2000年代のジャズ


★★★★
Antonio Faraò "Thorn" (Enja : ENJ-93992)
thorn time back preludio epochè caravan arabesco B.E. tandem malinconie
Antonio Faraò(p) Drew Gress (b) Jack DeJohnette (ds) Chris Potter (sax)
毒のあるケニー・カークランドことアントニオ・ファラオのエンヤ2作目です。メジャー・デビュー作『ブラック・インサイド』はきっと,一般にも余程評判が良かったのでしょう。今回の録音で彼に用意されたこの陣容,エンヤは余程期待して選んだに違いなく,ディジョネットを筆頭に今が旬のサックス,ベースを据えて万全の陣容です。悪いわけがありますまい。基本的な方向性も『ブラック・インサイド』と変化ありません。しかしこの人選,やや誤算もあったと聞こえるのは私だけでしょうか?確かに個々のプレイは最上級ですが,重量感が売りのディジョネットでは,グレスのようにデリケートなベースは沈んでしまいますし,また,ファラオの魅力である毒気や重量感は出ても,切れ味の部分を些か減衰させてしまうように思われるのですが如何なものでしょう?その辺のちぐはぐな感じさえなければ文句なしだけに惜しい限りです。,離リス・ポッターのソロがカッチョエエの何の。

★★★★★
Baptiste Trotignon Trio "Fluide" (Naïve : Y 225 099 AD 90)
this is new not for Debby UIT blues Bernie's tune l'amer à boire onuca my shining hour I'm a fool to want you
Baptiste Trotignon (p) Clovis Nicholas (b) Tony Rabeson (ds)
古くはマーシャル・ソラールやフィニアス・ニューボーン,チック・コリアを経てピエラヌンツィまで。優れた技巧を持つピアニストの作品を聴く快感というのは,ちょうど排気量の大きいアメ車を駆る快感に似たところがあります。1974年,ナント生まれのバプティスト・トロティニョンもまさにそれ。1996年にラ・デファンス国際のソロ部門で2位になったのを機に,2000年,本盤でデビューしました。たっぷり余裕を残した運指と,振幅の大きなストローク,ナタのような切れ味で,素材を問わずザクザク切り込む技巧は目覚ましいの一語。ペトルチアーニの秘蔵っ子フランク・アヴィタビレを彷彿させる大排気量型ピアニズム横溢の手練れです。スタイルを問わず両手弾きから左手のソロ,モード風となんでもやろうという姿勢も,昨今の多くの一線級ピアニストの特徴といえましょう。ダイナミックで痛快なピアノをお探しの方には,諸手を上げて甲種推薦致します。余談ながら,その後,彼は2002年のマーシャル・ソラール国際で優勝。ジャンゴ賞も獲得し,文字通り現代フランスの若手ピアノ弾きのトップに躍り出ました。現在はフランソワ〜ルイ・ムタン兄弟率いるムタン・リユニオン・カルテットのピアノ弾きとして,相変わらずの怪気炎をあげているようです(2004年5月14日補筆)。

★★★★1/4
Peter Erskine "Live at Rocco" (Fuzzy: PEPCD 007)
to love again riff raff caribe (intro) caribe (body) life today Jerry Goldsmith Greta Bulgaria how about you? autumn rosepure and simple all of you children milagro taiowa
Peter Erskine (ds) David Carpenter (b) Alan Pasqua (p)
ポコポコ親父,ピーター・アースキンは最近,ジョン・テイラーのピアノにパレ・ダニエルソンのベースからなるトリオでECMに数枚の録音をして話題をさらいました。それに比して,こちらは有名とは言えない顔触れによるライヴ録音。思わず触手を引っ込めたくなりますが,この無名陣こそ本盤の美点。ピアノのアラン・パスカはアースキンとインディアナ州立大学時代からの朋友。つまりは,肩の凝らない同窓会企画というわけです。このアラン・パスカが素晴らしい。アラン・ホールズワースのグループにいた人ですが,演奏はエヴァンス基調。上質の映画音楽ないしはヒーリング音楽でも聴いているかのような心洗われる旋律美に溢れ,実にデリカシー豊か。かつての朋友同士が旧交を暖めた本盤は,ECM盤とはまるで異質の寛いだ雰囲気に溢れています。

★★★★
Marcello Tonolo Trio "On the Wings"(Splasc(h) : CDH 707.2)
on the wings amigavel my romance no matter Emery whistle what's new the taster catch the tide you do something to me
Marcello Tonolo (p) Guido Torelli (b) Massimo Chiarella (ds)
クリス・ロンハイムやロベルト・シペリ(ESPトリオの)などをご存じの方は,その系統だといえばピンと来られるでしょう。イタリアからまたまた,エヴァンス派中堅の隠れ名手です。エヴァンス派には大きく,2つの系統があるように小生は思うのですが,ブラッド・メルドーやケニー・ワーナーのような才気闊達なタイプを一方に置くと,もう一方に来るのが堅実で穏健な秀才型。最近評判のフランセスコ・ナストロなどもこの系統でしょうが,年齢の若いピアニストでは,どうしても甘さに流れてしまいがちです。歌に溢れたロマンティックな甘い楽曲を,甘く,しかし甘ったるくなく弾きおおせること。一見何でもないようですが,これが如何に難しいかは,エヴァンス派を愛好する方は良くご存じでしょう(日本で昨今人気の某女流ピアニストが箸にも棒にもかからんわけです)。この人,技巧闊達ではありませんが,さすがです。以前バブルのように消えた若造ピアノ,セルジオ・サ●ヴァドーレのキャッチコピーに「年齢で弾けるほどジャズは甘くない」というのがありましたが,逆の意味でその言葉を体現しているピアニストといえるのではありますまいか。これぞ熟 達の技です。オリジナル主体ですが「マイ・ロマンス」「ホワッツ・ニュー」の演奏あり。

★★★★★
David Gordon Trio "Undiminished" (Zah Zah: ZZCD 9817)
bluesli my romance dozen a day undiminished caravan sometimes it snows in April just one of those things gee baby aren't I good to you waltz for J it don't mean a thing if it ain't got that swing
David Gordon (p) Ole Rasmussen (b) Paul Cavaciuti (ds)
デビュー盤『ドーズン・ア・デイ』で一躍,知る人ぞ知る存在となったデビッド・ゴードン・トリオの第2作。この人はですねえ,滅法上手いです。バカテクです。タイプとしてはキースやエンリコ系のパラパラとしたピアノを弾く人ですが,クラシックの鍛錬を余程積んだ人なのか,粒立ちは正確だし,弾むフレーズはきちっと歌っています。前作もかなり良かったのですが今回はさらにスケール・アップ。さらに緊密度を増したトリオの連携,澱みなく流れるメカニカルなフレーズに漲る第一級の才気。全てが輝きを増しております。パット・メセニー風の爽やかでアクのないジャズを聴いてきた人,チック・コリアやラインハルト・ミッコあたりに趣を感じる方,間違いなく愛聴盤になります。甲種推薦盤。

★★★★1/4
Tony Pancella "Different Stories" (YVP : 3088)
never before autumn nocturne a song for Tony ah-Moore aimée night and wings halebopp just wait and see(solo) just wait and see how deep is the ocean peaceful a different story too many words
Tony Pancella (p) Ulf Rådelius (b) Pietro Lodice (ds) Tino Tracanna (sax)

イタリーのエヴァンス派トニー・パンセラの新譜が出まして,これを機に一度耳に入れておくべく購入。作曲のセンスはいかにもE. モリコーネを生んだイタリアらしい甘美なロマンティシズムを感じさせますが,演奏はエヴァンスの系譜に連なる上品な筆致です。『様々な物語(different stories)』という題が示唆するとおり,トリオ・フォーマットは全体の半分ほどで,ピアノ・ソロにベース/サックスとの二重奏で構成。しかし,好いのは断然後半のサックスとの二重奏。リーダーとしてはどこかフレーズが歌いきれず迷いと不完全燃焼があるようですが,脇に回った後半は好内容。やや我が儘なピアノ伴奏にも巧く乗せてくるティノ・トラカナのソプラノがまた切々と響いて良いの何の。ピエラヌンツィ系(前半)やハンコックの『処女航海』(後半)に近い叙情をお求めなら,ハマること請け合いです。原音に拘った集音も芳醇で素晴らしい。

★★★★
Craig Wuepper "The Returnsman" (Double Time : DTRCD-178)
new scene the returnsman the jitterbug waltz we'll be together again savoy song clear the way zingaro the best thing for you
Craig Wuepper (ds) Ryan Kisor (tp) Eric Alexander (ts) Mike Dirubbo (as) Mike LeDonne (p) John Webber (b)
ニューヨークで活動中の若手が集まったこの盤を一言で形容すると,あの「ワン・フォー・オール」の裏盤。『アップワード・オンワード』の向こうを張って,ループ(高架線)を背景にしたジャケットには,この盤の内容を自嘲したジョークも込められているのでしょう。リーダーのドラマーはワン・フォー・オールのジョー・ファンズワースに良く似た,軽量級ながらタイトなシンバル捌きが快い好手。エリック・アレキサンダーだけがワン・フォー・オール絡みとなれば,実質的なイニシアチブは彼のもの。まるっきりコンセプトがワン・フォー・オールになるのも無理からぬことでしょう。今風のハード・バップがお好みの方なら,この顔ぶれです。安心してお求めいただけましょう。マクリーン風アルト奏者ディルボ,久々登場。

★★★★1/4
Samuli Mikkonen "KOM . Live" (Samuli Mikkonen : SMCD-2)
murehista muovaeltu sediment 1000 days left noli me tangere livin' my life
Samuli Mikkonen (p) Anders Jormin (b) Audun Kleive (ds)

あのサミュリ・ミッコネンがついに新作を出しました。自主制作ということもあり,前作は我が国はおろか世界的にも全くといい程反響皆無でしたが,キースの路線を正統に継承しつつも,最近の軟弱なECMピアノより余程毒気があって面白いピアノを弾く彼に,小生はすっかり虜となったものです。なぜこれほど面白い新人に世間は注目しないのかと欲求不満を感じも致しました。しかし,ベースにボボ・ステンソンらとの豊富な共演歴のあるアンデルス・ヨルミンを迎えた今作は,きっと彼に光を当てるものと小生,期待しております。2作目となる今作はヘルシンキでのライヴ。大物を迎えたからか,今作の彼は毒気を控え,ステンソンの近作に近い,より静謐で格調高い北欧的叙情を全編に横溢させております。北欧ジャズ・ファンの方。好いです。11分間に渡って幻想的な音空間が広がる(佞蠻鯣か。

★★★★1/2
Seamus Blake "Echonomics" (Criss Cross : Criss 1197 CD)
circle K. why not last minute club children and art echonomics rain your love down god only knows
Seamus Blake (ts) David Kikoski (p) Ed Howard (b) Victor Lewis (ds)
個人的には,最近すっかり名声が定着したエリック・アレキサンダーに続くテナーマンとして強力に推薦したい一人です。アレキサンダーは,当初のデクスター系大味テナーから,ジョージ・コールマンを参照しつつ解脱しましたが,この御仁は最初からジョージ・コールマン直系のモーダルな吹け上がりと音色を持った,実に魅力的なサックス吹き。今風の演奏家らしくワウ(ディストーション)を掛けてジミヘン風を気取ったり,ヒップ・ホップやR&Bを大胆に取り込んだリズムを多用しますが,どこぞの有名人のように取って付けた感じにならないのは,やはりサックス吹きとして地に足がついている証拠でしょう。伴奏のキコウスキーとの相性は既に『ザ・メイズ』で証明済み。屈強なリズム隊の援護射撃も相俟って素晴らしい出来映え。秀作です。

★★★★3/4
Pierrick Pedron "Cherokee" (Elabeth : ELA 621036)
la grande blonde riton l'amer a boire mo-more cherokee autumn in New York rompez les rangs riton a Nashville
Pierrick Pedron (sax) Baptiste Trotignon (p) Vincent Artaud (b) Franck Agulhon (ds)

昨年勝手に新人賞を贈らせていただいたバプティスト・トルティニョンの脇役参加作品がまたまた出ました。のっけから断言しますが,これはイイ!好いです。リーダーはウッズ:キャノンボール系。ちょうどタイプとしてはイタリーのロザリオ・ジュリアーニに大変良く似ていますので,思わず比べてしまいます。プレイヤーとしては異様に上手いジウリアーニに比べると,リップ・コントロールがやや不安なペドロン氏はかなり形勢不利ですが,作編曲はペドロン氏圧勝。ラテン臭が嫌みなジウリアーニに比して,スマートかつパワフルなモード・サウンドをまとったこの盤,遙かに格好好いです。さらに輪を掛けて脇を固めるトルティニョンのダイナミックな演奏がカッチョエエの何の。硬派なモード・ジャズをお探しの方。甲種推薦です。

(2001.6. 5 upload)