝り固まってしまったウイントン。しかし,彼がエリートに上りつめることができたのは,紛れもなく「伝承派」の頭目として,一度は最前線を突っ走った実績があるからです。単に上手い若手として注目されていた彼が,一気にシーンの牽引者と認知されるに至ったのは,間違いなく1985年に出た本作のお陰でしょう。技術偏重の目立った2枚の先行作を発表後,ウイントンは突如『スターダスト』,『ファーザー&サンズ』という2枚の変則盤を挟みます。特に,弦部を付帯してしっとり吹いた前者の持つ意味は少なくありませんでした。些か頭でっかちだった彼にとり,同盤はラッパ吹きとして最も大事なエモーションを会得する上で,ぜひとも手がけたいものだったのでしょう(スタジオ盤とライブ盤を交互に録音する15年後の天才メルドー君を「確信犯」と言うのも,同じ理由からです)。本盤はまさに,伝承派のイノベーターとして,アコースティック編成の持つ無限の可能性を示した,記念すべき一枚になりました。過去のジャズの遺産が極めて無理なく今の感性と溶け合い,1980年代を呼吸する音として,新たな命を吹き込まれる。きっちり音楽教育を受け,知識も技術も備えた演奏家が,その武器を目一杯駆使し,凝った意匠を読み解くべく熱い血を滾らせる。タイミングの魔物が,彼自身の成熟,バンドの密度上昇など,あらゆる上昇気流をこの一点に向けて昇華する。全てが彼の思惑以上のエネルギーを生み,一気に臨界点を突き抜けてしまった。知と情の巧みな平衡感覚の上に生まれた爆発力と爽快感。幾多のフォロワーを生む伝承派の理想型を,彼はここで高らかに示し得たのでした。この直後,兄ブランフォードとカークランドはウイントンと袂を分かちます。ウイントン・コンボは,モンク・コンペ優勝のクールなピアノ弾きマーカス・ロバーツを迎え,都会的な洗練の度を増していくのですが,不思議なことに,いわば情を司るひょうきんな兄を失った彼の音楽は,完成度が上がれば上がるほど破天荒さを奪われ,形骸化し,音の創造者としての求心力を失っていくのでした。ジャズ最前線のバトンはこののち,その黒人優位の音楽性を批判的に再解釈し,即物的に換骨奪胎して「ユニバーサル言語化」しようとするロヴァーノ一派(ニューイングランド楽壇)へと受け継がれていくことになります。

★★★★1/4
Donald Byrd "Byrd in Hand" (Blue Note-EMI : TOCJ-9099)
witchcraft here am I Devil whip bronze dance clarion calls the injuns

Donald Byrd (tp) Charlie Rouse (ts) Pepper Adams (bs) Walter Davis Jr. (p) Sam Jones (b) Art Taylor (ds)
ジョージ・ウォーリントン・クインテットの名録音でお馴染みドナルド・バードは,リーダーとしては,1960年以降にファンキー・ジャズ銘盤『フュエゴ』で一躍人気者となり,1970年代にはさらにファンク路線へ踏み込んだ『ブラック・バード』を出すなど,狭義のハード・バップ路線の外側で人気を博しました。しかし,彼自身は1950年代のハード・バップ黄金期に,そのファットで良く歌うラッパが重宝され,数多くのセッションに名を連ねていた人。1971年にはコロンビア大学で黒人史を学んで博士号を貰ったインテリさんでもあり,1963年にはパリへと渡ってクラシックを学ぶなど,実は脳天気な仮面の下にノーブルな一面も備えていました。この作品は彼がファンキー路線を大々的に打ち出す『フュエゴ』の直前,1959年5月に録音した3管ハード・バップ作。有名盤の陰に隠れて過小評価気味ですが,勿体ない。同じくハード・バップ爛熟期に,『デヴィス・カップ』で非凡な作編曲の才を示したウォルター・デイヴィスを迎え,分厚い3管フロントを利したアンサンブルは推敲が行き届いていますし,目立たぬ乍ら実力者揃いの演奏もシュアで,安心して楽しめます。特に,ダート・トーンを交え,ドスの利いた吹きっぷりを披露するラウズはいい味出してますねえ。ちなみにΔ亘綿得莉嗣韻慮賚ぁindians)をもじったスラング。チェロキーのコード進行を借り,敢えてinjure(傷ついた)を想起させる俗語を選択。先住民を思わせるリズムのアクセントを使って・・。この辺りへ,既にインテリの片鱗が見え隠れしてると思いません?(笑)

★★★★1/4
Crombie Murdoch "Crombie Murdoch" (Ode-Manu : CD MANU 1304)
sweet georgia brown tenderly the other side of the tracks waltz for Debby 'round midnight baubles, bangles and beads my shining hour hey there don't blame me you've come a long way from St.Louis when my suger walks down the street fascinatin' rhythm brazil angel eyes cherokee

Crombie Murdoch (p) Bob Ewing (b) Frank Gibson Jr. (ds)
ニュージーランドのピアノ弾きクロンビー・マードックが1988年に残したリーダー作。主役については,片面印刷の紙切れ一枚のジャケットも手伝って良く分からないんですが,版元のオード・レコーズはアラン・ブロードベントが無名時代に多く録音していたレーベルで,太鼓はそのブロードベントとトリオを組んでいた人。オークランド近郊でローカルに活動中のピアニストと見て間違いないでしょう。演奏は中間派色の漂うカクテル・ピアノ。白人らしく硬い乗りながら,シダー・ウォルトンを思わせるコロコロとしたタッチ,初期ハンク・ジョーンズ的な趣味の良さを好ましく同居させ,スイング・ジャズ時代のピアノ弾きに範をとった和声や装飾音を絡めて小粋に弾く。最近の例で言えばイタリアのマルコ・デット風の小気味好いピアノ弾きです。ローカルな白人演奏家の宿命でしょうか。テイタム趣味の装飾音を多投する割にタイム感はやや硬い。,筬Лなどの急速調では運指もかなり一杯一杯です。しかし反面,この人の小洒落た持ち味が生きるのがミディアム・スロー以下のバラッド演奏。いずれも場末の店で弾き慣れている人物ならではの,ショーマン精神に富んだ快演。題材を問わず小器用にまとめてくるシュアな演奏には玄人芸の妙味があります。中古で見かけたら一聴なさる価値は充分にあるんじゃないでしょうか。

★★★★1/2
André Hodeir "The Vogue Sessions" (Vogue-BMG : 743216 102020)
too high papa was a rolling stone 'til tomorrow beautiful garden blues for D my girl ain't no mountain high enough from a dream dock of the bay visions

André Hodeir (cond, arr) Jean Liesse, Buzz Gardner, Christian Bellest (tp) Nat Peck (tb) Hubert Rostaing (cl, as) Jean Aldegon (as) Bobby Jaspar, Don Byas (ts) Armand Migiani (bs) Sadi, Raymond Le Sénéchal (vib) Bernard Peiffer (p) Pierre Michelot, Jean Bouchety (b) Jacques David, Kenny Clarke (ds)
アンドレ・オデルは1922年1月21日パリ生まれの作曲家。パリ音楽院でメシアンに師事し,3部門で一等を得て卒業します。しかし,既にこの頃(1942年)からヴァイオリンを弾いてジャズ演奏を嗜むようになり,ジャンゴ・ラインハルトやケニー・クラークと組んで録音を行い,1949年には自己名義のグループを率いて最初の録音もしていました。その後1950年代を通じ,大編成のジャズ・アンサンブルを率いて自作曲を吹き込み,フランスにおけるサード・ストリーム運動の中心的存在として君臨した彼は,彼の地でアメリカより一足も二足も早くジャズが一目置かれる土壌を作り上げるとともに,米国と欧州のジャズメンの仲介役的な役割を果たしました。このアルバムは,彼が最も評価を高めた1950年代に,自己のアンサンブル『ル・ジャズ・グループ』を率いてヴォーグに吹き込んだ音源を集大成したもの。サード・ストリームの旗手だけに,ピアノが入ると入っても最後の3曲のみで,ソロの背後で鳴る和声は,専ら緻密に書き込まれた吹奏アンサンブルにより通奏されます。それらが主旋律とポリ・モーダルに絡み合って,緊張感を持続する。まさにギル・エヴァンスやジョージ・ラッセルに通じる,凝ったジャズ・アンサンブル作です。折からハードバップ隆盛で「ジャズは熱くなくては」「バカにならないと」という考え方が支配的だったアメリカやそれに盲随した日本で,サード・ストリームが結局あまり定着しなかったのに対し,欧州でこういう作品が早くから認知され,評価されていたのは面白いですねえ。全共斗世代の価値観がアナクロになり,何となくクリスタルを透過したニヒルなクールネスが当たり前になった今,こういう作品は古くて新しい教科書として,傾聴すべきものを多く含んでいるんじゃないでしょうか。

★★★★1/4
Guido Manusardi Trio "Immagini Visive" (Dire : FO-360)
oltremera love dance in your own sweet way yesterdays poinciana I crott de ciavena what kind of fool am I la cort di asen
Guido Manusardi (p) Furio Di Castri (b) Gianni Cazzola (ds)
フランスのベテラン,ジョルジュ・アルヴァニタスは,バップ・ピアニストでありながら,1970年代に突如モード弾きに大変身。『イン・コンサート』というアルバムを録音してマニアをあっと言わせました。同じ事をイタリアでやってのけたのが,この盤の主人公,グィード・マヌサルディです。活動歴は長かった彼も,その多くはスウェーデンやルーマニアなどの海外暮らし。1981年に出たこの録音で,漸く本国でも評価を確立したのでした。ここで彼は,ぐっとヴァーヴ期のエヴァンスに接近したモーダルなピアノを披露。嘆美なメロディストの側面をさらけ出し,割にパラパラとオーソドックスに弾くだけのピアノ弾きという印象しかなかったファンを驚かせたものです。彼は,その後も多くの録音を残して現在も活躍中ですが,この盤が長い彼の芸歴の中でもひときわ目立つのは,淀みなく転がる右手の単音ソロに,モーダルなハーモニーをぶつけるその衒いのない演奏が,現在にいたるまで風化することなく,欧州のピアノ弾きにとって,一つの理想型を成し続けているからなのかも知れません。

★★★★1/2
Vito Price "Swingin' the Loop" (Argo-Fresh Sound : FSR-CD 110)
swingin' the loop Mousey's tune why was I born duddy in a mellow tone eye strain time after time beautiful love credo as long as I live

Vito Price (ts, as) John Howell, Bill Hanley (tp) Paul Crumbagh (tb) Barrett O'Hara (bass-tb) Bill Calkins (bs) Lou Levy (p) Max Bennett (b) Remo Biondi, Freddie Green (g) Marty Clausen, Gus Johnson (ds)
主役のテナーマンは1929年ニューヨーク生まれ。14才頃からサックスを学び,ニューヨーク近郊で活動。一時はチャビー・ジャクソンのサイドメンだったこともある人物です。その後,1955年にはジャクソンの後を追ってシカゴへ移住。1958年に録音された本盤はシカゴ移住後の録音で,そんな経緯からシカゴの高架線を指す“ループ”を標題に使ったのでしょう。西海岸の名手ルー・レヴィ,マックス・ベネットが全曲に渡って脇を固める一方,フレディ・グリーンやガス・ジョンソンがサポートに回るなど,ベイシー楽団の人脈も。主役のテナーもこれと同じく折衷的。音色はチュー・ベリー系でソウルフルなのに,どこかハンク・モブレー的な遠慮が感じられ,フレージングはレスターっぽい。この辺りの小器用なはしこさが過小評価に繋がってしまったのでしょう。しかし,脇役重宝型だけに腕そのものは達者。ベイシーの流儀が露骨に感じられる西海岸ジャズ初期のレコード・・例えばショーティ・ロジャースのビッグ・バンドを思わせる軽妙なモダン・スイング・サウンドに乗せ,タイトルそのままスイスイとブロー。歴史の表舞台とは縁がないでしょうが,仕事人揃いで堅実に作られた快盤だと思います。彼はこの後,1960年頃までは脇役で名前を見ることができますが,その後は姿を消して音信不通。管見の限り,生涯に残したセッションも11きりです。

★★★★1/4
John Hicks Trio "Some Other Time" (Evidence : ECD 22097-2)
Naima's love song mind wine peanut butter in the desert ghost of yesterday some other time with Marice towards none dark side, light side night journey after the morning epistrophy

John Hicks (p) Walter Booker (b) Idris Muhammad (ds)
デヴィッド・マレイのサイドメンを務めたことで,国内でも認知され,ここ10年ほどはすっかり再評価された様子のジョン・ヒックス。トレーン・シンパの一人である彼のピアノはモード手法に立脚しつつ,黒人らしくゴツゴツした荒々しいタッチの演奏が持ち味でした。これは同じようなスタイルで当時活躍したジョー・ボナーにも言えることですが,はっきり言って彼らのピアノは技術的にはあまり上手くはなく,むしろ叩きつけるように情熱的な演奏にその価値があるB級の域を出ませんので,落ち着いてしまった最近のよりは,元気な初期の演奏を聴いたほうが良い。この作品は1981年の録音で,トリオにより彼の持ち味を余すところなく堪能できる快作。冒頭からメロディックなオリジナルを肴に,ゴツゴツ,ゴリゴリと弾きまくる武骨なピアノは,決してマッコイ・タイナーのようなスピード感も,ケニー・バロンのようなグルーヴ感やヘヴィネスもありませんが,現在のピアノからはなかなか聴かれない,感情剥き出しの熱いピアニズムに溜飲が下がります。楽曲も良く練られており好感度大。ベースはウニョウニョ,太鼓もルース。しかし,それもまたこの人らしさに繋がっているのかも知れません。

★★★★3/4
Wolfgang Dauner Trio "Dream Talk" (Atelier Sawano : AS 024)
dämmerung free fall yesterdays zehn notizen soul eyes bird food a long night dream talk

Wolfgang Dauner (p) Eberhard Weber (b) Fred Braceful (ds)
ウォルフガング・ダウナーは1935年シュトゥットガルトに生まれたピアノ弾き。生地でクラシック・ピアノを学んだ後20才でジャズに転向し,ヨキ・フロイントの五重奏団に入って活躍。その後,オスカー・ピーターソンも愛した音響マニア・レーベルMPSに多くの吹き込みを残し,ドイツにおいてエヴァンス派以降の新しいジャズ・ムーヴメントの伝道師役を果たしました。5才後輩のエバーハルト・ウェバーとは同郷ということもあって仲が良く,もともとは二重奏を組んでいたとか。こののちECMに鞍替えして世界的なベース奏者になるウェバーと,クラシックも習ったピアノ弾きのはしりともいうべきダウナーの録音だけに,演奏は1964年の録音という史実からは信じられないほどモダンでびっくりします。1964年と言うことは,エヴァンスがやっと『トリオ'64』の頃なわけで,本家すらまだモード奏法を本格的に始めて間もなかった時期。例え彼がドイツにおけるモード弾きの開祖であったとしても,ドイツのジャズ・シーンがほぼリアル・タイムでアメリカの動きを捉えていたことだけは間違いないとの臆断は出来そう。それだけでも,充分存在意義のある音源では。加えてこのCD,単なる骨董品ではなく演奏も大変に好い。ドイツ人らしく針のように鋭角的な右手の打鍵と,隙間を良く使った左手の思索的な和音とがコントラストをなし,オリジナルは意匠が凝らされている。エヴァンスの語法を,当時のスティーヴ・キューンの筆致で捉え直したような演奏と作編曲センスの中には,アメリカ追随から緩やかに乖離していく欧州ジャズ独自の美意識の萌芽を確かに見ることが出来ます。秀作。

★★★★1/2
Dave Brubeck Quartet "Jazz at Oberlin"(Fantasy : OJCCD-046-2)
these foolish things perdido stardust the way you look tonight how high the moon

Paul Desmond (as) Dave Brubeck (p) Ron Crotty (b) Lloyd Davis (ds)
ポール・デスモンドはその内省的でノーブルなプレイから,代表盤にもついつい室内楽風のものを挙げたくなります。かたやデイブ・ブルーベックも,実はパリで作曲家ダリウス・ミヨーの薫陶を受けた人。『タイム・アウト』に象徴される変拍子の導入もミヨー経由だったほどクラシックに造詣深い人物。果たして,この2人をフロントに据えたカルテットも「イン・ユア・オウン・スウィート・ウェイ」をスタンダードにしてしまったほど秀抜な,ブルーベックの作編曲に多くを負っていたところがある。ジャズ的な意味での即興よりは,緻密に作られたアルバムを作品として楽しんで貰う事を旨にしていたグループでした。しかし,やっぱり彼らはジャズ演奏家としてのアイデンティティも併せ持ったアンビバレントな存在。1953年にオバーリン・カレッジで吹き込まれたこの作品の魅力は,彼らのジャズ屋としての真骨頂を味わえる異色のライブ録音という点です。おそらくは正規録音の気負いなしに制作されたせいでしょう。あのノーブルなデスモンドがバロック音楽の如くメカニカルに,バップ吹きよりも熱く吹き倒している。『タイム・アウト』の彼らしかご存じない方は,まるで別人のように格好を崩す両雄を前に,ただただ吃驚すること請け合いです。

(2004. 2. 15)