1990年代のジャズ ピアノ編(8)


★★★★1/2
Bert Seager Trio "Resonance" (Accurate : AC-5021)
doloroso I remember you winter thaw what'll I do trinkle tinkle waltzing nidana memories of you solar someday snapshot
Bert Seager (p) Dan Greenspan (b) Dan Rieser (ds)

聞き慣れない名前ですが,マサチューセッツ州で活動中の中堅ピアニスト。1988年ごろから活動し,数枚リーダー盤があります。MAといえばボストンを抱える米北東部ジャズの一大拠点。ビーヴァン・マンソンやユージン・マスロフなど,目立たぬながら優れたエヴァンス派の名手がゴロゴロ蠢動致している土地柄。果たしてこの盤も,宝石箱のように美しいエヴァンス派トリオの逸品。イらご推察の通りモンク色もあり,甘美と言うよりは理知的。小粒ながらただの甘いエヴァンス派の範疇に収まる演奏ではありません。スタイルからすると案外,ケニー・ワーナー(ニュー・イングランド音楽院)絡みかも知れません。

★★★★1/4
Rob Schneiderman "Standards" (Reservoir : RSR CD 126)
love letters so in love slow boat to China without a song I should care fly me to the moon disritmia with a song in my heart when you wish upon a star no one else but you
Rob Schneiderman (p) Rufus Reid (b) Ben Riley (ds)

アキラ・タナとルーファス・リードの双頭コンボ『タナリード』のサイド,シュナイダーマンのレザボア第4作。御覧の通りスタンダード曲集です。彼は下にもご紹介するピート・マリンベルニと良く似たタイプのピアノ弾き。「上手さ」のピアノではなく小粒ですが,「巧さ」で売る燻し銀タイプの典型です。エヴァンス色もあり,丸くふくよかな右手のタッチが素晴らしいマリンベルニに比して,シュナイダーマンはフラナガン似のよりオーソドックスなバップ・タイプ。訥々と歌うタイプだけに,こういう歌もの系が良く合います。名演もないかわり駄演も決してやらない安定した演奏は好ましいの一言です。

★★★★1/2
Samuli Mikkonen "Korpea Kuunnellessa" (Samuli Mikkonen : SMCD-1)
ilman pitkillä pihoilla linna memento Mori syys pahan tuulen alla varjag gorod korven kätköissä pilvi puhuu haljennut ulappa
Samuli Mikkonen (p) Uffe Krokfors (b) Mika Kallio (ds)

フィンランドのピアノ弾き,サミュリ・ミコネンがフィンランド音楽振興財団の援助を受けて自主制作したCDです。この人は日本に全く紹介されていないようですが,かなり良いです。典型的な北欧系の音作りとはいえ,演奏はゴツゴツと硬派。自由度も高く,内に隠った熱情が素晴らしい。最近の軟弱なECM盤より余程ドスと気合いが利いていて爽快です。若いECMピアノが叙情に走る余り和声的に希薄になったり(某ビョルンスタ),熱情を喪失したり(某アンデルセン)するのを歯がゆく思っている方には是非。第2作が(2001年)出たようです。楽しみだなあ。

★★★★3/4
Manuel Rocheman "Come Shine" (Columbia : COL-491869-2)
zig zag just in time my funny valentine new waltz Bonnie rose come rain or come shine I fall in love too easily picturesque woodin' you au private
Manuel Rocheman (p) George Mraz (b) Al Foster (ds)

フランスのピアニスト,ロシュマンのリーダー作。フランスといえばマーシャル・ソラールにルネ・ユルトルジェと,大変な技巧派でおまけに饒舌かつ毒舌な演奏のピアニストがいますが,よりモーダルで現代的な演奏をするこの人も,右手はお国柄のよく出た毒舌家です。技巧的に素晴らしいものを持った人で,この盤ではフレーズもかなりよく歌って文句なし。テクがある人は往々にして曲を(編曲でもアドリヴでも)いじり回し過ぎる嫌いがあり,O.ピーターソン的にさえ聞こえる面がこの人にも。そこが好みの分かれるところ。サイドメン超豪華。あのシャフラノフ盤の2人です。

★★★★1/4
Ted Rosenthal Trio "Rosenthology" (Concord : CCD-4702)
love walked in snowspace slippin' and slidin' will you still be mine? wow strike up the band Primrose path all the things you are the scene is clean the gig someone to watch over me over the bars
Ted Rosenthal (p) Mike Formanek (b) Billy Drummond (ds)

当館は,ピアノ編と全般とに分けて配架をしてますが,やってみてしみじみ思うことが。ジャズが良い意味でも市民権を獲得し,きちんと専門教育を受けて漸く演奏できるような音楽に専門化したのが,1980年ごろからだったような。良く「ジャズが面白くなくなった」といいますが,ピアノを分けて配架している小生に言わせれば逆。全般に「面白みを失った」管陣営(ほとんどはモノトーンです)に対し,こと1990年代に入って,ピアノ界はきちんと訓練された技巧と耳とを身につけた御仁が次々一線に躍り出て俄然水準上昇,圧倒的に面白くなったと思います。この人はまさにそんな世代の権化のようなタイプ。冒頭から切れ味鋭いピアノでザクザク切り込みます。2小節ごとに転調しながら(!!)アドリヴする離れ業の┐鯢頭に,モンク・コンペ優勝の超絶技巧てんこ盛り。

★★★★1/4
Jacob Karlzon Trio "Take Your Time!" (Dragon : DRCD 276)
everything I love take your time for crying out loud afterthought lady Masai fashion's out of style the call for you contre tens
Jacob Karlzon (p) Mattias Svensson (b) Peter Danemo (ds)

スウェーデンのキース系ピアノ弾き,ヤコブ・カールゾンのデビュー作もここらで紹介しておきます。既にご紹介した2枚目のほうが,オルガンを入れてみたり,サンプリングをやってみたりと,作品を『作る』という強い姿勢が出ており,そのぶんアルバムの統一感というか,全体のコンセプトは明確になっているという気がしますが,こちらはその点外連味がなく,オーソドックスなキース系ジャズになっていると思います。余計に音数を増やさず,間を活かした清純な演奏で,こちらもなかなかに良いです。

★★★★1/2
Pete Malinverni "This Time" (Reservoir : RSR CD 147) 
a line for Nichols psalm #100 beautiful love this time the shadow of your smile how deep is the ocean deep river good question
Pete Malinverni (p) Dennis Irwin (b) Leroy Williams (ds)

ピート・マリンベルニがレザボアに残したヴァン・ゲルダー絡みの2枚は,おそらくは彼の今後の芸歴の中でも,ぽっかり突出した名盤になって行くことでしょう。CDの場合生演奏とは違って,聴き手はその場にいないわけですから,録音はCDを魅力的なものへと変える上で極めて重要。この盤くらい,演奏者と録音技師が同じレベルで共同作業をしてのけたCDは,今後もしばらくは出ないでしょうなあ。やはりこの盤の魅力はヴァン・ゲルダーの芳醇で深みとテクスチュアに富んだ集音。目立たぬ訥々ピアノの彼が,含蓄溢れる燻し銀のタッチに大変身。これはもう「周波数が合った」,「神の悪戯だ」としか言えないでしょう。「CD制作芸術」とでも形容したくなる神懸かり的録音名盤です。

★★★★1/4
Piero Bassini Trio "Minor Context" (Splasc(h) : CDH 684.2)
autumn waltz for my father minor context what is this thing called love open space someday my prince will come madness blues notenbüchlein
Piero Bassini (p) Luca Garlaschelli (b) Roberto Gatto (ds)

イタリーの中堅,バッシーニのスプラッシュ第3作。エヴァンスと一口に申しましても,スコット・ラファロがいた頃の嘆美な演奏とその後の軽妙なトリオとではかなり違います。技巧派ではないものの,この人はどちらかというと後者タイプ。単音でパラパラと転がしておいて,左手の絶妙な合いの手が入るというスタイルはピエラヌンツィの影響下。その辺りイタリアらしいと言えるかも知れません。ただ,彼の場合はピエラヌンツィ一派ほどアクが強くなく,メロディックで外連味なし。間口の広いトリオ盤として,安心してお薦め。シンバル・レガート絶妙でお馴染み乗せ上手のロベルト・ガットも光る。

★★★★
Jeff Colella Trio "Letting Go" (Sea Breeze : SB-3024)
peace ripvågen 9 with the spirit of joy Harri's mood Monk's dream with you letting go
Jeff Colella (p) Eric Von Essen (b) Kendall Kay (ds)

カリフォルニアのローカルなピアノ弾きがぽっかり残した好リーダー作。ベースのエリック・フォン・エッセンをちょっとだけ余所でもお見かけしたことがあるものの,ドラムとピアノは寡聞にして全く知りません。実際,この2人は地元でコンビを組んでいるそうな。こういう人が一枚だけとはいえリーダー作を出してくれるようになったのですから,CD化社会は有り難い。録音場所はライヴハウスのような場所らしく,くぐもった感じの音場がちょうどあのエヴァンスの『サンディ・アット・ヴィレッジ・ヴァンガード』にそっくり。ピアノは線が細く小粒で,訥々と歌うタイプですが,シンフォニックなフ両手弾きでエヴァンス基調。エヴァンス派らしいポエティックなオリジナルも良いです。好内容盤。

★★★★1/4
Peter Erskine, John Taylor, Palle Danielsson "Juni" (ECM : 1657)
prelude No.2 windfall for Jan the ant & the elk siri fable twelve namasti
Peter Erskine (ds) Palle Danielsson (b) John Taylor (p)

ピーター・アースキンは,ほんの10年くらい前まで,私には大して興味の沸かないフュージョン太鼓に過ぎなかったことを白状せねばなりません。しかし,この10年の彼の活躍に目を見張るものがあったのは間違いないところです。この10年でどれだけの有能なピアニストが彼によって発表の場を与えられたことでしょう。本盤の主役,ジョン・テイラーもそんな一人。キースらとともに,いわゆるECM的な澄んだ透明感溢れるピアニズムを構築した第一世代が彼ですが,その年季の入ったリリシズムは,凡弱な若手ECMピアニストのそれとは,やはりひと味もふた味も違う深みがあります。ほぼレギュラー・トリオと化しておりこれが4枚目。自由度と一体感はさらに増しており,好みは分かれそうですが,自由度の高さを感じさせない一音の説得力の大きさは,このピアニストの非凡な音楽性を物語るものといえましょう。