往年のジャズ vol. 18


★★★★1/2
Jazz Hip Trio "En Concert" (CELP Musiques : CEL 48)
tableau de Daniel Humair fiction how about you that's all Daniel et les Lions voyage où il vous plaira lonely woman Alice in wonderland starlight starbright

Jean-Bernard Eisinger (p) Daniel Humair (ds) Roger Luccioni (b)
「ジャズ・ヒップ・トリオ」なんて恥ずかしい名前からして,いかにも駄目そうなフランスのピアノ・トリオが,1976年と1982年にセーヌ河畔のジャズ・クラブで残したライヴ録音です。実際,ピアノを弾くアイザンジェル氏は1938年マルセイユ生まれのお医者さん。内科医学,特にリウマチの薬学療法をご専門に,ツーロンで博士号をお取りになってます。彼がこのトリオを結成したのは1963年のこと。もともとはベースのルチオーニ氏と2人がメインで,不釣り合いに有名なユメールは半分ゲスト扱い。太鼓はアルド・ロマノやロン・ジェファーソンらが交代で担当していたようです。こんな有名人を太鼓へ据えられるだけに,中身はヘンテコな名前とは裏腹の高技量。ピアノはヴァーヴ期のエヴァンスを思わせる平明なモード弾き。ときにレッド・ガーランド趣味の外連味ない単音ソロを絡めながらも,エヴァンスのブロック・コード奏法を基調にして小粋に弾く。ユメールもまだ若く,溌剌としたプレイで好印象を残します。彼らは1960年代を通じてバルネ・ウィランら母国勢のみならずスティットやリー・コニッツ,さらにはウェス・モンゴメリーら渡欧組の脇を固めて活躍し,1967年から翌年に掛けて,一枚スタジオ録音盤も残しているのだそうです。こんな嗜好からして,とり立てて個性的なものにはなりようがありませんし,その辺が今まで死蔵されていた所以なのでしょうけれど,こういう録音が日の目を見る機会も貰えないまま,まだ山のように眠ってるんでしょうなあ・・と思わせずにはおかない好トリオ作。あからさまな個性より,単に質の好い演奏を・・という方には,充分お試しになる価値があるんじゃないでしょうか。ちなみに,本盤,CDテキスト入り・・みたいなんですが・・なんか表示が変です(苦笑)。仏語仕様ですか?

★★★★
Dick Morrissey Quartet "It's Morrissey, Man!" (Redial : CD 558 701-2)
St.Thomas cherry blue a bench in the park sancticity mildew puffing Billy Gurney was here happy feet where is love? dancing in the dark willow weep for me jerryroll

Dick Morrissey (ts) Stan Jones (p) Malcolm Cecil (b) Colin Barnes (ds)
1980年代にはジャズ・ロックのユニットを組み,ジャズを離れてしまったディック・モリシーは,結局ほとんどのジャズ・ファンから忘れられたまま,病気のために4年ほど前,寂しく世を去ってしまいました。かつてはタビー・ヘイズと並ぶ,イギリス屈指のゴリゴリ・テナーでしたのに。その後の評価はある意味好対照なものになってしまって・・可哀相ですねえ。本盤は1961年に発表された彼のデビュー作で,一般にモリシーの代表作と目されるもの。冒頭,覇押好蹈螢鵐困鬟ヴァー。コールマン・ホーキンスのい法ぅ献腑法次Ε哀螢侫ンのイ搬海選曲嗜好が全てを物語る,ロリンズ〜グリフィン直系のブローイング・テナー。ヘイズと並べても遜色ないどころか,テナーそのものはヘイズよりワイルドで良いんじゃないかと思わずにはいられないほど野趣に富む。フレーズも歌ってますし,主役に限って言えば,出来は決してヘイズに負けていないと思います。それだけに残念なのは脇役がどうにも舌足らずなこと。この後に続く『ゼア・アンド・バック』では,ピアノをハリー・サウスに代えますが,この人も不器用でしたねえ(苦笑)。ただただ後ろでコードを置くだけの芸のないコンピング。明らかに一杯一杯の運指。ヨーロッパのジャズメンに,黒人らしいグルーヴィーな演奏を期待するのは贅沢なのかも知れませんけれど,それをやってのけたのがタビー・ヘイズ。彼がいまだ隠れファンを多く抱えている理由の一つには,彼のバックアップ・メンバーが格上だったことが明らかに関係している。実際,ヘイズのグループにいたゴードン・ベック。記憶に残るリーダー作ありますよね?で,ハリー・サウスとスタン・ジョーンズ・・リーダー盤記憶にあります?

★★★★1/2
Fritz Pauer Trio "Blues Inside Out" (MPS-Universal : UCCM-9174)
the beacon English garden walk flute song my little girl blues inside out terra samba prelude to a kiss the man from Potters Crossing
Fritz Pauer (p) Jimmy Woode (b) Tony Inzalaco (ds)
フリッツ・パウアーは1943年ウィーン出身。1960年からハンス・ケラーのサイドメンとなり,同グループを独立した1962年に自己のトリオを結成。1966年のウィーン国際ジャズ・コンクールで優勝して評価を確立しました。当時のトリオを解散する1968年にはウィーン音楽院の教員となり,1989年にはグラーツ音楽院へ移勤。斯界における長年の功績が評価され,昨2003年に襖政府から表彰を受けました(案外知名度が上がらなかったのはこの辺りに由縁があるのかも知れません)。本盤は彼が1978年3月にフィリンゲンで吹き込んだ作品で,彼の代表作として知られているトリオ盤。彼のトリオ作と言えば,少し前にベルリンで録音された『ライブ・アット・ジャズ・ガレリエ』がありました。同盤が同じMPSに残されたジョン・テイラーの『デサイファー』を思わせる,針のような打鍵の神経質モード・ピアノだったのに対し,およそ10年を経た本盤の彼は随分と打鍵の切れ味も丸くなり,演奏がこなれた印象を受けます。技巧はやや落ちたようですけれど,それが却って良かったんでしょう。若かりし頃のジョー・ボナーやジョン・ヒックス,ジェームス・ウィリアムスをソリッドにしたような,黒人風のメロディックさと男性的なマッシブさが相半ばするモード・ピアノ。極めて見通しよく,分かりやすい二枚目半の面持ちが好ましい。加えてこのアルバムは,とにかく曲が良く書けている。こちらもはやり,当時のボナーやヒックスの書いた,メロディックで適度にモーダルな佳曲と良く似ています。本家同様ややバタバタする佇まいさえ気にしなければ,良くできたトリオ盤ではないでしょうか。

★★★★1/2
Woody Shaw "Rosewood" (Columbia : CK 65519)
Rosewood everytime I see you the legend of the cheops Rahsaan's run sunshowers theme for Maxime isabel the liberator joshua C.why?
Woody Shaw (tp, flh) Joe Henderson (ts) Frank Wess, Art Webb (fl) James Vass (ss, as) Gary Bartz, James Spaulding (as) René McLean, Carter Jefferson (ss, ts) Steve Turre, Janice Robinson, Curtis Fuller (tb) Onaje Allan Gumbs, Larry Willis (p, ep) Clint Houston, Stafford James (b) Victor Lewis (ds) Sammy Figueroa (cnga) Armen Halburian, Nana Vasconcelos (perc) Lois Colin (hrp) Judi Singh (vln)
1960年代も半ばに入ってから,ようやく初リーダー作を録音できたウディ・ショウは1944年北カロライナ出身。一足先んじた好敵手フレディ・ハバードの陰に隠れ,実績でも知名度でも大きくワリを食ってしまいました。ハバードと並べても遜色のないソリッドな吹け上がりに加え,卓越した作編曲力を併せ持った彼は,リーダー盤の仕立ても周到。いまいち決定打を欠くハバードより,余程評価されて然るべきだったと思うんですが,彼はとにかく出てきたタイミングが悪かった。バップ・ジャズにおけるバリー・ハリスやチャールス・マクファーソンと同じ憂き目を被り,おまけに短命と来ている。ウィントン登場で生楽器が復権した頃には盛りを過ぎ,間もなく世を去ってしまいました。可哀相に。そんな彼も,1978年にコロムビアへ移籍。メジャー・デビューの機会を手にしました。既にミューズやコンテンポラリーへ8枚を吹き込んでいたとはいえ,晴れてマイルスと同じ土俵に立てた喜びは容易に推察できます。本盤はそのデビュー作を2作目をカップリングしたもの。ハープ,ローズに分厚い管アンサンブルを加え,苦楽を共にした朋友たちと共同編曲。皆で凱歌を挙げた彼の気持ちはどんなにか満たされていたことでしょう。音はいかにも1970年代の黒人主流派らしく,怒濤のモード・ジャズ。ストラタ・イースト界隈黒人ジャズメンの姿をありありと想起させるエネルギー,最大15人が織りなすドラマチックな曲展開,そして達者な演奏力が高次元に融合。代表作『ステッピン・ストーンズ』とほぼ同時期だけに,全編に漲る勢いが素晴らしいです。ちなみに標題の『ローズウッド』は,恐らく1923年にフロリダ州ローズウッドで起きた黒人大量虐殺事件のことを指しているのでは(注:親戚の名前との説もあります)。解説を担当したマイケル・カスクーナ(白人)が気づかない筈はありませんけれど,なぜか標題のゆえんには一切触れていません。

★★★★★
Woody Shaw "Stepping Stones" (Columbia : CK 93646)
stepping stone in a capricornian day seventh avenue all things being equal are not escape velocity blues for ball theme for Maxine
Woody Shaw (cor, flh) Carter Jefferson (ts, ss) Onaje Allan Gumbs (p) Clint Houston (b) Victor Lewis (ds)

フレディ・ハバードの陰に隠れたかどうかはともかく,一歩遅れをとったお陰で,ワリを食ったことだけは間違いないウディ・ショウ。彼の最絶頂期は1970年代半ば以降の数年間で,分けても1977年に組んだ自分名義の五重奏団による録音群は,丁々発止スケール・アウトしブライトに鳴るラッパ,「ムーントレーン」をスタンダード化した事実が示す抜群の作編曲力,個性的な面々によるバンドとしてのまとまりの良さ,どれを取っても輝いていました。彼は1965年の時点で,既にジョーヘンやラリー・ヤングを迎えたリーダー盤を作ってたんですけど,公式の初リーダー作は1974年と遅咲き。それだけに,最も脂の乗ったこの時期,メジャー移籍も実現し,比較的吹き込みに恵まれたのは,不幸中の幸いでしたねえ。ところで本盤,黄金時代の録音中でも最高作の誉れ高い作品ながら,なぜか一度もCD化されませんでした。不遇なのは海の向こうも同じだったようで,再評価もファンの方からでしたねえ(コロムビア第一作『ローズウッド』は1977年度ダウンビート誌読者投票部門の一等賞)。CD化の遅れていた宝の山に,ようやく手が付けられたのは昨2004年のこと。息子のショウ三世とマイケル・カスクーナが手を組み,『ローズウッド』の再発を実現。本盤は同盤に続く第二作で,約半年後ヴィレッジ・バンガードで吹き込まれた初のライブ盤。上記の美点が幸福に和合し,ライブも手伝って熱を帯びた力演。混沌とした1970年代趣味の臭みたっぷりな新主流派ジャズとして,大変高品位です。ちなみに本盤を再発したコロムビアは,あのソニーBMGの系列。幸い悪名高いXCP技術は,本盤には使われなかった模様。歴史的愚挙を犯した会社が,一方でショウの最高作をCD化。何とも複雑です。

★★★★1/2
Michael Garrick "Troppo" (Argo-Universal : 986 689 2)
troppo! to Henry, a son lime blossom sons of art fellow feeling overtones of a forgotten music
Michael Garrick (p, ep) Norma Winstone (vo) Henry Lowther (tp, flh, vln) Don Rendell, Art Themen (fl, ss, ts) Dave Green, Coleridge Goode (b) Trevor Tomkins (ds)
マイケル・ガーリックは1933年ミドルセックス州エンフィールド生まれ。元々は1959年にロンドンのユニバーシティ・カレッジで英文学の学位を獲ったインテリさんなんですが,その頃から自己のカルテットを率いて活動。その後ドン・レンデルとイアン・カーのコンボに入ってインド音楽に傾倒しながらキャリアを積み,ジャズ活動のほかトリニティ・カレッジや王立音楽アカデミーでも教鞭を執るほどの大物に成長しました。自作の管弦楽曲を作るなど作編曲にも熱心で,本盤と前後してバークリーへも2年間留学し,マイク・ギブスに作曲法を学んでいます。本盤は彼の最絶頂期である1974年に発表されたもので,1969年からのアーゴ時代を代表する一枚。時代背景もあるでしょうが,陶然と響くフェンダー・ローズに,やや音痴気味の怪しい詩吟とヴォーカリーズ。いかにもジョーヘンとフレディ・ハバードの2管フロントを意識しました感の漂う,ロウザーとレンデルのエグい咆哮。フルートとヴァイオリン,さらには唸り声をホーミー風に用いてアルコ・ソロを執るベース。同じ頃にアメリカを席巻したCTIやインパルスの録音群,端的に言えばフレディ・ハバードの『レッド・クレイ』やショーターの諸作,ポスト・トレーン系クロスオーヴァー屋へ憧れた白人たちによる,英国版の70年サウンドです。英国では,少し前に同郷のジョン・テイラーも『ポーズ&シンク・アゲイン』を残しました。やっぱりひとつの時代を象徴する音だったんでしょう。白人主体のぶん,グルーブ感やエグ味の点では見劣りしてしまう方もいるでしょうけれど,音はなかなかに呪術的。やや調子っ外れな演奏に漂うヤク中めいた虚脱感と奇妙な暖かみ,それらと不釣り合いに練られた作編曲は,カンタベリー・ロックと奇妙にシンクロして聞こえる。この頃までは,ジャズも当時代性を保っていたと言うことなんでしょう。

★★★★1/2
The Basso-Valdambrini Quintet "Parlami d' Amore Mariù" (GMP Music : CD 43107)
come out, come out wherever you are fan-tan I wanna be kissed parlami d'amore Mariù everything happens to me lo struzzo Oscar lotar like someone in love c'est si bon gone with the wind I can't get started lover an Chet to Chet topsy polka dots and moonbeams Lucy ed io
Gianni Basso (ts) Oscar Valdambrini (tp) Renato Sellani (p) Gianni Azzolini (b) Gianni Cazzola (ds) Dino Piana (b-tb)
既に大型コンボ編成の前盤『ブルース・フォー・ガスマン』をご紹介したバッソ=ヴァルダンブリーニのグループは,イタリアのモダン・ジャズ黎明期を支えた代表格です。主役2人は,1955年3月のミラノ・ジャズ祭への参加を機に六重奏団を結成して,一躍シーンに登場。1958年には,アルマンド・トロヴァヨーリの楽団に加入するため一旦コンボを解消しますが,程なく移籍先の楽団が解散したため,再び五重奏団を結成。当時ミラノで唯一のジャズ・クラブだった【タヴェルナ・メシカーナ】を根城に活動を再開します。本盤はこの当時の顔触れで吹き込まれた2音源をカップリングした物。姉妹品はビッグ・バンドでしたので,コンボ編成の本盤は,彼らが当時出していた音を知る上でも有り難い再発だといえるでしょう。音的には完全に西海岸ジャズ。やたら細かく,互いに短いリフを交歓しながら,クール・ジャズ風の主題が提示される編曲。整然とバックアップし,煽らないリズム隊。ラス・フリーマンですかと目が点になる端正なピアノ。西海岸の肉詰め業者ジャック・シェルドン宜しく脂の乗った肉をぎゅうぎゅう詰め込む音色のヴァルダンブリニ。スタン・ゲッツをベースに,急速調ではやくざ風味を帯びるバッソ。それぞれの持ち味で本場に負けず劣らずの快演揃いとなっている。西海岸ジャズの淡泊な体裁が気にならない方にはお薦めいたします。ちなみに,本盤も標題曲『マリウよ愛を囁け』は映画絡み。1901年に生まれ,1940年代から1950年代に掛けて『ウンベルトD』,『ミラノの奇蹟』などに主演し映画界を席巻,2度のオスカーにも輝いた俳優ヴィットリオ・デ・シーカへ捧げた体裁になりました。

★★★★1/2
Lars Jansson "Trio 84 / The Eternal Now" (Dragon : DRCD 301)
stilla platser längtans berg humanity is one yanona treelight to Bill Evans goa at once always compassion light comes peace of mind after the storm bohuslän to Gustavo Debussy piece the eternal now
Lars Jansson (p, synth) Anders Jormin, Lars Danielsson (b) Anders Kjellberg (ds)
自己のトリオを率いて発表する作品がどれも好評。教育者としてもイースク音楽院の教授を務めるなど順風満帆なスウェーデンの大御所ラーシュ・ヤンソン。リーダーとしてのキャリアも,気がつけばもう四半世紀となり,初期の録音には入手困難なものも出てきました。1984年に発表した2作目と,現在のメンバーとなる1987年発表の第三作をカップリングした再発盤が,こうして再登場するのも,昨今の時ならぬ評判を受けてのことでしょう。20年前から,彼のスタイルはほとんど不変です。どちらかというとペロペロ系のヨルミンがベースを弾く『トリオ84』では,ヤンソンも現在より幾分ソリッドな演奏を披露。しかし,後半の『イターナル・ナウ』は,演奏が若いものの,現在と殆ど同じ乗りの演奏。作曲流儀も現在と殆ど変わっていません。いずれも,現在のトリオほどどっしりとした安定感や恰幅の良さはないものの,相変わらず大甘の叙情家ぶりには頬が緩みます。ちなみにはドビュッシー最晩年の名品『前奏曲集第2巻』〜「霧」のモチーフを使っている。一般には顧みられることがなく,しかし20世紀音楽語法の全てを予見した記念碑的なこの小品の価値を知っている慧眼。ここに,単なるミーハーではない彼の,クラシックの素養の源泉を見ることができましょう。欲を言えば,随所で使われるシンセサイザーですか。現在でも時に応じてシンセを使うことのあるヤンソン。中近東の蜃気楼を思わせる阿離轡鵐札汽ぅ供柴各などは効果的な反面,全体で見るとやっぱり些か無神経なシンセ導入が目立ちます。べったりストリングスを厚塗りする工夫のないシンセ使用には感心できませんし,その音色が経時変化を起こすのも言わずもがなです。左手の和声が厚いヤンソンに,更なるシンセはクドい気がするんですけど?

★★★★3/4
Phil Woods and His European Rhythm Machine "At the Montreux Jazz Festival" (MGM-Verve : 440 065 512-2)
capricci cavaleschi I remember Bird ad infinitum riot
Phil Woods (as) George Gruntz (p) Henri Texier (b) Daniel Humair (ds)
1960年代に入ると,古き良きアメリカ像にも綻びが目立ちはじめます。ジャズに厳しい母国を離れ,多くの演奏家がヨーロッパに定住しました。筋金入りのパーカー狂だったフィル・ウッズもその一人。1968年春にパリへ入った彼は,程なくジャズ批評家のジャン=ルイ・ジニブルと親しくなり,彼の奥さんはウッズのマネージャーとなります。秋には,スイス人2人と仏人ベーシストを迎えた彼のグループ【ヨーロピアン・リズム・マシーン】は市内でライブ活動を始め,翌年にはニューポート・ジャズ祭へも出かけて実質上の凱旋公演をこなしました。本盤は1969年,モントルー・ジャズ祭での彼らの演奏を収めた実況録音。大勢の演奏家が登壇するジャズ祭とあっては,時間の制約もきつかったんでしょう。全体で僅かに4曲,40分弱の演奏しか入っていません。しかし,そのぶん演奏は大迫力。両端を挟む『奇想曲』と『暴動』は,手癖も構わず持てる技巧の限りを尽くして全力疾走。スタジオ録音の本家『アライブ・アンド・ウェル・イン・パリ』を遙かに超えて,炎のようなブローで吠えるウッズ以下,ときにフリー・ジャズ寸止めとすら思える攻撃的な熱演を披露。なにぶんライブ音源ですから,荒れたところもあるのは確か。急速調のソロでは左手が一本調子になってしまうピアノはときに耳障りですけれど,このグループの魅力は些細な難点を遙かに超えた猪突猛進の演奏。耳をつんざくウッズの鳴りっぷりは神々しいばかりで,ジャズは勢いがあってナンボよ!と信じて疑わない皆さんには,間違いなく溜飲を下げて聴いていただけると思います。しかし,本盤が録音された1969年といえば,グラミー賞を貰ったエヴァンスの『アット・モントルー』も録音されていたはず。いい時代だったんですねえ・・。

★★★★1/4
Don Menza "First Flight" (Vee Jay-P Vine : PCD-23414)
collage Mz. Liz groove blues ballad of the matador samba de Rollins magnilia rose April's fool
Don Menza (ts, ss, fl) Frank Rosolino, Mayo Tiana (tb) Alan Broadbent, Frank Strazzeri (ep, synth) Tom Azarello (b) Nick Ceroli (ds) Paulhino Da Costa, Claudio Slon (perc)
1936年,ニューヨーク州バッファローで生まれたメンザは,1960年代に入るとメイナード・ファーガソンやスタン・ケントン楽団へ加入。なかなか充分な評価は得られず,一時はドイツへ渡って放送局付けのジャズ・オーケストラで活動することになったものの,1968年には帰米してロサンゼルスへ居を構えます。その後は専らスタジオ職人として,ウディ・ハーマンやルイ・ベルソンの脇を固めて過ごしました。本盤はその傍ら,1978年に録音された2枚目のリーダー作。フェンダー・ローズとラテン・パーカッションを加え,ストラタ・イーストやCTIなどで量産されたクロスオーヴァー色の濃い編曲ながら,いったんソロに入ると別人のように演奏硬派。主人公の脂ぎったサックスが炸裂します。現在は随分恰幅の良い演奏をするようになったメンザも,この当時はまだ40才そこそこ。後年のロリンズよろしくビブラートを利かせ,ムクムク入道雲が沸くような肉感的コントロールと,ソリッドな技巧,硬めの音色でゴリゴリと吹く。現在よりもずっと溌剌と勢いのある演奏を聴くにつけ,同じ頃に人知れず人気のあったターク・マウロを思い出してしまいました。西海岸の腕利きを脇役に迎えたサイドメンの中では,アラン・ブロードベントの参加にびっくり。エヴァンス・ライクな現在からすると,驚くほど自然体でスタンリー・カウエルへ化け,【ストラタ・イースト】色を加味するのに貢献しています。

(2006. 7. 26)