2000年代のジャズ


★★★★1/2
Diederik Wissels - Bart Defoort "Streams" (Igloo : IGL 157)
goodmorning midnight silent sorrow never is a very long time tall dream window song dreamscapes at dusk victor's waterscape always today what we didn't see!
Diederik Wissels (p) Bart Defoort (ss, ts) Stefan Lievestro (b) Lieven Venken (ds)
昨今急速にレベル上昇中のベルギーから,また素晴らしい作品が出ました。これは好いです。最近のジャズは,曲想の上でいわゆるフュージョンとの線引きはどんどん曖昧になりつつあり,いわゆる保守的ジャズ選民意識から急速に脱却し,「綺麗な曲で,最上のアドリブ」という,極めて好ましいスタイルを採る新時代の演奏家が続々輩出されております。ヨーロッパの場合,その嚆矢はあのガルバレク・カルテットにありで,このグループはガルバレクのジャズを極めてスムーズかつ現代的に再解釈した音作りといえるかも知れません。ガルバレク似のサックスとドラムは少々重く,もっさりしていますが,清涼感漂う美しい曲想秀抜で,キース系のリリカルなピアノが抜群。妙な例えで恐縮ですが,その作曲能力の高さから小生は,ラーシュ・メラーを連想してしまいました。リリカルな北欧ジャズに目がない方。愛聴盤必至です。

★★★★★
Joe Haider Trio "Grandfather's Garden" (JHM : JHM 3619)
grandfather's garden Bilein blues for Alf you and the night and the music Sunday child bright you t(h)ree
Joe Haider (p) Giorgos Antoniou (b) Daniel Aebi (ds)
JHM(ジョー・ハイダー・ミュージック)の社長兼ピアニストであるハイダーは,すでにサックス吹きドン・メンザのリーダー作でもご紹介しましたが,とうとう彼のトリオ盤が登場です。メンザ盤でも元気に弾いていただけにとても意外だったのですが,何でもこの作品,彼の病み上がり後の復帰第一作なのだとか。そりゃ,やる気にもなりましょう。かつて幼い頃,自分が最も楽しい時を過ごした想い出の場所,祖父の庭園を題材にしたこの盤,彼もドン・メンザ盤のバピッシュな乗りから一転,エディ・ヒギンズばりの硬質な叙情で素晴らしい演奏を披露。モチベーションもモティーフも好かったのでしょう。歌に徹して素晴らしい内容になりました。かのヒギンズ盤(『魅せられし心』)と同様,聴き手を選ばない正統派の名作。甲種推薦。

★★★★1/2
Clemens Orth Trio "Silhouette Ascending" (Mons : MR 874-328)
double flavour suite mortal conditions blue in green seven steps to heaven unison Jamboree silhouette ascending June 15th 1995 east of the sun mondstaub song for Bill (Evans) smells like teen spirit
Clemens Orth (p) Dietmar Fuhr (b) Matthias Kornmaier (ds)
ドイツの若手トリオによるデビュー録音。リーダーはハイデルベルク大学でクラシック・ピアノを学び,コローニュ音楽院でジャズに転向。基礎はしっかりできた上でのエヴァンス奏法。録音のためか,最初の30秒ほどは「ちょっと線が細いかな」という印象を持ちましたが,すぐさまこのトリオの緻密でデリケートな音世界に魅了されてしまいました。技巧派ではないものの,同じドイツのアヒーム・カウフマンや,ベルギーの俊才イヴァン・パデュアールあたりの影響を感じさせる適度に硬質なエヴァンス派。バルトークやメシアンらに源を発するポリモードや無調,変拍子技法を適度に織り交ぜ,ECM時代のリッチー・バイラークを思わせる硬質のピアニズムを展開します。ちなみに彼もカウフマンも,同じコローニュ同窓生。本盤にさりげなくライナーを寄せているジョン・テイラーの弟子筋。リーダーとしては過小評価が続くテイラーが,今や彼の地では次世代ジャズメンを生み出す影の黒幕と化しているこの事実を見逃すべきではないでしょう(2003.12.16補筆)。

★★★★★
Randy Porter Trio "Eight Little Feet" (Heavywood : HW 7889J)
jig with a pig a little kindness inside your mind Cindy Lynn groove thing do you know what it means to miss New Orleans? savor eulogy giant stretch be still eight little feet first snow
Randy Porter (p) Bob Magnusson (b) Joe Labarbera (ds)

デイヴ・フリーゼンやチャールス・マクファーソンのサイドメンとして活動していたピアノ弾きのデビュー録音。ヘヴィーウッドというレーベルは硬質のエヴァンス派トリオが結構あって,以前も丸坊主の怖いおじさん,マイク・ウォーフォードが強面トリオ盤なんか残していましたっけ。その硬質な録音に貢献していたのが実は彼。エンジニアさんなんですね。果たしてこちらも,見事にゴリゴリと録れた硬質ピアノ・トリオ。広義に取ればエヴァンス派になるのでしょうが,一般的なエヴァンス派トリオより遙かにR&B感が強く,土臭さを残しているのがこの人の持ち味。似たタイプを挙げるのは難しいのですが,強いて形容するなら,渋めのデヴィッド・ヘイゼルタインに,ブルース色を流し込んだようなタイプ。クラウス・ワーゲンライターにメルドー風味を加え,もう少しモダンにしたタイプ,あるいは重量級ウイントン・ケリーと言い換えても好いかも知れません。なかなか男臭くて渋いトリオだと思います。甲種推薦です。

★★★★1/4
Gösta Rundqvist Trio "Treecircle" (Opus 3 : CD 19801)
for heavens sake falling grace a flower is lovesome thing Gösta's waltz turn out the stars the meaning of the blues hannimood treecircle walkabout thoughts how my heart sings
Gösta Rundqvist (p) Hans Andersson (b) Fredrik Rundqvist (ds)
ピアノ好きの間では,以前からちょくちょく名前の出ているスウェーデンのエヴァンス派ピアニスト。オーパス3はライナーに使用機器を一覧表示するほどの音響マニア・レーベル。フィンランドの作曲家,エルランド・フォン・コッホをご紹介した際にも触れました。だからというわけでもないのでしょうが,エフェクター類を駆使して,凝りまくった録音。その分ベースとドラムの芯が抜けて弱く録られてしまい,演奏が間延びして散漫に聞こえてしまう。却って損です。しかしリーダーを中心に演奏は穏健かつ端正。あまり技巧派ではなく,訥々としたピアノながら,エレガントで趣味の好いタッチはなかなかに美しく,素材を問わず安定感があります。エヴァンス派からキース系,ハンク・ジョーンズやトミフラあたりまでのファンなら,お気に召すと思います。お薦めです。

★★★★1/4
Dave Peck Trio "3 and 1" (Let's Play Stella : LPS 2000-01)
if I were bell soul eyes Eronel if... then... star eyes alone together Ana Luiza 3 and 1 every time we say goodbye
Dave Peck (p) Chuck Deardorf (b) Dean Hodges (ds)

1998年,ひっそりと制作したデビュー作「トリオ」(1998年)が,地元誌から年間最優秀録音盤に選定。一握りの無名叙情派ピアニスト愛好者に知られることになったデイブ・ペックは,ワシントン州シアトルの出身。現在も彼の地を拠点に教育,演奏活動を続けている人物。もとは,1985年からバド・シャンクの脇役を務めて名を上げた人で,その後も地元シアトルのコーニッシュ音大で助教授職に就く傍ら,2年に一枚程度の割合で,自主制作に近い形のCD制作を続けては,ファンを喜ばせています。この新作でも,エヴァンス〜キース派の流れを咀嚼した端正なピアニズムに大きな変化はありません。2000年〜新世紀を迎え,ジャズの新たな流れを問う意欲的な作品が続々出ている昨今。しかし,そうした時代の流れを横目に,オノレの信じる道をただ静かに歩み続ける彼のようなピアニストもまた,ジャズの屋台骨を立派に支える一人と申せましょう。(2004. 6. 21補筆)

★★★★1/2
Joe Chindamo Trio "The Joy of Standards" (Atelier Sawano : AS 010)
I hear a rhapsody moon and sand Bill remembered charade I fall in love too easily old folks waltz for Matilda gentle rain another story when I fall in love
Joe Chindamo (p) Ben Robertson (b) David Beck (ds)
リーダーを張るオージー・エヴァンス派は,澤野商会が始めた新人発掘プロジェクトで日の目を見た人の一人。1961年メルボルン出身の彼は,18才でメルボルン州立大に進むまでは殆ど独学で音楽を修得したとか。それでもローティーンから地元テレビ局の番組荒らしをやっていたくらい,各種鍵盤の扱いに習熟。しかし,なんとその頃は主楽器がアコーディオンだったそうな。おまけに元はジャズ弾きではなく,映画音楽の作曲家として活躍。そんな彼だけに,デビュー直後の1997年には,イエロー・ジャケッツのパクリとしか思えない管入りフュージョン盤を作り,そこでアコーディオンを弾いちゃったりしてます。本盤は,そんな彼が澤野さんの注文に応じ,大学進学後身につけた表情を器用に見せているトリオ盤といえるのかも知れません。選曲からして明らかな演奏はエヴァンス直系。抒情ピアノ好きの方なら,ほぼ予定調和的に楽しめる高品位に安定した内容。ピアニストとしては,ユージン・マスロフやデイヴ・ペックに近いタイプでしょうか。訥々とした上品で静謐なタッチを武器にした巧いピアノだと思います。強いて欲を言えば,少々脇役が粗い。小粒な上に柔軟性の欠けるドラムで,星半分くらいは品位が落ち,ペック盤などに比して垢抜けしない風情が漂ってしまったのは,ちょっとだけ残念です。ちなみに,このトリオ作は好評だったようで,最近同じ図柄で緑色の第2作も出ました。(2004. 7. 18補筆)

★★★★★
Franck Avitabile "Right Time" (Dreyfus : FDM 36608-2)
Miss Laurence in your own sweet way facin' up right time! song for Evan con alma cherokee little valse blues from the stars
Franck Avitabile (p) Niels-Henning Ørsted Pedersen, Louis Petrucciani (b) Roberto Gatto (ds)

先頃他界したミシェル・ペトルチアーニが晩年,特に惚れ込んでいたこのピアニスト。デビュー作『イン・トラディション』はピアノ・トリオ通をも唸らせるバカテクぶりで,怖い者知らずの勢いを感じさせてくれたものです。ペトルチアーニの死を経て初の録音となるこの2枚目,それだけで注目が集まるところ。本人もそれを意識しないはずはありませんが,御覧のように,一言「彼の想い出に捧ぐ」と見開きにあるほかは外から見える部分のどこにもペト絡みの文言なし。彼の死を利用し阿るところがないのがまず素晴らしい。それだけで中身も期待できようと言うものです。肝心の中身は,デビュー作でのバドの呪縛を抜いた分,彼本来のメロディックでピエラヌンツィやエヴァンス的な持ち味が色濃く出た,バランスの好い内容。一部楽曲が甘いのでゲンナリする方も居ましょうが,演奏は秀逸です。デビュー作と違ってテクを誇示せず,メロディックで余裕を残した演奏に徹します。その辺り案外共演したペデルセンの助言があったのかも知れません。

★★★★1/2
Adrian Frey Trio "The Sign" (Altri Suoni : AS 083)
the sign duc les sebots waltz for the lonely out of nowhere before the night takes it away white light JCJSB blues for Jerry chill out
Adrian Frey (p) Dominik Burkhalter (b) Dominique Girod (ds)
リーダーは1959年チューリッヒ生まれ。1997年からアジア系のジャズ歌手,ペギー・シューのサイドメンとして活動中のピアノ弾きです。1990年代の始め頃からトリオを率いてアルバムも出していたようですが,当時の録音を聴くと線の細いチック・コリアもどき,といった印象でした。元々あまりテクニックのあるほうではないので,チック系のピアニズムは神経質に聞こえるだけで損ではないかと思っていましたら,2000年に入って出してきたこのトリオ盤では大変身。同じスイスのG.A.S.を彷彿させる,キース的な清涼感を伴う,こざっぱりと垢抜けた表現に変わっていて溜飲を下げました。相変わらず主役の技量はもう一つで,注意して聴くと運指がもつれ気味のところが散見されたりするんですが,良い意味で自分の技量を自覚したのが奏功。音数を減らし,隙間を良く生かしたピアニズムへとスタイルを変えました。タイトなビートを刻む両脇役を良く信頼。好い意味で寄りかかってトリオとしての表現を大事にした演奏は,垢抜けしていて好感が持てます。スタンダードを演奏したG.A.S.に比べると,オリジナル主体のこちらはもう少し現代的。両脇役は堅実ですし,技量の穴を埋める主役の作曲センスも良好。G.A.S.同様一見地味ながら,歩く猫のように滑らかで,神経が行き届き,デリカシーに満ちたいいトリオです。

★★★★★
Prysm "On Tour" (Blue Note : 7243 531575 2 4)
secret world extension temps dense voice of angels the way suspended time reflection patience un des sens
Benjamin Henocq (ds) Christophie Wallemme (b) Pierre de Bethmann (p)

プリズムは1994年に結成されたフランスのピアノ・トリオ。敢えてグループ名で活動するあたりから伺えるように,三者対等のユニットとしてジャズ的機能性を発揮することを目指したグループです。レパートリーは全て自作。緊密に編み上げたメカニカルな楽曲を,即興性を損なうことなく明晰に弾き仰せることで,作るジャズと演るジャズの止揚を目指した爽快な演奏は近未来的志向。4枚のアルバムが全てブルーノート録音という破格の扱いも頷ける高密度のユニット表現が身上でした。ジョン・テイラーと双頭で,小沢征爾率いるフランス国立管弦楽団とリサイタルを敢行するという武勇伝まで作り,4枚目の本盤に至って日本でも話題に上るところまで来たものです。本盤は,グループ初のライブ。ニュー・オリンズ(『スナッグ・ハーバー』)とパリ(『サンセット』,『ニュー・モーニング』)で録音された3種類のライヴ音源が元。永遠の命題である「クールな作り込み」と「熱い即興」の平衡感覚を,ともすれば前者に偏ってしまいがちだったこのグループが,おそらくはほぼ理想型に近い形でブレンドすることに成功した,畢生の大名盤であると断言します。多彩な変拍子を駆使した高密度のオリジナル曲のレール上を,メルドー君のバンガード・ライヴにもう少しハービー色を足したようなメカニカルな筆致で,淀みなく疾走する。技巧とクールネスの極限に挑んだ新時代の野心作として,初めて聴いた当時は長らく忘れていた熱い興奮が蘇ったものでした。行くところまで行ってしまったんでしょうねえ。この直後,グループは活動休止を宣言してしまいます(2003. 12. 20補筆)。

(2001.4.23 upload: 6. 11 updated)