2000年代のジャズ vo. 8


★★★★3/4
Kenny Barron Trio "Live at Bradley's" (Verve : UCCV-1009)
everybody loves my baby, but my baby don't love nobody but me solar blue moon alter ego Canadian sunset

Kenny Barron (p) Ray Drummond (b) Ben Riley (ds)
本盤録音時(1996年)の彼は,ロン・カーターとルイス・ナッシュのトリオにいたくご執心で,ラッセル・マローンの『スウィート・ジョージア・ピーチ』には同トリオで加わっていましたし,イリジウムにもこのトリオで良く出ていました。しかし,同時期に『スフェア』を聴いてしまった小生は,彼の思惑と裏腹に,このトライアングルのバランスの悪さがどうにも気になりまして。ちょうど本盤が録音された頃アメリカにおり,バロン氏に会う機会を得た小生。止せば良いのに下手な英語で思わず「なんでナッシュと演るの?」と聞いてしまい,彼を不機嫌にした苦い記憶が・・(苦笑)。しかし,いつになく気色ばんだ彼にはきっと思い当たるところがあったんじゃないか・・そんな気がしてなりません。彼がナッシュの才能に惚れ込んでいたのは良く分かる。上手い太鼓ですから。実際,かつての重戦車のようなバロンなら,きっとナッシュとも相性抜群だったでしょう。しかし,今の彼は燻し銀の枯れたタッチが持ち味。カミソリのようなナッシュの太鼓では,恋慕の情とは裏腹に,バロンの衰えばかりが目立ってしまう。マローン盤をお持ちの方は聴き比べて見ることを薦めます。どちらのほうが自由に,のびのびと現在あるがままの自分を呼吸し得ているか・・。この盤の美点,それは目立たぬながら今のバロンを最も良く引き立たせるベン・ライリーの太鼓。円やかなライリーの好サポートが,バロンからどこまでも飄々と丸く無理のない感情表現を引き出す。ここに至って初めて,バロンは技術を超えたところで,老境の「今を生きる」ことに成功している。やはり音楽はバランスと調和であり,今の自分がやりたいことと,やれることとに等しく目配りのできた演奏こそ,プロの演奏なのだ。つくづくそれを痛感させてくれる一枚です。甲種推薦。

★★★★
Ron Miles Trio "Ron Miles Trio" (Capri : 74049-2)
alarm bookworm darken my door wildwood flower lullaby will you marry me

Ron Miles (tp) Eric Gunnison (p) Kent McLagan (b)
フレッド・ヘスやミリアム・アルターの脇で渋いラッパを吹いていたミンガス・ビッグ・バンドのラッパ吹き,ロン・マイルスは1963年インディアナポリス出身。同じマイルスでも全くといって好いほど知名度がない彼のラッパは,中低域を良く使った,ハスキーで飄々とした鳴りが特徴です。コントロールの良さはジョー・ワイルダー,音色はジャック・シェルドンなんかに似ているでしょうか。前衛的な演奏もちらつかせる割に派手なところはまるでありませんけれど,折に触れては聴きたくなる,玄人芸の妙味に溢れたものといえましょう。この作品はリーダー作としては2枚目にあたり,最近では滅多にお見かけしないドラムレス・トリオによる録音。ドラム抜きにも拘わらずイン・テンポに頓着しない,やや自由度の高い演奏ですので,少し取りとめなく聞こえる人もいるかも知れませんが,彼自身のペンになるリリカルな佳曲がリラックスした空気の中で演奏されていていい感じです。脇で使えばかなり叙述的な効果を期待できる,今どき珍しく味わい深いラッパ吹きだと思うがなあ。やっぱりいつの世もハイノートでバリバリ吹く人しか浮かばれないって事なんでしょうか。ライナーに使用機材を列挙するほど原音に拘った録音も好印象。

★★★★★
Giovanni Mirabassi Trio "Dal Vivo!" (Sketch - Atelier Sawano : SKE 333021)
Jean-Paul chez les anges place de la mairie 28, Rue Manin des jours meilleurs requiem memento mores café Français el pueblo unido jamas sera vencido

Giovanni Mirabassi (p) Daniele Mencarelli (b) Louis Moutin (ds)
デビュー作『アーキテクチャーズ』で,エンリコ・ピエラヌンツィ彷彿のピアニズムを披露し伊ジャズ好きを喜ばせたバカテク・ロマンティスト,ジョヴァンニ・ミラバッシが,いよいよ待望久しい新作トリオ盤を発表しました(この間ソロで一枚アルバムを出しましたが,同盤は即興というよりは,革命歌や労働歌などを集めたトーン・ポエム集的意味合いの強い作品でした)。ライヴ録音なためでしょうか,前トリオ盤では派手にミストーンを連発し,チームの足並みを乱れさせていた感のあるベースのメンカレリも好くリラックスし,グループとしてのまとまりは格段に好くなっているようです。アルバムはバラッド中心で甘美になり,路線としては『アーキテクチャーズ』よりも『アヴァンテ!』のほうに近い。エンリコ被れのリーダーが繰り出す運指のアクロバティックなタイム感に惚れたピアノ・ファンには幾分物足りなく聞こえるかも知れませんが,そのぶん間口は広くなっていると思います。もちろん,内容はお墨付きです。

★★★★1/4
Sylvain Beuf Quintet "Soul Notes" (Naive : Y226 139 AD098)
sans escale soul notes celeste solo eternite ravacan besame mucho Raphael song esperance airegin

Sylvain Beuf (sax) Manuel Rocheman (p, synth) Christophe Wallemme (b) Laurent Robin (ds) Francois Verly (perc)
のっけからで恐縮ながらこれは良いです。フランスのサックス吹きシルヴェン・ブフのリーダー作・・・と紹介されて「そんなヤツ聞いたことねぇよ」という方は,まず脇役から。バカテクモード弾きマニュエル・ロシュマンにプリズムのクリストフ・ワーレムと,脇役には何気にフランスの剛腕勢揃い。仏ジャズの動向にお詳しい方なら,これで半分はもう音が聞こえているのでは?果たして内容は腰の据わったモーダル・ハード・バップ作です。同じフランスから少し前に出たピエリック・ペドロン盤の音作りに惚れた方ならこれは買い。一部シンセやパーカッションも使い,ビートも多彩なので,ラーシュ・メラーあたりの今風な音作りがお好きな方も溜飲が下がるでしょう。リーダーは以前ベースとドラムのムータン兄弟が出した『ムータン・リユニオン』でサックスを吹いていた人。編曲のセンスは少しパッとしませんし,スタンダードのなど,若気の至りかいじりすぎるところもありますが,演奏でカバー。実力確かで特にソプラノは出色。ややリップ・コントロール不安定で脇に食われ気味だったピエリック・ペドロンより遙かに上手い。なかなか力の入った作品で満腹しました。お薦め。

★★★★★
Christoph Erbstösser Trio "Vive les Etrangers" (Dewarf : W.E.R.F. 027)
wonderland bye ya wonder why a flower is a lovesome thing African blues for D.E. vive les étrangers I'm old fashioned tambour Kate's song you and the night and the music see you tomorrow

Christoph Erbstösser (p) Jos Machtel (b) Dré Pallemaerts (ds)
屈託なく一心に手を振るアフリカの子供達のジャケットが印象的なこの一枚。妙なジャケット・デザインの所以は,リーダーが1986年に出掛けたアフリカ・ツアーの際,ニジェールの土着音楽に触れ,トレーン経由でジャズの土着音楽的な側面に開眼したのが理由とか。そんなエピソードから余程濃いマッコイ風の体力派モード・ジャズが展開されるのかと思いましたら,結果はジャケットの印象とは全く異なる,品性良く淡泊な欧州ピアノでした。リーダーは独コローニュ出身。しかし,活動拠点はベルギーに構えているようです。最近流行のポーランドやベルギーのピアノ・トリオに似て,いわゆる北欧ものより旋律線を大事にした演奏。音数を程良く抑えた端正で知的なリーダーのピアノ以下,一見すると地味ながら潔癖にまとまっており,聴くほどにじわじわ心を奪われる。涙腺に来るГ脇蔚覆砲ける近年屈指の名演。レベルは相当に高いトリオだと思います。欧州ジャズのお好きな方ではれば,広く愛聴していただけるのでは。

★★★★1/4
Dan Cray "Who Cares" (Dan Cray)
segment it could happen to you patiently waiting Elsa old devil moon I've grown accustomed to her face who cares? I cover the waterfront

Dan Cray (p) Clark Sommers (b) Greg Wyser-Pratte (ds)
ダン・クレイはシカゴを拠点に活動しているピアノ弾き。ノースウェスタン大学で1999年に学位を取得したばかりの若手です。マックス・ローチやジョン・アバークロンビーとも共演しているようですが,大きな実績は殆どないんじゃないでしょうか。そんな人でも,こうして自主制作でCDを出せ,こうして遠く離れた日本でも気軽に聴けるというのは,やはり素敵なことだと思います。リーダーは単音主体の綺麗なタッチで,小気味好く歌うピアノが持ち味。これ見よがしなモード色はほとんどなく,ただただ軽妙小粋にスイングする,いかにも白人らしいトリオといえましょう。それが些か地味に聞こえる面があるのも確かですが,ビル・チャーラップや少し前に出たペーター・ノルダールのトリオ盤あたりお好きな方は,間違いなく琴線に触れるものと思います。余談ながらローカルなピアノ盤は脇役が足を引っ張ることが多いもの。しかしこの盤の脇はどちらも良好。主役を邪魔しない控えめな助演で作品の品位を上げています。

★★★★1/2
Alexi Tuomarila Quartet "Voices of Pohjola" (Sowarex-Igloo : IGL 158)
I've seen her in stones changes two elephants are always right piano intro voices of pohjola part 1 voices of pohjola part 2 alchemist bass intro back on track man in the moon.. ..is watching you I've seen her in stones

Alexi Tuomarila (p) Nicolas Kummert (ts) Christophe Devisscher (b) Teun Verbruggen (ds)
これは拾いものでした。リーダーは1974年生まれのフィンランド人(残る3人はベルギー人です)。ヘルシンキで音楽を学んだ後ベルギーに渡り,1999年からプロ活動をしている模様です。何とはなしに手に取りましたが,意外なほど良くできたワン・ホーン・カルテット。リーダーのピアノはかなり硬質の北欧系で,和声感覚はリッチー・バイラークの影響が濃いでしょうか。ということはナタリー・ロリエやディーデリック・ウィッセルズにも近いわけだ・・と思っていましたらそれも道理。1994年からブリュッセル音楽院で両者に師事していました。当然グループ全体の音も,最近のベルギウム・ジャズの傾向を端的に反映した,タイトで芯の太い北欧コンテンポラリー・ジャズ。各楽器奏者のために敢えて細かいことを申し上げれば,ガルバレクの影響下にあるいかにも欧州勢らしい脱力テナーは,鈍い光沢を放つ好演を披露するものの若干リップ・コントロールに不安があり,太鼓も細部の叩き分けがちょっとガサツで少々小粒な感が見受けられますが,これを補ってあまりあるリーダーの作編曲センスが秀抜。その煌めくピアニズムも終始グループを牽引している。この手の北欧サウンドに目がない方はほぼ予定調和的にお楽しみ頂けるでしょう。お薦めです。

★★★★1/4
Jimmy Greene "Brand New World" (BMG : 09026-63564-2)
humpty dumpty brand new world arise! Renee Mr.McLean never let me go godsend dream, little boy, dream darn that dream

Jimmy Greene (ts, ss, fl) Darren Barrett (tp, flh) Steve Davis (tb) Aaron Goldberg (p, rhodes) Dwayne Burno (b, eb) Eric McPherson (ds) Khalil Bell (perc)
クリス・クロス絡みのハード・バップ作に次々参加して頭角を現してきた若手サックス奏者ジミー・グリーンのリーダー作。クリス・クロスに録音したデビュー盤はハード・バップ色の強い内容だったようです。一方レーベルも違うからかこちらは目立たぬまま。しかし,ドナルド・バードの秘蔵っ子バレット,ワン・フォー・オールのデイヴィス,ジョシュア・レッドマン・グループのゴールドバーグ,骨太ベースのバーノと実力者揃いで出てくる音は腰座りまくりです。ピアノはエレピ弾き分け。パーカッションも入る重い3管編成と聞いて1970年代ベトナム世代のモーダル・ハード・バップを連想した貴方は勘が鋭い。果たしてストラタ・イーストの諸作品や,ジョーヘンの『イン・パースート・オブ・ブラックネス』を思わせる漆黒のモーダル・ラテン・ジャズ。1970年代初頭の混沌とした世相を捉えた,ただならぬ公民権ジャズの音作りを,当世風に再現前。凝ったリフで緻密に組み上げられた都会的なサウンドは,3管の分厚いハーモニーの相乗効果で徹頭徹尾格好エエです。テナーはまだ荒削りですが,なかなか巧い。かつてルパン三世のBGMにそこはかとないジャズへの憧憬を抱いた記憶をお持ちのファンには快哉を叫ぶ一枚となりましょう。お薦め作。

★★★★1/4
Joona Toivanen Trio "Numurkah" (Atelier Sawano : AS 022)
pale morning dun kertomus metsasta mietomieli my place kantele numurkah cubio aibara

Joona Toivanen (p) Tapani Toivanen (b) Olavi Louhivuori (ds)
フィンランドの新鋭,ヨーナ・トイヴァネン・トリオが2000年に録音したデビュー作(既に第2作が出ました)。リリースと同時にフィンランド放送協会の月間最優秀ディスクに選ばれた一枚です。メンバーは全員録音時ほぼ18才でフィンランド音楽院の同期生。北欧出身だけに演奏スタイルは一聴,ご多分に漏れずの典型的なエヴァンス派フォーマット。しかし,どちらかというと受ける印象はイタリー・ロマン派と北欧ものの折衷に近い。ピエラヌンツィや同じ澤野盤ミラバッシの饒舌なロマンティシズムを基調としつつ,時折ちらりとイタリアものにはない思索的な曲想が出自を感じさせるトリオといったところでしょうか。リーダー以下少し技巧的には小粒ながら,主張と推進力のある武骨な音は,単なる甘さの欧州トリオとは一線を画すもの。エヴァンス系の音に拒否反応を持ち合わせていない限り,初心者から煩さ方まで極めて広いファン層にアピールする作品といって良かろうと思います。欲を言えば,充実した楽曲をさらに光らせる即興演奏はまだ荒削り。気負いは伝わるものの,まだ頭の中でメロディが組みきれないもどかしさが伝わるのが今後の課題でしょう。次回作以降に期待します。最近ではすっかり有名になった澤野さん。しかし,それに阿ることなく日夜埋もれた才能を掘り出して,レーベルとしての信用を大事にする企業姿勢は好感度大。ますます頑張ってください。ささやかながら応援しております。

★★★★★
Chris Cheek "Vine" (Freshsound : FSNT 086)
so it seems the wing key vine ice fall Granada Reno what's left not a samba

Chris Cheek (ts, ss) Brad Mehldau (p, rhodes) Kurt Roselwinkel (g) Matt Penman (b) Jorge Rossy (ds)
以前から気になっていたクリス・チークがNYの鬼才を一同に集めて制作したリーダー作。セントルイス出身のリーダーは,バークリー音楽院を経て1992年にニューヨークへ進出。ポール・モチアンのエレクトリック・ビバップ・バンドやシーマス・ブレイクのブルームダディズを経て,いわゆるブルックリン派の急先鋒に浮上してきたサックス奏者です。音作りは典型的なブルックリン・サウンド。マーク・ターナーやカート・ローゼンウィンケルの諸作に目がない方は,ほぼ予定調和的に楽しめることと思います。1970年代以降のポップ・ミュージックの要素を取り込み,新主流派サウンドを今風に再現前したクールな作編曲精緻で,アンサンブルもまとまっており,メルドーは『イン・ディス・ワールド』彷彿のローズが出色,ローゼンウィンケルも自在なエフェクトを駆使し,スペーシーなアウトを繰り出して奔放に歌う。リーダーはマーク・ターナーと良く似たタイプですが,彼を軽く艶消ししハスキーでタイトにしたような音。フレーズはターナーよりやや具象的。多彩な音楽を聴いてきた現代の感性が織りなす,メインストリーム・ジャズの現在進行形がここにあります。甲種お薦め。

(2002. 11. 10)