2000年代のジャズ vo. 7


★★★★1/2
Jeremy Pelt "Profile" (Fresh Sound : FSNT 127CD)
Aesop's fables the trivium mystique pieces of a dream a song for you jigsaw we share a moon you won't forget me
Jeremy Pelt (tp) Jimmy Greene (ts) Jaleel Shaw (as) Mike Moreno (g) Robert Glasper (p) Gerald Cannon (b) Ralph Peterson (ds)
このジャケットを見てフレディ・ハバードのインパルス盤『ボディ・アンド・ソウル』に似てるという貴方はきっとノストラダムスに違いありません。ハバードに被れた新進ラッパ奏者,ジェレミー・ペルトのデビュー作です。とはいえ既に彼は既にクラス・オブ2001名義のシャープ・ナイン吹き込み(下記参照)で既に印象に残るプレイを残しており,同盤をお聴きになった方はご記憶がおありでしょう。彼はマンハッタン進出後ラルフ・ピーターソンのグループでサイドメンとして活躍しているらしく,世代的にやや場違いなラルフ・ピーターソンの参加はそうした事情によるのでしょう。冒頭からハバード〜ジョーヘン路線の新主流派を思わせるモーダルなジャズを全面展開。作編曲の才は非常に豊かで,アルバムとしての仕上がりはかなり丁寧に出来たものと思います。苦言を呈すとすれば,まだまだ気負いばかりが先に立つ彼のラッパはいかにも若い。冒頭,妊魯ぁΕ函璽鵑帽瓦詬召螢侫譟璽献鵐阿ややお留守になっているあたりはその好例です。とまれ器は好いものを持っているので,これから時間を掛けて好いラッパ吹きに成長してくれるでしょう。

★★★★★
Terje Gewelt "Duality" (Resonant Music : RM 10-2)
the water is wide lonely woman slow dance central park west the gentleman hope wilder Muddy blues touch her soft lips and part westwood
Terje Gewelt (bass, fender jazz bass) Christian Jacob (piano)
ダグ・アルネセン・トリオのベース弾き,テリエ・ゲウェルトは,自身もサイドメンとして他流試合をこなし,既にリーダー作も出している実力者。本盤は彼のリーダー作です。しかし,この盤の注目は何と言っても共演にクリスチャン・ジェイコブが選ばれたことに尽きますでしょう。ジェイコブはメイナード・ファーガソンの秘蔵っ子。既にコンコードから2枚のリーダー作を出し,一部玄人筋のピアノ・ファンには二作目『タイム・ライン』の素晴らしさで名前を知られた人物です。リーダーの持つ北欧ジャズらしい慎み深さと気品は,勿論この作品の基調に流れるものですが,この盤を数多い北欧ジャズ・デュオ盤の中でひときわ光らせているのは,紛れもなくアメリカのピアノ弾きらしいカラッとしたリリシズムを持つジェイコブのピアノ。ともすれば過度に耽美なものとなりがちなデュオ・フォーマットにその明朗さが絶妙なアクセントを供し,近年稀に見る充実した二重奏盤へと昇華させている。これぞ紛れもなく出自の違う両者によって生み出された美意識の相乗(duality)効果そのものでしょう。

★★★★3/4
Walt Weiskopf "Man of Many Colors" (Criss Cross : CRISS 1219 CD)
triangle dance haunted heart together man of many colors people NYC petal when your lips meet mine

Walt Weiskopf (ts) Brad Mehldau (p) John Patitucci (b) Clarence Penn (ds)
クリス・クロスのトレーン好きテナーマン,ウォルト・ワイスコフの新譜が出ました。最近の彼は,ダブル・タイムからワン・ホーン・カルテットによる録音を出していましたし,そろそろこのあたりでプレイヤーとして勝負を掛けようと思っているのではないかという気がしています。その辺りの色気は,やたらにワン・ホーン・カルテットづいている昨今のドン・ブレイデンにも感じるところ。ダブル・タイムのカルテットは兄弟船ジョエル・ワイスコフを従えていましたが,今回はゴージャス。トリッキーな才気に勝ちすぎていたヴァンガード・ライヴが作を重ねるごとに深化しつつあるメルドー君に,チック・コリアの元懐刀パティトゥッチの剛腕ベース,そしてデリカシー溢れるスイング感でムード・メーカーとして抜群の巧さを誇るクラレンス・ペンを従えた超豪華カルテット。有名どころを迎えて手堅い作りのアルバムかと大した期待もせずに聴き進みましたが,聴いて吃驚「なんじゃこりゃあ!」。メルドー君はジョーイ・カルデラッツォを思わせる骨太のモード・ピアノ。パティテゥッチはびんびんハネまくっていますし,クラレンス・ペンまでジェフ・ワッツかと錯覚するほどかんどかん叩きまくり。荒削りにすら聞こえるほど羽目が外れてます。ワイスコフも熱気に当てられたかこれまでになくファナティックかつ豪放に吹き倒しており,異様な盛り上がりのブローイング・セッションとなっていて,快哉を叫びました。体力派モード・ジャズ好きの方に。甲種お薦めです。

★★★★1/4
Charles Lloyd "Hyperion with Higgins" (ECM : 1784)
dancing waters, big sur to bahia bharati secret life of the forbidden city Miss Jessye hyperion with Higgins darkness on the delta suite Dervish on the glory B the caravan moves on
Charles Lloyd (ts, taragato) John Abercrombie (g) Brad Mehldau (p) Larry Grenadier (b) Billy Higgins (ds)
皆さんはタモリというタレント,どう思います?『笑っていいとも』でサム〜イ駄洒落を連発する彼に,誰がバラエティの才能を見いだせるでしょうか。常に場の空気を支配し,どんな突っ込みやボケも完璧にこなして天賦の才覚を見せつける明石家さんまとは,まさしく正反対です。しかしそんなタモリが,十年も二十年も,真っ昼間に居座り続けている。一体どうしてなんでしょう。そう思って観察するとき,我々はあの番組に潜む巧妙な仕掛けに気づかされるのです。消費され,クール毎に少しずつ入れ替わっていく周囲のタレントたち。しかし注意してみると,実際に番組を進行しているのが彼らであることに気がつきます。そう,あの番組でタモリは,自分ではなく周囲にエネルギーを放出させ,それを自分の肥やしにしている。彼の才能とは,自分で光を放つ「恒星」としてのそれではなく,「惑星」のそれなのです。ロイドの凄さというのは,まさに彼がジャズ界におけるタモリであるということに尽きましょう。キースに始まってペトルチアーニ,ステンソンと来て,今度はメルドー。旬のピアニストを見抜く彼の,恐ろしく冷徹な審美眼に改めて気付かずにはおれません。この盤を名作にしたのは,間違いなくメルドーの神懸かり的なサポートです。『エレゲイア・サイクル』,『プレイセズ』で培ったニヒルでリリカルなコード・ワークが,幻想的な和声の葛折りを提供するこの作品,間違いなく復帰後のロイドをタモリにし,ゴールデン・タイムに名を残すものでしょう。この新作は,若き俊才メルドーの巨大な才能を明らかにすると同時に,ロイドのなみなみならぬしたたかさをも見せつけるのでした。余談ながら本盤はビリー・ヒギンズの遺作だそうです。合掌。

★★★★1/2
Eric Reed "From my Heart" (Savant : SCD 2042)
yesterday goodbye I should care prelude in E minor I got it bad how deep is the ocean I'll never stop loving you flamenco sketches 'round midnight I fall in love too easily
Eric Reed (p) Dwayne Burno (b) Cecil Brooks III (ds)
ご存じウィントン一派のピアノ弾き,エリック・リードのトリオ作。この人のリーダー作は随分以前に『イッツ・オールライト・トゥ・スウィング』(1992年)を聴きましたが,その時は,ただスインギーな指が無駄に転がっているだけの,どうってことない器用貧乏なピアノ程度の印象しかなく,小生それっきり彼を無視しておりました。今にして思えば,まだまだピアニストとして個性を発揮する前の段階で,単に伝承派のイディオムを習った通りに弾いていたのでしょう。そのころから,あまり奇を衒うところのないオーソドックスなピアノ弾きでしたが,いつの間にかエレガントでメロディック,上品な玄人好みのピアニストに変貌していました。自分の身の丈をよく弁えたいい年齢の重ね方をしていて,正直,こんな好いピアノ弾きだったっけ?という感じです。トミー・フラナガンやハンク・ジョーンズなどを,もう少しモーダルにしたようなスタイル。やや甘美にすぎるきらいもあるものの,黒人でありながら気品溢れるピアノを弾く御仁がお好きな方なら間違いなく溜飲が下がるものと思います。バラード中心の選曲も,彼の良い面を増幅しており好感度大。

★★★★1/2
Mike Wofford "Time Cafe" (Azica : AJD-72218)
my heart stood still a little 3/4 just one of those things you go to my head precious moments take the Coltrane time on my hands time cafe the cost of living H2 cyprus you and the night and the music
Mike Wofford (p) Darek Oleszkiewicz (b) Duncan Moore (ds)
かつては殆どリーダー作もなく,その数少ないリーダー作がマニア垂涎の品となっていた彼も,最近は専らリーダーでの活動をメインに据えてくれたようです。ヘヴィーウッドから出た前作『シナジー』がオリジナル主体でかなり硬派なテンション・ジャズだったのに対し,この新作では一転。スタンダード中心でメロディックかつ親しみやすい演奏に。カール・パーキンスやレイ・ブライアントの白人版を思わせる軽やかなスイング感が横溢し,この人が元々は西海岸ジャズ出身だったことを思い出させてくれました。とはいえ,軽やかな右手の後ろで緊張感を持続している,機能和声を心地よくも大胆に逸脱したリハモ感覚は,紛れもなく強面な彼のもの。ともすれば相反するこの2つのイディオムを,こうも無理なく自分のスタイルに昇華して見せる手腕は,ただただ年の功と感心するばかりです。彼といいウォルター・ノリスといい,最近ベテラン陣が元気で,若僧そこのけの見事なピアノを弾いているのは頼もしい限り。甲種お薦め盤。

★★★★3/4
Xavier Davis Trio "Innocence of Youth" (Freshsound : FSNT 128)
the message -intro the message milk with a Koolaid Chaser bell untamed land tall struttin' milestones Amy's presence the day will come innnocence of youth

Xavier Davis (p) Brandon Owens (b) E.J. Strickland (ds)
ドン・ブレイデン・カルテットのメンバーとしてもお馴染みのピアノ弾き,ザビアー・デイヴィスのリーダー作。彼は中西部の隠れたジャズ・メッカであるミシガン州出身。西ミシガン大学在学中からカール・アレンに見いだされ,1990年代半ばにはニューヨークへ出てプロ活動を開始。トム・ハレルのサイドメンとして名を挙げた人物です。アイドルにしているのは,最初に彼を見いだした人物の一人でもあるマルグリュー・ミラーなのだそうで,実際彼のピアノは,弟分と呼んでも良いくらいここ最近のマルグリュー・ミラーに良く似ている。モード基調ながらあかならさまなところはなく,豊かな歌心と適度な円みがあり,若さに似合わぬ手の内の多いピアニズムは,サイドメンとして重宝されるのも頷けるヴァーサイタルさを備えたものです。加えてこの人は作編曲もかなり良質なセンスの持ち主。一見派手なところはないものの,聴くにつれその深い懐に包まれてしまうタイプのピアニストと思います。サイラス・チェスナット以降,こういうタイプのピアニストが減ってきている中,その存在は心強い限り。ドラムスは以前『クラス・オブ2001』名義の吹き込みにも加わっていた人。ディジョネットを思わせる重いシンバル及びバスドラ捌きと,タイトで乾いた軽めのスネアとタムのコントラストが心地よい好ドラマーです。甲種お薦め。

★★★★
Class of 2001 "On the Loose" (Sharp Nine : CD 1021-2)
I want more dedicated to dad Billy for fewer words reassurance the quota all is not lost Bird lives
Jeremy Pelt (tp) Marcus Strickland (ts) Julius Tolentino (as) Jeb Patton (p) Brandon Owens (b) E.J. Strickland (ds)
シャープ・ナインはハード・バップ再興を志す新興レーベルで,既にエリック・アレキサンダーら豪華メンバーを迎えた『ワン・フォー・オール』の連作で知名度を上げました。ワン・フォー・オールに続いてシャープ・ナインが送るこのグループは一転,現在進行形の若手無名プレーヤー応援企画で,ワン・フォー・オールと同様,3管編成によるハード・バップ録音。既にある程度キャリアも確立していたワン・フォー・オールに比べると,こちらは荒削りな点も多いですが,ようやく掴んだグループ・デビューのチャンスを目一杯楽しんでいる感じが溌剌とした演奏から伝わってきて,ほのぼのした気分になります。楽曲も丁寧に推敲されており,アルバムとしての出来もなかなか好いのではないでしょうか。メンバーは1970年代前半生まれの若手が中心で,ここ2,3年マンハッタンに進出。ロニー・プラキシコやジミー・ヒース,ラルフ・ピーターソンら大物の脇でそれぞれにキャリア・アップを目指している若手の演奏家仲間,ということのようです。個人的には,まだ少々コントロールが不安定ながら,二分の余裕を残してブライトに鳴るラッパが抜きんでて上手いと聴きました。今後に期待。ま た,バタついてはいるものの,ディジョネット好きらしいチキチキしたシンバルの太鼓も,結構好きです。ハードバップお薦め作。

★★★★1/4
Knut Riisnæs "Touching" (Resonant Music : RM 8-2)
touching you know I care angel eyes love No.1 all the things you are mountain rag suite part 3 the search very early autumn with a song in my heart
Knut Riisnæs (ts) Dag Arnesen (p) Terje Gewelt (b) Frank Jakobsen (ds)
ノルウェイ出身の名手イヴァー・アントンセンがジェミニに残した名盤『ダブル・サークル』で印象深いサックスを披露していたクヌート・リースネスの新作。一言で形容するなら,彼はいわばトレーン〜ガルバレク路線に位置する脱力系テナーマン。切々とうらぶれた音色と,良く力の抜けたトーン・コントロールが持ち味です。この盤は,そんなリーダーの持ち味を充分に理解した上で考えられたであろう理に適った人選の時点で,既に勝負ありでしょう。目の覚めるような名演奏こそないものの,どこを切っても安定した好演の連続。ピアノのダグ・アルネセンとベースのテリエ・ゲウェルトはご存じアルネセン・トリオのメンバー。デリカシーに溢れ,叙情的かつ内省性の高い演奏のできる彼らが,主役の控えめな感情表現を壊すことなく,和声のヴェールを穏やかに敷き詰めていく。まさに理想の助演です。これでアルバムの品位は大きく上がりました。目下,旬の時期にある方々だけに,ある程度予測できる結果ではありますが,見事なコラボレーションです。技巧的には小粒ながら,好いピアニストになりましたなあ。

★★★★1/4
Antonio Farao "Next Stories" (Enja : ENJ-9430 2)
I'm waiting theme for Bond Creole sweet 2 next stories I could have done what is this thing caled love few days Sabrina and Joseph

Antonio Farao (p) Ed Howard (b) Gene Jackson (ds) Pibo Marquez (perc)
目つきの悪いケニー・カークランド風ピアノ,アントニオ・ファラオの新作。コンガが加わり,(売れてきたからか)録音環境が格段に良くなった他に大きな変化はなし。相変わらずアタックが強く,毒気たっぷりの異様に上手いピアノです。ただ,裕福になってガツガツする必要がなくなったからか,ちょっと丸くなったというか,ハングリーで野趣に溢れていた以前のピアノからすると,落ち着いてしまったような気がするのですがいかがでしょう。そのため,どこか仏作って魂入れずな感は否めない。それは,全体にバラードやミディアム・スローの曲が増えたことからも明白。デビュー当時のアグレッシブなピアノが堪能できるテンポの入った曲は´Л┐裡涯覆らいでは。もちろん,イタリア・ロマン派ピアノを思わせるイ鯢限蠅砲靴燭海箸らも,この路線変更は半ば意図的なものでしょう。デビュー作しか聴いていなかったファンは,「ちょっとフツーになっちゃったなあ」と思われるでしょうが,彼だってコアなままではいたくないはず。最初に彼を見いだしてくれたファンに殉じてドサ周りを続けるより,人気が出たらテレビで主役を張りたいのは自然な感情ですし,それを咎めだてする権利は誰にもありません。その分,間口は格段に広くなりましたし,問題演奏・楽曲とも高水準ではありますので,モーダルなピアノをお好みの方には推薦致します。

(2002. 10. 9)