2000年代のジャズ vo. 6


★★★★1/4
The Beets Brothers "In Concert" (RN-Discs : RN 025)
bass-ic instinct is it wrong to be right? the man I love I got rhythm it has happened soultrane blues for the date

Alexander Beets (ts) Peter Beets (p) Marius Beets (b) Joost van Schaik (ds)
その実クリス・クロスの本拠もあり,隠れたジャズ大国なのかも知れないオランダで活動中のジャズ三兄弟,ビーツ・ブラザーズが1997年に残したライヴ盤。グループ名の通り兄弟の3人は1960年代後半から1970年初頭生まれの若手ミュージシャン。オランダ東部グロエンロという田舎町の出だそうです。何でも母親が正規の教育を受けたクラシックのピアノ弾きだったそうで,音楽教育は母から受けたものの,バリバリのジャズ好きだった父親のせいで洗脳されてしまったそうな(笑)。内容は冒頭から胸のすく豪快なハード・バップ。テナーのアレクサンダー・ビーツはジョニー・グリフィン直系。肺活量不足なのかちょっとピッチが安定しませんがそこはご愛敬。ダート・トーンも織り交ぜ,熱に浮かされたようにバリバリ吹いてヒート・アップ。さらに上手いのが最近クリス・クロスからリーダー盤も出たピアノ。オスカー・ピーターソンを端正にしたような闊達なピアノで応酬。1950年代頃の熱いB級ハード・バップ作品に目がない方は間違いなく快哉を叫ぶことになるのではないでしょうか。

★★★★3/4
Joe Haider Trio "A Magyar / The Hungarian / Die Ungarische" (JHM : 3626)
a magyar/the Hungarian/die Ungarische a moment in Montreux tante Nelly bolero in D moving out friends someday my prince will come one for Trule
Joe Haider (p) Giorgos Antoniou (b) Daniel Aebi (ds)
JHMレーベルの社長にして専属ピアニスト,ジョー・ハイダーのJHMトリオ録音第2集。すでにかなりのご老境のはずですが,晩年のケニー・ドリューを彷彿とさせる朴訥で飾りのないピアニズムには一層磨きが掛かり,この新作も前作同様,しっかり作られた作品です。基本的なアプローチにはそれほど変化がないものの,前作よりはいくぶんハード・バップ色が増し,歌心を重視した外連味のない演奏に。ご高齢なせいもあって,トミフラまがいの粒立ちの良いタッチというわけにはいきませんので,タッチは少し粗め。とはいえ,良く練られた楽曲に乗せ,バピッシュな右手とモード色を絡めた左手で衒いなく歌う。ベテラン健在。前作に溜飲を下げた方はもちろん,幅広いピアノ・トリオ・ファンに安心してお薦めできる快演奏集になっているのではないでしょうか。

★★★★1/4
The Paris Jazz Quintet "The Paris Jazz Quintet" (TCB : 21112)
marineland heerestaat 44 more than a ballad brand new millenium waltz for Mel fiston passages secrets dark Wayne
Alex Tassel (tp, fgh) Guillaume Naturel (ts) Franck Avitabile (p) Gildas Scouarnec (b) Dédé Cecarelli (ds)
最近好い作品を次々に出し元気の良いスイスのレーベルTCBには,ご存じニューヨーク・ハードバップ・クインテット(NYHQ)というグループの連作があります。その向こうを張って登場したこちらはその名もパリ・ジャズ・クインテット。読んで字の如くフランス版NYHQです。無名揃いのメンバーに購買意欲低下中の皆さんには,ピアノに泣く子も黙るバカテク・ピアノ,フランク・アヴィタビレが加わっているのがミソと申し上げておきましょう。デビュー作でバド・パウエル集をやってバド(とルネ)にオマージュを捧げ,続く2作目ではエヴァンス派も射程に収めつつ,よりこなれたピアノも弾いた大器は,脇に回っても凄いんです状態。群を抜いてストロークが大きく,丸みがあり良く跳ねる綺麗なタッチで,余裕綽々フロントのケツを蹴り上げる手腕に脱帽必至。脇を固める太鼓とベースも意外に闊達な技量の名手で『ライト・タイム』と遜色ありません。フロントは若干弱いところもありますが,タッセルはジャック・シェルドン紛いの飄々ラッパで,ジョー・マグナレリ風のモーダルな歌い回しが心憎い。テナーはジョージ・コールマン好きらしいポスト・バップ・テナー。フロントの傾向まであのNYHQみたいです。

★★★★1/2
Mike Gorman Trio "The Maze" (33 Records : 33JAZZ 065)
love is a many splendid thing the maze quasimodo if I should lose you miles from home airegin rising Irma la Douce Mona Lisa
Mike Gorman (p) Jeremy Brown (b) Matt Skelton (ds)
これは良いです。リーダーは原発事故でちょっと有名な,英国シェフィールド出身の白人ピアニスト。モード色の強い和声感覚で,チックの影響下に白人らしいパラついた運指を駆使する,軽やかでアクのないピアニズムが持ち味です。この手のスタイルは,本人のテクニックの優劣もかなり目立ってしまいますが,彼は運指闊達でフレーズも良く歌い,既に技量はかなりのもの。イ妨加な作曲センスも好い。おそらくまだ芸歴が浅いのでしょう。欲を言えばアンディ・ラヴァーン風のこれ見よがしなアレンジに,まだ若干課題が残るような気がしますが,それは早晩プロとしての経験が増えるに従って解消されましょう。脇を支える仕事師マット・スケルトン。ここでも目立たぬ乍ら巧さを発揮。後期エヴァンスものがお好きな方,ラヴァーンはじめチャールズ・エレンツィヒ,デヴィッド・ゴードン,エルヴェ・セラン系の,乾燥肌白人ピアノ・トリオに目がない方は重宝することになるでしょう。今後の躍進に期待大。

★★★★1/4
Christian Spering "Christian Spering" (Amigo : AMCD888)
chorale kharábátí Juli limelight zone to the edge trekkspilleren trapp off course pied à terre tripp mol allena boto distance trull
Christian Spering (b) Joakim Milder (sax) Anders Persson (p) Steffan Svensson (tp) Magnus Gran (ds)

ピアノに名盤『アット・ラージ』のアンデシュ・ペーション,太鼓はオキ・ヨハンソン・トリオの名手マグナス・グランという強力メンバーで駄作はあるまいと大いに期待しつつ購入しましたが,果たせるかな,これは秀作です。ルースなリズムと無機的かつ即物的なリフで鞭を利かせておいて,そこに内省的なピアノが天恵の慈雨とばかりに飴を落とす音作りは,やや晦渋ですが如何にも今風の北欧ジャズで聴き応え満点。ジョン・テイラー絡みの思索的なフリー寄りの音作りがお好きな方なら,間違いなく溜飲が下がる仕上がりでしょう。加えて演奏が好い。フロントの2管は記憶が確かならスウェーデン放送局ビッグ・バンドの構成員で,ラーシュ・ヤンソン盤でもプレイしている手練れ。ラッパはトム・ハレル,ケニー・ホイーラー,ロン・マイルスを思わせる飄々としたプレイをしますが,高域も良く抜けており技量確か。テナーもクヌート・リースネスに近いベクトルの持ち主で渋いです。

★★★★★
Metta Quintet "Going to Meet the Man" (Koch Jazz : KOC-CD-51413)
previous condition question & the smile the outing Chico & Harriett Pt. 1-3 Sonny's blues going to meet the man out the wilderness the rockpile
Mark Turner (ts) Kurt Rosenwinkel (g) Mark Gross (as) George Colligan (p) Joshua Ginsburg (b) Benjamin Schuman (ds)
かつてロフト・ジャズはソーホーやグリニッジ・ヴィレッジを拠点に起こったジャズ・ムーブメントでした。で,新しい世紀に入った昨今,ジャズの最先端はブルックリンへ。このCDはまさに,今最も熱いブルックリンのジャズ・シーンを象徴する一枚。ドラムスのベンジャミン・シューマンなる人物が主宰を務める,ジャズの教育・演奏活動を目的にした非営利団体『JAZZREACH』の所属メンバーという繋がりで実現した企画のようです。脇を固めるコリガンのピアノはメルドー君ばりのハーモニック・センスで,より中庸な歌心を持ち,サイドメンとして重宝されるのも頷ける素晴らしいものですが,やはり出色はマーク・ターナーとローゼンウィンケル。ここでも群を抜く作編曲・即興センスを披露。孤高の内省世界の探求へとひた走る。間違いなく確信犯でしょうなあ。以前から,ジョシュアなんかより余程器がデカイと事ある毎に主張してきた小生としても,見込み通り孤高の世界を築き上げていく彼の姿は我が意を得たりで頼もしいやら嬉しいやら。こうなったら21世紀のショーターになるまで,2人仲良くとことん独自の語法を探求してくだされ。応援しています。

★★★★1/4
Lorenzo Tucci Quartet "Sweet Revelation" (Philology : W 195-2)
Adam's apple sweet revelation in the wee small hours of the morning Dede's mood fee-fi-fo-fum ghost Tita's song my heart belongs to daddy
Lorenzo Tucci (ds) Daniele Scannapieco (ts) Pietro Lussu (p) Dario Rosciglione (b)
ロレンツォ・トゥッチなんて知らないという方も,イタリア版フィル・ウッズ,豪腕ロザリオ・ジウリアーニの強力盤『ラゲッジ』で太鼓を叩いていた人というとお分かりになるでしょう。同盤でも白眉のバップ・チューン『ディア・トゥッチ』は,今にして思えば彼のことだったのですね。以前ご紹介したクレイグ・ウェッパーと似て,スインギーで円みのあるシンバル捌きが心地よい好ドラマーです。小生は『ラゲッジ』でもピアノを弾いていたカークランド〜バロン似のピエトロ・ルッス聴きたさに買いましたが,巧いですね〜この人は。まだ30才と若く,幾らでもリーダー盤を出してくれそう。今後彼のピアノは要チェックです。脇役いずれも手練れ。ベースはゴツゴツの強面で骨のある音を出しており,テナーも,少し大味で緩フンな気もしますが大きな破綻なく,イェスパー・ティロ似の武骨な即興で飽きさせません。そのためか全体に骨太な快演の連続。無名だからどうせ大したことないだろうと思っている方には間違いなく嬉しい誤算となります。ショーター曲を採りあげるだけにアレンジも良い。『アダムズ・アップル』は,原曲よりこっちのほうがトッポくてカッチョエエくらいです。隠れた掘り出しものとしてお薦め。

★★★★1/2
Erik Vermeulen Trio "Songs of Minutes" (Dewerf : W.E.R.F. 025)
evidence long time Monk's dream come rain or come shine three minutes and a half before silence silence misterioso the star crossed lovers Bemsha swing
Erik Vermeulen (p) Sal La Rocca (b) Jan de Haas (ds)
エリック・ヴェルミューレンはベルギーのピアニスト。アントワープ音楽院で教鞭を執る知性派でもあります。彼は1959年生まれで,活動歴も意外に長く,1980年にはヘイン・ヴァン・デ・ゲイン,ドレ・パルメルツと自己のトリオを結成して活動を開始。その後メンバーを替えながら,現在までトリオを率いて活動しています。ベルギーのジャズ・シーンは,欧州圏の中ではあまり注目されることもないようですが,その実,ミシェル・ハー,エリック・レニーニ,ナタリー・ローリエ,ディーデリク・ウィッセルズと,上手いピアノ弾きがゴロゴロ溢れた宝の山。そしてまた,ベルギーのピアノ弾きは皆,北欧の硬質なピアノを持ち味にしながらも,北欧ジャズとはひと味違う,豪胆で線の太いピアノが持ち味。このピアノ弾きもその典型を地でいく線の太い北欧ジャズ・ピアノ。分かりやすく言えば,些か甘さに流れるナタリー・ロリエから女性らしさを除き,さらにゴツゴツ武骨にしたようなピアノ。そんな男気溢れる彼のピアノにモンクの素材が映えること,映えること。オリジナルも良く書けており,久々にベルギーもので秀逸な作品を聴かせて貰いました。ドラムはやや小粒なようですが,ベースはナタリー盤他でも活躍するベルギーでもトップ・クラスの名手。シュアな伴奏です。

★★★★3/4
Jean-Michel Pilc Trio "Welcome Home" (Drayfus Jazz : FDM 36630-2)
so what I got it bad and that ain't good Stella by starlight autumn in Newfane colchiques dans les prés solitude cousin Mary giant steps tenderly welcome home serial mother blues scarborough fair rhythm-a-ning beginning
Jean-Michel Pilc (p) François Moutin (b) Ari Hoenig (ds)
フランスで活動中のピアノ弾き,ジャン=ミシェル・ピルクの第2作。既にフランス国内ではル・モンド,テレラマ,ディアパゾンの3大誌でいずれも最高賞を獲り,評価は定着したようです。次は日本でも流行っていただきましょうと言うことでご紹介。このトリオはとにかく,テクニックが素晴らしい。仏人らしく恐ろしく饒舌かつ毒のあるトリオで,バップ・イディオムとポリ・モード手法を駆使して大胆に主題をコラージュしてゆき,調性を逸脱した奔放な感情表現を展開する,先鋭的な演奏が持ち味です。一言で形容するなら『ピカソ風のジャズ』でしょうか。しかし,ピカソの絵が,偶然性のうえに立脚したいわゆる抽象絵画と明確な一線を画していたように,このトリオの演奏は,感情に飲まれて音楽を放棄しない。一歩間違うといわゆる前衛ものに陥りかねないほどハードで鋭角的でありながら,ソロは理知的に展開され,極めて緊密にまとめ上げられている。オドロオドロシイ,デタラメな前衛ピアノとは明らかに違う,計算されたシュールレアリズムです。最近久しく耳にすることのなかった冒険的な野心作で,大いに興奮させられました。このように意志が正確にピアノへ乗り移った,誤魔化しのない前衛ピアノなら大歓迎。ひと味違う硬派なトリオ盤をお探しの方に。

★★★★3/4
Joe LoCascio Trio "Close to So Far" (Heart : 00262)
turnabout in the quiet of autumn close to so far for you and her look touching the air edland purgatory, TX idiot's delight a goodbye moment big motel Catherine
Joe LoCascio (p) John Adams (b) Tim Solook (ds)
ニューヨーク出身のロカッシオは,コネチカット州のブリッジポート大学を出てプロ入り。チェット・ベイカーやジョージ・コールマン,フレディ・ハバード,ジョージ・ムラーツら大物の脇を固めて実績を作りました。1977年以降はテキサスへ引っ込んで,ヒューストン・コミュニティ・カレッジの教員となり,のちジャズ研究科の副学科長となって,ピアノ,ジャズ史,即興演奏などを教えているようです。これまでにリーダー盤は8枚あり,本盤は2002年に出たレギュラー・トリオ作。90以上の地方放送局が作るリクエスト・チャート【ジャズウィーク】で,最高位14位を記録しました。現在でこそ地方に引っ込んだものの,中央で華やかな共演歴を作ってきたことが伺えるその演奏技量は達者。心地よく耳を裏切るモーダルなハーモニック・センスで,ゴツゴツとした強面なピアノを弾く。エヴァンス派の美点である丸くクラシカルなタッチや抑制の利いた叙情は残しつつ,モンクやキースのピアニズムへも巧みに目配りして甘さに流れない。よりモーダルながらティム・リッドンやバート・シーガーと同じベクトル上に位置する新時代の知性派トリオといえましょう。小生的にはシンプルなモード・チューンで真っ向勝負,聴き手の溜飲を下げてみせるの出来映えに,この人の群を抜くセンスを見ました。小粒ですが,トリオの連携も良い。秀逸作。

(2002. 5. 30)