2000年代のジャズ vol. 4


★★★★1/2
Eric Alexander "The First Milestone" (Milestone : VICJ-60555)
stand Pat 34 was sweetness the first milestone the towering inferno night song last night when we're young the Phineas Trane I'm glad there is you
Eric Alexander (ts) Pat Martino (g) Harold Mabern (p) Peter Washington (b) Joe Farnsworth (ds)
エリック・アレキサンダーも今や有名人になりました。そのせいかどうか,最近では彼を批判することで卑小な自分の存在をアピールしようとするスノッブな輩が多くなり,困ったものです。それだけ彼もビッグになったといえばそうなのですが・・。この盤はマイルストーンへの移籍第一弾で,新たなる出発を期す彼の気持ちを標題に掛けた意欲作。モード色を巧みに利かせた今風のハード・バップで,めちゃんこカッチョエエです。快刀乱麻の,鯢頭に,スムースかつ超絶的な演奏のてんこ盛り。外野の雑音など無視して,今後もますます前進していただきたい。

★★★★1/2
Gaspard Glaus Trio "Voice of Zak" (Plainisphare : PL 1267-118)
satuna blues on the rocks for Aline voice of Zak family les heures bleues snuk song
Gaspard Glaus (p) Bob Harrison (b) Olivier Clerc (ds)
最近俄然元気なスイスのジャズ・シーンを代表するピアノ弾きといえば,ティエリー・ラングは間違いなく挙がってくる人物の一人だと思いますが,彼を大物に育て上げたPlainisphareから,また素晴らしいピアニストの録音が出ました。活動歴の多くは不明ですが,1990年代始めにラング以下7人のピアノ弾きが集まって結成された“ピアノ・セブン”のメンバーでもあった人物で,ポッと出の新人ではありません。キースを基調に,トリスターノを思わせる禁欲的な佇まいを持ち,審美的ながら抑制の利いたピアノは,線が細いながら技巧確か。同じスイスのGASやエイドリアン・フレイ・トリオといった系統のピアノをイメージすれば,ベクトル的には近いと思います。一部フリー寄りの演奏もありますが,ちょうどキースの『バイ・バイ・ブラックバード』のような,端正で外連味のない玄人好みのトリオです。この手の演奏がお好みの方には是非。

★★★★1/2
Tim Lyddon "I've Traveled So Far" (Essence : 7466-2CD)
I've traveled so far Angela theme for a lost real I should care dreamland just passing by beautiful feeling what time is it? freedom piece I thought about you
Tim Lyddon (p) Tom Hubbard (b) Scott Latzky (ds)
鬼才続々登場で,活況を呈しているブルックリンのジャズ・シーンに,ひっそりと現れたピアニスト。これが初リーダー作です。ジャケット・デザインに惹かれて買ってみましたが,これは好い。いわゆるエヴァンス派の範疇に収まる演奏は,慎み深く,知的な抑制の利いたタッチと,静謐なモーダル・アクセント,衒いのない歌心が横溢。あまり器用とは言えないペダリング,タイム感にも若干難があり,全体に小粒。しかしパオロ・ビッロに通じる白人らしい洗練されたピアノ・センスの持ち主で,文句なしに品格が高い。オリジナル中心と意欲的で,そのセンスがまた抜群に好いです。余談乍,本盤の太鼓は以前,若手ギタリストのトム・デンプシーがIGMODから出した初リーダー作のサポートにも回ったことがありました。A級ジャズメンのような腰の据わったグルーヴ感は望むべくもありませんが,小粒ながら慎ましい好サポートのできる職人です。同盤におけるシュアな助演をご存じの方は,いっそう安心してお求めいただけるのでは。甲種推薦に値する,ガラス細工のように丁寧な作りの秀盤と申せましょう。

★★★★1/2
Karl-Martin Almqvist "Karl-Martin Almqvist" (Prophone : PCD 057)
mourning dove bright side of darkman lil'bear woon tune reslust see gee sing on a misty night fly, fly
Karl-Martin Almqvist (ts) Jan Lundgren (p) Filip Augustson (b) Sebastian Voegler (ds)
マシアス・ランダース・カルテットの脇で渋いテナーを吹いていたアルムクヴィストのデビュー作が出ました。ドラムのセバスチャン・ボーグラーはランダース・カルテットのお仲間で,ピアノにはあのラングレン。大いに期待しつつ購入しましたが,これは秀逸。素晴らしい一枚です。この人らしい力の抜けた柔らかいトーンは健在で,ラングレンも興に乗りいつになくモーダルな演奏を展開。加えてリーダーの作編曲が上手い。ランダース・カルテットではその辺りの才覚は楽しめませんでしたので,この盤はトータルにバランスの取れた彼の魅力を明らかにした,初リーダー作に相応しい秀作といえましょう。素晴らしい現代風ハード・バップに仕上がっております。には遊び心一杯の隠れ置き土産が。せっかちな人は出逢えません。一端演奏が終わっても,待ちましょう。アンコール!

★★★★1/4
"Johnny Griffin & Steve Grossman Quartet" (Dreyfus : FDM 36615-2)
take the D train waltswing don't say good by Nica's tempo power station little Pugie you've never been there this time the dream's on me Taurus people
Johnny Griffin, Steve Grossman (ts) Michael Weiss (p) Pierre Michelot (b) Alvin Queen (ds)
大御所テナーマン,グリフィン76歳。まだこうして意気軒昂に吹いていたとは正直,吃驚致しました。この盤は最近ペトルチアーニの遺作で復活なったスティーヴ・グロスマンとの骨太対決。果たして内容もテナー激突がちんこ勝負。さすがに年齢には勝てず,往時の天才的リップ・コントロールと息の長いフレーズは見る影もないグリフィンと,同じくコントロールに関してはかなり問題のある(失礼)グロスマンだけに,コントロールはかなり不安定で減点せざるを得ませんが,演奏については相当に奮戦しています。楽曲も好く書けており,久しぶりにハード・バップ直球勝負で大いに楽しめるCD。ところで,2人の陰に隠れ恐らく注目する人は少ないでしょうが,この盤の本当の凄さは制作者側の見識の高さにあり。好内容盤『パワー・ステーション』で一部にはお馴染みの現代版ウィントン・ケリー,マイケル・ワイスを持ってきたその演出に,小生は大いに脱帽致しました(必ずしも思惑通りには行かなかったようですが:笑)。

★★★★
Eckhard Weigt Quartet "Standard Moods" (Organic : ORGM 9718)
Ars Vivendi Rollinissimo mitternachtswalzer siena stille stunden Monky tonky Paul's abschied standard moods
Eckhard Weigt (ts) Martin Schrack (p) Thomas Stabenow (b) Guido May (ds)
 
小粒で線の細いジョーヘン風節回しのテナーマン,エックハルト・ウェイトのリーダー作品。詳しい経歴は分かりませんが,B級らしい駆逐艦の味わいで売るタイプ。全体に演奏は小粒で,大物のリーダー盤にあるような振幅の大きさや威風堂々とした佇まいはありませんが,ラテン・リズムを基調に,新主流派的なモーダル・アレンジの周到な楽曲が素晴らしい。丁寧に推敲された良心的なアルバム作りで大いに好感が持てます。ベースとドラムは,共にミュンヘン在住のテナー吹きヨハネス・エンデルスの『ホーム・グラウンド』で脇を務めたコンビ。同盤をご存じの方は,あれをもう少しラテン乗りにした内容を想像していただけると宜しいかと思います。小粒ながら手仕事の行き届いた充実作です。1960年代主流派ジャズ好きの方には特にお薦め。

★★★★1/2
Brad Mehldau Trio "The Art of the Trio vol. 5 -Progression" (Warner Bros. : 9362-48005-2)
the more I see you dream's Monk the folks who live on the hill alone together it might as well be spring cry me a river river man quit secret love sublation resignation long ago and far away how long has this been going on
Brad Mehldau (p) Larry Grenadier (b) Jorge Rossy (ds)
メルドー君は間違いなくキース以来の大器です。キースが右手で試みたアドリブのバロック的脱構築を両手に拡張し対位法的に再解釈しようという音楽家としての野心と,それに見合う素晴らしい技術や才能を持ち合わせているのは間違いありません。しかし,往々にして大器というのは(ときに自分で新たな語法を開拓しなければならないためか)自分自身の巨大な才能をまとめきれず右顧左眄してしまうもの。目下彼の試みとしての音楽が,まだ彼の中で音楽的な一貫性を奏でていない。その点で,色々問題こそあれ,ヴァンガード・ライヴでの一連の試行錯誤を『エレゲイア・サークル』,『プレイセズ』という2枚のトーン・ポエム的なスタジオ録音でバランスすることは,是非とも必要な手続きであったように思うのですが如何でしょう。この作品ではまたヴァンガード・ライブに戻りましたが,これまでのヴァンガード・ライヴにはなかったトータルなバランス感覚(一貫性)が加わり,単なる技巧的・音楽的試行を超えた普遍性が,徐々に備わってきました。まだバラード演奏などには課題が残りますし,作られた音楽特有の空々しさは抜けきれないものの,トリスターノやキース・ジャレットを消化した上に自己のスタイルを築き上げようと模索を続ける彼の,現時点での到達点がここに。以前ベタ誉めしたプリズムの『オン・ツアー』と並ぶ,ピアノ・トリオの一つの最先端の姿があります。今後の深化が楽しみです。

★★★★1/2
Cesc Miralta Quartet "Sol de Nit" (Fresh Sound : FSNT 098)
el nou mil-Lenni sol de nit el bosc de les fades roc blanc boira al montseny ossa nova universal 23 xiprers rosa del desert
Cesc Miralta (ts) Albert Sanz (p) Chris Higgins (b) Marc Miralta (ds)
1990年代最強の企画賞ぶりを誇ったレザボアの『ニューヨーク・ピアノ・シリーズ』の次は,フレッシュサウンドの『フレッシュサウンド・ニュー・タレント』シリーズ。今後要注目です。今回購入したのは,スペインの新鋭テナーマンのリーダー作。安かったので買いましたが,聴いてみて吃驚。このアルバム,滅法好いです。リーダーは最近流行の脱力系。もとはクラリネット吹きだったそうで,その影響でしょう。以前ご紹介したカール・マーティン・アルムクヴィストやリッチ・ペリー,ジョン・マッケンナの線に連なるタイプのサックス吹き。ハスキーで湿り気を帯びた,柔らかいトーンと,モード奏法を昇華したスムースかつクールな吹け上がりが魅力です。さらに控えめなサポートを見せる脇役も巧い。ピアノは技巧派ではありませんが,現代版シダー・ウォルトンとでも呼びたくなる趣味の好いタッチがたまりません。オリジナル中心の作編曲も相当に巧い。このまま未開封新古盤で投げ置かれているようなCDではありません。

★★★★1/2
Gerard D'Angelo Trio "Not What my Hands Have Done" (Mastershade : MS 08432)
who's kidding who? no turn on red heavy blue forlane I'll take romance one shot deal la pardida ballad for Frederick freshwater girls funkalero Mary's secret not what my hands have done
Gerard D'Angelo (p) Jay Anderson (b) Jeff Hirschfield (ds)
当館をご愛顧下さっている皆様は,小生が常套句の如く繰り出す『エヴァンス派』の文句は聞き飽きておりましょうし,実際,1980年代の4ビート復興以降,教育水準が上がったお陰かハーモニック・センスが格段に好くなった昨今のピアノ界,唸るほど沢山の名手が,日々CDでこの世界になだれ込んできております。それだけにエヴァンス派と申しましても,その裾野はかなり広がってしまいまして,ふと我に返ると,本当にエヴァンスらしいエヴァンス派って,そういえば最近まるで聴いていない気がするのは私だけ?個性を重んじるならそれも結構なのでしょうが,たまには正攻法でエヴァンスと真っ向勝負した作品も好いのでは。首肯くださる皆様に,ぜひお試しいただきたいのが,この一枚。これず正攻法のエヴァンス派トリオです。リバーサイド時代のあの審美的な頽廃感´┐ら,ヴァーヴ時代の軽妙なモード奏法キまで。エヴァンス派という語の持つ本来的な意味をこれ以上ないほど再現前した秀作です。ピアノの調律がやや甘いようですが,気が散るほどのものではありません。い聾世錣困斑里譴織薀凜Д襪離團▲龍塀犬らの一曲。ダグ・ホール・トリオも演奏し ている捻りの利いたジャズメン好みの曲ですが,こちらは原曲のまま殆どデフォルメなし。見事にジャズになってしまい吃驚です。

★★★★3/4
Anders Aarum Trio "The Lucky Strike" (Hot Club Records : HCRCD 2009)
gutter ball strut thedust buster a spare waltz sylvester march second line turkey split decision gonna go bowlin' winter piece the lucky strike march (reprise)
Anders Aarum (p) Mats Eilertsen (b) Torstein Ellingsen (ds)
最近は北欧ものでも単なる叙情一辺倒ではなく,プラス・ワン的魅力を備えて本場アメリカに負けないくらいバラエティが豊かな演奏をする人が増えました。ノルウェイの新鋭アンデルス・アールムもそうした最近の北欧版全天候型を志向するピアノ弾き。クリスティアンサンド音楽院,シベリウス・アカデミーで学んだというだけに,基礎は充分に完成されております。基調はキース系で,エスビョルン・スヴェンソンやエイドリアン・フレイのように乾いた硬質なピアノを弾くプレイヤーの系譜にありますが,´Δ任魯船磧璽襯好肇麌やストライド奏法も見せるなど,手の内は多彩。欧州勢のご多分に漏れず,しっかりとした打鍵と運指技巧,瀟洒なハーモニック・センスはそのままに,クラシック・ジャズの薫りを巧みに取り込んで,温故知新的面白さを狙ったトリオと言えましょうか。余談乍『ラッキー・ストライク』といえば,ラッキー・トンプソンに同名のリーダー盤がありますが,あちらが煙草と芸名を引っ掛けたシャレであったのに対し,こちらはジャケットや曲目が示す通り,ボウリングをテーマにしたアルバムのようです。出来は秀抜。欧州ジャズ好きの方には安 心してお薦めです。

(2001 .10 .27 upload : 2002 1.7 Revised)