2000年代のジャズ vo. 5


★★★★★
Jan Lundgren Trio "For Listeners Only" (Sittel : SITCD 9271)
do it yourself the expatriate waltz for Phillip the time is now a touch of you waltz for Adlon Belgian blues time to leave again avenue de Wagram
Jan Lundgren (p) Mattias Svensson (b) Rasmus Lihlberg (ds)
極上名盤『スウェディッシュ・スタンダーズ』でお馴染み,ラングレン・トリオの新譜。彼はアメリカでも演奏活動をすることがあり,大物を迎えたリーダー盤が幾つもありますが,グループとしての一体感もアルバムの出来も,断然1995年に結成したこのスウェディッシュ・トリオが抜きんでています。今回のアルバムはタイトルからも伺えるとおり,全てメンバーのオリジナルで固めた自作自演集。シャッフル・リズムに乗り,ホレス・シルヴァー風のファンキーなフレーズがご機嫌に飛び出す冒頭の新曲なんか,半世紀前なら野暮ったくなるところですが,モードやエヴァンス派のイディオムを巧みにブレンドし,どこにも偏りすぎない(野暮ったくならない)極めて現代的なファンキー・ジャズを見事に体現していると思います。腰の据わったリズムと相変わらずの歌心,控えめなモーダル・アクセントが縦横無尽。予定調和的なこのレベルの高さはどうでしょう。ラングレン・ファンなら安心して買いです。原音にこだわった録音も秀逸。

★★★★1/4
Joe Locke "Beauty Burning" (Sirocco Jazz : SIL 1008)
Litha twilight pools of amber somewhere waiting quiet as it's kept where is love 1-95 rasputainian dance
Joe Locke (vib) Frank Kimbrough (p) Ray Drummond (b) Jeff Watts (ds) Paul Bollenback (g)
以前,デュオ盤をベタ誉めしてしまったフランク・キンブロウとのコラボレーションが冴える鉄琴の名手ジョー・ロックのリーダー作。のっけからチック・コリアの有名曲で始まる内容は果たしてモーダルな主流派ジャズです。この編成を見てすぐに思い出すのがボビー・ハッチャーソンとハービー・ハンコックのチームで制作された『ハプニングス』。この盤は彼ら新主流派世代の鉄琴/ピアノ・チームの代表作をかなり意識した作品と言えるのではないでしょうか。特にそれを如実に表しているのが,この盤のジェフ・ワッツ。冒頭,覆鼻ぬ世蕕にジョー・チェンバースを意識した叩き方をしていると思うのは小生だけでしょうか?1960年代へのオマージュとも言うべき本盤,全体に駄曲・駄演なく,安定感のある内容で,好いCDだと思います。

★★★★1/2
Sarah Jane Cion "Moon Song" (Naxos Jazz : 86054-2)
a pond beneath the moon last cha-cha in Longbeach moon song samba picara waltz for fall blues for Chick suncycle how long has this been going on solo piano medley : I'll keep loving you - ballad of the sad young men - what if
Sarah Jane Cion (p) Phil Palombi (b) Billy Hart (ds) Chris Potter (ts, ss)
以前ご紹介した美人女流ピアノ奏者,サラ・ジェーン・シオンのナクソス盤。ナクソスと言えばクラシックの世界では泣く子も黙る廉価盤最大手レーベルの一つ。1000円で正規盤そこのけのエヴァンス・ライクなピアノを存分に堪能できるというこの企画は素晴らしい。内容も好いの何の。はっきり言ってこれはお買い得です。パラリパラリと装飾音的な三連符を転がす奏法で,ジェフ・ガードナーばりのデリカシーを発揮するリーダーは,まだクラシック上がり臭さが抜けず,今後に課題を残してはいますが,演奏レベルは高いです。サックスのクリス・ポッターも触発されたかリック・マルギッツァも吃驚のエモーショナルなプレイでクールに燃える。楽曲は相変わらず甘いながら良く書けており,下手な正規盤より遙かに好いです。これからジャズ聴こうと思うんだけど,という方には,是非こういう盤を。小生的にはジョーヘン『リコーダ・ミー』を捻った解釈が光る┐肪λ后M消未覆らナクソスから彼女の新作が出ました。お好きな方,どうぞ。

★★★★1/4
George Robert "Inspiration" (TCB : 20852)
blues for C.T. mom's song Cannonization my man Kenny you don't know what love is crusin' Dexter east of the sun
George Robert (as) Kenny Barron (p) Rufus Reid (b) Kenny Washington (ds)
スイスのフィル・ウッズことジョルジュ・ロベールの新作。TCBから3枚ほどのリーダー盤を出し,いずれも脇にはダド・モロニを迎えた自己のカルテットによる録音でした。勿論モローニは充分好演を展開してはいましたが,ウッズ似のパワフルでファナティックなロバートに比べるといかにも弱い。その点,今回はアメリカ勢を迎えての録音で,期待も集まります。しかし結果は,『ヴォヤージュ』に比べると少し恰幅が増したというか,落ち着いてしまった。折角の豪華キャストでしたが,却ってその大御所然とした伴奏がややマイナスに働いてしまったという印象です。それを貫禄であると受け取った御仁は,この盤に対する評価も好意的になりましょうが,小生はこの御仁の破天荒な勢いと,それでいてきっちり完成されたアドリブに趣を感じておりましたので,ちょっとフツーになっちゃったなあ,との感は否めません。とまれこの面々なので,バップ・ファンでパーカー系統のアルトが好きな方なら,充分溜飲の下がるレベルの演奏には違いありません。

★★★★3/4
Paul Joseph Trio "Yes & No" (La Brava Music : LB0014)
I've got the world on a string Nica's dream a felicidade yes & no oh mistress Mine she's leaving home pent-up house polkadots & moonbeams I've didn't know what time it was Mal's groove he's a real gone guy
Paul Joseph (ds) Michael Bartolomei (p) Brendan Clarke (b)
オーストラリアはシドニーで活動中のドラマー,ポール・ジョセフのトリオ録音。ドラムがリーダーのトリオといえば,すぐに思い出すのはジェフ・ハミルトン一連のトリオ作。エヴァンス派やキース系百家争鳴の白人ピアノ界にあって,白人らしい抑制の利いた,しかしブルージーかつグルーヴィーなラリー・フラーのピアノはひときわ異彩を放っておりました。本トリオ盤を形容するなら,小型のジェフ・ハミルトン・トリオ。ピアノは二分の余裕を残したフラーに比べると少々小粒ではありますが,フラー同様白人らしい知的抑制の利いたグルーヴィなスタイル。ピム・ヤコブスやジョージ・シアリングなどがお好きな方は間違いなく快心の笑みを浮かべることになりましょう。分を弁えた慎みのあるプレイで,玄人受けのする燻し銀のピアノです。全編に渡り余計な力技に走ることなく外れのない快演の連続。小粋な作編曲で気持ちよく聴かせる巧さのトリオ。通好みの一枚として甲種推薦です。

★★★★1/4
Mark Turner "Dharma Days" (Warner Bros : 9 47998-2)
Iverson's odyssey deserted floor Myron's world we three Jacky's place casa oscura Zürich dharma days seven points
Mark Turner (ts) Kurt Rosenwinkel (g) Reid Anderson (b) Nasheet Waits (ds)
深い内省性を持つテナー奏者マーク・ターナーの新譜。ギターのローゼンウィンケルとは余程音楽的に相性がいいのでしょう。今回はピアノ抜きで全面参加。アンニュイで頽廃的なローゼンウィンケルの魅力が,ターナーの脇で特に良く映えるように思うのも気のせいじゃございますまい。編成からかいつにも増して抽象度の高いリフ・チューン中心。新時代のショーターとでも呼びたくなる呪術的なフィーリングが両者のタイマン対決によりいっそう純化された形で全面に出てきました。聴き手に媚びずばりばりスケール・アウトするテンションの高い演奏で些か聴き疲れしますので,好みは分かれそうですが(あっしもちょっと脱落気味・・),伴奏陣含め演奏自体はハイレベル。世紀末的な頽廃美が溢れます。個人的にはアンニュイな近未来的音空間のイお気に入り。

★★★★1/4
Christian Elsasser Trio "Future Days" (Organic Music : 9721)
pas(s)ing moments conclusions of a dream gossip song future days significant decisions afterthoughts of a bee sting something special the storyteller my foolish heart
Christian Elsasser (p) Sava Medan, Helmuth Schulz (b) Alex Sanguinetti (ds)
デンマーク出身。録音時僅かに17歳という初々しいデビュー作。しかし,先日国内盤も出たテイラー・アイグスティだって10代デビューで,あの秀作を録音したのですから,きょうび「まだまだ若いのぉ」は流行りますまい。この御仁も侮るなかれあのボビー・シューに自ら売り込んで見初められたくらいですから,既にレベルはかなり高い。17歳にはおよそ見えないジャケットのゴツイ面構えはどうでしょう。中ジャケットには,さらに不敵な面構えでにやつく自信満々の彼の姿が。この面構えがそのまま中身を語ります。スタイルは一聴,チック・コリアの影響がかなり強いのですが,エヴァンス派の流れの中でそれを咀嚼。なにぶんにも若いので,急速調の,覆姫藾佞涼次垢棒弔気滲む感は否めませんし,彼らしい毒気が出るのもこれからでしょうが,アドリブはなかなか高密度ですし,少々甘いながら曲も好く書けている。充分溜飲を下げて聴けました。今後の成長が楽しみでございます。既に国内でも認知されてしまったT.エイグスティやA.ファラオ,或いはB.トロティニョン以来の有望な新人と言って宜しいでしょう。こういう新人が次々出てくる欧州ジャズはますます面白いです。

★★★★
Rick Roe - Paul Keller "The Late Late Show" (Bopo/Unknown : 010)
someone's rocking my dreamboat the late late show five twenty two the princess and Darth blues visitation cloud nine dizzy atmosphere my old flame close to the equator song for Deborah
Rock Roe (p) Paul Keller (b) Gerard Cleaver (ds)
隠れB級名盤『ザ・チェンジオーヴァー』で知る人ぞ知る,デトロイトのモンク・コンペ準決勝進出者,リック・ロウの待望久しい新作です。今回はベーシストのポール・ケラーと双頭名義での録音。どこかで名前を聞いたことがあると思ったらこのベース弾き,ピート・シアーズの快演盤『ゾーズ・フー・チューズ・トゥ・スウィング』で脇を務めた人物。Bopoとの共同リリースなのはその辺りが理由でしょう。ロウといえば,ビル・チャーラップをもう少しモーダルにしたような,ひたすらに小気味好くスインギーな演奏が持ち味でそれは変わらず。脇役のためか,今回はオスカー・ピーターソン,レイ・ブライアント趣味も入ります。『チェンジオーヴァー』で脇を務めた名手ロドニー・ウィテカーの強靱なベースに比べると些か乗り切れない気もするのですが,その分好いのが作編曲。ラテンノリが多かった前作に比べ,メインストリームな本作は,よりオーソドックスに彼の才能を楽しめる作品といえるかも知れません。余談ながらい妊澄璽后Ε戞璽澄偲仂譟E吐半年のプロデューサーでも出てくるかと思いました。

★★★★1/2
Richard Raux "The Interval" (Elabeth : ELA 621033)
Bo blues train D.W. this nearly was mine little Sam's blues witchtiato* concept ville blues for Bags I cover the waterfront serail seriel the song is you
Richard Raux (sax, fl) Olivier Hutman (p) Wayne Dockery (b, vo*) Charles Bellonzi (ds)
クリスチャン・ヴァンデール率いる変態ロック・バンド『マグマ』への参加で,むしろロック方面で知名度がある,フランスの無名テナーマン制作の隠れた秀作発見。見てくれは風体のアヤシイくたびれた老人ですが,内容は景気の好い今風ハード・バップ直球勝負作。ルイジ・トルサルディ盤でも軽快なピアノを弾いていたオリヴィエ・ユトマン以下このメンバーなら宜なるかなというところでしょうか。リーダーは良く知りませんが,お顔から拝察するにかなりのご高齢。さすがに衰えは隠せず,ところどころ息が切れ,音も掠れてしまうものの,限られた体力と技術の選択肢から,良く熟れた感情表現を次々捻り出し巧いの一語。音が野太く,フルートでは声も入りジョージ・アダムスみたい。ひょっとして元前衛?サイドメン以下も控えめながら秀逸サポート。加えて素晴らしいのが楽曲。ハード・バップ基調ながら微かにモーダル・アレンジを加味し,巧みに今風の表現モードに乗せ換えている。単なる焼き直しではないのに,復古趣味の臭いプンプンで,ベテランらしく計算されており巧い。いい作品を作ろうという意欲は,技術を超えてこういう優れた作品に結びつくという,絵に描いたようなシナリオそのままの一枚。かっちょええッ !

★★★★
Anders Widmark "Carmen" (Polar : 159 753-2)
introduction song for a Toreador enter the drums piano interlude Manuelita's dream Carmen's choice away you'd come with me Habanera variations intermezzo seguidilla Gypsy dance Don José and Micaëla
Anders Widmark (p) Lars Danielsson (b, vc) Backa Hans Eriksson, Anders Jonsson (b) Lennart Gruvstedt (ds) Jörgen Stenberg (timpani, Winegrasses, conga)
フランス近代の作曲家ジョルジュ・ビゼーは,ほとんど『カルメン』1曲で知られているような人ですが,その『カルメン』を堂々とカヴァーしてジャズ化したこの作品。既存のジャズの範疇からまた一歩,面白い形で逸脱した好CDです。ただのカヴァーではなく,あくまで原曲の舞台の進行そのままに,見事にジャズ組曲化。木琴やワイングラスまで。必要な効果音は挿入しつつも,ジャズの持つ最小の美学はきっちり残した新しい感覚のフュージョン作品と申せましょう。クラシックとジャズの融合という試みは珍しくありませんが,どちらの場合も「どちらでもあろうとすることは,畢竟どちらですらもない」という永遠の命題の前に,敗北してしまったものが大半でした。そこへ行くと,この作品は,あくまでオーソドックスな北欧トリオとしても聴けるクオリティとアイデンティティを崩さずに,クラシックとの融合を図った点に,面白さがあると言えましょう。おまけに,崩し方は見事にクラシック基調。ニヤニヤさせられるばかりです。これを機に,クラシック・ファンにも是非ジャズを聴いてみていただきたい。お馴染みの旋律が沢山出てきますので,ビゼーを良く知らないと言うジャズ畑のフ ァンでも,ちょうど白人版ジョン・ルイスの乗りで,大いに興じ入っていただけること疑いなしです。少なくとも小生は,単にラヴェルを冒涜しているだけのジャック・ルーシェの近作などより余程面白く聴けました。

(2002. 3. 7)